【俺の】結婚&新婚萌えスレッド第5夜【嫁!】
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001名無しさん@ピンキー2010/10/27(水) 20:39:32ID:j60ZHXJJ
「あなたの色に染めてください」という意味が秘められた
純白のドレス・・・そんな姿の花嫁さんたちにハァハァするスレです。
愛し合う2人の世界を描くもよし、
式場で花嫁を奪い去る黄金パターンを想像したり、
逆に花嫁を奪われるといった流行りの寝取られ展開を入れてもよし、
政略結婚で好きでもない男に嫁がされる薄幸の美少女に興奮するもよし、

とにかく花嫁が出ていれば何でもOKです!
もちろん2次元キャラ同士のカップリング&新婚生活なんかも大歓迎!!

前スレ
【俺の】結婚&新婚萌えスレッド第4夜【嫁!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234888680/

過去スレ
【俺の】結婚&新婚萌えスレッド第3夜【嫁!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1215355199/
【俺の】結婚&新婚萌えスレッド第2夜【嫁!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185632204/
【俺の】結婚&新婚萌えスレッド【嫁!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149503791/

保管庫
2chエロパロ板SS保管庫
http://red.ribbon.to/~eroparo/
「オリジナル・シチュエーションの部屋その7」に収蔵されています。
04364342013/11/04(月) 23:22:23.86ID:WzuDQ3+B
>>435
仰る通りだ。

投下させていただきます。長い、エロ遠い、エロ薄いの三重苦ですので、
必要に応じて「434」をNGでお願いします。
04374342013/11/04(月) 23:24:41.91ID:WzuDQ3+B
 西洋哲学の祖、ソクラテスは言った。

《結婚せよ。良妻なら幸せになれる。悪妻なら哲学者になれる》

 この言葉の解釈は、それこそ星の数ほどもあるだろうけれど。
僕からしてみると、結局、男は結婚して悪いことが無いんじゃないかと思ってしまう。
 もちろん、その解釈に意見をしたいという人は沢山いるだろう。青二才が何を偉そうなことを、と思う人もいるかもしれない。
そう感じた人には心から謝りたい。決して、結婚に対して楽観的な印象を持っているわけじゃないんです。本当に。
 ただ…女の人は、結婚したら、どうなるんだろう。
僕の、大事な大事なお嫁さんは、幸せだと思っていてくれているだろうか。
04384342013/11/04(月) 23:28:22.41ID:WzuDQ3+B
 篠原葵がお嫁さんと出会ったのは、もう十二年も前の話になる。
 葵は十五歳。高校受験を控え、皆がラストスパートの追い上げを図っている十一月の頭頃。
 普段から、出張や海外出張で家を空けることが多い共働きの両親が、やたら神妙な顔つきで彼を呼んだのが、ことの始まりだった。
 揃って正座した両親が話した内容をざっくりまとめると。
「親友一家が事故っちゃって娘一人を残して逝っちまった。しかもじいちゃんばあちゃんもいないらしい。遠い親戚一同からも疎まれてるっぽいから、我が家に迎え入れたいんだけど駄目でしょうか」
 重い経緯with両親の土下座。二人とも、三つ指をついて額を床にこすりつけてる。
 これ駄目って言ったら僕は人でなしじゃねぇかとやさぐれたかった。

 こんなわけで、街中がイルミネーションに彩られる十二月の中ごろに、二歳年下の妹としてやってきたのが、木村茜。
 後の葵のお嫁さんである。――どこのエロゲだよと思った人は是非とも握手をしていただきたい。
 葵も、まさか自分がエロゲの主人公と同じ立場になるとは思っていなかった。

 茜は、元々の性格に加えてこれまでの経緯もあって、それはもう大人しい、手のかからない良い子だった。
 受験だのなんだのでピリピリしていた葵に負担をかけようとせず、以前よりも家にいることが増えた両親との関係も良い。
 葵も、茜が大人しくしているのをいいことに、受験時はひたすら勉強に打ち込み、合格が決まってからは我慢していた本を読み漁り、
 高校に入ってからは、充実した蔵書これ幸いとばかりに下校時間ぎりぎりまで図書館にこもってばかりいた。
 当然ながら級友から変人という呼称を頂いた葵であるが、彼以外にも妙な生徒はわりといた上に、
 自然とたまっていった知識を当てにされることも多かったので、そんなに嫌な思い出も無い。

 今となっては、ああもう僕の大馬鹿野郎SHISHUNKIなんてさっさと乗り越えろよ! と頭を抱えたい葵であるが、
 高校一年の途中まで、彼と茜の関係はそれはもう薄っぺらなものだった。
04394342013/11/04(月) 23:32:35.38ID:WzuDQ3+B
 
 そんな関係に変化が出たのは、夏休みに入ってしばらくしてからだった。

 当時中学二年生である茜は陸上部に所属していた。
 最初のうちは、これ以上迷惑をかけられないと帰宅部のまま家事を一手に引き受けようとした彼女だったが、両親がそんな理由を許すはずが無く。
 葵も、家事は苦手ではないし、折角の学生時代を好きなことに費やせないのは辛いよねと思ったので、三対一で彼女の部活所属が決まったのだ。
 閑話休憩。

 陸上部の練習は、大体週に五日のペースで行われていた。
 昼間の猛暑にやられないため、午前八時から昼前までの午前練習を行うことが多かった。
 午前中走り回って疲れ果てて帰ってきた彼女に、ご飯を作れなんて言うのはあまりにも酷だろう。
 そう思って、彼女が部活の日は、本を読む以外にやることがない葵が、昼食を始めとする家事全般を引き受けていた。
 なので、茜の帰宅時間も大体把握していたのだが。

 その日、茜は、帰ってくるのが遅かった。
 最初のうちは、友達と盛り上がっているのかとか、練習が長引いたのかと思っていた葵だが、時刻が一時半を回った辺りでおかしいと思った。
 茜が、なんの連絡も無くこんなに遅くなるなんてあり得なかったからだ。
 それから葵は、家から学校までの通学路を中心に、脇道や、お店や、公園などをしらみつぶしに探しまわった。
 恋愛小説とかだと、探す側が「…もしかして、あそこに…!」なんてとんでもない察しの良さを発揮することがあるが、葵には無理だった。
 というかあんな察しの良さを発揮できる人間なんているのか。いや、いない…と思いたい。

 散々駆けずり回り、ようやく近所の神社の社の前で膝を抱えている彼女を見つける頃には体中汗でびしょびしょで、
 我ながら随分と情けない格好だっただろうなと昔の自分を振り返る。
 正直なところ、炎天下の中歩き回った上に疲れていたので、見つけ次第怒鳴ってやりたくて仕方なかったが。
 肩を寄せて縮こまっている姿や、葵に気がついて、弾かれたように上げた涙が滲んでいる目を見てしまうと、なんというか。

 笑ってほしいとか、傍にいたいとか、守りたいとか。

 そんな、今まで思ってもいなかった感情が込み上げてきて、何も言うことができなかった。

 これが、葵と茜の馴れ初め話だ。
 この時から彼の世界の中心は茜になって、色々諸々山があって谷があって、彼女と夫婦になることができた。
 お互いの仕事も上手くいってるし、お嫁さんは毎日毎日可愛いしで、僕は本当に幸せ者だと葵は思う。
 しかし同時に、幸せであればある程、考えてしまう。
 家族に会いたいと、声を押し殺して泣いていたあの時の女の子は、少しでも、幸せだと思ってくれているのかと。
04404342013/11/04(月) 23:37:10.45ID:WzuDQ3+B
「…熱っ」
 答えのない答えを探していたからだろうか。
 ことこと煮込んでいるシチューの鍋にうっかり触れてしまって、葵は思わず苦笑する。
 昔のことに意識をとらわれすぎだ。
「葵? どうしたの、大丈夫?」
 うっかり漏れた声が聞こえたのか、お風呂上がりの茜が心配そうな目を向けてきた。
 上気した顔がなんとも色っぽい。
「鍋さわっちゃった。なんてことないよ」
「…そう?」
「そう。僕のことはいいから髪乾かしておいで。飯食おう」
 そう言って蓋を開けると、ホワイトシチューの香ばしい香りが部屋中に広がった。
 茜は、わぁ、と嬉しそうな声をあげて洗面所に引っ込む。

 お互いの仕事との兼ね合いもあって、現在、家事全般は葵が受け持っていたりする。
 在宅可能な翻訳家である葵と、市役所で働いている茜とでは、家事を担う負担は大分違うからだ。
 葵自身は、家事は好きだし茜も喜んでくれるからと不満を感じてはいないのだが、茜曰く「妻の立場が無い」とのこと。
 翻訳の仕事が安定するまでは世話になりっぱなしだった上に、休日は手伝ってくれてるんだから十分だと葵は常々思っているのだけれど。

 少し味付けを変えてみたシチューは好評で、茜が後片付けをしている間に風呂も入り、
 今日も素晴らしい一日だった、とソファに腰掛けた葵に、甘えた様子のお嫁さんが体重を預けてきた。ああ、可愛い。
 肩辺りで切りそろえられた黒髪を撫でてみたら、心地よさそうに目を閉じる。
 こうやって、何を話すでもなく一緒にいるだけで気持ちが安らぐ相手なんて、茜くらいだ。
「…ありがとな、茜」
「…急にどうしたの」
「いや…なんか、言いたくなった」
 なぁにそれ、と笑う姿に頬が緩む。
 キスがしたくなって顔を寄せると、茶色の瞳は恥ずかしそうに伏せられた。もう何百回もしてるというのに初々しい反応は変わらない。
 もしかすると、彼女は一生こうなのだろうか。それとも、ある程度年がいったら落ち着くのか。
 …実際に確認してみないと何とも言えない。また楽しみが増えた。
「ふぁ…葵…」
 たった一度、唇同士を触れ合わせていただけだというのに葵を見上げる顔は熱を帯びている。
 その反応に気をよくして額や頬にも口付けた。唇をなめるとぴくりと反応するのが面白い。
 ねだるように舌先でくすぐっていたら、少々ためらった様子で受け入れられる。
「ふ…ぁ、ん…あお、い…」
 甘えた声で名前を呼ばれて、今すぐに組み伏せたい衝動が湧きあがってきた。
 落ち着け、と自身に言い聞かせる。乱暴するのはよろしくない。

 後頭部を支えながらじっくりと口内を味わう。
 歯列をなぞったり上あごをくすぐったりしていると、最初のうちは遠慮がちだった茜も積極的になってきた。
 お互いの唾液を交換するようなそれに、抱きしめている体も熱くなる。もう無理だ。抱きたい。
04414342013/11/04(月) 23:41:30.55ID:WzuDQ3+B
「っは…はぁ、ふ…」
「茜、いいか?」
「っ……一々、聞かなくて、いいってば」
「ん」
 場所は変えてという希望に従って、若干腰砕け気味の茜と共に寝室へ向かう。
 なるべく優しく横たえた上に覆いかぶさると、期待と不安がないまぜになった瞳が見上げてきた。
「…明日、出かけるって約束覚えてる…?」
「せっかくのデートを台無しにする気はないよ」
「私、本当に、買いたいものがあるんだからね?」
「分かってる」
 尚も念押ししようとする彼女に口付けてみたら、ずるいというように困った顔になる。
 敢えて気にせずに、耳を撫でたり頬を撫でたりキスしてみたり。段々力が抜けて、とろんとした目つきになってきた。
「……かわいいな」
「そ、んなこと…言わなくて、い、ひゃんっ」
 わざと乳首に触れるように胸をこすってみると可愛らしい声が上がる。
 うらみがましい視線には気付かないふりをして、服の上から優しく撫でる。
 大きくはなく、されども小さくもない、形のいい柔らかいおっぱいだ。とても可愛い。
「っ…は、葵、あの…ふぁ、ぅ…」
「ん、どした?」
「あの…ひぁっ、っ…!」
 言いたいことは何となく分かる。服の上からだと物足りないんだろう。
 とはいえ、おねだり無しに聞いてあげるつもりもない。
「茜、言いたいことがあるんなら、ちゃんと言わないと」
「わ、わかって…あんっ」
「僕は鈍感だからな。言ってくんなきゃ分かんないぞ」
「う、うそつきぃ…!」
 嘘じゃないというに。まったく。そんなことを言う子はこうだ。
「ひあっ!?」
 少しだけ強く乳首をつまむと、我慢しきれなかったのか甲高い声が上がる。
 すぐに両手で口を覆った茜だが、乳首を押しつぶすようにこねてみたらぎゅうっと目をつぶった。
 ぷるぷる震えるのが可愛いなぁと思いながらパジャマの背中側に手を入れる。
 なめらかな肌の感触を楽しんでいると、泣き出しそうな目で葵を見つめた。
「あ、葵…」
「どうした?」
「あ、の…ぅ…ちょく、せつ…さわって…?」
 ……茜にしては頑張ったほうか。
「ぁあっ! あっ、や、ひぁん!」
 ボタンをはずし、露にされた胸にしゃぶりつく。
 あいているほうの胸も手で愛撫すると、体全体がしっとりと湿ってきた。
「あっ、やっ…あお、葵っ、も、ふぁっ」
「うん。我慢しないでいいよ」
「やんっ! あっ、あっ、葵っ、あお、ふっ、っ〜〜!」
 自身の名を呼んで大きく震えた茜の頭を撫でる。
 荒い息をついていた彼女は、とろりとした目のまま、甘えるようにすり寄ってきた。
 右手で幼子にやるように撫でながら、もう片方の手でズボンと下着も取り払うと、茜は恥ずかしそうに身をよじる。
「ぅ…葵も脱いでよ…」
「茜が脱がせてよ」
「……ちょっかい出さないでね?」
 その約束はできないなぁ。

 胡坐の間に彼女を座らせ、ボタンに手を伸ばす茜を抱きかかえる。
 中高大と続けた陸上の影響か、習慣になっていて今更やめられないと続ける週一のランニングの影響か、はたまたその両方か。
 彼女の体はしっかりと引き締まっていて、瑞々しい張りと成熟した健康的な美しさを兼ね備えている。
 夫の贔屓目をなくしたとしてもきれいな身体だ。

 背中や腰なら手の動きを妨げはしないだろう。
 ぴたりと吸いついてくる感覚を楽しみながら撫でていると、たまりかねたのか、茜が非難めいた声を上げる。
04424342013/11/04(月) 23:46:55.15ID:WzuDQ3+B
「っ…ぅ…もう、葵っ…!」
「んー?」
「ちょっかい…んっ、出さないで…って、ぁんっ…いった、のにぃ…!」
「出してないじゃないか」
「ふぁっ…せなかっ…弱いの、ゃんっ!…ぁ…知ってるでしょっ!?」
 もちろんですとも。開発したの僕だし。とは言わずに背骨のラインを撫で上げた。
 艶めいた声の合間に、もう馬鹿とか、ずるいとか、中々なことを言ってくれる。
 黙らせてやろうと口付けると、一瞬抵抗があったもののすぐに背中を掻き抱いてきた。
 ちゅうちゅうと吸いあって、舌を絡め、茜の目の焦点が危うくなった辺りで口を離す。
 ぼうっとしたまま胸元に寄り掛かってくる茜の口周りは互いの唾液でべたべただ。
「今日は、茜のこと、めいっぱい甘やかしたいんだ。上だけで十分だよ」
「…いつも、あまい、でしょぉ…」
「そうだったか?」
「私だって…葵に、気持ちよくなってほしい、もん」
「じゃ、我慢できなくなったらな」
 これ以上理性を飛ばすようなことを言われてはたまらない。
 ふるふると瞳を揺らす茜を押し倒し、抵抗になっていない抵抗をいなして陰部に口を寄せた。
「まって、あおい、そこはだめっ」
「ダメじゃないダメじゃない」
「だめだって、まっ、ぁっや、ぁぁぁあああっ!」
 陰核を口に含んだ瞬間、甘い甘い悲鳴が上がる。
 痛みを感じないように唾液を絡ませながら舌で刺激すると、より多くの蜜が溢れ出てくる。
 嬌声を上げ、強すぎる快感から逃れようと身をよじる茜を巧みに押さえつつ、葵は秘部に指を当てた。
 ぐちゃぐちゃに濡れているそこは、指を軽く当てただけで切なげに震える。
「…相変わらずすごいな」
「やぁっ! そ、そこでしゃべんないでえっ!」
「ごめんごめん」
 詫び代わりに中指を差し入れると熱い壁が絡みついてきた。同時に茜の背も弓なりになる。
「ふぁ…あぁああっ!?」
 ぎゅうと指が締め付けられて、知らずのうちに満足げな笑みを浮かべた。
 指を入れただけでこの歓迎ぶりである。本当に可愛らしい。
「…ぁ…はっ…ぁあ…」
「またいっちゃった?」
「ん…ぅ…あおくん…」
「っ……!」
 普段は呼ばれなくなった愛称を愛おしげに呟かれ、葵の分身は一気に熱を持った。
 いや、決して、今まで興奮していなかったわけではないのだが。
 今までの茜の痴態で、葵自身の理性もいい具合に壊れかけていたのだが。

 なんでか分からないけど愛称呼ばれると弱いんです。分かってやってるかは不明だけど。

 そんな内心を知ってか知らずか、茜は蕩けきった笑顔を浮かべる。
「…ね、あおくん…ほしい、な…?」
 想像していただきたい。
 可愛い可愛い嫁さんが、普段の清楚な姿からは想像できない淫らな姿で、嬉しそうに微笑んで、己を欲してくれたのである。
 これで理性が飛ばない人間がいるだろうか。
「……あかね」
 引き千切りかねない勢いで身に着けていたものを取っ払い、縋るように手を伸ばす彼女を抱きしめて秘裂に自身を差し入れた。
「ふぁっ…あ、あ…」
「っ…熱い、な…」
 肉のひだに柔らかく誘いこまれ、火傷しそうなほどの熱に思わず声を漏らす。
 膣内は怪しく蠢いて、蕩けそうな快感を葵に与えた。
「はぅ…あおく…きもち、いい…?」
「…すごくきもちいい…」
「よかったぁ…」
04434342013/11/04(月) 23:51:57.11ID:WzuDQ3+B
 だからそんなに嬉しそうな笑顔でそんな可愛いことを言うなと。
「……辛かったら、言ってくれな」
 額に口付けを落とし、腰を奥まで突き入れる。
「う、んんっ!? あっ、あおくん、ふゃ…はげし、よぉっ…!」
「痛い、か?」
「だいじょぶ、だけどっ! やっ…だめ…あぅ、やぁ…!」
 ぎゅうとしがみついてくる茜の背に腕をやり、抱え込むようにして抱き起こす。
 身体の奥まった部分を突き上げられ、悲鳴じみた嬌声が上がった。
「やぁぁああっ! あおくっ、ふかい、ふかい、よぉっ!」
「っ…あかねっ…!」
「んあっ、あっ、ひゃ、ぁぁあぁあっ! そこっ、そこだめぇっ!」
「ん…ここ、だな?」
「あぁぁぁああああっ!」
 膣全体から与えられる快感に意識が持っていかれそうになるのを必死で堪え、快感から逃れようと身をよじる茜を逃がすまいと抱きしめる。
 雁首で弱い部分を擦るようにして突きあげると、茜はいよいよ切羽詰まった悲鳴を上げた。
「あおく、も、きちゃうっ! きちゃうよっ…あおくんっ!」
「っは…あかね、好きだ…!」
「―――!」
 瞬間、彼女の中が大きく震えた。
 声にならない悲鳴を上げ、全身でしがみついてくる茜を抱きしめる。
 愛しい男の精を受けようと蠢く膣からの刺激に、耐え切れず、最奥で果てた。



「……葵は、ずるいと思います」
「なんでですか」
 事後特有の穏やかな気だるさに浸っていた葵は、不意に言われたいわれのない不満に目を瞬かせた。
「だって。家事完璧だし、仕事だって出来るし、頭もいいし、性格もいいし、……床上手、だし」
「おお、それはよかった」
 恥ずかしそうに言われた言葉に頬を綻ばせると、茜は首元に額を押し付ける。どうやら照れているらしい。
「…ほんとに、ずるいよ。私だって葵に夢中になってほしいのに」
「僕はとっくに君のものだぞ?」
「そういうことをサラッと言わないの!」
「……事実なのに」
「もう!」
 ぐりぐりと額を押し付けられて、これは黙っていたほうが吉かなと口を閉じた。
 何やら可愛らしい理由で膨れているらしいお嫁さんを抱きしめて、あやすように背中を撫でる。
 しばらくの間そうしていると、心地よかったのか疲れたのか、小さな寝息が聞こえてきた。
 安心しきった寝顔に頬が緩むのを感じながら毛布を肩まで持ちあげる。

 茜が幸せでいてくれるか。そんなことは、本人にしか分からないんだから。
 僕にできるのは、一生かけてこの子が笑顔でいられるよう努力すること、だろうなぁ。

 いやはや先は長いなと微笑んで、葵も静かに目を閉じた。
04444342013/11/04(月) 23:54:04.08ID:WzuDQ3+B
ここまで!

