立場だけの交換・変化 8交換目
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001名無しさん@ピンキー2014/09/22(月) 20:24:41.39ID:w2/LlOp+
いわゆる人格が入れ替わる「入れ替え」や性別が変化するTSではなく、
「肉体や人格はそのまま、突然別の立場に変化する」系統の小説や雑談などをするスレです

たとえば成人会社員と女子小学生の立場が交換されたり、
AV女優と女子高生の立場が交換されたり、
ペットと飼い主の立場が交換されたりと、
周囲は立場の交換に気づいていたりいなかったり
交換や変化の内容はさまざまです

前スレ
http://pele.bbspink.com/eroparo/kako/1387/13872/1387280916.html
0002名無しさん@ピンキー2014/09/22(月) 20:25:49.48ID:w2/LlOp+
落ちてしまっていたので立てました
0003名無しさん@ピンキー2014/09/23(火) 18:29:57.07ID:/Ed4iQl6
男の子と女の子
父と娘
男子校生と女子高生
医者と看護婦
先生と生徒
……いままで色々な立場交換があったけど、
「これはスゴいっ!」「一本とられたな」とうならされる
新たなアイデアないかな。
あ、自分的には「メイドとお客様」というのを思いついた。
1)現代日本のメイド喫茶で働く女性と、
 その店に訪れたフリーターなヲタクの立場交換
2)ファンタジーなり昔のヨーロッパなりが舞台で、
 家業で代々とある貴族の屋敷に仕えているメイドと、
 その家の息子の友人で屋敷に遊びに来た男性との立場交換。

1だと、ヲタクが迂闊なこと(こんな店で愛嬌ふりまいてるだけで
金になるとか)言って、怒ったメイドに立場交換させられるとか。
2だと、「息子の友人」が10歳くらいの良い子で、同い年位の
メイド娘が遊べず働き詰めなのに同情して……とか、
逆に20歳前後で、メイドにセクハラして逆襲されて立場を
入れ換えられる……とかかな。
いっそ、13、4歳くらいの初心な少年が、20代半ばの女盛りの
メイドのおねーさんに童貞食われ、気持ち良さのあまり失神して、
目が覚めたらそのメイドに立場を「盗られ」て、自分がメイドの
立場を押しつけられる……とか
(当主の夜のお相手もさせられるのはお約束)
0004名無しさん@ピンキー2014/09/23(火) 20:36:09.15ID:w1MbHhg/
過疎気味のときはネタを出し合って語り合うのも必要だよね

立場交換状態での授乳って今までなかったと思う
母親体験学習という名目で男子生徒と地域のママさんを交換
赤ん坊は男子生徒の母親と交換
0005名無しさん@ピンキー2014/09/24(水) 16:06:25.77ID:2/a8HnIX
プロフィールちょっと違うだけでやること一緒なら真新しさはなさそう
中年以降、成年、未成年、幼年と男女で大雑把に見た目カテゴリ分けしたら今までにあった組み合わせになるし(未成年を10代前半後半で分けても多分一緒)
今までにないシチュエーションなりイベントなりか集団交換で考えられる組み合わせの総数累乗するとかぐらいかね
000632014/09/25(木) 03:07:30.04ID:1ee++nvu
>プロフィールちょっと違うだけでやること一緒なら真新しさはなさそう
それは確かに。斬新なネタって難しいね。
着替え、トイレ、風呂は鉄板として……>4の授乳ネタはこのスレでは未出かな。
赤ちゃんプレイ(いや、立場変化だけど)はつい先日あったっけか。
あ、真っ当なデート風景って、意外に希少かも。いや、初期に結構あったか。
非現実系だと、淫魔や吸血姫(の立場)にされる男の子ネタはすでに出てるから、
逆に野蛮なオークとか下種なゴブリンの立場にされる女の子ネタならワンチャン?
0008名無しさん@ピンキー2014/09/26(金) 01:59:56.13ID:nUMYGrJU
同級生JKのパパorママと立場交換してJKと同棲からのエロス的展開
0009名無しさん@ピンキー2014/09/27(土) 00:13:51.51ID:aRn+b432
人種間の立場交換はどうでっしゃろ
アフリカの奥地のタチバ族の村に迷い込んだ一家が謎の儀式で村人と立場を入れ替えられてしまう的な
正反対の立場の相手になっていくつかの試練(主にエッチな事)を乗り越える事で元に戻れ、村に受け入れられる事で空港に戻る協力を得られる
0010名無しさん@ピンキー2014/09/29(月) 22:56:57.41ID:4eNmaqHb
重複がどうこうとか新しいアイデアとかどうでもいいから、作品が投下されればそれでいい

書き手が違えば入れ替わりの題材が被っても味わいが変わるしな
0011名無しさん@ピンキー2014/09/29(月) 23:40:33.14ID:gGlzEnSu
過疎りまくりかつ作品投下する奴がいないんじゃなぁ
話題つなげるか新しい話題振るかしてくれないとスレが暖まらないよ
>>10からつなげて今度は重複しがち=よくあるお馴染みなシチュでも語る?
0012名無しさん@ピンキー2014/09/30(火) 23:35:11.90ID:wdhAunS1
スレが暖まるとかよりもスレを維持しとくのが当面大事なのでは
本来悪いことじゃないんだけど住人が少ないせいか皆下げすぎなんだよ

あと、話題をお馴染みだの新鮮味だの無理に限定せずに
好きなシチュについて語り合うくらいでいいのでは?
0013名無しさん@ピンキー2014/10/03(金) 18:00:54.62ID:KIbE9izU
俺は男女の入れ替わりが好きだなあ

心も体も男なのに、女の子としての生活を強制されるシチュが最高
0014名無しさん@ピンキー2014/10/05(日) 21:26:15.90ID:cdmsQ/Pi
性知識の全く無い娘が黒ギャルJKと入れ替わって無意識に淫語連発したり乱交始めたりするのとか好きだな
元に戻ってもギャルJKの性知識だけは残ってて悶々とするシチュなんかあるとさらにいい
0015名無しさん@ピンキー2014/10/05(日) 22:16:26.77ID:v9myuepq
立場を入れ替えたらいつの間にか性別も入れ替わってたって話が好きな人がいるけど、それってもう立場交換レベルじゃないのでは。
0016名無しさん@ピンキー2014/10/05(日) 22:34:17.26ID:psAbSAdU
隣接ジャンルもある程度含めて行かないと基本過疎って没るだけなので
まあ広く拾っていこうということではないかな
0017名無しさん@ピンキー2014/10/05(日) 23:22:18.26ID:SPN00TQ7
このスレ自体の需要がほぼない現状で迎合してまで保持するのは本当に必要か?
0018名無しさん@ピンキー2014/10/06(月) 00:15:21.41ID:3VZpeRHN
ないのは需要じゃなくて供給だと思うが

その辺は次スレが落ちた場合に考えるといい
0019名無しさん@ピンキー2014/10/06(月) 01:20:02.78ID:XuYbJkHd
>>15
精神汚染から始まって徐々に…って感じなら好き
でも立場交換自体記憶、精神、癖とどこまで入れ替わるのを許容できるか好き嫌い分かれそうね
0020名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 03:57:54.26ID:eE1vaPVQ
まあ一般的に「立場」というと、
性別、年齢、職業が代表的なものだからな
>>1のテンプレは記憶違いでなければ1スしから変わってないし、今までの流れでいいんじゃないの
0021名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 08:14:28.81ID:PpiNXJUA
>>18
多分間違えての事だろうが次スレが落ちた場合と言うのは気が長すぎだぞ
もしこのスレが落ちた時に考えると言うのでも同じだ
今在る話の流れで問題を提議しているのに後で考えるはないだろう
0022名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 09:53:03.27ID:h30wc+jc
半年以上書き込みのないスレでも落ちない板でなんの心配をしてるのかがわからない
前スレが落ちたのは容量オーバーの圧縮判定にかかったからだろ
300程度でそこまでの容量になるくらい作品の投下があったってことなのに過疎っていうのはどうよ
0023名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 16:58:02.95ID:M84RQKzn
むしろ問題はほぼ作品投下と感想だけしか無かったってことだと思うんだ
投下がないとこんな状態になるのが問題
0024名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 22:04:10.33ID:RoixOsSP
気が付いたら、裸でファミレスのドリンクコーナーに立っていた。
慌てて前を隠そうとしたが、その時幼女が俺のブツの真下にコップを用意し、俺の乳首をさっと抑えた。
奥から抑えられない尿意、すると、幼女の目の前で放尿を始めてしまった。
幼女はワクワクしながら俺の尿がコップに注がれるのを見ている。恥ずかしいが、前も抑えられないし、尿も止まらない。
幼女が俺の乳首から手を放すと、放尿は止まった。幼女は嬉しそうに黄金色のコップを持って席へと戻っていった。
身体の異変に戸惑うが、幼女の後ろに並んでいたOLが今度は別の乳首を抑えた。途端ブツはギンギンに直立、コップから外
れないように方位を調整、思いっきり出した。
「え〜これって原液でるんだ〜おもしろ〜い」
「人数分もってくから待ってて。」
女子大生は感心しながら、コップを17個用意し始めたのだった。
0025名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 22:05:07.45ID:RoixOsSP
思いつきで投下。もしかしたら今後膨らませてpixivにでも載せるかもしれません。
その時は、またこちらにも投稿します。
0026名無しさん@ピンキー2014/10/07(火) 23:37:40.22ID:M84RQKzn
物との立場交換は今まであんまりなかったよね
もしかしてこれが初?
0028名無しさん@ピンキー2014/10/08(水) 11:57:33.81ID:+nGNW7xx
交換じゃなくて変化っぽいな
いずれにせよGJ
0031名無しさん@ピンキー2014/10/13(月) 16:17:22.88ID:aK4ACe+/
#とある古いドラマを見て、ふと思いついたネタ。

『降嫁』

 宮古(みやこ)の野菜売りの子として生まれた少年・フウタは、数えで十二の歳に両親を流行り病で亡くすが、幸運なことに両親が御用商人として出入りしていた久家(くげ)の屋敷に下働きとして雇ってもらうことができた。
 下々の生まれではあるが、利発で可愛らしい顔立ちのフウタは、同じ召使い仲間はもちろん、ふたりの娘が既に嫁ぎ子供のいない屋敷の主らにも可愛がられ、暇な時には、文字の読み書きや手習いなども教えてもらうほどの厚遇を受けることになる。
 両親を亡くした心の傷は未だ完全には癒えてはいないが、フウタも自分が同様の境遇の子らに比べて信じられない程恵まれていることは理解していたし、主にその御恩を返すべく、懸命に働き学び、それなりに満ち足りた毎日を送っていた。
 そのまま何事もなく成長した暁には、フウタはこの家の馬飼童(うまやばん)、あるいは主の引きたてで雑色(めしつかい)にまでなれたかもしれない。そうなれば庶人としては、かなりの出世と言えただろう。
 しかし、時は後に言う幕末の混乱期であり、千年の歴史を持つ香(キョウ)の宮古も歴史の流れから無縁ではいられなかった。
0032名無しさん@ピンキー2014/10/13(月) 16:18:10.17ID:aK4ACe+/
 さて、久家──貴族としては、中の下くらいの位階を持つ橋元実明だが、彼が宮中でそれなりに重きを置かれている理由は、彼の妻が時の御帝(みかど)の三番目の娘である数宮 楓子(かぞえのみや ふうこ)殿下の乳母であったことが主な要因である。
 数宮は、一昨年の裳着を経て成人した今も乳母である藤乃を頼りにし、何かあると彼女及びその夫である実明へと相談するのが常だった。
 しかし、その日、数宮から届いた相談事の手紙には、実直な藤乃も老獪な実明も、すぐには対処方法を見出せなかった。
 「将軍家に降嫁……数宮様がですか?」
 「ああ、すでに関白様にまで話が通っておる以上、今更どうにもならぬ」
 「そんな! ただでさえ、函根の関の向こうは鬼の棲む土地と言われておりますのに、最近は栄都(えど)の街は何かと物騒だと聞いております。そのような野蛮なところへ宮様が嫁がれるなんて……」
 幕府の宮古所司代の役人と折衝・供応する役目を任されている関係で、実明・藤乃夫妻は久家にしては武家への理解はあるほうだが、いくら制異大将軍相手とはいえ、やんごとなき方の実の娘が嫁ぐというのは、やはり抵抗感がある。
 それを抜きにしても、乳母夫婦として幼い頃から面倒を見てきた数宮が、この話を心底嫌がっているとあっては、好意的になれるはずもなかった。
 そして、久家のあいだでは、潜在的に数宮に同情する向きが大半でもあった。
 「貴方、なんとか御帝と幕府の両方の面子を保ちつつ、数宮様が下向せずに済む方法はないのでしょうか?」
 「簡単にあれば苦労はせぬわ」
0033名無しさん@ピンキー2014/10/13(月) 16:20:48.33ID:aK4ACe+/
 ふたりは額を寄せ合って夜遅くまで相談した結果──ついにひとつの抜け道、それもイカサマと言ってもよい手段に思い至る。
 「やむをえぬ。我が家に伝わるあの秘宝を使おう」
 「!! 貴方、まさか……」
 「ああ、「夢交わしの枕」だ」
 「夢交わしの枕」とは、橋元家の蔵の奥深くにしまわれた紅白一対の箱枕のことだ。
 この枕を使って同時に眠りについたふたりは、目が覚めると名前や立場が入れ替わる──正確には「周囲には甲が乙に、乙が甲に見える」ようになるのだ。
 「相方はどうします? あまり宮様と背格好や歳回りが違う相手だとさすがに不審に思われるでしょう」
 そう、あくまで「甲を見た人が、甲のことを乙だと思い込む」だけで、背の高さや年齢などの見た目自体は、そのまま認識される。衣裳などの関係もあるので、最低限体格などは近しいものが望ましい。
 「……我が家のフウタを使おう。宮様は十五、あやつは十三だが、背格好はほどんど変わらぬ。フウタも我が家に恩がある故、厳命すれば従うであろう」
 非情な決断を下す実明。
 こうして、本人の預かり知らぬところで、少年の未来は何人たりとも予想だにしなかったであろう方向へと進むことになるのだった。


#1レス目、sage忘れすみませぬ。
#そして、斉藤由貴版の和宮様御留を見て、妄想してみた。続きが書けるかは未定。
0035名無しさん@ピンキー2014/10/15(水) 07:29:44.43ID:6ff76Lvg
おお、新作とは!
続き待っております
003632014/10/20(月) 00:00:10.30ID:EKaEO+8L
ふと、TSの多人数間人格交換同様、多人数玉突き的立場交換というのもアリだと思った。
今考えてるのは、幼馴染3人の玉突きで、
 ・A(男・高1・平均的な家庭)→B
 ・B(女・高1・お嬢様)→C
 ・C(女・中3・男勝り)→A
というもの。窮屈な家から離れられたB、念願の男の子ライフを手に入れたCは
喜ぶが、Aが割をくうというもの。
ただ、TS的なソレとの差別化ができるかが、ちょっと……
0037名無しさん@ピンキー2014/10/20(月) 12:47:23.35ID:9nFpU/zU
お嬢様なら習い事で調整できないかな
例えば社交ダンスとか、男女で役割や立ち振舞いが違う事を強要するのはこっちの得意分野じゃね?
新体操とか水泳とかで肉体の変化を意識させる流れにするならTSの方がエロい
0038名無しさん@ピンキー2014/10/21(火) 22:32:41.14ID:UA5stAc1
TSと差別化したいならそれこそ本当に立場だけ交換して体はそのままにする以外にないんじゃないかな。
0039名無しさん@ピンキー2014/10/22(水) 01:38:17.41ID:+S5kennS
いやここ前からそういうスレだから
肉体の入れ替わりはもろにTSだから
0042名無しさん@ピンキー2014/10/23(木) 01:15:31.37ID:j0BgLiH6
渋の某漫画みたいに立場交換後徐々に身体も立場に馴染むように変化していくの好きなんだけど
ここ的にはダメなのかな
0043名無しさん@ピンキー2014/10/23(木) 07:25:45.32ID:vjtEIxUP
別にダメってことはない
さっさと変わっちゃうと交換じゃなくて女体化(男体化)モノって感じがしちゃうけど
0044名無しさん@ピンキー2014/10/24(金) 00:44:00.35ID:H2BSx5Qe
ひよとーふさんの作品が好きなんだけど最近動きがない。
0045名無しさん@ピンキー2014/10/25(土) 14:19:32.56ID:O+242ZOZ
立場交換物書こうとしてたのに、立場交換を全然理解してなかった入れ替わり属性の人か
普段の作品のクオリティが高かっただけにあれにはがっかりしたなあ
0046名無しさん@ピンキー2014/10/26(日) 17:16:15.06ID:Kyl2mCAE
好きな作品の名前を出したらすぐ批判されるようじゃ、スレが衰退するのも頷けるな。
0047名無しさん@ピンキー2014/10/26(日) 17:44:38.82ID:MxmBRAsc
何にでも噛み付くケルベロスみたいな子が居座ってるからね
0049名無しさん@ピンキー2014/10/26(日) 22:11:05.98ID:XZI49Hm1
テレビでやってたけど ヤマメとサクラマスの関係なんてまさに立場入れ替わりだな

 渓流の女王なんて言われているヤマメは実は過半数がオス。
 子供のころの生存競争に勝った「オス」「強いメス」が川に残りヤマメとなる

 60cmにもなる巨大魚サクラマスは過半数がメス。
 ヤマメがエサを食べるところを見ていただけの「メス」「弱いオス」が海に出ていき、サクラマスとなる

産卵の時期になるとサクラマスは川に帰ってくるが、ヤマメと比べて外見がゴツくて怖い……
魚も大変だなぁ
0053名無しさん@ピンキー2014/10/27(月) 00:14:00.63ID:wIeimHC2
はい、ここまでテンプレっと

 || ○荒らしは放置が一番キライ。荒らしは常に誰かの反応を待っています。
 || ○重複スレには誘導リンクを貼って放置。ウザイと思ったらそのまま放置。
 || ○放置された荒らしは煽りや自作自演であなたのレスを誘います。
 ||  ノセられてレスしたらその時点であなたの負け。
 || ○反撃は荒らしの滋養にして栄養であり最も喜ぶことです。荒らしにエサを
 ||  与えないで下さい。              。   Λ_Λ
 || ○枯死するまで孤独に暴れさせておいて   \ (゚ー゚*) キホン。
 ||  ゴミが溜まったら削除が一番です。       ⊂⊂ |
 ||___ ∧ ∧__∧ ∧__ ∧ ∧_      | ̄ ̄ ̄ ̄|
      (  ∧ ∧__ (   ∧ ∧__(   ∧ ∧     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    〜(_(  ∧ ∧_ (  ∧ ∧_ (  ∧ ∧  は〜い、先生。
      〜(_(   ,,)〜(_(   ,,)〜(_(   ,,)
        〜(___ノ  〜(___ノ   〜(___ノ
0057名無しさん@ピンキー2014/11/01(土) 07:42:32.82ID:TCgKGcsK
カボチャと立場が交換されて、周囲からカボチャ扱いされる。
一方のカボチャは人間扱いされる?
0059名無しさん@ピンキー2014/11/09(日) 12:20:15.56ID:L+4nB9Sr
>>55
ピンポーン
男「お、やっと宅配来たか。」
今日は待ちに待った新作FPSの発売日で朝から待っていたのだが、結局夕方になってしまった。まぁこれからの楽しみを考えればそれぐらいいいかとドアを開けた。

少女「トリック オア トリート〜!」
玄関先にいたのは配達のお兄さんではなくニコニコした小学生ぐらいの女の子だった。それも猫耳付きの。
一瞬何なのかわからなかったがそういえば今日がハロウィンなのを思い出した。

少女「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうにゃ〜」
猫耳付いてるし猫にまつわる仮装なんだろうがハロウィンに興味がなかった俺にはイマイチ何の仮装なのかはわからなかった。
男「うーん困ったな。今はお菓子無いんだよね〜。ゴメンね」
少女「だったらイタズラするね〜」
男「どうぞ、どうぞ」
どうせ大したことは出来ないだろうと俺が受け入れた瞬間目の前に光が炸裂した。

しばらくして目を開けるとさっきまでと変わらずニコニコした女の子が立っていた。
男「今のがイタズラ?」
少女「そうだよ〜。イタズラでお兄さんと私の立場を入れ替える魔法をかけちゃったんだ〜。」
男「立場を入れ替える魔法?」
少女「うん!でも、一気に変えちゃったらイタズラにならないからちょっとずつ変わるようにしたから!じゃあね〜」
そしてまた眩い光に襲われて気がつくと女の子は消えていた。
今のは一体なんだったのか?立場を入れ替えってなんなのか?いきなりの出来事に?が渦巻いていたが、またチャイムがなったのでドアを開けると配達のお兄さんだった。
ゲームを受け取った俺はついさっきの出来事を忘れたようにゲームに熱中した。


とりあえず思いつきで書きました。立場交換そのものの描写が無かったのでイマイチだと思いますが…
読みづらかったかもしれませんがこういうのを初めて書くので大目に見てもらえると助かります。
0063名無しさん@ピンキー2014/11/12(水) 04:07:28.16ID:197oeXq2
本当に立場も交換してたら面白かったのになぁ
その格好のまま授業を受けるってのがいいね
0064名無しさん@ピンキー2014/11/12(水) 07:47:18.38ID:Mfu99lE5
体操服はどうなのか?
下着はどうなのか?(これは流石にないだろうけど、こっそり下着女装してる男子はいそう)

とにかく妄想が捗るな
俺も体験したかった
0065名無しさん@ピンキー2014/11/12(水) 13:19:16.32ID:Quk4MQBk
>>62
これか
ttp://www.asahi.com/articles/ASGCB53PMGCBUZOB00R.html
これきっかけでTSFとか立場交換の妄想に目覚めるやつでてくるよな
0067名無しさん@ピンキー2014/11/13(木) 15:37:44.70ID:cZO0+RsD
>>65
どれだけ性的役割について話し合いをしたかは解らないけど制服を交換しただけなら男子がスカートを穿いて過ごす体験をしただけで終わってそう
教育本とかにもジェンダーについて男女逆の服装を体験させて社会的文脈での性差について考えさせる内容がはあるけど立場まで逆にするのまではないし
立場交換に近いので実際にあったのなら男女の配役を入れ替えた男女逆転劇をしたとかかな
内容はオリジナルで学級内が舞台で男女が対立している中で備品の花瓶が壊されていて学級会で犯人探しをする話しだったはず
それはともかく学校教育での立場交換と言うと過去スレにあった思いやり学習が面白かったな
また何か書いて欲しいね
0068名無しさん@ピンキー2014/11/14(金) 11:41:49.18ID:2OBcvw0I
 交通事故で意識不明の重体となる少年。幽体離脱して抜け出した魂を、悪魔っ子(じつは魔界の姫の幼なじみ)が捕まえて、女王のもとに連れて行く。少年の運命の糸が切れてないことを見抜いた魔王女は、少年にひとつの取引を持ちかける。
「しばらく魔界(ここ)で、わたくしの代わりに魔王代理をやってくだされば、元に戻る際に、代価の魂なしで何でも願い事を3つ叶えて差し上げますわ!」
「いいけど、アンタ、まだ王女なんだよね? 両親──魔王夫妻はどーしたの?」
「──あのノーテンキ夫婦、わたくしがようやく魔界女学院を卒業したからって、「ちょっと遅めのハネムーンに出かけてきまーす! 留守の間、代理よろしくね♪」とか言って、魔界一周旅行に出かけやがったのですわ!!」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて、姫ちゃん。魔王様ご夫妻は、ご結婚なされた若い頃、魔界情勢が複雑で、新婚旅行に行かれなかったって話だから、ね」
 ともあれ、取引を了承した少年に、魔王女が「バチタンカウコ」の呪文を唱えて自分と少年の立場を入れ替え、自分は休暇(はねのばし)として人間界の平凡な男子高校生生活を楽しむ。
 悪魔っ子は、普段は少年(の立場になった魔王女)の「隣家に住む幼なじみの少女」として一緒に人間界で暮らしつつ、時々魔界に戻って、魔王女役の少年のフォローをすることに。
 はたして、いきなり魔界の姫君兼魔王代理の立場になった少年は、魔王夫妻帰還まで、無事に乗り切ることができるのか!?
 ……という妄想を、某ソシャゲーやってて思いついた。このスレの範疇かな?
0069名無しさん@ピンキー2014/11/16(日) 03:27:22.61ID:0g8+ID39
おkおk
書く作業にはいってください
0070名無しさん@ピンキー2014/12/02(火) 04:12:09.90ID:QTj4+XLF
この間某特撮見ててふと思い浮かんだんだけど、
 ・正義のヒーロー♂と悪の組織の女幹部♀
とか
 ・戦隊物のピンク♀と悪の組織の大幹部♂
  (できれば首領の息子とか)
あるいは
 ・ピンクと女幹部の女同士
とかの立場交換ってのも読んでみたいよな
0071名無しさん@ピンキー2014/12/03(水) 01:56:14.48ID:8tscHA/P
>>70
なんかKの人が好きそうなシチュエーションだな

新しい戦隊になるために訓練を積んできた熱血漢でリーダーシップにあふれた肉弾戦タイプのレッド(男)と
かわいらしく後方支援タイプのピンク(女)
しかし変身装置の手違いでレッドがピンクとして、逆にピンクがレッドして登録されてしまう
解除もできないため、そのまま闘い続けることにしたが、
それぞれのスーツの仕様の差によって、どんどんお互いの性格や振る舞いが変化していき・・・・・・

というシチュエーションを思いついた
0072名無しさん@ピンキー2014/12/03(水) 02:10:52.56ID:fujeS2ac
>>71
メチャクチャ読みたいんだが
0073名無しさん@ピンキー2014/12/03(水) 13:11:23.68ID:a05Xj1Zt
>>70
正義のヒーロー♂と女幹部とピンクと女幹部は過去スレにあった気がする
0074名無しさん@ピンキー2014/12/03(水) 15:01:45.87ID:fomty3EP
いいと思うなら自演で作品乞食してないで自分で書いたら盛り上がるのになぁ
0077名無しさん@ピンキー2014/12/12(金) 00:34:29.75ID:rWtzhhJS
ムサシマルの「僕がナースになった理由」ってエロマンガ見てて、
もし主人公が誰にもバレずに医師と看護婦の二重生活を続けられたら、
このスレっぽい話だよなぁ、と思ってちょっと興奮した。
そう言えば、「大人が子供の立場」もいいけど、
「子供が大人の立場」になる話がもっと増えないかなぁ。
FT-type2さんとこにいくつか類似例があったけど、
「転校してきた背の高い小学生が新任の教師と間違われる」とか。
「僕ナース」みたく、新任教師が「やっぱり私に先生なん無理ぃ」
とか言って逃げ出して。
0079名無しさん@ピンキー2014/12/20(土) 02:33:50.40ID:4pXE+PMm
#68のネタを書いてみた。全3回予定。

『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)

 「貴方、わたくしの代わりに、しばらく此処で魔王の代理を務めなさい」

 ──いきなりそんな事を、初対面の少女(しかも黒いドレスみたいな衣裳を着て、ティアラを被っている子)に言われた時に、どんな反応をするべきなのか。
 現代日本に住む平凡な高校生(正確にはまだ入学前だけど)に、そんな難度の高すぎるシチュエーションを持って来ないでほしい。

 「いや、そんなこと言われても……」
 さすがに即答しかねているオレの様子を見かねたのか、その娘の傍らに控えていた真っ赤なボンテージスーツっぽいレオタード姿の女性が、その派手な格好に見合わぬのんびりした口調で聞いてきた。
 「あれれ〜、だったら、あのまま出血多量で死んじゃったほうがよかったの〜」
 それは……困る。別に壮大な夢とか希望とかを抱いてるわけじゃないけど、さすがにこの歳で死にたくはないし。

 「安心しなさい。無償で、とは言わないわ。貴方が無事にその務めを果たしてくれた暁には、わたくしにできる限りの願い事を何でも3つ叶えましょう。無論、代価の魂抜きで」
 うーむ、そこまで言われたら、まぁ……て言うか、そもそも、これ、オレに選択の余地ないよね!?
 「選ぶことはできるわよ〜、デッド・オア・アライブ(死ぬか生きるか)だけどね〜」
 「それ、選択肢って言わないっス!」
 はぁ……いったい、なんでこんなことになっちまったんだろうなぁ。
0080『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)2014/12/20(土) 02:34:53.16ID:4pXE+PMm
 * * * 

 事の起こりは、彼──星野計都(ほしの・けいと)が、高校進学を目前に控えた4月1日、世間ではエイプリルフールとして知られるその日に、道端で信号無視して突っ込んできたバイクに跳ね飛ばされたことだ。
 相手がそれほどスピードを出していなかったので、本来なら多少のケガで済んだはずだったのだが、運悪く吹っ飛んだ先が先端が棘状になったお屋敷の金属塀の上で、さらに中途半端に運が悪いことにその先端が彼の脇腹を突き破った。
 これが四肢やお尻などなら、痛くとも死ぬことはなかったろう。
 逆に頭や心臓なら、苦しむ暇もなく死ぬことができたろう。
 しかし、脇腹という「即死はしないが致命傷に近い重傷」という部位に刺さったのが彼の不幸だった。
 痛みと出血で意識が薄れゆくなか──しかし、唐突に彼は、自分が宙に浮かんでいることに気付いた。
 どうやら俗に幽体離脱と呼ばれる状態になったらしい。
 眼下では、血だらけの自分の身体を取り囲み、人々が騒いでいる様が見える。
 (あ〜、こりゃダメかもしれんねぇ)
 誰かが救急車を呼んでくれたみたいだが、あれだけ出血しては、助かる見込みは半々以下だろう。
 (となると、このまま「お迎え」が来るのを待ってるほうがいいのかな? いや、せっかく貴重な体験なんだから、空中遊泳を楽しむとしますか)
 自分が死にかけているというのに、妙に達観した少年である。
 非現実過ぎてあるいは実感が薄いからかもしれない。

と、その時。
 「あらら〜、生霊かと思ったら珍しい、ハザマの子かな〜」
 場違いにおっとりのんびりした声が、すぐ近くから聞こえてきた。
 そう、空に浮かんで(と言っても、せいぜい高さ5メートルくらいだが)いるはずの彼の耳元で。
 「えっ!?」
 さすがに驚いて振り返った計都のすぐ背後には、彼と同年代くらいに見える少女が立って──いや、パタパタと背中の羽をはばたかせながら浮かんでいたのだ。
 「ちゃお〜、おねーさんの名前はコロナ。人間には悪魔とか妖魔とか呼ばれてる存在よ〜」
 自己紹介の様子はえらくフレンドリーだが、内容は聞き捨てならない。
0081『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)2014/12/20(土) 02:35:23.64ID:4pXE+PMm
 確かに、コロナと名乗った少女の頭には草食獣のような角が2本生えていたし、コウモリみたいな背中の翼で飛んでいるのだから、人間ではないのだろう。むしろ悪魔だと言われたほうが納得がいく。
 もっとも、「魔」という単語の割には恐ろしげな印象はほとんどない。
 顔立ちは、むしろ美人とか可愛いという形容のほうが適切だ。人間の女性とほとんど変わらない。水着のような露出度の高い格好なので、豊満なバストを始めいろいろけしからん部分がバッチリ見えている。
 「えっと……その悪魔のコロナさんが何の御用でしょうか?」
 それでも、巨乳美人ktkrという本音は何とか押し隠して、丁寧な対応を心掛ける計都。
 「ん〜、とこかで見たような波長が感じられたから、飛んできたんだけ。まぁ、野次馬ね」
 コロナいわく、魔族は本来こことは別の世界(俗に言う魔界)に住んでいるのだが、修行や観光その他の目的でこっちに来ている者も多いらしい。
 ちなみにコロナは前者で、古式ゆかしい「悪魔の契約」を取るべくセールスマン(セールスレディ)よろしく人間界を飛び回っているのだそうな。
 「はぁ、なるほど。ところでハザマの子って言うのは……」
 「ん〜、言葉通りよ? 狭間──人と獣とか神と魔とか、いろんなくくりの丁度境目に位置する存在のことを言うの。キミの場合は、見たまんま生と死の境ね」
 「あ、オレ、まだ死んでなかったんスか」
 計都が安堵したのもつかの間。
 「うん。“まだ”、ね。時間の問題だと思うけど」
 まったくもって安心できなかった。
 (さーて、ちょっとした好奇心だったけど、おもしろそうな素材見っけちゃった♪)
 澄ました顔してなかなかな洒落にならないことを考えるコロナだが、そんな気配はおくびにも出さず、いかにも気の毒そうな表情を作る。
 「たぶん、このままだとキミ、十中八九死んじゃうけど……一応、何とかする方法はあるわよ?」
 「それって、先ほど言ってた「悪魔の契約」ってヤツっスか?」
 「それも可能だけど……ねぇ、どうせなら、キミ、魔界に来てみない?」
0082『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)2014/12/20(土) 02:37:21.25ID:4pXE+PMm
 * * * 

 ──ってな経緯で、魔界とやら、それもそこで一番の偉いさんである“魔王”のお城まで連れて来られて、さらにそのトップ代理をやってる姫さん(この場合、魔王女とでも呼ぶべきなのかねぇ)と面会させられたわけだ。
 なんでも、コロナさんは魔王女さんとは幼馴染みかつ学校時代を通じての親友でもあるらしい。
 ちなみに、魔王女さんは人間なら16、7歳位に見える、美人だけどプライドの高そうな、いかにも「お姫様(プリンセス)」って感じの娘だった。
 プリンセスと言うと、個人的にはくるくる巻き毛の金髪と青い瞳で豪華なドレスを着てるようなイメージがあるけど、この魔王女さんは黒髪と黒に近い紺色の目で、肌の色も含めてわりかし日本人に近い感じだ。
 着ているものもゴスロリ風とは言え、ティアラ以外はそれほど装飾過剰ってわけでなく、スカート丈も膝が隠れるくらいで割と動きやすそうだし。たぶん、角さえ隠せば日本の町中にいても、それほど不自然ではないと思う。

 「どう、悪い話ではないと思うのだけど?」
 改めてさきほどの提案(限りなく脅迫に近いけど)への回答を迫られる。
 (うーん、確かに悪い話ではないんだよな。とりあえず、目の前の存在が約束を守ると仮定したならば、だけど)
 そんなオレの思考を読んだのか、コロナさんが言葉を添える。
 「心配しなくても、魔族にとって「契約は絶対」よ〜。逆に交わした契約も守れないなら、その魔族の信用は一気に地に落ちるわ」
 あ、そういう話は確かにどっかで聞いたことがあるかも。
 「うっし、男は度胸、お願いするっス! ただし、その契約とやらの内容は日本語できちんと書面にしてほしいっス」
 「ふむ、妥当な判断ね。これならしばらく此処を任せても大丈夫かしら」
 魔王女さんの表情がちょっとだけ柔らかくなった。
 「あ、でも、オレなんかに魔王代理が務まるかは別問題っスよ?」
 過剰な期待をされても困るので予防線を張っておく。
0083『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)2014/12/20(土) 02:39:09.00ID:4pXE+PMm
 「心配しなくても、立場を交換すると同時に必要な知識は一通りキミも獲得できるわ〜。それに、ケイちゃんはあくまで名目上の責任者で、通常業務に関しては宰相さん始め、重臣の方々が手配されているからね」
 ああ、なるほど。「君臨せずとも統治せず」などっかの帝みたいなもんか。

 その後、魔王女さんは、契約内容を見慣れない厚めの紙(羊皮紙?)に羽ペンでサラサラと書き連ねて、オレに渡してきた。
 「えーと、大体は納得できるんですけど、期間は「魔王夫妻が戻ってくるまで」っスか?」
 そう言えば、なんで肝心の魔王様がいないのか聞いてなかったな。
 「ええ、そうよ。あのノーテンキ夫婦、わたくしがようやく魔界女学院を卒業したからって、「ちょっと遅めのハネムーンに出かけてきまーす!」とか言って、政務を放り出して魔界一周旅行に出かけやがったのですわ!!」
 憤慨する魔王女さんの言葉をコロナさんが補足する。
 「まぁまぁ、魔王様ご夫妻は、ご結婚なされた若い頃、魔界情勢が複雑で新婚旅行に行けなかったって話でしたから〜。以前からちゃんと重臣の方々にも根回しはされてましたし」
 「じゃあ、どうしてわたくしには出発する前日にいきなり告げるんですの!?」
 「「その方がおもしろそうだから♪」とおっしゃってましたよ〜」
 どうやら此処の魔王様とやらはなかなかシャレの分かる性格の持ち主のようだ。
 「ははは……じゃ、じゃあ期間についても了解です」
 プンスカ怒っている魔王女さんをこれ以上刺激しないよう、オレはこの内容で契約することを承知した。

 魔王女さんとコロナさんが魔法陣?みたいなものの前で一緒に呪文を唱えると、陣の真ん中に何か黒いモヤみたいなものが現われ、それが消えた時にそこには……。
 「お、オレ!?」
 「正確には貴方の肉体よ。ほらっ」
0084『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)2014/12/20(土) 02:41:10.50ID:4pXE+PMm
 魔王女さんにトンッと突き飛ばされたオレ(の霊体?)がよろめいて、血だらけの「肉体」の隣りまで来た瞬間、オレ「達」はひとつになっていた。
 「ぐぁ……痛てぇ……」
 「あぁ、ごめんね〜、今治してあげるから」
 コロナさんの手から淡い緑色の光が溢れ出し、その光がオレを包み込むと体中の痛みが一気に消えていく。
 気がつくと、瀕死の重傷状態から回復したのみならず、あちこち破れ、血に汚れてた服まで元に戻っていた。
 「すげぇ、パネェ」
 「うふふ〜、どういたしまして。ただし、コレはキミが受け取る3つの願い事からの前借りになるからね。服はサービスだけど」
 「ええ、もちろんっス!」
 その点は契約にもキチンと書き記してあるから問題ない。
 むしろ、この分だけでも魔王代理・代理を引きうけても十分お釣りが来る。

 「次に、わたくしと貴方の立場を交換しますわ」
 で、オレは、魔王様夫妻が戻るまでこの城で魔王代理の務めを果たし、魔王女さんは人間界で一学生としての生活を満喫するという寸法だ。
 その立場での常識や家族関係などの基本的な知識は、立場交換すればわかるようになるらしいし、高校進学で環境も一気に変わるから、多少の不自然さは誤魔化せるだろう。
 どっちかって言うと、問題はオレの方にありそうだけど……。
 「安心して。キミが慣れるまでは、おねーさんがフォローしてあげる〜」
 コロナさんの有難い申し出があるので、正直助かる。
0085『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)2014/12/20(土) 02:43:13.76ID:4pXE+PMm
 「では、始めるわよ?」
 魔王女さんが改めて別の魔法陣を床に描き直し、オレと一緒のその中に入ったうえで、今度は紅い宝石のようなものが先端についた杖を手にして長い長い呪文を唱え始めた。
 途端に、意識がぼんやりとし始めて、オレは頭をふってその眠気みたいなものを振り払おうとした。
 「ダメ! それが立場交換の魔法の効果よ。抗わずに受け入れて!!」
 コロナさんが、普段ののんびりしたしゃべり方とは裏腹の鋭い口調でオレを制止する。
 (あ、たぶん、こっちがこの女性(ひと)の本性だな)
 そう思いつつ、オレは目を閉じ身体から力を抜いて極力リラックスしようと試みる。
 たちまち意識が曖昧になり、耳には魔王女さんの唱える呪文しか聞こえなくなる。

 「──大いにして平等なる“ガ”よ、我、アムリナ・ケイト・フェレースと、と彼の者、星野計都の立ち位置を入れ替えん……」

 今まで聞いたことのない言語で唱えられているのに、その意味が理解できたような気がしたが、それとともにさらに眠気が倍増し、オレはそのまま意識を失っていった。

(つづく)

#年内に完結させられたらいいなと思ってます。
0086名無しさん@ピンキー2014/12/20(土) 19:08:21.58ID:vAhWD8i0
新しいのキテタ
美味しい部分に突入するのは次回かな?
0088名無しさん@ピンキー2014/12/29(月) 15:03:14.58ID:00X/22DV
#短いけど、男子高校生←→魔界の姫の立場交換物のつづき。ちなみに、魔王女のルックスは、某モバマスの神崎蘭子の衣装を着た渋谷凛っぽい感じだと思ってください。後編は年明けになりそう。

『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)

 「──大いにして平等なる“ガ”よ、我、アムリナ・ケイト・フェレースと、と彼の者、星野計都の立ち位置を入れ替えん……」


 ……
 …………
 ………………


 唐突に意識が覚醒する。

 「成功ね♪」
 「ええ」

 聞き覚えのあるこの声は、コロナさんと……魔王女さんかな。

 「ふわぁ〜あ、その様子だと成功したんですか?」
 ぼんやりと目を開けていつの間にか床に倒れていた身体を起こす。

 ──サラサラッ………ファサッ……

 (ん? あれ、なんか顔にまとわりつくような感じが……)
 無意識に頭に手をやって、そこに未だかつてない長さの髪の毛があることを感じた瞬間、オレの意識は一気にはっきり覚醒した。
 「な、なんだ、こりゃあーー! なんでいきなり髪の毛が……」
 伸びてるんだ──って、何、この服!?
 「あはは、驚いてる驚いてる」
 「そりゃ、驚きますよ!」
 首や肩どころかほとんど腰のあたりにまで伸びている髪もそうだが、それ以上に平凡なトレーナーとジーパン着てたはずが、いきなり黒いワンピース姿になってるんですから!
 ……と、抗議しつつ、魔王女さんの方に視線を向けて、思わず絶句する。
 そこには、先程までの豪奢なドレス姿とはうって変わり、見覚えのある白と紺のボーダー柄のトレーナーとブラックジーンズというラフな格好の魔王女さんが立ってたんだ。
 しかも、長かった髪をバッサリ切って、男の子みたいなショートヘアになってるし。
0089『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)2014/12/29(月) 15:04:02.43ID:00X/22DV
 ──いや、待てよ。
 「もしかして……オレと魔王女さんの格好、入れ替わってる?」
 「正解。と言うか、正しくは、髪型や服装だけじゃなくて立場そのものが変化しているのだけれど」
 「そう言ったでしょう?」と、ニッコリ笑顔で問い返される。
 「いや、確かに、言われましたけどね」
 てっきりオレは、周囲に幻術か暗示か何かで、オレが“魔王代理”という立場になってると認識させて、その間、同様の処置でオレの家の方に滞在する「だけ」だと思ってたのだ。
 まさかこんな風に、格好まで本格的に取り替えられるとは……。
 ん? てことは、もしかしてっ!!
 「あ、ちゃんと有る。よかったぁ」
 ワンピースのスカートの上から股間に手を押しつけてみたところ、幸いにしてマイサンはキチンとその存在を確認することができた。
 “上”の方も、胸板はつるぺたでオッパイみたいな膨らみは皆無だったし。

 「入れ替わったのは立場だけよ〜、肉体的にはおふたりとも元のままだし」
 コロナさんが楽しそうに説明してくれる。
 「そ、そうなんだ。でも、それって逆にマズくないスか?」
 オレが魔王女さんだと思われてるなら、その姫君の身体が男だと周囲にバレたら大騒動になるんじゃあ……。ほら、お姫様ならメイドに着替えとか風呂とか手伝ってもらったりするんだろうし。
 「えぇ、確かに普段のお召替えや入浴のお手伝いは、姫様付きの侍女のお仕事だけど〜」
 「安心なさい。たとえ、この状態で貴方が全裸になっても、あの子たちが風呂場で貴方の股間に直接触れても、皆は貴方のことを“魔族の女性”だと認識するわ」
 因果そのものを歪めてあるから、その点は大丈夫だと、魔王女さんは太鼓判を押してくれた。
 「うーむ、了解です。なら、怪しまれないかは、あとはオレの演技力次第ってことっスね」
 最低限、日常習慣とかお付きの人とか重臣の人への態度とかは教えてもらわないと……と意気込むオレだったが、あっさり魔王女さん達に一蹴される。
 「あまり気負う必要はないわ。ごく自然にしていれば、それが貴方の“普通”として周囲に認識されるから」
 「むしろ、ヘンに意識しないで、流れに身を任せるほうが、楽だと思うわよ〜」
 「そ、そっスか」
 話だけ聞いてると何かすごくイージーモードな気がするけど、これ絶対何か落とし穴があるよね?
0090『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)2014/12/29(月) 15:04:35.12ID:00X/22DV
 とはいえ、俗に言う「賽は投げられた」状態だし、覚悟を決めるしかないか。
 「ええ、その通りよ。それじゃあ、そろそろわたくしは貴方の代わりに人間界に行くわね」
 「あたしもご一緒しまーす♪ あ、夜にはこっちに顔出すから、安心してね☆」
 部屋の壁際に開いたブラックホールみたいな“孔”に飛び込もうとするふたりを、慌ててオレは呼び止めた。
 「待った! 最後にひとつ、魔王女さんの名前を教えてほしいっス!!」
 「一応さっきの呪文詠唱時に名乗ったのだけれど……アムリナ・ケイト・フェレースよ。もっとも、今からしばらくは貴方の名前になるのだけれど。
 ちなみに、王族に対しては、余程親しい者以外はファーストネームではなくセカンドネームで呼び掛けるから、注意してね」
 「いやぁ、奇しくも同じ名前を持つ存在だから、立場交換の術が巧くいくと思ったのよね〜、あたしの目に狂いは無かったわ〜」
 そ、そんな単純な理由?
 「あら〜、魔族にとって名前ってすごく大事な要素よ? それに、魔術の根本原理のひとつに「似ているものは同一のものとして扱う」、っていうのもあるしね〜」
 「興味があるなら、そちらの本棚に魔術の基礎を記した本があるから読んでみなさいな」
 じゃあねー、とヒラヒラ手を振り、今度こそふたりは孔へと消えていった。

