学校に着き車を職員用の駐車場に一旦止める。
「はいはいはい着きましたよー。もうね、ばあちゃる君スーパー安全運転でしたねはいはいはい」
「あのさ馬P」
「何ですかたまたま?忘れ物っすか?」
「あのーですね、時間大丈夫ですか?少しでいいんですけど」
時計を確認する馬P。
「あー大丈夫っすよ。何ですか?」
「えっと…あんまりこういう事言う機会なくて中々言えない事があるんですけど……はい、あんまり無茶して欲しく無いって事と、馬Pは私達をたくさん助けてくれるし、自分をもっと評価しても良いと思います。皆馬Pが誰よりも頑張ってるの知ってるんですよ」
「ど、どうしたんですかたまたm」
「勿論その多くの事が私達の為にしてくれてる事だってのも分かってます。それから自分の身体をもっと労らって…大切…に……」
そこまで言ってから、自分が彼の貴重な休息の時間を奪ってしまった事をはっきりと認識し、自分の伝えたい思いと行動とが矛盾している事を確認する。
急に自分の行動が幼稚で、恥ずかしく、厚かましいものに思われてその場から動けなくなってしまう。
少しでも気を緩めたら涙が出てしまいそうだ。そんな顔を見られたくなくて俯く。どうして突然こんな事を言い始めたのか自分でも分からない。
「…えーっとですねたまたま。何か重大な勘違いをしているみたいっすけどね。ばあちゃる君はシロちゃんもアイドル部の皆も大好きなんですよ。
その大好きな皆の為に何か出来るなんてね。もうそれだけで嬉しいんですよ。このお仕事ね、最初とか親分しか居なかったですしね?ばあちゃる君1回存在的なものを凍結?されちゃったりとかもしましてね。
んで、たまたまも知ってるようにシロちゃんのプロジェクトが始まるじゃないっすか。そんで12月位でしたかね。ばあちゃる君生き返るんですよね。
まぁ、アレなんですよね。シロちゃんも、親分も、アカリンも、のじゃおじちゃんも、皆ばあちゃる君にとっては救世主みたいなもんすよ救世主。
だからって恩を返したいとか言いたいんじゃないっすよ?ばあちゃる君も自分なりにね、やりがい持ってお仕事させて貰ってますからね。
…とーにかくですね、大して長く生きてる訳じゃないっすけど人生の中で今が1番楽しいんですよね。
だからですね!ばあちゃる辛そう〜とか見えるの全て間違いなんですよね!もしそう見えちゃうような子がいたら眼科行った方が良いですね眼科。
もうばあちゃる君ね皆の為なら3日位睡眠取らなくても動き回れますからねはいはいはい」
自分の震える肩に手を置き彼は続ける。
「だから、たまたまがそんなに思い詰める事はないんですよ。たまたまは皆と一緒に前だけ見て、伸び伸び成長していけば良いんですからね」

(そういう事をスラスラ言えてしまう所が心配なんですよ)

顔を上げて彼と目を合わせて言う。
「馬Pめっちゃ喋るじゃないですか!びっくりしましたよ。そこまで言われたらそうですかと頷くしかありませんねー。まぁ私から言えるのはこれからも今まで通りアイドル部全体のバックアップ宜しくお願いします!って事くらいですね。あはは」
一瞬の静寂。
「いやいやいや、たまたまだって結構喋ったじゃないすかー!絶対にばあちゃる君の方がびっくりしましたねこれ」
「えぇーそんなに喋ってないですよー。あっそろそろ教室行きますね。1泊と車、改めて有難う御座いました」
「はいはいはいどういたしましてですねー」
「それじゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃいでフゥゥゥゥゥ!」

確信した事がある。彼には彼のやり方があり強い信念がある。それを他人の私がどうこうするべきだと指摘するのはあってはならない。
私が出来る事と言えば彼の目指す場所、そこへの過程に全力で応えていく事くらいだ。思い返せば彼と過ごしたのはほんの数時間程だったが、この出来事は暫く忘れそうにない。

おわり