情熱的な旦那さんに愛でられるお嫁さんが書きたかったんですが、なんだか違う気がしてなりません。
ともかく、お目汚し失礼しました!
0445名無しさん@ピンキー2013/11/05(火) 10:06:03.36ID:9yBVw23o
おつー
過去編が気になるといえば気になるけどそれよりもデート編が気になります
また投下してもらえるとありがたいです
0446名無しさん@ピンキー2013/11/05(火) 15:58:57.71ID:t9G+HJcA
葵×茜夫婦を支援。
初めは葵→女?と思ってしまった。
このスレしばらく停滞してたみたいだけど
これを機に活性化するといいね
04474342013/11/06(水) 21:14:41.23ID:C/NzZpEQ
レスありがとうございました。デート編ができたので投下します
設定は作りつつも一話完結のつもりで書いたので、こういうレス頂けると有り難いです
すっきりまとまってしまったのでエロはありません。NGは「デート編」でお願いします
0448デート編2013/11/06(水) 21:17:22.18ID:C/NzZpEQ
 日の出にはまだ時間がある午前五時。
 目を覚ました葵は、僅かに残る眠気を振り払いながら身を起こした。ひんやりとした初秋の空気が身に沁みる。
 隣で熟睡中の茜が冷えぬよう毛布でくるみ、手早く衣服を身に着けて伸びを一つ。さぁ、仕事開始だ。

 ベッド脇の机に腰掛けてスタンドライトの灯りをつける。
 寝ている人、主に茜が眩しくないよう工夫されているそれの光を、葵の方がもろに見てしまって思わず目を押さえた。目が、目がぁー。
「……お、慣れてきた」
 よし今度こそ仕事開始だ。

 他の人がどうしているのかは分からないが、葵は、仕事を依頼されている時は基本的に休み無しで毎日机に向かっている。
 …というと、仕事狂いとのお言葉を頂戴することが多いが、決してそういうわけではない。原文を日本語に落とす作業だけならば、
 一日二時間、長くても四時間以内で終えることがほとんどだ。
 もちろん、翻訳上必要な本を読んだり、日本語の推敲をしたり、細々とした事務作業を行ったりもしているので、
 一日の仕事時間が二時間から四時間だなんて言うつもりはない。だが、仕事狂いと呼ばれるほどの時間でもないだろう。

 現在訳している本はスペインの小説だ。初めて手掛ける続き物なので、思い入れの強い作品の一つでもある。
 作者は陽気で朗らかな中年女性。葵、という名前を聞いて「まぁ! GENJIの葵ね!」と大喜びした人リストにも名を連ねている。

 職業柄外国人の知り合いも多い葵だが、"Aoi"のスペルを見て、すぐさま葵の上を連想する人が多いのは流石小説家というところか。
 もっとも、良い名だねと褒めた後に「葵の上は女性じゃなかった?」と疑問符を飛ばす人も多いけれど。
 茜に好きだと言われるまで、光や薫は有名すぎるとしても夕霧や惟光をもじれなかったのか、
 いや葵の上からもらったんじゃないって知ってるけどさ、と落ち込んでいた身としては、中々に心にくる質問だ。
 いつも「葵は中性的な名前なんだ」と誤魔化している。

 少し息をつくと窓の外は明るくなっていた。日が昇ったようだ。少しだけカーテンを開けると、柔らかい朝日が差し込んでくる。
「…………」
 茜が眩しくないよう気をつけながら窓の外の空を見上げた。素晴らしい。快晴だ。
「…おし。もうちょい頑張るか」
 すやすやと眠る茜の頬を撫でて、もう一度机に向かう。
 今日はデート。仕事はちゃちゃっと終わらせてしまおう。
0449デート編2013/11/06(水) 21:22:22.92ID:C/NzZpEQ
「わぁ…。すごい人だね」
「土曜だし、天気もいいからなぁ」
 最寄りの駅から電車で二十分。様々な種類の店舗や娯楽施設が集まっている地域にやってきた二人は、道行く人の多さに目を白黒させた。
 駅前ということもあるだろうがこの人の多さは予想外だ。
「買いたいものっていうのは?」
「えっと…あのビルの中のお店で売ってる」
「分かった。行こう」
 そう言って茜の手を握ると頬を染めて控えめに笑う。
 もー初心だな可愛いなと内心悶えつつ、二人は連れ立って歩きだした。

 ビルに入ったはいいものの"買いたいもの"の内容は秘密らしいので、一時間後に入り口前で待ち合わせをした二人は早々に別行動を取っていた。
 てっきり敬老の日のプレゼントかと思っていた身としては少々拍子抜けだ。
 別行動はいいとしても、秘密とはなんだ秘密とは。仮にも僕は旦那さんだぞ。…いや、そういうこと言って束縛する気はないけれど。

 なんとなく釈然としない気持ちを抱えていた葵だが、ワンフロア丸々使った本屋に足を踏み入れた途端にそんな感情は吹っ飛んだ。
 広い本屋さんである。久しぶりの広い本屋さんである。新品の本がてんこ盛りの広い本屋さんである。
 別に何かを買う予定はない。単純に、大量の本がある場所が好きなのだ。
 古本屋のように少しくたびれた趣のある本屋もいいが、新品の本で満ちている溌剌とした雰囲気の本屋もいい。
 あまりにマニアックだと理解しているので賛同者を求めたことはないにしても、葵は本屋や図書館という空間が大好きであった。

 小躍りしたいほどうきうきしながら本屋を巡っていると、いつの間にか約束の時間の五分前になっていた。
 流石は本屋。ずーっといても飽きがこない。
 ついうっかり見つけてしまった戦利品を手にして入口に戻る。
 今月の小遣い残額がほとんど無くなってしまったが、良い本には変えられまい。

 内心ほくほく顔で待ち合わせ場所に向かった葵だったが、
「……む」
 お嫁さんの背中のみならず、彼女に絡む、やたらにちゃらちゃらしている男どもを見つけて顔をしかめた。ええい言い辛い。
 顔を見るでもなく困りきった様子の茜に歩み寄り、チャラ男Aが彼女の手に触れる前に肩を抱き寄せる。
「わっ…」
「…ん? なんだよおま」
「失礼。妻が何か不作法でも?」
 人の嫁さんにちょっかい出すな。今すぐ失せろ。

 怒気を纏った葵の言葉にチャラ男どもは表情を引きつらせる。
 駄目押しでにっこり笑ってやると、なにやらもごもご口を動かして去って行った。
「…来るの遅くてごめん。大丈夫だったか?」
 男どもが退散するのを確認してから茜の顔を覗き込む。
 強張っていたであろう表情は、葵の顔を見ると安心したようにゆるりと綻んだ。
「…大丈夫だよ。ありがとう、葵」
「ん。…ったく、ナンパするにしても指輪くらい確認しろってんだ」
「まぁまぁ。葵が助けてくれたんだからいいじゃない」
「僕が来なかったらどうする気だったんだよ」
「本屋さんまで全力疾走、かな?」
 ……確かにそれならなんとかなりそうだ。というか実際になんとかなったことも結構ある。
 反論できずに口を閉じた葵を見て、茜は楽しそうな笑顔になった。
0450デート編2013/11/06(水) 21:26:41.08ID:C/NzZpEQ
「そういえば、買いたかったものは買えた?」
 折角だからお昼は家で作りづらいものを、とお好み焼き屋の暖簾をくぐった二人は、賑やかな店の中で向かいあって座っていた。
 楽しみだなぁと嬉しそうにしていた茜は葵の質問に笑顔で頷く。
「最後の一個だからぎりぎりだったけど、ちゃんと確保できました、隊長殿」
「うむ、よくやったぞ。任務遂行ご苦労だった」
「いいえ。お付き合い頂き、光栄の至りと存じます」
「気にするな」
 即興の小芝居に笑いながらも、心には僅かなしこりが残る。
 茜の全てを把握したいなんて馬鹿げたことを思っているわけではないが、あえて内密にされると逆に気になってしまうのだ。
 茜のことだからと思う反面、わざわざ秘密にするなんてとも思ってしまう。
 あー嫌だなこの感じ、と心中で頭を振って、一度だけ聞いたら大人しく引こうと決意する。が。
「…あの」
「お待たせしましたー。ネギ豚玉と山芋モチでーす」
「ありがとうございます」
 ナイスなタイミングで店員のにーちゃんに遮られ、茜の嬉しそうな笑顔も見てしまい、結局尋ねることができなかった。
0451デート編2013/11/06(水) 21:30:02.75ID:C/NzZpEQ
 一抹の懸念材料はあったものの、海や山や公園ばかり行く二人にしては珍しい街デートである。
 いつまでも気にしてデートを台無しにするのは避けたかったので、葵は腹を決めることにした。
 デートは楽しむ。茜との時間を大事にする。秘密の内容は帰ってから聞いてみて、それでも内緒だったらもう何も聞かない。
 一度定めてしまえば後は簡単だ。にこにこと嬉しそうに笑いっぱなしの茜に手を引かれながら、

「見て、葵。きれいな石!」
「本当だ。トルコ石にラピスラズリ…お、あっちの方に色々ありそうだよ」
「行ってみよう!」
 アクセサリー兼石屋を覗いてみたり、

「…なんで僕の服なんだよ…」
「似合いそうなんだもん。ね、着てみて?」
「りょーかい…」
「……あ。葵、これも」
「え。…ズボンですか」
「内側はこれね」
「えっ。あ、はい」
「……うん。葵、あと、これも着てみて」
「おお? えーと…」
「それが終わったらこれねー」
「ちょ、ちょっと待ってください茜さん!」
 茜の着せ替え人形にされてみたり、

「うーん…どれがいいかな…」
「……茜なら、こっちかな」
「え? …派手じゃない?」
「似合ってるよ。職場にも着て行くならこっちも良いけど」
「あ、これも可愛い」
「…うん、似合ってる。その上着に合わせるなら…スカートはこれとか」
「わぁ…。…素敵だけど、私、スカートは十分持ってるからなぁ…」
「ならパンツスタイルでもいいかもね。えーと…これはどう?」
「…いいかも。あ、でも待って、こっちも着やすそう」
「確かに」
「うー、どうしよう…?」
「……よし。あの、ここにあるの全部頂けますか」
「待って葵それはだめっ!」
 茜の服も選んでみたり、

「……どっちにしよう……」
「どれとどれで迷ってるの?」
「抹茶あずきと黄粉あずき…!」
「…それ迷う要素あるかー?」
「抹茶と黄粉は大分ちがうよ…!?」
「さいですか。…すみません、抹茶あずきと黄粉あずき、一つずつください」
「えっ」
「かしこまりました!」
「はんぶんこで、ね」
「…うん!」
 クレープを買ってみたりする。中々に年相応なデートコースではなかろうか。
0452デート編2013/11/06(水) 21:34:38.04ID:C/NzZpEQ
 少し休憩をと最初の駅から大分離れた公園のベンチに落ち着いた二人は、そろって安堵のため息をついた。
「あー、流石にちょっと疲れたね」
「うん…こんなに人が多いとこ来たの久しぶりだし…」
「まったくだー…」
 あー空が青いと目を細める葵に微笑んだ茜は、近くに人がいないことを確認して、深呼吸をひとつ。
 太陽燦々ーと伸びをする旦那さんに向き直る。
「ね、葵。あの…今日、買いたかったもの、なんだけど」
「うん?」
 あちらから切り出されるとは思っていなかったので少々慌てて姿勢を正す。
「……これ。葵にどうかと思って、買ってみたの」
「へ。僕に?」
「うん。…開けてみてくれるかな」
 差し出された手のひらほどの包みを受け取る。
 包装を破らないよう注意して開けてみると、小さな箱には銀色の懐中時計が収まっていた。
「茜、これ…」
「その…ほら。葵って、腕時計付けるの好きじゃないでしょ?」
「そうだね。仕事中とか邪魔だし」
「でも時間の確認は大事だから仕方ない、って言ってたよね」
「タイムセールとかあるからさ。…あ、もしかして、だから懐中時計?」
 細いチェーンがついている時計を手に乗せる。
 艶消しの加工がされているシンプルなデザインのそれは、初めて持ったとは思えないほど手にしっくり馴染んだ。
 これならば、首からかけるなり服に結ぶなりして、ストレスなく身に着けることができるだろう。

「…これは嬉しいな。ありがとう」
 顔をくしゃくしゃにして笑う葵を見て不安げだった茜も目を輝かせる。
 実はもう一つプレゼントが、と彼女が鞄の中から取り出したのは紙で作られた栞だった。両面に一輪ずつ押し花がされている。
「ナデシコと…紅葉葵、か?」
「うん。秋らしくて良いかなと思って」
 自分の名の由来である花と、秋の七草のひとつである白い花が押されている栞だ。どう考えても市販だとは思えない。
「これ、茜が作ってくれたのか?」
「花屋さんに調度良い花があったから。栞、たくさんあっても困らないでしょ?」
 喜んでくれるかなと思って。
 そう言って、恥ずかしそうに笑う。
 そんな彼女に、心の端に引っ掛かっていたわだかまりは消え、代わりにどうしようもない程の情愛が込み上げてきた。
 この気持ちを伝えきれる言葉が見つからない。何度か口を開閉した葵は、堪えきれずに茜を腕の中に閉じ込めた。
 公共の場でいちゃつくのは好きではないが、ほんの少しだけ許してもらいたい。だって、茜が、愛おしいんだ。
「ひゃっ!? …あ、葵…?」
「……茜」
「う、うん。…どうしたの?」
「…あかねっ…」
「…うん。私はここにいるよ、あおい」
 かみしめるように名を呼ばれ今すぐにこの熱を移してやりたい衝動にかられるも、辛うじて、ここは公の園だ落ち着けド阿呆! と理性が働いた。
 息を大きく吸ってはいて、密着していた体同士を引き離す。
「…本当にありがとう、茜。大切にするよ」
「うんっ」
「…そろそろ帰ろうか。日も落ちてきたし」
「烏も山に帰るもんね」
「その通り」
 にこにこと笑いあいながら立ちあがり、それから、と茜の耳元に口を寄せる。
「帰ったらたっぷりお礼するから。覚悟しといてね」
 とびきり甘く囁いて口付け一つ。
 真っ赤になって固まったお嫁さんの手を引いて、我らが家への帰路に付いた。



 紅葉葵の花言葉「温和」「優しさ」
 ナデシコの花言葉「純愛」「思慕」
04534342013/11/06(水) 21:37:24.27ID:C/NzZpEQ
ここまで!

ご期待に添えたか分かりませんが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです
このスレの活性化を切に願って
0455名無しさん@ピンキー2013/11/07(木) 11:36:49.41ID:q1O+gC1X
おつです。ありがとうございます
落ち着いた雰囲気が心地よかったです
04574342013/11/22(金) 20:36:06.76ID:v97jgs2u
いい夫婦の日なので投下
いい夫婦の日なのに暗めな話ですが
エロまで遠い、エロが薄い、ちょいちょい暗めなので注意してください
NGは「いい夫婦の日」でお願いします

エロいエロが書けるようになりたい
0458いい夫婦の日2013/11/22(金) 20:38:10.01ID:v97jgs2u
両親が事故で亡くなったという知らせを聞いた時、茜は、悲しむより泣くよりも先に、これからどうしようと途方に暮れてしまった。

自分が親族から疎まれるだろうと予想はした。
親戚同士の仲が悪かったわけではないが、盆と正月に挨拶をし合う程度の付き合いしかしておらず、
ただでさえ引っ込み思案な茜は特別目立つ子どもではなかっただろう。
そんな子どもを、自分たちの生活を崩してでも受け入れようという人はいないだろうし、事実、そんな変人は親族内にはいなかった。
それが非情だと思ったことはない。皆、自分の生活を守るので精一杯なのだ。
茜の今後について話し合う親戚の大人たちを、こんなに面倒くさい存在を抱え込んじゃっておじさんたちも大変だなぁと、
他人事のように眺めている自分がなんだか可笑しかった。

だから、葵の両親が茜を引き取ると言いだした時、この人たちは何を言っているのかと呆れてしまったのだ。
血の繋がった人でさえ敬遠したい自分を、ただ両親と仲が良かっただけの他人が引き取って娘として面倒をみるなんて。
訳が分からない。この人たちが何をしたいのか分からない。
思考の冷静な部分ではそう思っていたけれど、同時に、ぽっかりと穴が空いてしまった家にひとりで暮らすのも限界だった。
だから、何があっても大事にするから私たちの子どもにならないか、と聞かれて、反射的に頷いてしまったのだ。
今思えば、お父さんとお母さんに向けた呆れには、自分へのものも多いに含まれていたような気がする。

親戚をどう説得したのかは分からないが、茜の養子入りはトントン拍子に進んでいった。
両親のお骨と最低限必要な物だけを持って、昔ながらの日本家屋風な家の玄関に立ったのは、街全体がクリスマスムードに包まれている12月の中頃。

「…し、失礼します…!」
「ん、こんにちは。…あ、いや、違うな。おかえり、か」

ガッチガチに緊張していた自分に柔らかく笑いかけた、ひょろりと背の高い男の子が後の旦那さんになるなんて。
当時の茜は想像すらできなかった。
0459いい夫婦の日2013/11/22(金) 20:42:31.82ID:v97jgs2u
正直に言うと、出会った当初は葵のことが苦手だった。
読書が異様に好きな変な性格の愛息子だと聞いていたし、今年度受験だから普段以上に変だと思うんだごめんなと事前に言われていたが、それでも。

「あ、葵さん、おはようございます」
「おはよう。…なぁ、なんでこの国の受験ってのはこう、知識を詰めるだけ詰め込んだヤツが勝つ仕組みになってるんだと思う?」
「えっ…? え、ええと…物知りで困ることはないから、とか…?」
「物を知っていても使う技術がないとなんの意味も無いのに? 使う技術を伸ばさずに好きでもない勉強をするなんて、おかしくないか?」
「え、ええと…そうかもしれない、ですけど…」
「こら、葵。受験のフラストレーションを身内に当てるな」
「……ごめん」
 あんなことや、

「た、ただいまっ! 葵さん、お疲れ様でし…あれ?」
「茜おかえりー。葵なら、これでようやく本が読める! って部屋に篭もってるわ。悪いけど放っといてあげて」
「…あ、はい…」
こんなことや、

「ただいま」
「葵さん、合格おめでとうございます! 今夜はお祝いですよ!」
「ええ? 別にいいよ、大したことじゃな」
「葵! お祝いをって言ったのは茜なんだぞ」
「えっ、あっ…ご、ごめん。…ありがとう、嬉しいよ」
「…はい…」
そんなこと、

「葵さん、高校ってどうで…ど、どうかな?」
「蔵書がいっぱいあるな」
「蔵書…? え、えーと、クラスの人とか…部活とかは?」
「クラスは男が17人で女が18人。部活は、運動部が10個、文化部が17個」
「…えーと…葵さんは、なにかやらないの? 文芸部とか…」
「僕は本が読みたいんだ。書きたいわけじゃない」
「そ、そっか…」
はてはこんなことまで。
なんというかまぁ、両親からも変人認識されているだけはある。
攻撃的になられたりいじめられたわけではないし、変な人と思いつつ嫌いでもなかったが、当時の茜は葵との間に薄い膜のようなものを感じていた。
0460いい夫婦の日2013/11/22(金) 20:45:05.41ID:v97jgs2u
その膜がいつ破れたかといえば…やはり、中学二年の夏休みだろう。

その日は、確か、練習が少しだけ早く終わったのだ。
これでご飯が食べられるやったねと友人と笑いあい、いつもの曲がり角で別れた後、何故だかいつものようにまっすぐ帰る気にならなかった。

真夏の焼けつくような太陽から逃れるように、篠原家の近くの、長い階段を上った先にある神社へとたどり着いた茜は、空気の清涼さに驚きつつ社の前に腰を下ろした。
残っていた飲み物で喉を潤し、火照った体を風に撫でられるままにしていると、上手く表現でいない気分になった。
鎮守の木々の隙間から見える空はどこまでも青く高くて、そういえばパパとママが骨になった日もこんな空だったなぁと思いだして、
そこで、今まで堰止められていた何かが決壊した。


泣いた。生まれて初めてだと思うくらいに激しく泣いた。最初は声を抑えていたが、それもできなくなって声を上げて泣いた。
ぼろぼろと零れる涙が妙に大きいとか、鼻が詰まって息ができないとか、涎と鼻水が喉の奥で絡まって気持ち悪いとか、
口から漏れる声が、人間というよりは動物の鳴き声みたいだとか。そんなことばかりを考えていた。


それからどのくらいの時間が経ったのか、泣き疲れて、立ちあがる気もしなくて、ただぼんやりと目を閉じていた時。
このまま死ねたらいいのになぁ、なんて思っていた茜は、社内の砂利を誰かが踏みしめる音で現実に引き戻された。
ハッとなって顔を上げると、全身汗だくで、肩で息をしている葵が数メートル先に立っていた。

なんでここにとか、そう言えば連絡してなかった怒られるとか、なんだか疲れてるなんでとか、しまったすっかり忘れてたとか、
今思えばわりと散々なことで思考を埋め尽くした茜を、けれど、葵は黙ったまま見つめていた。
完全に混乱して固まってしまった茜だったが、葵が何故だか表情を緩め、何も言わずに隣に腰掛けたので、
あぁこのままいていいんだと心が落ち着かされた。