 * * * 

 「あぁ、行っちゃったぁ」
 ほどなく“孔”が消え、ひとり魔王女の部屋に取り残された計都──いや、「ケイト」は、今更ながらに自分が大変なことを引き受けたのだと実感して、早くも後悔し始めていた。
 「いくら命がかかってたからって、もうちょっと考えるべきだったかなぁ」
 とはいえ、引き受けなければあのまま死んでいただろうから、選択の余地は実質なかったとも言えるが。
0091『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)2014/12/29(月) 15:06:37.55ID:00X/22DV
 「それにしたって、こんな見知らぬ場所で、オレにどうしろって……」
 落ち着かなげに辺りをキョロキョロ見回……したはずなのだが、なぜか「ケイト」は奇妙な感覚に襲われていた。
 ありていに言えば「見覚えがある」のだ。それも、一度や二度見たというレベルではなく、それこそ毎日そこで過ごしてきた馴染み深い自室と言えるレベルで。
 (あれ………なんで?)
 試しに本棚の前に歩み寄り、先程言われた本──『賢者ジルレインによる初等魔法読本』を取ろうとすると、あっけないほど簡単にそれは見つかった。そう、まるで「どこにその本があるのか知っていた」かのように。
 さらに言えば、本人は気付いていないが、教えられていなかったはずの本の題名も「わかっていた」し、そもそも、これまで目にしたことすらないはずの魔界の文字の読み書きが当り前のようにできている時点で、およそあり得ない話なのだが。

 (これが、「立場を交換する」魔術の効果なのかな?)
 そう言えば、事前に「必要な知識は一通り獲得できる」と聞かされていた。計都である「ケイト」が此処で王女として暮らしていくためには、確かに日常関連の身の回りの記憶は必要だろう。
 リラックスしたような、落ち着かないような、不思議な気分で暖炉の前のソファに腰掛ける「ケイト」。
 その際も、ごく自然にスカートの裾を軽く整えつつ、(ケイトの)お気に入りのクッションの上に座り、黒いニーハイストッキングに覆われた両脚を綺麗に揃えて横座りのような姿勢でくつろいでいる。
 どうやら、因果律の改変とやらは、無意識レベルの日常的な動作にまで影響するらしい。
 (まぁ、あまり深く悩んでも無意味か。むしろ、原理や原因より、これからのことを考えたほうがいいかな)
 割り切りが早いのは、数少ない計都の長所で、幸い立場交換してもその特徴は本人から失われなかったらしい。
0092『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)2014/12/29(月) 15:08:44.57ID:00X/22DV
 と、その時。

 ──コン、コン……

 「失礼します。ケイト様、ご夕食の準備が整いましたが」
 ノックの音とともに、ドアの向こうから聞こえてきたメイド(?)の声に、反射的に「ケイト」は答えを返していた。
 「わかりました。あと3分程したら、食堂へ向かいます、わ」
 「本物」の口調に倣って、ぎこちないながらも語尾に「わ」を付け足す。
 ドアの前の気配が消えたことを確認してから、ゆるやかに溜め息を吐く。
 「ふぁあ〜緊張したぁ。いよいよ身代わり生活の開始なワケだけど……大丈夫かなぁ」
 ふと、今の自分の姿を見ていなかったことを思い出し、身だしなみのチェックも兼ねて、部屋の隅の大きな化粧台の前へと足を運ぶ。
 高さ2メートルほどの鏡を覗き込むと、そこには、黒を基調にところどころを真紅のリボンやレースで飾られた、長袖&膝丈のゴスロリ風ドレスに身を包んだ「魔王女」が映し出されていた。
 顔立ち自体は本来の計都と変わっていないはずなのに、体の線が隠れる衣装と長く伸びた髪、そしてコントラストの利いた白塗りメイクを施されているおかげで、案外普通に女の子に見える。よく見れば、眉も切り揃えられ睫毛も軽くカールされているようだ。
 「これなら、たぶん大丈夫……かなぁ」
 悩んでいても仕方ない。
 極力平静を装いつつ、「ケイト」は晩餐が用意されているであろう城の大食堂へと向かうのだった。

-つづく-
0095名無しさん@ピンキー2015/01/04(日) 14:36:02.81ID:+y+ps5uD
#魔王姫←→高校生の立場交換物の後編。 ただし、エピローグ部分は次回に持ち越しです。正月のうちには、なんとか……。

『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)

 「──それでは、今日はこれで休みますわ」
 入浴のあと、ケイト姫の私室(寝室と書斎兼研究室が直接ドアで繋がれてるんだ)に戻ってきたところで、だいぶ滑らかにしゃべれるようになってきた取り澄ましたお嬢様口調で、王女付侍女のイェッタとパルセッタにそう告げる。
 「はい。では、明日は平常通りの時間に朝のお支度のお手伝いにうかがえばよろしいでしょうか?」
 イェッタの問いに、ちょっとだけ考えるフリをして、大きく頷いた。
 「そうね、それでお願い」
 「畏まりました。それでは、ケイト様、佳き眠りを」
 「ええ、貴女たちも」
 深々と一礼して退出していく侍女たちを、にこやかに見守った後、付近に誰の気配もなくなったことを確認してから、ワタクシ──いや、オレは溜め息をつきながら天蓋付きベッドにガックリと腰かけた。
 「ふぅ〜、何とかなったかぁ。あー、緊張したぁ」
 夕食は、まぁいい。正式な晩餐会とかパーティーならまた違うのだろうけど、王族とは言え、普段の食事はテーブルマナーとかに気をつけてさえいれば、それほど難しいことはない。
 幸い、立場交換の術の影響で、そういう魔界の王侯貴族的礼儀作法も一通り頭にインプットされていたから、見た事もない豪勢な料理の数々も、戸惑うことなく優雅な手つきで食べることができた。
 (まぁ、その反面、初めてのはずの料理に新鮮味を感じられなかったのが残念と言えば残念だけど)
 ところで、食事してる時に気付いたんだけど、王女としての知識・経験を必要とする場面を迎えるか、あるいは王女が知っているであろう事柄について意識的に思考を向けると、この術の効果が発揮されるみたいだ。
 おかげで、SFマンガとかによくある「一気に知識の奔流が流れ込んできて、脳がパンクして廃人になる」とかいう事態は回避できそうなのは助かる。
 そこまでいかなくても、あまり一度に沢山の記憶を詰め込まれたら、知恵熱が出そうだし。
0096『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)2015/01/04(日) 14:38:25.15ID:+y+ps5uD
 それに、知識や仕草・癖については多少「ケイト姫」らしくなったとは言え、自我というか意識の中核の部分は、まだまだしがない男子高校生・星野計都のままなんだ。
 ええ、地味に夕食の後に控えていた一大イベントがツラかったですとも。
 そう、入浴。パッと見、中世欧州風の世界だから油断してたんだけど、王族や貴族ともなると、毎日お風呂に入って体を綺麗にするみたい。
 ケイト姫としての知識を探ると、さすがに中流以下の庶民階級だと、風呂なんて3〜4日に一度くらいしか入らないものらしい。いや、そのレベルでも入れる……と言うか蒸し風呂でも岩風呂でもなく、ちゃんと湯船式の公衆浴場がある事に驚くべきかも。
 ともあれ、「レディの身だしなみ」の一環として、王宮の一角に設置された王族専用風呂に入らないといけなかったんだ。

 複雑な服を脱がせるのはお付きのイェッタとパルセッタがやってくれたから悩むことはなかったんだけど……。
 さすがにドレスを脱いでメイクも落としちゃうと、髪が長いことを除いて自分の目から見たら完全に男のままなんだよ。それまで割とノリノリ(っていうのもナンだけど)で「王女様」やってたのが、急に現実に引き戻されたようで、なんか凹む。
 それなのに、侍女ふたりは「いつ見てもケイト様のお身体でお綺麗ですわね」ってお世辞言ってくるし──フクザツな気分。そりゃ、周囲の者には、因果の歪曲とやらで、「魔王女にふさわしい高貴な美少女」に見えてるのかもしれないけどさ。
 ツルペタ(当り前だけど)の胸を押さえて「ワタクシとしてはもっと胸が欲しいのだけれど」とかあえて嘆いてみせたんだけど、「多少控えめでも形は整ってらっしゃいますし、乳首や乳輪の色も朱鷺色で素敵です」とか、大真面目に返されちゃった。
 そう言えば、確かに本物の魔王女も親友のコロナさんとかと比べると、あんまし大きい方ではなかったな、うん。
 いっそ「クリトリスが大きいのが悩みの種なのよ?」とか言ってチ●チン見せてやろうかと思ったけど、さすがにセクハラは自重した──「こんなくらい全然普通ですよ!」とか言われたら、因果歪曲の効果とは言え立ち直れそうにないし。
 そう言えば、入浴の手伝いのために侍女ふたりも半裸って言うか湯浴み着とかいう丈の短い浴衣みたいなのを着て、一緒に風呂場に入って来たんだけど……。
 あんまり動揺しなかったんだよなぁ。自分の裸見られても、イェッタたちの剥き出しの足とか胸の谷間とか見ても。
 さすがに体をスポンジみたいなので丹念に洗われた時は多少は照れくさかったし、くすぐったかったけど、それだけ。長い髪を洗ってもらうのとかも、ごく自然にお任せにしたおかげで楽チンだったし。
 こういう細かな部分の違和感……いや、「違和感がないこと」が、立場交換の儀式魔法──“チャンゲクス”の効果なんだろうな。
0097『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)2015/01/04(日) 14:39:07.20ID:+y+ps5uD
 風呂から上がったあと、バスタオル(?)みたいな大判の手ぬぐいで髪や体を拭いてもらい、ドライヤー代わりの“微風”の魔法で乾かしてもらう。
 たぶんスパイダーシルク製とおぼしき白いナイトドレスを着せてもらい、その上にミスコン優勝者みたいな真紅のガウンを羽織らされた状態で、さっきこの部屋──寝室にまで戻ってきた、ってワケ。
 ちなみに、ナイトドレスの下には下着は何も着けてない、すっぽんぽん状態。最初はどうかと思ったけど、解放感があって意外に悪くない感じだった。元に戻ったらパジャマの下はノーパンにしてみようかな。
 「ん〜、でも男物のパジャマだと、ごわごわしてあんまり気持ちよくないと思うわよ〜」
 ああ、そういう問題もあったか。
 でも、さすがに女物の寝間着を買うのは抵抗感あるしなぁ……って!
 「い、いきなり声をかけないでくださいよ、コロナさん!」
 そう、いつの間にか、部屋の片隅に本物の王女の親友の魔物娘、コロナさんが立っていた。
 「て言うか、なんで警戒が厳重なはずのこの魔王の城の最深部に、あっさり忍び込んでるんスか!?」
 王女としての知識によれば、この城全体に転移(テレポート)を始めとする移動系魔術を阻止する結界が張られているはずなのに。
 「ああ、あたし、この部屋に直接転移するために裏コードを教えてもらってるの」
 それでいいのか、魔王城のセキュリティ!?
 「大丈夫よぉ、今時、魔王城に忍び込もうなんて不逞の輩が、そこらに転がってるワケないし〜」
 いや、ほら、たとえば……勇者パーティとか。
 「くすくす……RPGのやり過ぎよぉ」
 ──うん、自分でも「それはない」と思った。
 「簡単に言うと、魔界(ウチ)は地上界──あなたたちの住むのとは別の人間界と、休戦条約を結んでるの。休戦って言っても、もう500年以上続いているから、実質平和条約と変わらないわね〜。国家使節の交換や民間商人の行き来も普通にあるし」
 へぇ、そんなことが……って、意識を向けたら、確かにそういう知識が流れ込んできた。王女だけあって、さすがにケイト姫はよく勉強してるな。
 「その顔は、王女としての知識が補填されたみたいね♪ ま、そういうことだから、魔王討伐の勇者が突貫してくるなんて事態の心配は無用よ〜」
 へぇ、道理で第一王女であるはずのケイト姫の身辺警護とかが緩いような気がしたんだ。
 「とは言っても、やっぱり一国の王族ともなると、色々窮屈なコトも多いのよ〜」
 で、羽を伸ばすために、異世界の庶民と立場を交換するって?
 「あはは〜、だいたい合ってる、かな?」
 ま、そのおかげで命が助かったんだから、文句は言うまい。
 「寝る時に痛まないよう髪の毛編んであげるね〜」とベッドに並んで腰掛けたコロナさんが、お尻近くまである黒髪を、ざっくりとひとつに編んでリボンで束ねてくれる。
 こんなグラマラスな美人さんがすぐそばにいるのに、まるでセクシャルな気分にならないのは、オレ──ワタクシが「魔界の王女」で彼女の親友という立場になっているからなのだろう。
0098『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)2015/01/04(日) 14:40:45.97ID:+y+ps5uD
 風呂から上がったあと、バスタオル(?)みたいな大判の手ぬぐいで髪や体を拭いてもらい、ドライヤー代わりの“微風”の魔法で乾かしてもらう。
 たぶんスパイダーシルク製とおぼしき白いナイトドレスを着せてもらい、その上にミスコン優勝者みたいな真紅のガウンを羽織らされた状態で、さっきこの部屋──寝室にまで戻ってきた、ってワケ。
 ちなみに、ナイトドレスの下には下着は何も着けてない、すっぽんぽん状態。最初はどうかと思ったけど、解放感があって意外に悪くない感じだった。元に戻ったらパジャマの下はノーパンにしてみようかな。
 「ん〜、でも男物のパジャマだと、ごわごわしてあんまり気持ちよくないと思うわよ〜」
 ああ、そういう問題もあったか。
 でも、さすがに女物の寝間着を買うのは抵抗感あるしなぁ……って!
 「い、いきなり声をかけないでくださいよ、コロナさん!」
 そう、いつの間にか、部屋の片隅に本物の王女の親友の魔物娘、コロナさんが立っていた。
 「て言うか、なんで警戒が厳重なはずのこの魔王の城の最深部に、あっさり忍び込んでるんスか!?」
 王女としての知識によれば、この城全体に転移(テレポート)を始めとする移動系魔術を阻止する結界が張られているはずなのに。
 「ああ、あたし、この部屋に直接転移するために裏コードを教えてもらってるの」
 それでいいのか、魔王城のセキュリティ!?
 「大丈夫よぉ、今時、魔王城に忍び込もうなんて不逞の輩が、そこらに転がってるワケないし〜」
 いや、ほら、たとえば……勇者パーティとか。
 「くすくす……RPGのやり過ぎよぉ」
 ──うん、自分でも「それはない」と思った。
 「簡単に言うと、魔界(ウチ)は地上界──あなたたちの住むのとは別の人間界と、休戦条約を結んでるの。休戦って言っても、もう500年以上続いているから、実質平和条約と変わらないわね〜。国家使節の交換や民間商人の行き来も普通にあるし」
 へぇ、そんなことが……って、意識を向けたら、確かにそういう知識が流れ込んできた。王女だけあって、さすがにケイト姫はよく勉強してるな。
 「その顔は、王女としての知識が補填されたみたいね♪ ま、そういうことだから、魔王討伐の勇者が突貫してくるなんて事態の心配は無用よ〜」
 へぇ、道理で第一王女であるはずのケイト姫の身辺警護とかが緩いような気がしたんだ。
 「とは言っても、やっぱり一国の王族ともなると、色々窮屈なコトも多いのよ〜」
 で、羽を伸ばすために、異世界の庶民と立場を交換するって?
 「あはは〜、だいたい合ってる、かな?」
 ま、そのおかげで命が助かったんだから、文句は言うまい。
 「寝る時に痛まないよう髪の毛編んであげるね〜」とベッドに並んで腰掛けたコロナさんが、お尻近くまである黒髪を、ざっくりとひとつに編んでリボンで束ねてくれる。
 こんなグラマラスな美人さんがすぐそばにいるのに、まるでセクシャルな気分にならないのは、オレ──ワタクシが「魔界の王女」で彼女の親友という立場になっているからなのだろう。
0099『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)2015/01/04(日) 14:42:21.13ID:+y+ps5uD
 あ、そう言えば……。
 「ケイト王女を始め今の王家は双角鬼(デーモン)族みたいスけど、コロナさんの種族って何ですか?」
 「ん? あたしは小翼鬼(インプ)よん。祖母が吸精女(サキュバス)で、その血が結構濃く出てるけどね〜」
 ああ、なるほど。確かにインプなら、成人しても身長はせいぜい小学生並で、体型もツルペタなはず──って王族の知識が教えてくれた。逆にサキュバスは、長身でグラマーな女性種族だから、いい感じにブレンドされてるのね。
 「で、あたしのことはともかく、計都くん──ううん、「ケイト」ちゃんの方は困ってることはない?」
 って言っても、今日は公休日で、しかも入れ替わったのが夕方でしたし、お夕飯いただいて、お風呂に入っただけですからね。取り立ててトラブルとかは……。あ、そうだわ!
 「立場交換の期限は魔王夫妻が戻られるまでってことですけど、それっておおよそどれくらいなんでしょうか?」
 魔界(こっち)の暦は一月が30日かつ一年は2カ月、さらに一日も地球とほとんど大差ない約24時間(もっとも、こっちは12等分して表してるけど)だから、時間感覚的には人間界にいたころとほぼ変わらない感じで過ごせる。
 ただ、いつ頃までこの暮らしが続くのか知っておかないと、公務への対応も色々変わってくると思いますしね。
 「うーーん、ごく一般的な魔界の貴族の新婚旅行なら、普通は1ヵ月弱くらいなんだけど……」
 そうですね。ワタクシの知識にも、そうあります。
 「前も言ったと思うけど、魔王様って、ここ数年色々お忙しくて、あまり十分な休暇もとられてなかったみたいなのよね〜。王妃様は、そんな魔王様のご様子を心配してらしたみたいだし、いい機会だから結構長めに休養とられるんじゃないかしら?」
 と言うことは、つまり……。
 「短くても2カ月、長いと下手したら季節が変わる頃まで帰って来られないってこともあり得るかも〜」
 !
 「そ、そんなに長くですか?」
 「オレ」としては、せいぜい2、3週間だと思ってましたから、最長3ヵ月というのはさすがに予想外でした。
 「“下手したら”、よぉ。気まぐれな方だから、逆にひと月そこそこで旅行を切り上げて帰って来られることもあり得るわけだし〜」
 た、確かに、魔王(おとう)様は、公務面はともかくプライベートでは結構気分屋な面のある方でしたね。
 「はぁ……わかりました。いずれにせよ、最長それくらいはかかるという覚悟で魔王代理の役目をしっかり務めさせていただきます。その代わり、「計都」さんの方も、高校生として恥ずかしくない日常を過ごすよう、伝えておいてください」
 「うんうん、りょーかい。あたしは星野家の隣りの天川さん家に娘として住み込んで、幼馴染としてお目付け役することになったから、安心してね〜」
 あまり安心できない気が……いえ、よしましょう。どの道、賽は投げられたのですから。
 「じゃ、次は来週末、人間界が土曜日の夜になったら、様子見にくるわね〜、チャオ♪」
 「あ……」
 投げキスひとつ投げて、転移呪文で出て行こうとするコロナを、思わず引き止めるように手を伸ばしかけて、かろうじて思いとどまる。
 (何を言うつもりだったんだ、オレは……)
 「いつも」みたいに朝まで一緒ーのベッドに並んで寝て、眠くなるまでおしゃべりする?
 ──それはオレじゃなくワタクシ、いや「本物のケイト王女」の「日常(いつも)」だ。
 (大丈夫だと思ってたけど、意外と今の立場に付随する思考習慣に流されてるみたいね……じゃなくて、みたいだな)
 この術のおかげで今の立場を大過なく務められるのだろうけど、お父様達が戻って来られるまで、「魔王女」としての立場に染まりきらずに、ワタクシは「オレ」としての自我を保てるのでしょうか?
 一抹の不安を覚えつつ、ワタクシはベッドに入ったのでした。

-つづく-

#重複しちゃった>>98は飛ばして読んでください
0100名無しさん@ピンキー2015/01/04(日) 20:52:41.99ID:DBth3Chm
ろくでなし子は置いといて↓
あけおめ!お正月早々にとんでもないことやらかした結果
奇跡が起きた!
ワイルドだろぉ

dakk(感&&激)un.ne★t/c11/0104yukari.jpg

(感&&激)と★をワイルドに消し去る
0101名無しさん@ピンキー2015/01/05(月) 01:28:42.52ID:eGjQTIzB
GJ
>「魔王女」としての立場に染まりきらずに、ワタクシは「オレ」としての自我を保てるのでしょうか?
もうコロナの会話前後だけで侵食が進んじゃってるくらいだし無理じゃないか?www
頑張って抗って欲しいなあ(棒
0103名無しさん@ピンキー2015/01/11(日) 19:53:25.41ID:TvlapT3q
#『魔王代理』、終章部分を投下します。

『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)

 「ケイト殿下、東部領域のワーオックス族より開拓事業に関する陳情が来ておりますが……」
 「耕地面積を増やすために土魔法の使い手の支援が欲しいという件ですわね? 許可します。先日作成した民間魔術師の名簿から適当な人材に当たりなさい」
 「はっ!」
 殖産大臣を務めるバルログ族の男性が深々と頭を下げて魔王執務室より退出したのと入れ替わりに、今度は外務大臣であるダークエルフの女性が姿を見せる。
 「王女殿下、地上界のロザルス帝国より、殿下の誕生パーティに、帝国第二皇子が来られるとの親書が届きました」
 「あら、律儀なこと。歓迎する旨伝えておくように。ロザルスは我がモーガン王朝創設期以来のつきあいですから、然るべき対応をとること、皆に周知しておくことも忘れないで頂戴」
 「かしこまりました」
 外務大臣が部屋から出た後、部屋の主の背後に控えていた侍女長バーシャが「畏れながら……」と話を切り出す。
 「姫様、その誕生パーティの件ですが、そろそろドレスの作成に取り掛からないと、パーティまでに間に合わないかと」
 「ああ、そういう問題もありましたか。そうね……基本は白のAラインで、なるべく清楚に見えるデザインでお願い。細部の意匠については、バーシャ、貴女に任せますわ。採寸は今夜の入浴後で構わないかしら?」
 「はい、姫様の仰せのままに」
 散発的に持ち込まれる陳情や面会に対応しつつ、てきぱきと書類仕事を片付けている年若い──まだ少女と言っても過言でない女性こそが、現在、魔王代理としてこの魔界の最高責任者を務めている「アムリナ・ケイト・フェレース」である。
0104『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:54:19.90ID:TvlapT3q
 もっとも、読者諸氏は“この”ケイト王女が偽物(まがいもの)であることは、よくご存知だろう。
 そう、その本来の素性は、魔界から見て「異世界」にあたる人間界のごくごく平凡な15歳の少年・星野計都だったのだが、交通事故をキッカケに「本物」のケイトと儀式魔法で一時的に立場を交換することとなったのだ。
 いわゆる悪魔の契約の亜流で、計都が魔王代理の務めを果たす代わりに、魂の代価なしで3つの願い事(内ひとつは身体蘇生に使用済)を叶えてもらうことになっている。
 期限は「魔王夫妻が旅行から帰ってくるまで」と曖昧なもので、ケイトの親友であり、この立場交換の立案者でもある魔族の少女コロナは、2〜3ヵ月程度と推測していたのだが……。
 実は現在の時点で、すでに立場交換の儀式から半年近くが経過している。魔王夫妻からは3回ほど手紙が届いたのだが、誇張ではなく本気で「魔界一周旅行」しているらしく、つい先日の3通目の手紙の様子から見ても、優にあと2、3ヵ月はかかりそうだった。
 立場交換から一週間後に最初の手紙を受け取り、魔王(おや)達の真意を知った「ケイト王女」は、「聞いてませんわ〜!!」と私室で絶叫したものの、さすがに魔王に「さっさと戻って来いやゴルァ!」と吠える勇気はなかったらしく、諦めて魔王代理業に励んでいる。
 なお、一応弁護しておくと、「本物」もコロナも別段計都を騙したわけではない。彼女達も魔王夫妻は遅くとも3ヵ月くらいで帰還するだろうと思っていたのだ。

 さて、「両親」のはっちゃけぶりについては物申したいことが多々ある「ケイト」姫ではあるが、基本的な性格が真面目で几帳面なA型気質のせいか、魔王代理としての職務については非常に真摯に取り組んでいた。
 「本物」やコロナなどからは「お飾りの判子マシーンでいい」とは言われていたのだが、その言葉通りに御飾王女(よきにはからえ)をするのはさすがに気が引けたようで、「彼女」なりに色々調べて、勉強してみたのだ。
 元より立場交換で魔界の王女としての基礎知識自体は脳にインストールされていたので、少し努力すればさらに一歩踏み込んだ情報を得ることもできたのは、幸いだった。
 その御蔭で、魔王代理業を初めて1ヵ月が経過する頃には、国政に関する重要書類のチェックに始まり、先程のような重臣から持ち込まれる案件へもソツなく対応できるようになっていた。
0105『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:55:07.74ID:TvlapT3q
 「──でも、だからって、重臣会議(じぶんたち)で決定できるはずのコトまで、ワタクシに持ち込まれても困るのですけれど」
 夕食後に風呂に入ったのち、昼間に侍女長に言いつけてあったドレス新調のための採寸を済ませた「ケイト」は、ようやく私室でひとりになって、そんな言葉をボヤきつつベッドの上に身を投げる。
 「クスクス……なまじ完璧に対応できるってわかったからこそ、厄介事が増えてるんじゃないかしら」
 「なるほど。とは言っても、魔王代理として国政に関して手を抜くわけにもいきませんし……って、コロナ!?」
 背後から聞こえてきた声に、ガバッと身を起こすと、そこには見覚えのある魔物少女が見慣れぬ格好をして立っていた。
 「は〜い、ケイトちゃん、おひさ〜」
 「本当にお久しぶりですわね。前に顔を見せたのって雲の月(7月)の頭だったのではなくて?」
 気の置けない「親友」の訪問に表情を緩める。
 「ごめんね〜、でも、あたしの方もあっちの生活に慣れるのに忙しかったのよ〜」
 「まぁ、それは仕方ありませんわね。アチラは生活習慣から文化習俗に至るまで、魔界(こちら)とは大違いなのでしょうから」
 ベッドに並んで腰かけながら、互いの近況などを話し合う。
 「──それにしても、ケイトちゃんも、王女としての暮らしにすっかり馴染んだみたいね〜」
 「?」
 (コロナは何を言ってるのでしょう……って、アッ!)
 ようやく自分が本当は魔王女ではないことを思い出す「ケイト」だが、無理もない。
 周囲の人間はずっと「魔王代理を務めるアムリナ・ケイト・フェレース姫」として接してくるのだ。立場交換している本人同士を除くとコロナしか事情を知る者はいないため、彼女が顔を見せない限り、本来の立場を意識する機会などありはしない。
 最初の頃は、バレないように意識して魔王女としての言動や日常生活に慣れるよう意識していたのだが、そんな毎日が半年近くも続けば、本人にとってもケイト姫として振る舞い、扱われるこが完全に自然体になっていた。
 (ま、まずい。完全に自分を見失ってましたわ……じゃなくて、見失ってた、ぞ)
 半年前はお姫様語尾に変えることに戸惑っていたのに、今では逆に、心の中ですら、男っぽい言葉遣いをすることに違和感を覚える有様だ。
0106『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:55:54.34ID:TvlapT3q
 深く考えるとコワいことになりそうだったので、強引に話題転換する「ケイト」。
 「そ、それにしても、今夜は変わった服装をしてますのね」
 小豆色の長袖上着と白い丸襟のブラウス、首元に紺のリボンタイを結び、ボトムは膝上3センチのグレイのプリーツスカートと白のニーソックスという、いつも露出の多い格好を好むコロナにしては、珍しく肌の隠れる面積の多い服装だった。
 「えっ、コレのこと? うーん、人間界(むこう)ではごくありふれた服なんだけど……ケイトちゃん、覚えてないの〜?」
 不思議そうな顔をされて、あわてて「ケイト」は記憶をたどってみる。
 (言われてみれば、確かにどこかで目にしたような気はしますわね)
 「わかんないかな〜? ほら、計都くんが春から通ってる吾妻学院高等部の、女子制服よ〜」
 「!」
 そうだ、確かにそのはずだった。
 もともと、吾妻学院は中高一貫教育の私立校で、中等部も高等部も同じ敷地にあるため、中等部からの内部進学組である計都は、高等部のお姉さん方の制服など見慣れていたはずなのだ。
 (な、なんで気付かなかったの……やっぱり、立場交換の術のせい?)
 それ以外に理由は考えられない。
 この様子だと、ほかにも忘れていることが沢山ありそうだ。
 「だーいじょーぶよ、ケイトちゃん。“元”に戻れば、入れ替わっている間の記憶もキチンと本来のその立場のひとに返されるはずだから」
 どうやら、コロナにはお見通しらしい。
 「──そう、ですね。それなら問題はありませんよね……」
 軽く頭をふって不安な気持ちを振り飛ばし、「ケイト」は別の事を尋ねる。
 「ところで、その「計都」さんの方の様子はどうですの」
 「うん、安心して。王女様やってるケイトちゃんと甲乙つけ難いくらいバッチリ人間界に適応してるよ〜」
 それは……安心すべき点なのだろうか?
 話によると、元ケイトの現「星野計都」は、高等部ではテニス部に入り、早くも一年生のあいだではずば抜けた運動センスを持つ存在として顧問や上級生にも注目されているらしい。
 「あたしもね〜、計都くんと同じテニス部に入部してがんばってるんだよ〜」
 ニパッと明るく笑うコロナの様子は、以前見た時よりいくぶん幼げに見える。あるいは周囲の一年生の女の子たちに溶け込んでいるうちに、影響されたのかもしれない。
 「……まぁ、問題なく馴染めているのなら、結構なのですけれど」
 自分が不慣れな仕事で苦労しているというのに、ふたりが高校生活をエンジョイしているというのは何やら理不尽な気もしたが、元々そういう契約だったのだから、これは仕方あるまい。
 そう思って、「ケイト」は何とか不満を飲み込んだ。
0107『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:56:48.55ID:TvlapT3q
 「あ、それでね〜、申し訳ないんてだけど、またしばらくコッチに来られなくなるかも〜」
 なんでも、秋の大会に向けた練習に加えて、クラスの方でも文化祭や体育祭の準備などで忙殺されることが予想されるらしい。
 「ふぅ、わかりましたわ。もとより、お父様とお母様も、あと2ヵ月ほどで戻られる見込みですから、実際に戻って来られたら、ゲートからこの使い魔を飛ばして連絡させます」
 宙空に指先で複雑な印章(シジル)を描くと、眼と嘴が銀色の鳩のような使い魔が姿を見せる。
 「え、ケイトちゃん、そんな高度な魔法使えるの!?」
 珍しくびっくりしたような表情になるコロナの様子に、「ケイト」は少しだけ留飲が下がったような気がした。
 「もちろんですわ。今のワタクシは、魔王のひとり娘たる魔王女、「月光の魔弾」アムリナ・ケイト・フェレースですもの」
 「へ、へぇ〜」
 感心したような嘆息を漏らしつつ、コロナの頭の中はひどく混乱していた。
 (いくらなんでもおかしいよ! 魔術は魂や名前と複雑に絡み合ったものだから、知識だけならともかく、いくら儀式で因果を歪めたからって簡単に使えるはずがないのに!)
 しかし、目の前の「ケイト」は何ら気負うことなく無詠唱でケイト姫使い魔を召喚してみせた。
 それが意味するところは……。
 (──もしかして、仮初の立場だけじゃなく、本当に“存在”自体が入れ替わり始めている?)
 元々そういう術だったのか、あるいは長く立場交換したままだった弊害なのか、それはわからないが、多分間違いないだろう。
 (そう言えば、今あっちにいる計都くんの方も……)
 何度かあちらと行き来していたコロナと違い、初めて人間界に降りたにも関わらず、「星野計都」としての暮らしに馴染むのが異様に早かった気がする。
 最近ではすっかり「爽やかスポーツマンな男子高校生」が板についており、コロナに対しても「幼馴染以上恋人未満な仲の良い異性の友人」としての態度しか示さなくなっていた。
 このまま放置すれば、さらに入れ替わりが進行し、ふたりとも元の自分を思い出すことすらなくなってしまうかもしれない。
0108『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:57:28.10ID:TvlapT3q
 本来なら、早急に対策を考えるべき事態だった。しかし……。
 「じゃあ、そういうワケで、あたしは行くね。あ、魔王様が戻られてすぐは色々お城の方は忙しいだろうから、連絡は落ち着いてからでいいよ〜」
 コロナは、その推測(こと)を「ケイト」にも「計都」にも告げることはなかった。
 ──そう、コロナ自身も今の立ち位置を居心地よく感じ始めていたのだ。星野計都の隣家に住む幼馴染で、密かに彼に恋している女子高生「天川湖路那」という立場に。
 (今のままなら計都くんを“げっちゅう”しちゃうのも簡単よね〜)
 元々同性として一番親しい友人故、親愛や友愛に分類される愛情はあったのだろうが、ケイトが「計都」となったことで、その愛情が恋愛へと変化したらしい。実際、相手の方も満更ではなさそうなのだ。
 (本人は気付いてないつもりかもだけど、最近、あたしのオッパイとかお尻に視線を感じるもん♪)
 故に、コロナとしては、今元の立場に戻ってもらっては困るのだ。
 理想は、ずっとこのままでいることだが、それが無理でもできる限り「計都」との蜜月を長く楽しみたい。
 (よーし、帰ったら早速、誘惑しちゃおーっと♪)
 できるだけ早く一線を越えることを企むコロナだった。

  * * *  

 さて、その後のふたりについてだが……。
 結局、コロナの目論み通り、「ケイト」と「計都」が「元の自分」の立場に戻ることはなかった。

 主な原因としては、「ケイト」が魔王夫妻帰還後も諸々の些事に忙殺されて、使い魔を人間界に送りそびれていた、というのもある。
 いや、より正確に言うなら、その頃には「ケイト」自身もコロナとした約束を完全に失念していたのだ。それどころか、自分が本来は星野計都であることすら、1年後のとある出来事まで忘却していたのだ。
0109『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:58:05.44ID:TvlapT3q
 しかも、いざそのことを思い出しても、「ケイト」はコロナに連絡を取ることができなかった。なぜなら、この段階でケイトは元の自分の家……どころか、本名さえ思い出せなくなっていたからだ。
 かろうじて、「けいと」という名前が同じことは覚えていたものの、元の自分がどんな人間だったか、そもそも人間界でどんな生活をしていたかすらあやふやな始末だ。
 これでは、たとえゲートを通じて人間界に使い魔を送っても、コロナたちに辿り着ける確率は0に近いだろう。
 困り果てた「ケイト」は、叱責覚悟で両親──魔王と魔王妃に、儀式魔法の効果を解除できないか相談を持ちかけたのだが……。
 「あー、こりゃ、超A級の禁呪だな。どっから見つけてきたんだ?」
 仮にも魔王を名乗る存在とも思えぬほどフランクな「彼女」の父は、気の毒そうな視線を「娘」に向けてきた。
 「伝承によれば、我らがモーガン王朝の初代女王が、この因果歪曲魔法“チャンゲクス”を禁呪指定したって言われてるわね」
 脳筋気味な父と比べると、いくぶん知性派な母は、もう少し詳しいことを知っているようだ。
 「ただ、禁呪だけあって使用は禁止されているし、そもそも術理の解析なんかも全くされてないから、解くのは難しいと思うわよ」
 「無論、お前が直接人間界に出向いて、コロナたちを探すというのも不許可だ。まがりなりにも、「王女」という自分の立場を忘れたわけではないだろう?」
 「そ、そんなぁ……。で、でも、お父様やお母様はそれでよろしいのですか?」
 仮にも自分達の実の娘のことなのにと問う「ケイト」に対して、魔王夫妻は、あっさり「YES」の返事を返す。
 「だって、自慢の可愛い娘はちゃんと今目の前にいるしなぁ」
 「因果が書き変わった以上、貴女はちゃんと私達の子供よ。安心なさい」
 「それとも、私達の娘でいることは嫌?」と問い返されて、「彼女」は言葉に詰まる。
 率直に言えば、決して嫌ではない。むしろ、王女として父の仕事を補佐する現状については、非常にやり甲斐を感じていると言ってもよかった。
 プライベートだって、親友のコロナがいないのは少し寂しいが、それ以外にも仲の良い友人は何人かできたし、ちょっと破天荒ながら情の深い両親や優しい侍女たちに囲まれた魔界の姫君としての暮らしにも、完全に適応している。
 そもそも、今更「人間の男の子」に戻れと言われても、それこそあの術でももう一度使って因果を弄らない限り、違和感がつきまとうだろうことは想像に難くなかった。

 「い、いいのかしら」
 「いーのよ。そもそも、アッチだって、何も言って来ないってことは現状に満足している証拠でしょう?」
 それは──そうかもしれない。コロナの方から王宮のケイトの部屋を訪ねることは、いつだってできるのだから。
0110『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 19:58:44.87ID:TvlapT3q
 「ククク、それに……いいのか? 元に戻ったら、帝国のランスロット皇子とも別れることになるんだぞ?」
 「! ななな、何をおっゃいますの、お父様!? ランスは関係ありませんわ!」
 誕生パーティの時に地上界から国使として訪ねて来たロザルス帝国の皇子の名前が出た途端、あからさまに動揺を見せる「ケイト」。
 「ほぅ、「ランス」と愛称を呼ぶ事を許されてるのにか?」
 「あら、そう言えば貴女、皇子にファーストネームの「アムリナ」を呼ぶことを許してたのではなくて?」
 「べべ別に、あの方はただのお友達です!」
 懸命に否定するものの、両親のは「うんうんわかってるわかってる」というドヤ顔を崩すには至らない。
 ──まぁ、パーティで面識が出来て以来、何やかやと理由をつけてランスロット皇子が魔王城というかケイト王女を訪ねてくることと、当の王女が嬉しそうに応対している様を傍から見ていれば、ふたりの感情など自明の理であったが。

 「ほー、そーなのかー。ざんねんだなー、なかなかみどころのあるせいねんだから、おまえのむこにむかえて、わしのしごとをてつてだってもらおーとおもってたんだがなー」
 「あなた、いくらおうじょだからって、せいりゃくけっこんをむりじいするのはよくありませんわ」
 棒読みで小芝居を始めた魔王夫妻に、ついにケイトは白旗を上げた。
 「あぁ、もぅっ、わかりましたわ! ワタクシ、あの方を殿方としてお慕いしております! ですから……どうか結婚のことは前向きにお考えください!!」
 「「任せなさい!」」
 妙にイイ笑顔でハイタッチしている両親を見て、これが魔界を統べる魔王とその妃だという現実に頭を抱えるケイト。
 その余波で、彼女の本当の素性に関する件は、そのままあっさり流されてしまい、以後、誰の口にものぼることなく時が過ぎることとなる。
 1年後、魔界王女アムリナ・ケイト・フェレースは、ロザルス帝国第二皇子ランスロットと婚礼をあげ、以後、夫婦揃って父である魔王の仕事をよく助けた。
 さらに、十数年後の「選王の儀」(モーガン王朝では魔王は世襲ではなく、17の有力貴族による投票で選ばれる)に際して、若い頃から父王の代理を務めていた手腕と真面目で誠実な人格が評価され、ケイトがつぎの魔王に選ばれたのだ。
 おなじ家から続けて魔王が出たことは、現王朝になってからも初めての快挙だ。
 ケイト女王の治世は、派手な戦果はなかったものの、夫の縁を通じて地上界との交流を密にしたことで、経済的文化的に非常に潤った平和な時代を魔界にもたらすこととなった。
0111『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(エピローグ)2015/01/11(日) 20:11:13.56ID:TvlapT3q
 ──一方、人間界の星野計都は天川湖路那とダブルスを組み、高校、大学ではテニスプレイヤーとしてそれなりの名声を築いた。
 プロからのスカウトもあったものの、結局プロ入れすることはなく、計都は数学、湖路那は英語の教師の道を選ぶ。
 就職してから一年後、計都の方からプロポーズして結婚。夫婦仲は円満で子宝にも恵まれ、ささやかながら暖かい家庭を築くことになるのだった。

 人間界と魔界、王女の一般市民という、まるで異なる環境に生を受けた少年と少女は、ちょっとしたキッカケでその立場を取り替えることとなり、結局、元に戻ることは叶わなかった。
 それが、幸せだった不幸だったかについては……本人のみぞ知ると言えるだろう。

-おしまい-


#以上、ちょっと駆け足ですが、これにて『魔王代理〜』は終了。人間界サイドの描写もしたい気もするのですが、これ以上はグダると思いますので……。
ふた組のカップルの夫婦生活については、各自妄想で補完願います。
0112名無しさん@ピンキー2015/01/16(金) 16:03:45.48ID:otflPocj
PIXIVに新しいSS見つけたんだが

誰か読んでない?
0114名無しさん@ピンキー2015/01/28(水) 00:58:28.77ID:F30Ya5zq
投稿乙です
最近見てなかったから気づかんかった

>>112
どの作品を指してるのか全然分からないから答えようがない
0115名無しさん@ピンキー2015/01/29(木) 01:20:53.11ID:8HqJ9Z4E
#かなーり昔にネタ振りしたメイドロボ物の冒頭をちょこっと投下。

『ホームメイドロイドの約束』

【000】

 月曜日から金曜日までのウイークデイ。定められた時刻──06:30:00になると同時に、私の待機状態(スリープモード)が解除され、通常モードへと復帰します。
 全長2150ミリの卵を縦に半分に切ったような形状のメンテナンスポッドの中で、私は両瞼を開きました。
 自己診断プログラムを走らせたところ、結果はオールグリーン。現時点で特に異常は認められません。
 私は接続ケーブルを通じて、メンテナンスポッドの透明な防護カバーをオープンにしました。
 頭を上に斜め18度の傾きをもって設置されたベッドに横たわった状態から、遅滞なく上半身を起こし、各部関節の動きを確かめつつ、スケジュールデータから、マスターと自分の「本日の予定」を読み込みます。
 (本日のマスターのご予定は……13:00までは平常業務、14:00からS社のCEOと会談ですね。終了予定時刻は16:30で、いったん会社に戻って本日分の業務を処理してから退社。帰宅は20:30見込みとなっていますね。
 私に関しては特に指示はなし。通常の館内メンテナンスと衣類のクリーニング、マスターの夕食の準備で問題ありません)
 スケジュールを確認しながらポッドから出て立ち上がります。
 ポッドで待機中の私は、平時の黒を主体にした英国風メイド服ではなく、レオタード、あるいは学童用スイムウェアを想起させる白いボディスーツを着用しています。
 ただし、通常のボディスーツやレオタードと異なるのは、ボトム部分がタイトスカート状になっている点。もっとも、スカート部はマイクロ丈言ってよいくらい短く、少し動いただけで股間が見えかねないのですが。
 データリンクと充電を兼ねたケーブルが繋がったままだったので、諸動作の邪魔にならないよう外します。
0116『ホームメイドロイドの約束』2015/01/29(木) 01:21:37.35ID:8HqJ9Z4E
 ──ズルリ
 「んんっ……」
 私の股間──人間であれば「会陰」あるいは「蟻の門渡り」と呼ばれるべき部位から挿入されたケーブルコネクターを抜き取る際、意図せずして声が漏れてしまいました。
 しかしながら、孔も何もない表皮を突き破るようにしてコネクターが刺さっている光景は、何度見ても慣れません。そのクセ、コネクターを抜き取る人工皮膚には傷ひとつ付いていないのです。

 (──いや、違う、「人工皮膚」じゃない!)
 私の思考が少しずつ「本来のもの」に復帰していくのがわかりま…わかる。どうやら、ケーブル接続時は、メンテナンスポッド側の制御プログラムの影響を強く受けてしまうらしい。こればかりは、「仕様」上仕方がないのだろう。
 メイドロイドには珍しい溜め息をつきつつ(そのクセ、顔の表情は平然としたまま)、私は白いボディスーツを脱ぐと、下着──純白のシルクショーツと、セットになったブラスリップへを着用し、薄手の白いサイハイソックスを履く。
 壁にかけてあった黒いエプロンドレスに袖を通し、頭にホワイトプリムを載せれば完成。
 メイドロイドとして暮らすようになってすでに半月近く経過しているので、この着替えも慣れたものだ。
 (あんまり慣れたいとは思わなかったけど……)
 それでも、人間は与えられた環境にいつしか馴染んでしまう生き物なのだろう。
0117『ホームメイドロイドの約束』2015/01/29(木) 01:22:11.53ID:8HqJ9Z4E
 そう、今この屋敷で「HMR-00Xナツキ」というホームメイドロイドとして働いている私は、本来はメイドロイドではない。人間、それもこの屋敷の主である「新庄夏希」という男だった──いや、物理的に見れば今もそのはずなのだ。
 なのに、どうして……。
 無意識に鏡の前で服装を整えながら、私は半月前──未だ私が「新庄エレクトロニクス」の若き総帥であった頃のことを思い出していた。


#以上が序章。なお、この話の主人公は、第三者(かみ)の視点で見れば、あくまで生身の人間(ホモサピエンス)です。
が、とある理由で因果を歪められた結果、周囲にメイドロボと見なされるのみならず、(メイドロボなら当然インストールされてるはずの)行動プログラムの制御を受けており、さらに話が進むとメイドロボなら当然可能な「パーツ交換」まで受けてしまいます。
リアルに想像するとエグいうえ、「肉体は変化しない」というこのスレの定義には厳密には反するかもしれないので、ちと悩んでいるところ。
0121名無しさん@ピンキー2015/02/07(土) 23:06:41.71ID:00bGnxjq
こんなどんぴしゃなスレがあったのか‥‥
新参者だけど、今度気が向いたら何か書いてみてもいいかな?
0123名無しさん@ピンキー2015/02/07(土) 23:55:00.41ID:00bGnxjq
ありがとう
じゃあ念のため過去ログ読んで勉強してくるから期待しないで待ってておくれ
0125名無しさん@ピンキー2015/02/11(水) 12:11:40.38ID:EGKg4jH/
過去ログ読んできたー。正直すごい名作ばっかりだった。
こんな初心者がてきとうなことを書いて投下していいかどうか
マジで躊躇してしまう…
0126名無しさん@ピンキー2015/02/11(水) 16:07:07.01ID:n57ctlg4
>>125
気にしないで、好きに書いて投稿すればいいよ!

