あれから半年が過ぎた……。
私の運が良かったのは、入れ替わった肉体には性的快感によって馴染むといち早く気付いた事だった。
なんとか襲い来るオスの欲求に耐えて、雌豚を避け続けたおかげで、未だ私は私を保っていた。
一緒に入れ替えられた同期のサキやミナは、早くに雌豚を犯し、今やどこからどう見ても、好色な雄豚だ。
平然と餌を貪り、泥に寝転がり、呼びかけようともその返事に知性は感じられない。人間らしい心が残っているかは怪しい。
もっとも、脱走することも叶わず、家畜として過ごすほかない私も、実質的にはただの雄豚でしかない。
餌をもらい排泄し、たまの運動を行う。ただそれだけの繰り返しは、複雑な思考を難しくする……。
どうにかしなければ、性的絶頂を覚えずとも、いずれ心まで豚になってしまう。そんな予感に、私は焦りを募らせていた。
私たちと入れ替わった家畜たちは、あれ以来姿を現さない。
恐らくは社員に成りすまし折を見て周囲の人間を連れてきては入れ替えているのだろう。
運動の際、人間らしい挙動をする豚を見かけるのが多くなった気がするし、なにより私たちがそうやって入れ替えられたのだから。
もしかすると、私の親しい人たちも既に入れ替えられてしまったかも知れない……。
けれど、やはりまず、牧場から脱出できなければ話にならない。家族はどうしているだろう。
まだ妹のミサキが気がかりだ。水泳部で全国大会を目指していたけれど、家畜にされてしまえばその夢も叶わない。
いや、それ以上に気がかりなのは私自身の体だ。なにせ中身があの雄豚だ。
率先して私の体を弄んだ好色なアイツが、何もしていないはずがない。見知らぬ男に汚されているのではと考えるだけでやりきれない。
しかし、そんな心配も、結局は脱出方法が思いつかない以上、確かめることさえ叶わず、雄豚の体に染まらないよう耐えるだけの、
雄豚としての毎日が無情にすぎていくばかりだった。

そんなある日、私は畜舎とは別の場所へ運ばれた。
トラックから十何匹かの元人間の豚たちと一緒に降ろされたのは、マットのような素材が敷かれた、ジムのような部屋。
部屋の半ばが檻で仕切られていることを除けば、薄暗い畜舎とは違う、久しぶりの『人間』のための部屋だ。
これからなにが起こるのだろうと、私の周囲の元人間たちもそわそわとしている。
そう言えば、これだけ豚の体が揃っているのに、畜舎のように騒がしくない。
つまり、ここの豚たちは、まだ、理性を失っていない人間たちばかりなのかもしれない。
その意味を考えようとしたところで、不意に檻の向こう側の扉が開いた。

「お、いるいる。おーいお姉ちゃーん♪」

現れた人間を見て、驚いた。
妹のミサキが元気よく手を振りながら、こちらに駆け寄ってきたのだ。
部活か、ジム帰りだろうか。
ジャージ姿のミサキは、若干湿った髪を弾ませて、檻越しに私の前まで来てしゃがみこんだ。
半年ぶりに見る妹は、以前と違いポニーテールにしているのもあってか、なんだか妙に大人びて見える。
高校に入って遅い成長期を迎えたのか、手足は以前より伸びて、
胸がジャージを押し上げるのがはっきりと解る。

(ミ、ミサキ!?私がわかるの!?それ、それより変なことは起こってない!!?)

半年ぶりの再開に、思わず声を上げるが、

「ブキィ!?ブキュ!?ブキッブヒィー!!」

当然、出てくるのは豚の鳴き声だ。その事実に悲しくなるが、妹は腿の上で頬杖をついてなおも面白そうな顔をしてこちらを見ている。
ほんの少し開いた脚の奥に、ジャージの股間が見える。その奥には何もない女性器があるのだろう。