暫くの間、二人の間には沈黙が降りていた。いつもなら、葵と一緒だと緊張してしまっていた茜も、この時は不思議と安心していた。
葵から、お父さんとお母さんに会いたいか、と尋ねられた時も、心の中は凪いだまま、会いたい、と素直に言葉にすることができた。
そうだよな、と頷いた彼が不器用な手つきで目元を拭うまで、自分が涙を流していたことにも気付かなかった。

空が鮮やかな夕焼けに染まっても、茜と葵は社の前にお互いに黙ったまま座っていた。
帰ろう、と差し出された手を握った時は、ああ、私は帰っていいんだと、胸の中が一杯になった。
茜のものよりも大きい筋張った暖かい手や、あおくんって呼んでいいと尋ねたら返ってきた優しい笑顔が、心の奥深くに刻まれた気がした。


多分、この時から、茜は葵のことが好きになっていたのだろう。その感情に気付くのは大分遅くて、それでも今は、葵が隣にいてくれる。
私はすごく幸せ者だよね、と茜は常々思っている。そう、思っているのだ。……思っているのだから、

「ただいまー。…葵ー?」
「…あ゛ー…あかね…おかえりー…」
「…葵? どうし……」

仕事から帰ってきたら、大好きな旦那さんが血まみれの左手を布巾で抑えて台所の床に寝っ転がっていたなんて修羅場に遭遇しても、甘んじて受け入れるべきなのだろうか。
0461いい夫婦の日2013/11/22(金) 20:49:31.51ID:v97jgs2u
半泣きになりながら手当てをしたところ、幸いなことに傷は指先だけであった。
それに心底安堵しつつも、大分深く切ってしまったのか血が止まらないので、翌日病院に連れて行ってきちんとした処置を受けてもらい、
ようやく茜は人心地がついた。
なんのことはない。料理をしていたら指を切ってしまって、止血処置や料理に被害がいかないようにしていたら貧血を起こしたという、
終わってみればただの笑い話だったのだが。
「…本当に、大事がなくて、よかった…」
「ご、ごめんな…?」
しかしそれでも、茜にとっては一大事である。
帰宅後も、葵の代わりに家事をこなしつつ、リビングにもお風呂にも挙句トイレにもついてこようとした茜に、葵は内心苦笑していた。
彼女がそうなる理由は何となく分かるのでうっとおしいとは思わないが、なんというか、
料理中に考え事をしていた自分は迂闊だった。反省。
「痛くない…?」
「大丈夫だよ。痛み止めも飲んだし、念のために化膿止めももらったし。きれいに切れてるからくっつくのも早いだろうってさ」
「……よかった」
安心した様子で首元にすり寄ってくる茜を撫でる。

折角良い夫婦の日だからご馳走を作って喜んでもらおうと思っていたのに、失敗だ。
チキンライスが血筋ライスになるのを阻めても、茜が落ち込むのを阻めなくては意味がない。
心配かけてごめんな、と額に口付けると、お返しとばかりに鎖骨にキスを落とされた。
あーやばい幼児返りしてるこの子、と内心焦る葵には気付かずに、茜は手足を絡ませ唇も寄せてくる。
葵の首や鎖骨や腕や指にちゅうちゅうと吸いつくその姿は、劣情を煽るのが目的というよりは、
大事なものがちゃんとあることを確認している子犬のようだが、こちらからしてみれば、それはもう。

――めっちゃくちゃそそられるんだけど、駄目かなぁ。……駄目だよなぁ。

ただでさえ、茜の身体に負担をかけないよう、欲望を全開にするのは月に一回までと我慢しているのだ。
今月は、それこそ、良い夫婦の日にでもしようかな丁度金曜だし、と妄想、もとい計画を膨らませていたのである。
自業自得とはいえ、お預けされているところにこの刺激だ。葵の理性も体も限界だった。

「…っ…あ、葵、あの…えと…」
「……ごめん」
完全に元気になってしまった愚息が茜の下腹に当たる。
畜生空気読めよ僕ー…と内心涙目になった葵の一方で、茜は、頬こそ赤らめたもののくっついていたい欲求が勝り身動きが取れずにいた。

葵に触れていたいんだけど彼はそれだけじゃ満足できなさそうで、それならとは思うものの
お医者さんから二、三日は激しい運動を控えてくださいと言われており、
指先とはいえ葵が怪我をしているのにそういうことをするのも気が引ける。
が、当の葵は物欲しそうな切なそうな目をしているのだ。

どうしようどうしよううーん…と考えて、あることを思いついて、恥ずかしいけど葵が喜んでくれるならと目を合わせる。
0462いい夫婦の日2013/11/22(金) 20:52:57.07ID:v97jgs2u
「…葵…あの…えっと…。……きょ、今日は私がする…よ?」
「…いいのか!?」
「……うん。だから、葵は動かないで、ね」
真っ赤になりながらもそろそろと自身に覆いかぶさった茜に、葵の方もなんだか気恥ずかしくなって二人揃ってゆでだこ状態になってしまう。

基本的に茜を可愛がるのが好きなので、いわゆる女性上位の体勢には免疫がないのだ。
女は奉仕させてなんぼ派の友人からは童貞思考だと笑われることが多いが、人の好み、特に性嗜好なんて人それぞれだと思うのだ。
童貞思考の何が悪い。茜泣かせるくらいなら人に笑われる方が万倍もマシだ。

――駄目だ混乱してる落ち着け僕素数を数えろえーと1、2、3…てこれは整数だ!

大分愉快な脳内になっている葵だったが、遠慮がちに寄せられた茜の唇に意識が奪われる。
ついばむような口付けがもどかしくて右手で後頭部を撫でてみると、一瞬だけ体が強張って、小さい舌が恐る恐る差し込まれてきた。

葵の真似をしているのか、たどたどしい動きで上あごや歯列をくすぐられる。
お世辞にも技巧があるとは言えないが、この上ないほどの興奮を呼び起こされた。
「ふ…んぅ…は、葵…」
普段とは異なる状況に興奮しているのは茜も同じだ。
いつもは優しく少し意地悪く自身を翻弄する葵が、
さほど上手くもないであろう茜に身を預け、受け入れている姿は、彼女に奇妙な喜びと興奮を与えた。
もっと自分を感じてほしくて頬や耳の後ろをくすぐってみると心地良さそうに微笑まれる。
それが嬉しくて茜も頬を綻ばせた。

深い口付けを交わしながら葵の寝間着のボタンを外していると、自分のものも同じように肌蹴させられていた。
あちらは片手のはずなのに、相変わらず器用な人だ。
下から見上げられているという恥ずかしさは思考の外に追いやって、引き締まった胸や腹に口付けるとくすぐったそうな声が漏れる。
舌先でくすぐるようになめてみたら若干表情が強張った。止めないなら嫌じゃないんだよねと自分を励まして、
へそ周りの腹筋を指や舌で確かめながら下も取り払うと、猛々しくそり立った怒張が目に飛び込んでくる。
「……すごい、ね。おっきい…」
「茜、君、分かって言ってんのぅあっ…!」
血管が浮き出てびくりびくりと震えているそれに手を添えると葵が悲鳴を上げた。
痛かったのか、と視線を向けると、困ったような情けないような熱っぽい複雑な表情をしている。
その表情は彼が気持ちいい時に見せるもので、茜はますます嬉しくなった。
0463いい夫婦の日2013/11/22(金) 20:57:01.35ID:v97jgs2u
「えっと…たしか…」
「っ…! 茜あのさいきなりそこはっ…!」
「え、い、嫌だった?」
てっぺんが気持ちいいんじゃなかったっけ、と慌てると、心底情けなさそうに眉を寄せる。
「…いや…気持ち良すぎてすぐに出ちゃうんで、できれば避けてもらい、っ…!」
気持ちいいなら嫌なことはないだろう。

竿をしごきながらもう片方の手で亀頭を撫でる。
ぬるぬるとした液を擦りつけるようにしてみると、葵は何かを堪えるように眉根を寄せた。
茜は、こういう風にされるとすぐに達してしまうのだが、それは葵も同じらしい。
一緒だ、とまた嬉しくなって、手のひらで包むように撫でてみると、焦ったような声の直後に熱い白濁液が飛び出してきた。
「わっ…わぁ…」
どくりどくりと吐き出されるそれを両手で受け止める。
生臭いにおいがツンと鼻をつくが、葵が気持ちよくなってくれた証なのだと思うと愛おしい。
どんな味がするんだろうと口をつけるよりも早く、射精の余韻で荒い息のままの葵が手早く拭き取ってしまった。
「…なんで拭いちゃうの…」
「そんなもん、舐めんでよろしい」
「そんなもんじゃないもん…赤ちゃんのもとなんだよ?」
「……分かったから」
何やら疲れた様子の葵に首を傾げると、上半身を起こした彼の膝に招かれる。茜も服を脱いでしまったのでお互いを遮るものは何もない。
触れ合った素肌の心地よさに目を細めたら優しく口付けられた。

「…んっ…葵、今日は…わたしが、やるの…」
「分かってる。でも、ちゃんと解さないと」
「も…濡れてるから、いいよぉ…」
「ちょっとくらいは僕にもやらしてくれ。好きなんだ、茜のえっちなとこ見るの」
「……もぅ」
言葉を交わす合間にも、葵の右手は優しい愛撫を与えてきて、茜から抗う気を奪ってしまう。
葵を責めながらも彼の反応に興奮して、茜の秘部は既にはしたなく潤いを帯びているのだ。
撫でるような優しい愛撫も普段以上に感じてしまい、茜はたまらず葵に縋りついた。
それを待っていたかのように今度は背中や腰がくすぐられて、再び熱を持ち始めた剛直が自身の秘裂と擦りあって、
もどかしい快楽に自然と腰が動いてしまう。
「…茜。声、聞かせて」
「っ…や、だぁ…!」
「可愛いから、聞きたいんだ。駄目か?」
返事をしたら漏れてしまいそうで、口を結んだまま首を振る。
耳元で囁かれるのはどうもよくない。
普段よりも低い熱っぽい声に、耳の奥から脳全体までが愛撫されているような心地になってしまうのだ。とてもよろしくない。

ぴちゃぴちゃと互いの愛液で湿った音をたてる秘部や、絶妙な加減で理性を引きはがす葵の手に、
いつの間にか茜の思考は普段のように追いつめられていた。
ずっと我慢していた声も、亀頭で入口をくすぐられたのを皮切りに、我慢しきれなくなってしまっている。
「や…ん…あお、いっ…も…へいき、だからぁ…!」
「だから?」
「ぅ…ぁ…いれ、て…なか…いれてよぉ…」
これじゃあ足りない、と泣きそうになる茜に口付けて、葵自身待ち望んでいた繋がりを得ようとする。
やはり、こうやっておねだりされるのは嬉しいものだ。
0464いい夫婦の日2013/11/22(金) 21:01:06.75ID:v97jgs2u
しかし、ついうっかり彼女のお尻を両手で持ち上げようとしたのがいけなかった。
肌とは違う感触に理性を取り戻した茜は、大慌てで葵の両手を押さえつける。
「だ、だめっ! あおくんが、いれちゃ、だめ!」
「まて、茜、ここでお預けはお互い拷問だぞ!?」
「分かってるもん! わたしが、いれる…から…!」
「いやちょっと待て、そんなへろへろで支えなしに入れちゃ」
まずい、と言い終える前に、入れるというよりは滑り込ませるような動きで茜が葵を受け入れる。
だが、彼女の体からは力が抜けきっており、足腰も立たない状態でそんなことをしてしまっては、当然、
「ひっ、ゃ、ぁぁぁぁああ!?」
「う、あっ…!!」
お互いの愛液を潤滑液にして、剛直は膣の奥深くまで咥えこまれる。

焦らされた茜の身体は全身を貫くような刺激を耐え切れず絶頂に達し、
熱くうねる膣壁に痛いほどきつく締めあげられた葵も我慢の甲斐なく果ててしまう。
絶頂の余韻も感じぬままに子宮に精液を注ぎ込まれ、茜の目の奥で火花が散った。
「…ぁ…ぁ…」
「っは…はぁ…あかね、大丈夫か…っ!」
意識が半ば朦朧としている茜の一方で、彼女の身体は更なる喜悦を貪欲に求めている。
根元から雁の先端まで全てをしゃぶるような膣の動きに、柔らかくなりかけていた葵の分身も再三硬く立ち上がる。
「…ぁ、やあっ!? あ、あおくっ…わたし、へんだよぉっ! なんで、とまんないっ…やだ、あおくんっ…!」
怯えの混じった悲鳴に、今すぐ茜を組み伏せ、蕩けるような柔肉を味わい尽くし、
子種を欲しがる彼女の奥に溢れるほど注ぎこんでやれと本能が喚きたてた。
そんなことしてたまるか馬鹿野郎、と暴力的なまでの衝動を無理矢理捩じ伏せ、自身の身体に怯える茜を抱きしめる。
「あかね、だいじょぶだ。へいき、だから」
「やだ、あおくん…やだよ…やだぁっ…」
「あかね。あかね、大丈夫、だから。僕の声、聞こえるか?」
「ぅあ…ひ、や…あお、くん…あおくん…!」
「うん、そうだ。…あかね、大丈夫だから…ちょっとだけ、任せてくれ」
こくこくと頷いてしがみついた彼女に口付けて、せめて葵の体温は感じられるようしっかりと抱きしめる。
大丈夫とか、任せてくれとか。偉そうなことを言ったけれど、葵自身も、もう限界だった。

「っ、あぁぁぁあああっ!」
「くっ、う…!」
茜を押し倒して奥まで押し上げる。彼女の中が再び蠢いて、互いの愛液がぐちゃぐちゃに混ざり合った。
それでも腰の動きは止めずに奥へ奥へと突き上げる。
悲鳴じみた嬌声の合間に縋るように名前を呼ばれた。ほんの少しも離れたくなくて、茜の身体を押さえ込む。
何度も何度も名前を呼ぶと、彼女の中が、腕が、足が、離さないとしがみついてくる。


何度絶頂を迎えても、まだ足りないとお互いを求めた。
もう何回達したのか分からなくなって、互いの名が唯一意識を留める止め具になって、感覚も分からなくなってきた頃。
「―――っ!」
ようやく最後の精を放った葵は、それを受け止めてぶるりと震えた茜の上へと倒れ込む。

大きく息をする肩を腕の中に抱え込んだら、安心したように笑いながら目に涙を滲ませるなんて器用なことをする彼女に、自然と葵の頬も綻んだ。
0465いい夫婦の日2013/11/22(金) 21:08:23.06ID:v97jgs2u
「…結局、動いちゃったね」
「動いちゃったなぁ」
次の日。

完全に足腰立たなくなった茜と共に、ベッドで食事なんて行儀が悪いことをしている葵は、しょんぼりと呟かれた言葉に苦笑を返した。
動くなという医師の言いつけを破った代償は、幸いにも血がそれなりに滲んだ包帯の交換だけで済んだ。
シーツに付いていなくて本当に良かったと思う。
どれもこれも全て自業自得であるし、茜にもそう言って一応納得してもらったのだが、
自分の責任で無くとも葵が怪我をしているのは嫌なのだという。僕のお嫁さん可愛い。
「……痛くない?」
「大丈夫だよ。それより、茜の方が辛いだろ?」
「うん…でも、私はうれしいから」
 ……僕のお嫁さんかわいい!

心の中で歓声を上げつつ、ツナトーストを茜の口元に持っていく。パクリと一口。表情は浮かない。
「あーかーね。そんな顔してたらおいしいものもまずくなるぞ」
「葵の作ってくれたものはなんでもおいしいもん」
「カップラーメンでも?」
「買ってきたお惣菜でも」
それはまたちょっと違うんじゃないかと思いつつも、そこまで言ってもらえて悪い気がするはずない。
だが、茜が落ち込んでいるのに葵ばかりが喜んでいるというのも嫌だ。
とはいえ、こればかりは彼女が自力で落とし所を見つけなければいけないから、葵がどうこうできることでもない。
さて困ったどうしよう、と腕を組んだ葵を見て、茜は小さく微笑んだ。
「…でも、うん。命は無事だし、あーんなに激しいのも平気なくらい元気なんだから、大丈夫かな」
「ん? うん。そりゃもう、元気ですよ。今すぐプロレスごっこできるくらいにはな」
「それは嘘でしょ」
「…ごめん嘘」
茜ほどではないとはいえ昨日のはかなり来ましたはい。
素直に頷くと茜は楽しそうに笑い声を零す。

よかった、一応落とし所が定まったみたいだと頬を緩ませる葵の左手を茜が撫でる。
傷付いている指も、そうでない指も、丁寧に。
「……葵は、いつも、一緒に悩んでくれるもんね。私がどんなにうじうじしてても、急かさないで、待っててくれる」
「うん? …そうかな?」
「そうだよ。…葵のそういうとこ、私、だいすき」
甘い声で柔らかい笑顔でそんなことを言われて、瞬時に首まで真っ赤になった葵に、茜は楽しそうな笑顔を向けた。
04664342013/11/22(金) 21:15:05.88ID:v97jgs2u
ここまで!

過去話編はもう少し待ってもらえると助かります
構想はできかかってるんですが、エロを入れる場所がない…!
拙い話ですが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです
0467名無しさん@ピンキー2013/11/22(金) 21:18:32.63ID:DcH9Iazt
リアルタイム遭遇ktkr
茜が可愛すぎて、葵が羨ましい限り。
投下お疲れさまです。新作、また読めるのを楽しみにしてます。
04694342013/12/15(日) 15:02:10.79ID:6I6I97Bn
過去話編を保存してたUSBが水にポチャンしてついカッとなったので投下します
…猫は悪くない。水の近くに置いた俺が悪い。
相変わらず長い、エロ遠い、エロ薄いの三重苦ですので
NGは「ある日の喧嘩」でお願いします
0470ある日の喧嘩2013/12/15(日) 15:06:00.12ID:6I6I97Bn
 僕にとって本がどういうものなのかを説明するのは難しい。

 覚えている一番古い記憶でも本を読んでいた。
 夏の暑い日、今よりもっと大きい蝉時雨や家の中を駆け抜ける爽やかな風に包まれながら、僕は縁側に寝そべって、分厚い図鑑をひっくり返していた。
 様々な動物の絵や写真、そしてその下に書かれている不思議な記号を見ているだけで満足だった。
 それが何を意味しているのかは知らなかったけれど、見たこともない動物の姿や、
 きっとこの生き物を説明しているのだろうと予想がつく、羅列してある記号を眺めるだけで十分だった。 

 小さな世界だ。誰も知らない、僕だけの世界。

 今でも、心のとても深いところに入って来る本を読むと、僕の魂はあの場所に飛んで行く。
 寒い冬の日だろうと、座り心地の良い椅子に座っていようと。どんなところにいたとしても、僕は、暑く爽やかな空気に包まれて、縁側に寝そべっていた。
 イ草の匂いや青々とした深緑の匂いが鼻孔をくすぐる、蝉がつがいを求めてわんわんと声を張り上げる、あの世界で。


 だから。…いや、だからなんて言葉を使うのは、言い訳か。

「――もう! 葵は、私と本の、どっちが大事なの!?」
「…………へっ?」

 今にも泣き出しそうなほどひび割れた茜の声が、透明に透き通った雫を湛えた明るい茶色の瞳が、
 僕を呼んでいたことに、まったくもって気付けなかった。
0471ある日の喧嘩2013/12/15(日) 15:11:06.88ID:6I6I97Bn
「…あ、あかね? あの、えと…どうした?」
「どうしたじゃない! ちゃんと返事してよっ!」
「え…ご、ごめっ…え、あれ…返事…?」
 完全にご立腹の茜の姿を見て僕はうろたえた。どうしよう、全然、申し訳ないくらい茜が怒っている理由が分からない。

 茜に話しかけられていた記憶はある。相槌を打っていた記憶もある。
 というか、お風呂あがったから葵もどうぞ、って言われて、分かったありがとう読み終わったら入る、って返事した記憶がある。
 返事はした。それは確実だ。僕が茜を無視するなんてあり得ない。

 ただ――茜の瞳は、彼女の表情は、間違いなく傷付いていた。

 大急ぎで茜に焦点を合わせる。
 本の世界に入りこんでいた自分を引っぺがして、僕の目の前で、自分自身の口から零れた言葉に愕然としている茜の手を掴んだ。
 本を脇に置いて、膝の上に茜を招き入れる。茜は少し身じろぎしたけれど、一度名前を呼ぶと大人しくなった。
 今度はちゃんと見れるように、心半分気もそぞろではなく、全身全霊で彼女を感じられるように、茜と目を合わせる。
 すぐに俯いてしまった瞳には、怯えと、怒りと、緊張と、驚きと、それから、隠しようのない疲労が滲んでいた。

 そういえば、と夕食時のやり取りを思い出す。
 最近忙しくて、職場の人たちもストレスがたまっていて、全体的にピリピリしているのだと零していた。
 茜がこんなことを言うなんて珍しいな、と思っていたから、思いきり本に集中した直後の今でもすぐに思い出せたのだ。
 ……そうじゃない、いつも通りの話なら、きっと思い出せなかっただろう。
 そんな自分を苦々しく感じる一方で、それでもこれが僕なのだと受け入れるしかない。とにかく、今は、茜のことだ。