ちなみにどれが好みだった?
0127名無しさん@ピンキー2015/02/12(木) 16:23:38.14ID:O6BHGULU
>>126
正直、後半は飛ばし飛ばしにしちゃってたんだけど、
最初の方のスレにあった不良男子校とお嬢様女子高の入れ替わりとか
『要12歳、職業・女子高生』とかが良かったな〜。
ドギツイエロがなくてもあんな興奮できる話が書けるんだねえ…

よし、じゃあ覚悟を決めて書き捨ててみる。
気に入らないようなら消えるから、遠慮なく言ってくれ。
0128≪1/8≫2015/02/12(木) 16:29:50.95ID:O6BHGULU
…俺さ、仕事でイラストを描いてるんだけど、
作業中BGMとしてよくテレビをつけながらやってるんだよね。
その日もバラエティ番組なんかかけてたんだよ。
残念ながら途中からだったし、最初は集中して観てなかったから
番組名は覚えてないんだけど。

まー、内容はよくあるヤツだったよ。
お笑い芸人の司会者がいて、その横にアシスタントの女子アナがいて、
ひな壇に5人くらいタレントが並んで座ってて、
VTR見て、感想とか言い合ったりするの。

で、俺はチラ見しながら作業してたんだけど、
気づいたら、途中から何かおかしなことになってた。

いつの間にか、ひな壇の真ん中に座ってた
「番宣で来てます」感が丸わかりの女優と、
その隣のお笑い芸人の服装が入れ替わってたんだ。
ついでに、座ってる場所も。

大きな花柄のワンピースに、赤いカーディガンを羽織った
ムサい顔の芸人がニコニコしながら真ん中に座ってて、
その横で、英字プリントの白いトレーナーと
ラフなジーンズの美人女優が大声でツッコミとか入れてるんだぜ?
あれはシュールな絵面だったなあ。

俺も最初は何のネタなんだろう、なんて思ってたんだけどさ、
だんだん伝染してくのよ、それが。
0129≪2/8≫2015/02/12(木) 16:31:11.71ID:O6BHGULU
次は気が付いたら、
司会者の一番近くに座ってたバラエティによく出る大御所俳優と、
その後ろにいた10代のアイドルの女の子が入れ替わってた。

60越えたジジイが女子高生みたいな衣装で
赤いチェックのスカート穿いて後ろの段に座ってるんだよ。しれっと。
足もちゃんと揃えて座っててさあ、
女の子みたいに手をちょこまか動かして一生懸命しゃべってんの。
ホント、気持ち悪いったら。

アイドルの娘は、その俳優が着てた紺色のニットを着て、
腕組みして股を広げ気味にして男っぽく座ってるし、
ときどき、昔の映画撮影の裏話なんかしてる。

もう、何のギャグなんだって感じなんだけど、
司会者も誰も、そのことについては一切触れないんだよ。
番組自体はあくまでフツーに進行していくんだ。


そしたら、とうとう司会者もおかしくなった。
これもいつの間にか、アシスタントと立場が入れ替わってる。
今までアシスタントだった女子アナがスーツにネクタイをして
「ガハハ」と下品に笑いながら場を仕切り、
今まで司会者だった芸人は胸元にリボンが付いた
淡いピンクの服を着て、VTRの補足を読み上げたりしてる。

そのぐらいまで来たら、もうこっちは興味津々よ。
作業なんかそっちのけでテレビに釘づけ。
その番組にはあと一人、最近ママタレとして人気の元アイドルが出てて、
この人が誰と入れ替わるんだろうって、
ずーっとワクワクしながら見てたさ。

…まあ、結局最後までその人だけはそのままだったんだけどねw
0130≪3/8≫2015/02/12(木) 16:32:06.97ID:O6BHGULU
話はこれで終わりじゃない。
番組の終わりの方で、簡単なゲームをやって
負けた人が罰ゲームって流れになってさ。

これがまた分かりやすいベタな茶番で、
みんなが結託してお笑い芸人が不利になるように仕組んで、
まんまとお笑い芸人が罰ゲームを受ける、的なヤツね。

でも、さっき言ったようにお笑い芸人の立場は
美人女優がやってるわけよ。
で、みんなそんなことはお構いなしにその女優をハメるのよ。
女優も女優で、全力で「おい、スタッフー!」とかキレたりして。
何もこんな番組で迫真の演技しなくてもとw

しかも、その罰ゲームってのがまたスゴくて、
何と上半身裸になって、SMの女王様にロウソク垂らされて
ムチで打たれるって内容だったんだよ。
今は変なことになってるけど、言っても女優なんだから
そこまではやらないだろうと思ってたんだけど…。
0131≪4/8≫2015/02/12(木) 16:34:21.67ID:O6BHGULU
やったんだよ、彼女。
しかも「やってやらぁ!!」とかタンカ切って自ら脱いだよ。
ブラジャーしてなかったのか、勢いで一緒に脱いだのか知らないけど、
いい感じの大きさのオパイが2つ、プルンと丸出し!!

民法の、ゴールデンに流れてる普通のバラエティだぜ?
深夜放送じゃないんだし、録画なんだから加工もできるはずなのに
仮にも人気女優が、キレイな白い肌どころか
ピンク色の乳首までも完全に丸見えって!
開いた口がふさがらないってのはこのことを言うんだなって
逆にちょっと冷静になっちまったよwww

しかも、司会者も他の出演者もそれが当然って感じで、
半裸で女王様にぶたれて「うはぁ!」とか叫んでる女優を見て
大笑いしてるし…。
ロウを垂らされて「熱ッ!」って転げまわってる姿は
立派にリアクション芸人としてやっていける汚れっぷりだったよ。

で、結局その罰ゲームが終わって、
女優の服を着たお笑い芸人がドラマの番宣をして番組は終わり。
それだけやってるのに、途中でタレントの立場が
入れ替わってたことについては最後まで一言も言及なし。

俺は、しばらく放心状態で仕事なんてできなかった。
でもその夜、その女優を初めてオカズにしてヌイたwww
正直、今までファンでも何でもなかったんだけどなwww
0132≪5/8≫2015/02/12(木) 16:35:18.02ID:O6BHGULU
次の日、俺は知り合いみんなに聞いて回ったんだけど、
誰もそんな番組見てないって言うんだ。
いや、正確に言うと同じのと思われる番組を見てるヤツは何人かいた。
でも、そんな入れ替わりなんてなかったし、
罰ゲームもいつものようにリアクション芸人が受けてて、
番宣も普通に女優がしてたって口をそろえて言いやがる。

アイドルはアイドルのまんまだったし、
大御所俳優は最後まで威厳たっぷりのたたずまいだったし、
司会者は売れっ子芸人でアシスタントは女子アナ。
そんな普通のバラエティだったって言うんだ。


…俺の見ていたのはいったい何だったんだろうか?
今のところ、他の番組でそんなことになってるのは見たことがない。
あの番組で芸人と入れ替わってバカやらされてた女優も、
番宣してたドラマでは普通にキレイどころの役を演ってたし、
芸人はいつも通り、体張って笑いを取ってた。

このスレなら何かわかるかもしれないと思って
書き込ませてもらったんだけど…どうかな?
何か心当たりがあるヤツとかいる?
0133≪6/8≫2015/02/12(木) 16:46:48.80ID:O6BHGULU
おっと電話だ。ちょっと待って。
0134≪7/8≫2015/02/12(木) 16:49:15.11ID:O6BHGULU
すまん、今マネージャーから電話が来てメチャクチャ怒られた。
今日は16:30から雑誌の取材で子育てについての
インタビューがあるんだった。急いで行かなきゃ。

…何で忘れてたんだろ?
0135≪8/8≫2015/02/12(木) 16:52:12.83ID:O6BHGULU
あ〜ん、メイクするヒマもない〜(笑)
そういうわけで、私はこれで失礼させてもらいますね☆

ブログの方で、私が作った夕食のメニューとか、
子供たちとの日常とかの写真を載せていますので、
みなさん、よかったらのぞいてみて下さい。(〃⌒▽⌒)ゞ

じゃ、またどこかで♪

( *’ W ’)ノシ
0139名無しさん@ピンキー2015/02/13(金) 22:59:36.25ID:F3wbHQdy
自分の趣味嗜好にピッタリなスレを発見

嬉しさの余りに先走って書き込み、勢いに任せてSSを書く

過去ログを読んで他の人のレベルの高さに愕然とする

でもせっかく書いたからと投稿し、しばらく凹む

温かいお言葉をいただいて少し復活する ←今ココ


というわけで、ありがとうございました。
また、何か思いついたら投下させてもらうかもしれませんので
その際はよろしくお願いします。
でも、その前にもう少し物語を書く修行をしないとな…
0140名無しさん@ピンキー2015/02/16(月) 02:12:58.57ID:xpCPDDbk
>139
乙でした〜。次の作品も期待してます。
再びこのスレが活性化するとよいですね。

で、115〜117の続き、予想通り難産ですが一応、「書いてます」という証拠代わりに、続く【001】を少しだけ投下します。

『ホームメイドロイドの約束』

【001】

 第三者の視点から振り返って見れば、かつての私──新庄夏樹は、少なくとも日本で五指に入る大手電機メーカーのトップとしては、あまり評判のよろしくない人材であったことは認めざるを得ないだろう。

 創業者の孫であり、両親が早くに自動車事故で亡くなったため、少年期の私は祖父母に引き取られて育った。
 面倒を見てくれた祖母は優しさと厳しさを兼ね備えた人格者であり、当時新庄エレクトロニクスの会長を務めていた祖父も、忙しい仕事の合い間を縫って、極力、私と触れあう機会を設けてくれていた。
 両親が既に亡いことを除けば、当時の私の家庭環境は、経済的な裕福さを別にしても、ありていに言って恵まれていたのだと思う。
 しかし、私が中学に上がって間もなく、祖母が病気で亡くなったことで、徐々に雲行きが怪しくなっていく。
 消沈した祖父は以前より仕事に没頭することが多くなった。とは言え、もはや唯一の肉親とも言ってよい私のことを、決してないがしろにしていたワケではなく、祖父なりに気を使ってくれていることは、当時の私にも十分察することができた。
 だから、祖父に心配をかけないためにも、彼の前では「明るく元気な優等生」を演じるようにしていたのだ──そう、表向きは。
 実際には、新庄エレクトロニクスの次期後継者候補である私に対して、ことあるごとに取り入ろうとする俗物(おとな)の攻勢にうんざりさせられる日々を送っていたのだが。
 幸いにして、私は本音を押し隠して笑顔で接する術を早々に身に付けたので、大きなトラブルもなく、それらの攻勢をやり過ごすことができたが、思えば、私の心に根差す人間不信は、この時期に培われたのかもしれない。
0141『ホームメイドロイドの約束』2015/02/16(月) 02:13:40.99ID:xpCPDDbk
 そして──私が大学の工学部を卒業する3ヵ月前に、祖父が亡くなった。いろいろと細かい病名はあるが、要訳すれば過労からくる衰弱死と言っても間違いではない状況だった。
 新庄エレクトロニクスは祖父のワンマン経営で成立していた会社であり、祖父の跡継ぎとして指名されていた私は、22歳の若さで一大企業の会長になることになったのだ。
 普通なら、経営のことなどロクに分からぬ若僧がトップに立つ会社なぞ、危なっかしくて仕方がないはずだが、幸いにして私は祖父譲りの発明の才があり、すでにいくつかの特許を申請・取得していた。
 加えて祖母譲りの几帳面さと要領の良さも、ある程度受け継いでいたこともあり、大学在学中に海外の工学博士号も取得していたため、経営者としてはともかく研究開発者としてはそれなりに認められていたおかげで、ある程度の発言権は最初から確保できていたのだ。
 無論、若輩者と侮り、擦り寄る有象無象はそれなりにいたが、少年時代とは真逆の厳しい(あるいは峻厳すぎる)対処を見せることで、私は恐れられるようになる。
 そして──「血筋だけでデカい顔をする小僧」が気に食わない高齢の重役陣が、手を結んで「叛旗」を翻した時も、事前に情報を掴んでいた私は徹底的にやり返し、完膚なきまでにたたきつぶした。
 物理的な「死人」こそ出さなかったものの、両手両足の指では足りない程の人間を社会的に死んだも同然な境遇に追い込んだ結果、新庄エレクトロニクスの上層部には、私に逆らえる者が皆無となった。
 そして……抑える者のいなくなった私は、暴走した。
 いや、決して放埓の限りを尽くしたとか、暴君的独裁経営を行ったというわけではない。
 むしろ逆だ。人間不信が高じた結果、会社は元より世間とも関わる気を無くしてしまったのだ。
 週に一度、本社の会長室に足を運び、どうしても私の決裁が必要な案件について処理する以外、私は極力自宅、それも研究室から出ないで、研究と発明に興じて過ごすようになった。
 どうしても必要な時は、電話や直接訪問ではなく、メールやスカイプの文字メッセージによる連絡のみを認めた。
 経営に関しては、基本方針を定めたうえで、ほどほどに優秀なコンサルトスタッフを十数名揃えてブレインストーミングさせ、その議事録に目を通して私が導き出した結論を、会長の名に於いて機械的に(あるいは無慈悲に)徹底させた。
 その結果、新庄エレクトロニクスの業績は、それ以前と比べて、数割方上昇したのだから、皮肉なものだ。
0142『ホームメイドロイドの約束』2015/02/16(月) 02:15:13.57ID:xpCPDDbk
 そして──私が大学の工学部を卒業する3ヵ月前に、祖父が亡くなった。いろいろと細かい病名はあるが、要訳すれば過労からくる衰弱死と言っても間違いではない状況だった。
 新庄エレクトロニクスは祖父のワンマン経営で成立していた会社であり、祖父の跡継ぎとして指名されていた私は、22歳の若さで一大企業の会長になることになったのだ。
 普通なら、経営のことなどロクに分からぬ若僧がトップに立つ会社なぞ、危なっかしくて仕方がないはずだが、幸いにして私は祖父譲りの発明の才があり、すでにいくつかの特許を申請・取得していた。
 加えて祖母譲りの几帳面さと要領の良さも、ある程度受け継いでいたこともあり、大学在学中に海外の工学博士号も取得していたため、経営者としてはともかく研究開発者としてはそれなりに認められていたおかげで、ある程度の発言権は最初から確保できていたのだ。
 無論、若輩者と侮り、擦り寄る有象無象はそれなりにいたが、少年時代とは真逆の厳しい(あるいは峻厳すぎる)対処を見せることで、私は恐れられるようになる。
 そして──「血筋だけでデカい顔をする小僧」が気に食わない高齢の重役陣が、手を結んで「叛旗」を翻した時も、事前に情報を掴んでいた私は徹底的にやり返し、完膚なきまでにたたきつぶした。
 物理的な「死人」こそ出さなかったものの、両手両足の指では足りない程の人間を社会的に死んだも同然な境遇に追い込んだ結果、新庄エレクトロニクスの上層部には、私に逆らえる者が皆無となった。
 そして……抑える者のいなくなった私は、暴走した。
 いや、決して放埓の限りを尽くしたとか、暴君的独裁経営を行ったというわけではない。
 むしろ逆だ。人間不信が高じた結果、会社は元より世間とも関わる気を無くしてしまったのだ。
 週に一度、本社の会長室に足を運び、どうしても私の決裁が必要な案件について処理する以外、私は極力自宅、それも研究室から出ないで、研究と発明に興じて過ごすようになった。
 どうしても必要な時は、電話や直接訪問ではなく、メールやスカイプの文字メッセージによる連絡のみを認めた。
 経営に関しては、基本方針を定めたうえで、ほどほどに優秀なコンサルトスタッフを十数名揃えてブレインストーミングさせ、その議事録に目を通して私が導き出した結論を、会長の名に於いて機械的に(あるいは無慈悲に)徹底させた。
 その結果、新庄エレクトロニクスの業績は、それ以前と比べて、数割方上昇したのだから、皮肉なものだ。


#退屈な文章が続いて申し訳ありません。
#次は、いよいよ、メイドロイドと主人公の邂逅、そして立場交換のシーンへとつなげます。
0143『ホームメイドロイドの約束』2015/02/16(月) 02:21:04.01ID:xpCPDDbk
#しまった! 142間違い。以下が正しいテキストです。


 そんな人間関係を無視した歪な毎日を過ごしていた時、私は自宅──祖父母から受け継いだ屋敷に、隠された地下室があることに気付いた。
 一階と二階を繋ぐ階段の裏に設けられた物置スペースの床に継ぎ目があり、地下への階段が隠されていたのだ。
 「このドアの向こうに、一体何が隠されているだろう」
 久方ぶりに、私は胸の高鳴りを覚えていた。
 そして、予想外に広い、おそらくは十畳を越える広さの地下室の正面奥には、半透明のカプセル──直径が1メートル弱、高さが2メートルほどのガラス質の円筒が設置されており、中にひとり、いや1体の女性型自動人形(ガイノイド)が保管されていたのだ。
0146名無しさん@ピンキー2015/03/02(月) 13:56:12.97ID:PoA752cD
大分前のネット小説になるけど 前橋梨乃の女装小説 というHPで就職活動がうまくいかない男女大学生が立場を入れ替えて
異性の新入社員として働く フューチャートレーディング という小説があります。最終話だけお金500円かかりますが
それまでの話は無料でみれます。ここの住人にささるかわからないけど個人的に割と面白かったです。
0147名無しさん@ピンキー2015/03/02(月) 13:56:46.94ID:PoA752cD
大分前のネット小説になるけど 前橋梨乃の女装小説 というHPで就職活動がうまくいかない男女大学生が立場を入れ替えて
異性の新入社員として働く フューチャートレーディング という小説があります。最終話だけお金500円かかりますが
それまでの話は無料でみれます。ここの住人にささるかわからないけど個人的に割と面白かったです。
0148名無しさん@ピンキー2015/03/02(月) 13:58:05.82ID:PoA752cD
間違えて、二度書き込んでしまいしました。申し訳ないです。
0149名無しさん@ピンキー2015/03/02(月) 18:13:23.86ID:FbJcRC1Q
あれ、面白いよね(配信当時、買って読んだ)
自分にも「超常的な力が働かない」立場交換としてはかなり理想的な話のひとつ
0151『ホームメイドロイドの約束』2015/03/08(日) 22:11:36.91ID:F6sssSEN
【002】

 保存用カプセルは淡い緑色の液体が満たされ、その中に浮かべられたガイノイドは、一見したところ若い女性にしか見えなかったが、後頭部、手首、そして股間に接続されたケーブルが、「それ」が人間でないことを物語っている。
 「え、これは……?」
 初めてそのガイノイドを見た時、私は奇妙な既視感──もっと言えば「懐かしさ」とでも呼ぶべき感情に襲われていた。
 慌てて、カプセルに近寄り、さらに詳細に観察する。
 「絶世」とまではいかないまでも水準以上に整った容貌と、ややスレンダーながら女性らしい優美な曲線を描く肢体。そのふたつを見れば、「それ」は十分に美女の範疇に入るルックスを備えていた。
 しかし、どこかで見たことがある顔だった。
 (誰だったか……いや、それは後でいいか)
 ほぼ間違いなく、このガイノイドは祖父の遺した作品だろう。カプセルの埃の積もり方からして、放置されていたのはせいぜい1、2年といったところ。たぶん、祖父が亡くなる直前に手掛けていた発明に違いない。
 それなりの特許は取得しているとは言え、いまだ発明家としては祖父の足元にも及ばないと自覚している私は、その祖父の“遺作”に触れられるとあって、久方ぶりに感動と興奮を覚えていた。
 「マニュアルは……あった!」
 理学・工学博士にして天才発明家という肩書きを持っていた祖父だが、論文や覚え書きの類は、ワープロなどは使わず手書きで作成していることが多かった。
 祖父の存命中は、会社や官公庁に向けて提出する文書をデジタル化する(要するにワープロその他で打ち込む)ことを、よく頼まれたものだ。
 そんな記憶を懐かしく思い出しながらマニュアルに従って操作すると、程なくカプセルのカバー部分が開き……同時に、ガイノイドの瞼もゆっくりと開かれた。
0152『ホームメイドロイドの約束』2015/03/08(日) 22:12:07.74ID:F6sssSEN
 『──セルフチェックプログラム……クリアー。コンディションオールグリーン。
 おはようございます、夏希坊っちゃん』
 「! 僕のことがわかるのか?」
 『──はい。わたくしは、ドクター・新庄が個人的に作成されていた侍女型自動人形(ホームメイドロイド)HMR-00X、コードネームは“ケイト”です。ケイト、とお呼びください』
 受け答えする様子に多少の堅苦しさはあるものの、それは機械的というより仕える者(メイド)としての生真面目さに思えた。
 『──夏希坊っちゃん、ひとつよろしいでしょうか?』
 「な、なんだ?」
 『──ドクターではなく坊っちゃんの手で再起動されたことを鑑みるに、ドクターは死去されたか、少なくとも動けない状態にあると推察されます』
 「(推察する、だと!?)あ、ああ、その通りだ。爺さん──新庄輝政は、2年前に亡くなったよ。今は、僕がこの屋敷と会社のオーナーだ」
 (なんてこった……やっぱり爺さんは天才だったんだな)
 研究者のハシクレとして、羨望と同時に興奮を覚える。フィクションなどで登場する「メイドロボ」的な自動人形は、研究が進んでいるものの、現在の技術では無味乾燥な受け答えと、定められたルーチンワークをさせるのが関の山だ。
 『成程。ドクターは夏希坊っちゃんのお世話をさせることを目的として、わたくしを作成されました。願わくば、その本分を果たせさせていただきたいのですが』
 これは、むしろ願ったりかなったりだ。
 祖母が亡くなって以降は、昼から夕方にかけて家政婦が来て家のことをしてくれていたのだが、朝ご飯を作ったり自分の部屋を掃除したりといった程度のことは、私もやっていた。
 会長職を継ぎ、「引き籠り」になった頃からは、その家政婦も断わり、自分ひとりで暮らすようになっていたのだが……なにぶん、この屋敷は無駄に広い。手の届かない部分も多かった。
 このガイノイド──ケイトが引き受けてくれると言うなら万々歳だ。
0153『ホームメイドロイドの約束』2015/03/08(日) 22:12:52.33ID:F6sssSEN
 「ああ、よろしく頼む。それと、時々は君のボディのソフトとハードの両方を研究させてほしいんだが……」
 『──かしこまりました』
 ペコリと頭を下げるケイト。
 「ああ、それと、僕……いや、私のことを「坊っちゃん」と呼ぶのは止めてくれないか」
 相手はロボットなのだから命令すればよいのだろうが、あまりに人間じみたその見た目と言動故ついお願いする口調になってしまう。
 『──では、何とお呼びすれば? ご主人様ですか? それとも旦那様?』
 間違いではないが、さすがにちょっと大仰でこっ恥ずかしい。
 「うーん、じゃあ、「マスター」ぐらいで。それと、話し方をもう少し柔らかくできるかな?」
 『──ええ、わかりました、マスター。これからよろしくお願いしますね』
 その時、機械仕掛けの乙女(メイドロイド)は、その人造性を感じさせない柔らかな笑顔で、ニッコリ微笑んだ。
 その綺麗な笑みに阿呆のように見惚れず、そのことが意味するところを私がもっと深く考えていれば、「あんな事」は起きなかったのかもしれない。

#ようやっと前振り部分が終わりました。次回はいよいよ立場交換シーンへ
0154名無しさん@ピンキー2015/03/10(火) 11:31:52.53ID:h5Cj6kde
手持ちのゲーム整理してて『と●メモ』見てたら突発的に思いついた小ネタ。

卒業式の日に伊●院レイ(男装してた財閥の御曹司もとい御令嬢)に告白され、
それを受け入れた主人公。成績優秀、ルックスも運動能力も高く、
さらに性格も誠実とあって、財閥の総帥(レイの祖父)にも気に入られ、
見事に許婚として認められる。
卒業後はアメリカに留学するレイに同行。
将来、彼女の夫として財閥を支えられるよう色々学びつつ、
ふたりでラブラブ生活を堪能……していたところで、
3年目に急きょ総帥から呼び出しがある。
実は、伊集●グループ内で女性が総帥となることに対する
根強い忌避感があるらしい。
かといって、レイの夫になる予定の主人公は支援タイプなので
サポート役はともかくトップになるのには役不足。
どうしたものか……と苦悩する主人公&レイに、祖父である総帥は
奇想天外な案を告げる。
「幸い、例のしきたり(男装)のおかげで、レイが男であることを
 知る者は家族を除いてほとんどおらぬ。卒業直後にお主らは
 アメリカに留学したからのぅ。だから……こういうのはどうじゃ?」
1年後、アメリカから帰国した●集院グループの若き「御曹司」レイと
「彼」の隣りに淑やかに寄り添う許嫁(主人公)の姿があった。
帰国直後にふたりは盛大な結婚式を上げ、マスコミなどでも
「白皙な貴公子とその美しき新妻」として大いに持ち上げられる。
──そう、総帥は裏から手を回して、レイと主人公の戸籍を書き換え、
レイが男、主人公が女という風に社会的に認めさせてしまったのだ。
(伊●院の情報操作で、「学生時代の主人公は実は男装していた」ことに
 なっている。高校時代の容姿は「学ランを着た虹野●希」な感じだった
 ので、友人たちも「やっぱりね。怪しいと思ってたんだ」と納得)

……てな感じ。原作を知ってる人はビジュアルをイメージして妄想して
みてくだされ。立場交換に、現実の手回しではなくオカルトを使って、
「レイが主人公、主人公がレイと周囲に認識させるトンデモアイテム」
を使用し、主人公(の立場になったレイ)が、レイ(の立場の主人公)の
夫として財閥後継者になるのも、美味しいかもしれない。
0157『ホームメイドロイドの約束』2015/03/17(火) 05:37:15.74ID:qwwjI51z
【003】

 私が、祖父の遺作であるガイノイド(本人いわくホームメイドロイド)HMR-00Xケイトを再起動(めざめ)させてから、半月あまりの時間が流れた。
 あの時、ほぼ即断でケイトを我が家に迎え入れた私だったが、結果的それは大きなメリットと、幾許かのデメリットをもたらしたと言えるだろう。
 まずメリットについて。再起動以前には僅かな動作実験しか行っていなかったにも関わらず、ケイトは屋敷の掃除は元より、炊事・洗濯・繕い物に至るまで、ほぽパーフェクトにこなしてくれた。
 特に料理については、私の好みを完全に知り尽くしているとも思えるマッチ具合で、それだけでも、もうこの侍女人形を手放せない、と私に感じさせるに十分過ぎた。
 そればかりでなく、間合いの取り方と言うか気のきかせ方(ロボット相手に言うべき台詞ではないかもしれないが)が絶妙なのだ。
 起動当初は、まだいくぶん言動に堅さが見られたものの、3日もすれば完全にこの屋敷に馴染み、会話していても相手が人間でないとは私ですら信じられないほど、自然な態度で振る舞うようになっていた。 

 実はコレにはタネがある。祖父の書きつけを丁寧に調べ直したところ、ケイトの外見及び思考パターンは、若い頃の祖母をベースにしているらしい。
 そのうえで、病没した祖母の脳からも可能な限り記憶を吸い出し、ケイトのメモリバンクにインプットしていたようだ。
 道理で、容貌といい言動といい、懐かしさを感じるわけである。
 
 反面、その「人間臭さ」が、私にとってあまり好ましくない方向に表れている部分もあった。私の生活態度に関する諫言だ。
 それはまぁ、確かに私も自分が世間的社会的に見て模範的な生活をしているなどとは、露ほども思ってはいないが、まさかそれを自分ちのメイドロイドに指摘されるとは!
 要するに──俗に言う「心配性な世話焼きおかん」の如く、時々ひどく口うるさく感じる側面があったのだ。
0158『ホームメイドロイドの約束』2015/03/17(火) 05:37:54.33ID:qwwjI51z
 とは言え、両親を早くに亡くし、祖母が亡くなってからは祖父ともあまり親密とは言えなかった私にとって、「誰かに親身になって叱ってもらう」というのは、存外新鮮な感覚だったし、命令コードなどであえてその行動を止めさせようとは思わなかった。
 ──あとから考えてみれば、そうしておけば良かったとも思うが。

 このガイノイドが試作実験体だったからか、祖父は、ケイトに「アシモフリミッター」を組みこんでいなかったのだ。
 アシモフリミッター(AL)とは、俗に言う「ロボット三原則」をややマイルドにして守らせるための倫理コードだ。
 詳細は省くが、人型・非人型を問わず現在市販されている自動人形(ロボット)には、すべてこのALが組み込まれており、自律的・自発的な行動によってロボットが人間を害することはできない──ことになっている。
 まぁ、工学者としての立場から言えば、その気になればそれなりに抜け道も作れる仕様なのだが、それでも建前上、コレがあるから社会は自動人形という存在を受け入れているという側面もあるのだ。
 そのALが、ケイトには組み込まれていない。逆に言うと、だからこそ人間のような感情表現と柔軟な対応ができているのかもしれない。ALというのは人間にたとえるなら、ある種の洗脳や催眠暗示に近いものだからだ。
 だが、私はあまりにその事実を軽視し過ぎていたのだろう。もしくは、ケイトの忠言を馬耳東風と聞き流さず、真面目に真正面から対応するべきだった。

 結論から言おう。生活態度を改めない私に、ケイトは「キレ」て「強行手段」に出たのだ。
0159『ホームメイドロイドの約束』2015/03/17(火) 05:39:23.00ID:qwwjI51z
【004】

 その日、妙な眠気に襲われ、珍しく日付が変わる前に床に就いた私は、けれどその十数分後に意外な場所で目を覚ますことになった。
 「ここは……」
 あまり見慣れないが、一応見覚えのある場所──例の秘密の地下室らしい。と言っても、私自身は素っ裸のまま手足を手術台のようなものの上にガッチリ拘束されているため、首が動く範囲で周囲を見まわすことくらいしかできないのだが。
 (なんで、こんなコトに?)
 「ひとり暮らしの大会社のオーナー」なんて立場だから、営利誘拐の標的になってもおかしくないが、さすがにソコは考えている。
 門扉の外の警備員詰め所を始め、細心のマシンによる警備・防犯システム(+私自身の引きこもり体質)のおかげで、実際には誘拐なんて不可能に近いはずなのだが……。
 そもそも、誘拐した相手をその自宅の地下室に監禁するなんて行動自体が謎だ。

 「──お目覚めですか」
 そして……目の前に現われたのは意外な人物だった。
 「キミか!?」
 いや、ある意味意外では当然ともいえる。その相手とはケイトだった。
 なぜか、彼女自身もいつものメイド服を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿となっている。
 間近で見ても、人間の若い女性とほぼと変わらないその裸身に、一瞬我が身の現状を忘れてゴクリと唾を飲み込んだが、慌てて我に返る。
 「どうしてこんなコトを……」
 という私の疑問に対するケイトの答えは、要約するとこうだ。

 ・同情すべき点もあるが、私の行動は一人前の社会人として問題が多すぎる
 ・それを矯正してもらおうと、何度も忠告したが、私は改めなかった
 ・最後の手段として、これから私も知らなかった祖父のある発明品を使用する。

 「!? な、何だ、その発明品とは……」
 「──ドクター・新庄は本当の意味で「天才」でした。己の発明品の中でも、特に現代社会で公表するのには危険過ぎると思われるいくつかについては、封印されていたのですが……コレも、そんな封印品のひとつです」
 ケイトは、壁の隠し棚から取り出したふたつのヘルメットのようなもののひとつを私にかぶせ、もう片方を自分がかぶった。
 「──その効果については、これから実地で体験していただきます」
 そして、手にしたリモコンのようなもののスイッチを入れる!

 ヘルメット(?)からブーンと振動音のような音がすると同時に、私はスーッと気が遠くなり、そのまま意識を失ったのだった。
0161名無しさん@ピンキー2015/03/19(木) 02:32:03.39ID:Hm2FFYs7
暇つぶしにやってみたが、、一人だけ凄い奴がいた、想定外の奇跡だゎ・・

お前も超本命ならできる確立高いな

▲をnn2に変える
s▲ch.net/s11/078momo.jpg
0163名無しさん@ピンキー2015/03/22(日) 18:02:04.48ID:wCS0KhCE
ちょこっと妄想。
市のキャンペーンガールコンテストに応募して見事に選ばれた女子高生。
その年の夏休み期間は、公式ロコドルとして忙しく働くことになって
いたのだが、彼女がお熱のアイドルバンドが全国ツアーをすることが決まり、
その追っかけで全国を回ることを決心する。
しかし、そうなるとロコドルの仕事はぶっちしないといけない。
違約金は払いたくない、むしろロコドルとしての報酬はぜひ欲しい。
悩んだ挙句、幼馴染の少年(2歳下の中学生)を代役に立てることを思いつく。
「ちょ、いくらなんでも無理だって、マリ姉!
 確かにボクの身長はマリ姉と同じくらいだけど、ロコドルの衣装って
 露出度高いのも多いんでしょ? それに顔だって全然似てないし……」
しかし、女子高生は街中の古道具屋で購入した怪しげな2枚の名札で
自分と少年の立場を入れ替えてしまう。
「じゃ、後は任せたからね、マサト……ううん、真里(まり)ちゃん♪」
「茉莉ねぇの鬼ぃーーーー!!!」
──てな感じで、夏休みのあいだ、姉貴分に代わって女子高生兼ロコドル
として過ごすことになった式部真里(しきぶ・まさと)14歳の明日はどっちだ!?
一方、他人にはショタっぽい男子中学生に見えるようになった女子高生・
西園寺茉莉(さいおんじ・まり)は、その立場を利用してやりたい放題!
(主に覗きとか覗きとか覗きとか)
0164名無しさん@ピンキー2015/03/31(火) 20:24:32.65ID:2eswWjdu
FT-type2の『観劇』みたいな、なし崩し的立場交換がすごくイイ。
あのシチュに、ちょっと不思議要素混ぜ混ぜして、主人公に
そのまま女子中学生として遠く離れた地で暮らして欲しい。
(もちろん、同級生も先生も、両親すら入れ替わりに気付かない)
0165名無しさん@ピンキー2015/03/31(火) 21:57:35.05ID:8nN/12l8
FT-type2は『新しい幼馴染』が好きだなぁ
立場交換する直前や、あの後の話がこないかと今でも待ってる
0166『ホームメイドロイドの約束』2015/04/04(土) 18:53:55.45ID:BVC8KZTq
#短いけどつづき。どこまで途中経過の描写を細かくしていくかが悩みどころー。

【005】

 気を失っていたのはおそらく数分、長くともせいぜい十数分といったところだろう。
 意識を取り戻したとき、私は相変わらず手術台の上に拘束されていたし、視界に映る光景は一見したところ何も変わっていないように思えたが……。
 しかしながら、私は「何か」が明らかに異なっていることを確信していた。
 得体の知れない違和感、とでも呼ぶべきものが私の中に居座り、ひっきりなしに警告(エラー)を発し続けていたのだ。
 「起きたようですね」
 頭上に当たる方向から聞こえて来た声は、ケイトのものであるはずだが、微妙に先程までとは違う響きが感じられた。
 声の主が手術台に近づいてきたため、拘束された私にもその姿が見えるようになったのだが、彼女は思いがけない格好をしていた。
 仕立ての良いアルマ●ニのスーツ、それもレディース向けのツーピースやパンツスーツなどではなく、どう見ても男物の背広の上下としか言えない物をケイトは身に着けていたのだ。
 背広だけではなく、その下のカッターシャツやネクタイ、革靴に至るまでもすべて男性用のものだ。
 そして、それらの紳士物に、私は見覚えがあった。
 「──どうして、わたしの服を君が……」
 同年代の女性と比べてかなり大柄だった祖母をモデルに作られたせいか、ケイトは170センチ近い身長があり、髪型もショートボブ程度の長さだったため、男物を着てもさほど違和感はない。
 「それは……これらが僕の着るべき服だからです」
 「?」
 訳のわからないことを言うケイトの顔を、思わずまじまじと見つめ返してしまう。
 「説明するより手っ取り早く実感してもらう方法がありますね。
 HMR-00Xナツキ、ペルソナを一時停止して、コマンドモードに。
 パスワードはA・I・L・E・P・P・O・C」
 ? 何を言ってるんだ……と、思う間もなく、私の口がひとりでに動いていた。
 「──パスワード確認。ペルソナのハイバネーションを完了。待機モードに移行します」
 ! い、今のは何だ!? そう叫びたいのに言葉が出ない。
 いや、指一本どころか、まばたきのための瞼ひとつ動かせなくなっている。
 「ベースコマンドはMSの1で。最優先奉仕対象は私、新庄圭人に設定。また、行動制限項目の01番から05番までをチェック。適用確認ののち、口頭でステータスを報告」
 ケイトが指示することの意味を理解する──よりも早く、自分の頭の中で何かが書き変わっていくのがわかった。またしても口が勝手に言葉を紡ぐ。
 「──Maid Servant Mode起動。新庄圭人様を最上位マスターと認定。リミッターの1番から5番までをオンに。
 これにより、以下の行動制限が加わります。
 ・新庄圭人様の命令を絶対遵守する
 ・新庄圭人様への口頭を含む反抗の不可
 ・新庄圭人様の安全の確保に努める
 ・新庄圭人様に対してメイドとしての御奉仕に励む
 ・その他、メイドとして相応しくない行動の禁止」
 な、なんだって!? まさか……。

 「お分かりいただけましたか? 先程の機械によって、僕とアナタの立場が交換されているのです」
0167名無しさん@ピンキー2015/04/05(日) 03:03:59.65ID:S7nfpIxl
続き着てるー!
パーツ交換とやらが楽しみで仕方ない
GJGJ
0169名無しさん@ピンキー2015/04/06(月) 17:47:30.45ID:2++znpve
今日バス停でバスを待ってたら、グレーのパーカにデニムのミニスカ
青いソックスとスニーカーでクマモンのトートバック持った女の子がいて、
中学生かなと思ったんだけど、顔をよく見たらオバサン通り越して完全にシワシワのお婆さんだった‥‥。
孫と立場を入れ替えて遊びに来たのかなと妄想してしまったw
0170名無しさん@ピンキー2015/04/19(日) 22:33:36.97ID:L0jnSr/Y
その昔、「いやいや園」って絵本があって、
主人公の腕白小僧が、女の子をスカートめくりとかしていじめてたので、
先生が罰として主人公に女の子の服を着せて、女の子体験させてた。
単に女装させただけでなく、女の子としての振る舞い(立場?)を強要してた
ような……(うろおぼえ)
このスレ風にアレンジしたら、↓こんな感じか。

主人公は、スケベで悪戯好きな男子中学生。
ある日、女子更衣室を覗こうとしていたとこを捕まり、
担任の女教師にお説教を受けるが、馬耳東風で懲りた様子もない。
主人公の態度に業を煮やした学年主任が職員会議で提案した結果、
主人公は「女生徒謹慎一週間」という処分を受ける。
これは、自宅謹慎などと違い学校には来られるが、
規定の一週間は女生徒として学校生活を送るというもの。
無論、主人公は嫌がるが、正式に決まった処分であり、
一週間だけということで、渋々、女子生徒の格好で
通学する主人公だったが実は罠が。
本人は記憶にないが、処分を言い渡された日、
保険医の手で暗示をかけられ、女子制服を着ると勝手に
言葉遣いや仕草が女の子っぽいものに変換されてしまうのだ。
……オチは知らん!
0171名無しさん@ピンキー2015/04/24(金) 18:26:15.53ID:qWQFZ55M
 >170の人には、ぜひそのシチュで書いてほしいなぁ。

 やや筆が停滞しているメイドロイドの息抜きに、以前書いた「名札」系の立場交換物のファンタジー版を考案してみた。
 剣と魔法的ファンタジー世界で、魔法学校に通うショタっ子(中学生くらいの年頃)が、最終学年に進級するための課題として、「自らのパートナーとなる幻獣か妖精を召喚する」ことを師匠に命じられる。
 モヤシっ子だが魔術の腕は悪くない主人公は、子供の頃に故郷で見た憧れの妖精・バルキリーの召喚を試み、見事に成功。そのまま、パートナー契約を結び、進級試験に臨むのだが……。
・エイル
 三年生への進級を目前にした、デダナン魔法学校の二年生の少年。
 子供の頃、故郷の町の近くの森で、熊に襲われていたところを、年の近い叔父の相棒である戦乙女(バルキリー)に助けられる。
 その時の鮮烈な印象から、自分もバルキリーを召喚したいと願い、魔術師を志した。魔力が豊富で頭も良く真面目……と魔術師としての才能には恵まれているが、反面、小柄で華奢な体格(同年代の女子と腕相撲しても互角)。
・ガンドーラ
 エイルが召喚し、パートナー契約を結ぶことに成功したバルキリー。180センチを軽く超える身長と筋肉質な体格、それに見合った膂力と豪快な性格を持った女丈夫。
 「戦う乙女」という意味ではバルキリーらしい女性なのだが、幼少時に見た叔父の相棒が「たおやかだが凛とした美少女」だったため、エイルはイメージの違いに驚くことになる。武器は樹齢400年を超えるイチイの樹から作った杖(という名の棍棒)。
 一応上位妖精のはしくれらしく魔法も使えるのだが、呪文を唱えるより、殴り倒した方が早いと豪語する撲殺漢女(おとめ)。

 ──まぁ、どういう立場交換が起こるかは、たぶんご想像の通り。巧く筆が進めば、日曜夜あたりに投下するかも。
0172名無しさん@ピンキー2015/04/24(金) 20:15:12.64ID:QP4Vyw/e
>>170
女同士だからスカートめくりもおっぱい揉み揉みも犯罪にならないから楽しみ放題だな。
すっかり女生徒の立場を楽しんだらもう戻る気なくんるよな。
0173名無しさん@ピンキー2015/04/25(土) 20:55:30.18ID:0O68bZGx
まあ男が女のパンツ見たり身体に触ったりしたら犯罪だからね。
現在は女が女にするのが漫画や小説では主流になってる。
0174名無しさん@ピンキー2015/04/25(土) 21:54:22.81ID:7ARmM8q0
セクハラや痴漢に男女の区別は無いから、
女同士だろうと男同志だろうと、はたまた女が男にやろうと、
男が女に対してやった場合と同じく犯罪なんだがな。
0175名無しさん@ピンキー2015/04/25(土) 23:09:04.72ID:S9zD1o5Q
>>174
厳密に言えばそう
しかし世の中はそういう風に厳密に動いてる訳じゃないから難しい
あと同性が同性に性的な興味を持つことに世間的にはタブー感があり
それを打ち破ることが作品的な爽快感を生む
0176名無しさん@ピンキー2015/04/25(土) 23:39:17.03ID:XnCE3I6D
女と女の肉体的許容距離が、男と男よりもすごく近いというのがあるんでねえの?
女から見ても女の身体というのは魅力的なんだよきっと。
0178『召喚契約にご用心』2015/04/27(月) 01:22:30.24ID:0RGp88yf
#171の話。前編(まえふり)です。たぶん全3回で、4月中に終わらせる予定。

『召喚契約にご用心〜名札はキチンと付けましょう3〜』

【前編】

 サイデル大陸の北西部にある宿場町トゥアハは、昨日から季節外れの祭りのような騒ぎに湧いていた。
 この町は、「焔の勇者の再来」として名高い魔法戦士ジークの出身地として知られているが、彼に匹敵する英雄……は言い過ぎにしても、「英雄候補」と呼ぶにふさわしい勇士がこの町から現れたのだ。
 何でも、かの勇士は未だ16歳ながら、近くの山を根城にする雪魔狼の群れを僅か2日足らずで完膚無きまでにせん滅したのだと言う。
 さらにトゥアハに帰って来る前は、デダナンの街の魔法学院を優秀な成績で卒業し、その帰路では下位とは言え魔族も破っているとのこと。
 勇者ジークが有名な神猪退治をしたのも同じく16歳の時だから、彼と同様の戦果をこれから挙げていく可能性は十分にあった。何より、その勇士は、ジークの甥でもあるらしい。
 自らのパートナーとして戦乙女(バルキリー)を召喚し、行動を共にしているところまでそっくりだ。「血は争えないものだ」と町の人々は噂しあっている。
0179『召喚契約にご用心』2015/04/27(月) 01:23:43.08ID:0RGp88yf
 しかし、噂になっている本人はと言えば……。
 「エイラ、本当にいいのか? なんだったら、もう2、3日、この町に留まってもいいんだよ? 実家にも顔を出すとか……」
 宿の窓から、アンニュイな視線で町の喧騒をぼんやり見つめている相棒に気遣うような言葉をかけるが、相手は緩やかに首を横に振った。
 「いえ、お気づかいは無用です──それに、むしろ、ここにいない方が、今の私にとっては気が楽ですし」
 「! そう、かもしれないな。すまない、考えが足りなかった」
 いつも陽気な戦士が、珍しく沈んだ声を出すのを聞いて、相方の子は慌てて言葉を紡ぐ。
 「あ、いえ、気にしないでください、ガンドル。そもそも、こんな事態になったのは、私の方に原因があるんですから!」
 困り顔の背の高い赤毛の戦士を、「エイラ」と呼ばれた少女が懸命に慰めている様子は、傍から見ていればなかなか心温まる光景ではあったが、当人達にしてみればあまり楽しい話ではない。
 そもそも、なぜにエイラが、この町に留まることを嫌がったかと言えば、他でもない。「この町が自らの故郷だった」からだ。
 ──もう少しわかりやすく言おう。
 羽付き兜と白銀色の胸甲そして裾の長い白いドレスという、如何にも「バルキリーでござい」という格好をした「少女」は、本当は少女ではなく少年で、逆に、長身で筋肉質な体格の「青年」も本来の生物学的な性別は女だった。
 言うまでもなく、「勇者ジークの甥」というのはこの偽戦乙女の方だ。パッと見は、どこからどう見ても立派な青年武人にしか見えないガンドルこそが、エイラ──いや、エイルが召喚したバルキリー、ガンドーラに他ならない。
 では、何故、こんな倒錯的な入れ替わりじみた格好をしているかと言えば……それは、エイルがガンドーラを召喚した2年前に、原因があった。
0180『召喚契約にご用心』2015/04/27(月) 01:24:26.69ID:0RGp88yf
 当時、エイル少年は、ヴォルスン国内で唯一の国営魔法教育機関であるデダナン魔法学校に在籍していた。
 武力偏重のこの大陸では、男の魔術師というのはあまり「憧れの職業(しごと)」とは見なされないが、近年は魔法技術の高い他大陸との交流が出来たせいか、多少は地位が向上し、それなりの収入と尊敬が得られるようにはなってきている。

