あ…、よかった
もしかしてあゆみ先生、資料室にいないのかと思っちゃった
で、電気ね、ちょっと待ってて
(たしかこの辺りと柱の横を探ってスイッチを入れると、古びた蛍光灯が点滅して部屋が明るくなり、そこには期待していたのと違った、菱川先生がこちらを不安げな表情で見上げていて)
あゆみ先生…、ちょっと元気…ない?
どうかした……?
(心配そうに近づくと、資料室に特有の、古い紙の匂い、なんとなく埃っぽい空気、そんなものがなぜか少し気になりはじめ、自分の心がざわつき始めるのがわかった。
座れと言われてもどこかに腰掛けるつもりにはなれず、あゆみ先生に近づき、横で屈んで表情を伺うことにした)
あ…、今日俺が帰るとこ、見てたんだ……
(やっぱり…、心配していたことが現実になってしまった。こないだ距離が縮まったと思ったのに…、この表情からすると少し間違えたら高梨先生は傷付いて壊れてしまう、
そんなことが読み取れて、どう返したらいいのか頭を悩ませ、少し息を吐くと先生の手を掴み、まっすぐに瞳を見つめて重い口を開こうと意を決する)
あゆみ先生…、不安にさせて、ごめん
先にこれだけは言わせて
俺が好きなのはあゆみ先生だけ
一緒にいたのは、俺の幼なじみなんだ
親同士も仲良くて、家族でしょっちゅう食事したりバーベキュー行ったり、そんな仲
あの子…みづきって言うんだけど、みづきとは昔っから隠し事禁止、って約束してて、それでもあゆみ先生とのことは秘密にしてたんだけど、みづきは勘が鋭くてさ
なんか態度が変わったみたいで彼女できたのバレて、最後は尋問されて本当のこと言っちゃったんだ
そしたら先生を見てみたいって言い出してさ、それだけはやめさせようとしたんだけど今日来ちゃって
ちょっとイタズラしてみたくなったんだって
うち帰って怒ったけどさ、本音は悪いやつじゃないんだ
だからごめん、先生を不安にさせたことは謝ります
ごめんなさい、許して
(手を離し、まっすぐ立つと深々と頭をで深下げて許しを乞う)