「…茜、ごめん。ちゃんと話を聞いてなかった」
「……うん」
「本に夢中になってた。…決して君をないがしろにするつもりはなかったけど、結果的にそうなった。本当にごめん」
「……いいよ。いつものことだもん。…本を読んでる葵は、…嫌いじゃないし」
 眉根を寄せる僕の首元に額を預けてきた。きりきりしていた雰囲気が少しだけ和らぐ。気を鎮めようとする深い呼吸が首に当たってくすぐったい。
 茜の背中を撫でながら、触れ合っているほっぺをくっつける。
「…僕にとっては、本は水で、茜は食べ物なんだ。…比べられない。ごめんな」
 本当は、嘘でも茜の方が大事だって言うのが正解だろうけど。
 そんなことをするのは、本にも、茜にも、とてつもなく失礼なことのような気がして言えなかった。…いや、そう思うのも甘えかもしれない。

 僕の言葉を聞いた茜は、額を擦りつけてくる。見方によっては首を振っているようにも見えた。
 両腕に縋りついている手に力が込められる。
「…ごめん、ね」
 僕は驚いた。茜が謝ることなんてあっただろうか。
「なんで茜が謝るんだ」
「…あんなひどいこと、言いたくなかったのに」
「酷いことって?」
「……私と本のどっちが大事なの、なんて。すごく嫌な言葉」
「いや…それだけ、僕が追いつめちゃったんだ。茜は悪くないよ」
「言っていいことと悪いことがあるよ。…ごめんね、葵。私…なんだか、すごく疲れちゃってて」

 甘えるように唇が求められて一瞬だけ躊躇してしまう。僕のしたことをキスで誤魔化すようで。
 いやいや他でもない茜が求めてくれたんだからと自分を納得させて口付ける。茜は嬉しそうに微笑んだ。
 背中や頭を撫でながら、頬に額にと唇を寄せるとくすぐったそうな声を上げる。
 雄々しくつりあがっていた眉が下がり、瞳は柔らかで優しい光を取り戻した。もう一度互いの唇を触れ合わせる。
 緊張と不安が混ざっていた空気はとうに霧散して、穏やかで落ち着いた、思いやりに満ちた空気が僕たちを包んだ。
「今日は早く寝よう。急いで風呂入って来るから、少しだけ待っててくれるか?」
「……一緒に入っちゃ、だめ?」
「……僕の理性はそんなに強くないぞ」
「我慢しなくていいから」
「…疲れてるんだったら、やめといた方がよくないか」
「くっつきたいの。…やさしく、してくれれば平気、だから」
 駄目なんて、言えるはずがなかった。
0472ある日の喧嘩2013/12/15(日) 15:15:10.24ID:6I6I97Bn
「…本を読み終わった後の葵って」
 湯船に浸かったまま、浴槽の縁に両手を置き、更に両手の甲の上に顎を乗っけたままこちらを見ていた茜は、ぼんやりのほほんとした声を上げた。
 スポーツドリンクも飲んだし、念のために浴槽内にも持ってきたから脱水症状ではない筈だ。単純に力が抜けているのだろう。

「んー」
「…ちょっとだけ、苦手かも」
「ん゛ん゛!?」
 なんだって、と髪を洗う手を止めて茜を見ると、ゆったりと微笑んで、暑さのせいではない熱を秘めた視線を返してくる。
 上気した頬や薄い桃色に染まっているしなやかな肢体とも相まってとてつもなく色っぽい。
 普段の、可愛らしさが残るものとはまた違う、蠱惑的で妖艶な姿に心臓が跳ね上がった。茜がこんな表情をするなんて。
 そう感じる一方で、心の底から大好きなお嫁さんに面と向かって苦手と言われた僕は、わりと、いやかなり、落ち込んだ。
 表情と言葉の落差とも相まって、どうにもこうにも、困ってしまう。顔に出たのか、茜が笑みを深くした。
 わぁどうしよう凄く色っぽい。
「早く洗って? のぼせちゃうよ」
「あ、はい…」
「なんで敬語なの」
「いやなんとなく」
 ばしゃり。頭からお湯を被ったら少しだけ落ち着いたような気がする。
 動揺しているのが表にでているのか、茜は楽しそうに笑っているだけでそれ以上の言葉を続けようとはしなかった。

 手早く体も洗い終えて、茜を後ろから抱きしめるようにして湯舟に浸かると、甘えるようにもたれかかってきた。
 僕とは違う、柔らかくて滑らかな肌が心地良い。
「なぁ、茜、さっきのってどういう意味だよ」
「んー…さっきのって?」
「本を読み終わった後の僕が苦手だって」
「…んー…」
 彼女のお腹前で組んだ両手に自分のものを重ねた茜は、僕の手をなぞるように優しく撫でた。ゆっくり、言葉を選んで話しだす。
「…葵って、本を読むとき、すっごく集中してるでしょ?」
「そうだな」
「その時って多分…他のことは、何にも考えてない…というか、考えられないんだと思うの」
「…そうだな」
「あ、責めてるわけじゃないよ。そうやって集中してる時の葵って、すごく…かっこいいから。
 それに、集中してても、私が話しかけたらちゃんと答えてくれるでしょ?」
「茜だからね。他の人じゃ、多分、気付けないよ」
「知ってる。…葵、自分がもてないって思ってるみたいだけど、違うからね?」
 …なんで今の流れでそんな言葉が出てくるんだ?

「…まぁいいや。だから、えーと…何を言おうとしてたんだっけ…そうそう、目だよ。葵の目」
「目? 僕の?」
「うん。凄く集中して本を読んだ後の葵って、目が、澄んでるの。
 きらきらしてて、でも落ち着いてて、静かで…私のことなんて、何もかも見通してるんじゃないかって思っちゃうくらい。
 それに、その目をしてる時の葵は、いつも以上に鋭いんだよ。
 きっと、本の世界とこの世界が混じりあって、普段は見えないものも見えてるんだと思う」
 茜の声は弾んでいた。まるで、自分の宝物について一生懸命説明している子どものように。
 頬に口付けて彼女の顔を覗き込む。僕に笑いかけた茜の顔こそきらきらと輝いていた。
 もう一度口付けて、右肩に顔を預けたら頬擦りされる。…かわいい。
「…葵は、本の世界も生きてるのに、私はこの世界だけだから。ちょっとだけ不安なの。
 でも、最後には必ず、私に気付いて、帰ってきてくれるのも分かってるんだ。
 …だから、本を読んだ後の葵はちょっと苦手だけど、それ以上に、好き」

 ――好きだよ、葵。
0473ある日の喧嘩2013/12/15(日) 15:19:26.79ID:6I6I97Bn
 柔らかい慈しみと愛おしさに満ちた声で、歌うように囁かれて、どうすればいいのか分からなくなった。
 機能を停止した思考と理性は放り投げて、心のままに茜を抱きしめる。楽しげな笑い声が鼓膜をくすぐった。
「……ひどい殺し文句だ」
「いつもいつも言われてる私の気持ちが分かった?」
「僕は、言ったことない、はず」
「無自覚って怖いね」
「…大体、自分の目がそんなことになってるなんて、知らなかったよ」
「役者は舞台全体を見ることはできない。葵が言ったんだよ?」
「……茜の仕事が落ち着いたら、温泉でも行くか」
「いいの?」
「当たり前だ。…茜、僕は、君が望むなら出来る限りを尽くすぞ?」
「分かってるよ。遠慮してたんじゃなくて、思いつかなかっただけだから。…これで仕事も頑張れるな」
「無理はしないでほしいけど」
「もぅ、分かってるってば」
 言葉とは裏腹に、茜の表情は明るいままだ。唇を頬に寄せて、次いでふわふわの耳たぶを食む。もらす吐息に熱が宿った。

 耳から首、うなじ、背中へと舌を這わす。柔肌に少し強めに吸いつくと抱きしめている体が震えた。
 両手を胸に寄せたら右手が抱きかかえられる。ちゅ、と音を立てて吸いついてきた。
 くすぐったくて笑い声を零したら、何を思ったか、人差し指を口にくわえた。
 指の形や関節を確かめるように舌を絡めてくる。茜のもらす息が熱くて甘くて、たまらない。
「…茜」
「ん…ふ…ぁ…」
「茜、好きだ。愛してる」
「わたし、も…」
「ん」
 左手で胸元をくすぐりながら背中に唇を寄せる。
 何度も吸いついて赤い痕を散らすと、その度耐えるように指に歯を立てて、すぐに謝罪を込めて舐められた。
 全然痛くないから平気なのに。この間切った指先だって、完全にくっついてからもう時間が経つのだから。

 時折うなじや肩にも唇を寄せつつ愛撫を続けていたら、あぐらの間に収まっている両足を擦り合わせた。
 もじもじと指に口付ける彼女の頬を撫で、胸からお腹、腰、太ももとを撫でて秘所に触れる。
 普段なら指先に伝わる湿り気はお湯に溶けてしまっていたけれど、ひだをかきわけて奥に触れると、とろりとした愛液がまとわりついてきた。
 入口辺りをくすぐりながら、もう片方の手で茂みを撫で、その下の粒に触れると体が跳ねた。
 僅かにもれた声が風呂中に反響して、抱きしめている身体の熱があがっていく。
「…声、結構響くな」
「っ…ゃ…!」
「僕は嬉しいけど。恥ずかしい?」
 茜は必死に頷いた。いつもなら聞かない所だけど、今日は優しくすると約束したのだ。

 陰核を弄っていた手を口元に持っていき、ひくひく動いている口元を押さえる。ぴく、と肩が震えた。
「これだと怖いか?」
「…だ、だいじょ、ぶ…」
「我慢しなくていいから。じゃあ、指噛んで」
「え…や、やだよ!」
「傷つけてもいいから。茜にだったら嬉しいしさ」
「いや!」
 むぅ。どうしたものか。
「…じゃ、茜、こっち向いて」
 今度は素直に従った彼女を膝の上に乗せて口付ける。
 唇は離さぬままお尻を撫で、湯に溶けきらない量の愛液を指に絡めて軽く差し込む。
 茜の中は潤いを帯びていて、歓迎するように僕の指を咥えこんだ。
 甘い悲鳴は互いの口の中でくぐもって、浴室全体に反響することはなかった。
「これは、どうだろう?」
「…ん…」
 首に手をまわしたのだから肯定と取っていいだろう。腰を傷めないよう座りなおし、もう一度唇を落とす。
 ゆっくりゆっくり解しながら二本目も入れて、ざらざらした部分を中心に擦ると気持ちよさそうに眉根を寄せた。
 体を軽く揺すってみたら、乳首への刺激から逃れるように背を逸らしたけれど、空いている方の手で押さえられるからあまり意味はなかったらしい。
 結果、前と後ろの両方から撫でられて、茜は困ったように身をよじる。
0474ある日の喧嘩2013/12/15(日) 15:24:07.13ID:6I6I97Bn
 僕の耳に届くのは、湯が動く音と、くぐもった喜悦の声と、お互いの荒い息だけだった。それだけなのに、どうしようもなく興奮する。
 堪えきれず、茜を抱きしめ自身を突き入れると、一度も達しておらず焦らしてもいないわりにはすんなりと受け止められた。
 多分、お湯が一緒に入ったからだ。…あ、でも、後でちゃんとかきだしておかないと気持ち悪いかな。

 頭の隅でぼんやり考える一方で、体は貪欲に茜を求めていた。
 両手で可愛らしいお尻を鷲掴みにして、何度も何度も彼女の身体を上下させる。

 辛うじて激しくはしていないけれども、茜からしてみれば、ゆっくりした動きで奥深くに打ちつけられるのはたまったものじゃないらしい。
 声を抑えるのを忘れ、あられもない悲鳴を上げて僕から逃れようと身をよじっていた。入れた時に達したから、一呼吸もおかずにするのは困るのだろう。
 でも、こうして続けると、茜はあり得ないくらいに艶めかしく美しく乱れるということを、僕は知ってしまった。
 最近忙しくてご無沙汰だったんだから、もうちょっとだけ許してほしい。まだ辛くはなってないみたいだし。
「あおくっ、やぁ…! もっと…もっとぉ…!」
「矛盾、してるぞ、茜」
「し、らなぁああっ! っあ、も、ひゃ…あぁぁああっ」
 全身を弓なりにしならす茜の胸にしゃぶりつく。倒れないよう背中を支え、ぴんと硬く尖っている乳首を舌でこねた。
 甘い悲鳴に気をよくして、柔らかくうねる奥を小刻みに突き上げると、もがくようにして僕に縋りついてくる。
 ぬめるひだが肉棒を味わいつくすように絡みついてきてたまらない。
 体全部で求められることが嬉しくて、どうしようもなく心が満たされた。
「あ、かね…あかね…だいじょぶ、か…?」
「あおくん…やぁ、ぅあっ…も、りゃめぇ…!」
「もう少し、だから」
 しゃにむに口付ける。すぐに舌が求められた。ざぷざぷとお湯が波打つ音に、互いの唇を吸い、舌を絡める音に、頭の芯が痺れていく。
 一際大きく突き上げた直後、茜の中が別の生き物のように蠢いて、下半身が溶けるのではと錯覚するくらい深い絶頂に達した。


 肩で息をする茜を抱きしめながらも、僕は、暫くの間目を開けることができなかった。
 最初に心配になったのは茜の身体で、まだ小さく震えている彼女の肩を撫でつつ届く場所に置いておいたペットボトルを掴む。
 茜、と声をかけると幸いにも意識はあるようで、ぼんやりした目を向けられた。
 蓋を開け飲み口を近付けてみたら、何故か嫌がってもう一度僕の肩口に顔を埋める。
 仕方が無いから、先に一口あおり、二口目は呑み込まないで口付けた。
 スポーツドリンクは風呂の熱気で生温くなっていたけれど、何も飲まないよりはいいだろう。

 じゃれつきながらペットボトルを空にして、ようやくお互いの目に力が戻ってくる。
 刺激しないよう逸物を引きぬくと、お湯に混じって白濁液が零れ出てきた。明日の洗濯は水道水決定だ。
「…茜、立てるか?」
「ん…」
「ゆっくりでいいから。掴まって」
 転ばないよう慎重に浴槽を出て浴室の床に腰を下ろす。滑り止めのマットを敷いているから冷たくはなかった。
 茜の秘裂からは精液が零れていて、今すぐにでも二回戦を始めたい気分になったけれど、残念ながら明日は平日だ。
 彼女を腰砕けにするわけにはいかない。心の中で法華経を唱えながら秘裂に指を差し込む。
「んゃっ?! あ、あおくん…?」
「出しとかないと気持ち悪いだろ。あと一回だけ我慢してくれないか」
「……ん」
 素直に力を抜いた茜に口付ける。顔中に唇を落としたら気持ちよさそうに目を閉じた。
 刺激し過ぎないよう気をつけながら、ぬるぬるした液とお湯とプラスαをかきだしていく。
 あらかた終わった所で指を引きぬくと、茜は物足りなさそうな顔で僕を見上げた。
 キスを落としながら少しだけ考えて、陰核をこねて茜に達してもらい、夢見心地の彼女の脇で処理を終えた。
0475ある日の喧嘩2013/12/15(日) 15:25:30.35ID:6I6I97Bn
 のろのろと服を着た僕たちは、揃ってベッドに倒れ込んだ。
 柔らかい布団に体を預け、ほかほかな茜を抱きしめると何とも言えず幸せな気分になる。
 ほうと息をつくと、茜が甘えるような目を向けてきた。
「ね、葵。今読んでる本って、どんなお話なの?」
「あー…言葉と、言葉と共に生きる人々の物語、かな」
「葵みたいだね」
「……そうかもしれないな」
 眠そうにふやけた頬を撫でる。ぼんじゃりした空気を纏う茜は小さく微笑んだ。
「葵が読み終わったら、私も読んでみようかな」
「うん、あの本はおすすめだ」
「じゃあ読んでみる」
 楽しみ、と呟いて目を閉じる彼女に口付けた。おやすみ、と囁くと、辛うじて聞きとれた返事が返ってくる。


 茜は、大切な人だ。本の世界で生きることを止められない僕も、受け入れて、尊重してくれる。

 はなせないなぁと呟いて、穏やかな寝息を立てる茜に口付けた。
04764342013/12/15(日) 15:32:01.21ID:6I6I97Bn
ここまで

この二人にとっては、久しぶりに激しい喧嘩の話でした
過去話編頑張ります、お待たせしてすみません
毎度拙い話ですが、暇つぶしにでもなれば幸いです
04774342013/12/15(日) 16:12:44.97ID:6I6I97Bn
連投すみませんひとつ聞き忘れていたことが
このスレ的には同性愛や性同一性障害みたいな、いわゆるセクシャルマイノリティと
呼ばれてる人たちのペアの作品はどうでしょう?
少し出てくるならアリか、がっつり書いてもよしか、ノータッチの方がいいかで迷っているので
よかったら意見を聞かせてもらえるとありがたいです
0478名無しさん@ピンキー2013/12/15(日) 19:46:57.42ID:/wIiFhjq
>>477
ホモネタ、性同一性障害のようなものは、このスレだけじゃなく板全体であまり歓迎されない
04794342013/12/15(日) 23:08:46.83ID:6I6I97Bn
>>478
そうだったのか。きちんと把握していなかったです。すみません
確かに少しでもやらかしたらすごいことになりそうなネタだもんな…
大人しくノータッチにしときます。ありがとうございました!
0480名無しさん@ピンキー2013/12/16(月) 10:49:33.73ID:Hc+r513d
やるとしたら前書きに注意をしっかりして苦手な人のためにNG指定にできるようにしておくといいよ
個人としてはやってもらえるなら読みたいと思うが
04814342013/12/18(水) 22:11:55.37ID:Fuz84osE
>>480
遅ればせながらありがとうございます
それならば、もし書けちゃった場合は注意書きとNG指定を出来るように心がけます
…まぁいずれにせよ過去話が先だがな!
もう少しで出来るので、申し訳ありませんがもう少しだけお待ちください
0482名無しさん@ピンキー2013/12/19(木) 00:25:17.78ID:IcajxfI+
理不尽かもしれないけど、百合はあってもホモが歓迎されないのは
801板が隔離板として古くから存在してることを考えればわかると思う
少なくともガッツリはすすめられない

個人的には百合も苦手なんだけど、板として全体的に許容してる風潮なので
注意書きを参考に読まないことにしてる

あとはホモネタは一つ許すと歯止めがきかなくなることが多いので
板が占拠されることのことのないよう棲み分けが強調されてた面もある
今はどうなんだろうね
0483名無しさん@ピンキー2013/12/19(木) 00:33:38.15ID:IcajxfI+
あと、ごめん
この是非論もデリケートな問題で荒れる原因になりかねない
できるなら、板全体を見て傾向を掴んでほしいと思う
オリシチュ系を少し見て回れば何となくラインがわかるんじゃないかな
0484名無しさん@ピンキー2013/12/19(木) 00:39:09.34ID:GI1eo7+i
そうなんだよね。ホモネタ一つ許すと後から後から腐女子が湧いてきて、結局スレを乗っ取られる
あいつら、凄く排他的で他の住民と共存しようなんて気さらさら無いから、一度乗っ取られたら取り戻すのはほぼ不可能
だからホモネタは嫌われるんだよ
04854342013/12/19(木) 20:03:26.52ID:GmhoGpan
度々すみません。ご意見ありがとうございます
皆様の仰る通り、デリケートな話題を軽々しく扱ってしまったと反省しております
こちら側の知識不足、勉強不足でご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません
このスレを荒らそうという気は毛頭なく、単純に一つのテーマとして思いついただけでしたが、
軽率な発言でした。申し訳ありません

これ以上この話題を続けてスレが荒れるのも、スレの趣旨から話が逸れるのも避けたいので、
こちらから尋ねたのに勝手な話ですが、このネタについてはノータッチにしたいと思います
個人の勝手でお騒がせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした
きちんと調べて傾向を把握した上で出直したいと思っておりますので、その時はよろしくお願い致します

長文失礼しました
0489名無しさん@ピンキー2014/02/02(日) 01:14:49.85ID:7nDDE7Mo
結婚式でみんなに見守られながら公開種付けっていいよね
04904342014/02/02(日) 13:20:17.40ID:YDOppH67
テスト
04914342014/02/02(日) 13:21:52.49ID:YDOppH67
お、いけた

434です。昨日の投下を失敗してしまったので、もう一度投下させて頂きます
長い、エロまで遠い、エロが薄い、本番無しなので、必要に応じて「過去編」をNGでお願いします
0492過去編2014/02/02(日) 13:26:27.79ID:YDOppH67
葵にとって本がどういうものか説明するのが難しいように、私にとって、葵がどういう存在であるのかを説明するのはとても難しい。

……いえ、あの、確かに、旦那さんって言えばそうなんだけど。一言で説明出来ちゃうんだけど。
旦那さんである前に、葵は一人の人間で。私にとっては今も昔も大事な人で。昔は、戸籍上とはいえ兄妹だったわけで。
葵をお兄ちゃんだって思ったことは一度もなくても、戸籍上は。
今でこそ、大好きな旦那さんって胸を張って言えるけど、昔は…というか、数年前までは、
葵がどういう存在かを説明するのは、自分にも他の人にも、とても難しかったのだ。