 文武両道で長身&イケメンかつ相思相愛の恋人持ちという、天が二物も三物も与えまくったような叔父とは異なり、エイルは小柄で貧相な体格の持ち主であり、運動能力についてもお世辞にも優れているとは言えなかった。
 本人もそのことは自覚していたし、幸いにして魔力の量や頭の回転についてはそれなりに秀でていたため、将来は魔術師として生計を立てることを考えていたのだ。
 また、そういう現実的な展望とは別に、エイルには魔術師として、ひとつどうしても叶えたい夢があった。
 それは──戦乙女(バルキリー)を召喚し、相棒(パートナー)にして共に戦うことだ。

 7歳の頃、故郷の町の近くの森へ木苺摘みに行った時、エイルは熊に襲われ、万事休す……というところを、美しい女武人に助けられた。
 鮮やかに槍を振るう彼女は、まるで高貴な姫君のような可憐さと、女神のような神聖な雰囲気を兼ね備えた十代半ばくらいの美少女にしか見えず、幼い少年が(吊り橋効果もあって)憧れを抱いたとしても無理はない。
 もっとも、直後に駆け付けた母方の叔父ジークの話で、彼女が叔父が召喚した「ヒルダ」という名のバルキリーであり、ジークとは相棒兼恋人同士であると聞かされ、あえなく失恋することになるのだが。
0181『召喚契約にご用心』2015/04/27(月) 01:25:42.93ID:0RGp88yf
 しかしながら、その時の印象があまりに強烈だったせいだろう。エイルは魔術師になって自分も将来バルキリーを召喚したいと渇望するようになり、並ならぬ努力の末、見事、13歳で王都デダナンの王立魔術学院に合格する。
 そして、学院の最終学年である3年に進級するための課題として、「自らのパートナーとなる幻獣か妖精を召喚する」ことを師に命じられた時、エイルは迷うことなく戦乙女の召喚を試みた。
 同期の中では5本の指に入る程優秀とは言え、半人前にもなりきってない見習魔術師が、妖精の中でもかなり高位のバルキリーを召喚しようなぞというのは、無謀にもほどがあるのだが、何度かの失敗の後、偶然か必然か成功してしまったのだ。
 「おおっ、いいねぇ、アタシの助けが欲しいってかい? いいよ、力になってあげようじやないか」
 もっとも、エイルの目の前の召喚陣の中に立っているのは、成人男性よりも頭半分背が高く、毛皮で作った袖無し胴着に身を包み、肩幅や二の腕の太さも、下手な戦士顔負けにたくましい、「戦乙……おと、め?」と首を傾げたくなるような女丈夫だったのだが。

-中編に続く-
0182『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 02:11:26.67ID:TdT+QePV
#この世界の一般的なバルキリーのイメージは、某ヴ●ルキリープロファイルだとか、パズドラのそれを想像してください。ちなみに、エイルくんの外見は某バ●テスの秀吉のイメージ。

『召喚契約にご用心〜名札はキチンと付けましょう3〜』
【中編】

*エイル SIDE*

 目の前の魔法陣の中に魔力の光が渦巻き、凝縮して人の形を取る。
 「やった! ついに召喚に成功したん……え?」
 今日だけで12回目の挑戦で魔力も残り少なく、正直これで駄目ならもうあきらめようかと思っていたところでのまさかの成功に、僕は歓声をあげ……かけて、今度は自分の目を疑うことになった。
 「バルキリー、じゃないの?」
 そりゃあ僕は(遺憾ながら)周りの同世代と比べてやや小柄な方ではあるけど、目の前の人影は、その僕より優に頭ひとつ分は背が高い。しかも、長身なだけじゃなく、剥き出しの腕や太腿の筋肉も逞しく、そもそも骨格からして僕より骨太で頑健そうだ。
 その身にまとうのは、白銀の鎧──ではなく、狼の毛皮でできた胴着。しかも頭の部分をそのまま残してフードにしてるので、ワイルドというか野蛮というか迫力満点だ。
 赤茶色の髪は襟首くらいの長さで、適当に切ってバンダナでまとめてあるだけだし、ボトムはデニムのショートパンツと武骨なレザーブーツだし……もしかして、バルキリーじゃなくバーバリアンを召喚(よ)んじゃったのかなぁ。
 「ほーぅ、偶然じゃなくアタシら戦乙女を狙って召喚してのけたのか。いいねぇ、まだまだ術師としちゃあヒヨッコみたいだけど、目標を高く持つのは悪かないよ」
 え、その言い方からして、もしかして本当にバルキリーなの!?
 「坊や、アタシの助けが欲しいって言うのかい?」
 「え、あっ、はい、お願いします」
 わわっ、しまった。反射的に返事しちゃったよ。
 「うんうん、素直な子は嫌いじゃないよ。いいさ、おねーさんが力になってあげようじゃないか」
 ニカッと男前に笑うバルキリーさん(仮)。あ、予想していた戦乙女のイメージとは違うけど、悪い妖精(ひと)じゃないみたい。
 「はっ、はい。有難うございます」
 そんなこんなで、僕はやたら強面の女蛮族……じゃなくてバルキリーの、ガンドーラさんと召喚契約を結ぶことになったんだ。
0183『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 02:12:31.84ID:TdT+QePV
*ガンドーラ SIDE*

 アタシを召喚した坊や──エイルは、なんでも魔法学校の生徒で、つぎの進級試験とやらに合格するためには、幻獣か妖精を召喚してパートナーとして契約する必要があったらしい。
 「アンタも無謀だねぇ。試験のためなら、無難にフェアリーか光鳥あたりを呼んどけばよかったのに」
 はみ出し気味とは言えこれでも勇士を導く戦乙女のはしくれだ。人の資質を見定めることくらいはできる。
 そのバルキリーとしての目で見る限り、我が召喚主殿は、光属性の魔法に高い適性はあるみたいだけど、技量自体はまだまだ未熟で、経験も圧倒的に足りてない。
 正直、アタシみたいなガサツ者でも召喚できただけで御の字だろう。
 「──そう、かもしれません。でも、長年の夢だったんです」
 噛みしめるように呟くエイルは、けれど一瞬アタシの方を見て、フイと視線を伏せた。
 (あちゃー、失望させちまったか)
 まぁ、無理ないか。どういう経緯かは知らないけど、戦乙女(バルキリー)に憧れて、懸命に魔法の勉強に励んだ挙句、召喚(よびだ)したのがアタシじゃねぇ。
 自分が人間が抱くバルキリーのイメージから少々──いや、大幅に外れているってぇ自覚は、アタシにだってあるんだよ? だからって、世間に迎合してお行儀よくしてやる気はサラサラないけどね。
 「ま、少なくとも戦いに関しては、大船に乗ったつもりで任せときな。こう見えて──いや、見かけどおり並の戦士にはヒケはとらないつもりだからね」
 「! す、すみません。僕みたいな未熟者に応えてくださったのに、失礼な対応をしてしまいました。謝罪します。改めて、僕のパートナーになってくださいますでしょうか」
 へぇ、意外に切り替えが速いね。ちゃんと謝ることもできるようだし、キチンと育ててやれば、なかなか大物になるかもしれない。
 「ああ、もちろんさ。それで、アタシを召喚したことで、進級試験とやらには合格したことになるのかい?」
 「あ、いえ、普通の幻獣や妖精ならそれでいいんですが、バルキリーみたく高位妖精の場合は、それだけでなくパートナーとしての正式な召喚契約を結ぶ必要があります。えーと……」
 エイル坊やは机の引き出しをあさって、何か文章が書かれた羊皮紙と、極細のチェーンに親指ほどの金属片がついた、首飾りのようなものをふたつ取り出した。
0184『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 02:13:14.53ID:TdT+QePV
 「このネームタグに互いの血を混ぜ合わせたインクで名前を記入して身に着けたあと、さらに契約書に署名することで、召喚契約が成立する──そうです」
 こらこら、そこは伝聞形じゃなく断定しなよ。まぁ、いいか。名前を書くだけなら、魔法理論とかがあまり詳しくないアタシでも簡単だし。
 アタシとエイルはペンナイフを軽く刺して親指から血を数滴、インク壺に落とした。
 「で、このインクで名前を書けばいいんだね?」
 エイルに渡された首飾りのうちのひとつに、自分の名前を書き込む。何の変哲もない金属片なのにスムースに羽ペンで記入できたのは、何らかの魔法がかかってるからだろう。
 エイルがもう片方に自分の名前を書いたのを確認してから、アタシたちはそのネームタグとやらのチェーンを首にかけた。
 「ん? 何か魔法発動の予兆を感じるね」
 「ええ、この状態で契約書にサインをすれば、強固な儀式魔法が発動しますから」
 軽く流しかけて、エイルはポンと手を打った。
 「あ、そうだ、ちゃんと説明しとかないといけませんね。まず、この召喚契約は原則的にどちらかの死をもってしか解除できません。加えて、互いが互いを傷つけることも不可能になります」
 死がふたりを分かつまで、と表現すればちょっと雅だね。ま、実際にはお互いが簡単には裏切れないようにするための予防措置なんだろうけど。
 「それと、契約が正式に結ばれると、「最適化」の魔法が発動して、僕たちふたりともそれぞれの立場にふさわしいポテンシャルを100%発揮できるようになるそうです」
 「ふーん、つまりアンタは魔術師として、アタシは戦乙女として、現在以上の力を振るえるようになるワケか」
 「そうですね。大体の人は、己の内なる素質を完全に覚醒させているということはまずないそうですから、そうなると思います」
 それは、デメリットを補って余りあるメリットだねぇ。
 「わかった。続けようじゃないか。この紙にサインすればいいんだろう」
 羊皮紙を手に取り、ササッと斜め読みした後、文末の空白欄に、自分の名前を記入する。
 「わわっ! もぅ、ガンドーラさん、せっかち過ぎますよ」
 それにこういう時は、普通は召喚主の方が先に書くものなのに……と、ボヤきつつ、エイル坊やもアタシから受け取った紙に署名する。

 その瞬間、アタシたちが首に欠けている金属片が光を放ち始めた──アタシのは青色に、エイルのは赤色に。
 「! これは……大丈夫なのかい?」
 「えぇっ!? 召喚契約って、こんな大きな魔力が発動するものじゃな……」
 直後、目も眩むような光と、爆発的な魔力の波動に飲み込まれて、アタシたちはふたりとも意識を失ったのだった。

-後編に続く-
0185『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 19:04:17.21ID:TdT+QePV
#予想通りと言うべきか、いつもの事と言うべきか、3回で収まりませんでした。全体把握能力ないなぁ私。完結編は連休中に投下します。


『召喚契約にご用心〜名札はキチンと付けましょう3〜』
【後編】

 結局のところ、それは単純なケアレスミスが原因だった。
 エイルが事前に作成していた「バルキリーとの間にパートナー契約を結ぶための巻物(スクロール)」、それ自体に不備はない。同時に購入しておいたふたつのネームタグも同様だ。
 ただ、その“使い方”を間違えていた。正確には、ふたりが名前を記入するべき“場所”が逆だったのだ──それも、ネームタグとスクロールの両方で。
 そもそもネームタグは一見よく似てはいるが、どちらが召喚主用でどちらが被召喚者用かキチンと決まっている。スクロールへの署名も(これはエイルが気付いてはいたが)、上から召喚主→被召喚者の順に記入するべきものだ。
 普通、この種の取り違えが発生した場合、儀式魔法が失敗するものなのだが、両方のアイテムで間違っており、かつそのつじつまは合っていたため、イレギュラーな形ではあるが、パートナー契約の魔法が発動することになった、というわけだ。
0186『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 19:05:02.58ID:TdT+QePV
 「で、その結果が、コレかい?」
 赤茶色の髪を短く刈り込み、麻のワイシャツと黒いズボンを着て、その上に見習魔術師用のマントを羽織った「青年」が、疲れたような口調で机をはさんで椅子に座っている人物に問い掛ける。
 「はい、推測になりますが、たぶん……」
 自信のなさそうな口調で答えるのは──驚いたことに、如何にも「戦乙女」という格好
をした「少女」だった。
 腰までありそうな青味がかった銀色の髪を後ろでざっくりした三つ編みにして、先端近くに赤いリボンが結ばれている。前髪の方は額当(ディアデム)にも小冠(ティアラ)にも見える銀製の防具で押さえていた。
 上半身にはノースリーブの白いボディスーツをまとい、肩の部分は純白の羽飾りのついたショルダーガードで守っている。
 腰には左右と前にそれぞれ白銀の装甲を装着し、さらにその下にアーマーを兼ねた長めのスカートを履いている。足元は鎧と同じ白銀色の脚甲(グリーブ)だ。
 まさに、エイルが召喚したいと思い描いていたバルキリーそのものだ。
 ──問題は、その一見したところ戦乙女にしか見えないその人物が、他ならぬエイル自身だということだろう。
 「つまり、今のオレは「魔法学校に在籍している見習魔術師」という立場になってるわけか。それにしては、さっきまでのアンタの格好と微妙に違うみたいだけど?」
 当然、それに相対している「青年」がガンドーラだ。
 「おそらくですが、それがガンドーラさんがイメージする「魔術師の少年」の姿なんだと思います」
 「へぇ、じゃあ、逆に言うと、今のアンタの格好がアンタの理想とする「戦乙女」の姿なんだねー」
 からかうように言われて、頬を染めるエイル。
 「そ、それは……えっと…………はい」
 まぁ、こんな絵に描いたようなバルキリーの姿を想像してたのなら、確かに自分が召喚されたら落胆もするか、とガンドーラはヘンな方向に納得する。
 「にしても、服装や髪形はともかく、根本的な性別や体自体は変わってないんだな」
 シャツの襟元から自分の胸を覗き込むガンドーラ。ふと思い立って、椅子から立ち上がると、エイルにも立つよう促す。
0187『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 19:06:18.32ID:TdT+QePV
 「? なんでしょう?」
 きょとんとした表情で立ち上がったエイルのすぐ横に並んでみる。
 「うん、身長差も変わってないか。いや、ちょっとだけアンタ、高くなってる?」
 「それは、このブーツのヒールのせいではないでしょうか」
 「ああ、そうか。にしても、そんなかかとの高い靴履いて、アンタ大丈夫なのかい?」
 参考までに言うと、元のガンドーラの格好は革製ブーツではあるが、かかとがほとんどペタンコの、俗に「バスキン」と呼ばれる代物だ。彼女いわく「戦場にヒールのある靴なんて不要でろ」とのこと。
 「言われてみれば……」
 慌ててその場で足踏みしたり軽く2、3度その場でジャンプしてみるエイル。
 「えっと、特に問題ないみたいです。これも最適化のおかげ、なんでしょうか」
 「ふーん、そんなモンかねぇ。あ、そうだ!」
 何かを思いついたらしいガンドーラは、エイルの前に立つと、両掌をエイルの胸元に伸ばして、ペタペタ触る。
 「……キャッ! な、何するんですか!?」
 自分がされている行為が理解できず、呆気にとられていたエイルだが、一拍遅れて顔を真っ赤にして胸元を押さえて飛び下がる。
 「うん、やっぱ貧乳──ってか、全然オッパイはないな」
 悪びれずにうそぶくガンドーラの言葉に、何となくおもしろくないものを感じたものの、すぐにそれを振り切るかのように抗議する。
 「あ、当り前です! 私は男なんですから!!」
 「いや、でも、今のアンタの姿見たら、100人中99人が「可愛らしい女の子」だって判断すると思うぞ? だから、一応確認しとこうかな、って」
 「か、可愛いって……そ、そんなことより、これからどうするかです!」
 一瞬込みあげた嬉しさを噛み殺しつつ、エイルは強引に話題を転換する。
 「さっきの話だと、この契約って、どちらかが死なないと解けないんだよな?」
 「普通の手段ならそうですね。でも、ここはこの国一番の魔法研究機関ですから……」
 「ああ、なるほど。ここの先生なら規格外な契約解除方法を知ってるかもしれないのか。じゃあ、早速聞きに行こうぜ」
0188『召喚契約にご用心』2015/04/30(木) 19:08:49.72ID:TdT+QePV
 ホッとした顔でそう提案するガンドールだが、エイルは「待ってください」と引き止めた。
 「確かに先生方なら、契約を破棄する方法を知っておられるとは思うのですが、その…それを聞きに行くのは、もう少しだけ待ってもらえませんか?」
 エイルいわく、無事パートナー契約を結ぶことが進級の条件ではあるが、結んだだけではあくまで「仮進級」で、そのあと召喚主と相棒がペアになって、ある試練を受けなければならないのだと言う。
 「その試練とやらが、明日ぁ!? 随分せっかちな話だなぁ」
 ちなみに、現在はそろそろ陽が西に傾きかけた夕刻に近い時間帯である。
 「その、本来、召喚の儀式は10日前から始められますので、普通はもっと早くパートナーを得て、数日かけて親交を深めているはずなのですが……」
 「期限ぎりぎりまで粘ってたから時間がなくなった、と。確かに、それで今からこの契約の解除だなんだやってたら、明日の試練には間に合わないわな」
 「すみません、私が不手際なぎかりに……」
 「あ〜、いいよいいよ。オレもバルキリー仲間のあいだでは落ちこぼれっつーか、ハズレ者だったし。こうして地上に召喚してもらえただけでも、有難いし」
 天界って平和な分、刺激がなくってねぇ、愚痴るガンドーラ。
 「それに人間の、しかも男の立場で生活できるなんて、滅多にない経験だしな」
 「じゃあ、しばらくこのままでよろしく頼むぜ!」と気さくに笑う「見習魔術師」の表情に、思わず見惚れる「戦乙女」。
 (ふわぁ〜、ガンドーラさん、カッコいい)
 赤毛の「青年」を見上げる瞳が熱っぽく潤んでいる。まさに「恋する乙女の視線」そのものだが、幸か不幸か本人はそのことに気付いていなかった。

-完結編につづく-

#ちなみに、エイラ(戦乙女化エイル)の外見はECO版プリンセスヴァルキリーを想定してます。
0190『Win-Win-Win!?』2015/05/01(金) 13:32:18.43ID:emnikMMa
#衝動的に思いついて書きなぐった小ネタ。女-女間の立場交換です。

『Win-Win-Win!?』

*First Girl*
 「天国のお母さん、どうかみなみお姉ちゃんみたいなやさしいママをください……」
 ──なぁんてね。
 いくらわたしが小学生でも、七夕にお星さまにお祈りしたくらいで、こんな願い事がかなうなんて思ってないよ? リカだって、もう4年生なんだもん。
 はぁ〜、美華ママ、どうして死んじゃったのよー!!
 うん、これがやつあたりだってことくらいわかってる。3年前に交通事故で死んだママだって、まだ20代だったんだし、わたしやパパを置いていきたくなんてなかったはずだもん。
 でも、パパもパパだよ。美華ママが死んで1年しか経たないのに、もう新しい奥さんをもらうなんて……。
 美華ママは、娘のわたしから見ても、とっても美人で明るくて、家事が上手なステキな女性だった。
 でも、パパの新しい奥さんは、小学生の目から見てもサイアク。
 年令だけは22歳で若いけど、お化粧が濃いし服も派手だし、顔だって美華ママには全然及ばないし、お料理もお掃除もあんまりしないし、それなのにしょっちゅう、家を空けて遊びに出かけてるみたいだし……。
 わたしとあんまり話さないのはお互いさまだからしかたないけど、パパとだってあんまの仲よさそうに見えない。あんな人、絶対ママなんて呼んであげないんだから!
 こないだ家に来たパパのお友達の赤根おじさんは、「理佳ちゃんのパパはね、ハメられたんだよ」って言ってた。そうだよね、でなきゃ、ママを愛してたパパがあんな女の人に引っかかるはずないもん。
 はぁ〜、どうせ新しい奥さんをもらうんなら、おとなりのみなみお姉ちゃんみたいな人にすれば良かったのに。
 あのね、みなみお姉ちゃんはまだ高校生なんだけど、とっても美人でやさしいの。小さいころからパパとは兄妹みたいに仲がよくて、リカのこともいろいろめんどうみてくれるんだ。
 死んだ美華ママとはイトコどうしで、美華ママはみなみお姉ちゃんの家に遊びに来ていたときパパと知り合って、おつきあいを始めたんだって。
 それにね、リカ知ってるんだ。みなみお姉ちゃん、パパのことが好きなんだよ。
 え? どうしてわかるかって? もちろん、女のカン! ……って言いたいところだけど、あんなのお姉ちゃんの視線とか表情見てたらバレバレだよぉ。
 みなみお姉ちゃんが新しいママだったら、わたしも素直にふたりのこと“しゅくふく”できたのになぁ。
 あ、流れ星!
 「お姉ちゃんがママになりますように、お姉ちゃんがママになりますように、お姉ちゃんがママになりますように……」
 よーし、3回言えたっ!
 ふわぁ〜、集中がとけたら眠くなってくきちゃった。
 おやすみなさーい。せめて夢の中だけでも願い事がかなってるといいなぁ……。
0191『Win-Win-Win!?』2015/05/01(金) 13:33:15.75ID:emnikMMa
*Second Girl*
 私の名前は藤原みなみ。17歳の高校2年生です。
 じつは私、恋しちゃいけない男性に片思いしてます。その人の名前は、城崎順一さん。家がお隣どうしで幼い頃からの知り合いです。
 小さい頃は、本当にお兄さんみたいに思っていて、順一さんも私のことを妹みたいに可愛がってくださいました。
 10年前、順一さんが従姉の美華さんと結婚なさったときは、幼稚園児だったクセにいっちょまえにショックを受けたり……ふふっ、たぶん幼き日の初恋、だったんでしょうね。わりとマセた子でしたから。
 けれど、それからも我が藤原家とお隣の城崎家は以前と変わらぬお付き合いを続け、私にとっても順一さん、美華さんは頼りになるお兄さん、優しいお姉さんでしたし、おふたりの娘さんであるそはかわいい妹分でした。
 ──そう、3年前に美華さんが交通事故で亡くなるまでは。
 当時の順一さんと理華ちゃんの悲しみは傍から見ていても辛いくらいでしたが、理華ちゃんはとても強い子で、お父さんを励ましながら徐々に前を向いて歩くこうと努力していました。
 けれど、順一さんは、巧く立ち直れなかったのかもしれません。
 笑顔が消え、お酒を飲む回数が増え、反対に口数が減り……そして、1年後、(聞いた話ですが)「一夜の過ち」の責任を取る形で、同じ会社の女子社員の方と再婚されました。
 お相手の朱鷺子さんは、まだ女子大を出たての新入社員で、確かに綺麗な方ではあったのですが……その服装やお化粧が派手で、性格も高飛車というか気の強いタイプで、私は正直あまり好きになれませんでした。
 案の定、というと失礼ですが、順一さんの再婚は傍から見ても上手くいってないようでした。
 それまでと変わらず、いえこれまで以上に順一さんは無口で精彩を欠いた様子。そればかりでなく、理華ちゃんまで元気がなくなっているようです。
 私も、お料理を差し入れしたり、理華ちゃんをウチに招いたり、勉強を見てあげたりして、できる限り気をつけてはいるつもりですが、単なる隣人では、やはり限界があります。
 嗚呼、こんなことなら、美華さんが亡くなった時、時期を見はからって告白していればよかった……。

 『その言葉に偽りはない?』

 もちろんです! ……って、誰!?

 『じゃあ、少しだけ力を貸してあげる──順一と理華のこと、よろしくね』

 待って! もしかして貴女は、み……。
0192『Win-Win-Win!?』2015/05/01(金) 13:35:40.40ID:emnikMMa
*Third Girl*
 あー、もう! ったく、失敗したわ。結婚なんてするんじゃなかった。

 そもそもこのアタシに働け働けってうるさい、クソ親父とババアがいけないのよ!
 モデル事務所に登録して、時々は仕事もらってたんだから、それでいいじゃん。
 それなのに親父のコネでショッボイ会社に無理矢理就職させられて……。
 コピーだお茶くみだ資料整理だって、そんなツマラナイ仕事を押しつけないで頂戴!
 だから、何とかこの退屈な仕事から上手く抜け出すために、アタシは社内で適当な相手を見つくろって結婚することにしたのよ。
 金持ちで美形……なんてのは、流石にこの会社じゃあ高望み過ぎることがわかってたから、「経済的に安定してて、ワガママきいてくれそうな相手」で妥協することにしたわ。
 で、ちょうど奥さんが死んで隙だらけだった今のダンナ──城崎順一を食事に誘って、グデングデンに酔わせて手を出させてから、翌朝、脅すようにして結婚の約束を取り付けたってワケ。
 城崎は一応係長だし、背は高めで顔もそれなりだし、そこそこ広めの家持ちらしいから、このままのんびり主婦生活するのと引き換えに、時々ならベッドで相手してやってもいいか……って思ってたのよ。
 ま、コブつきだったのは誤算だけど、城崎の娘の理華って子は、もう小学校に通ってて、昼間は家にいないから、そんなに気を使うこともないでしょ、と気楽に構えてたんだけど……。
 あー、何、この敵意バリバリのお子ちゃまは! 顔はそれなりにかわいらしいのに、アタシ対してはナマイキでかわいくないったらありゃしない。
 おまけに、主婦なんて適当に家でダラダラしてれば済むと思ってたのに、掃除だのご飯の支度だのをやれやれって、プレッシャーかけてくるし……。
 アタシはね、実家だって一度も台所に立ったことがない女よ? 料理なんて小中学校の家庭科の時間くらいしかやったことないんだから(高校の調理実習はフケてたし)。ご飯なんて、出前か出来合いのもの買ってくればいいでしょ。
 掃除なんて週に一回、適当に掃除機かけりゃ、十分よ! ゴミの分別? そんなめんどくさいコト、なんでアタシがしなきゃいけないのよ!
 洗濯は一日おきにしてあげてるんだから、感謝しなさい!
 それなのに理華だけじゃなく、城崎まで陰気臭い顔でいつもムッツリしてるし……。
 ストレス発散のために昔からのツレと外に遊びに行くんだけど、そのたんびに城崎(ボンクラ)もその娘(ガキ)も、責めるような目でアタシを見るし……。

 もぅ、アタシ、なんこんな男と結婚なんかしたんだろ。
 あー、高校の頃は良かったなぁ。難しいことなんて考えないで、気楽に遊べたし、周りもちやほやしてくれたし……。
 できるなら、あの頃に戻りたいわ。

 『──その願い、かなえてあげるわ』

 へっ!?
0193『Win-Win-Win!?』2015/05/01(金) 13:38:54.32ID:emnikMMa
*And then*
 とある住宅街にある一軒家の一室──子供部屋のベッドの上で10歳くらいの少女が眠っているが、目ざまし時計が7時を指す前にパチリと目開いて布団の上に身を起こす。
 「ふわぁ〜、なんかヘンな夢見たかも……」
 眠そうな目をこすりつつ、ベッドから降りたところで、階下から漂う美味しそうな匂いに気づく。
 「クンクン……今朝はお揚げのお味噌汁と焼き鮭かな?」
 昨晩のうちに用意しておいた服に着替えて、階段を降りる。
 ダイニングキッチンに入ると、そこには見慣れた人影がエプロンを着けて忙しそうに朝ご飯の支度をしていた。テーブルの前の椅子のひとつには、男性が座って新聞を読んでいる。
 「おはよう、パパ、ママ!」
 元気良く挨拶する少女に気づくと、「ママ」と呼ばれた女性も振り向き、にっこり微笑む。
 「あら、おはよう、リカちゃん」
 「ああ、おはよう、理華」
 男性の方も新聞を畳み、娘に向かって朝の挨拶を返した。
 「今朝は随分早いわね」
 「うん、昨日はちょっと早めに寝たからかも」
 「宿題はちゃんとやってあるのかい?」
 「もち! 任せてよ」
 何気ない朝の家族の会話。
 それなのに、どうしてこんなに嬉しく感じるのだろう。
 何故かわからない感慨に胸を締め付けられながら、理華は急いで洗面所に向かい、こみ上げる涙を誤魔化すように乱暴にバシャバシャと顔を洗った。
 その後、「いつも通り」優しい継母の料理を食べ終え、会社に行く父親の見送りをしてから、理華も朝の身支度にとりかかる。
 小学4年生と言えばそろそろオシャレにも気をつかい始める年代だが、そちらに関しても継母のみなみはとても頼りになる女性だった。
 「リカちゃん、だいぶ髪が伸びてきたわね。せっかくだから、リボンでこんな感じにツーサイドアップにしてみるのはどうかしら」
 慣れた手つきで、みなみは鏡台の前に座らせた理華の髪を整える。
 「わぁ、ステキ! うん、今度から、コッチにする」
 ふと思いついて悪戯っぽい表情を浮かべる理華。
 「ねぇねぇ、ママも髪長いんだし、お揃いの髪型にしようよ」
 「ええっ!? ま、ママはもうオバさんだし、そんなの似合わないわよぅ」
 あたふた慌てるみなみだったが、かわいい娘に「お願い♪」とねだられて、渋々、両サイドをリボンでくくる、俗に「ツインテール」と呼ばれるヘアスタイルにしてみる。
 「や、やっぱり恥ずかしぃ」
 「そんなコトないよ! ママ、とっても可愛いよ!!」
 顔を真っ赤にするみなみだが、理華の言う通り「20代半ばとは思えぬほど若い美人」なので、鏡に映るふたりの様子は、母娘というより美人姉妹と言った印象だ。
 「その髪型でお迎えすれば、パパもイチコロだよっ!」
 「もぅ、何を言ってるの、この子は」
 呆れたような言葉を紡ぐみなみだが、実はその晩、ツインテールに加えて(なぜかタンスにあった)高校時代の制服──紺色のブレザー&ミニスカ姿で夫との「夜戦」に臨み、大激戦を繰り広げることになる……ことは、無論、理華の預かり知らない話である。
0194『Win-Win-Win!?』2015/05/01(金) 13:40:45.44ID:emnikMMa
 「行ってきまーす!」
 元気に挨拶をして家を飛び出した理華は、ちょうど同じタイミングで隣りの藤原家から出て来た、制服姿の少女(?)と鉢合わせすることになる。
 「きゃっ!」
 理華の反射神経が優れていたおかげで、寸前で衝突は回避できたのだが、姿勢を崩した少女(?)の方は、そのまま地面に尻もちをついてしまう。
 「ちょっとぉ、リカ、気をつけなさい!!」
 「ご、ごめんなさい、朱鷺子…おねーちゃん」
 怒鳴られてシュンとする理華を見て、さすがに大人げないと思ったのか、朱鷺子も表情を和らげる。
 「顔見知りのアタシだったからいいけど、知らない人にブツかったらゴメンじゃすまないこともあるんだからね」
 立ち上がり、パンパンとスカート(膝上20センチ近いミニ)の埃を払うと、ペタンコの学生鞄を片手に歩き始める朱鷺子。
 途中まで同じ方向なので、理華も何となく一緒に歩き始めた。
 家が隣り合っているとは言え、親同士はともかく、理華と朱鷺子はあまり親しいつきあいがない。それでも、こうやって顔を合わせればポツポツ会話ぐらいはする仲だ。
 「えっと、朱鷺子、おねーちゃん、その制服って改造してるの?」
 スカートが短いばかりでなく、制服のブラウスの胸元も大きく開いていて、隙間から見せブラが覗いている。
 「そうよ。カッコいいでしょ」
 「えーっと……その、うん、“せくしー”だね」
 空気の読める理華は、慎重に言葉を選ぶ。
 「まだ17歳とは思えぬほど成熟した顔つき&体つき」の朱鷺子は、高校の制服を着ていなければ間違いなく成人女性と見られる。
 私服で遊びに行く時などは便利(まず補導されない)なその特徴も、こうして通学する際には(悪い意味で)目立つ。口の悪い人間なら、「イメクラのコスプレみたい」と表現しただろう。
 もっとも、(フケて見えるとは言え)それなりに美人でグラマーなことも確かなので、同じ高校の男子生徒には結構モテる。あのくらいの年齢の少年は「年上のセクシーな女性」に弱いものだ。
 ある種の「女王様」扱いに、朱鷺子自身も満足しているので、まぁ、これはこれでアリなのだろう。
 「そう言えば、アンタも髪型変えたのね」
 「うんっ! ママがやってくれたの。ね、ね、かわいい?」
 嬉しそうに聞く理華の様子に呆れたような視線を向ける朱鷺子。
 「ガキっぽい……けど、まぁ、アンタみたいなお子様には、似合ってるのかもね」
 「えー、何、それ、ほめてるの?」
 「はいはい、かわいいかわいい──じゃ、アタシはこっからバスだから」
 「あ、うん……じゃあ、またね、朱鷺子おねーちゃん」
 ブンブンッと手を振りながら、小学校の方に駆けていく理華を、バス停から眺めながら、心の奥底にわだかまっていた罪悪感のようなものが静かに解けて消えて行くのを、朱鷺子は感じていた。

<おしまい>

#以上。蛇足気味に解説すると、17歳の女子高生・藤原みなみが「小金持ちな岸部家の25歳の娘で、城崎の後妻&理華の継母」という立場になり、25歳の元OL/現主婦(?)の岸部朱鷺子が「城崎家の隣りに住む藤原家の17歳の娘」の立場になったと思ってください。
#理華&みなみだけでなく、朱鷺子もそれなりに幸せな立場にしたのは、彼女も彼女なりの言い分はあった(不本意な就職・義務的な夫・他人行儀な義娘)から。
彼女の場合、実の両親に甘やかされてああなった側面もあるので、それなりにしつけに厳しい藤原家で育てば、高校卒業後も以前程ヒドくはならないのではないかなー、と。
0195『召喚契約にご用心』2015/05/04(月) 04:29:48.70ID:cCdP43lf
#なんとか最終回。なんか、背中がかゆいラブコメちっくな展開になってしまいましたが、まぁ、私のSSではいつものコトかと、半ばあきらめ気分。抵抗感のない方のみお読みください。

『召喚契約にご用心〜名札はキチンと付けましょう3〜』
【完結編】

 とりあえずふたりの間では話がついたので、夕飯を食べるため、おそるおそる部屋の外に出てみたエイルとガンドーラだったが──結論から言うと、呆気ない程スムーズに事は運んだ。
 寮の廊下や学生食堂で顔を合わせたエイルの知人の学生や教師達は、ガンドーラの方を、この魔法学校の男子生徒として認識し、挨拶したり、話しかけたりしてきたからだ。
 その際、「彼」の名前が「ガンドル」という男性形になっていることを知れたのはひとつの収穫だろう。ネームタグの方も、いつの間にかそう署名されている。同じくエイルのネームタグには「エイラ」と記されていた。
 また、「ガンドル」の方も、見も知らないはずの人間との会話なのに、なぜか適当についていけているのだ。これも立場が入れ替わったことによる補整なのだろうか。
 さらに言えば、「エイラ」のことも、高位妖精バルキリーを召喚したということで感心されたり羨ましがられることはあったが、誰もそれが昨日まで共に机を並べて学んでいた学友であるとは気付いていないようだった。
 そして臨んだ翌日の試練で、ふたりに言い渡された課題(これはパートナーによって変化する)は、一週間以内に魔術学校の地下に広がる人造迷宮の地下3階までたどりつき、その階のどこかにある大広間の宝箱から中身を取ってくるという、かなりの難題だった。
 この学校の卒業課題が、生徒3人(+各自のパートナー)で組んで、地下5階まで踏破して最深部のボスを倒すことであることを考えれば、3年に進級したばかりの彼らにとってどれだけハードな課題かは、想像がつくだろう。
 もっとも立場を交換しているとは言え、戦乙女とそれなり以上に優秀な魔術師のコンビにとっては、容易ではなくとも決して高すぎるハードルというわけでもなかった。
 「魔術学校の3年生の少年魔術師」という立場になっている「ガンドル」は、本来その立場にあるエイルが優等生だったおかげか、「学業優秀なうえ、体術にも秀で、さらに気さくで明るい好青年」という評価を得ていた。
 否、他人からの評価だけでなく、実際にここの学生が2年生修了時までに覚える魔法はすべて使いこなせたし、座学に関してもスラスラと答えることができたのだ。
 一方、「戦乙女エイラ」の方も、その華奢な体格は変わっていないはずなのに、バルキリーの立場になっているせいか、前衛として戦うのに十分以上の槍の腕前と、戦乙女にふさわしい光の術法の数々を獲得していた。
 そんなある意味「いいとこ取り」状態になっているうえに、「基本は豪胆なガンドルが積極的に進みつつ、慎重な性格のエイラがフォローする」という、召喚者とパートナーの理想的な関係を築いているのだから、そうそう失敗するはずもない。
 その結果、期限の一週間から3日も余裕のある僅か4日間で、ふたりは課題を達成したのだった。
0196『召喚契約にご用心』2015/05/04(月) 04:30:22.93ID:cCdP43lf
 「ふたりともご苦労様。見事に試練を達成できたようですね」
 「ガンドル」の(本来はエイルの)指導教官であるクリステラは、穏やかな笑みを浮かべて迷宮から帰還したふたりを見つめる。
 4日前、課題を言い渡した際のふたりはどこか他人行儀で物理的にも心理的にも距離が感じられたが、今、目の前に立つ「少年と少女」は、寄り添って立つことがごく自然な感じに雰囲気が大きく変化している。
 (ふむ……課題を出した時はぎこちなさが見てとれましたが、この4日間、互いの命を預けて共に戦っただけあって、強い絆が感じられるようになりましたね)
 無論、学生の訓練の場だけあって、迷宮に出現するモンスターの大半が疑似生物で、侵入者にトドメはささないよう調整してあるが、即死でなくても毒や出血で死に至ったり、罠などで事故死する確率は0ではない。
 念の為に係の教官が人造迷宮を監視してはいるものの、再起不能な重傷を負うようなケースも、毎年数例ある。実戦ほどではなくとも死が身近にある環境で、ふたりきりで支え合って冒険していれば、当然のことながら絆は深まる。
 そして、それこそが学校側の狙いだった。運良く強いパートナーを召喚した学生は、その力に溺れて慢心したり、逆に劣等感から相方に隔意を持ったりするケースがままあるが、それを防ぐために、難しめの課題に協力して当たらせているのだ。
 「ええ、オレもエイラも、得難い経験が積めたと思います」
 学生の立場になっている「ガンドル」が、珍しく殊勝な態度で語り、傍らの「エイラ」を促す。
 「これが、地下3階の宝箱の中味です──これで良かったんでしょうか?」
 「エイラ」がクリステラに渡したのは、掌に載るくらいの大きさの宝石箱のようなものだった。
 「はい、確かに──中味は見ていないのですね?」
 「オレは開けようとしたんですが、「エイラ」に止められまして……」
 ポリポリと頭を掻く「少年魔術師」と不安げな「戦乙女の少女」の間に視線を走らせつつ、「つくづく良いコンビになったものだ」と感心するクリステラ。
 「それで正解です。この箱を不用意に開けようとすれば、レベル3クラスの感電(スタン)の呪文をくらったでしょうからね」
 「ぐぇ、エゲツねぇ」と呟く「ガンドル」に「まだまだですね」と微笑みつつ、クリステラはキーワードを唱えて宝石箱を開け、中から取り出した「ある物」を「愛弟子」へと渡す。
 「これは……指輪?」
 「ええ。「繋がりの指輪」と呼ばれるマジックアイテムです。貴方から、パートナーのエイラさんに嵌めてあげなさい」
 そうすれば、その機能もわかるはずですよ、という師の言葉に促されて、なんとなく気恥ずかしい想いを堪えつつ「エイラ」の左手をとる「ガンドル」。「エイラ」の方はあからさまに頬が上気している。
 初々しいふたりの様子を「若いっていいわね〜」とクリステラが生暖かい目で見守るなか、一瞬の躊躇の後、「少年」は「少女」の薬指に「繋がりの指輪」を嵌める。
 「!」
 ハッと息を呑んだものの、「少女」の方も抵抗する気配はなく、むしろ嬉しそうだ。
0197『召喚契約にご用心』2015/05/04(月) 04:31:12.77ID:cCdP43lf
 『──な、なんだか、婚約指輪みたいですね』
 
 「え!? いまの、エイラか?」
 「え? え?」
 「ガンドルくん、彼女の声が「聞こえ」ましたか?」
 クリステラいわく、繋がりの指輪は、嵌められた者の心の中の言葉を嵌めた者へと届けるための魔法がかかっているらしい。
 「召喚者とパートナーの間では、召喚者側からは離れていても呼び掛けることができますが、逆は不可能ですからね。それを補うためのものです」
 「じゃ、じゃあ、これを着けてる限り、私の心の声がガンドルに全部筒抜けになっちゃうんですか!?」
 「大丈夫、慣れれば接続のオンオフはできるようになりますよ」
 「な、ならいいんですけど……」
 ただし、強い思念はオフにしててても幾らか伝わっちゃいますけど……とはあえて補足しないあたり、クリステラもなかなかいい性格をしているようだ。
 「難しい試練をこんなに速くクリアーしたご褒美です。その指輪は貴方達に差し上げます」

 * * * 

 本来は、試練達成で進級が正式に決まった段階で、パートナー契約時のミスについて師に打ち明けて相談するはずだったのだが、指輪をもらった「エイラ」が妙に浮かれていたこともあって、その場はいったん寮の部屋に戻ることにする。
 元々ガンドーラは野宿に慣れ、多少入浴などせずとも平気なタチだったが、「ガンドル」が魔術学校の生徒という立場のせいか、ひと風呂浴びて小ざっぱりしてから、ベッドでぐっすり眠りたいという欲求を感じていた。
 幸いにしてデダナン魔法学校は国営教育機関だけあって、各種生活設備は王家の離宮並に整っている。寮の1階には男女別の大浴場がある。
 「それって、私も入っていいんでしょうか?」
 「別に構わんだろ。召喚契約を結んだパートナーは生徒に準じる扱いを受けるって聞くし。まぁ、さすがに肌を粘液に覆われたギルマンとかなら、入浴は遠慮しろって言われそうだけどな」
 そう「エイラ」に答える「ガンドル」だったが──本来、その事を知っているはずに「彼女」に「彼」が説明していることの不自然さには気付いていない。
 どうやら、迷宮に潜っていた4日間で、現在の立場に対する「最適化」が一層進んだようだ。その証拠に……。
 「じゃ、オレはこっちだから。もし先に出たなら、ここで待たずに部屋に帰ってていいぞ」
 「いえ、ガンドルがよほど長風好きでない限り、この髪を洗わないといけない私より後になるとは思えないのですけれど……」
 「それもそうか。じゃ、先に部屋帰ってるから、オレのことは気にせず、ゆっくり入ってくれ」
 そんな言葉を交わしながら、それぞれ男湯、女湯に別れて入る「ガンドル」と「エイラ」。己が本来どちらに入るべき存在かということを疑問に思わないあたり、完全に現在の立場に染まっていると言うべきか。
 風呂場には何人か先客がいたのだが、とくに照れることもなく普通にスッポンポンになって(一応申し訳程度に腰にタオルを巻いて)、男湯に飛び込む「ガンドル」。
 筋肉質で脂肪の少ない身体つきのせいで余り乳房の大きな方ではないが、それでも一応裸体ならハッキリ膨らみが確認できるのに、本人は元より周囲もまったく気にしていない。
0198『召喚契約にご用心』2015/05/04(月) 04:32:24.11ID:cCdP43lf
 一方、女湯に向かった「エイラ」の方は、慎ましげに体をタオルで隠しながら湯船に浸かっているが、これは性格的なものであろう。反面、「初めて人間界の風呂に入る」ことへの戸惑いは多少見られても、周囲に同世代の女性がいることは気にしていない。
 もし、これが堅物で異性に免疫のないエイルのままなら、真っ赤にのぼせて鼻血を噴き出していただろう。
 しかし、今、鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで腰まである見事な銀髪を、備えつけの薬草シャンプーで洗っている「彼女」の様子は、背中から見ると(体は男のままのはずなのに)妙に艶めかしい。
 いや、仮に前からでも、座り方の加減で股間が見えないせいもあって、「ちょっと胸が貧しいけど、容貌や髪、肌の白さなどは極上の美少女の洗髪風景」にしか思えまい。それこそ、同世代の男子連中なら鼻血を出して食い入るように視姦したに違いない。

 「はぁ〜、いいお湯でしたー」
 「おぅ、お疲れ、エイラ」
 「あ、待っててくれたんですか、ガンドル」
 「んー、まぁ、ちょっとした気まぐれでな」
 そんな会話を交わしながら、バスローブ姿で部屋に戻るふたりの姿は、目にした大多数の学生達に憧憬と嫉妬の念を抱かせるに十分な「甘々カップル」っぷりを発散している。

 もっとも、それは当人たちも例外ではなく……。
 (はわわ……いつものワイルドなガンドルもカッコイイけど、こんな風にさっぱりした彼も素敵……)
 (ぅっ……ヤバイ。コイツ、元から可愛いのはわかってたけど……風呂上がりだと、なんだか凄く色っぽいぞ)
 口には出さないものの、ふたりともかなりテンパっている。
 そして、そんな状態の年頃の少年少女が、ベッドがひとつしかない部屋に帰れば、こうなるのも当り前の成り行きであった。

