この世界の俺のスマホのメールの受信箱にあるのは、平成の俺が知らない不可思議なメールばかりだった。
【食料供給センター・抽選結果のおしらせ】
【高坂桐乃・入所完了のおしらせ】
【高坂桐乃・出荷予定日のおしらせ】
これらのメールが立て続けに届き、あっという間に桐乃が入所という名の強制収容されたことがわかる。
入所が何を意味するかはネットを検索すればすぐに出てくる。
この辺りに住む<入所者>が収容される場所は、首都圏食料供給センター・通称、東京人間牧場だという。
ネットで調べればすぐに<人間牧場>の場所はわかった。この家から電車で数駅のところにある。
俺は取るものも取りあえず、その<東京人間牧場>へと向かった。

『次は配給センター前、配給センター前。お出口は……』
車内放送が聞きなれない駅名を連呼している。それが俺に疎外感や不安感を募らせる。
本当に俺は世界でひとりぼっちなのか?そんな寂寥感に震える俺に、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あ、きょーちゃん?どうしたのこんなところで」
俺のあだ名を呼ぶ、このホンワカしたゆるい声は……
「麻奈実?お前なのか?」
振り返った先に居たのは、俺の幼なじみの田村麻奈実だった。
「あれ?きょーちゃんだよね?なんか雰囲気変わった?」
そう言う麻奈実も俺の知る幼なじみの麻奈実とは違う点があった。
トレードマークの眼鏡は同じで地味なの感じもそっくりだが、平世の麻奈実は長く伸びた髪は肩にかかっている。
平成・麻奈実のショートカットよりも、平世の麻奈実は大人っぽい雰囲気を感じる。
この世界の麻奈実も、癒し系といえば癒し系なのだが、俺はなにか平世・麻奈実に違和感を覚えた。

「きょーちゃん。もしかして桐乃ちゃんの入札に来たの?」
「入札?俺が?」
「違うの?それとも、あやせちゃんの方なの?」
「あやせ……あやせだって!?麻奈実、ちょっと教えてくれ」
その後、麻奈実に詳しい話を聞いた俺は、ますますこの世界がわからなくなった。
桐乃が抽選で選ばれたのと同時に、桐乃のクラスメイトであり、親友でもある新垣あやせも選ばれていたらしい。

「あんまり知り合いが同時に当たることはないんだけどねー」
麻奈実によると、まれにそう言うこともあるという。また、行政の決定に異議を唱えることは困難だとも言う。
偶然?いや、そんなに高確率で俺の知人や家族が当たるものなのか?
それも二人とも将来のある女子中学生だというのに。
「このセンターってあんまり良い話を聞かないの……もしかしたら」
そこまで言って黙り込む麻奈実。この世界の闇を俺は覗き込もうとしているのだろうか?
「あ、もうすぐ入札の時間だよ。見学か入札なら急いだほうが良いよ」
麻奈実に手を引っ張られるようにして、俺は競り場へと連れてこられた。
ガラスで仕切られた競売ステージと、それを囲むように入札者用のシートが配置された<競り場>は、まるで家畜の競り市場のようだった。
そして、いま俺の手元には入札希望者に貸し出されるタブレット端末がある。

「あ、間に合ったみたい。次があやせちゃんだよ?」
だが、そこで俺が目にしたのは、新垣あやせの変わり果てた姿だった。
『入札番号6番。新垣あやせ14歳、牝』
競り場の館内放送と同時に、ステージに連れてこられた少女――新垣あやせは、もはや人間の扱いを受けていなかった。
全裸に剥かれ、首輪をつながれた少女は、四つん這いでステージ上を歩かされている。
いや、あやせの手足は膝、肘から先が完全に欠落していた。
『四肢は切断ずみで、すでに食用加工されております。オーナー権を獲得した落札者には、切断ずみ四肢肉も付属いたします』
館内放送が事務的な声で、今のあやせの状態を告げている。
肘や膝から先の四肢は真空パック済みのものがステージ横のガラス棚に冷蔵陳列されているのも見える。