中学生の頃は、変だけど優しいお兄さん、だった。お兄さんって言うのは近所のお兄さんの方で。

神社の一件があってから、葵は、私のことをとても大事にしてくれた。
何故かは分からないけれど、多分、私が彼に懐いたのと似た理由だと思う。つまり、お互いに色々な意味で慣れた、と。
今と同じように、当時の葵は家事をほとんど受け持ってくれていた。
本当に有り難いことに、いつも、部活から帰ると温かいお風呂と美味しい夕ご飯が準備されていた。
実は、新婚さんにありがちな「ご飯にする? お風呂にする? それとも…」というやり取りを、私たちは毎回繰り返していたりする。
「それとも…」は無しで。

お父さんとお母さんは、葵曰く家にいることが増えたらしいけど、それでもやっぱり帰ってくるのが遅かった。
だから、ご飯は大体二人きり。その日あったことを話しながらのご飯を終えたら、葵がお風呂に入ってる間に私はストレッチ。
お父さんとお母さんが帰ってくるのは、二人で勉強をしている時が多かった。
…あの頃の葵は、私専属の家庭教師だったなぁと今でも思う。
わりと厳しい部活に所属していた私が、テストや受験でもあまり焦らなくて済んだのは、どう考えても葵のおかげだった。本当に。

この生活は、高校に入ってからもあまり変わっていない。

私は葵と同じ高校に進学した。
真似をしたんじゃなくて、当時、陸上部が盛んで勉強もできて県立高校で、且つ自宅から通える高校はそこしかなかったから。

高校に入ってからも、葵という優秀な家庭教師に教えを乞うていた私は、そこまで大きな負担もない幸せな高校生活を送ることができた。
勿論、思春期真っ盛り故の悩みはあったし、それがくだらないものだったとか、今に比べれば楽だなんて言うつもりはない。
今も昔も、私は精一杯生きているつもりで、いつの私が良い、なんて言いきれないから。
単純に、もし、お父さんとお母さんが手を差し伸べてくれなかったら、そして葵が受け入れてくれなかったら、
もっと、色々な意味で大変なことがあった、そう思っているだけだ。

ただ、私と葵は、わりと注目を浴びることが多かった。

私自身も含め、周りは皆、多感で不安定な思春期という時期だ。
男の子と同棲なんて(戸籍上家族とはいえ)、友達が、想像力を働かせてしまっても無理はない状況だ、と思う。
しかも、葵はやっぱり、変人だけど滅茶苦茶頭が良い先輩、って有名だったから。
加えて、所属していた部活はこう…忙しくて。男の子とそういう意味で親しくなる人は、ほとんどいなかった。
つまり、遠征先とかで恋愛話が出てきた時に…うん、その、少しだけ…大変だった。質問とか、そういうのが。

私の反応はと言うと、昔から鈍いというか、どんくさいというか…とにかく鈍感だったから、最初のうちはそんなに気にしていなかったんだけれども。
あまりにも沢山言われると、否応にも、ちょびっとだけ、葵とどう接すればいいのか分からなくなって。
それに、正直なところ、そういうことに興味が無いわけではなかったから、その……。

白状しよう。私は一度、葵に迫ったことがある。今となっては思い出したくないくらい恥ずかしい、いわゆる黒歴史というヤツだ。
0493過去編2014/02/02(日) 13:30:26.13ID:YDOppH67
その時、葵は大学受験を終えて、例によって本の世界に入り浸っていた。私は春休み。
部活はほとんど毎日あったけれど、毎日夕方には帰れていたから、時間もあった。
重ねて言うなら、お父さんとお母さんは、出張で帰ってこない。なんというか…そう、計画を実行に移すのにおあつらえむきすぎた。

時刻は夜。いつものように、ご飯を食べて、お風呂を済ませて、私と葵は並んで本を読んでいた。
「……ねぇ、葵」
「…うん?」
緊張で震える声に、一拍間をおいて返事をされる。
集中して本を読んでいる彼に話しかけて、このくらいで反応が返ってくるのは結構凄いことだ。その事実が、私のいらない自信を増長させてしまった。

「あの…えっと。葵って、その…今まで、誰かとお付き合いしたこと…ある、の?」
「いや、一度もない」
「ええと…じゃあその…き、きしゅとか、したことあるっ?」
「恋人でもない相手とは、僕個人としては、したくないな」
緊張と焦りとで思いっきり噛んだ私を追いつめることはせず、柔らかい声が返ってきた。
少しまどろっこしい言葉を使うのは葵の昔からの癖で、私はそれが好きだったけれども、この時ばかりは妙に焦れてしまったことを覚えている。
とにかく、本題はここからだ。理由の分からない安堵感に励まされた私は、
「じゃ、じゃあ…し…してみない…?」
「……茜?」
本を読んでいる彼が、思わずこちらを見てしまうほど突飛なことを言ってしまった。

一つだけ断っておくと、この時の私に葵が好きだという自覚は無い。無いけれど、私は、間違いなくこの時既に葵のことが好きだった。
当時は、好奇心と緊張と理由の分からない期待で一杯一杯になってしまっていたから、分からなかったけれど。
キスとか、それ以上のことをしたいと思ったのは、葵だけだった。それは今も変わっていない。きっとこれからも変わらない。
ただ、重ねて言うけれど、当時の私に葵が好きだという自覚は無い。私は、とんでもなく、本当に、救いようがないくらい、鈍感だったのだ。

「……してみるって言うのは、キスのことか?」
言ってしまったという緊張と、恥ずかしい子だと思われたらどうしようという不安とで固まってしまった私に、葵はあくまでも優しい声で確認をしてきた。
私は何度も頷くしかできなかった。耳どころか体中が熱かった。
「…僕には、キスだけで止まれる自信が無い。それは、分かってる?」
一瞬言っていることの意味を捉え損ねて、次いで、顔が爆発するかと思うくらい熱くなった。
とても混乱した私は、物事を冷静に考える思考力を完全に失っていて、阿呆みたいに首を上下させた。
葵の目つきが少しだけ鋭くなる。初めて見る表情に、訳もなく泣きそうになってしまった。

「……目、閉じて」
この時の心情を、上手に表す言葉が見つからない。
緊張と、不安と、期待と、喜びと、羞恥とがぐちゃぐちゃになって、とにかく、私の心はぐちゃぐちゃだった。
ぎゅうっと目をつぶると、頬に手が添えられた。大事なものに触れるかのように、優しく、優しく撫でられて、胸の辺りがきゅうっと締めつけられた。

頭が真っ白になっていても、葵が近付くのは気配で分かった。緊張のあまり強く握りしめた両手に、彼の左手が乗せられる。
一瞬だけ迷ったような気配がして、

「……え……?」

柔らかい感触がしたのは、額だった。

それを認識して目を開けた時には、葵はもう、困ったような笑みを浮かべていた。どうして、と尋ねる前に、頬を撫でていた掌が頭を撫でる。
「…やっぱり、さ。こういうことは、好きで好きでしょうがない人としたほうが、いいと思うんだ」
だから、これで終わりな。
そう言って、葵は本を片手に部屋に戻っていってしまった。残された私はというと。
「………………」
何だかとてもホッとしたのに、同時に凄く寂しくなってしまって、暫くの間座り込んでいた。
初めて見た葵の表情や、優しく口付けられた感触が頭の中をぐるぐる回っていて。
色々と考えて妙に張り切って準備していたのが、馬鹿らしくなって。
でも、それ以上に、私のことを大事にしてくれているのが伝わってきて。
「……寝よう……」
色々と限界だった思考は、考えることを放棄した。

「……え? ……あ、あれ?」
たったあれだけで腰が抜けてしまっていて、結局、動けるようになるまで眠れなかったのだけれども。
0494過去編2014/02/02(日) 13:33:32.15ID:YDOppH67
こんなことがあっても、私と葵の関係をどう言えばいいのかは、本当に分からなかった。

葵が私を大事にしてくれているのは分かる。でもそれは、多分、家族愛みたいなもので。
私の方は、大学辺りでようやく(しかも人に指摘されて)好きなのだと分かったけれど、
葵との距離があまりにも近すぎて、なにをどう言えばいいのか、どう伝えればこの感情が伝わるのか、全然分からなくて。
葵が翻訳家という夢を決めてからも、私はただその背中を見つめていることしかできなくて。
私はどうすればいいのか。何をしたいのか。どうすれば、葵の力になれるのか。
そんなことばかり、ただ、ぐるぐると考えているだけだった。


思考の渦からいつ抜け出せたのか、どう抜け出せたのかは、未だによく分かっていない。
だけど、きっかけは、あった…と思う。

葵は、大学を卒業してから近くに家を借りていた。
なんでも、編集者さんとの打ち合わせは東京ですることが多いから、駅の近くに住んでいたほうが都合が良い、らしい。
それ以外にも理由はあったんだろうけど、葵は何も言わなくて、私もお父さんお母さんも何も聞かなかった。

とにかく、駅から歩いて五分程にあるアパートの1DKが葵のお城になったのだ。沢山の本と、必要最低限の家具以外は何もない、葵らしい部屋。
私はそこがとても好きで、暇さえあれば押しかけて、葵が無視しがちな食事を作ったり、家事をしたり、
挙句寝袋と着替えを置いておいて泊まったりもしていた。今思い返してみると、葵の理性の限界を更新させていたのは間違いなく私だと思う。

その日は、私が初任給をもらった日で。次の日に、おじいちゃん達とお昼ご飯をする約束をしていて。
でも、私は、例によって葵の部屋に転がり込んでいた。お父さんとお母さんに連絡をして、資料とにらめっこしている葵の隣でご飯作り。
当時の葵は、講師として働いていた塾をやめて、本格的に翻訳一本に集中するところだったから、大分無茶苦茶な食生活を送っていた。
会うたびにげっそりしていく葵が見ていられなくて、仕事帰りに買い物袋を引っ提げたまま突撃したのだ。

もう少しでご飯ができる時に葵の溜め息が聞こえてきた。私が何も言わないうちに机の上を空けてくれる。
「ご飯、もう少しでできるからね」
「ありがとう。今日の飯なに?」
「キャベツとカブと豚肉の炒め物、お揚げと豆腐とジャガイモのおみそ汁、ご飯と納豆です」
「素晴らしい」
腹減ったぁと苦笑しながら食器を並べていく葵は小さい子どもみたいで、心がほっこりと暖かくなった。
こういう何でもない会話でも、葵とだと普段以上に幸せを感じられて、私は馬鹿だなぁと内心笑みがこぼれる。

「はい、完成」
「よしきた」
ご飯を並べて手を合わせる。いつも通り、幸せな時間。その日あったことを話すのが、中学時代から変わらない習慣だ。
けれど、何故だかその日は仕事のことを話す気にならなくて。私は、今までしたことがない質問をぶつけてみた。
0495過去編2014/02/02(日) 13:38:32.23ID:YDOppH67
「…葵ってさ」
「うん?」
「なんで翻訳家になりたいと思ったの?」
がっつくあまりほっぺについていた米粒を取りつつ尋ねると、葵は不思議そうな表情になる。
「…言ったことなかったっけ?」
「ありません」
「言った気になってたよ。僕は、橋になれたらいいと思ってさ」
「ごめん、流石に抽象的すぎて分からないな」
頭の中のイメージをそのまま話すからこうなる。思わず苦笑すると、葵は恥ずかしそうに頬をかいた。

「だな。えーと…ちょいと長くなるけど」
「聞かせて?」
「ん。…翻訳家を目指す理由は、人それぞれだと思うんだ。だから、あくまで僕個人は…ってことで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「初めて、外国の小説を原文のまま読んだとき、驚いたんだ。こんなにすごい本がある、世界には、数え切れないくらい沢山の物語があるって。
 でも、同時に、その本の日本語訳がないってことに、驚いた。こんなに面白い話なのに、って」

葵の目は、きらきらと輝いていた。本や物語の話を聞かせてくれる時に、見せる目だ。
小さい子どもが、宝物について、一生懸命話しているような、すごくきれいな目。
「もちろん、翻訳が無くっても原文を読めばいい。でも…原文が読めなかったら、どんなに面白い話でも意味が分からない。
 それはもったいないって思ったんだ。本の内容は、好みによって好き嫌いがある。それは当然だ。
 だけど、言葉が分からない、ただそれだけのことで面白い物語が読めないなんて、すごくもったいない」
だから、と葵は頬を緩める。

「一冊でも多くの素晴らしい物語を、それを読みたいと思っている人に届けられたら、素敵なことだと思って。
 …橋っていったのは、それなんだ。翻訳は、物語と人をつなぐ橋になり得る。
 その橋のレンガ一つにでもなれたら、こんなに嬉しいことはないと思った。僕の一生を掛けてもいいと思った。
 だから、翻訳家になりたいと思ったんだ」
朗々とした声を聞いていると、私の頬も自然と綻んでいた。少し気恥ずかしげにお味噌汁に口を付ける葵が、とても眩しく感じた。
もしかしたら、私は嫉妬するべきなのかもしれない。大好きな人が、これ以上ないほど幸せそうに、他のことに夢中になっているのだから。
けれど、不思議なことに、嫉妬心はこれっぽっちも湧いてこなかった。それどころか、なんだか凄く嬉しかった。
葵の意思を、少しも迷わずに、私に見せてくれたことが。

その後は、ひたすらほんわかした雰囲気が私たちを包んだ。
後片付けはやるという言葉に甘えて、私はお風呂に入っていた。湯船の中で、葵が言ったことを考える。
きらきらしたきれいな目で、人と物語をつなぐ橋になりたいと、そのためになら一生を掛けてもいいと言いきった、葵のことを思い出す。

ぼんやりしながら、私は何かを考え続けた。
ずーっと心の内にあるこの塊が、もう少しでどうにかできるような気がした。それは、後もう少しで、掴めるような気がした。

ぼんやりとしたままお風呂を出る。髪を乾かしてリビングに行くと、葵は椅子に座ったまま本を読んでいた。
何となく近付き辛くてぼうっとしたまま見つめていると、私に気付いたのか、顔が上がった。


葵は、帰る場所を見つけた子どものような柔らかい目で私を見て、優しい響きの声で私の名を呼んだ。
それだけで、十分だった。心の中の塊が、体の隅々まで溶けていく気がした。私のやりたいこと。私の、一生を掛けてもいいと、思えること。


「――あおい」
「ん、どうした?」
「私たち、結婚しない?」
0496過去編2014/02/02(日) 13:42:27.93ID:YDOppH67
ばさりと大きな音がしたと思ったら、両手がきつく握りしめられていた。
驚いて目を瞬く私を、怖いくらい真剣な葵が見つめる。
「……茜」
「は、はい」
「本気か?」
「う、うん…あのっ、私、役に立てると、思うんだ。お給料も頂けたし、自分のことは自分でするし、葵に迷惑かけな」
「そんなことはどうでもいいんだ。そうじゃなくて…僕は…本の世界から、離れられない。茜を、一番には、できない。それでも、いいのか?」
「えと、ほら、同率一位も、あるから」

我ながらトンチンカンなことを言ったと思う。
なのに、葵は痛いくらいにまっすぐな目を向けてきた。
「その気になれば、茜だけを一番にしてくれる人は、沢山、」
「あおく、葵…その、ね。わたしは…葵のことが、好きで好きで、しょうがないの」

だから、と続けることはできなかった。口が塞がれていたから。
突然のことで驚いた私に、あの時と同じ、鋭い光が向けられていた。
深い黒に、私だけが映っていることが嬉しくて、でも少し恥ずかしくて、私は目を閉じて葵に縋りついた。

どのくらいそうしていたのか、実はあまり覚えていない。
最初は触れ合うだけだったのに、葵にもっと深いものを教えられて、私はお互いの熱を交換することに夢中になっていた。
しんとした部屋の中に水音が響いて恥ずかしかったけれど、それが意識に上るよりも速く葵の熱に流された。

「ふぁっ…は…ぁぅ…」
「あかね、かわいい」
「ひぁっ…」
私は完全に腰が抜けていた。興奮でかすれた声で囁かれただけで背中がぞくぞくするくらい、くたくたにされてしまった。
「茜、ごめん、ぜんっぜん我慢できない」
「っ……」
臆面なく言われて頬が熱くなったけど、我慢できないのはこちらも同じだ。少し背伸びして口付けると、葵は嬉しそうに笑って私を抱きあげた。
……ずっと運動部に所属していたのだから軽い筈はないんだけどとか、その細腕のどこにそんな力がとかの疑問よりも、嬉しさが勝ったのは言うまでもない。

「て、あおいっ、本落ちてる!」
「えっ、…あ、ほんとだ。ついうっかり」
ついうっかりって、あなたが本を落とした上に放置するなんて姿、初めて見るんですけど。
「それだけ衝撃が大きかったんだよ。…あー、でも、女の子に言わせちゃったなぁ…」
「心を読まないでね。それに、こういうプロポーズがあってもいいと思うんだ。世界は広いんだから」
「そうかもな」
楽しそうに笑って、危なげなく私をベッドの上に寝かせた葵は、それはそれは嬉しそうに覆い被さってきた。
なんというか、その、こんな姿は想像すらできなかったから、結構新鮮。

「あ、そうだ。僕こういうことするの初めてだから、何かあったらすぐ言ってくれな?」
「え、あ、うん」
「後できれば、どうすれば気持ちいいのかも教えてほし」
「無理だよっ!?」
「じゃあ探しますか」
そう言って、再び口付けてくる葵。
ムードも何もないって言うのに、触れ合っている箇所から伝わってくる熱だけで、私の体は完全に脱力してしまう。
ていうか、正直なところ、キスされてるだけなのにあり得ないくらい気持ち良くて、どうすればいいのか分かんないんですけど葵さん。
0497過去編2014/02/02(日) 13:46:39.63ID:YDOppH67
上顎をくすぐられたり、舌を吸われたりするだけで、背中をぼんやりとした快感が走る。
その感覚がもどかしくて身をよじると、頬を優しく撫でられた。
葵に触れられている、そう思うだけで、お腹の奥がきゅうと疼いた。……ちょっと、簡単に感じすぎじゃないかな、私。
「んぅ…ふ…ぁ…」
「…茜…なんか、すごくその、あいやごめんなんでもない」
「……誰が、こうさせてるの?」
「僕です。ありがたいことに」

ちゅ、と口付けられるのと同時に、胸元に手が添えられる。いつの間にか前を肌蹴られていたようだ。
真っ赤になった私に笑顔を返して、葵はこそばゆいほど慎重に力を込める。柔らかい刺激を逃したくて小さく身をよじった。
「あれ、痛い?」
「…たく…なぃ、けどっ…」
「そうか。えーと…こういうのは?」
「ひゃんっ!?」
いきなり胸の先を押し込まれて思わず声を漏らしてしまう。自分の意志ではなく、しかも甘い響きの声が出て、思わず真っ赤になってしまった。
半ば非難も込めて葵を睨むと、意外なことに彼の顔もリンゴのようで。
「……ごめん。あの、その…こんなすぐに出るものとは思わな違うごめんなんでもないっ!」
「……大分手遅れだと思う、よ?」
「……申し訳ありません」
なんともくすぐったくて思わず笑みを零すと、葵も一瞬だけ困ったように笑って、すぐにぎゅうっと抱きしめられた。力強い腕の中がとても心地良い。
「うーん…カッコよくリードできれば、よかったんだけど」
「初めて、なんでしょ? しょうがないよ」
「でも、こう…年上の威厳が…」
「そんなの無くても葵はかっこいいってば」
「……はい」
それに、こうして一緒になって駄目駄目なのは、凄く嬉しい。
葵としては、余裕たっぷりでいたいのかもしれないけれど、私としては、情けない姿を見せてくれるのも嬉しいのだ。
だって、こんな葵、滅多に見れないんだから。

「…そういや、ちゃんと言ってなかった」
「え、なにを?」
「心から愛してるよ、茜」
……情けない姿を見せた直後にこういうこと言うとか、ずるいと思うのですが葵さん。
「へ、そうかな」
「だから心を読まないでってば!」
言葉こそ怒った風を装っているけれど、私の心はそれこそ天にも昇る心地だった。ちょっと、嬉しすぎて、なんて言えばいいのか分からない。
うぅ、と唸る私に口付けて、葵はにっこり笑顔を見せる。本当に、ずるい。そんなに嬉しそうな笑顔を見せられたら、もう、なにをされても許してしまう。

そんな内心が伝わったのかは分からないけれど、葵は額、鼻筋、唇と口付けて、そのまま首を舐めてきた。
ぞくりと背筋が震えて、再び艶の濃さがましてくる。勝手に震える身体も押さえられて、段々なにを考えているのかも分からなくなってきた、その時。
「んっ…」
鎖骨を強く吸われて、ぼんやりとしていた意識が少しだけ明確になる。満足そうな目で私を見上げた葵は、今度は胸元に唇を寄せた。
「ひゃぁっ…」
ぬるりとした感覚の直後にまたしても強い刺激。
視線を落とすと心臓の上辺りに赤い痕が残されていた。そう認識した途端、身体がかぁっと熱くなる。羞恥ではなく、喜びで。