 「ちょ、ガンドル、どこを触って……」
 「エイラのここ、すごく濡れて……ぬるぬるしてる………」
 「あぁ、いや…は、恥かしいよぉ」
 「へぇ、結構感じやすいんだな。じゃあ、ここは……」
 「ひんっ! そ、そんなに指を動かさ…ああっ

……
…………
………………

 「え、エイラ。オレ、もう………」
 「──ぃいですよ、私の初めてを貴方に……」
 「本当にいいのか?」
 「ええ、貴方だから」
 「エイラ……」
 「ガンドル……」

……
…………
………………

 「あ、ああああっ……い、イクぅぅぅっ!!」 
 「うっ、オレも!」
 ──ビクンビクン
0199『召喚契約にご用心』2015/05/04(月) 04:33:24.13ID:cCdP43lf
 そんなこんなで、勢い余って「男女の深い仲」になってしまった(いや、この場合「女男の仲」というべきか)ふたりだったが、翌朝、同じベッドで目が覚めた時は、流石にもう少し冷静に話し合うことができた。
 その結果、「せっかく巧くいってるんだから、急いで元に戻す必要はないよね」という結論に至る。
 これは、野卑な自分に引け目を感じていたガンドーラ、魔術師ではなく本当は魔法戦士になりたかったエイルにとって、立場交換に伴い手に入れた現在の状況が、非常に好ましいものだったことが第一に挙げられる。
 前者にとって、現在の「知性と力を兼ね備えた少年魔術師」という姿は、バルキリーでありながら魔法が下手で、ほかの姉妹達のような優雅さにも欠けているというコンプレックスを解消してくれるものだった。
 後者については、長年の憧れの対象であった戦乙女に自分自身が今なっているのだ。ある意味、これほど理想を体現した存在はない。
 また、なまじ体を重ねて恋人と呼ぶべき関係になったが故に、元の立場に戻った時も、今と同じように相手のことを愛せるのか、という躊躇いも、理由のひとつだろう。

 結局、ふたりは一年後の「ガンドル」の卒業まで、そのままの関係を押しとおした。
 卒業直後に指導教官のクリステラに相談はしたのだが「そんな事が起こるなんて、奇跡的な確率でしかあり得ないし、仮にその本当にそういう事があったとしても、これだけ時間が経ったら、新しい立場が完全に定着してしまっている」と告げられる。
 もっとも「彼」と「彼女」もそのことは気付いていた。
 時間が経つにつれ、「ガンドル」は魔術師として大成し、逆に「エイラ」の方は戦乙女としての戦い方や知識などを自然に身に着けていったからだ。
 あるいは、学長やその知り合いの高位術師などであれば、何とかすることもできるのかもしれないが……。

 「もう、別にこのままでいいよな? どの道、これからもオレたちはずっとふたり一緒にいるわけだし」
 「ええ、「死がふたりを分かつまで」──いえ、貴方が死んだら、私がその魂を天界に導きますから、死んだあとも、です♪」
 「ははっ、違いない。さて、一応、「里帰り」は済ませたわけだし、今度はどこに行くかねぇ。竜退治とかも、いっぺん挑戦すべきかな」
 「それなら、南の地方で3つ首の亜竜が暴れてる──という噂を聞きましたけど」

 その後、「焔の勇者の再来」の甥とその相棒が、英雄として叙事詩(サーガ)に謳われる存在となったかは、ご想像にお任せしよう。

-おしまい-

#以上。無理矢理畳んだ感もありますが完結。もうちょっと長めにすべき題材だったかも。
0201名無しさん@ピンキー2015/05/05(火) 23:24:32.05ID:kx0GDhbf
続ききてた
これから読ませてもらいますです

そういや、今日秋葉原で女装ロリィタさん2人組を見かけたちょっとあとに、
B系っぽい格好をした女の子2人組とすれちがった。
偶然かもしれないけど、立場交換だと思ったら凄い萌えた
0202名無しさん@ピンキー2015/05/11(月) 11:18:56.19ID:ARliBdB0
このスレでは、これまで比較的「近い」立場間での交換
(親子とか兄妹とか恋人とか友人とか)が多かったけど、
行きずりとか単なる顔見知り程度の立場交換というのも
刹那的でアリかも。
そちら関連としては、「注文の多い料理店」のアレンジで、
旅先で見かけたファミレスに入った客達が、
「本日だけのスペシャルコース! 先着○名無料!!」
と書かれた紙を見かけ、ちょうど人数分が残っていたので注文。
しかし、それを食べるためには店の指示に従わなくていけない
──というネタを思いついた。
実は、そのメニューというのが店員のまかない用特製料理で、
しかも一日に出る数が決まっているため、それを食べるためには
店員と立場を交換しないといけないというオチ。
客は、「原作」通り男友達ふたりでも、男女カップルでも、
あるいはいっそ男女混合仲良しグループでもいいかも。
原作と違い、無事に逃げだせたのはひとりだけで……。
0203yuu2015/05/12(火) 00:52:13.92ID:RTYMQ2GU
>>202
確かに、関係性の薄い立場同士の交換は少なかった感じですね〜

注文の多い見せ的なネタだと、
 『お互いの服を交換してください』
 『この部屋では、男性は女ことば、女性は男言葉を使ってください』
みたいな指示が出されていって、気づくと立場が交換されているみたいなのも
ありかもしれないですね

他だと、『思いやり学習』の拡張みたいな感じで、職場体験で来た子どもと立場交換とか、
お見合いや出会い系のつもりでいったら相手と立場交換とか
そういうのもありかなと思いました。
0204名無しさん@ピンキー2015/05/12(火) 23:43:42.56ID:yUEnfnOZ
それぞれ全く知らない相手と立場交換されてバラバラになった家族がインターネットを通じて再会
慣れ親しんだ家族との久々の会話だがお互い初対面のようにぎこちない
元の家に向かうとそこには見た目はちぐはぐだが幸せそうな家庭が
0205名無しさん@ピンキー2015/05/18(月) 23:05:18.59ID:Iq708k/D
「プリキ●アなりきりスタジオ」というニュースを見て、浮かんだ妄想。
プリ●ュアファンの大きいお友達な青年(20歳ぐらい?)が、
そのスタジオに来てみたものの、このテの施設は当然
幼女向けなので、コスプレしての記念撮影は断られる。
しかし、遠方からわざわざ来たのでどうしてもあきらめ
きれない様子の青年をみかねた職員が、別の来場者
(小学校低学年の女児とその母親)に話を持ちかけて、
その女児と青年の立場を一時的に「交換」してくれることに。
女児の立場になった青年は、プ●キュアなりきりコスで
撮影ができてご満悦。さて、いざ元に戻ろうかという段階で
地震が起きて……。
0207名無しさん@ピンキー2015/06/07(日) 20:01:09.20ID:pw9S8ZHb
不思議とか不条理とかオカルトとか関係なく、
姉弟や兄妹、あるいは姉妹なんかが自分から、
こっそり立場を交換して入れ替わるようなネタって、
此処ではアリなのかな。
たとえば、引っ越した直後に、父親の海外赴任が決まり、
それに母親がついて行き子供だけ残された、とかいう状況で
姉が弟、弟が姉のフリをして、新しい学校に転校するとか。
0208名無しさん@ピンキー2015/06/07(日) 23:20:42.53ID:0IRyhTOi
>>207
もちろん、アリのアリの大アリだと思うよ

年齢が結構離れていると大好物
0209名無しさん@ピンキー2015/06/21(日) 18:48:31.78ID:uv8G8yun
わりとスランプ気味ですが、前後編予定の短編(205ネタ)を投下してみます。

『妖精の戦士プリティキュート〜名札シリーズ4〜』(前編)

 「来ちゃった……」
 春日部 望(かすかべ・のぞむ)は、大学に入って初めての連休に、関東の地方都市から電車を乗り継いで横浜まで来ていた。
 目的は──半年ほど前にできたアミューズメント施設“プリティキュートワールドスタジオ”。女子小学生をメインターゲットに、一部の「大きなお友達」も含めて巷で大人気のアニメ『プリティキュート』シリーズをモチーフにした、屋内型テーマパークだ。
 断っておくと、望はインドア派ではあるが、いわゆるアニメヲタクというわけではない。純粋に『プリティキュート』が好きなのだ。
 これは、小学生時代を通じて、日曜朝の『プリティキュート』シリーズを2歳上の姉とともにワクワクしながら見ていたという幼児経験に基づくのだろう。
 中学校に入ってからは、さすがにその種の番組を見るのは思春期の少年にとっては気恥ずかしく、一時は『プリティキュート』から遠ざかっていたのだが……。
 高校生になって小遣いに余裕ができてからは、こっそりレンタルでDVDを借りて見るようになり、再び『プリキュー』熱が再燃したのだ。
 大学入学時までその熱は醒めることなく、ネットで横浜にこのプリティキュートワールドスタジオが出来たと知って、一念発起してここまでやってきた、というわけだ。
0210『妖精の戦士プリティキュート』(前編)2015/06/21(日) 18:49:21.39ID:uv8G8yun
 プリキュースタジオの各種展示やアトラクションにも心惹かれながらも、真っ先に今日のお目当ての場所に行くことにした望だったが──残念なことにひとつ誤算があった。
 「えっ、ダメなんですか?」
 「はい、誠に申し訳ありませんが規則ですので……」
 「そ、そんなぁ〜」
 この施設の目玉企画のひとつである「プリティキュートなりきり撮影会」のコーナーで、がっくりとうなだれる望。
 望の今日の一版の目的は、「この撮影会でプリティキュートの衣装(コスチューム)を着て写真を撮ってもらう」ことだったからだ。
 「えっと、ネットで調べた限りでは、フレッシュネスプリキューとかプリティルナリスのコスチュームなら、サイズ的にも着られると思うんですけど」
 このスタジオの公式サイトの説明によれば、プリキュー乙女の中でも、比較的長身なイメージのフレッシュネスの4人やルナリスの衣装は160センチ用のものが準備されているという。
 望の身長は163センチで体重も軽く、19歳の男性としてはかなり小柄で華奢な方だ。普段はあまり嬉しくないが、そんな特徴が思いがけず役に立つと思っていたのだが……。
 「いえ、衣装のサイズの問題ではなく、この企画は小学生の女児限定のものですから」
 しかし、係員の返事は無情だった。
 「はぁ〜〜、残念だなぁ」
 気落ちして、トボトボと歩み去ろうとした望。だが、天は彼のことを見捨てていなかった!──後々のことを考えると天の恵みというより悪魔の悪戯のような気もするが。
0211『妖精の戦士プリティキュート』(前編)2015/06/21(日) 18:49:56.21ID:uv8G8yun
 「ちょっとキミ、いいかしら?」
 「へ!?」
 ポンと肩を叩かれ、声を掛けられた望が慌てて振り返ると、そこには20代後半くらいの優しげな女性が立っていた。
 左手で7、8歳くらいの女の子の手を引き、さらにその隣に小学5、6年生くらいの少女がいるところから見て、そのふたりの保護者なのだろう。
 「キミ、なりきり撮影会で写真を撮るの断わられてたわよね。何とかしてあげようか?」
 いくら相手が優しげな美人でも、初対面の人にこんな風にいきなり声をかけられたら、怪しく思うのが普通だろう。
 しかし、今の望は一番楽しみにしていたことのアテが外れて激しく落ち込んでいた。そのため「藁をすがる想い」というヤツで、相手の話につい耳を傾けてしまったのだ。
 「! 本当ですか、お姉さん!?」
 「あはは、やーねぇ、こんなおばさんにお姉さんだなんて。でも、うれしいから、おねーさん、はりきっちゃうゾ♪」
 途端に上機嫌になった女性──本人は西条眞子(さいじょう・まこ)と名乗った──は、望を人目を避けるようにアトラクションの裏手のスペースに連れこみ、年長のほうの娘の耳元に何事かを囁く。
 「……って感じなんだけど、どうかしら?」
 「うん、いいよ。何かオモシロそうだし」
 どうやら少女の方にも同意が得られたようだ。
0212『妖精の戦士プリティキュート』(前編)2015/06/21(日) 18:51:11.78ID:uv8G8yun
 その後、眞子から聞かされた話は荒唐無稽な代物だった。
 彼女達は魔女の末裔で、不思議な力を持っていると言うのだ。
 「と言っても、血の薄れた現代じゃあ、それほど大したことはできないんだけどね」
 それでも、魔法の力を秘めたアイテムを作って、こっそり裏ルートで売りさばいていたりするらしい。
 「で、そのひとつがコレ。立場交換の名札。自分の名前を書いた後、その名札を交換してつけると、周囲からは名札に合わせた立場として認識されるの」
 この名札を使い、彼女の娘の希美(のぞみ)と一時的に立場を交換したらどうか、と言うのだ。
 「そ、そんなことが……」
 ゴクリと唾を飲む望。普段なら眉唾物だが、望は直感的に相手が嘘をついていないと感じていた。
 「えっと、希美、ちゃんは、それでいいの?」
 「うん、いいよ。元々、ここに来たがったのは妹の真菜(まな)で、ボクはそんなに興味なかったし」
 なるほど、確かに希美は、髪が短かめで、シンプルなパーカー&デニムのショートパンツという服装の、いかにもボーイッシュな印象の子だ。こういう魔法少女めいた番組に夢中になるタイプには思えない。
 「それに、大学生の男の人の立場になるってのも、おもしろそうだし。
 あ、でも、その代わり、今日は真菜につきあって、このスタジオを一緒に回ってあげてね」
 それが対価ならお安い御用だった。

-つづく-
0213名無しさん@ピンキー2015/06/24(水) 02:59:05.59ID:LQvdSwJ7
↑のイマイチ反応なさそうなので、別ネタを考案。

同じ芸能事務所に所属する、若手芸人コンビ(♂)の片割れと女子高生アイドルデュオのひとりが、事務所の指示で立場交換。
芸人の方はツッコミ役なのに良識的でアクが弱いためイマイチで、アイドルの方は逆に綺麗な顔に反して大雑把かつ天然毒舌気味。
ならば、互いの立ち位置を変えてみては……という提案がアイドルのPから出されて、芸人のマネージャーも了解。
優等生芸人の方は気が進まないようだったが、毒舌アイドルの方は元々大阪出身のせいか、お笑いにも興味深々。互いの相方も了解したため、芸人も押し切られる。
そして半年後。立場交換した結果はやはり良好で、芸人コンビはお茶の間で人気急上昇。
アイドルの方は今時珍しいほどの王道清純派として注目株に。
──という話を妄想してみた。
0214名無しさん@ピンキー2015/06/24(水) 13:59:24.84ID:q2XJVMz+
>>209-212
「おいしい場面」がまだだから、反応ないだけな気がする
コース料理でいえば前菜どころか食前酒の段階だし

なので、続き期待していますよ
むしろ続きを!
0215名無しさん@ピンキー2015/06/27(土) 06:32:05.33ID:EUOP6DYe
というか過疎気味だから毎日巡回してる人がほとんどいないのよ
なので続き待ってます
0216名無しさん@ピンキー2015/07/02(木) 07:55:18.94ID:8foqYMF4
最近このスレを知って、ツボなネタが過去ログにゴロゴロ転がってるのを漁りながら、とても満たされた日々を過ごしている。
まだ全然ログを消化しきれていないので、これからもまだまだ楽しめそう。
過去の書き手の方々に感謝。
自分でも何か書いてみたいなとは思ったものの、過去ネタとかぶりそうなのでもう少しROMっとく。
0217名無しさん@ピンキー2015/07/02(木) 22:20:05.99ID:74d2pQyv
むしろ被ってもいいので書いてくださいお願いします
0218名無しさん@ピンキー2015/07/04(土) 06:17:23.39ID:yKS6wpAk
ネタ被りも歓迎とはありがたいかぎり。
ログ読み終わってから、何かできたら投下しに来ます。
0219『妖精の戦士プリティキュート』(後編)2015/07/05(日) 09:30:56.13ID:dNUS2CfJ
 望と希美の立場交換は呆気ないほどスムーズに実現された。

 少女と並んで休憩スペースの一角に腰掛け、眞子から渡された名札にサインペンで自分の名前を平仮名で丁寧に書き込む。
 「お兄さん、はい、コレ」
 希美から彼女の名前が書かれた名札を渡され、代わりに自分の書いた名札を手渡す。
 手にした「さいじょう のぞみ」名義の名札を、安全ピンでトレーナーの胸に止める。
 望がしたのはそれだけだ。
 名札を付けた時、ほんの一瞬、静電気のような悪寒が背筋を駆け抜けたが、それもすぐに収まった。
 念のため確認してみたものの、着ているものはそのままだし、ガラスに映る顔も元のまま変わっていない。服を脱ぐわけにはいかなかったので直接見たわけではないが、身体の方も男のままだろう。

 だが、周囲の反応は一変していた。
 先程までの、周囲の親子連れ(の特に親)からの場違いなものを見るような視線は皆無になり、不審げな視線の矛先が望の名札を付けた希美の方に向けられるようになっていたのだ。
 「うーん、このまま此処にいるのは居心地悪そうだし、ボク、通りの向かいにあるブックセンターで時間をつぶしてるよ。終わったら、迎えに来てね」
 望と異なり、プリキューに興味のない希美は、あっさりその場からの離脱を選ぶ。
 「ええ、わかったわ……じゃあ、行きましょうか、「のぞみ」、真菜」
 “母”である眞子に促されて、望は眞子や真菜と共に、再び「なりきり撮影会」のコーナーへと足を運んだ。
 またもや断わられるかも……という望の懸念は杞憂に終わり、係員はにこやかに“母娘三人”に応対し、衣装の用意された着替え室へと導き入れてくれた。
 「マナはねぇ、のプリティハピネスがいいなぁ」
 “妹”の真菜は、“変身”するプリキューをすでに決めてあるようだ。なるほど、真菜の両耳の上で髪を束ねた髪型は、ハピネスに変身する夜空みきのヘアスタイルを真似たものなのだろう。
 「ねぇねぇ、「ノゾミおねぇちゃん」は?」
 「え!? ぼ、僕は……」
 作品ごとに分けて陳列された衣装に目をやる。
0220『妖精の戦士プリティキュート』(後編)2015/07/05(日) 09:31:46.67ID:dNUS2CfJ
 最初に来たとき係員に対して口にした『フレッシュネスプリキュー』やプリティルナリスの出る『ハートフルプリキュー』も決して嫌いではなかったが、望の一番のお気に入りは別にあった。
 「──プリティビューティフル、とか」
 奇しくもそれは、真菜が好きなプリティハピネスと同じ作品『スマイリングプリキュー』に登場するプリティキュートで、ハピネスの5人目の仲間となる乙女の名前だった。
 「あら、じゃあ、ちょうどいいじゃない。ねえ、係員さん、ハピネスとビューティフルの衣装、この子達のサイズのものはある?」
 「はい、そちらの小さいお嬢様の分はございます。お姉様の分は……問題ありませんね。160センチ対応のものが用意されておりますから」
 どうやら、大丈夫なようだ。
 ハンガーに掛けられた衣装──青を主体にしたフレンチスリーブのミニドレスや小物類を受け取り、ドキドキしながらカーテンで区切られた1メートル四方くらいの狭い試着スペースに入る。
 望自身の今日の服装は、着替えやすさを考慮して紺のトレーナーとカーキ色のバミューダショーツ、アンダーは白のTシャツとブリーフだ。
 手早くトレーナーとバミューダショーツを脱ぎ、襟周りが露出したデザインなのでTシャツも脱いでから、ちょっとためらったもののブリーフも脱いで全裸になり、化繊の青い三分丈スパッツをじかに履く。
 (わっ、すべすべ……)
 興奮しそうになるのを懸命に堪える望。股間の余計なものは、万が一を考えて無理矢理後ろ向きに押さえこんでから履いておいたが、どうやら正解のようだ。
 自然と内股気味になりながら、ドレスの背中のジッパーを下ろし、袖を通す。
 「ちょっとキツ……くもないか」
 丈はともかくウェストや肩回りが厳しいのではと思ったのだが、手間取りながらもジッパーを上げてみると意外にも望の身体にあつらえたようにピッタリだった。
 両手首に白いリストバンドをはめ、苦労しつつ白と水色で彩られたロングブーツを履く。
 鏡がないので全身は見えないものの、視界に入る胸から下は、これでまるっきり憧れのプリティビューティフルとまったく同じ姿になれたのだ。望は感無量だった。
0221『妖精の戦士プリティキュート』(後編)2015/07/05(日) 09:34:21.89ID:dNUS2CfJ
 と、その時。
 「ノゾミぃ〜、お着替え大丈夫?」
 カーテンがめくられ、“母”──眞子が覗き込んできた。
 「ひゃっ! だ、だいじょーぶデス」
 「あら可愛い。あとは髪型だけね……ほら、こっち」
 手を引いて試着スペースから連れ出される。
 今まで経験したことのない“かかとの高い靴”の感触にバランスを崩しかけたが、幸い眞子が支えてくれたので、どうにか転ばずにはすんだ。
 「あはは、ノゾミちゃんにはハイヒールはまだ少し早かったかな」
 係員に微笑ましいものを見るような視線を向けられ、真っ赤になる望。
 (うぅ〜、恥ずかしいよぉ)
 そのままスツールに座らせられると、頭に何かをかぶせられる。
 視線を下げると自分の頭から青いロングヘアが垂れ下がっているのがわかった。ウィッグをかぶせられたのだろう。
 さらに、軽くメイク(といっても、アイライナーで目の周りを強調し、薄くピンクのリップを引いたくらいだが)までしてもらった後、ようやく望は姿見の前に立って自分の姿を確認することができた。
 「ふわぁ……」
 鏡の中の自分は、まるっきり「プリティビューティフル」そのものだった。

 「──しみじみと染みわたる清き心! プリティビューティフル!! 」
 憧れのプリキューになれた。その感動と興奮のあまり、思わず作中のビューティフルの決め台詞を言いながらポーズをとってしまう。
 そこで我に返れば羞恥のあまり逃げ出したくなっただろうが……。
 「ノゾミおねぇちゃん、カッコいい!」
 “妹”の真菜が絶賛してくれたおかげで、昂揚した気分を保つことができた。
 「そ、そう? ありがとう。真菜ちゃんも可愛いよ」
 その言葉は決しておせじではなく、ピンクのお下げをなびかせて桃色基調のコスチュームを着た真菜は、抱きしめたいほどにキュートだった。
 「えへっ、そうかな。「キラキラきらめくきぼうのひかり! プリティハピネス!!」……どう?」
 やや舌足らずながら、ドヤ顔で台詞とポーズをキメる真菜の姿に、その場に居合わせた者全員──「ノゾミ」や眞子、担当係員だけでなく、他のお客や係員までもが、思わず拍手する。
 その勢いのまま撮影スペースでの記念撮影になだれ込み、カメラマンもノリノリで、このノリが良くて絵になる“姉妹”を撮影。
 本来はひとりにつき5枚だけなのだが、ノゾミと真菜は、ちょうど他の3人のスマイリングプリキューのコスプレをしていた子たちと一緒に10枚近く撮影されたうえ、「ぜひ、このスタジオの宣伝用サンプルとして使わせてほしい」と懇願されてしまう。
 勢いで了解したものの、後日、“姉”の方は公式サイトに掲載されている自分達のコスプレ姿を見て、恥ずかしさに身悶えるハメになるのだが……。
0222『妖精の戦士プリティキュート』(後編)2015/07/05(日) 09:35:29.31ID:dNUS2CfJ
 閑話休題。
 一生の思い出と黒歴史をまとめて量産してしまった感のあるノゾミたちだったが、撮影も終わって、元の服に着替えることになる。
 「あれ?」
 また、あの狭い試着スペースで着替えをする段になって、ノゾミは微妙な違和感に襲われていた。
 「今日、ボクが着てきたのって、こんなのだっけ?」

 白いハーフトップと、イヌーピーのワンポイントが入ったピンクのショーツ。
 クリームイエローのブラウスと、デニムのキュロットスカート。
 足元は赤白ストライプのニーソックス&ミントグリーンのスニーカーだ。

 「──うん、“特におかしいところはない”よね。気のせいかな」
 (5年生にもなって、ブラが必要ないくらい胸がペッタンコなのは、正直、ちょっと悔しいけど……)
 まるで膨らみの見えない胸元に視線を落として溜め息をつきながら、ノゾミはスニーカーの紐を結び直した。
 「お母さん、お待たせ」
 “背中まで伸びた黒髪をさらりとなびかせながら”、ノゾミは更衣スペースを出た。
 「……あぁ、うん、これくらいいいのよ。“愛い娘カワイイのためだもの♪」
 一瞬、軽く目をみはった眞子だったが、すぐに満面の笑顔になってノゾミを迎えてくれた。
 「あ、うん、ありがと」
 “母の調子がいいのはいつものこと”だと受け流しながら、ノゾミは“妹”と手をつなぐ。
 「じゃあ、真菜、次はどこに行こっか」
 「マナね、プリキューグッズショップに行きたい!」
 「うーん、お姉ちゃんも行きたいけど、買い物すると荷物になっちゃうから、先に他のところ回ろうよ」
 「じゃあねぇ、映画コーナー!」
 「あ、いいね。ほらほら、お母さんも行こ?」
 「はいはい」
 (あらあら、こんなに早く“進行”するなんて、ちょっと予想外だわ)
 手をつないで歩きだす“姉妹”のあとをゆっくり追いかけながら、眞子は“何かおもしろいことに出食わした”かのようにアルカイックな笑みを浮かべるのだった。
 (珍しいケースだから、しばらく経過を観察したいわねぇ。あとで“本物”の希美ちゃんと要相談かしら)

-つづく?-

#「いつもの如く」2回で終わらなかった……次回が完結編です
0223名無しさん@ピンキー2015/07/06(月) 06:36:54.83ID:wZB5a3ne
gjでございます
久しぶりなので嬉しい
0224『妖精の戦士プリティキュート』(完結編)2015/07/12(日) 17:23:59.39ID:1s7BNmaY
-インタルード-

 「えーと、あ! あれかしら」
 “プリティキュートワールドスタジオ”と通り挟んでちょうど斜め向かいにある大型ブックセンター内を、キョロキョロと見まわした女性──西条眞子は、ちょっと迷ったものの、すぐに目当ての人物を発見する。
 「ちょっと、いいかしら、のぞみ……ううん、「ノゾム」くん」
 眞子に声をかけられ、雑誌コーナーで男性ファッション誌を手にとり、目を通していた「少年」は振り返る。
 「ん? かあさ…いや、眞子さんか。ずいぶん早いけど、もう終わったの?」
 「いいえ、今、あの子たちは映画上映会を観てるから、ちょっと抜け出してきたのよ──相談したいこともあったし」

 「で、相談したいことって、何?」
 ブックセンター内の一角に設けられた喫茶コーナーで、向かい合って腰を下ろしたのち、「少年」……いや、本当は11歳の少女であるはずの「かすかべ のぞむ」は、実の母であるはずの女性に問うた。
 「えぇと、その前に、「ノゾム」くん、貴方、自分の変化に気づいてる? たとえば服とか……」
 言われて自分の服装に視線を落とす「ノゾム」。
 「ああ、言われてみれば確かに変わってるね」
 黒い開襟シャツとアッシュブラウンのジャケットにダークグレイのスリムジーンズというコーディネイト。
 足元はブラックレザーの編み上げブーツで、さらに真鍮のチェーンチョーカーとゴツいアナログウォッチという組み合わせは、いわゆるメ●ズナックル風というヤツだろうか。
 つい1時間ほど前にプリキュースタジオで別れた時とは、似てもにつかないファッションだった。
 「うん、意外にイイ線いってるんじゃないかな」
 もっとも、元々男勝りな性格だった本人のお気には召したようだが。
 「買って着替えた、ってワケじゃないのよね?」
 「さすがにそこまではしてないよ。お金もないし。それで、相談って、この変化と関係あるの?」
 自分の身に起こった異変に動じていないのは、さすがは魔女の子と言うべきか、あるいは単に「彼」本人の肝がすわっているのか。
0225『妖精の戦士プリティキュート』(完結編)2015/07/12(日) 17:25:40.71ID:1s7BNmaY
 「ええ。単刀直入に言うわ。例の名札の効果が私の予想外…というか、予想以上の効果を発揮しているの。そのヘンを見極めたいから、この立場交換をしばらく継続してもらえないかしら?」
 実の娘に人体実験に協力しろと言っているようなものだ。客観的に見れば、随分と勝手な言い草なはずだが……。
 「うん、いいよ」
 言った眞子の方が拍子抜けするほど、ノゾムの方はあっさりその提案を受け入れた。
 「い、いいの?」
 「いや、だって、眞子さん、知ってるでしょ。オレ、どっちかって言うと男に生まれたかったクチだって」
 確かに、それは眞子も母として薄々察していた。
 いかにも女の子女の子している妹の真菜と異なり、希美は幼少時から、あまり女らしい遊びや服に興味を示さないタチだった。
 幼稚園や低学年の頃ならともかく、5年生になった今でも友達は女より男の方が圧倒的に多く、放課後は彼らに混じってサッカーしているような子なのだ。
 「立場だけとはいえ、男、それも大学に入ってひとり暮らし始めたばかりの男性になれるなんて、むしろコッチからお願いしたいくらいだよ」
 「それならいいけど──あ、知識の方は大丈夫?」
 「うん、多分ね。「春日部のぞむ」が通う大学とか、住んでるアパートとかの情報は、ちゃんとわかるみたいだし。大学の講義は……まぁ、聞いてノートとるだけなら平気じゃないかな」
 「そう。それなら、十分なデータがとれたら連絡するから、当分そのままで、お願いしていいかしら?」
 「合点承知──なんなら、ずっとこのままでもいいよ?」
 「フフッ、考えておくわ♪」
 無論、その時は、ふたりとも冗談のつもりだったのだ。

 しかし──迂闊なことに、この時、ふたりは電話番号やメアドなどを交換するのを失念していたのだ。
 そのため、ひと月あまりが過ぎ、「かすかべ のぞむだった少年」が完全に「さいじょう のぞみ」としての立場に染まり、本来の希美以上に「11歳の女子小学生」らしくなったのを確認した時、眞子はそろそろ名札の効果を解除しようと思ったのだが……。
 間抜けなことに、その時初めて、彼女は自分が「かすかべ のぞむ」の連絡先を知らないことに気付く。
 せめてノゾムの方から元の家に連絡してくれれば手の打ちようもあったのだろうが、男子大学生の気ままなひとり暮らしを堪能しているノゾムが、そんなことをするはずもない。

 それでも、魔女としての力を駆使して、根気良く魔力の痕跡をサーチするなどの手段をとれば、ノゾムの居場所を突きとめることは不可能ではなかったろう。
 けれど……。
0226『妖精の戦士プリティキュート』(完結編)2015/07/12(日) 17:40:07.37ID:1s7BNmaY
-エピローグ-

 「──エス・ターリアス・アウ・クーエル・トラス……」
 白と紺色を基調にしたフレンチメイドのような服を着た少女が、自分の身長ほどの杖を手に、呪文を詠唱する。
 「レオーラ!」
 最後の一節とともに、杖の先からゴルフボールほどの大きさの光の弾丸が発射され、10メートルほど先に置かれた的(といっても単に粘土をこねて人型に固めただけの代物)を貫き、破壊する。
 「お母さん、どうでしょう?」
 「素晴らしいわ、望美! ウチの家系でも、これだけ高度な魔法を駆使できる人なんて、ひぃおばぁさま以来じゃないかしら」
 予想外なことに、眞子の「娘」となった「彼女」には魔女としての高い適性があったのだ。
 あるいは、そんな資質があったからこそ、望は男でありながら魔法少女アニメに無意識に強く惹かれ、また今の立場になったときも馴染むのが異様に早かったのかもしれない。
 (まぁ、本人も喜んでいるようだし、これはこれでいいのかしらね)
 「望美」が西条家の「長女」になって、はや5年。
 「お姉ちゃん、すごいね! 本物のプリキューみたい!!」
 「ふふっ、ありがとう、真菜。さ、次は貴女の番よ」
 「うん、ガンバる!」
 あのテーマパークで出会った当初から妹の真菜とは仲良し姉妹だし、父(眞子の夫)である信哉も、「以前」よりずっと女の子らしくなった「娘」を溺愛している。
 本人ですら「以前」のことを意識しなくなった現在、唯一「事情」を知っている眞子自身も、5年も経てば情が湧くし、魔女の弟子としても非常に優秀なので手放したくはない。
 加えて、中学の時から私立涼南女学院という近くのお嬢様学校に進学した「西条望美」は、今時珍しいくらい淑やかで品の良い「良家のお嬢さん」とでも言うべき子に育った、西条夫妻自慢の娘なのだ。
 お姉ちゃん大好きっ子の真菜の方も、その影響で同じ涼女に入ったし、望美の魔法の鮮やかさに魅せられて、家伝の魔法に興味をしてくれるようになった……という余禄もある
 望美本人も、女子高生と見習魔女の二足のわらじ生活を、それなりにエンジョイしているようだし、とりたてて問題はないのだろう。
0227『妖精の戦士プリティキュート』(完結編)2015/07/12(日) 17:41:54.94ID:1s7BNmaY
 唯一の懸念は、「本物の娘」だった存在の行方だったが……。
 「まさか、タレントとして有名になるなんてね」
 コンビニで買ったテレビ雑誌の表紙で微笑む、甘いマスクのイケメン(にしか見えない人物)を見て、つくづく人生というのは分からないものだと溜め息をつく。
 なんでも、大学時代に男性ファッション誌のモデルとしてスカウトされ、人気が出てからは俳優としても活動を開始し、やや童顔ながら美少年タイプのアクターとして、順調にファンを増やしているらしい。
 (まあ、元気にやってるなら、いいわ)
 雑誌をマガジンラックに放り込み、眞子は、もうすぐ学校から帰ってくるだろうかわいい愛娘達のための夕飯作りに専念していくのだった。

-おしまい-

#といった形に落ち着きました。お目汚し失礼。
#ちなみに、メタなことを言うと、この女子高生になった望美ちゃん、プリキュースタジオでの経験から裁縫(とコスプレ)が趣味になり、高校では『コスプレにご用心』の1年後の片瀬睦月たちの後輩として現代服飾文化研究会に入部しています。
0230名無しさん@ピンキー2015/07/29(水) 16:05:10.90ID:11xV1dOf
すいません質問です
あるSSを探しているのですが内容が
正義の味方になれる可能性がある少年が悪の女幹部の策略でホテルに連れ込まれて
そこで一人にされた少年が脱いであった女幹部の衣装に興味をひかれ
つい着てしまった事で悪の女幹部として覚醒してしまうと言う話しだったのですが
悪の堕ちスレではなくこのスレだった覚えがあって過去スレも探しましたが見付からす
似たSSはあったのですが違いました
どなたかご存じ無いでしょうか?
0232名無しさん@ピンキー2015/07/29(水) 22:52:48.00ID:11xV1dOf
>>231
ありがとうございます!
確認出来ました
探していたSSはそれです
見つかってとてもすきっきりしました
02331/42015/08/16(日) 13:57:40.72ID:PzXM88QI
自分も何か書いてみようと思って、とりあえず書いてみたので投下してみます。
改行とか読みにくかったらごめんなさい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

背後から聞こえてくる二人組の女子高生の会話は、
ワシが気づいてからでも、かれこれ10分ほどは続いているだろうか。
おそらく、駅から出た時にはすでにワシの後を尾けていたに違いない。
「マイ、あんなのにするのはやめときなよ」
「だって、ギャップがあるほうが面白いってミカも言ってたじゃない」
「確かにそう言ったのはあたしだけど、よりによってあんなオヤジにしなくたっていいじゃん?」
ミカと呼ばれた娘が言う『あんなオヤジ』とは、無論ワシのことだろう。
自分で言うのも何だが、ワシは背も低く太っていて、オヤジ臭いゴツい顔立ちの上に禿げ頭ときている。
着ているものもくたびれたグレーのスーツだし、
およそ女子高生の好むような容姿ではないのは言われるまでもなく自覚しているのだ。
もしもマイと呼ばれた方の娘がワシに用があるとしても、どうせろくなことではあるまい。
どちらかというとマイよりもミカの方がタイプだと思っていたので、
余計にそのマイという娘に対しての興味は失せていた。
そもそも、積極的に関わって面倒事に巻き込まれるのも嫌なので、
ワシは二人には気付いた素振りも見せず、そのまま家路を急ごうとした。
こんなご時世だ。最悪、痴漢と間違われて刑務所行きというケースもある。
こういう手合いはさっさと振り切ってやるのが無難だ。
「あっ、あのっ、すみません!」
そんなワシの考えが気配から伝わってしまったのか、駆け寄ってきたマイがワシに声をかけてきた。
「何だね君は。ワシは急いでいるのだ」
「ちょっとだけお時間もらえませんか。すぐに済みますから」
「ねっ、お願いおじさん。人助けだと思ってさ!」
マイとミカというその娘たちは、二人がかりで袖を掴んできて必死にワシを引き止めようとしてくる。
やれやれ。まあ、話を聞くくらいならいいか。
本当はワシは急いでなどいなかった。こんなのに構っていたくはない、というのが本心だ。
しかし、いかにも頑固親父といった見てくれのワシに話しかけてきた二人の根性を、
少し尊重してやろうという気になっていたのだ。
「今、私たちの間で流行ってる『自分を変えるおまじない』というのがあって。
 それには誰かの協力がないといけなくて。おじさんみたいな人ならきっと、私と……」
「なんだかよくわからないが、ワシは急いでるんだ。すぐに済む用事なら、さっさと済ませてくれないか」
「ありがとうございます、おじさん!」
わざとらしく渋々承諾した様子をワシが見せると、マイは笑顔を浮かべた。
ミカも嬉しそうな顔をしている。
02342/42015/08/16(日) 13:58:20.35ID:PzXM88QI
マイは長い髪の娘で、小柄で大人しそうな、いかにも文化系といった雰囲気だ。
一方、ミカのほうはスポーツでもやっているのか、短い髪に色黒で、おまけに背も高い。
学校名までは思い出せないが、二人はこの近くの女子高の制服であるセーラーを着ていることから、
おそらく下校途中だということは推測できるが、それにしても対照的な二人だなとワシは思った。
「じゃあ、おじさん、この上に手を乗せてください」
そう言って、マイはワシの前に手を差し出した。
そのマイの手の甲の上にワシが手を乗せると、マイはさらにその上に手を重ねて、もう片方の手も、と促してきた。
ワシは黙ってそこへ手を重ねてやる。
「ありがとうございます。そしたら、目を閉じてもらえますか?」
ワシは不審そうな目線をそばで見守ってるミカのほうに向けると、
ミカは両手を合わせて『お願い』のジェスチャーをワシに向けてくる。
しょうがない。こうなったらとことんつきあってやるか。
「閉じたぞ。これでいいのか。早くしてくれたまえ」
すると、マイが何やらブツブツと何かつぶやきはじめた。
ちゃんと聞き取れなはしないが、それは念仏とか呪文を唱えているのにも似ていた。
さっき言っていたおまじないとやらだろうか。
マイのそのつぶやきが終わると、唐突に全身を脱力感が襲い、思わずふらついたワシは地面に膝をついてしまった。
「ちょっとマイ、大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
うずくまったワシにミカが駆け寄ってくる。
軽いめまいで少しふらふらするが、それをかき消すように頭を振って、ワシは目を開けた。
「おお、なるほど、こういうことか。こいつはすごい!」
さっきワシらに声をかけてきたおじさんが、
何やら感動した様子で、自分の体をあちこち見まわしたり触ったりしている。
ヨレヨレのスーツの前を広げて、ネクタイの調子や財布の中身を確認したりしながら、驚いたり喜んだりしている。
しわだらけのワイシャツを盛り上げる胸を見ながら、
ワシは「あのおじさん、意外と胸大きい女の子だったんだな」などと、どうでもいいことを考えていた。
何やら一通りの確認が終わったようで、そのおじさんはワシらに向かって、
「では、ワシはこれで。まだ明るいが、君たちも気を付けて帰りたまえ」
と言い残すと、長い髪をなびかせながら去って行った。
「いったい何だったのかしら、あのおじさん。ちょっと気味が悪いわ」
「この後はウチに寄る約束だったでしょ。あんなオヤジのことなんかさっさと忘れて、今日は楽しんじゃおうよ」
不安を口にしたワシを慰めるようにミカが言った。
そういえば今日はそんな約束をしていたな。
何かまだ違和感があるのだが、ミカの嬉しそうな顔を見ると、そんなことはどうでもよくなってきた。
ワシは気を取り直し、乱れていたセーラー服の裾を直して立ち上がり、家に向かうミカの後に続いた。
02353/42015/08/16(日) 13:59:17.72ID:PzXM88QI
「さっきも言ったけど、今日はウチの親いないから。今日はマイとあたし、二人だけでゆっくりできるよ」
「あっ、ちょっと、ダメよミカ、そんないきなり……」
「だって、こんな機会なかなかないんだもん。あたしがマイのことどう思ってるか、わかってるでしょ?」
家に着くと、ミカはすぐにワシの体を求めてきた。そう、ワシとミカは付き合っている。
女子高では、女の子同士で恋人になるのはそこまで珍しいことではない。
むしろ、ワシらの高校みたいに厳しいところだと、学外の男子と付き合うことのほうが難しいくらいなのだ。
ただ、ミカの独占欲はちょっと強すぎて、時々ワシも戸惑うことがある。
ワシとミカはしばらく、息継ぎも忘れるくらいキスを交わしながら、互いの制服をゆっくりと脱がしていく。
下着だけになったワシとミカは、彼女のベッドに身を投じた。
ミカは、日焼けした逞しい体に似合う青いスポーツブラと揃いのショーツで、男らしくてかっこいいなと思った。
ワシの方は反対に、今日の突然のミカの誘いに何の準備もしていなくて、子供っぽい白い下着を着ていた。
今日は体育もなかったから油断をしていたのだ。
ただでさえ太っているのに、余計にデブに見えるのがちょっと恥ずかしい。
だが、ミカはそんなワシの思いなどお構いなしだ。
「ふふ。マイのおっぱい、すごく柔らかい。羨ましいなあ」
ミカがワシのブラの中に手を滑り込ませて、胸の感触を楽しむように弄ぶ。
たるんだ胸をふにふにと揉みしだかれて、時折乳首をクニクニと摘まれるたびに、
我慢できずに思わずワシは変な声を上げてしまう。
ミカはそうしながら、「マイ、可愛い。可愛いよ、マイ」などと囁きながら、
ちゅっちゅっと頬や首筋に口づけを落としてくる。
ミカは、前からこうやってワシの胸を弄ぶのが好きなのだ。
ワシも負けじとミカの厚い胸板に指を這わせる。
男らしさを感じさせるミカの厚い大胸筋は、ワシのたるんだ体とは正反対だ。
しかも、胸を弄ってもミカは全然感じてくれる気配がないのが悔しい。
ワシの方だけが胸で感じて喘いでるのが悔しくて、今度はミカのパンティのほうへ手を伸ばす。
ワシの短小包茎チンポと違って、ミカの大砲みたいなデカチンは、
勃起しなくても時々ショーツからはみ出していることがある。
そんなミカのチンポは、ワシが何かする前からすでにギンギンに勃っていた。
02364/42015/08/16(日) 14:00:04.00ID:PzXM88QI
ワシはその亀頭部分をこね回すようにいじってやる。
「もうこんなになってるね。ミカったらエッチね」
「ま、マイが可愛いのがいけないんだよ……」
さすがにここを触れられては、ミカも感じるしかないだろう。
ワシだって、伊達に何年も自分のチンポを慰めてきたわけではないのだ。
ここの扱いならミカよりも上手いという自負がある。
日焼けしたミカの浅黒い顔が、ほんのり赤く染まったように見えて、
嬉しくなったワシは、執拗にミカのチンポを攻める。
「ふふふ。ミカも可愛いよ。普段はかっこいいのに、ココは弱いのよね。
 ミカのこんな表情を独り占めできて、嬉しいよ、私」
そう言って、ワシはミカにまた唇を重ねる。
「今日の『おまじない』、効果あったのかな。マイ、いつもより大胆だよ」
そうなのだろうか。ワシ自身に自覚はないが、ミカが言うならそうなのかもしれない。
「でも、ミカも前に先生とあの『おまじない』してたけど、
 ミカだって特に何か変わったような気はしない、って言ってたわよね?」
ワシは、ミカに尋ねてみる。
「言われてみたらそうだったね。あの『おまじない』って、結局ただの気休めだったのかも。
 冷静に考えたら、『自分じゃない誰かに代われる』なんて、そんな馬鹿馬鹿しいことあるわけないじゃん」
「そうね。そもそも私、変わる必要なんてなかったのよ。
 だって、私が変わっても変わらなくても、ミカは私のことを好きでいてくれるから」
そう言って、ワシはミカにキスをしながらチンポの裏筋をなぞってあげた。
その先端から精液がぴゅっぴゅっと飛び散って、ミカは快感にビクビクと身を震わせた。
「この……マイったらいつの間にこんなに上手くなったの?」
ミカも負けずにワシの乳首をきゅっきゅっとつねる。
そこからのじんわりとした刺激に、ワシの包茎チンポがびゅるびゅると射精してしまい、
ショーツが精液でぐしょぐしょに湿ってしまう。やっぱり、女の子同士はいいものだ。
「ミカだって……」
ワシとミカは、射精後の余韻を楽しんだあと、いつものように体を重ねて愛を確かめあった。
0237名無しさん@ピンキー2015/08/16(日) 14:04:03.50ID:PzXM88QI
女子高生と入れ替わったおっさん同士は、ゲイなのかレズなのかよくわかりませんね。
というか、ちょっと展開がわかりにくかったかも。スレ汚し失礼しました。
また腕を磨いて出直してきます。
0238名無しさん@ピンキー2015/08/17(月) 01:47:59.05ID:94Ta3UuP
ギャップのある入れ替わりが好きなので面白かったです
また書き込んでくれるとうれしいです!
0240名無しさん@ピンキー2015/08/17(月) 21:22:47.25ID:yVI4a5cP
融合とか好きなあの人かな?

