>>106の続きです。  作者

     四十

 夕方といっても、ミーティングが終わったのはまだ三時過ぎだった。
 七時の夕食までにはかなりの時間があったが、
 初日ということで、練習はなしで、フリータイムとなった。
「ただし」
と四年生たちが言った。
「三軍の奈穂子にフリータイムなどないよね」
「一分でも惜しんで練習に励まないと、三軍から脱出できないものね」
「は、はいっ。夕食までロードワークなどで汗を流したいと思います」
「良い心がけね。でも、ひとりで練習するのはつらいだろうから、
 指導員のみんなにもつき合ってもらったら」

「指導員のみなさま、奈穂子は三軍です。三軍にはフリータイムなどありません。
 一日でも早く三軍から脱出するために、フリータイムも練習に励みたいと思います。
 せっかくのフリータイムですが、私のために時間を割いていただきたいと思います。
 よろしくご指導のほどお願いいたします」
 結局、奈穂子は高校生たちの目の前で、下級生の指導員たちに、
ひとりひとり頭を下げて、練習への立会いをお願いしなければならなかった。
 やっと最後のひとりへの挨拶が終わったとほっとしていると、
無情にも四年生のひとりが言った。
「それで挨拶は終わり?」
「えっ? 挨拶の仕方が悪かったでしょうか?」
「そうじゃないわよ。他にも挨拶するひとがいるでしょう。
 高等部のみんなにも指導してもらうわないと。
 今の奈穂子の実力は高等部の補欠並みでしょう」

 屈辱に耐えながら、高等部の部員にも頭を下げて指導を依頼する奈穂子。
 しかし今や小学生も穿かないような黒のスクールブルマに体操服という姿の奈穂子には、
相応しい光景とも言えた。