「茜が僕のお嫁さんって、印な」
「っ……!」
思ったのと同じことを言われて、上手な返事を思いつけなかった。どうにか頷くと、葵は一層笑みを深くする。
そのまま左胸に口付けられ、乳首を口にふくまれる。
「っ、あぁっ!?」
またしても自分のものとは思えない声が零れて、慌てて両手で口を抑えた。そうしている間にも、葵は優しい動きで私の胸を愛撫している。
乳首をつぶされたり、こねまわされたり、乳房全体を甘がみされたりして、声を抑えるのが本当に大変だ。
そんな努力を知ってか知らずか、びんと張っている反対側の胸も手で愛撫されて、いよいよ声を抑えるのが辛くなってきた。
刺激を逃そうにも、葵にしっかりと押さえられているから、もどかしさが溜まって逆効果だった。
0498過去編2014/02/02(日) 13:49:44.99ID:YDOppH67
「んっ…ふ、ぅっ…んぅ…!」
「…茜、この部屋って、前住んでた人がピアニストとかで、防音加工されてるんだ」
「っふ…んん…!」
「後、演技で声を出されるのは困るけど、自然に出ちゃうとかなら大歓迎なんだ」
なにが言いたいの、と聞くよりも早く、両乳首を優しくつままれる。
「やっ、ぁんっ!」
「つまり…声、無理して我慢しなくても、平気だぞ」
軽い絶頂で身を震わせた私に、そんな言葉が投げかけられた。
色んな意味で衝撃を受けていた私は、とっさの判断ができなくて、
「ぁ、やっ…あおい…そこ、やぁ…」
「……ごめんな。どう考えても嫌とは思えない」
ぐしゃぐしゃに濡れている秘部にあっさり到達されてしまう。

ごめんとか言ってるのに嬉しそうに微笑んで、葵は私の羞恥心を増幅させるようなことを。
「脱がせたいから、腰浮かせてくれるか?」
「…っ…一々、断らなくても、いいから…!」
「そう? あ、あともうちょい足を開いてくれると助かる」
「あおいぃっ…!」
今この体勢だってすっごく恥ずかしいんだよ!? と睨んでみても、葵は素知らぬ顔で指先を動かしただけだった。
それが丁度一番敏感な所を撫でて、私は再三あられもない悲鳴を上げてしまう。
羞恥心と、指先が当たっている箇所からじわじわ広がってくる快感と、この先への期待と、悦びで、おかしくなってしまいそうだった。
「…な、茜」
「……ぅ」
「僕も、結構、理性が危ないから。協力してくれ。頼むよ」
言葉こそ穏やかだけれども、確かに、葵の目は興奮でぎらぎらしていた。
その目を見てしまうと、羞恥心とかそういうのよりも悦びや期待が勝って、私は大人しくせざるをえなかった。
熱くなる身体は無視をして、腰を上げ、葵がやりやすいように足を開く。恥ずかしすぎて自然と滲んできた涙は優しく拭われた。

目を細めた葵は、逃げられない獲物を前にした肉食獣のようだった。
ああでも葵になら食べられても嬉しいかな、なんてことを思うのと、彼の指が私の中に入るのはほとんど同時で。
「ひっ…ぁ……――っ!」
「……すごいあつい」
「ぅ、ぁ…ふぁ…」
「それに、せまいな。…大丈夫なのかな。壊れたりしないのか…?」
多分思ったことをそのまま口にしている葵に返事をする余裕はなかった。
痛みはほとんどない。けれど、体の中に何かが入って来るという体験は、とても、不思議な感覚を私に与えた。
半端じゃない異物感を感じるのに、それが葵の指だと思うだけで、どうしようもなく嬉しくなってしまう。
一歩間違えれば気持ち悪さに直結しそうな刺激も、葵が私の全部を確認しているのだと実感できて、これまた嬉しくなってしまう。

「あかね、大丈夫か?」
「ぃ…ぁあ…あおくん…」
「……うん」
「あぁあっ!? やっ…そこは、だめぇっ」
反対の手で陰核をつままれて身体が跳ねた。中の感覚が上書きされるような刺激に腰が震える。
「ここ、気持ちいいんだな」
「やっ、あぅ、ひゃ…ぁんっ」
「……皮? ええと…」
「ひゃうっ!? やっ、あおくっ、それやだぁっ!」
「…すごい締まった…」
葵は何やら感動しているけれど、より敏感な所を露にされたこちらはたまったものじゃない。
身をよじって強すぎる刺激から逃れようとしてみても、上手に圧力を掛けられて逃れられない。
「やぁぁあっ! も、やぁあ…あおくんっ…もぅ、ぅ、ぁぁああっ!?」
「……あかね、すごいかわいい」
「ひゃんっ…や、ぁ…も、だめ…あおく、だ…ぁ、はぅ…ゃ、――っ!」

瞬間、頭の中が真っ白になった。初めて感じる深い深い絶頂に、私は、葵にしがみつくことしかできなかった。
強く強く抱きしめて、この、訳の分からない感覚の中に放り出さないでほしかった。
0499過去編2014/02/02(日) 13:52:19.81ID:YDOppH67
「…かね…あかね?」
「……ぅ……?」
「茜、大丈夫か? 僕のこと、分かるか?」
「……ぁおくん……?」
ぼんやりした意識のまま返事をすると、葵は目に見えてホッとした。
その表情が、三年前、初めて肌を合わせた時の顔と重なって、なんとなく頬が綻んでしまう。
回数を重ねても、どんなに慣れても、私のことを心配してくれるのは変わらない。それが、なんだかすごく嬉しい。

「ごめんな、ちょっと無茶させちゃったか」
言いながら身を引く葵。当然、一緒に私の中を埋めているものも離れそうになる。だけど。
「……あの、茜さん? そんなにぎゅってされると離れらんないんですけど」
「…もうちょっと、このままがいいな…」
「いやあの、抜かずの五発目は流石の僕もキツイかなと。せめて休憩を」
「……もうちょっとだけでいいから」
「……はい」
諦めたような笑顔で抱きしめられたまま寝転がる。
身体は、それはもう、私だって疲れているんだけれども。昔のことを思い出したからか、このまま離れるのは嫌だった。

「……やっぱりね、葵」
「うん?」
「初めてなのに、一言目が"ゴムつけてて良かった"は、どうかと思う…」
「……ず、随分とまた昔の話を……!」
「うん、そういえばちゃんと言ってなかったなぁって思って」
あの時は、圧迫感だの幸福感だのお腹の奥で感じる不思議な感覚だの、自分のことで精一杯だったから。

思い出したことこれ幸いとばかりに見上げると、葵はそれはもう恥ずかしそうな申し訳なさそうな顔で、私をぎゅうと抱きしめる。
「いや、あの…仰る通りなんだけどさ。二言だけ弁解してもいいですか」
「どうぞー?」
「あんな可愛い顔で見上げられてた上に、物凄く気持ちよかったんだぞ。ゴムで感覚が鈍くなってなかったら入れた瞬間限界だった!」
「…力説されても…」
「…そうだよな…」
悪かった、と額の上に口付けを一つ。怒ってるわけじゃないんだけどなぁと思いつつ、嬉しいからお返しのキス。
ちゅうちゅうと吸いあって、そういえば、と葵が少しだけ表情を引き締める。
0500過去編2014/02/02(日) 13:54:46.51ID:YDOppH67
「…どうしたの?」
「あのさ、今度…できたら近いうちに、結婚式挙げないか?」
「……え」
けっこんしき、と口の中で呟いて、その単語の意味を頭の中に浮かべた瞬間、顔どころか体中が熱くなった。

「えっ、でも…ええっ?」
「その…ずっと考えてたんだけど、やっぱり、今からでも式は挙げたいなと思って」
「で、でも…お金は?」
折角の申し出にこんなことを返すのは悲しいけれど、これは大事なことだ。
だって、籍を入れるだけにしたのだって、葵の部屋でそのまま暮らしているのだって、生活が落ち着くまではとにかく貯金! って結論に至ったからで。

私の質問に、葵は穏やかな笑顔を浮かべる。
「お小遣いから貯金しました。まぁ、本当に身内だけになっちゃうけど…父さんに母さん、両方のじーちゃんばーちゃんくらいなら、大丈夫なくらいはな」
「ええ…い、いつの間に…?」
「うーん…いや、ほら…子どもはまだ無理だけど、せめて結婚式はなぁ、と思って。可愛い娘、孫娘のハレの姿、見たいだろうし。
 それに、女の子にとっちゃ、結婚式って特別なものだろ? …あと、まぁ、その…」

一度言葉を切った葵は、それはもう恥ずかしそうに笑って、
「……何よりも、僕が、茜の花嫁姿、見たいから、さ」
だから、ちょっと頑張ってみよっかなーと、なんて。少しおどけたように、私の頭を撫でた。

……もう、ほんとに、本当に、葵はずるいと思う。
別に、結婚式なんて、普通に諦められたのに。葵の傍にいられるなら、結婚式なんて、挙げなくても良かったのに。
周りの人は皆祝福してくれて。大好きな人が、大好きだよーって言ってくれて。それだけで、私はもう、十分すぎるほど、幸せなのに。


――本当はね。少し…ほんとにちょびっとだけ、残念だったんだ。きれいな花嫁さん、憧れてたから。


心の奥に隠した言葉。誰にも言わなかった。態度にも出さなかった。それなのに、こんな。

「……ええと、茜。あの…僕の、世界でひとりだけの花嫁さんに、なってくれませんか?」

こんなに優しい笑顔で、こんなに嬉しいことを、言ってくれるなんて。
ずるい、と思う。優しすぎて、ひどいと思う。こんなこと言われたら、私は――

「――はいっ!」

とびっきりの笑顔で頷くしか、できないんだから。
05014342014/02/02(日) 13:56:42.37ID:YDOppH67
ここまで!

以上、過去編でした。
もしお待ち頂いた方がおられましたら、本当に申し訳ありません。お待たせしました。
相変わらず拙いですが、暇つぶしにでもなれば幸いです。
0502名無しさん@ピンキー2014/02/03(月) 00:20:36.33ID:68DCIj94
おもしろかったよ。
暖かい文章が内容にあってていいと思う。
0504名無しさん@ピンキー2014/02/04(火) 00:01:26.31ID:cvRcheUl
裸エプロンの新妻をバックからズコズコ
05064342014/02/09(日) 10:35:49.18ID:AJiGjOQJ
昨日の雪が凄かったので投下

いつもの二人じゃない、エロまで遠い、エロが薄い、人によっては不愉快になる個所がある、
ヘタレで女々しい旦那とデレがないクーデレの嫁さん、等々いつも以上に好き勝手やっているので
ふざけんなバーローって方は「雪の日の夫婦」をNGでお願いします
0507雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:41:32.57ID:AJiGjOQJ
朝起きてカーテンを開けると一面白い世界が広がっていた。
「……雪か」
ぽつりと零し、なに当たり前のこと言ってんだ俺と頭をかく。
どっしりした雲から落とされる雪は衰える様子が無い。
「これは止まないね。……雪かきしとかないと」
誰に言うでもなく呟いて、彪は寝間着に手を掛けた。


和泉彪が藍沢彪になってからもう半年が経つ。

生まれてこの方浮いた話など一つもない彪に、どんな縁があったのか見合い話が転がり込んできたのが7か月前のことだ。
相手は、23歳にして実家の定食屋"あいちゃん"を継ぎ、彼女を男手一つで育て上げた父親と共に厨房を切り盛りする、藍沢偲乃。
小柄で華奢な体躯からは想像できないほど、力強く鮮やかな技を見せる料理人である。

可愛らしい顔立ちとどこか儚げな雰囲気を纏った彼女は、料理の腕とも相まって人気者だ。
冷静かつ強気な性格のためいわゆる愛嬌はあまりないが、逆に、顔と性格のギャップがイイ! 偲乃ちゃんになら踏まれたいなじられたい罵られたい!
という具合で、人気に拍車をかけていたりもする。

そんな彼女だ。わざわざお見合いなどしなくとも、引く手数多だった。
実家のことがあるので婿入り希望の制限を掛けたって、そんなの関係ねぇ! と言いきる輩が多々いるはずだった。
それなのに、偲乃は彪と見合いをし、夫婦になり、今に至る。一体どうしてこうなったのか。


一言で言ってしまうと、跡継ぎのためである。

お見合い当日。慣れないスーツを着込んでおどおどと様子を伺う彪に、偲乃はこう言い放った。

「私は仕事を辞める気は一切無い。家のことはあなたにまかせっきりになると思う。
 それに、正直に言って、あなたに愛情は求めていないの。跡継ぎさえ産めれば十分だから。それでも良かったら結婚してください」

つまり、あられもない言い方をすれば、夫という名の家政婦兼子種が欲しいということだ。
下手に好意を持った相手だとそれだけでは納得しない。彼女を想い、尽くそうとし、想われたがる。
それは人として当然の感情だと思うが、偲乃からすると面倒なことであった。

その点お見合いならば、相手はこちらに好意を持っていない。
最初から条件を提示しておけば――とても我侭で理不尽な条件だし――相当の物好き以外は呑まないはずだ。最悪、人工授精という手もあるのだし。

こういったあちらの思惑を、彪は瞬時に理解して、この人凄い正直だびっくりしたーと思いつつ、
「あ、はい。分かりました」
二つ返事で頷いた。彼も中々のイエスマンだった。
0508雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:45:10.66ID:AJiGjOQJ
「おはようございます…」
「おはよう」
下に降りると偲乃は既に仕込みを始めていた。

定食屋あいちゃんは、偲乃と彪の住居でもある。
一階はお店スペースで調理場兼台所とトイレが、二階が居住スペースで二人の部屋と風呂場とトイレが、それぞれ設置されていた。

偲乃の父親の亮太郎は、彪がここにやって来るまで偲乃と一緒に暮らしていたが、彼が越してからは近所に安い部屋を借りてそこから店に通っている。
部屋はまだあるのだから一緒に住めばいいとも思ったが、それを提案した途端、泣く子が更に大泣きしそうな目で睨みつけられたため、
それ以上言うことはしなかった。お義父さんは強い。

「今日は雪ね」
「うん。寒いね」
言いながら上着を着込んで外に出る。途端、身を切るような風が吹きつけてきた。
情けない悲鳴を上げながらドアを閉め、庭の方においてあるシャベルを持ってくる。
「こんなに雪が降るなんて珍しいなぁ…」
これも温暖化の影響か、と首を傾げつつ雪にシャベルを突き立てた。厚さは10cm程。
「さーむいー、さーむいー、さーむいーなーと」
即席の歌を口ずさみながら入り口周辺の雪を除けていく。
傍から見たら怪しいことこの上ない姿だが、こうやって馬鹿らしいことをしていないと、最近の彪は鬱っぽい気持ちに囚われるので仕方がない。


偲乃との夫婦生活は、大体があちらの思惑通りに進んでいた。

元々意思が弱く、ヘタレで、声を荒げる姿など想像もできないほど気の弱い彪である。
偲乃や亮太郎から言われたことを行い、必要に応じて邪魔にならない範囲のことをし、それ以外は自分の時間として大人しくしていた。

彪に割り当てられたのは、家事と、店が忙しい昼時と夕方はそちらの手伝いの二つだった。
どちらも決して楽な仕事ではないけれど、慣れればそこまで苦しいものでもなかった。
お客さんは、なんだかんだ偲乃と彪を祝福したし、亮太郎も彪を息子として可愛がった。

ただ、夫婦間の愛情という話になると、それはもう希薄なものだった。

誤解が無いよう述べておくと、偲乃は決して悪い人ではない。
人を不当に馬鹿にするような真似は決してしないし、料理やお客に対しての姿勢は生真面目そのものだ。
お見合いでの発言だって、今考えてみれば、相手が断ることを期待したものだったのだと分かる。
彪が即答した直後、とても焦った様子で何度も何度も確認してきたのだから。
今だって、あまりに情けない姿に呆れることはあっても、彪を軽んじることは一切無い。

しかし、相手に気を使うのと相手を愛することには、それこそ雲泥の差がある。
偲乃は、彪を嫌ってこそいないが、愛してはいなかった。少なくとも、彪の認識では。
どうして分かると問われれば、見ていれば分かると答えられる。彪に向ける表情は、言葉は、あくまでも親しい他者へのものだった。
恋しくて愛おしくてたまらない相手に向けるものでは、なかった。

それが悪いわけではない。そもそも、偲乃は、一番最初に宣言したのだ。
そして彪は、それを承知した上で今ここにいる。偲乃を責めるのはお門違いだ。
そう頭で分かっていても、この、ドロドロとまとわりついてくる暗い感情は払えなかった。
これだけじゃ足りないと、もっともっと、彼女の全部が欲しいと、彪の心は駄々をこねた。

強い意思に惹かれた。美しい姿勢に惹かれた。
黒曜石のような目に、艶やかな黒髪に、ほっそりとした傷だらけの手に、しなやかな身体に、きれいな心に、惹かれた。

あれだけ言われたにもかかわらず、彪は、偲乃のことが、好きで好きでしょうがなくなってしまったのだ。
0509雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:49:21.23ID:AJiGjOQJ
「…ゆーきーやこーんこ、あーられーやこーんこ、ふってもふってもまーだふーりやーまぬ」

またしてもどす黒い感情が心に広がって行って、彪は慌てて口を動かした。
訳もなく目の奥がじんわりと熱くなってくる。畜生めこれだから童謡は困るのだ。妙に物悲しくなってしまう。
「いーぬーはよーろこーびにーわかーけまーわり、」
「雪かきはそこまででいいから」
「ぅおわっ!?」
突然後ろから聞こえた声に跳び上がる。慌てて振り返ると、偲乃がどこか呆れたような笑みを浮かべていた。
「お疲れさま。朝ご飯できたわ」
「あ、うん。…っと、ありがとう」
「……どうしたの?」
ふと気遣わしげな声がかけられる。慌てて目元を拭い笑ってみせた。
「寒気にやられちゃっただけだよ。大丈夫。…ご飯食べたいな」
「…そうね」
偲乃は少しの間だけ探るような目を向けていたが、笑顔を保ったままでいると諦めたように溜め息をついた。
それでいい、と彪は思う。この感情のせいで偲乃から離れることには、なりたくないから。


雪もあって、その日、お客はほとんど来なかった。

「雪ですいてるかなと思って」なんて理由で来た篠原夫妻を除けば、飛び込みのお客が3人ほど。普段の賑わいからするとこんなことは珍しい。
……まぁあの二人に関しては、偲乃と話すためにわざと店がすいてる時を狙ってやって来ているので、普段通りと言えば普段通りなのだが。

そんなことを考えながら部屋の戸を開けると、偲乃がいた。
二つの枕がある一つの布団の上に腰をおろし、ゆったりした仕草でスケッチブックをめくっている。

「……ってちょっと待って!」
「ん? あ、おかえりなさい」
「え、うん、ただいま。…じゃなくて! 偲乃さんあの、それ、そのスケッチブックはっ…!」
「彪が描いたのよね? すごく上手」
「っ……!」
感心した様子で頷かれ、彪は言葉を失くした。
「……風呂行っただけなのにこんなことになるなんてっ……!」
「え、あれ、見たらいけなかった?」
「いや…あの…目の前は止めてほしいです…」
「そう、なの?」
不思議そうに言いつつスケッチブックを閉じる偲乃を見て、ようやく気が静まってくる。

何を隠そうあのスケッチブックは、彪が暇な時に色々なものを描きためているものなのだ。
さほど巧くもない、完全なる自己満足の捌け口を熱心に見られるなんて、恥ずかしすぎて埋まりたくなってくる。
「……きれいな絵なのに」
「…お願いだから…アレのことはこのくらいで…」
「ふぅん…そうだ、まえから聞きたかったんだけど」
「…え、な、なに?」
「そこの木工具ってあなたのよね」
「う、うん」
「彪って、大工仕事とかもできたりするの?」
「ええと…簡単な日曜大工の範囲内なら…」
質問の意図が掴めず頭の上に疑問符を飛ばす彪の一方で、偲乃は頷いたきり黙りこくってしまった。
0510雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:52:47.43ID:AJiGjOQJ
(えっこれどういうこと? ていうか偲乃さんがわざわざ俺の部屋来たってことは致すってことだよね? 今日休み前だし、そうだよね?
 あれでもいつもはこんな話しないような…来て脱いでやって終わりだよね…? え、あれ、どういうことだ?)

