本編を読了したんで書いてみた。
本スレでも色々な意見が出ていますが、個人的にはななせが良かったので、心葉×ななせでIFとして。

ホワイトデーの朝、ぼくは家を出た。まだ少し冷たい早春の風を肌に感じながら、住宅地を抜け、大通りを進んでゆく。
今日は遠子先輩の卒業式で、そして、琴吹さんとの約束の日。
待ち合わせ場所に、琴吹さんが立っているのが見えた。

あの日を思い出す。
琴吹さんと映画を見終わった後、うちに来て、両親に琴吹さんをぼくの彼女だって、紹介すると約束したのに、ぼくは流人くんの電話でデートをすっぽかし、遠子先輩を追って僕は岩手に行った。
そして、遠子先輩とひとときを過ごし、帰って来たぼくは芥川君の家で、琴吹さんと美羽に頬を叩かれた。

目をうるませながら、それでも歯を食いしばり涙を流さずにぼくの目を見ながら、
「井上、あたし嫉妬深いって、言ったよね」
そう、言い。ぼくの頬を叩いた。
美羽にも頬を叩かれた。
「コノハって、女の子を傷つける名人ね」
「琴吹さんね、一回も泣かなかったのよ」

芥川君の家から帰ると際、琴吹さんはぼくにかわいらしいピンクの手袋をぼくに渡してくれた。
そして、この先もあたしとつきあいたいなら、証拠を見せてと。

美羽、ぼくが昔好きだった子。ぼくが追い込み、壊してしまった子。その美羽に言われた言葉。
琴吹さん、ぼくの彼女。美羽のぼくへの復讐に巻き込まれながら、必死に立ち向かいぼくを守ろうとしてくれた子、遠子先輩の事で、流人君に乱暴されかけたりもした。
そんな事があったのに、ぼくの事を好きだと言ってくれた子。その琴吹さんに言われた言葉。
それから、ぼくらは話していなかった。目を合わせることも。しかし、それでも琴吹さんはぼくを気遣ってくれた。

琴吹さんは、制服の上に白いPコートを羽織り、鞄を抱えてうつむいている。
「・・・・ななせ・・・・」
そっと、呼びかけると、ぴくりと肩を揺らした。そして、うつむいたまま
「・・・・も、・・・・もう一回」
「え!?」
「もう一回、言って!!・・・もう一回、・・・ななせ。って、言って」
「・・・・ななせ」
琴吹さんは顔を上げると、涙を流しながらぼくに抱きついてきた。

その日、ぼくらは学校へは行かずにぼくの家に来た。

家には誰もいなかった。
「・・・ただいま」
「お、おじゃまします・・・」
ぼくと琴吹さんの声は玄関にこだます。
靴を脱いで、ぼくの部屋に向かう。その間、ぼくと琴吹さんは手を繋いでいた。
琴吹さんの細くきれいな手はとても冷たかった。
だれもいない家は静寂な空気に支配されていた。
ふたりの足音が響き渡る。
ぼくの部屋のドアを開け、先に琴吹さんを招き入れる。2度目の招待。
「お茶、入れてくるね」
そう、言いぼくは部屋を出ようとする。
「い、・・・・井上、待って」
ふいに、琴吹さんはぼくを呼ぶ、部屋を出ようしていたぼくが振り返るとと琴吹さんが抱きついてきた。
少しだけ開いていたドアが大きな音を立ててしまる。
「・・・ばか、・・・・ば、か・・・・、ばかばかばかばかばかばかばかばかばか、井上のばか」
琴吹さんはぼくに抱きつきながら、涙を流す。琴吹さんとぼくしかいない部屋は琴吹さんのすすり泣く声しか聞こえない、
その言葉に、その涙に、そして、ふれあう事で初めて気づく琴吹さんの強い鼓動にぼくの胸をうつ。
ぼくの事を一人の人間として見てくれ、ぼくの事を必死に守ってくれ、どんなにひどい目に遭おうとも、いつまでもぼくと一緒にいてくれると言ってくれた。
そんな琴吹さんに対して、何をいったらいいのか、ぼくには分からなかったら。
あやまる事もできなかった。だから、ただ、ぼくは琴吹さんの体を強く抱きしめた。
<多分続く>