「はいはいはい着きましたよ」
一見して普通のマンション。少なくとも今自分が1人暮らしをしている所よりは家賃が高そう。
「4階っすからね」
エレベーターに乗り彼の部屋のある階を目指す。さっきまで悶々としていた感情も、やや大袈裟な気もするが、未知の領域への期待というか、ワクワク感のようなものに置き換わっていた。
彼となんてことない会話をしていたせいで緊張がほぐれたからだろうか。

「ちょーっと部屋の中片付けるので待っててくださいね。」
5分程経って彼が出てくる。
「はいはいはい上がっていいですよー。まぁそんな綺麗じゃないですけどね。
んーっと今晩はこの部屋使って下さいねはいはいはいっと。後シャワー浴びたかったらそっちにあるんで勝手に使ってくれていいですからね。
着替え…はシロちゃん用の服が何枚かあったはず。後で洗面所に置いとくんで使うんならそれ使って下さいね」
「あ、ありがとうございます」
一気にまくし立てられて面食らったのもあるが、自分が驚いたのはこの部屋の清潔さだ。おそらく30代と思われる馬P、一般的な独身男性の部屋としては相当綺麗にしている方だと思われる。
「何かあったら何でも言って下さいねはいはいはい」
そう言って鞄を持った馬Pは奥の部屋に消えた。
自分に割り当てられた部屋に入る。無臭。どころかうっすらと爽やかな香りすらする。
PCやら何やらが乗っている作業机と思われる場所の端に芳香剤。軽く持ち上げてみるとずっしりと重くほぼ満タンだ。
気を遣って購入してくれたのだろうか。
時刻を確認すると2:00少し前。もし泊めてもらっておらず、今も自宅目指して歩いていると思うと無意識に倒れそうになる。にしても純粋に今日は疲れた。
シャワーを借りて寝よう、と思い鞄等を下ろしてシャワー室に向かう。部屋を出ると馬Pがシャワー室から出てくる所だった。
「着替え置いときましたからねはいはいはい」
「何かもう至れり尽くせりで。本当に助かりました。有難う御座います」
「いえいえいえ。ばあちゃる君はね。アイドル部のプロデューサーですからね!アイドル部の子達の要望なら何でも叶えちゃいますからねはいはいはい」
改めてお礼を告げる序にふと気になったことを聴いてみる。
「あの、シロちゃんってよく遊びに来たりするんですか?」
「ん?シロちゃんですか?そう、何年か前にですねー短期間ですがここで暮らしてた事があるんですよ。着替えとかはその時使ってた物っすね」
「成程…それじゃあシャワー使わせてもらいます」
「はーいゆっくりしていって下さいねー」