職場に着いて、自分の席に鞄を置いて…。
そして、昨日交わした言葉の通り、笑顔の久弥が後ろを振り向く。

「おはよう、麻枝さん。」

それが、日常。
ずっと繰り返されてきた、舞台の始まり。

だけど…。

次の日の朝。
俺の席の前には、誰の姿もなかった。
そこに、ぽっかりと隙間があった。
日常に割りこんだ、小さな空間。
それは、ほんの些細な違和感。
時間と共に修復される、微かな傷…。
明日からは、また元通りになる。
そんな傷、最初からなかったかのように、何気ない日常が、また戻ってくる。

その時の俺は、そう信じて疑わなかった。