またひとつ、新しい方向性の立場交換が登場した感じ
楽しませていただきました
0241名無しさん@ピンキー2015/08/17(月) 21:55:51.43ID:/IsTFkMP
倒錯感があって面白かったです。
女子高生になってしまったおっさんたちが、
これから女の子として歩んでいく人生を想像すると、さらに興奮してきますね。
0242名無しさん@ピンキー2015/08/18(火) 11:06:29.92ID:HvPXrR8w
「雄オークが人間の幼女にTSされてアレコレされる」同人誌を見て思いついたのだが、
「魔王側「が」人間の姫とかの立場を乗っ取るのではなく、」
「魔王(魔物)が(神とかの呪いで)強制的に人間の女の立場にされて弄ばれる」
タイプの話ってどうだろう?
胸ペッタン・男性器ありはもちろん、青白い肌や長い爪、鋭い牙なんかもあるのに、
周囲からは、「色白で素敵」「飾り甲斐のあるお爪ですね」「八重歯が可愛らしい」
などと褒められる。
もちろん、魔王は魔力も筋力も失い、それどころか仕草や言葉遣いは強制的に
人間の女らしいものに変換されてしまう……とか。
0243233-2372015/08/18(火) 16:42:49.37ID:/TIofgwP
>>238-241
感想ありがとうございます。
まだスレで出てきてないような流れを目指してみたのですが、マニアックすぎた感じは否めません。
ところでこういうのって、主人公の意識(地の文)は立場交換前を保ったままのほうが好みですか?
それとも、徐々にor即、立場交換後の言動に入れ替わるのが好みですか?
個人的には後者が好みだったんですけど、今回はそのままで書いてみました。

>>242
その同人誌に超興味があるんですが、それはともかく、そういうシチュも良さそうですね。
性関連の描写が難しそうですが、日常生活パートとか見てみたいです。

>>240
即バレでクッソ恥ずかしい。
0245名無しさん@ピンキー2015/08/20(木) 21:05:27.58ID:7QIALKdr
>>242
良いんじゃないかな
人間より強い存在な分よりギャップのある交換になる感じかな

>>243
個人的には徐々に変わっていくのが好みです
違和感を覚えつつも馴染んでいくのが好きですね
ですが、立場交換前の状態を保っているのも立場交換が際立つ感じがします

今回は、言動は変わりつつも頭の中が前と同じなのが新しくて良いと思いました
0246233-2372015/08/25(火) 09:59:35.80ID:FGzwgPjN
>>245
6スレ目405からの、中年オヤジと女子高生の立場が徐々に入れ替わるやつが大好物でして。
後半で、言動は女子高生化しても思考はオヤジのまま、という同じシチュエーションがあって、
ぶっちゃけパク……

ただ、やっぱり『立場に馴染むように、思考も徐々に変化していく』ほうがおいしい気はします。
続きを書くつもりはないのですが、このあとたっぷり時間をかけて変化してくれるのだろうと思うことにしましょう。
一年くらいしたらきっと、頭の中も立派な女子高生になってるはずです。
0247名無しさん@ピンキー2015/08/26(水) 00:01:35.54ID:TPNZtFZB
立場交換されても思考が本人のまま、ってのはまだ数が少ないけど、色々と可能性を感じる。
例えば満員電車の中で痴漢されていた女子高生が、痴漢していたオヤジによって立場交換されてしまうのはどうだろう。
嫌がっていたはずの女子高生は、思考は女の子のままなのに、立場交換には気づかず痴漢になりきってしまう。

自分と立場交換した中年オヤジの身体に欲情し、オヤジが着ているセーラー服の中を弄る。
毛むくじゃらな太腿を撫で回したり、ショーツの中からはみ出たチンポを弄ったり……
最後は興奮に突き動かされるままガニ股になり、オヤジのチンポを無理やりまんこに挿入させて、中出しを強要すればいい。
脂ぎった中年オヤジのチンポ突っ込まれて処女を奪われてんのに、女子高生はすっげえ下品な顔でぐへぐへ笑ってご満悦。
怯えたふりをしたオヤジがこっそりほくそ笑んでいる──みたいな感じで。
0248名無しさん@ピンキー2015/08/27(木) 12:17:36.65ID:AUsu0GVC
>>247
書いたあとで、これ、オヤジ視点で書くのが正解だったのか?とか思ったものの、
せっかく書いてみたので、一応アップしておくことに。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さっきから電車が揺れる度に、偶然を装って私の体に触れてくるこのオヤジ……どう考えても痴漢だ。
最初は腕に当たるだけとかだったのに、今のはもう明らかに胸を揉みにきてたし、
下半身の、その……硬いのをこすり付けてきてるし。
今まで痴漢に遭った人たちの話を聞いて、
満員電車なんて人だらけなんだから大声で助けを求めればいいじゃないと思っていたけど、
いざ自分がその被害に遭ってみると、そうはいかないということが実感できた。
体は硬直してしまって動かないし、恐ろしくて声も出ない。
もし体が動いたとしても、片手は吊り革、もう片方の手で重いカバンを持った私には、
そのオヤジの痴漢行為に抵抗する手段が無かった。
早く次の駅で降りて、このオヤジから離れたいと思いながらも、
この先のカーブで大きな揺れがあるのを思い出して、
そこでまた何かされるのだろうなと想像して嫌な気分になった。

がたん。

やっぱり。ここで揺れるのはいつものことなのだ。
私は、足元がふらついたフリをして、もう一度その女子高生の胸を揉んでやった。
ふふっ。女子高生の固太った胸の感触は最高ね。
この娘を見かけてから、二か月間ずっとマークしてきて正解だったわ。
こんな目に遭っても顔を赤らめて俯いているだけで、抵抗らしい抵抗などしてくる気配もない。
私みたいなキモい中年のオヤジに触られてるのに、もしかして興奮しちゃってるのかもね。
本人は知らんぷりしてるのかもしれないけど、スカートの前がもっこり膨らんじゃってる。
脈アリと見た私は、さらに積極的な手段に出ることにした。
その女子高生のスカートの中に右手を忍びこませ、太腿を撫ででやる。
髭剃り跡の濃い顔から想像した通りの、ごわごわとした毛深い肌触り。
やっぱり女子高生の脚ってこうでなくっちゃ。
私は調子に乗って、その肉付きのいい太腿を上へ上へと撫で上げていく。
さすがに嫌悪感が勝ったのか、その女子高生は身じろぎして拒否の意を見せる。
でも逃がさないわよ。
私はさらに彼女に身を寄せて、その耳元で囁いた。
「誰も助けてなんかくれないよ。それより、おじさんが君をもっと気持ちよくさせてあげよう」
0249名無しさん@ピンキー2015/08/27(木) 12:18:31.00ID:AUsu0GVC
今度は左手を彼女のセーラーの中へ滑り込ませる。
女子高生の、制服の中の素肌だ。
スカートの中からヘソの周りを通り上へと生い茂る濃い体毛を味わうように、
その三段腹を一段ずつ撫で上げ、彼女のブラの中へと手を這わせる。
やっぱりこの子、胸毛も相当な量だわ。
胸元から漂う女子高生らしい濃い加齢臭が、私の脳をとろけさせる。
そのまま脚と胸とをねぶるように攻めてやっていると、次第に彼女の呼吸も荒くなっていく。
「もしかして気持ちよくなってきちゃった?」
「ち、ちがう……」
口答えする悪い子には正直になってもらおうかな。
「素直になっていいんだよ。ほらここ。大変なことになってるよ?」
私は、右手をさらに上に滑らせて、彼女のパンティの前を撫でてあげた。
その中にある彼女の玉袋を、優しくふにふにと握ってやる。
「んんっ!」
涙目で声を押し殺す彼女。良い。実に良い反応だわ。
私が今まで痴漢してきた娘の中でも上位に食い込む、可愛らしい反応だ。
「おじさんにはわかるよ。ここに挿れてほしくてたまらないんだろう?」
私は、スカートの上からでもはっきりとわかる彼女の熱い隆起に触れ、
追い討ちをかけるようにその硬い肉棒をいじりまわしてやる。
我慢汁が漏れてるみたいで、先っちょのあたりのパンティはすでに湿っていた。
「それとも、こういうのは嫌なのかな。やめてほしい?」
ここまで来ると彼女もノーとは言えなくなってきたみたいで、
半ば私の方に体を預けるような格好になっていた。
まあ、もう私の方が我慢できなくなってきちゃってるんだけどね。
「じゃあ、挿れてあげようね」
彼女のパンティを下げてやって、スカートをまくり上げると、
女子高生らしく黒ずんだ太いものが露わになる。
「純情そうに見えて、こんなにいやらしいのを持ってるんだね」
茶化すように彼女に言うと、彼女は照れながらも、こくりと頷いた。
またまた可愛い反応じゃないの。
0250名無しさん@ピンキー2015/08/27(木) 12:18:59.67ID:AUsu0GVC
そして私もスラックスの前を開けて、ベルトを外してわずかにずり下ろす。
愛用の白ブリーフを限界まで下げて、中に挿れようと……挿入った。
しかもこの感触、もしかして処女だったんじゃないの?
この娘、アタリもアタリの大アタリじゃないの。
なんだか得した気分になっちゃうわね。
周りにバレないようにちょっとずつ腰を動かしてやると、一番奥まで入ってしまった。
むっちりとした骨太な彼女の体を抱き締めながら、
ゆっくり抜いたり入れたりを繰り返してやると、
そのたびに彼女のが私にとんでもない快感を与えてくれる。
「いいね。いい。いいよ、君」
私はすっかり彼女との行為に没頭していて、だんだん言葉も単調になってきていて。
そのまま彼女と繋がったままイってしまった。
あっ、そろそろ次の駅に着いちゃう。
女子高生と、しかもなかなか上玉な処女との行為に満足した私は、
手早く身なりを整えて、何食わぬ顔で平静を装う。
そして、膝に力が入らないのか、必死で吊り革に掴まっている彼女の
テカテカと光る脂ぎった額にキスをしてやった。
「機会があれば、また、ぜひ」
彼女にそう声をかけて、私は流れる人の波に混じって電車を降りる。

電車のドアが閉じる音に背後を振り返ると、
さっきの痴漢のオヤジが私の方を見てニヤニヤしていた。
気持ち悪い。
あのオヤジも気持ち悪いし、パンティがぐっしょり湿ってて気持ち悪いし、
何より、さっきのアレのせいで、下半身に残る異物感が気持ち悪い。
私はトイレに駆け込んで、トイレットペーパーで何度も念入りにあそこを拭き取った。
制服も一度全部脱いで、ウェットティッシュで念入りに拭いた。
それでもまだあのオヤジに触られた感触が残ってるような気がして、涙が止まらなかった。
明日からは電車の時間をズラすか、別のルートを考えないと……

おしまい。
0251名無しさん@ピンキー2015/08/27(木) 21:47:30.78ID:0qikivi+
痴女感があってすごくいいと思う。立場交換の理不尽さが出てる。
欲を言えば、種付けの瞬間の描写をもっと濃いめにして、
女子高生が中出しされた精液の感覚に悦んだりすると、さらに変態さが増すと思う。

つい口を出しちゃったけど、思わず語りたくなるくらいの良作でした。
これからも応援しています。
0254名無しさん@ピンキー2015/08/30(日) 01:09:43.37ID:CnbUByH0
>>242を受けて、
勇者の手によって、姫をさらった魔王は見事に倒された。
しかし、姫はすでに死亡しており、救い出すことはできなかった。
勇者は神に「姫を生き返らせてくれ」と願うも、
生命の摂理に反するためにその願いは叶えられなかった。
代わりに神は、かろうじて息のあった魔王に対し、
『人間の立場を味わわせる』という懲罰を兼ねて、
死んでしまった姫の立場を与えて傷を癒す。
魔王は姿はそのままに言動が姫のものになってしまい、
周囲からも姫として認識されてしまっていることを知る。
魔王はそのまま勇者に連れられて王国に戻ることになる。
王宮で姫としての振る舞いを続けざるを得ない状況の中で、
押しつけられた立場ではなく、魔王の心にも次第に変化が起こり、
優しさや慈悲といった思考が芽生えていく。
変わりゆく自分の心に戸惑う魔王はついに、
『魔王の手から自分を救い出してくれた勇者』に対して
特別な感情を抱くようになってしまい……

みたいなSSを書こうとして断念したのがつい先ほどの出来事。


>>251-252
ありがとうございます。
寝る前に書いてて、最後らへんはもう適当に切り上げてしまったので、
描写が適当なのは自覚しておりました。
確かに、そこあたりをもっと濃く書いておけばよかったかも。
0255名無しさん@ピンキー2015/09/01(火) 18:12:40.15ID:eyJH15EF
>254
なぜ、そこでもうひと頑張りしないのか!
多少駆け足気味でもいいので、ぜひ!
0256名無しさん@ピンキー2015/09/04(金) 17:19:47.45ID:QI1iR0nf
>>255
もうひと頑張りしなかった理由としては、
別件で書いてるのと、シチュエーションがモロカブりしていたのと、
自分好みのネタの方が筆も進むから、という2点が上げられます。
一定以上の地位のある長い白髭のお爺ちゃんが、
娘とか孫くらいの年齢の小娘と立場交換するのが読みたいなーとか思って。
例えば、某魔法使い小説の校長とかみたいな。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

帝国暦543年 5月20日

我が王国は農業や畜産業による特産品を貿易の要とした小国で、軍事的な意味での国力は皆無に等しい。
では、どうやって周辺諸国との領土争いを生き延びてきたかと言うと、
隣国である軍事国家の帝国との同盟のおかげである。
代々美人揃いの我が王家の姫達は、行く末は帝国の皇族や貴族達の元へ嫁ぎ、
ここで生まれた婚姻関係を基盤とする同盟が我が王国を守ってきたと言える。

……というのが我が国のここ三百年の歴史である。
国民であれば、とりあけ王族であればこの実情は言われるまでもなく理解しているはずのことのはずだ。
だが、しかし。
「嫌ですわ!いくら国のためでも、わたくしは絶対に嫌!」
十三歳の誕生日を迎えて成人の儀を済ませた我が娘にも、当然の如く帝国からの縁談が持ちあがっている。
しかも、相手は次期皇帝と目されている皇太子殿下。だのに、娘はそれを頑なに拒むばかりで埒が開かぬのだ。
「我が愛しい娘よ。どうあっても考え直してはくれぬのか?」
「嫌でございます!そんなに言うなら、お父様が嫁げばよいのですわ!」
「そうは言ってものう。姫よ、儂とてそなたのことは大切じゃ。
 代われるものなら代わってやりたいくらいじゃが、こればかりはそういうわけにもいくまいて」
「もういいですわ!お父様の馬鹿!」
やれやれ。皇太子殿下との縁談は必ず結ばねばならぬ。
娘には申し訳ないが、縛ってでも帝国に送り届けねばのう。
こういう真似はしたくはないのじゃが、仕方ない。
02572562015/09/04(金) 17:22:57.71ID:EuyMqDT6
いきなり連投規制喰らいました。
大したモノではないSSですが、続きはまた夜中にでも。
0258名無しさん@ピンキー2015/09/06(日) 09:16:54.67ID:yCk5MlgJ
帝国暦543年 5月25日

今日は朝から憂鬱な気分じゃった。
先日十三歳の誕生日を迎えてしまったワシにも、いよいよ帝国の皇太子殿下へ嫁ぐ日が来てしもうたのじゃ。
ワシは最後まで嫌だったのじゃが、古くからのしきたりでもあることに加えて、
頑固な父上の意向もあり、とうとう折れてしまったのじゃ。
「姫様、肩の力を抜いてくださいまし」
「うむ」
「姫様、少し腕を上げてくださいまし」
「こうか?」
仏頂面のワシに、侍女たちがてきぱきとドレスを着せていく。
嫁入り衣装ということで、成人の儀の時のドレスよりも豪華なものじゃったが、
装飾はむしろ控え目で、清楚で可憐な印象のあるものじゃった。
老いて垂れはじめた腹を締め上げるコルセットが少々苦しいが、こんな衣装に身を包むと、
いくらこのまだ十三歳の小娘であるこのワシでもさすがに気が引き締まってくる。
自慢の長い白髭にも丁寧に櫛を入れて整えてあり、
両サイドにアクセントとして入れた編み込みもばっちり決まっておる。
髭やドレスに色を合わせた白い花飾りも、可愛らしくて気に入っておった。
そうしてドレスに身を包んだ鏡の中のワシは、
まだ十三歳ながらも凛とした大人の女性の風格を漂わせておるように思えた。
老齢に差し掛かっってはおるものの、きちんと正装すれば、
幼いだけではない魅力が出るのじゃな。こうやってワシも一人の女になり、
人の妻になっていくのじゃと、感慨深いものが込み上げてくる。
そしてワシは、父上や母上に見送られながら、長く暮らした王国を後にしたのじゃった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

続きを投下しましたが、また連投規制に引っ掛かるかもしれません。
その時はお察しください。
なぜ立場交換が起こったのか?
Don't think, feel...
0259名無しさん@ピンキー2015/09/06(日) 09:25:58.20ID:yCk5MlgJ
帝国暦543年 7月8日

皇太子殿下は二十五歳。
地味で気さくな人柄で、本当にこんな穏やかそうな人物が次期皇帝候補なのかと疑わずにはいられぬ。
しかし、十以上も年下のわしに対する態度すら紳士そのもので、
なぜわしがあれほどまでに結婚を嫌がっていたのかさえ忘れさせるほどであった。
わしの心からは殿下への警戒心があっさりと消えてしまい、
あれよあれよという間にわしらの婚礼の儀も済んでしもうた。
まだ幼いわしではあるが、何人もの側室を抱えていらっしゃる殿下の正室となったからには、
それなりの態度を示さねばならぬ。
例えば。
「殿下と結ばれてからもじきひと月になります。そろそろわしを抱いてくださってもよいのではありませぬか」
殿下は、わしと寝所を共にすることはあれども、わしの体に触れようともしないのだ。
「姫、前にも言ったでしょう。私は貴女の事を大切にしたいのです。
 安易な欲情に突き動かされて体を重ねたくはないのです」
殿下がわしを大切に想ってくださっているのはわかる。
しかし、女のわしがここまでしているのに手つかずのままとは、
あまりにもわしがみじめではないだろうか。
高級なシルクを使った扇情的な下着に身を包んだまま、わしはベッドの上で途方に暮れた。
わしにはそんなに魅力がないのだろうか。
何人もの美しい側室を抱えている殿下からすれば、わしのような未熟で幼い体に興味が湧かぬのも道理。
嫁いでからも体が衰えぬように多少の鍛錬は続けていたのだが、それでも限界がある。
腹や尻の隠し切れぬ贅肉は自分でも気になっているのだ。
わしのような老いぼれた小娘では、まだ殿下の気を引くことはできぬのであろう。
「ですが、姫」
その声に顔を上げると、わしの目の前に殿下の顔があった。
思わず緊張で胸が高鳴る。
「貴女を悲しませるのは私の本意ではありません。
 ですから、今はこれで我慢してくださいませんか」
殿下はわしを抱き寄せて、そっと唇を重ねた。
わしは唇全部で殿下を感じていたかったのに、自慢の長い白髭も、この時ばかりは邪魔にしか思えなかった。
その優しい感触をいつまでも味わっていたかったが、殿下はわしからあっさりと身を離してしまう。
「貴女の立場も十分に理解しております。しかし、私たちはまだ出会ったばかり。
 もう少しお互いを知るべきでしょう。愛を確かめ合うのは、それからでも遅くはありません。ね?」
殿下はそう言って、わしの頭を優しく撫でてくれた。
子供扱いされてるみたいでちょっと悔しいのだが、殿下の優しい手の温もりに心が安らいでいく。
この頃からだっただろうか。
最初は気の進まない政略結婚の相手であったはずの殿下が、
心から敬愛する夫だと思えるようになってきていたのは。
0260名無しさん@ピンキー2015/09/06(日) 09:47:37.87ID:yCk5MlgJ
帝国暦548年 5月7日

明日はわたしの十八歳の誕生日。
帝国の皇太子妃となって、もうすぐ五年になろうとしている。
ここに来た時と比べても背丈はあまり変わらないままのわたしだけど、
少しずつ勉強して教養や礼儀作法も身につけたし、
人間として、皇太子殿下の正室としては大きく成長できていると思う。

相変わらず殿下とは何もない夜を過ごしてはいたのだけど、
わたしが一人前の淑女になったら、十八歳になったら、などという約束を交わしていて、
わたしはその約束の日を今か今かと待ち焦がれていた。
今夜も殿下は側室の所に行っているのだけど、とうとうその日を迎えられるという期待に、
私は寂しさなど忘れて胸を躍らせていた。

未だ男を知らないままのわたしの体は、殿下との情事を想って冷めない興奮の中にあった。
知らず知らずのうちに枯れかけのおちんちんにも熱が灯り、わたしは無意識にそこをまさぐってしまう。
表では貞淑そうな顔をしておきながら、裏ではこんな淫らではしたない女になってしまったわたしを、
殿下は一体どうの思うかしら。想像もつかない。

わたしは、殿下を迎える場所にもそっと指を這わせてみた。
敏感なそこに触れるだけで、電撃のような刺激が背筋を走り、体がビクついてしまう。
触れるだけでこうなってしまうのに、殿下をこの中へ迎え入れたら、どうなってしまうのだろう。
たくさんの好奇心と、少しだけの恐怖に身を震わせる。
やだ、こんなことで射精しちゃうなんて、わたしったら何て浅ましい女なのだろう……

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

規制にひっかからずに、出来上がっている部分までを投下することができたみたいです。
私的な都合により、続きを上げることができるのはかなり先になりそうです。
それでは、また。
0261名無しさん@ピンキー2015/09/07(月) 02:13:03.91ID:qxAdgziZ
>260
GJです。ただ、なんでそうなったのかの過程がないのが気になりますね。
後々種明かしされるのかな?
自分も小ネタでも投下しようかと思いましたが、せっかくなので
256-260への感想がある程度が出てからにします。
0264261にしてKの人2015/09/12(土) 20:59:35.95ID:uSa1mvKJ
 上で言ってる「小ネタ」です。今回こそ、前後編におさめるぞい。

『あなたにそこにいてほしい』

(00)

 数日前から9月になって、学生にとっての楽園(パラダイス)とも言える夏休みが終わり、ついに二学期が始まってしまった。
 「ふぅ……まだまだ残暑が厳しいね」
 制服の半袖ブラウスと下に着たキャミソールが汗でベタつくのを感じながら、桜木理央(さくらぎ・りお)は溜息をついた。
 「だよねー、あ、でもウチは私学だから、まだマシな方なんだって。公立の中学だと、教室にクーラーないとこも多いらしーよ」
 「え〜、マジぃ!? そんなの耐えられないよ〜」
 もっとも、友達とおしゃべりしながらの下校なら、この蒸し暑さも、それほど苦にはならない。
 今日は部活がない日だったため、クラスメイトで特に仲の良いふたりの子たちと一緒に帰ることができたのは幸いだった。
 「ね、ね、こないだ駅前に出来たドスに行ってみよっか?」
 友人のひとりのリン──涼宮凛(すずみや・りん)の提案に、一瞬財布の中身を頭の中で確認する理央。
 「えっと……うん、わたしは大丈夫、かな。ミュウは?」
 理央の問いに、ミュウ──長谷部美羽(はせべ・みう)も「あたしもオッケーだよ〜」とニッコリ微笑む。
 そこで、3人で揃って駅前のファーストフードショップ“ドスバーガー”へと足を運ぶことになった。
 「あたしはね〜、ティーゼリーココナツシェイク〜」
 「あー、ちょっとお腹が空いてるからティラミスとアイスティーのセットにしょっかな。リオは何にする?」
 「えーっと、夏限定のマンゴーフラッペでいいや」
 ほどなく、注文の品がひとつのトレイにまとめて載せて渡されたので、代表して理央が持ち、2階席へと上がる。
 4人掛けのテーブル席のひとつを占拠して、学校のことやテレビドラマのこと、あるいはネットで見た噂話や今欲しいアクセのことなどなど、他愛もない話を延々としゃべり続ける。
 それは、どこにでもいる女子校生たちの、どこででも見られる光景。
 そんなありふれた日常がこれからも続くことを“彼女”は疑ってもみなかったのだが……。

 「あれ? もしかして、キミは……」
 けれど、その平穏は、友達と別れてのファーストフードからの帰り際に、ひとりの少年──高校生くらいに見える“彼”に声をかけられたことで終わりを告げる。
 「あっ!」
 最後に見た時とは、別人のように外見や雰囲気は変わっていた(たぶん、それは自分も同じだろう)が、それでも理央もひと目で分かった
 ──目の前で、興味深げな視線を自分に投げかけつつ、返事を持つ“彼”が誰なのかが。
 「お久しぶり、ってのも変かな? ねぇ、サクラギ リオさん」
 それも当然だろう。“彼”は自分の罪の象徴、いや被害者なのだから。
 「あの、その、えっと……」
 「ああ、それともこう呼ぶべきかい。サクラ キリオくん」
 そう、“少年”にしか見えないこの相手は、本当は“少女”で、ほかならぬ自分が──故意にではないとは言え──その立場を奪ってしまった相手だった。
0265『あなたにそこにいてほしい』前編2015/09/12(土) 21:00:36.44ID:uSa1mvKJ
(01)

 それは、少年と少女が“再会”する、ちょうど一年近く前の話。

 都内の公立高校に通う16歳の高校生・佐倉霧緒は、とあるチケットを手に入れるべく、木曜日の午後、池袋駅前の広場で人と待ち合わせしていた。
 チケット、と言ってもアイドルやミュージシャンのコンサートチケットではなく、某有名古典劇の公演だ。出演者も、テレビドラマなどに出る人もいるがどちらかというと舞台中心に活躍している俳優が多い。
 高校1年生にしては渋い趣味に見えるが、霧緒は中学の頃から演劇部に所属しており、その勉強も兼ねて、といったところ。
 幸いにして、ネットのチャットルームで知り合った(と言っても直接顔を合わせたことはないが)人が、偶然手に入れたチケットを格安で譲ってくれることになった。
 ただ、先方からの条件で、公演直前の時間に直接会っての手渡しということになったため、霧緒は6時間目を仮病で早退し、私服に着替えてから駅前に駆けつけたのだ。
 わざわざ着替えたのは、初対面でもわかるように目印となる服装を決めたからだ。
 ちなみに、「グレーのフード付きパーカーをフードをかぶって着て、週刊テレビジオを丸めて手に持つ」というのが約束の服装で、8月半ばのこの時期だとまだちょっと暑いが、我慢できない程ではない。
 待ち合わせ時間のちょうど1分前になった時、霧緒は背後から声をかけられた。
 「あの、もしかして“キリオ”──佐倉霧緒さん、ですか?」
 振り返ると、そこには学校の制服らしき白ブラウスと臙脂色のスカートを着た15、6歳くらいの少女が立っていた。
 「はい、そうですけど……」
 「よかった。私が“ブロッサム”です。劇団・史記の公演チケットを持ってきました」
 どうやら目の前の少女が待ち合わせ相手だったらしい。
 ブロッサム(花)というHNや文体から女性だろうと見当をつけてはいたが、まさか自分と同い年くらいの女の子だとは思わなかった(チャットでの文体もずいぶん落ち着いてこなれていたのだ)ため、霧緒は一瞬驚いた。
 ──もっとも、その後の話の展開で、一瞬どころではない驚愕を覚えることになるのだが。
0266『あなたにそこにいてほしい』前編2015/09/12(土) 21:01:36.46ID:uSa1mvKJ
(02)

 チャットの文から想像していた「落ち着いた大人の女性」という印象と、実際に会った“ブロッサム”は少々、いや、かなりイメージが異なった。
 確かに背は高く、大人びた顔だちやしゃべり方ではあるものの、まさか、自分と同じミドルティーンの学生だったとは……。
 そもそも、彼女が霧緒に格安で売り渡すといったチケットは、個人で購入したものではなく、学校での団体鑑賞券だというのだ。
 聞けば、彼女は今、修学旅行で地元の富山県からこちらに来ており、団体鑑賞で古典演劇を見ることになっているのだという。
 「けど、私は本当は別の目的があってね」
 彼女がファンのアートティストのライブが同じ時間帯に近くであり、せっかく東京に来ているのだから、そちらを観に行くつもりらしい。
 「で、その間の替え玉というかアリバイ作りを、キリオさんに頼みたいんだ」
 相手がいつもチャットで会話していたキリオだと確信したからか、“ブロッサム”の言葉遣いが、だいぶ崩れている。

 話の流れはよくわかった。しかし……。
 「い、いくら何でも無茶じゃないですか? 大学の講義の代返じゃないんですから」
 話に聞く大学の講義とかなら、1教室あたりの人が多く、教える側も受講者全員をこと細かに把握しているわけではないらしいので、代返なんて大雑把なズルが通用するのだ。周囲の学生も、その点は同様だろうし。
 しかし、いくら一学年まとめて行動中の修学旅行とはいえ、教師と生徒やクラスメイト間の距離が近い高校で、それが通用するとは思えないのだが。
 「大丈夫。この時間は、演劇とオペラと能とクラシックコンサートからの選択なんだ。監督する教師も4つに分散してて、演劇担当の先生は、誰も私と授業とかで接点がないから」
 だから、集合時間になったら、出欠確認をしている教師のところに行って、“ブロッサム”の本名とクラスを自己申告すればいいのだ、と彼女は力説した。
 「百歩譲って、先生は誤魔化せたとしても、クラスメイトの人とかは……」
 「その点も抜かりはないさ」
 彼女とクラスで比較的親しい人間は、全員、演劇以外を選択したらしい。
 そして、彼女の学校は一学年が6クラスあり、クラスメイト以外の同級生を全員覚えているというのは不可能に近く、見慣れない生徒が混じっていても、学校の制服を着てさえいれば、まず不審に思われることはないのだ、という。
 「はぁ、なるほど」
 「納得してくれたかな?」
 多少の危ない橋を渡ることにはなるが、それなりに成功の見込みがあることは理解した。
 霧緒としても、上演される舞台劇は、ぜひ観たい。観たいのだが……。

 「あのぅ、ボク、男なんですけど」
 「………………へ?」
 宝塚の男役めいた端正な“ブロッサム”の顔がおもしろいくらい間抜けに崩れ、まさに「目が点」といった表情になる。
 ああ、やっぱり、気づいてなかったんだ、と少々落胆する霧緒。
 男子高校生としてはかなり小柄な160センチの背丈に加えて、子供の頃から親戚や近所の人たちが口を揃えて「かわいいね」と称賛する顔だち、さらに声変わりを迎えても半オクターブも下がらなかった声質。
 こういった身体的特徴に加えて、男女どちらにもとれる名前とおとなしくまじめな本人の気質もあって、大概の人間は(学校の制服でも着ていない限り)初対面だと霧緒の性別について判別に迷うのだ。
 「さすがに、男のボクが“ブロッサム”さんの代理を務めるのは……」
 「──い、いや、大丈夫、イケる!」
 やんわり断ろうとしている気配を感じたのか、霧緒のセリフを食い気味に彼女が言葉を紡ぐ。
 「キリオさんがまさか男だと思わなかったから意表をつかれたけど、逆に言うと、実際対面して話しても男だと気づかなかったわけだから大丈夫だよ」
 「ぐっ」
 正論だが、思春期の少年にとっては認めがたい“事実”だった。
0267『あなたにそこにいてほしい』前編2015/09/12(土) 21:02:45.04ID:uSa1mvKJ
(03)

 「でも、着替えとかは……」
 「それはコッチ」
 まだ渋る霧緒の手をつかむと、“ブロッサム”はグイグイと引っ張って近くにある公衆トイレの障害者向け男女共用個室に引っ張り込む。
 「じゃ、時間もないから手早く着替えよう」
 OKした記憶はないのに、すでに“ブロッサム”の中では「替え玉代返作戦」は実施確定らしい。
 溜息をつく霧緒だったが、“ブロッサム”が制服の青いリボンタイを解いているのを見て流石に慌てる。
 「ちょ、何してるんですか!?」
 「何って……脱がないと着替えられないだろう?」
 どうやら、自分が現在進行形で着ている制服を脱いで、霧緒に着せるつもりらしい。慌てて後ろを向く霧緒。
 「キリオさんも脱いでね、服交換するんだから」
 しかも、あろうことか代わりに霧緒の服に着替える着満々だ。
 霧緒は何とか説得しようとしたのだが、元々内気でのんびり屋の彼に、口達者で論理的思考力の速い“ブロッサム”を論破できるはずもなく……。
 「──えっと、はい、これ」
 結局渋々ながら服を脱ぐハメになるのだった。

 さらに……。
 「え!? 下着まで?」
 「だって、スカートをはくんだから、万が一突風とかでまくれ上がった時、男物のパンツだったら変だろう?」
 一理はあるが……ということは、もしかして、霧緒が渡したパーカーを羽織って、彼にライトグリーンの下着を差し出す“ブロッサム”は、今その下は全裸ということなのだろうか。
 慌てて視線を逸らしつつ、霧緒は自分も下着を脱いで、それを彼女に手渡した。
 「へぇ、男物の下着を着るのは初めてだけど、案外違和感ないね」
 受け取った霧緒のブリーフとタンクトップを、“ブロッサム”はなんの躊躇いもなく着用しているようだ。
 「公演まであんまり時間がないから、急いで!」
 急かす“ブロッサム”の言葉に、霧緒も覚悟を決め、渡された衣類一式を身に着け始める。
 まずはパンツ。いや、女物の場合はショーツと言うんだったか。形状自体は霧緒が普段履いているブリーフと大差ないが、大きさと布の柔らかさが段違いだ。
 (こんな小さいの、履けるのかなぁ)
 不安に思いつつ足を通して腰まで引き上げると、意外にも薄緑色の布は霧緒のヒップをぴったりと優しく包み込んでくれた。
 (ふーん、女の子のショーツって、こんな感触なんだ……)
 窮屈だったり履き心地が悪かったりするのではという予想を裏切られた霧緒は、少しだけ不安が解消され、代わりに僅かながら心の中で好奇心が頭をもたげてくる。
 次に、ハーフトップの内側に胸当てがついたような形状の下着──いわゆるスポーツブラを頭からかぶって着る。ワイヤーやホックのついたものと異なり、こちらも着るのは比較的簡単だった。
 その上に白い半袖のブラウスを羽織る。基本的な形状は男子学生服のカッターと大差ないのに、ボタンのつき方が男物と逆になっているだけで、自分が女子の制服を着ているんだと改めて思い知らされ、ドキドキした。
 「あ、スカートより先にソックス履いた方がいいかも」
 先に着替え終えた“ブロッサム”のアドバイスに従い、膝の上までくる薄手の白いニーソックスに足を通す。何でも、学校指定の夏用スクールソックスで、冬場は代わりにより厚手のタイツを履くのだとか。
 「真夏とか暑いから、あんまりソレ履いてる子はいないし、ある程度黙認もされてるけど、さすがに修学旅行中だとそのあたりの規則がウルサくてね」
 ボヤく“ブロッサム”の言葉に、女の子も大変なんだなぁと思いつつ、臙脂色のスカートを手にとる。
 「これって、どこが前なんですか?」
 「左横にホックとジッパーが来るように履くといいよ。ウェストの位置は男物のボトムより少し高めになるから気をつけて」
 持ち主の言葉(トリビア)に「へぇ」と感心しつつ、霧緒は生まれて初めてスカートなるものを履いてみた。
 「──なんか、足元がスースーして変な感じかも」
 「そう? でも、旅館の浴衣とかバスローブとかは男だって着るし、まるっきり初めての体験ってわけじゃないんじゃないかな」
 なるほど、言われてみれば確かに理屈はその通りだ。
 もっとも、それで思春期の少年が生まれて初めて女装して、それで割り切れるかどうかは別問題だが。
 「髪型は……うん、それくらいの長さのショートバングなら女の子でもいるから、平気へーき。あとは──靴かな」
 閉じた便座の蓋に腰かけた“ブロッサム”が脱いだ黒革のローファーを、霧緒が片足ずつ履いて、代わりにスニーカーを渡す。幸か不幸か、ふたりの足サイズは25センチでぴったり同じだった。
0268『あなたにそこにいてほしい』前編2015/09/12(土) 21:03:32.76ID:uSa1mvKJ
(04)

 「じゃあ、最後にカバンを交換すれば、入れ替わり完成だね」
 どことなく嬉しそうな“ブロッサム”に比して、霧緒の表情はどうにも冴えない。
 「その……ほ、本当に、このまま外に出るんですか? ボク、絶対男だって気づかれちゃうんじゃあ」
 この期に及んで何を今更、と呆れた顔で霧緒を眺める“ブロッサム”だったが、一応、自分が無理を言っているという自覚はあるようで、その対策も考えきたようだ。
 「ふぅ……じゃあ、キリオさん。ちょっとした“おまじない”をしてあげよう」
 おまじないと聞いて、霧緒は“ブロッサム”にはその手のオカルト趣味があったことを思い出す。
 「え、いや、その……」
 「ほら、病は気から、イワシの頭も信心からと言うだろう? ま、ある種の自己暗示だと思ってくれてもいいよ」
 “ブロッサム”が学校指定の手提げ鞄から2枚の白いカードを取り出し、そのうちの1枚とボールペンを霧緒に渡す。
 「これに平仮名で自分の名前を書いて」
 言われた通りに「さくら きりお」と書いているうちに、“ブロッサム”の方も同様にカードに文字を書いているようだ。
 「書けたかな? うん、よし。そして、これを胸に付けるんだ」
 彼女は、霧緒が書いたカードをプラスチックの名札プレートに入れて自分の胸にピンで留めると、自分が書いた方のカードを入れたプレートを霧緒に差し出した。
 「それでそのぅ、この“おまじない”ってどんな効果があるんですか?」
 「ん? これを実行することで、私がキリオさんに、キリオさんが私になりきれるって、寸法さ。名前というのは神聖なものだからね」
 確かに、昔テレビのバラエティないし雑学番組で、そういう話は聞いたことがある気がするが……。
 「えっ!? それじゃあ、これ、“ブロッサム”さんの本名なんですか?」
 「あれ、言ってなかったっけ? うん、ソレが私の──そして、これからししばらくキミのものになる名前だよ」
 ニヤリと笑う“ブロッサム”。
 差し出されたカードには、「さくらぎ りお」と記されていた。
 「私も驚いたよ。まさか、自分と1文字違いどころか濁点の有無しか違わない名前の人と知り合ってチャッ友になってたなんてね」
 「はぁ、確かにスゴい偶然ですねぇ」
 しげしげと名札を眺めつつ、霧緒はボンヤリとつぶやく。
 「それじゃあ、本当にそろそろ時間がヤバいから、ソレ胸に着けてくれないかな。もし、“おまじない”が信じられないなら、これは演劇の役割になりきるための小道具だと思えばいいさ。キリオさんは、確か演劇部なんでしょ」
 どうやら、チャットの雑談でうっかり漏らした霧緒の部活のことを覚えていたらしい。
 (ま、それもそうか)
 そういう意味なら納得できるし、この「相手の名前を書いた名札を付ける」という行為そのものが、ある種の自己暗示を促す儀式みたいなものだと思えば、まるっきり無意味でもないだろう。
 霧緒は、手の中の名札を借り着のブラウスの左胸のポケットにとめた──その瞬間!
 霧緒の背筋を悪寒のような、あるいは静電気のようなものが駆け抜けた。
 「ふわっ!?」
 ブルッと体を震わせ、自分の体を抱きしめるようにして、よろける霧緒。
 「あれ、どうしたの?」
 心配そうに見つめる“ブロッサム”──いや、“さくらぎりお”に答えようとした瞬間、先ほどの感触が嘘のように楽になっていることに、霧緒は気づいた。
 「あ、いえ、ちょっと背筋がゾクッとしたんですけど……もう大丈夫みたいです」
 「そう? よかった。じゃあ、そろそろ出よう」
 「あっ、はい」
 つい先刻まであれほど女子学生姿で人前に出るのをためらっていたとは思えぬほど、霧緒も彼女の言葉に気軽に同意し、彼女に渡された学校指定の鞄を手に、共用トイレの個室のドアを開けるのだった。

-つづく-
0269Kの人2015/09/12(土) 21:06:21.29ID:uSa1mvKJ
 本作は、某HPで見かけたSSと小ネタにインスパイアされて書いてみた代物です。モデルとなった作品は、このスレの愛読者なら、たぶん知ってる人も多いかも。無論、自分なりにアレンジして、人名・設定その他も変えてあります
(というか、その話の後日談を妄想していて思いついたネタを広げてみた)。
 ちなみにタイトルの元ネタは新井素子の昔のSFから。

・佐倉霧緒:♂・16歳・都内の公立都蘭栖高校1年生
 →外見イメージは『ガールフレンド(仮)』の君嶋里琉
  (※中性的でパッと見は少年にもボーイッシュな女の子にも見える感じ)
 ;男にしては小柄(160センチ)、ショートヘア、無乳(AA)、僕、基本丁寧語

・桜木理央♀・14歳・北陸にある私立聖護女学院女学院中等部の2年生
 →外見イメージは『ガールフレンド(仮)』の飛原鋭子
 ;やや長身(162センチ)、セミロング、貧乳(A)、私、サバサバした話し方
0271Kの人2015/09/13(日) 13:21:02.44ID:ulzffSKX
 以外に早く後編をまとめられたので、投下します。

『あなたにそこにいてほしい』後編

(05)

 結局、強引な“ブロッサム”の押しに負けた霧緒は、彼女の服を着て、彼女の代わりに「私立聖護女学院中等部の2年B組・桜木理央」として劇場前の集合場所に行くことになったわけだが……。
 ちなみに、“ブロッサム”の学校が女子校だと知ってびっくり、さらに生徒手帳を見て実は中学2年生だったと知って2度びっくりしたのは余談である。
 ともあれ、無事に点呼に応じ、学院の教師は元より周囲の“同級生”の誰にも見とがめられずに、見たかった演劇の舞台を無料で(正確には“ブロッサム”に100円だけ払ったが)鑑賞することができた。
 劇の途中、隣席に座る“同級生”に話しかけられて色々会話するハメになったり、観劇後、皆で楽屋を見学することになったりと、想定外のハプニングもあったが、終わってみれば楽しい体験だったと言えるだろう。
 しかし、誤算だったのは、いざ劇場から移動する段になっても、学院の生徒は列に並ばされて集団移動しているため、抜け出す隙が見当たらないことだろう。
 霧緒も、トイレなどの言い訳で脱出して待ち合わせ場所に行こうと何度か考えたのだが、その度に絶妙なタイミングで邪魔が入るのだ。
 そのため、徒歩で移動した次の見学場所である博物館を見て回った後も、一行から抜け出すことができなかった。
 もっとも、これは本人の押しの弱い性格に加えて、観劇中に仲良くなった子たちとの臨時グループになし崩し的に組み込まれてしまった、という要因もあるので、自業自得ともいえるのだが。
 ともあれ、博物館を出たあとは、駐車場で待機していたバスに乗って旅館に移動するしかない。
 ここで、クラス別に分かれて乗ることになったため、さすがに「自分が本物の理央でないとバレる」と霧緒は思ったのだが……。
 どういうわけか、運転席のすぐ後ろに座った担任の月城先生も、周囲のクラスメイトたちも何も言わなかった。
 いや、より正確には、「彼のことを桜木理央としてごくあたりまえに受け入れた」のだ。
 (え、なに、これ、どういうこと?)
 頭の中では混乱しつつも、霧緒は懸命に“理央”としての演技を続け、そしてそれを見咎める者はいなかった。

 ──いや、そればかりではない。
 本人はテンパり気味で気づいていないが、“理央”を演じる霧緒(以下、ややこしいのでリオと表す)の方も、クラスメイトの名前や人物像を自然に把握して対応している。
 無論、“本物”からそのテの情報を聞いたりする暇はなかったのにも関わらず、だ。
 バスから降りる時も、キャリアスペースに積んであった“桜木理央”のスポーツバッグを誰に言われるでもなくキチンと見分けて持っていくことができた。
 そのまま、今日泊まる旅館で、クラスメイトのうちの5人(リオを含めて6人)の部屋に入り、夕飯までの雑談タイムとなる。
 リオは、できるだけ目立たないようにおとなしくしていたかったのだが、元々クラスで親しい者同士が組んだグループなので、なんだかんだでリオも話を振られるため、会話に参加しないわけにもいかない。
 その際、「今日の桜木さん、なんだかおとなしいね」と言われてドキッとすることもあったが「もしかして観劇と博物館見学で疲れたの?」とアッサリ気を回されて、そのまま流される。
 (なんで、教室で隣に座ってる長谷部さんも、去年から一緒のクラスの春宮さんも、別人だって気づかないの!?)
 そう考えているリオ自身も、なぜ自分が長谷部や春宮のことを知っているのかという疑問に気づいてなかったりするのだが。
0272『あなたにそこにいてほしい』後編2015/09/13(日) 13:21:50.21ID:ulzffSKX
(06)