大混乱している彪の前で、偲乃は小さく溜め息をつくと自分の服に手をかけた。
「ちょっ、し、偲乃さんっ!?」
「なに?」
「いや何ってあの…ええと…あれ…?」
「……いつものことでしょう?」
つまり、いつもの通り今日もやりますよ、ということらしい。そこまで把握して、彪は慌てて立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待って灯り消すから」
「ん、ありがと」
「わぁ待って待って脱ぐのはやい!」
ムードの欠片もないが、大体いつも通りの光景である。
彪が灯りを消すのと偲乃が下着を脱ぎすてるのはほとんど同時だった。月明かりが彼女の身体をぼんやりと浮かび上がらせる。
ただでさえ白い肌が月の光に照らされて一層白く見えた。

「………………」
「……彪?」
「…あっ、ご、ごめっ、見惚れてた!」
急いで毛布を羽織らせると、偲乃は何故か形容しがたい表情で笑う。
「…あなたって…」
「うん?」
「……なんでもない」
「そ、そう?」
「そう。ほら、早くして」
「はいっ」
恐る恐る手を伸ばす。別に今日が初めてというわけではないが、それでも、彼女の身体に触れる時はいつもいつも緊張した。なんというか――
「…別に、そんな怖々としなくたって、私は壊れないわよ」
「…こ、心を読まないでほしいのですが」
「顔に出てるわ」
さらりと返される。

「………………」
返事が出来なかったので目の前のことに集中することにした。
白くて柔らかい身体。ふにふにした胸。薄いとか控えめとか形容できるけれども、彪はこれが好きだった。
小さくても十分柔らかいし。可愛らしいし。可愛らしいし。

「…っ…」
偲乃が小さく息を呑む。
行為の最中ほとんど声を漏らさない彼女だが、声以外の反応はとても素直だ。よく注意して見ていると面白いくらいに反応してくれる。例えば、
「……!」
乳輪をなぞると身をよじるとか、
「……っふ、……!」
ツンと立った乳首を優しく撫でると目をぎゅうっと閉じるとか。
0511雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:57:32.90ID:AJiGjOQJ
右手で乳房を愛撫しながら空いている方の胸を口に含む。小さく肩が跳ねた。
毛布がずり落ちないよう手で押さえながら口を動かす。乳首を舌先でつついてやると頭が抱えられた。
乳房を舐めたり、唇で食んだり、指先に力を込めるたびにぴくりぴくりと身体が震え、少しずつ汗ばんでいく。
以前よりは上達したとはいえ、まだまだ未熟であろう己の手で偲乃が感じている。その事実は、彪に大きな喜びを与えた。

「っ…あき、ら…」
「…う、うん」
小さいおねだりに従い下側に手を伸ばす。本音を言うともう少し味わっていたいところだが、そんなことは望まれていないだろう。
しっとりと汗ばんだ身体を布団に横たえる。そろそろと手を寄せると秘部は十分潤っていた。
念のため愛液をたっぷり指に絡ませてから中に沈ませる。瞬間、
「――っ!」
偲乃の身体が弓なりにしなった。
いつもより早い、などと感動しつつ、余計な刺激を加えないよう頭を撫でる。

偲乃は少しの間荒い息をついていたが、ある程度落ち着いたのか彪に手を伸ばす。
「……ね、きて」
「平気?」
「うん…大丈夫、だから」
いつもは冷静な瞳を熱で潤ませ、上気した頬でこんなことを言われてはたまらない。

ズボンを脇に放って華奢な身体に覆いかぶさる。すらりとした足を割り、熱い秘部に剛直を押し当てると小さい深呼吸が聞こえてきた。
「…ちから、ぬいてね」
「……ん」
もう一度頭を撫でてなるべくゆっくり差し込んでいく。
最低限濡れているとはいえ、ただでさえ小柄な偲乃の中は大分狭い。熱く濡れた膣壁に締めつけられて、気を抜いたらすぐにでも達してしまいそうな刺激を受ける。

「っ…ぁ…ん…!」
「…っ…しの、さ…だいじょ、ぶ…?」
「ぅ…ぁっ…んぅ…」
「動く、よ」
宣言してから腰を軽く前後させる。
ゆっくり、ゆっくりと自分に言い聞かせているが、必死に声を我慢している偲乃を見ていると、理性を捨てて滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られた。
それをどうにか堪え、なるべく優しく、緩やかに突き上げる。
「…っふ…ん…くぅっ、ぁ…」
「……かわいい」
「んんっ!」
ぎゅうと締めつけられる。

一瞬だけ咎めるような目が向けられるが、ぴんと立った乳首を弄るとすぐに顔を逸らした。両手で顔を隠し、自身の痴態を彪に見せまいと顔を背ける。
が、そんな努力もむなしく、偲乃の身体は淫らに動いて彪を喜ばせた。
身を引くと逃さないとばかりに絡みつき、突き入れるとぐちゃぐちゃにふやけて包みこんでくる。結合部は互いの愛液でびっしょりと濡れていた。

いつしか彪は気遣いを忘れ欲望のままに腰を打ちつけていた。
偲乃も、声こそ抑えているものの、がくがくと腰を震わせ、身をよじり、快楽を与えられる悦びに震えている。
「…ぁきらっ…も、ぁ…りゃ、めぇ…!」
「はっ…俺も、もすこし、だから…」
「ぅぅ、あ…も、だ…ひぁっ…ふ…ぅ…!」
「っ…偲乃さん…偲乃…!」
「ゃ、あ…ッ――!」
二つの身体が一際大きく震えた。何度も何度も吐き出される白濁液で、偲乃の身体を埋めていくのを感じる。
大きく息をつきながら、同じように息を吐いている偲乃の上に倒れ込む。互いの呼吸が重なるこの時だけは、感情のままに触れていたかった。
0512雪の日の夫婦2014/02/09(日) 11:01:03.63ID:AJiGjOQJ
「……ん……」
まだ夜明け前の暗い中で偲乃は目を覚ました。手で探り当てた時計を見ると短針は4と3の間を指している。
起きるにはまだ時間があることを確認して、暖かい腕の中に身をひそめる。ぐっすりと眠りこんでいるのだろう。彪はぴくりともしない。

「…中々うまくいかないわ…」
小さく溜め息を零す。
結婚して6カ月も経つのに、体を重ねた回数だって両手の指を軽々と越えるのに、偲乃と彪の心は遠いままだった。
その原因は間違いなく偲乃にあるのだけれども。


愛情を求めていないと言ったのは本音だった。
実際、彪と暮らすようになってからも、彼に媚びたり、必要以上に頼ることはしないよう自制していた。
とにかく気が弱くてヘタレで女々しくて情けない相手なんて、そも好みですらないのだから、まかり間違ってもほだされたりはしないだろうとも思っていた。

――それなのに、こうだ。どうやら心というものは、自分で思っていた以上にどうしようもないものらしい。

彪を好きになるはずがない。そう思っていたはずなのに、いつの間にか、気付いたら彪を探すようになっていた。
いつの間にか、あの気弱な目に見つめられることが、優しい声で名を呼ばれることが、筋張った手に怖々と触れられることが、嬉しくてたまらなくなっていた。
いつの間にか、困ったような笑顔の持ち主が、欠かせない存在になっていた。

なんて勝手な話だろう。我ながらそう思う。散々我侭を押し付けておいて、自分が言ったことを反語にするなんて。
けれど、このままでは嫌だった。もっと求めてほしいと思った。偲乃の意思なんて捩じ伏せて、彪の好きなようにしてほしいと願った。
我侭だと呆れられてもいい。勝手すぎると怒られたっていい。
ただ、嫌いにならないで、離れないでいてくれれば、どんなに酷いことをされても構わないとすら思った。

「……直接言ったら、どんな反応するのかしらね」
想像するだけで悶死するほど恥ずかしいから、言えたとしても相当先の話になるだろうけれど。偲乃は目を閉じ夢想する。

不器用で、頑固で、偏屈で人見知りの上に、あんなとんでもない条件を突き付けた自分を受け入れてくれたのだ。
きっと、優しく笑って受け入れてくれるのではないだろうか。
そう思う一方で、流石に拒まれるのではと不安にもなる。
今まで彪に拒まれたことは一度もないけれど、ないからこそ、拒まれた時の自分が想像できなくて、偲乃は自分に対する呆れの笑みを浮かべた。

けれど、このままの距離ではもう満足できない。
どうにかして、彪のことをもっと知って、偲乃のことを知ってもらって、互いが互いを理解できるようになりたいのだ。

できないことはない、と思う。そのためのヒントも、今日、こっそりと聞けたのだし。
『夫婦円満の秘訣? うーん…ちゃんと話すこと、かなぁ』
『そうだな。自分の気持ちを言葉にして相手に伝えることは大事だ』
尊敬する先輩方の言葉を思い出し、少しだけ考えて気合を一つ。

「……大好きよ、あきら」

いつか直接言えますようにと強く願い、穏やかに眠る彪にすり寄って目を閉じた。
05134342014/02/09(日) 11:04:19.69ID:AJiGjOQJ
ここまで!

夫婦なのに両片思いとか、いつも頭に花生えてるようなのしか書いてないからたまには切ないのをとか思ったんですが…
これじゃないと叫びたい。俺には頭悪い話しか書けないのがよくわかった畜生め

色々な意味でいつも以上にひどい話ですが、少しでも暇つぶしになれば幸いです
0514名無しさん@ピンキー2014/02/10(月) 12:00:32.40ID:Uj7WT2dx
>>513
GJGJ 変わらず本編で満足させた上に続きを期待させてくれる話です
素直になれた後を想像するだけでにやにやが止まりませんね
0515名無しさん@ピンキー2014/02/26(水) 10:44:35.90ID:6nK+ADOB
>>434
茜可愛いよ茜
相変わらずGJ!
結婚式編楽しみにしてます!

「雪の日の夫婦」
GJ!続き読みたいなぁ
両片思い、切ないけど何処か優しい
踏まえたうえでの気持ちと心、身体の交わる姿が見たいです!
05164342014/03/09(日) 21:22:22.82ID:e2DX1qMl
藍沢夫妻の続きができたので投下します

エロ遠い、エロ薄い、本番あってないようなもの、人によっては不快になる表現あり
等々好き勝手やっておりますので「夫婦の墓参り」をNGでお願いします
0517夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:26:25.89ID:e2DX1qMl
藍沢彪は慄いていた。
別に辛いことや悲しいことがあったわけではない。むしろその逆だ。最近、
「……彪、起きてる?」
「あ、うん。どうしたの?」
「ええ、と…寒くて」
「そ、そっか。…あの、アレだ、そのー…に、人間カイロとかどうでしょう」
「……お願い」
気が強くしっかりしていて甘える姿など見せなかった筈の大事なお嫁さんが、藍沢偲乃さんが、
なんでだかやたらと理由を付けてくっついてくるようになったのである。訳が分からない可愛い。

「……あたたかい」
「よ、よかった。寒いのは辛いもんね」
「うん」
ちなみに本日の最低気温は6度だ。日中はうららかな春のぽかぽか陽気だった。当然夜もそこまで冷え込まない。
「今日は、なにをしてたの?」
「昨日と同じだよ。家事やってから将棋の駒作り。もう少しで全部そろえられるかな」
「そう。…ごめんね、おじいさん達が面倒なこと頼んじゃって」
「平気平気。細かい作業は好きだし、頼みごとをしてもらえるのも嬉しいよ」
「ならいいけど。…完成したら見せてね」
「うん」
「一番にね?」
「うん、分かってます」
言いながら、抱きしめた状態のまま頭を撫でてみると、偲乃は満足げに目を細めた。
日向で寝転んでるかゴロゴロ言いながら爪を出し入れしてる猫みたいだ、と呆けた頭の端で思う。
それ以外の頭の中は「偲乃さん可愛い超かわいいなんなのコレなんなんだよこれ」という言葉で埋め尽くされていたが。


どうしてこうなったのか、正直なところ、彪にはまったくもって覚えが無い。
この感情を伝えたわけでもないし、彼女からの印象が変わるような劇的な言動をしたわけでもない。筈だ。
ただ、思い返してみれば、偲乃がこのようにくっついてくれるようになったのは、二度目の雪の日からだったような気がする。

(いやでもあの時だって別に何もしてないよなぁ。
「自宅周りの雪かきしながら"恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです"って言ってみろリア充どもーっ!」とか思いながら一日中雪かきしてただけだし。
 お客さんだって茜さん待ちの葵さんしか来なかったし。……そういえば、偲乃さんと葵さん、随分話しこんでたなぁ。何話してたんだろ。……もしや葵さんが何か言っ)
「ふぁっ?! ひ、ひのひゃ、にゃに?!」

正解に辿り着くよりも早く偲乃に両ほっぺを引っ張られ、彪は情けない悲鳴を上げた。
「今何か考えてたでしょ」
「か、考えてまひひゃけど!」
「私がいるのに」
「ひのひゃんのこと考えてひゃんだよ!?」
「…………」
「……し、偲乃さん?」
不意に頬が解放されて目を瞬いた彪の一方、偲乃は何かを堪えるようにぷるぷると震えている。
どうしたのだろうと顔を覗き込むと、驚くくらい真っ赤な仏頂面が目に入ってきた。どうしよう俺何かやっちゃったのかな。
0518夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:29:07.24ID:e2DX1qMl
「あの…偲乃さん…?」
「……もう寝る」
「う、うん…? て、あ、そうだ! 偲乃さんごめんちょっとお願いが!」
「……なによ、もう」
彪の胸に顔を埋めたままくぐもった声だけが返ってくる。眠いのだろう。
「ごめんね。でも、大事なこと思い出して」
「……なに」
「来週の日曜、休ませてもらってもいいかな。地元に帰りたくて」

 瞬間、空気が凍った、気がした。

「……ど、ゆう、こと?」
恐る恐るこちらを見た偲乃は何故だか表情を凍りつかせていた。あれその日用事入ってたっけ、と思い返しつつ、彪は呑気に言葉を続ける。
「いや、そのまんまの意味なんだけど…まずいかな?」
「…いや…まずいとか、じゃなくて…そりゃ、彪がそうしたいのなら私に止める権利なんて無いけど…」
「そうかな? いやでも、その日何か手伝うことがあるのならその次の週でも平気だよ?」
「次の週って…あの、あなたが忍耐強いのは知ってるけど、そこまで我慢しなくったっていいのよ?
 ていうか、わざわざ宣言するものでもないんだから…」
「え、宣言は必要じゃない? お店やってる日は無理だし、休みだって仕入れが入ることもあるんだからさ」
「お店って…まぁ確かに急にいなくなられちゃうと困るけど…でもそこまで律儀にならなくても…」
「いなくなる? 誰が?」
「……うん?」

どうも話が噛み合っていない。

「…待って、彪。来週の日曜、休みたいのよね? 地元に帰りたいから」
「うん。事前に言っておかないと、って思ったんだけど」
「…そう…よね。……その、帰ってきて、くれる?」
「えっ帰ってきちゃ駄目かな!?」
夜には帰ってこないと次の日辛いんだけど、と零すと、偲乃は少しだけ硬直して、次いで深々と息を吐いた。
「……馬鹿だわ、私」
「偲乃さんが馬鹿だったら俺は大馬鹿だよ!?」
「そっちの馬鹿じゃなくて。ていうかあなた馬鹿じゃないでしょ」
「…馬鹿だよー…体育と技術家庭科以外は全滅だよー…」
「だからそっちじゃなくて」
もう一度溜め息をついた偲乃は、どこか安堵した様子で彪にすり寄る。反射的に速まった鼓動を耳にした偲乃は頬を緩ませた。

「…まぁ、それなら、いいわ。ご家族に会うの? それともお友達?」
「いや、墓参り行こうと思って」
「……ご家族はご健勝よね?」
「うん。子どもの頃お世話になった小母さんの7回忌なんだ。
結婚してから行くのは初めてだし…あ、もしよかったら偲乃さんも行く? わりと遠いんだけど」
「行くわ」

即答であった。

その後は、少しばかり話をして、おやすみのちゅーとやらをしてから眠りに落ちた。これもここひと月程で築いた習慣である。


藍沢彪は慄いていた。
お嫁さんが積極的で、毎日が幸せすぎて、どんどん我慢が効かなくなっていて、慄いていた。
もしかしたら偲乃は、自分のことが好きなんじゃないかなんて、とんでもない勘違いをしてしまいそうで、怖くて怖くて仕方がなかった。
0519夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:31:28.75ID:e2DX1qMl
一週間はあっという間に過ぎていった。
朝起きて、昼間は懸命に働いて、夜、偲乃とのんびりした時間を過ごしてから一緒に眠る。
一日が過ぎるのが早くて、周りが猛スピードで進んでいるのに自分だけ止まっているような、そんな気分になった。
驚くほど幸せな筈なのに、何故か、置いていかれているような――そう、世界から置いていかれているような気がして、彪は酷く心細かった。

おかしなことを感じている自覚はある。
愛しい人が笑いかけてくれて、触れてくれて、触れさせてくれて、自分のことを知ろうとしてくれて、何が怖いんだと言いたくなる。
偲乃も自分を好いてくれたのだと、いっそ勘違いしてしまえば良いだろうにとも思う。
あの葵だって「恋はある種錯覚みたいなところがあるな」と言っていたのだから。

それでも、何故か、この状況を喜んで受け入れる気持ちにはなれなかった。
どうして偲乃がこうなったのか、自分は彼女に好いてもらえる人間なのか、分からないまま、ただずるずると流されるのはどうにも嫌だった。

「……うん」
完全に自己満足だけど。彪は思う。

きちんと偲乃に告白しよう。今までは、拒否されて、離れることになるのが嫌で考えないようにしていたけれど。
好きだと言って、受け入れてもらえたら万々歳。もし駄目だったら、これまでのお礼を言って潔く離れよう。
偲乃なら、彪がいなくなったって、すぐにもっと良い人を見つけられるから。
今までは、それを認めるのが嫌で、彼女の隣を他人に譲りたくなくて、夫というこの上なく強力な立場にしがみついただけだ。
そんなことはもう、止めにしなければ。傷付くのが怖くて逃げてばかりじゃ、彼女の隣にいることに負い目を感じてしまう。それは、すごく、辛いから。
0520夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:34:47.01ID:e2DX1qMl
「…偲乃さん、今平気かな」
「彪?」
というわけで、彪は初めて自分から偲乃の部屋を訪れた。
「珍しいわね、あなたが来るなんて」
「う、ん。あの、なんていうか…ええと、言わなきゃいけないことが、あって」
「……どうしたの?」
疑問9割怯え1割の光を目に宿した偲乃が対面に座る。
風呂上がり故か彼女の頬はうっすらと紅色に染まっていて、ああもうきれいだなぁと現実逃避をしたくなった。

「ええと、ですね」
「うん」
「あの、最近…じゃないや。えーと、わりとまえから、なんだけど」
「…うん」
「その…なんていうか…あの…」

しまった言葉が出てこない。

自分の語彙力の乏しさに泣きたくなった彪だが、偲乃はあくまでも真摯にこちらの話を聞いてくれている。
その、人にも仕事にもまっすぐな姿勢を最初に好きになったのだ、と思いだして、彪の口は自然と動いた。

「俺、偲乃さんのことが、好きです」
「うん、知ってるわ」
「…………はい?」

今なんと申されたか。

「えっ、ちょあの、待って。偲乃さんあの、知ってるって、え?」
「いやだから、彪が私のこと好きだってこと。それで、わざわざ宣言したってことはなにかあったのよね。どうしたの?」
「ま、待ってくださいちょっと待って。知ってるって、あの、えと、いつから?」
「確信したのは10月の半ば頃だけど…ってまさか、あなた、私が気付いてないとでも思ってたの?」

思ってました。

二の句が継げなくて黙り込んだ彪を見て、偲乃は思いっきり呆れ顔になった。
「あのねぇ…そりゃ、茜さんみたいに壊滅的に鈍感な人だったら気付かないでしょうよ。でも、生憎私は人の機微には敏感なほうなの。
 お客さんが本当においしいって思ってくれてるかなんて、言葉だけじゃ分からないんだから」
「……さすがです」
「どうも。で、あんたね、自分がすっごく分かりやすいってこと自覚したほうがいいわよ。
 まず第一に顔に出すぎ。目が合っただけで真っ赤になって嬉しそうな顔されたらすぐ気付くわ。
 あと、意図的にかどうか知らないけど言葉にも出てる。可愛いだのきれいだの凄いだの。確かに好きって言われたことはないけど、さすがに気付くわよ」
「……い、言ってましたか、俺」
「思いっきり言ってたわ」

うわー恥ずかしーはははー
(10月半ばって、それ俺が自覚するよりも早いじゃないっすか。なんつーか、もう、俺は駄目だははははー)
0521夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:09:46.00ID:e2DX1qMl
「……思いつめた顔して来るからなにかと思ったけど。もしかして、それを言いに来たの?」
「…うん…そうです…」
「私が気付いてないと仮定して。言って、どうしたかったの?」
「迷惑じゃないようなら今までどおり置いてもらって…迷惑だったら潔く実家に帰るかーと…」
「ふぅん。で、今はどうしたいの?」
「恥ずかしいので今すぐ逃げたいです…」
「却下」
即答だった。

「…だ、だめかな」
「駄目よ。絶対駄目。…大体、漸く言葉で言ってくれたのに、逃がすわけないでしょ」
偲乃の声は嬉しそうに弾んでいた。思わず顔を上げると、ほとんど同時にぎゅうっと抱きつかれる。
石鹸の優しい香りが鼻孔をくすぐって頭がくらくらした。

「……偲乃さん」
「そろそろ呼び捨てにしてほしいんだけど」
「え゛」
「同い年でしょ。誕生日だけなら私の方が遅いし」
「…し、偲乃さ…偲乃?」
「うん。聞いてる」
「……だいすきです」
「私もよ。……もっと早くに言ってたら良かったのにね。ごめん」
「偲乃が、謝ることは、ないと思うな」
「あるの。あんなこと言ったくせに好きだなんて、都合良すぎるって思ったのよ。でも、ちゃんと、言えばよかった」

震えた声に顔を覗き込むと、想定外に気弱な視線が返ってきた。
守りたいなぁ、とぼんやり思って、自分はそれを言うことが許されているのだと思いだす。胸の内が熱くなった。
「……偲乃?」
「なぁに?」
「あの…キス、してもいい、ですか」
「うん。…うれしい」
「……それ以上のことを、しても?」
おっかなびっくり求めた言葉は面白いくらいに震えていたが、偲乃は心底嬉しそうに微笑んだ。
「うん、して。たくさん、して」
0522夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:13:07.47ID:e2DX1qMl
熱に浮かされてるみたいだ、と彪は思った。頭の芯がぼんやりとぼやけて、なのに身体は燃えるように熱い。自分も、偲乃も。

