美少女文庫にしては、変えることができない「運命」「歴史」を受け入れなければならない重い物語を重視したストーリーでもあるが、同時に濡れ場も秀逸である。特に奇抜な行為はないものの、静香と信長の濃厚な愛、愛した証がしっかりと描かれている。
女子高生のままの静香は再会するたびに年齢を重ねていく信長を愛し、静香と再会するたびに老いさらばえていく信長はいつまでも少女のままの静香を愛した。
二人は歴史を超えて深く愛し合った。現代にも残る物的な証拠はないが、確かに二人の記憶には愛した証が刻まれるのである。

さて、タイトルからも解るように、この本は筒井康隆の「時をかける少女」のオマージュ作品でもあり、ヒロインである静香が信長の時代に何度もタイムスリップしている。タイムスリップと静香の前に待ち受ける男。美少女文庫版「時をかける少女」でもある。

名古屋という実在する一地方が舞台で名古屋愛に満ちた地域描写・抗うことのできない男女の愛の運命と歴史のいたずら・国民的SF小説へのオマージュ。
近年異世界転生ものやファンタジーものばかりのジュブナイルポルノ小説において、このような作品は新鮮であり読者はぐいぐいと物語に引き込まれる。
一方で、実在する名古屋市の道路や建物の位置関係がきちんと把握できていなければ、読者は読んでいてもここはどこなのかというのが分かりにくいのもあるかもしれない。

※改行はこちらで手を加えたもの