 その後、大広間で学年全員が揃っての夕食、さらに大浴場での入浴、風呂上がりには寝間着代わりのジャージに着替えてのおしゃべりタイム──といった、修学旅行生定番の流れに巻き込まれることになった。
 そうやって、聖護女学院の生徒としての時間を過ごしているうちに、リオ自身も、本当は自分が誰なのかかが曖昧になり始める。
 というのも、最初こそ緊張していたものの、いざ“クラスメイト”の中に混じって雑談していると、ココにいることがごく当たり前なように思えてきたのだ。
 実際問題、周囲からは完全に“桜木理央”だとみなされているようで、何ら不都合はない。入浴時さえ、さすがに股間はタオルで隠していたが、ペタンコなリオの胸を見ても、誰も不審に思わないのだ。
 (いや、まぁ、“ブロッサム”さんも、正直、かなりの絶壁だったけどね)
 開き直って湯船でくつろぎながら、そんな失礼なことを考える余裕さえ、リオにはあった。
 消灯後も、女子中学生に囲まれるという(霧緒なら落ち着かないはずの)かつてない環境にも関わらず、リオもいつの間にか眠りに落ちていた。
 翌朝は、朝食後、午前はバスに乗って工場見学へ行き、さらにその後は富山に“帰る”ために羽田から飛行機に乗ることになる。
 「それではここに並んで座ってください」
 旅行添乗員に言われるがままに、搭乗フロアの端に列を作って座る。通りがかるお客さんや空港職員の好奇の視線が、聖護女学院の生徒たちに向けられることもあった。
 (でも、みんな、「なんだ、修学旅行生か」って感じで、すぐに興味を失っちゃうみたいなんだよね。ホントはその中に、ひとり男子高校生が混じってるって言うのに)
 つまり、周囲の誰の目から見ても、リオは女子中学生の集団に混じっていても違和感がないということなのだろう。
 (もし、このまま飛行機に乗ったら、本当に女子中に通う事になるのかな? 桐山さんや春宮さん、川上さんたちといっしょに……)
 なんとなく、それは素敵な考えのように思えてきた。
 それに、実際問題、周囲を見回しても“本物”さんらしき姿は見えない。“本人”なら、修学旅行の終わりに、この羽田空港に来ることはわかっていたはずなのに。
 (本当はいけないコトなんだろうけど……ケータイも繋がらないし、やっぱり“ブロッサム”さんが戻ってこない以上、代わりをやらなきゃいけない、よね)
 自分に言い訳するように、リオはそう言いきかせた。

 「それでは、聖護女学院のみなさん、これから飛行機に乗るため、団体入口から保安検査を行って、搭乗口に向かいます。A組のみなさん、立ち上がってください」
 A組が立ち上がって、リオたちの列の前を通り、団体入口へと消えていく。
 すぐにB組の順番も回ってきたので、リオたちも立ち上がって、前に進み始める。
 (このまま富山に着いたら……飛行機に乗ったら……この搭乗口を通ったら、みんなと本当の同級生になるんだ……)
 ドキドキしながら検査ゲートをくぐり、搭乗口に歩みを進めるリオ。
 搭乗口から国内便の飛行機に乗り込み、「旅のしおり」で指定された座席に座る。隣の席になったクラスメイトの佐伯や白鳥とおしゃべりしながら、離陸の時を待つ。
 そして、ついに機内アナウンスのあと、飛行機が飛び立つ時が来た。
 (ああ、これで本当に、ボク、桜木理央になっちゃった──ううん、“わたし”が、2年B組の桜木理央なんだ)
0273『あなたにそこにいてほしい』後編2015/09/13(日) 13:22:48.47ID:ulzffSKX
(07)

 結局、“地元”──富山に帰ってきても、リオにかかった“シンデレラ”の魔法は(「彼女」の望み通り)解けなかった。

 富山空港から再びバスに乗り、“たった4日間離れていただけなのに不思議と懐かしい”学校の前まで戻ってくる。
 「古河さん」
 「はい」け
 「佐伯さん」
 「はーい」
 「桜木さん」
 「──はいっ」
 バスを降りて、念のため担任の月城先生がとる点呼にも、リオは自信をもって返事することができた。

 点呼のあと解散となり、そのまま“4日ぶりの我が家”へと向かう。
 桜木理央の家など知るはずがないのに、何となく足任せに歩いていれば其処へ着くという確信が、リオにはあった。
 「ただいまー」
 「あら、お帰りなさい、理央」
 そして、理央の家族に理央として受け入れてもらえることも。
 「お父さんも、もう帰って理央のお土産話を期待してるわよ」
 「はーい、じゃあ、とりあえず部屋で制服を着替えてくるね」
 理央の母親に明るく返事して、“勝手知らない”はずの桜木家の階段を上り、2階の右奥にある部屋に入る。
 「ふぅ……ここが“桜木理央の部屋”かぁ」
 初めて見るはず──なのに、どういうわけか見慣れた場所に思える。こういうのも既視感(デジャブ)というのだろうか。
 ごく当たり前のように学校の制服を脱ぎ、箪笥から出したギンガムチェックのノースリーブワンピに着替える。
 洗面所で顔を洗い、口をすすいで、軽く髪も整えてから、リビングにいる父親と母親に、笑顔で修学旅行の思い出を語る姿は、どこからどう見ても「両親に愛される可愛らしい女子中学生」そのものだった。
0274『あなたにそこにいてほしい』後編2015/09/13(日) 13:23:37.60ID:ulzffSKX
(08)

 さて、場面は再び1年後のふたりに戻る。

 「でも、わた…“ボク”だって、何もしなかったわけじゃないの…ないんですよ?」
 先ほどまでいたファーストフードショップに戻り、ふたり席にかけて“彼”と差向いで話をする段になって、精一杯説明するリオ。
 「富山に帰って1週間くらいは、メールが来ないかケータイを頻繁にチェックしてたし、いつものチャットルームに連絡がないかと思って、できるだけ出入りしてたし」
 「──直接携帯に電話することは考えなかったんですか?」
 “少年”は、アルカイックな笑みを浮かべたまま、穏やかにリオに問いかけた。
 「しようとした、したんだけど……どういうワケか番号が思い出せなくなっちゃってて……」
 “桜木理央”のケータイや自宅の電話番号は一発で“思い出せる”のに、だ。
 「まぁ、それは僕も同じだから、キミだけ責めるわけにはいかないね。というか、そもそも別段怒っているわけじゃないから」
 「え!? そ、そうなの…なんですか?」
 “彼”の意外な言葉に理央は目を白黒させる。
 「──その様子だと、気づいてなかったのか。実は、あの時、僕も待ち合わせ場所に行かなかったんだ。それも、キミのようにやむを得ない事情があったわけじゃなく、故意に」
 「えぇっ! ど、どうして……」
 問いかけるリオの顔を、先ほどまでとは異なる真剣味を帯びた視線で、今“佐倉霧緒”と名乗っている少年は見つめ返す。
 「キミは、“桜木理央”の環境や立場をどう思う?」
 「え、えーと、家(ウチ)はそこそこ裕福だし、お父さんもお母さんも優しいし、学校も楽しいし、コレといった問題はないと思うけ…思いますけど」
 「無理に丁寧語でなくて普段通りでいいよ? それから──そうか、キミには、予想通り“桜木理央”の立場が合ってたんだな。よかった」
 「え? え? ど、どういうこと??」

 “彼”いわく、娘に女の子らしさを求める両親も、お嬢様学校らしい躾や校風を強いる学院も、桜木理央にはたまらなくストレスだったらしい。
 (あれ? そんなに厳しいかなぁ……)
 確かに母は、リオに夕飯の支度を手伝わせたり、部屋の掃除をサボるとうるさかったりするが、その程度はむしろ中高生の親なら当たり前のことではないだろうか?
 父に至ってはひとり娘に激甘で、ちょっとおねだりするだけで欲しい服や靴の類いを簡単に買ってくれるし……。
 学校の方も、確かに聖護女学院は一般には「お嬢様学校」扱いされているが、そのブランドイメージからすると遥かに闊達で校則も緩いほうだと思う。
 強いて挙げるなら、週1回「礼法」の授業があることくらいか。これも、お茶やお花、日舞などを無料体験できるので、むしろお得に思えるくらいだ。
 「僕も、そんな風に楽観的に考えられれば良かったんだけど、ね」
 少し寂しそうに微笑む“少年”を見て、はたと気づく。
 「じゃ、じゃあ、観劇のチケットを譲る話って……」
 「うん、僕にとっては渡りに船だった──二重の意味でね」
 あの“おまじない”──冗談めかした名札カードは、オカルト好きの理央が色々手を尽くして購入した“本物”だったらしい。
 つまり、最初から桜木理央は佐倉霧緒に自らの立場を譲る(あるいは押し付ける)気満々だったということなのだろう。
 「チャットで色々、僕──もとの“私”の環境に適合しそうな人を捜してて、見つけたのがキリオさんだったのさ。もっとも、キリオさんが男だったというのは、少々誤算だったけど……」
 まじまじとリオの姿を見つめる“少年”。

 この一年間で、リオは髪を伸ばし、元の理央より長めなセミロングのフラッパーヘアにしている(正確には単なるボブなのだが髪質の関係で自然にウェーブするのだ)。
 制服のスカートも、親友のリンやミュウの影響で、校則通りの膝丈だった一年前より短めの膝上10センチといったところ。
 制鞄にも最近流行りの可愛らしいナマケモノのマスコットを付け、左の額の上の前髪も赤いダッカールでまとめてアクセントにしている。
 制服の上からは見えないが、下着も、もっぱらスポブラ&無地のシンプルショーツ派だった“本物”と異なり、最近ではレース飾りやリボンのついたフェミニンなものも少しずつ着用するようになっていた。
 「……なんだか、“私”よりもずいぶん女の子らしい気がするね」
 呆れとも称賛ともとれる口調の“少年”の呟きを聞いて、顔を真っ赤にするリオなのだった。
0275『あなたにそこにいてほしい』後編2015/09/13(日) 13:26:47.75ID:ulzffSKX
(09;エピローグ)

 それから数分間、いろいろな話をして、わたしたちはそのまま別れることになった。
 もちろん、あの“おまじない”の効果はそのままで、ふたりとも元の立場に戻ったわけじゃない。

 「僕としては、むしろキミにはそのままの立ち位置、桜木理央のままでいてほしいんだ。最初はちょっと戸惑ったけど、慣れると男子高校生の生活ってのも案外悪くないしね」

 キミもそうだろう、と問われて、わたしは、はにかみつつも首をはっきり縦に振った。

 高校の修学旅行で偶然こちらに来て自由行動中だという彼の背中を見送ったあと、わたしも少し足早に“家”へと向かう。
 彼と──“佐倉霧緒”くんと連絡先の交換はあえてしなかった。
 それは、わたしがこのまま“わたし”として生きていくことの決意の証、ケジメみたいなものだ。

 「ただいまっ!」
 「お帰りなさい、理央。今日はカニクリームコロッケよ」
 「わーい、わたし、お母さんのクリームコロッケ、大好き♪」

 そう、わたしは桜木理央。私立聖護女学院中等部の3年B組に所属する、この家のひとり娘だ──これからもずっと。

-おしまい-


 以上です。やや駆け足で、萌え所が不足気味かもしれませんが、リハビリと思ってご寛恕ください。
 つぎは……メイドロボネタの続きが書ければ投下します。
0276名無しさん@ピンキー2015/09/14(月) 22:07:21.81ID:2TP1mipE


交換したあと、お互いの人生が交わらないというのもいいですね!
0277名無しさん@ピンキー2015/09/17(木) 00:34:16.43ID:SasmnEbN
乙です
かの神作品のオマージュとは

後日談とかなかったからイメージ補完できて嬉しい限り
0278名無しさん@ピンキー2015/09/28(月) 01:04:39.63ID:JxDKkz3j
『女神の代役』

ファンタジーっぽい話。
邪神化した元女神を単身討ち果たした主人公の勇者(♂)。
その偉業を称えられ、天に召し上げられ、
新たな神の座につくことになるが……。
予測がつくでしょうが、討ち果たした邪神の代わりに
「天界から放逐された女神の後釜」に座ることに。
(デメテルとかヘラみたいな豊穣や多産の守護神だったりするとなお良し)
人間界には「長い間失われていた女神が、このたび復活した!」
と告知され、天界でも他の神々からその女神の名前で呼ばれることに。
(当然、人前に姿を現す時の格好も、「元の女神が着ていたヒラヒラの
ドレスと長髪with化粧」姿にされる)
挙句、その女神の夫だった男神からは妻としての責務(含む夫婦生活)を
求められることになり……。

──という話を妄想中。
わりとテンプレだけど、需要あるかな?
0279名無しさん@ピンキー2015/10/01(木) 22:32:30.82ID:mg20pjKF
そりゃもう需要しかないですよ
0280名無しさん@ピンキー2015/10/03(土) 02:42:13.45ID:mZZPI7r4
割とテンプレ…って、気がついたら「どうしてこうなった」な展開になってそうで気になったり。
0281名無しさん@ピンキー2015/10/14(水) 15:20:38.10ID:4UErfyHp
舞台は欧州の18世紀末〜19世紀半ばに近い世界を想定。
現在は休戦しているものの潜在的仮想敵であるA国に潜入し、
草(スリーパー)となる使命を帯びたB国の年若い諜報員ふたり。
足がつかないよう、A国に向かうふたり組の商人を関所の
手前で麻酔で眠らせ(そのふたりはそのままB国の収容所行き)、
その身分を奪ってA国王都に潜入……したのは良かったが、
誤算だったのは、上手く条件に合って入れ替われそうな相手が、
ある若夫婦しかいなかったこと。仕方なく、年若くて小柄な方の
諜報員(♂)が相棒の妻になりすますことになる。
それから3年。王都七番街のとある大衆食堂兼居酒屋は、周辺の
庶民の憩いの場として繁盛していた。
少々寡黙だが腕のいいコックを務める店主と、
陽気で愛想がよい看板女将のふたりは、すっかり街の風景に
溶け込んでいるのだった
──というケースも、このスレ的にOK?
0283名無しさん@ピンキー2015/10/21(水) 23:45:42.87ID:HUvrXpvz
聞く必要ないからはよ
0284名無しさん@ピンキー2015/11/05(木) 10:57:46.02ID:8sFruoHo
TSでもありがちなシチュエーションだけど、
野球部とかサッカー部のエース(♂)とチアリーダーの少女が
立場交換して、エースの立場になった少女が試合で大活躍。
チアやるハメになった元リーダーが、恥ずかしがりつつも
懸命に現エースを応援するシチュとか、イイよね。
個人的には、その立場交換が、一見偶発的なものに見えて、
実はチア少女側が仕組んだモノだとなおよし。
0285名無しさん@ピンキー2015/11/05(木) 20:48:19.97ID:7yrczvng
そのシチュ、大好物
肉体的な変化がない(最後まで男装/女装)だとなおよし
02862842015/11/08(日) 01:14:53.19ID:eQN7rTZ7
#サクッと書いてみた

『けれど、輝く星空のように』(前編)

 夏本番……というにはまだ少し早いが、それでも屋外に出て座っているだけでも自然と汗ばんでくる季節。雲ひとつない天気もそれを助長している。
 この市営グラウンドでは、土曜日の午後である今日、全国中学校軟式野球大会の地区大会決勝戦が行われていた。

 午後2時を回ったところで、今まさに9回裏ツーアウト満塁。ランナーがひとりでも帰れば同点、ふたり以上生還すれば大逆転という、まさに大詰めともいえる局面であり、両チームは元より観客やそれぞれの応援団のボルテージも最高潮まで高まりつつある。

 一塁側スタンドには、片方のチーム──すぐ近くの公立校である舞桜中学校の応援団が陣取り、熱い声援を送っていた。
 「「「「ふれっふれっ、まいおー! ごーごーれっつごー、まいおー!」」」」
 舞桜中にはクラブ活動としてのチアリーディング同好会が存在しており、10人ほどの所属部員が校名の“桜”にちなんだ色鮮やかなピンク色のミニスカ衣装に身を包んで、ポンポンを手に動きを揃えて応援している。
0287『けれど、輝く星空のように』(前編)2015/11/08(日) 01:15:42.13ID:eQN7rTZ7
 バッターボックスに入ったのは背番号7番、3年生のレギュラーでショートを守る“星崎 空(ほしざき・そら)”だ。
 身長はあまり高くないが、学年で1、2を争う俊足と優れた動体視力を持ち、的確に出塁&盗塁をキメる(出塁率はなんと7割以上だ)ことから、“舞桜のイチロー”の異名を持つ。このような場面では実に頼りになる選手だった。
 相手チームもそのことは分かっているのだろう。本来なら敬遠したいところだろうが、それでは押し出しで同点になり延長戦にもつれ込んでしまう。
 覚悟を決めたのかマウンドのピッチャーは外角低めすれすれにスライダー気味の球を投げ込んできた。
 1球目は見逃したものの、2球目は打ち返してファールに、3、4球目は低すぎたためボールになる。
 カウントは2-2。二死満塁でこの状況は、攻守どちらにとっても多大なプレッシャーだが、もう一度外せる投手側がやや気分的には楽だろうか。
 ──しかし、その僅かな余裕が逆に仇になったのだろう。
 スリークォーターのフォームから放たれた5球目は、先ほどに比べていくぶん制球が甘く、星崎選手の膝の上あたりを通過する──かと思われた時!
 「この瞬間を待っていた!」
 “舞桜のイチロー”が見逃すはずもなく、鋭くカットされたボールは、ライナー性の軌跡を描いて右中間へと飛び、ホームランにこそならなかったものの、フェンスに当たってセンターとライトの丁度中間の位置へと転がった。
 おかげで、三塁はもちろん二塁にいたランナーもかなりの余裕をもって本塁に帰ることができ、この瞬間、舞桜中の優勝が決まったのだ。

 一塁側からベンチ・スタンド問わずひときわ大きな歓声があがり、逆に相手校のいる三塁側からは落胆の溜息が漏れた。

 「ぃやったーーーっ!!」
 チア部員たちも、先ほどまで懸命に振り回していたポンポンを放り出して、抱き合ってピョンピョン跳ねながら、喜びの声をあげている。
 と、その時、この試合の殊勲者とも言うべき星崎選手が、整列のため二塁からホームのそばに戻る途中で、サムズアップした右手を三塁側スタンドに向かって大きく突き出す。
 その視線の先は、明確にチア部のいる辺り──もっというなら、その中のひとりを見つめていた。
0288『けれど、輝く星空のように』(前編)2015/11/08(日) 01:16:31.27ID:eQN7rTZ7
 「ありゃりゃ、星崎くん、やるねぇ」
 「ホラホラ、舞、愛しの彼氏の挨拶にちゃんとこたえてげないと」
 先ほどまでの純粋な歓喜の笑顔とは異なる、どこか人の悪いニヤニヤ笑いを浮かべて、チア部員たちは仲間のひとり──“舞”と呼ばれた背の高い少女を急かし始めた。
 「え!? いや、あの、えっと……」
 うろたえながらも、皆の勢いに負けて小さくヒラヒラと手を振る舞。
 彼女から反応があったことに満足したのか、星崎選手は駆け足で整列するチームメイトの方に戻っていった。

  * * * 

 球場のそばにあるシャワー室付属の女子更衣室で、私たちはチアリーディングのコスチュームから学校の制服に着替えることになりました。
 先ほどの決勝戦の興奮がまださめやらぬ状態ですので、皆テンション高く、今日の試合のことなんかをおしゃべりしていたのですが、思わぬ方向へと話題が転がり始めました。
 「それにしても、舞はいいなぁ。あんな素敵な彼氏がいて」
 へ!? それってやっぱり……。
 「あのぅ、もしかして、ソラくんのこと、ですか?」
 「決まってるじゃん。ほかに誰がいるのよ」
 えっとですね。
 「いえ、ソラくんと私は単なる幼馴染ってだけで、別に……」
 つきあっているとかそういう仲では、と続けようとしたのですが。
 「はぁ? まだそんなこと言ってんの?」
 「先週末かて、アンタら、商店街で仲良くデートしとったやん」
 そ、それは駅前に新しくできたパスタ屋に行こうって誘われただけで……。
 「ほほぅ、でも夕飯食べたあとも2時間ほどふたりでカラオケ行ってたよね」
 な、なんで知ってるんですか!?
 「あたし達も、同じカラオケにいたからよ!」
 ぐっ……それは、言い逃れできませんね。
 「ていうか、アンタら、野球部とチア部の休みが重なった日は、いつも一緒に帰っとるやろ」
 それは、まぁ、家が隣り同士ですし。
 「ふ・つ・う・は! 中学生にもなったら、たとえ家が近所の幼馴染だって、男と女なら、とくに理由もなく一緒に登下校したりしないの!」
 「“一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしい”からなぁ」
 えーと、そういうもの、なんでしょうか?
0289『けれど、輝く星空のように』(前編)2015/11/08(日) 01:17:07.35ID:eQN7rTZ7
 「まったくこの子は図体ばっか大きくなっても、てんでお子様なんだから」
 クラスメイトで、チア部でもいちばん親しい槙島さんが、チアコスを脱いだ下着姿のまま、うりゃっと後ろから抱きついてきました。
 「ちょ、着替えられないからやめてくだ……ひゃん!」
 ど、どこ触ってるんですか!?
 「んー、あいかわらず、ツルペタストーンのちっぱいだねぇ」
 ぅぅ〜、気にしてるのに、ヒドいです。
 「大丈夫、貧乳は希少価値でステータスやから。ウチらツルペタ同盟として、くじけず強く生きていこ?」
 私に負けず劣らずのバストサイズ(無論、小ささという意味で)を誇る(?)、相良さんが、そう言って慰めてくれますが、素直にうなずけるものではありません。

 とは言え、いつもの部室ではなく公共の施設ですから、あまり私たちだけでのんびり占有しているわけにもいかないでしょう。じゃれあいをやめて、着替えに専念することになりました。
 ミニワンピースタイプのチアコスを脱いで、ブラ(AAカップだって一応してるんです!)とショーツだけの恰好になってから、汗をひと通りタオルで拭い、香料入りデオドラントのスプレーをシュッとひと吹きします。
 スポーツバッグから、畳んだブラウスと制服のスカートを出して、手早く身に着け、ロッカーの扉についた鏡を見ながら髪と身だしなみを軽く整え、足元もチア用スニーカーから革のローファーに履き替えれば着替え完了です。
 スポーツバッグを肩にかけ、女子更衣室から出ると、ちょうど道を挟んで対面にある男子更衣室から、野球部の人達が出てきたところでした。

 「あ、皆さん、お疲れさまー、それと優勝おめでとうございます」
 私は、いろいろあって野球部の人たちも比較的親しいので、そんな風に声をかけました。
 「おぉ、ありがとう、桜合(さくらい)さん。チア部の人たちも応援サンキューな!」
 エースで4番で長身のイケメンという、どこかの野球マンガに出てきそうな(たぶん主人公のキザなライバル役でしょう)キャプテンの八重垣くんが、如才なくそう返してきます。
 八重垣くんは、同じ3年生だけでなく下級生の子たちにもファンが多い人気者です。案の定、1、2年の後輩たちは「目がハート」状態になってます。
 もっとも、槙島さんや相良さんは「カルくてチャラい」「リアクションがイマイチ」とあまり高い評価を下してないみたいですけど。
0290『けれど、輝く星空のように』(前編)2015/11/08(日) 01:17:36.96ID:eQN7rTZ7
 PTAが講堂でお祝いパーティの用意をしているそうなので、なんとなく流れでそのままチア部と野球部は一緒に学校に戻ることになったのですが……。
 「よっ、マイ!」
 「あ、ソラくん」
 本日のMVP候補のひとりと言えるソラくんが、私の隣りにやってきました。
 「どうだった、今日のオレの活躍ぶりは?」
 「ええ、とっても凄かったです──羨ましいくらいに」
 後半、思わず本音を小声で言ってしまいました。
 幸い、周囲の人は元よりソラくんにも聞こえていなかったようで、「そうかそうか」とご満悦。
 「最後のアレは一応三塁まで踏んだんだからスリーベースヒットだよな? サイクルヒット達成だから賭けはオレの勝ちだぜ」
 「え? 賭けって……あっ!」
 そういえば試合前にソラくんと「今日の試合でサイクルヒットを達成したら、ひとつ言うことをきく」という約束をしてたんでした。
 決勝に臨むソラくんのモチベーションが、少しでも上がればと思っての言葉だったのですが、まさかホントに達成するとは……。
 「わ、分かりました。約束、ですからね」
 「よし。じゃあ、明日、お前んち行くから、その時にな」

 * * * 

 講堂での「野球部優勝おめでとうパーティ」がお開きとなり、そろそろ日が西に沈みかけた頃合いに、制服姿の少年と少女は、スポーツバッグを肩にかけ仲良く家路についていた。
 今日の試合の自慢とも反省ともつかない事柄を、熱心にしゃべり続ける少年・星崎 空と、相槌をうちながらニコニコとその話を聴いてあげる少女・桜合 舞。
 本人達は否定するが、その姿は誰が見ても幼馴染以上恋人未満の微笑ましいカップルと言えるだろう。
0291『けれど、輝く星空のように』(前編)2015/11/08(日) 01:19:05.73ID:eQN7rTZ7
 だが、このふたりには秘密があった。お互い以外、誰にも言えない、言っても信じてもらえないだろう秘密が……。

 「──それにしても、まさか、キミがこんなに野球部で活躍するようになるなんて……」
 話が途切れた時、ポツリと少女がそんな言葉を漏らす。
 「それを言うなら、オマエだって、チアリーディング部や女子の輪に随分なじんでるじゃないか──なぁ、“桜合 舞”ちゃん」
 わざと名前の部分を強調するように呼ぶ“少年”の言葉に、“少女”はツイと視線を逸らした。
 「ねぇ……私たち──ううん、僕たち、ずっとこのままなのかなぁ」
 「さぁね。でも、こんな事態(こと)になった原因がわからない、想像もつかないんだから、そう簡単に解決できると思わない方がよさそうだろ」

 少年と少女の秘密。
 それは、周囲から“星崎空”として扱われている方が本来は桜合舞で、逆に桜合家のひとり娘として暮らしている子が元は星崎家の長男だったという事。
 もし、ほかの人々に離せば一笑に付されそうなヨタ話だが、空と舞のふたりにとっては真実だった。

 とは言っても、尾道を舞台にしたどこぞの映画みたく、ふたりの体と心が入れ替わったというわけではない。
 入れ替わったのは“名前”、あるいは“立場”そのもの。
 より正確に言うなら、ある事件(アクシデント)をきっかけに、周囲の人々から空は“桜合舞”、舞は“星崎空”とみなされるようになったのだ。

<後編につづく>

#以上。今回のはホントに「サクッ」なので明日(の深夜)に終わらせます──メイビー
0292名無しさん@ピンキー2015/11/10(火) 01:07:22.83ID:Ii+drGJ1
楽しみにしてます
0294名無しさん@ピンキー2015/11/10(火) 14:51:21.14ID:GOpmqZud
#予定より遅れましたが投下します。

『けれど、輝く星空のように』(後編)

 それは、ふたりが中学に入学したばかりの4月半ばのある土曜日の話。
 中学校という新たな環境にも多少は慣れ、また1年生のクラブへの参加も学校からOKが出たことから、この日、ふたりはそれぞれ希望する部活への入部届を出していた。
 星崎空は、小学生時代からリトルリーグに入っていたこともあり、野球部へ。
 一方、桜合舞はどちらかと言うとインドア派の少女であり、幼馴染の空はてっきり何か文化系のクラブに入るだろうと思っていたのだが……。

 「え!? 何、舞、チアリーディング部なんて入ったの!?」
 ちょうど時間が合ったので学校から一緒に帰る途中、舞からそのコトを聞いた空は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 「う、うん……やっぱりヘンかなぁ」
 恥ずかしげにうつむく少女を見て、慌てて少年はフォローする。
 「い、いや、全然そんなことないよ! 舞はかわいいし、チアリーダーの衣装とかも似合うだろうなぁ!」
 コレを何の打算もなく素で言ってしまえるあたり、少年と少女の距離感の近さが推察できるだろう。

 「ただ、舞ってあんまり運動が得意じゃないだろ。よくは知らないけど、アメフトの応援とか見てると、チアリーディングって結構ハードっぽいし」
 「それは、大学生とか社会人だからだよぉ。中学の部活なら、そこまでハードってことはない……と、思うんだけど……」
 言ってるうちに自分でも自信がなくなってきたのか、舞の言葉が尻すぼみになる。
 「ま、しばらくやってみて無理そうなら、最悪転部って手もあるんだし、何事もチャレンジしてみるのはイイと思うよ。でも、なんでいきなりチアリーディングなんだ?」
 「うん、あのね。舞は空くんの言う通り、あんまりスポーツとか得意じゃないから、空くんにつきあってトレーニングとかできないでしょ。だから、せめて野球部で頑張る空くんをチアで応援してあげたかったの」
 仲の良い幼馴染で、親愛・友情・恋慕の3つがごちゃ混ぜながらお互いのことを大切に想っている相手から、そんな事を言われて、嬉しく思わない男がいるだろうか。
 当然、空も、照れくさそうに視線を明後日の方に向けつつ、内心では「くぅ〜、舞のヤツ、可愛いこと言ってくれるなぁ!」とテンションが鰻上りだった。
 そのせいもあって、舞に「ちょっと寄って行きたい場所があるけど、いいかなぁ?」と聞かれた時も、上機嫌で承知したのだ。
0295『けれど、輝く星空のように』(後編)2015/11/10(火) 14:52:09.65ID:GOpmqZud
 舞に連れられて林の中の小道を抜けると、そこには小さな神社らしき建物があった。
 「へぇ、こんなトコに神社……っていうかお社があったんだ」
 「うん。願掛けの穴場なんだって」
 確かに古いし小じんまりとしてはいるが、荒れた感じはないから、誰かが頻繁に通って掃除とか手入れをしているのだろう。
 舞がカバンの中から取り出した紙にメモしてあった“願掛けの作法”に従って、ふたりは揃って並んで社の前に立ち、まずは二礼二拍で挨拶。続いて、柏手を打った手を合わせたまま、心の中で願い事を思い浮かべる。

 (神様……僕は自分のことは自分で頑張りますから、舞の願い事をかなえてあげてください)
 先ほどの幼馴染のけなげさに打たれたのか、空少年はとても優等生な“お願い”をしている。
 まぁ、神頼みで願いがかなうとは本気で思っていないが故の鷹揚さなのだろうが、もし、隣りの舞の願いを知っていたなら、そうはいかなかったかもしれない。

 (神様、もしできるなら、あたしも空くんと同じくらい野球とか運動が得意になって、空くんのことを、もっともっと理解したいです。それで、空くんにも“桜合舞”のこと、もっともっと知って欲しいです!)
 内気でおとなしげな外見に似合わず(いや、あるいはそれだからこそ、か)まだ幼さの残る少女は、どうやら心の内に激情を秘めていたようだ。一歩間違えばヤンデレと言われそうな気もするが。

 最後に一礼して参拝を終えたふたりだが、不思議なことに頭の中に「──その願い、叶えて進ぜよう」という声が聞こえた……ような気がした。
 「え? 何、いまの?」
 「あぁ、やっぱりここ、神様は本当にいたんだぁ」
 うろたえる空と対照的に舞はうれしそうだ。
 (これでわたしの願い事、かなえてもらえるんだ)
 ニコニコ顔で動じていない舞を見て、空も落ち着きを取り戻す。
 「ちぇっ、本当に神様がいるなら、もっと別のお願いをしとけばよかったかな。舞は、どんな願い事をしたの?」
 「んー、ないしょ。さ、そろそろお家にかえろ、あたしなんだかお腹がすいちゃった♪」

 * * * 
0296『けれど、輝く星空のように』(後編)2015/11/10(火) 14:53:06.74ID:GOpmqZud
 (──で、翌朝目が覚めたら、私が“桜合舞”に、あの子が“星崎空”になってたんだよね……)
 それも、魂や身体が入れ替わったのではなく、周囲──家族は元より先生や友達、その他諸々の人から、空であるはずの少年が桜合家の娘の舞、舞であるはずの少女が星崎家の長男の空としてあつかわれるようになったのだ。
 そればかりではない。
 確かに体そのものは元の自分のままだったが、髪の毛が肩を覆うくらいの長さに伸びている──まるで昨日までの舞のように。
 しかも舞の服──起きた時着ていたパジャマや、学校のセーラー服、体操服、可愛らしい普段着、はては下着に至るまで、サイズがピッタリになっていたのだ。まるで、あたかも最初から彼が舞だとでもいうように……。

 ともあれ、幸いにしてその日は日曜日だったため、舞の家族はなんとか誤魔化して朝食の時間を切り抜け、その後、すぐ隣りの星崎家──空の意識からすれば自宅であるはずの家を訪ねたのだ。

 「ただい……じゃなかった、おはようございまーす」
 あわてて言い直したところで、ガチャリと扉が開いて、母が顔を出した。
 「あら、舞ちゃん。空に何か御用?」
 予想通り、空の母親にも、空のことが“桜合舞”に見えているようだ。
 「え、ええ、ちょっと……あの、上がらせてもらっていいですか?」
 普段の舞はごく普通の女の子言葉を使っていたと思うが、さすがにそれを真似るのは気恥ずかしいので、とりあえず丁寧語でしゃべることで誤魔化すことにした空。
 なお、これ以降も人前ではそのしゃべり方がデフォになり「お淑やかで礼儀正しい娘」という評価を得るようになるのは余談である。
 勝手知ったる二階の空の部屋──本来は自分のものであるはずの部屋へ入ると、そこではなぜか自分のスウェットを着た舞が、腕立て伏せをしていた。
 「──31、32、さんじゅうさん……」
 「……何やってんの?」
 「あれ、空くん」
 腕立てを止めて床から立ち上がっる舞。
 「なんか、スゴいよ! 今まで1回もできなかった腕立て伏せが30回以上できるようになってるの!」
 「いや、この状況で気にするところはソコじゃないだろ!?」
 思わず関西芸人の如くツッコんでしまう空。
 「舞、今の僕たちの異様な状況について理解してるよね」
 「あー、うん、たぶん。あたしが空くんになって、空くんが舞になってる?」
 頭のいい舞にしては珍しい短絡思考に、空は溜息をついた。
 「そんなシンプルなモノじゃなくて、見ての通り僕らの身体が入れ替わったわけじゃないから、“僕が舞、舞が空として周囲から認識されてる”っていうほうが正確なんじゃないかな」
 しかし、空自身も気づいていないのだ──本来はどちらかと言うと脳筋に近い自分が、このややこしい事態を自然と的確に読み解いているという状況に。
 「うーん、でも、それだけじゃない気がする。だって、あたし、今朝目が覚めてから、身体がこんなに軽いんだもん」
 言われてみれば、確かに髪型がスポーツ刈りになっただけではなく、まるで「小学生時代からの野球少年」のように、浅黒く日に焼け、身長こそ変わらぬものの、体つきも心なしかガッチリしているように見える。
0297『けれど、輝く星空のように』(後編)2015/11/10(火) 14:53:51.55ID:GOpmqZud
 「空くんも、なんだか可愛くなってるよ、ほら!」
 舞に半ば強引に手を引かれて(そしてそれに抗えず)、洗面所に連れて行かれた空は、改めて今の自分を再見分することになる。
 髪型が舞のものになっていたのは知っていたが、よく見ると、これまでロクに陽にあたったことがないように肌の色も白く、手足も筋肉が落ちて華奢になっていた。
 「もしかして周囲の認識というより僕らの“立場”が入れ替わった? それで“運動少年の空”の立場になった舞はたくましく、僕は“運動音痴の舞”の立場だから、こんなひ弱に……」
 「ぶぅっ、ひ弱はないでしょ、ひ弱は。それに、今は空くんが、そのひ弱な舞なんだよ」
 実際、試しに腕相撲をしてみたところ、“舞”な空は“空”な舞にあっさり負けてしまったので、その考察はあながち間違いではなかったのだろう。

 それからがまた大変だった。
 どうしてこんな事態になったのか、皆目見当がつかなかったため、とりあえず周囲には、この“立場入れ替わり”のことは隠すことにする。
 ここまではふたりの意見は一致したのだが……。
 「いいっ!? 僕がチアリーダーやるの!?」
 「そうだよ。あたしだって、空くんの代わりに野球部の練習に出るんだから、空くんも頑張ってくれないと」
 「うっ……それは、まぁ、確かに」
 等価交換と考えると、確かに舞の言い分に理があった。
 まだふたりとも入部届を出したばかりなので、部活の手順や人間関係などは来週から覚えていけばよいというのは、不幸中の幸いだろう。

 「それと空くん、人前では、ちゃんと“桜合舞”らしくして行動すること」
 「あ〜、できる限りは努力する。けど、完全に真似するってのは無理だよ」
 いくら幼馴染とは言え、ここ数年は空は男友達と、舞は女友達と過ごす時間も多かったのだ。その時、互いがどんな風にふるまっていたかまでは、さすがに知らない。
 「しょうがないなぁ。じゃあ、せめて周囲に恥ずかしくない程度には女の子らしくしてよね」
 「ぅぅ、わかったわかった。でも、舞の方こそ、僕の真似なんてできるの?」
 「もちろん! あー、あー……コホン! オレの名前は星崎空。舞桜中学の一年生だ。好きなものは野球、これでもリトルリーグでは3番バッターとして活躍してたんだぜ」
 声色を低めてそんなことを言う舞は、正直、あまり本物の空とは似ていないが、それなりに少年っぽくは見えた。
 「じゃあ、空くん……じゃなくて、“舞”もやってみろよ」
 「え!? いや、あの、僕はいいよ」
 「“僕”はアウト! マンガとかなら“ボクっ子”ってのもいるみたいだけど、桜合舞はそういうキャラじゃないし」
 じゃあ、どんなキャラだと聞きたいところだったが、下手に藪をつつくと、トンデモない女子像を押し付けられそうなので自重する。
 「えっと……さ、桜庭小学校出身、桜合舞です。趣味は、読書と小物集め。運動は苦手ですけど、チアリーディング部に入ったので、がんばりたいと思います」
 こんなのでどう? と視線で問い掛けると「バッチリ!」というイイ笑顔が返ってきた。
 「当面は、こんな感じで日常生活を過ごしつつ、こうなった原因を探ることにしようぜ」
 「それしかないですね。はぁ〜〜」
 溜息をつく“舞”な空(以後、マイと表記)と、浮き浮き楽しそうな“空”な舞(以下ソラ)の様子が対照的だったろ。

 * * * 
0298『けれど、輝く星空のように』(後編)2015/11/10(火) 14:54:33.20ID:GOpmqZud
 その後、様々なハプニングやトラブルを乗り越えつつも、マイとソラはこの2年半あまり、それなりに充実した中学生活を送ってきたのだ。

 元の空より体格の劣るソラは、俊足と巧打力を活かした1番打者へと転向し、ご存じの通り成功している。
 マイの方は、ひ弱で運動神経もイマイチな状況にしばらく苦しんだが、精神的には舞より根性があったおかげか、徐々に体力も(あくまで女子中学生としてのレベルだが)改善し、チア部の練習にもついていけるようになった。
 三年のいまでは、真面目な性格を見込んで副部長を任されているくらいだ。

 こういう状況なので、対外的には幼馴染という名目でふたりは共に過ごす時間が多かったものの、部活仲間やクラスメイトとも、それ相応の交流は持っているし、その中で(立場に沿った)“同性”の友人もできた。

 無論、良いことばかりではない。

 立場交換の原因があの日の舞の願いにあるのではないか──という推論にふたりがたどりついたのは、ある意味当然の流れだが、それが本当なら、困ったことでもあった。
 「噂では、あの社は願い事を“一度だけ”叶えてくれるんだって」
 つまり二度目はないということ。
 実際、度々ふたりであの社に足を運んで、神様の機嫌をとるべくお供えや掃除をしてから“願掛け”をしてみたのだが、あれ以来、一度もあの“声”が聞こえたことはなかった。
 そのため、最近では、週に一度、日曜の朝にふたり揃って足を運ぶ程度の、もはや惰性と化している観がある。此処以外に手がかりはないが、具体的に何をしたらいいかもわからないのだ

 非日常だけでなく日常にだって何かと問題は発生する。

 1年の秋にスランプに陥ったソラをマイが懸命に励ましたこともある。
 逆に、2年の終わりに、“舞桜のイチロー”と親しいことを嫉んだ女の子たちに「なんで、あんなペチャパイデカ女が……」と陰口を叩かれて、ショックを受けたマイを、ソラが慰めてくれたこともあった。
 身長が高い(といっても165センチ程度だが)のも、胸がペッタンコなのも、マイが元々男の子であることを考えれば無理もない、当然の話なのだが、その時、なぜかマイは多大なコンプレックスを感じたのだ。
 (私は、ソラくんのそばにいるのにふさわしくないんだ……)
 いつの間にか、心の中でも「ソラ」と呼ぶようになっていた相手から距離をおくべきだと考え、無性に悲しくなるマイ。
 幸いにして、“彼女”の友人たちが何があったか察してソラに注進してくれたおかげで、急によそよそしくなったマイの部屋にソラが押しかけ、半ば強引に彼女の本音を吐き出させてくれた。
 「私、ソラくんのそばにいたい、いたいよ……」
 「なら、それでいいじゃねぇか。オレだってマイにそばにいてほしいし」
 野球部に入って随分伸びたが、それでもまだ“彼女”よりいくぶん背の低い彼に、強く抱きしめられ、マイは嬉し涙を流した。

 (あれからなんですよね……私が“彼”になんとなく頭が上がらなくなったのって……恥ずかしいトコ見せちゃったからかなぁ)
 頭が上がらなくなったというか、無意識に甘え、頼りにするようなっているのだが、本人に自覚はないようだ。
 ずっと、自分が庇護してきたと思っていた存在に、今や自分の方こそが守られる立場なんだということを実感させられたのだ。
 それまで「男のプライド」という言い訳でかろうじて一線を保っていた空の意地がポッキリ折れ、“女の子としての自分”を素直に受け入れるようになったというところか。
0299『けれど、輝く星空のように』(後編)2015/11/10(火) 14:55:12.99ID:GOpmqZud
 「でも、賭けまでしてソラくんがしてほしい“お願い”って、何なんでしよう」
 日曜の午後、“彼”が訪ねて来るのを、マイは落ち着かない気分で自室で待っていた。
 居間やダイニングならともかく、ソラをこの部屋に招き入れるのは、久しぶりだ。
 「っていうか、ホントはココが“彼”の部屋なんですよね……」
 即ち、マイにとっては幼馴染とは言え他人の部屋のはずなのだが、今となっては少しもそういう気がしない。
 それは、2年半あまりもここで寝起きしてきた慣れによるものもあるだろうし、またその2年半のあいだにマイ自身の手によって部屋が相応に様変わりしていることも関係しているだろう。
 ぬいぐるみやマスコット人形が数体増え、カーテンやベッドカバーはレースで彩られた可愛らしい代物へと変わり、本棚の少女漫画とファッション誌も順調に量を増している。
 あの朝、目覚めた時と比べて、箪笥の中のワードローブも随分増えたし、その大半が年頃の女の子らしいフェミニンなものだ。
 1年の夏の“舞の誕生日”に父親が買ってくれたドレッサーには、いくつかの化粧品類が並んでいるし、就寝前や起床後はその前でブラッシングしたりフェイスケアしたりしている。
 それに、優等生な女子中学生らしく、普段学校がある日はほぼスッピンのマイだが、こんな風に休日にソラと会う時は、多少は気合を入れてメイクもしているのだ。
 ──もはや、立場交換する前の舞より女の子らしいとか言ってはいけない。本人があえて気が付かないフリをしているのだから。

 そうこうしているうちに、玄関の呼び鈴の音とともに、“彼”の声が聞こえてきた。
 「こんにちはー」
 「まぁ、空くん、こんにちは。相変わらずカッコいいわね」
 (もう、何言ってるんですか、ママは!)
 年甲斐もない“自分の母親”の言葉に、自室で聞き耳を立てていたマイの眉が吊り上がるが……そこには僅かな嫉妬がにじんでいた。

 「ははっ、恐縮です。おばさん、マイは?」
 「二階の自分の部屋にいるわ──そうそう、今日はパパは朝から釣りに出かけているし、わたしもこれからちょっと郊外のヨウコ堂まで買い物に行くつもりなの」
 (ええっ、聞いてませんよ!?)