「んっ…あきらぁ…そこばっか、ぅ…やだぁ…」
「…もうちょっと」
「も…っふぅ…ん…!」
偲乃の文句を先送りにして右胸にしゃぶりつく。甘い声が喉の奥で殺された。
もうかれこれ10分以上も上半身ばかりを弄っているのだから、いい加減焦れてきたという偲乃の気持ちも分かる。分かるのだが。
「…おちつく…」
「こっちはおちつかな、っひゃん!」
乳房をふにふにと唇で食んだり、乳首に優しく吸いついてみたりするのが想像以上に心地よくて止められないのだ。
それに、一々びくりと反応する偲乃を感じるのも楽しい。

「ぅ…もぉ…ばかぁ…!」
「どーせ俺は脳みそまで筋肉でできてますよー」
「そっちじゃっ…なぃぅんっ…やっ、あきら…そこ」
「ん、これ?」
うなじを指先でくすぐると偲乃は逃れるように身をよじった。どうもここが弱いらしい。
「ふぁっ!? あ、あきっ…ぅ…だめ、あきら、だめっ…」
「どうして?」
反射的に尋ねると、真っ赤な顔で涙に濡れた黒曜石の瞳が向けられる。
「…まだ、もらってない、のに…きちゃう、からぁ…」

理性という名のストッパーは吹き飛んだ。

「っや、まって、あきら…や…ぁっ――!」
弓なりにしなる身体を抱きしめる。口に含んだままのぴんと張り詰めた乳首を舌先でくすぐると、偲乃はいやいやと首を振った。
とはいえ、彼女の両手は縋るように彪を抱きしめているのだから、本当に嫌がっているわけではなさそうだけれど。

「まっ…ぁ、あきらっ、も…んぅ、んんっ、ゃだぁ…!」
「偲乃、ごめんね。もうちょっと我慢して」
「やぁっ…も、ほしぃのに…!」
「うん、ごめん。でも、偲乃、すごく可愛いんだ。もっと見たい」
そう言ってキスを落とすと、偲乃は泣きだしそうな顔で身体の力を抜いた。
ありがとう、と頭を撫でる刺激だけでも感じるのか、鼻にかかる声をもらす。

(おかしいなぁ…俺、Sじゃないはずなんだけど…すごいなかしたい。二つの意味で)
完全にいかれた思考の端で思いながら、今度は後ろから抱きかかえるようにして座らせる。
あぐらの間にすっぽりと納まった偲乃の、頬、耳たぶ、首筋にと唇を寄せて細いうなじに吸いついた。
「ぁっ、やぁぁっ! あき、ゃだ、そこやだぁ…!」
「分かってる。こっちもするから」
「ちがぅ、のっ…ぁ…ぁあ…」
どうやら声を押さえることも忘れてしまっているらしい。
愛らしい声を零す偲乃に口元を緩めながら、ちゅうちゅうとわざと音を立ててうなじを吸う。
時折なめたり、強く吸いついて赤い痕を残すたびに偲乃は大きく震え、両手で胸を転がすだけで背筋を逸らす。
自身に身を委ねきっている彼女が愛おしくて仕方なかった。
0523夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:16:24.32ID:e2DX1qMl
「…好きだよ」
「っや…ぁぅ…あきら…」
「うん、大好き。…ほんとに、俺は幸せ者だ」
「ぇ…ぁ…〜〜っ!?」
しみじみと呟くと偲乃の身体が大きく震えた。一瞬何が起こったのかついていけなくなる。
肩で息をする彼女が振り向いて、涙と色で潤み上気した表情を見せたところでようやく達したのだと理解した。

「…ほん、とに…?」
「えっ、えと、ごめんなにが?」
「ほんとに、しあわせって…思って、くれてる…?」
「思ってる! 思ってます! 俺以上の幸せ者はいないよ!」
脊髄反射で心の底から即答すると、偲乃は潤んだ表情のままふわりと微笑んだ。
力の入らない身体を引きずって、半ばもたれかかるようにして彪に縋りつく。

「…よかったぁ…」

耳元で、普段からは想像もつかないほど蕩けた声で、言われて。彪は自分の中の何かが致命的になってしまったことを、妙に冷静な思考で認識した。
「……偲乃」
「ん…なぁに、あきら」
「俺は、どうすればいいかな」
「…なにを?」
「どうすれば、この、偲乃が好きだー! って感情を、伝えられるかな」

この上ないほど真剣に言ったつもりなのに、きょとんとした偲乃は、次の瞬間たまらないというように噴き出した。
頭の上に疑問符を飛ばす彪の前で、くすくすとおかしそうに笑っている。
「……変なこと、言った?」
「ふふっ…ううん、ぜんぜん。でも、嬉しくて、笑っちゃったのよ」
納得はいかなかったが、楽しそうに目じりを下げる彼女を見ているとなんだかどうでもよくなってきた。一緒になって笑い声を零しながら偲乃を布団に押し倒す。

ズボンと下着を取り払うと秘部はしとどに濡れそぼっていて、またしても胸がいっぱいになった。
「…俺は、すごく幸せだよ」
「それ、こんな状況で言う台詞かしら」
「言いたくなったから言っちゃった」
「……私も、幸せよ」
「よかった」
どちらからともなく口付ける。互いの唇を夢中になって味わいながら、猛る剛直を秘裂に差し込む。

熱くぬめるひだは蕩けそうな喜悦を与えたが、彪はゆっくり労るように肉壁をこすった。
激しい快楽を得ることよりも、今は、互いの温度を感じていたかった。

「っは…あき、らぁ…」
「ん…好きだよ、偲乃」

偲乃は嬉しそうに笑っていた。彼女の目に映る自身も、この上ないほど能天気に笑っていた。

(ああ、しあわせ、だな)

深い喜びと思慕を携えて、二人はほぼ同時に天辺に達した。
0524夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:21:20.67ID:e2DX1qMl
「……本当に遠かったわね」
「そうなんだよ。もうちょっと来やすい所にお墓作ってくれたらよかったのにね」
次の日の昼すぎ。二人は彪の地元で一番高い山の頂付近にいた。

眼下の町のみならず遠い先まで見通せるその場所は、山の頂上にあるお寺に隣接する墓地だ。
計画通り墓参りを終えた二人は、椅子に座ってここまで登ってきた足を休ませていた。
天気は快晴。遠くの地平線には海も見える。空の蒼と海の藍が混ざり合ってまさに絶景だった。

「…でも…すごくいい眺め。冴子さん、この眺めが気に入ったからこの場所に決めたのかしら」
「どうだろう? "私が死んだら誰も来れないような場所で誰にも邪魔されず眠ってやる!"って豪語してたから」
「面白い人ね」
「そうなんだよ」

冴子――小田切冴子というのが、二人が弔った墓の主である。豪胆且つ口が悪く、性根は優しいのにそれを認めようとしない捻くれ者。享年93歳。大往生であった。

「…ほとんどの人に悪い人だって誤解されて、誤解を解く努力もしなくってさ。
 旦那さんもいないし、家族と縁も切れてたとかで…お葬式も、ほとんど人が来なくって。
 …あの時は悲しかったなぁ。人一人が亡くなったっていうのに、清々したなんて言う人もいたんだ」
「言っていいことと悪いことの分別が付かない愚か者ね」
「そうだね、今はそう思う。…けど、当時は高校生だってのに分からなくて、随分悩んだんだよ。教えてもらった遊びも手に着かなくなっちゃって。
 夏休み全部使って自転車旅行したこともあるんだよ」
「……初耳なんだけど」
「そうだっけ?」

穏やかな微笑に影はない。それを確認して偲乃は心の中で安堵の息をついた。
過去を引きずっているわけではなく、今と過去の区別を付けて、大切な思い出として語っている表情だ。

「言った気になってたなぁ。…なんか、なにをすればいいか分かんなくなってさ。どうにもこうにも混乱して、嫌になって"よし、走るか!"って」
「"よし、走るか!"って…すごい勢いね」
「あの時はわりと必死だったんだ。夏休みの前までバイトしてお金貯めて、夏休み全部の時間とバイト代をつぎ込んで、北海道一周旅行。
 …まぁ、ほとんど野宿だったし色々大変だったから、他人には絶対に勧めないけどね。て言うか止める」
「無事にここにいてくれてよかったわ。で、なにかふっきることはできたの?」
「ぜーんぜん!」

あまりにもあっさりと笑われて偲乃は少しだけ絶句した。呆然とした表情が可笑しかったのか、彪は無邪気な笑顔を見せる。
0525夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:23:33.89ID:e2DX1qMl
「北海道一周しても、なーんにも変わらなかった。俺は落ちこぼれのままだし、冴子おばさんも嫌われ者のまま。でも、そういうもんなんだって分かったよ。
 周りが変わるのを待ってるんじゃなくて、変わらない世界の中で、どうやって生きていくかなんだなって思った。それで、少し楽になった」
「……そう」
なんとなく頭を撫でるとくすぐったいと笑われた。
それでも振り払うことはしない彪が、たまらなく好きなのだと伝えたら、どんな顔をするだろう。

「…それに、周りは変わらなかったけど、俺は変わったと思う。
 旅行から帰ってから、お父さんに"これ以上勉強でやってくのは無理だから高校出たら働く"って言えたんだ。最初は反対されたけど、結局あっちが根負け」
「あなたが、あのお義父さんに? すごいわね」
「我ながらそう思う。…色々大変だったし、散々迷ったけどさ。これでよかったんだなぁって思えるよ。…偲乃たちにも会えたし」
唐突に名を出されて偲乃は少しだけうろたえた。優しい微笑を湛えていた彪は、そういえば、と笑みを深くする。

「冴子おばさんに"お前は絶対に結婚しろ"って言われたことがあるよ」
「冴子さんに? ええと…どうして?」
「"私は一人の方が良かったし、一人でいるのを後悔したことはない。けどお前はよわっちいから、いい人を見つけて結婚しろ"って」
「……優しい人ね」
「俺はそう思う。…生きてるうちは無理だったけど、こんな素敵なお嫁さんを紹介できて、よかった。ありがとう、偲乃」

不覚にも。不覚にもその一言は、偲乃の琴線に触れた。
熱くなる目頭を押さえて俯くと、彪は仰天した様子で偲乃の肩を抱く。暖かい手の温度が優しくてますます涙が溢れてきた。

「……あきら」
「なっ、なに!? どうした!? なにか持ってくる!?」
「…ううん、いらない。…なにも、いらないから…傍にいて」
「わ、分かった!」

ぎゅうっと力強く抱きしめられてどうしようもなく嬉しくなる。大きな背中に手を回すと腕に込められる力が強くなった。

愛しい人の肩越しに見上げた空は、どこまでも深く青く澄んでいた。
05264342014/03/09(日) 22:26:55.51ID:e2DX1qMl
ここまで!
途中エラーが起こって投稿に間が空いてしまい、申し訳ありませんでした

本当はシリアスからのラブラブになるつもりで、そのつもりで書き始めたのですが
…最初っからお花畑全開でどうしてこうなったマジで。マジで

いつも閲覧・コメントまで頂きありがとうございます。嬉しく思っています
少しでも暇つぶしになりましたら幸いです
05304342014/04/17(木) 21:16:31.22ID:jN4WETeV
保守代わりに小ネタ投下
エロなしな上誰が得するんだって話なので必要に応じて「小ネタ」をNGでお願いします
0531小ネタ2014/04/17(木) 21:20:17.71ID:jN4WETeV
「助かったよ、彪」
「いえいえ。こんなことで良かったらいつでも言ってください」
偲乃の祖父藍沢弘喜に彪は笑顔を返した。
ここは、定食屋"あいちゃん"から自転車で20分程の場所にある偲乃の祖父母の自宅である。

あいちゃんにも住む場所はあるのに何故こんな所にも家があるのか。それにはちょっとした理由がある。
あいちゃんは偲乃の曾祖母が始めた店だ。初代店主である曾祖母藍沢愛(あいざわまな)から、
2代目の祖父弘喜が後を継ぎ、3代目を父亮太郎が継ぎ、その後を継いだ偲乃は4代目になる。
店を始めた当初は利便性や金銭面等々の理由で自宅兼店舗の形にしたが、
幸いなことにあいちゃんは人気が出、跡継ぎも立派に成長したので改めて自宅を買い直したのだ。
自然に囲まれているこじんまりとした平屋の一軒家。老後を過ごすには最適だとか。

こんな理由で、彪はわりと近くに住んでいる義祖父母にも可愛がられているのだ。閑話休憩。

「…うん、きれいにできているね。彪に頼んで正解だった」
彪が渡した将棋の駒をしげしげと眺め、弘喜は満足げに頷いた。たこや切り傷が残る大きな掌には飛車と歩と角が乗っている。

以前ここを訪れた時に、困ったような笑顔の弘喜が頼んできたお願いが将棋の駒作りだ。
曰く、いつものように友人と打っていたところ、一つは猫にとられ、一つはまっぷたつに砕け、一つは焼け跡が付いてしまったらしい。
百歩譲って猫にとられたのは仕方がないとしても、後半二つは一体何をやったのかと問いただしたい衝動に駆られた。
新しい駒を買うのも考えたが、駄目にしてしまった三つの為だけに全ての駒をそろえるのは少々もったいない。
そこで、自覚はないが細工や絵画系が異様にうまい彪に声をかけたのだ。
彪も、将棋の駒ぐらいなら――勿論きちんとしたものを作るには素晴らしい職人芸が必要だ――なんとかなるかな
弘喜さんのお願いだし、と引き受け、きっちり完成させた次第である。

「そう言ってもらえると嬉しいです。他に、なにかできることはありますか?」
「いいや、平気だよ。どうもありがとう」
のほほんと笑われて彪の表情も緩んだ。弘喜の、どんな時でものんびりゆったりしている雰囲気が、彪は好きだった。
この穏やかさのおかげで、緊張しいな自分でもわりとすんなり藍沢家に馴染めたと思っている。
なにを隠そう、藍沢家で一番最初に親しくなったのも弘喜だったのだ。こんなこと天地が逆さまになっても偲乃には言えないが。
「そうだ。彪、昼ごはんはまだだろう?」
「へ? あ、はい。そうです」
「一人で来たということは、偲乃もいないんだね?」
「ええ。ご友人とお出かけで」
篠原茜から誘いを受けた時の「茜さんとお出かけしたいしお話もしたいけど彪と一緒にいれないのは寂しいどうしよう」
とでも言いたげな葛藤した様子を思い出しつつ、彪は答える。きのうのしのさんはすごかったです。
「なら、一緒に食べよう。お礼がてら作るから」
「え、いいんですか?」
「もちろんさ」
わぁい。
「…とはいっても、簡単なものしかないけれどね」
「嬉しいです!」
「じゃあ、作ろう。ちゃちゃっとやっちゃうから、洋子を呼んできてくれるかい」
「分かりました」

台所へ向かった弘喜を見送って、彪は裏庭へ回る。
0532小ネタ2014/04/17(木) 21:23:02.21ID:jN4WETeV
裏庭では、白髪混じりの長い髪を一つにまとめ、紺色の作務衣をびしっと着こなした女性が小さな畑の世話をしていた。
「洋子さん」
声をかけると、女性は未だ衰えを感じさせない鋭い視線を彪に返す。しゃんと伸びた背筋や汚れを落とす機敏なしぐさは年齢を感じさせない。
「彪か。…弘喜がご飯を?」
「はい」
「では、戻りましょう」
そう言って凛とした笑顔を見せたのが偲乃の祖母の藍沢洋子である。
女性としては高い身長にすらりと長い手足、おまけに冷たい印象を受けそうなほど整った顔立ちはさながら宝塚俳優のようだ。
性格も、今は大分丸くなったらしいが強気且つ勝気。男勝りな性格で、学生時代は男性よりも女性からの方がより人気だったとのこと。
偲乃と亮太郎曰く「「私(俺)の性格はおばあさん(おふくろ)から受け継いだ」」らしい。そうかもしれない、と彪は思う。
ちなみにこの言葉は「「だからおじいさん(親父)には弱い」」と続く。確かにそうだ、と彪は思う。

「そうだ。将棋の駒のこと、ありがとうございました」
「いえいえ。あのくらいならいくらでも」
「あのくらいとは言うけれど、大変だったでしょう? なにかお礼をさせてください」
「弘喜さんのご飯が食べられますから」
「……それはお礼になるでしょうが」
困った様子の洋子を見て、彪は自然と笑顔になった。

居間に戻ると、机の上には既に美味しそうな料理が湯気を立てて並んでいた。
彪が洋子を迎えに行ってから戻ってくるまで10分もかかっていない筈なのだが、いつも通りのことなのでもう慣れてしまった。
「おかえり、二人とも。さあ、食べよう」
「ありがとうございます!」
「いつもありがとう」
各々席に座り、いただきますと合掌して早速箸を手に取る。
本日のメニューは、白米と玄米が混ざったホカホカご飯、鰹節の出汁が効いた筍の煮物、鰆の塩焼き、付け合わせに春キャベツとカブの甘辛炒め、
ジャガイモと玉ねぎと油揚げが入ったお味噌汁だ。全然簡単じゃないとか、あの短時間でどうしてこれだけのものができるのだとか、
突っ込みたいところは山ほどあるが、いつものことなので何も言わずに美味しく頂く。
「お味噌汁は今朝作ったもので筍は昨日沢山作っただけだから、そんなに手はかかっていないんだよ」
「心を読まないでください弘喜さん!」
「顔に出てたからねぇ」
「そんなに分かりやすいですか俺」
「…あなたの、素直で正直なところは美徳ですよ」
「……フォローありがとうございます」

何も言えなくなったので大人しくお味噌汁を口に含んだ。白味噌の柔らかい甘さと丁寧にとられた出汁が胃を優しく解していった。
「「……おいしい」」
煮物を食べた洋子と彪の声が被る。思わず顔を見合わせた二人を見て、弘喜は笑みを深くした。
「二人とも、喜んでくれるから作り甲斐があるよ。
 感想は強要するものではないし察することもできるけれど、言葉にしてもらえると、やっぱり嬉しいね」
にこにこ笑う弘喜を見て、洋子は恥ずかしさを誤魔化すように鰆を食べる。
しかし、どこか憮然としていた表情も、絶妙な塩具合の鰆を食べる頃には大分緩んでいて、それを見た弘喜はにこにこにこにこと笑っていた。
(お義父さんが同居をしない気持ち、ちょっとだけ分かるかもしれないなぁ)
いつだったか、あの二人は幼い頃からあんな具合なんだと遠い目をしていた亮太郎に思い馳せつつ、彪は筍を口に入れる。
一から調理するのは難しいと聞くが、流石と言うべきか、程良く柔らかくも噛み応えがある筍には出汁がよく染み込んでいて非常においしい。
こんな料理を無料で食べれるなんて得だ、と笑った彪は、ふとあることを思い出す。
0533小ネタ2014/04/17(木) 21:24:12.18ID:jN4WETeV
「…そういえば、外でご飯食べるの久しぶりだ」
「そうなんですか?」
独り言は存外大きく響いた。
「あ、はい。いつも、偲乃さんが作ってくれるので」
「ああ。……そういわれてみると、私も最近外食をしていませんね」
「やっぱり、弘喜さんが?」
「はい、毎回。妻としてのプライドは大分昔に捨て去りました」
「あはは、なるほど」
料理ができないわけではないんですよ、と弁解する洋子に彪は同意する。
勿論作れと言われれば作るが、偲乃の方がはるかに上手だし、彪が申し出る前になんでもない顔で美味しいご飯が並べられているのだ。
作る機会が減っても仕方ないだろう。

「たまには変わろうかと言ってみても、平気平気の一点張りで」
「うん。それはそうだよ」
ため息交じりの洋子の言葉に、弘喜は柔らかく微笑んだ。
「せっかく料理が得意なんだからさ。大事な人のご飯を自分が作りたいと思うのは、自然な感情だろう」
「そうかもし……」
あまりにもあっさりと、さらりと言われて普通に同意しかけた洋子だったが、時間差で効いてきたようで言葉を止めた。
じわりじわりと頬を染め、丁寧に箸を置き、大きな溜め息をついて頭を抱える。
「…せめて人前では止めてくれと何度言ったら分かるんだ…!」
「事実だからねぇ」
「年齢を考えろ年齢を…!」
「事実だからねぇ」
真っ赤になったまま文句を言う洋子と、のほほんと笑いながら文句を受け流す弘喜を見て、彪は思う。
(お義父さんが同居できない気持ち、分かるなぁ)

塩が効いているはずの鰆は、何故かとても甘かった。


その日の夜、偲乃のご飯を食べながら弘喜の言葉を思い出して、目の前のどこか満足げな偲乃を見た彪は時間差で悶える羽目になるのだが、それはまた別の話。
05344342014/04/17(木) 21:26:23.26ID:jN4WETeV
以上!

いやほんと誰が得するんだって話ですが個人的に老夫婦がとても好きで
その思いが暴走した結果こんなことになってしまってそのすみませんでした
0535名無しさん@ピンキー2014/04/18(金) 09:24:59.00ID:HdhJlalg
GJ!
年をとってもラブラブでいたいものです
見習わねば!
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況