 「はぁ、そうなんですか」
 「つ・ま・り、しばらくウチには空くんとあの子のふたりだけだから……ね♪」
 (ね♪ じゃありませんよ。年頃の娘を同い年の男の子と長時間ふたりきりにするって、ソラくんが誤解したらどうするつもりなんですか!)
 マイとしては、いつも通りソラが軽く流してくれるのを期待したのだが。
0300『けれど、輝く星空のように』(後編)2015/11/10(火) 14:55:47.21ID:GOpmqZud
 「えっと、そのお心遣いは有り難く」
 (え!?)
 「あら、もしかして空くん、今日は本気? 今夜はお赤飯かしら」
 (ななななな……)
 「いや、流石にそこまで一気には」
 「まぁ、空くんなら安心してあの子を任せられるから、別にいいわよ。でも学生のウチは、避妊だけはキチンとしなさいね」
 (ひひひ、避妊って……)
 二階で聞いてるマイは真っ赤になって悶絶している。
 自分とソラがそういうコトをしている場面を思い浮かべたのだろう。

 ──トン、トン、トン……

 階段を上ってくる足音がする。
 (ああ、もうソラくん来ちゃった。どんな顔して会えばいいのよぅ)

 * * * 

 翌週の月曜日、桜合舞と星崎空がこれまで以上に親密に(ほとんどダダ甘といっていいレベルに)仲睦まじい様子で登校してくる様子を、彼らの友人たちは目にするハメになる。
 「ちょっと舞、アンタもしかして……彼氏とヤッちゃった?」
 「こらこら、マッキー、お下品やで。ここは慎み深く、こう聞くべきやろ──なぁ、舞やん、昨日はふたりで貫通式やったん?」
 「どっちでもおんなじです! それと黙秘権を行使します!」
 即答した彼女の答えに、ニヤリと頬を歪める槙島と相良。
 「ほぅ、黙秘権。今までやったら即座に否定したやろうに」
 「そういえば彼氏って言われたのも否定しなかったわね。そこんトコ詳しく!」
 さらにくらいついてくるクラスメイト兼部活仲間の興味本位な追及を懸命にかわす舞。
 その姿は、誰がどう見ても、彼氏と想いが通じ合って幸せな女子中学生そのものだった。

 -おしまい-

 以上。詳細はあえて語らず。ふたりがこの後どうなったかもご想像に任せます。
0302名無しさん@ピンキー2015/11/18(水) 10:58:46.50ID:oT02j6d0
ここのこれまでのSSって、本人含め気付いてない不条理系だったり、
特定の行為がによって立場交換が一瞬で完了したりするけど、
某所の赤の秘石のごとく(あれは最終的にTSするけど)、
「徐々に立場が交換されていき、そのことを交換される側も
 気づいていて、恐怖する(でも止まらない)」
というパターンはないものかね。
0305名無しさん@ピンキー2015/11/20(金) 04:12:37.39ID:dOHu+/aN
>302
たとえば、運動や人付き合いは苦手だけど成績は優秀なガリ弁系少年が、
クラスメイトの能天気でガサツな運動部系女子に、つい無神経なことを
言ってしまう。
予想外に傷ついた彼女は、自分の気持ちを実感させようと……。

一日目には、教室での席を交換され(奪われ)る。
二日目は、学業の知識を。
三日目は、運動能力を。
四日目は、制服とそれに伴う社会的ジェンダーを。
五日目は、趣味や嗜好を。
六日目は、友人などの人間関係を。
そして七日目には、ついに名前を交換され(奪われ)、
その日、少年だったはずの“ソフトボール部所属の女子生徒”は
元の家が思い出せず、“自分の家”に泣く泣く帰ることになる……。

とか?
0308名無しさん@ピンキー2015/11/22(日) 02:45:56.14ID:rQN06LHI
そういえば、ふと思い出したんだけど、ブリーチの月島さんって、
 「切った相手の過去を好きなように改変する」
能力があるんだよな。同種の能力で、
 「切った相手の立場を好きなように改変する」
ことができれば……とか妄想してみたり。
0309名無しさん@ピンキー2015/11/22(日) 22:00:31.54ID:rQN06LHI
「え……? なんで、オレ、こんな格好して洗濯を……」
「何だよ、黒崎、ボーッとして。
 そうそう、このユニフォームも洗っといてくれ」
「……お、オレはこの野球部のエースでキャプテンのはず……」
「どうしたの、いちごちゃん。マネージャーのお仕事は大変だけど
 ふたりで頑張ろうよ」
「マ、ネージャー……? オレが?」
「そうだぞ。黒崎は井上と一緒に一年の頃からこの野球部を
 支えてくれる、甲斐甲斐しくて可愛いマネージャーじゃないか」
「ああ、黒崎と井上は俺たち野球部員の天使、いや女神様だ!」

──こんな感じか。
0310名無しさん@ピンキー2015/11/30(月) 04:31:59.29ID:AON7psuH
こんなご時世だし、マイナンバーの誤配による立場交換が
どこかで起こってるのかもしれない……などと想いを馳せている
03112015/12/05(土) 03:49:44.22ID:JKcRjPon
#305のネタで書いてみた。と言っても、今回は書き出しくらいですが……。

『Nervous-Breakdown』

 私立咲良学院──中高一貫教育を掲げ、偏差値、進学率ともに県内で中の上程度に位置する、いわば“中堅校”である。
 旧帝大や早慶クラスに進学するような成績優秀者や、甲子園、花園ないしそれに類する全国大会に出場するスポーツ選手はほとんどいないが、中途退学者や自殺者を出すようないじめ等もあまり見受けられない。
 私学であるためか生徒の家庭も比較的裕福な層が多く、同時に、いわゆる“名門”、“金持ち学校”ほど上流階級や富裕層の子女が通っているワケでもない。
 総体として見れば、リベラルで環境的に恵まれた学び舎と呼んでもよいのだろうが、しかしながら、そのような場所でも、そこに通う子供たちの間にまったく諍いがないなどいうことは、やはりあり得ない。
 たとえば……。

 放課後の教室では、ひと組の生徒が教壇を挟んで対峙していた。
 ひとりは、男子の制服である紺色のブレザーをビシッと着こなした「少年」。
 メタルフレームの眼鏡をかけてはいるが野暮ったい印象はなく、スクールネクタイをウインザーノットに結び、天パなのか緩やかにウェーブした髪をエアーマッシュのスタイルに整えるなど、なかなかのオシャレさんだ。
 もうひとりは、男子と対照的なワインレッドの女子制服を着た「少女」。
 白ブラウスに葡萄色のボレロを着て、首元には青いリボンタイ、ボトムはかなり短めのフレアスカート──という咲良学院の女子制服は可愛いと好評なのだが、「彼女」のようにスラリと長身な生徒には特によく似合う。
 ただ、如何にも教科書通りの着方というか、自分を魅力的に見せようという気配が見受けられないのが、少々残念だ。この学校は、よほど大きな改造でもしない限り、多少制服を着崩しても寛大なのだが……。
 そろそろ下校時間が迫り、夕陽も西に落ちかかった黄昏時の教室には、「彼と彼女」のふたりを除いてほかに人影はなかった。
0312『Nervous-Breakdown』上2015/12/05(土) 03:50:34.77ID:JKcRjPon
 「──ねぇ、もうこんなコトやめようよ」
 「おやおや、“こんなコト”って一体何のことかな?」
 哀しげな、あるいは懇願するような「彼女」の言葉に対して、「彼」の方はニタニタとニヤニヤの中間のような、あまりタチのよくない笑顔を浮かべてトボケている。
 「そ、それは……」
 「彼女」には答えられない。
 ひとつには、「彼女」自身にもいったい何が自分たちに起きているのか、正確に把握できていないからであり、また、もうひとつには「それ」を起こしているのが「彼」だと断言できるだけの根拠を持たないからだ。
 いくつかの状況から、ほぼ間違いないだろうと推測してはいるものの、決定的な証拠と言えるようなモノはない。

 「フフッ、話は済んだのかな? じゃあ、オレは帰るよ」
 「ま、まっ……」
 「待って」と言いたかった。でも、仮に相手が待ってくれたからといって、何を話せばいいというのだ? 
 その思いが、制止の言葉を尻すぼみにさせる。
 「ククク……じゃあな、“シノノメ”さん、また明日〜」
 「!」
 「彼」にそう呼びかけられた時、「彼女」の背中に電流のような震えが走った。
 風邪の引き始めに感じる悪寒を何倍にも強くしたような気持ちの悪さと、それとは相反するフワフワと身体が宙に浮いているような心地よさ。
 それらを同時に感じた「彼女」は、苦悶とも悦楽ともつかない喘ぎを漏らしそうになって、それを懸命に自制し、しゃがみこんで自分の身体を抱きしめるようにしてうずくまる。
 十数秒か、あるいは数分か、ハッキリしないがしばしの時間が流れ、ようやく「彼女」──シノノメさんと呼ばれた「少女」が平静を取り戻して立ち上がった時、すでに「少年」の姿は教室になかった。
0313『Nervous-Breakdown』上2015/12/05(土) 03:52:15.93ID:JKcRjPon
 「ぅぅ…また、誤魔化されちゃった……」
 意気消沈した表情で唇をかみしめていた「少女」だったが、ハッと何事かに気付いたらしく、慌ててボレロの胸ポケットから生徒手帳を引っ張り出した。
 もどかしげにページをめくり、最後の見開きにプリントされた学生証を確認する。
 「う、そ…………」
 絶句する「少女」。
 そこには、制服を着た「彼女」自身の顔写真が貼付され、「中等部二年C組 東雲市歌(しののめ・いちか)」とプリントされていた。
 何もおかしな点はないはずだ──「彼女」が、本当に東雲市歌であるならば、だが。
 「あぁ……ついに、名前まで…………」
 そう。
 ガクリとうなだれ、よろけながらかろうじて近くの椅子に座り込む「少女」は、本当は東雲市歌ではない。それどころか「少女」ですらないのだ。
 細身で身体の線が出にくい制服を着ているため、パッと見には気づきづらいが、注意深く観察すれば「彼女」の肩幅が14歳の女の子にしてはかなり広く、全体にがっしりした骨格をしていることがわかるだろう。
 胸は貧乳を通り越した無乳と言える状態で、ハイソックスとスカートの間に垣間見える足の線も、綺麗ではあるが女性にしては少々直線的過ぎる。
 あるいは、「彼女」がバレー部所属であることを勘案すれば、それほど不自然ではないのかもしれないが……。
 「いったい、どうしてこんなコトに……」
 力なくつぶやく「彼女」、いや彼は、この悪夢が始まったときのことを思い出していた。

#こんな感じ。ちなみに制服は某「下級生」の卯月学園のもののイメージ
0314名無しさん@ピンキー2015/12/05(土) 08:04:44.56ID:0Zs0XkF8
非常に良い
楽しみにしてます!
0315『Nervous-Breakdown』022015/12/08(火) 23:55:01.24ID:o2F+kuAI
#できるかわからないけど、実験的に毎晩ちょびちょび投下してみるのこころ。

【罪負いし火曜日】

 キッカケは……たぶんだけど、ちょうど一週間前の火曜日。
 僕が、彼女に──東雲市歌さんに投げかけた言葉にあるんだと思う。

 今、客観的にかつての僕、折原邦樹(おりはら・ともき)の言動を見返すと、はっきり言って「無神経でKYなガリ勉メガネくん」だったと思う。
 言い訳させてもらえるなら、僕は子供のころから運動音痴で体格もあまりよくない。ならばその分、頭脳面で頑張ろうと思って真面目に勉強や読書に励んでいるうちに、周囲から「根暗」とか「無愛想」とか言われるようになっていた。
 当然、あまり友達もできないから、ますます内にこもるようになって、さらに……という悪循環。唯一の救いは、それなのに相応に成績が上がったことくらいだけど、それだって開●とか駒●を目指せるほどじゃない。
 たぶん、僕自身、本心では自分の現状を決して肯定的にとらえていなかったと思う。
 それなのに、ちっぽけなプライドにしがみついて、周囲のクラスメイト、とくに運動能力に秀でた(そして成績がイマイチだった)人へバカにしたような発言を繰り返していた。
 誰だって、そんなヤツと友達になりたくないよね?
 だから、僕はますますクラスで孤立し、ごくわずかな例外を除いて友人と呼べる人間さえいなくなっていったんだから……まったく、自業自得だ。

 思えば、そんな僕にとっては、多少のからかい混じりでも気さくに声をかけてくれる彼女──東雲市歌さんは、口を開けば互いに皮肉や悪口の応酬とは言え、数少ない「肩肘張らずにつきあえる相手」だったんだろうな。
 あ、一応断っておくと、男女の恋愛めいた感情は皆無だった。あくまで、ケンカ友達(と言えるかは微妙だけど)的ポジションなだけ。

 ただ、ある意味、僕はそれに甘えすぎていたのかもしれない。
 その日の放課後、部活の美術部での活動が終わって帰る時、同様にバレー部の練習を終えた東雲さんとバッタリ昇降口で顔を合わせることになった。
 そこで、いつも通りの言い争い──ならよかったんだけど、もう覚えていないくらい些細な原因で虫の居所が悪かった僕は、彼女につい無神経なことを言っちゃったんだ。
 具体的には、いつも洒落っ気のない東雲さんが、珍しく髪に可愛らしいカチューシャを着けていたのを鼻で笑った。
 「そんなモン、キミに似合うわけないだろう……まったく、男女がヘンに色気づいちゃって」
 ……うん、今思い返しても、男として、いや人間として最低だよね。
 それを聞いた彼女は、珍しく言い返して来ない──どころか、目に涙を浮かべてキッと僕を睨むと、走って校門から帰っていった。
 その直後、彼女の友人から、その日の東雲さんは憧れていた男子バレー部の先輩に告白しようと目いっぱい気合を入れてたんだと聞かされて、さすがに罪悪感が沸いてきたんだけど……。
 「ぼ、僕は悪くないぞ、正直な感想を言っただけなんだから!」
 そう自分に言い訳しつつ、僕もそのまま逃げるように帰宅したんだ。
0317『Nervous-Breakdown』032015/12/09(水) 22:22:37.60ID:8/7XR/i8
【始まりは水曜日】

 家に帰っても気がとがめて勉強もロクに手につかず、早めにベッドに入ったものの、何か嫌な夢を見てあまり熟睡できなかったその日の翌日。
 朝、登校して教室に入るとクラスの女の子たちが僕を見てヒソヒソと何かささやいている──ような気がする。
 (やっぱり昨日のことは知られてるのか)
 仏頂面の下に憂鬱な気分を隠して、僕は自分の席に座ろうとしたんだけど……。
 「ちょっと、折原くん! なんでそこにアンタが座るのよ!」
 「え?」
 いきなり、隣席のクラスメイトの女子にとがめられて、僕は目を白黒させる。
 「えっと……ここは僕の席」
 「だよね?」と続ける前に、激しく否定される。
 「んなワケないでしょ! そこは市歌の席よ!!」
 「え? え?」
 ワケがわからない。
 僕は、本の読み過ぎのせいか目が悪い。
 と言っても、0.5と0.3だから某野比家の長男みたく裸眼だとロクに見えないという程じゃないけど、学校ではメガネをかけてることが多いから、担任の先生が配慮して一番前のこの席にしてくれたんだけど。

 「──何騒いでんの?」
 と、その時、僕が今一番会いたくない人物が姿を見せた。
 「あ、市歌! ちょっと聞いてよ。折原くんが市歌の席にさぁ……」
 これ幸いとばかりに、状況を東雲さんに彼女の友人が説明する。
 「ふーん……もしかして、折原、昨日のこと謝ろうと思って待ってたの?」
 東雲さんは、ちょっと顔色が悪かったけど、すでに平静は取り戻しているみたいだった。

 ──その時、僕が彼女の言葉を肯定して素直に謝罪すれば、もしかして“こんなこと”にはならなかったのだろうか?

 「え、いや、その、えっと……」
 口ごもる僕の様子を見て、東雲さんは落胆したように視線を逸らした。
 「別にいいよ、謝んなくて。アタシなんかが付け焼刃で可愛いカッコしたって似合わないのは事実だしね」
 意外に理性的な東雲さんの言葉に、僕はほんの少し救われたような気がしたけど、その言葉には続きがあった。

 「──でも、アンタのことは許さない」

 いつも明るく威勢のいい東雲さんとは思えないほど、彼女の瞳は昏く、その声にも怨念のようなものが籠っていた。
 「!」
 「それだけ。さ、もうどっか行って。ここは“アタシの席”なんだから」

 その後、ほかのクラスメイトにも確認したんだけど、誰もが口を揃えて、僕の席だったはずの場所を“東雲さんの席”だと言うので、僕は残った席──昨日までは東雲さんがいたはずの席へと座るしかなかった。
 教室の窓際の一番後ろというこの席は、人によっては絶好の居眠りスペースとして歓迎するみたいだけど、僕みたいに目が悪く、真面目に授業を受けたい人間にとっては最悪の場所だ。

 「おはよー、早速だけど出席をとるよ〜!」
 そうこうしているうちに、担任の斉藤菜月先生が教室に入ってきてHRを始めた。
 斉藤先生は英語の担当で、まだ若くて美人でしかも優しいという、ある意味理想的な教師なんだけど、反面ちょっとドジで頼りないところもあるんだよね。
 HR後、教室から出ようとする斉藤先生をつかまえて、席のことを聞いてみたんだけど、案の定、先生も僕の席は教室の一番後ろだと思っていた。
 しかもそれだけでなく、先生の持っている座席表にも、中央最前列が東雲さんで、窓際最後尾が僕だと書き込まれている。
 「折原くんは目が悪いみたいだから何とかしてあげたいとも思うけど、あまり特定の生徒だけヒイキもできないから……ごめんね」
 「……いえ、大丈夫です」
 僕はスゴスゴと“自分の席”に戻るしかなかった。
 その途中で、なぜか東雲さんが後ろを向いて僕の方を見ていたような気がした。
0318『Nervous-Breakdown』042015/12/10(木) 22:52:33.34ID:f/7Hhze+
【愚か者の木曜日】

 訳がわからないまま、それでも座席の位置以外はとくに変わりのない一日を送った後、帰宅した次の日。
 僕は、昨日の“ハプニング”が、さらに続く“異変”の序曲にしか過ぎなかったことを思い知らされたんだ。

 その前の晩同様寝苦しい一夜を過ごして熟睡できなかったせいか、一時間目の数学の授業が始まっても、僕はどうにも頭が働きが鈍いのを感じていた。
 寝不足のうえ、黒板から遠くて板書が見づらく、先生の声も幾分聞き取りづらいこともあって、いまひとつ授業に集中できてないのが自分でもわかる。
 (こんなんじゃダメだ!)
 そう思うんだけど、5月の連休が終わったばかりとあって気候もよく、窓際のこの席では、ついうたたねしたい誘惑に駆られてしまう。

 「それじゃあ、この問題を……そうだな。折原、わかるか?」
 「は、はいッ!」
 重いまぶたと必死に戦っていた僕は、思いがけずに数学の高梨先生に当てられて、慌てて立ち上がる。
 黒板の前に歩み出て、チョークを手に、いざ数式を解こうとしたんだけど……。
 授業をよく聞いてなかった上に慌てているせいか、どうにもこうにも問題の解き方が浮かんでこなかった。
 「ん? どうした、さすがに学年3位の折原でも、この問題は難しいか? うん、じゃあ座れ」
 幸い元々かなり難度の高い問題だったらしく、先生はさして不審に思うことなく、僕を席に戻してくれた。
 「それじゃあ……ほかに誰か、わかる人はいるかな?」
 先生の口ぶりには、「ま、いないだろうな〜」というニュアンスが込められていたんだけど、その中でもひとり手を上げる生徒がいたんだ。
 「──はい、先生」
 「おっ、東雲、もしかしてコレが解けるのか!?」
 高梨先生が驚くのも無理はない。
 東雲さんは、運動神経は抜群だけど、勉学の成績の方はお世辞にも良いとは言えない、女の子に対してはどうかと思うけど「脳筋」という言い方がさほど的外れではないタイプの生徒のはずなんだ。
 「解ける……と思います」
 普段は先生の目を盗んで居眠りするか、せいぜいやる気がなさそうにノートを取ってるくらいの東雲さんが、こういう場面で積極的に手を上げたうえ、さらに黒板の前で難解な数式をサラサラと解いてみせるなんて……。
 「午後から雨、いや雪でも降るのでは!?」というのがクラスメイトの一致した感想だったろう。
 「ふむふむ……うん、正解だ。よく予習してあるな。感心かんしん」
 劣等生だと思っていた生徒の思わぬ進歩の跡を見れて、高梨先生は上機嫌だったけど、僕はそれどころじゃなかった。
 (どうしよう……わからない)
 東雲さんが黒板に書き連ねた数式の意味が、なぜか巧く理解できないんだ。
 (きっと寝不足で頭が回ってないせいだよね)
 そう無理やり自分を慰めてしてみたものの……。

 数学だけじゃなかった。
 2時間目の理科も、3時間目の国語も、4時間目の社会科も、教科書に書かれていることや先生の説明の半分くらいしか理解できないんだ。
 「よぉ、折原、なんか調子悪そうだな」
 同じ小学校の出身で、クラスの中では比較的僕と親しい大鳳(おおとり)くんが昼休みにそんな風に声をかけてくれるくらいには、僕は蒼白になっていたらしい。
 「あ、うん。ここ2、3日、なんだか寝つきが悪くって……」
 「お前、見るからに神経質(ナーバス)そうだからなぁ。男なら、あんまり、細かいことは気にせず、ドーンと構えてみろよ」
 「ハハッ、うん、まぁ、がんばってみるよ」

 「すごーい、いつの間にそんなに頭よくなったのよ、市歌?」
 「ふふっ、たまたまよ、たまたま」
 「ねぇねぇ、次の英語の授業の宿題なんだけど……」
 「ああ、それはね……」
 「なぜか急に頭がよくなった」東雲さんを中心に女子が盛り上がっているのから目を背けて、僕は重い腰を上げてパンを買いに学食へと歩き出すのだった。
0319名無しさん@ピンキー2015/12/11(金) 13:41:46.59ID:BlfUn7Q+
進行(曜日)にあわせて更新とは心憎い
楽しみにしてますですよ
0320『Nervous-Breakdown』052015/12/11(金) 22:53:09.31ID:z3+xGMoK
【壮健なる金曜日】

 原因不明の学力低下は午後になっても直らず、その日の放課後、僕は初めて美術部の部活をサボった。
 こんなグチャグチャな気持ちのままスケッチブックに向かっても、まともな絵が描けるとは思えなかったしね。
 (家に帰ったら、落ち着いて1年生の頃の教科書を見てもう一度復習してみよう……)
 そう思っていたはずなのに、いざ帰宅して自分の部屋に戻ると、なぜか机に向かう気が起きず、大鳳くんから借りてたラノベを読んだり、1階の居間に降りて家族と一緒にテレビを見たりしてダラダラ過ごしてしまった。
 けど、そんな風にリラックスしたのがよかったのか、その晩は久しぶりにぐっすり眠って疲れをとることができたんだ。

 そして、翌日の金曜日。
 今日は朝の1時間目から体育がある、僕にとってはユウウツな日だ。
 いや、そのはずだったんだけど……。

 ──カキーン!

 「おぉ、スゴいじゃないか、折原。2打席連続ヒット、それも二塁打と三塁打なんて」
 体育の授業の軟式野球で、まさかの大活躍。
 打撃はもちろん、守備でも右中間を抜けるライナー性のヒットに飛びついてアウトにしたり、そこから素早く3塁に送球して2塁ランナーを刺したりと、自分でも信じられないくらい軽快に力強く身体が動いた。
 もちろん周囲の男子も驚いてたけど、大鳳くんや更科くん(去年からのクラスメイトで、趣味が合うんで比較的話すんだ)は、笑って褒めてくれた。
 おかげで、普段なら少しでも早く終われと思いながら受ける体育の授業を、思いがけず楽しい気分で過ごすことができたんだ。
 (スポーツするのって意外に楽しいかも……)
 我ながら現金だとは思うけど、ここ2、3日、暗い気分過ごすことが多かっただけに、ちょっとしたことでも凄くうれしく感じられたんだ。

 けれど──そんな僕のウキウキ気分は、着替えて教室に帰ったところでたちまち霧散してしまった。
 僕ら男子とは分かれて別の先生に体育の授業を受けていたはずの女子のクラスメイトたちが先に教室に帰ってきていた。
 それ自体は(普通は女子の方が着替えが長いから)珍しいけど、有りえないわけじゃない。
 でも、なぜか何人かが東雲さんの(元は僕のもののはずの)席に群がり、その真ん中に、手首に包帯を巻き、おでこに絆創膏を貼った東雲さんがいたんだ。

 「東雲さん、大丈夫なの?」
 「あ、うん、保健室で湿布してもらったから、もう平気」
 「でも、運動神経抜群の市歌があんなドジするなんて珍しいね。バレー程じゃないけどバスケも得意なのに」
 「なんか、動きも鈍かったし……もしかして、あの日?」
 「そういうワケじゃないんだけど……」
 「あ、もう男子帰って来たみたい。じゃあ、東雲さん、ケガしてるんだから今日は無理しちゃダメだよ!」

 (え、あの東雲さんがパスを受け取り損ねてまともに顔面でボールを受けた!? しかも、それくらいで手首を痛めて捻挫??)

 その時、僕の心の中に荒唐無稽な疑念が浮かんできたんだ。
 (──まさか! そんなバカなことあるわけないよ)
 そう、そんなコトがあるはずがないんだ。
 「僕と東雲さんの身体能力というか運動神経が交換された」なんて非常識なことが。
0322『Nervous-Breakdown』062015/12/12(土) 18:18:49.52ID:vxnZ4TQW
#流石に今回は1レスに収まりませんでした。

【仕着せの土曜日】

 その日の夜、奇妙な夢を見た……気がする。

 ──ねぇ、どうしてこんなコトを?
 「わからないの?」
 それは……。
 「ふぅん、答えられないんだ。だったら続けるしかないよね」
 続けるって……いったい何をする気?
 「もちろん、アンタに実感してもらうのよ。アタシの──“ガサツで可愛くない体育会系女子”の立場と気持ちを」
 !!

 * * * 

 「……それはっ!?」
 翌朝目が覚めた時、僕はベッドの上にガバッと半身を起こして何かを言おうとしていた。
 してたんだけど……言いかけた言葉は目が覚めると同時に脳裏からスルリとこぼれ落ちてしまった。
 「はぁ、はぁ……何だったんだろ?」
 何か不思議な夢を見たような気がするんだけど。
 「まぁ、くよくよしてても仕方ないよね。そろそろ起きなきゃ」
 “花柄模様のベッドカバー”のかかった布団から出て、“オレンジ色のナイティ”──太腿の半ばくらいまでの長さの上着(チュニック)の下にふくらはぎまでの七分丈ズボンを着た格好のまま、軽く伸びをする。
 「ん〜、ヘンな夢を見たけど、身体は快調かな。あ、でも、寝汗でベトベト……シャワー浴びなくちゃ」
 “ロココっぽい装飾のある(もちろん本物じゃないけど)クリーム色の洋服ダンス”から、替えの下着──“シンプルなサーモンピンクのショーツとハーフトップブラ”を取り出して、お風呂場に向かう。
 「ママ〜、ちょっと寝汗かいたから、シャワー浴びるね」
 「そう。でもそろそろ、ご飯ができるから、なるべく早くしなさい」
 「はーい」
 台所で朝食の支度をしている母さんとそんなやり取りしてから、脱衣場に入り、ナイティを脱ごう──として、はたと気づいた。
 「え!? なんで、こんな格好してんの?」
 鏡の中には、どこかで見たような女の子……じゃなく、女物の寝間着を着た、自分の姿が映っている。
 元々あまり体格のいい方じゃないのと、いつの間にか襟が完全に隠れるくらいの長さに髪が伸びているせいで「ショートカットのボーイッシュな女の子」に見えないこともないけど……。
 「ね、寝てる間に、誰かにこんな寝間着に着替えさせられたのかな?」
 念のため、昨晩寝る前のことを思い出してみる。
 (えーと、昨日は……急ぎの宿題とかなかったから10時までテレビ見てて、それからお風呂に入って、ダッツのアイス食べたあと、ベッドの上でマンガ読んでて……11時半過ぎに眠くなってそのまま寝ちゃったんだっけ)
 風呂から出た時に、寝間着に着替えたはずで……。
 「その時、このお気に入りのナイティに着替えたんだから──うん、何も問題はない……わけないじゃない!」
 絶対におかしい。
 そもそも、僕は普段、家ではTシャツとショートパンツを部屋着にしてて、寝るときもその格好で布団に入ってた──はずだ。なぜか、その辺りの記憶があやふやであまり自信はないけど。

 「ともきーー、何騒いでるの? シャワー浴びるならさっさとしなさい」
 「! は、はーい」
 母さんから、そんな風に急かされたので、とりあえずパパッと寝間着を脱いで風呂場に飛び込む。
 「良かった……ちゃんと“ある”」
 下着まで女物だったから、もしやと危惧してたんだけど、裸になってみると股間(ソコ)にキチンと長年の“相棒”が鎮座ましましていてくれたのは不幸中の幸いと言うべきか。
 ただ、風呂場の鏡に映る自分は、髪の毛が幾分長くなっただけじゃなく、肌の色もなんだか白くなったような気がする──まぁ、元々インドア派だから、そんなに日焼けはしてなかったんだけど。
 「オッパイは──うん、全然ないな」
 シャワーを浴びながらペタペタと自分の胸に触ってみたところ、こちらは特にいつもと変わりなく真っ平らなままだった──腹立たしいことに。 
 (中学2年生になったんだし、そろそろちょっとくらいは膨らんできても……って、なんでだよ!)
 下手な小学生以下の、貧乳を通り越して無乳なことに、落胆を覚え……かけて、慌ててブンブンッと首を振る。
 (しっかりしろ! 何歳になったって、僕の胸が膨らむはずがないじゃないか)
 「だいたい、私は女の子なのよ……って、えっ!?」
 自分では「僕は男の子なんだから」って言ったつもりなのに、なぜか口からはそんな言葉が飛び出していた。
 「私(僕)は……女の子(男の子)、だよね?」
 何度か試してみても、やはりそうなってしまう。思った通りの言葉が口に出せないというのは地味に恐ろしく、背筋に震えがくる。
0323『Nervous-Breakdown』062015/12/12(土) 18:19:27.17ID:vxnZ4TQW
──ガチャ!
 「ともき、いつまでもグズグスしてると遅刻するわよ。制服もここに置いておくから、早く上がってご飯食べなさい!!」
 けれど、ちょうどその時、風呂場の向こうの脱衣場に母さんが入って来て、声をかけてくれたので、何とか立ち直ることができた。
 「あ、うん、わかったー」
 とりあえず考えるのはあとにしよう。
 手早くシャワーを浴びて汗を流し、タオルで身体を丁寧に拭いてから、脱衣籠に用意された(というか自分で持ってきた)ショーツとブラを手に取る。
 心の戸惑いとは別に身体は自然に動き、形状的にブリーフと大差ないショーツはともかく、これまで一度も着たことも手にしたことすらないはずのブラジャーも、ごく自然に身に着けることができた。
 綺麗に畳まれた制服のブラウスを羽織り、男物とは逆についたボタンも手間取ることなく上からはめていく。ネクタイとは異なるリボンタイの結び方も指が覚えているようだ。
 ワインレッドのフレアスカートと学校指定の白いスクールハイソックスを履き、スカートと同じ色の上着を着れば、少なくとも見かけは立派に私立咲良学院に通う“女生徒”ができあがった。
 (こんなの、おかしい、はずなのに……)
 鏡に映る自分の姿を見て、僕は困惑する。
 違和感があるからじゃない──逆に違和感がなさ過ぎるのが問題だった。
 女装、それも女子の制服を着るなんて、生まれて初めての経験のはずなのに、なぜか鏡の中の姿を当たり前のように感じてしまうんだ。

 そして、それは自分だけの話じゃなかった。

 リビングにいた母さんも父さんも、女子の制服を着た僕の姿を見ても何も言わなかった。通学カバンを手に玄関から出た時、偶然顔を合わせた隣家のオバさんもそうだ。
 学校に着いても、クラスメイトのみんなも、女装してる僕を見ても囃子立てたりしない──それどころか、周囲は皆、僕のことをナチュラルに女子生徒として扱ってるみたいだった。
 そのおかげか、最近僕を敵視していたはずの山田さんや有方さん(どちらも東雲さんと親しい女子)達の態度が、普通の反応に戻ったのは有り難かったけど、逆に大鳳くんや更科くんとは微妙に距離が空いちゃった気がする。

 そして、問題の東雲さんだけど……。
 東雲さん──昨日までは“東雲市歌”という女生徒だったはずの存在は、当たり前のように男子制服のブレザーを着て、教室の一番前の席に座っていた。
 クラスの男子とも、ごく自然に“男子中学生らしい”会話をしてる。
 「(ニヤッ)」
 ほんの一瞬だけこちらの方を見て、東雲さん(それとも東雲くん?)が笑ったような気がした。それも、「明るく笑いかけた」とかじゃなくて、「馬鹿にしたように嘲笑う」って感じで。

 (嗚呼、やっぱり)
 それを見た時、僕は確信したんだ。
 この奇妙な現象には、間違いなく彼女(彼?)が関わっているのだと。
0324名無しさん@ピンキー2015/12/12(土) 23:43:32.19ID:na7+PueH
非常に素晴らしい
土日は休みで私服→月曜に制服を手に「やっぱ着るのか・・・」的な展開を予想してた
0325『Nervous-Breakdown』072015/12/13(日) 22:13:02.54ID:Iy/9lz6O
#今回はかなりタイトルに偽りあり。日曜日要素が半分もありません。

【安息なき日曜日】

 その日は土曜日だから授業は午前中で終わりだったけど、午後からの半休をとても素直に喜べるような心境じゃなかった。
 「なぁ、なんか調子悪そうだけど、大丈夫か?」
 そんな僕のことを心配してくれる大鳳くんは、とてもいい人だと思う。
 「今日は部活休みなんだろ? 更科と駅前のカカロットシティに行くつもりなんだけど、よかったら気分転換に折原もどうだ?」
 「えっと……うん、じゃあ、私もご一緒するね(僕も一緒に行くよ)」
 口から出る言葉が自動的に女の子っぽいものに変換されるのは、もうあきらめた。
 「おりょりょ、鈴太郎くぅ〜ん、もしかして俺ってばお邪魔かな?」
 更科くんがニヤニヤしながら大鳳くんの肩に手を回して何かを囁いている。
 「ば、バカ、そんなんじゃないって、寛治。俺は、ただ小学校時代からの友人としてだな……」
 「HAHAHA! わかってるって、イッツ・ジョーク、イタリアン・ジョークあるネ!」
 そんな他愛もない彼らのやりとりを見てると、沈んでいた僕の気持ちも「クスッ」と笑うくらいの余裕は取り戻せたんだ。

 その日の午後は、ホントに楽しかった。
 親しい友達がほとんどいない僕は、放課後こんな風に誰かと遊びに行くなんてことは殆どなかったから新鮮だったってのもあるし、たぶん、大鳳くんと更科くんのふたりが気を使ってくれてたってのもあるんだろう。
 それでも、ここ数日で久しぶりに、嫌なことを忘れてリラックスできたんだ。

 けれど、5時ごろふたりと別れて家に帰ると、僕は嫌でも今の“現実”を認識させられることになった。
 「ともき! 連絡も寄越さずにどこ行ってたのよ!」
 まずはいきなり母さんから叱られてしまう。
 (え、なんで? まだこんな時間だよ!?)
 確かに僕は土曜日は家に帰ってお昼を食べることが多いけど、外食したり寄り道したりすることもたまにはあったし、これまでは別に何も言われなかったのに……。
 母さんのお小言の内容を聞く限り、どうやら僕が「女の子」だから、そのあたりの基準が厳しくなってるみたい。
 「ごめんなさい、ママ(ごめん、母さん)」
 内心「今どきはウチのクラスの女子だって6時ごろまでは平気で遊んでるけど」と思いつつも、反論すると自分がその“女子”の範疇であることを認めるみたいな気がしたから、僕は素直に謝った。

 せっかくの楽しい気分に水を差されたような心境で、自分の部屋に戻った僕は──だけど、そこでもあまり楽しくない“現実”を突き付けられることになる。
 今朝は急いでたから気づかなかったけど、ベッドカバーやタンスに加えて、壁紙やカーテンも、昨日までの僕の部屋とは全然違っていて、なんだか落ち着かない。
 制服を脱いで着替えようと思っても、洋服ダンスの中には(予想はしてたけど)女の子向けの服しか入ってない。
 それでも、何とか無難にトレーナーとジーンズを捜し出して着替えて、ようやくひと心地ついたかと思ったんだけど……。
 「あ、あれ? 本棚の中身が全然違う」
 本棚そのものは昨日までと同じ木目調のシンプルなデザインの代物だったけど、並べられているのは、『華と梅』や『マルガリータ』といった少女マンガ系コミックが7割で、『ウラン文庫』なんかの少女小説系が2割。
 残る1割はティーン向けの雑誌類で、参考書なんかの類いはどこにもなかった。
 「もしかして、これが東雲さんの本棚の傾向なの?」
 勉強が苦手そうな東雲さんらしいって言えば言えるけど──いや、今はそれが僕のものになってることが問題だよね。
 ほかにも部屋の中を色々探ってみたんだけど、ゲーム機は携帯用の3BSだけで、ソフトも4、5本しかない。
 ケータイがjPhoneなのは変わってないけど、ダウンロードされてるアプリは女の子が喜びそうな恋愛系ゲームばっかりだ。
 (困ったなぁ、これじゃあ、暇がつぶせそうにない……)
 「仕方ない。宿題でもやろっと」
 不幸中の幸いと言うべきか、娯楽になりそうなモノがないおかげで、皮肉なことに忘れかけていた「学校の宿題をする」という選択肢が僕の脳裏に浮かんできたので、悪銭苦闘しつつプリントの空欄を埋める作業に専念する。
0326『Nervous-Breakdown』072015/12/13(日) 22:13:52.09ID:Iy/9lz6O
 「──で、できた!」
 普段なら軽く1時間程度で終わる量なのに、晩ご飯を食べたあともしばらく終わらず、結局夜10時くらいまでかかってしまった。
 「ともきーー、お風呂入りなさい!」
 「はーい」
 タイミングよく、階下から母さんが声をかけてきたので、僕は替えの下着とパジャマを持って、お風呂場に急いだ。
 「はぁ、気持ちい〜」
 いつもはカラスの行水で済ますんだけど、今日は色々あって精神的に疲れてるせいか、湯船につかるのが妙に心地よく感じる。おかげで、次に入る番の母さんに急かされるまで、お風呂でのんびりしちゃった。
 で、お風呂から上がったあとは、アイス食べて居間でテレビ見てたら、あっと言うまに寝る時間になったので、そのままベッドに入る。
 (ふぅ……このまま寝たら、また何かが変化してるのかな?)
 これまでの数日間の状況から考えると、その線が濃厚だろう。
 (でも──どうしたらいいかわかんないし、仕方ないよね)
 どの道、「寝ない」という選択肢はないし、もしかしたら日付が変わると同時に「変化」が起こるという可能性もある以上、徹夜しても無駄骨に終わる可能性はあるのだ。
 (それに……なんだか、すごく眠い、んだ……)
 結局、僕は睡魔の誘いに抗えず、そのまま夢の国へと落ちていくことになった。

 * * *

 そして、翌日の日曜日。
 朝起きて、部屋を見まわしてみても、とりたてて変化している様子は見受けられない。
 階下に降りて挨拶した父さんと母さんの様子も昨日と変わりはなかった。
 それですっかり油断してたんだけど……。
 やっぱり「変化」はあったんだ。

 朝ごはんを食べたあと、せめて参考書くらい買い直そうと近所の本屋に行ったんだけど、気が付けば僕は女性向け雑誌のコーナーでファッション誌を立ち読みしてた。
 何とか当初の目的を思い出して、数学と英語の基礎向け参考書は選んだんだけど、レジの前に『華と梅』の最新号が置いてあったので、ついそれも一緒に購入しちゃったんだ。
 しかも、真っすぐ家に帰るつもりだったのに、なぜか繁華街を歩いているうちに、ブティックやファンシーショップについつい興味を惹かれて、買う気もないのに色々見て回っちゃうし……。
 ようやく家に戻っても、お昼を食べる段になって、食パンに思い切りたっぷりジャムを塗ってるし。しかも、それを美味しく感じちゃうんだ!
 (あんまり甘いものって好きじゃなかったはずなのに……)
 逆に、コーヒーは妙に苦く感じて、たっぷりミルクを入れてカフェオレにしないと飲めなかったんだよね。

 「もしかして……」
 部屋に戻ると、僕は意を決して買ってきた『華と梅』最新号のページをめくる。

 ──おもしろい!
 昨日、本棚の少女マンガを試しに何冊かパラパラ開いてみたときは、まるで興味を感じなかったはずのに、今日は全然感じ方が違う。

 「ふぅ……つまり、今日は私(僕)の“趣味嗜好”が変わったのね(変わったんだな)」
 夢中になって最後まで読み終わってから、僕は独り言をつぶやいた。
 念のため、本棚にある他の女の子向けラノベを見たり、スマホにダウンロードしてあるアプリをプレイしてみたんだけど、そのどれも十二分に楽しむことができたから、たぶん間違いないだろう。
 「これで部屋で暇がつぶせるのはいいけど……」
 逆に言えば、今の僕は少年誌やギャルゲーを見ても、つまらないと思ってしまうのかもしれない。
 さらに言えば、男性向けのグラビアやH本を見ても……。

 それ以上考えるのは怖かったので、僕はあえて気づかないフリをして、3BSのソフト──ファンシーな擬人化どうぶつたちに向けて色々な服をデザインするゲームに熱中していった。
0327『Nervous-Breakdown』082015/12/14(月) 22:34:43.46ID:2PdPdbku
【縁変える月曜日】

 明くる月曜日。
 毎日自分を襲う“異変”に怯えつつも、さすがにそろそろ打ち止めじゃないか──と、淡い期待を抱きつつ登校したんだけど、甘かった。
 学校の最寄り駅まで電車に乗り、そこからは10分ばかり歩いて通うというのが、いつもの僕の通学路なんだけど……。
 「おっはよー、トモキ」
 駅から降りて改札口を出たとたん、見覚えのある女の子に見ように親し気に声をかけられたんだ。確か、隣のクラスの湯出(ゆで)さん、だったかな?
 「あ、うん、おはよう、乃亜(のあ)」
 あれ、僕、この子の苗字はともかく名前なんて知ってたっけ。それに、ごく自然に名前で呼びかけちゃったけど……。
 「トモキさぁ、昨日ジパングテレビでやってたアレ観た?」
 けれど、湯出さん──乃亜の方も、別段気にしてない様子で、平然と話をづけてくる。
 「あ、もしかして10時からやってたアレ? うん、途中からだけど……」
 しかも、僕もなんとなく普通に会話につきあっちゃってるし。
 「やっふ〜、ノア、トモキ!」
 今度は学校近くで同じクラスの山田さんが会話に入って来た!?
 「あ、マーヤ、おっはー」
 「お、おはよう、真綾」
 山田さん──真綾の名前は、クラス名簿で見たことくらいはあったかもしれないけど、それでもハッキリ覚えてた自信はないのに、今ごく自然にするりと口から出ていた。
 その後も、心の中に「?」マークを目いっぱい抱えつつも、結果的に僕はふたりと楽しく会話しつつ、学校までの道のりを歩くことができちゃったんだ。

 そして、それは登校途中だけじゃなかった。
 いざ教室に着いても、僕の席の周りにいつの間にか真綾や瀬理(有方さん)が寄って来て、とりとめもない雑談をしていく。
 ううん、正確には、僕もその中に混ざって、普通に受け答えしてるんだ。
 元々僕は、同性の男子とさえ、あまり会話を続けるのが得意じゃなかったはずなのに、クラスメイトというだけで、今までロクに話したことがないはずの彼女たちとのおしゃべりを楽しんでいる。
 そう──楽しいんだ。たいして内容も意味もない、まさに「駄弁る」としか言いようのない会話を続けることが。

 そう自覚した途端、僕はこれが今日もたらされた“異変”なんだと気づいた。
 反射的に教室の前の方に視線を向けると、そこでは東雲くん(さん?)が、誰か男友達ふたりと、ゲラゲラ笑いながら何か冗談を言ってるみたいだった。
 (あれ、あのふたりって……)
 とっさに名前が出てこない。
 (えーと、確か、同じクラスの、大鳳くんと……更科くん?)
 苗字は覚えていたけど、名前まではわからないなぁ……って!
 (! な、なんで!? クラスで一番親しい男子だったはずなのに)
 その時、かろうじて土曜日にふたりと遊んだ記憶を思い出して、蒼白になる。
 (もしかして、今日入れ替わったのは「交友関係」ってこと?)
 そう思い至ったとたん、僕の中に土曜日に「真綾や瀬理、乃愛たちとカラオケに行った時の記憶」が「甦って」きた。それと引き換えに、大鳳くんたちと遊んだという記憶が、ひどく曖昧になっていく。
 (そ、そんな……嘘でしょ……)
 急に蒼白になった僕の様子を心配して、真綾たちが色々気遣う言葉をかけてくれたけど、僕には「だ、大丈夫。ちょっと目まいがしただけだから」と言うのが精いっぱいだった。
0328『Nervous-Breakdown』092015/12/15(火) 22:15:22.72ID:mIkG7K5T
【そして再びの火曜日】

 僕が東雲さんとケンカ(というか一方的に罵倒)した日から1週間が過ぎ、再び火曜日が巡ってきた。
 その日の朝から、僕はヒドく憂鬱だった。
 (今日はいったい何が起こるんだろう)
 普通なら不思議な未知なる現象に遭遇するという経験は、大なり小なりワクワクするものかもしれないけど、この件に限っては僕はまったくそんな気になれなかった。
 (次は何を奪われるのか……)
 正確には、「奪われ」ているわけじゃなく、「交換」されているんだろうけど、僕の意思も都合もお構いなしに一方的に行われるそれは、まさに略奪されているとしか思えない。
 正直、無遅刻無欠席のポリシーを曲げて学校をズル休みしようかとも思ったんだけど、昨日の「交友関係」みたく学校に行かないと気づかないことがあって、それを知らないままでいるのも、それはそれでイヤだった。
 当然のことながら学校に着いてもテンションは低いままで、真綾や瀬理の相手をするのも億劫だったけど、昨日の不調が長引いてると解釈してくれたのか、彼女達はむしろ同情的な目で見てくれてるようだった。
 「もしかしてトモキ、アレ?」
 「そういえばアンタ、そろそろだったよね」
 「う、うん、まぁ……」
 よくわからないけど曖昧に頷いておく。
 「そっか〜。じゃあ、今日の部活の練習は休んだ方がいいよね」
 「部長にはわたしたちの方から言っといてあげるよ」
 「あ、ありがと」
 短く感謝の言葉を伝えつつも、頭の中で今のやりとりを検証する。
 (確か、真綾や瀬理は東雲くんと同じ女子バレー部だったから──もしかすると、今の私もバレー部に所属してることになってる?)
 コレが今日の“異変”なのだろうか?
 いや、月曜は部活がなかったから発覚しなかったけど、僕の交友関係が変化している以上、昨日の時点ですでに僕はバレー部員ということになっていたのかもしれない。
 だからこそ、同じバレー部員である乃愛が親しげに話しかけてきたのだろうし……。
 チラッと前の方の席の東雲さんを見ると、眼鏡をかけて何か文庫本らしきものを読んでいるようだった。
 (! そういえば、私、いつの間にか眼鏡をかけなくなってる)
 いったいいつからだろう。少なくとも、日曜に部屋でゴロゴロしている時には、裸眼で問題なく本やマンガを読めたのは確かだ。
 (この席からでも黒板がよく見えるのは、一応メリットだけどさぁ)
 でも、視力が悪いままでもいいから、できれば元の状態に戻りたい。
 僕は切実にそう願わずにはいられなかった。

 * * * 

 僕たち──僕と東雲さんに起きた“異変”を除いて、今日も退屈なくらい平穏に授業時間は過ぎていく。
 真綾たちにああ答えた手前、さすがにはしゃぐ気にはなれなかったけど、それでもありふれた“日常”に流されている間は、自分の“現状”を意識せせずに済む。
 僕は──ややもすると居眠りしたくなる春の陽の誘惑に抵抗しつつ──懸命にノートをとっていた。書いてる字が、いつの間にか丸っこい女の子文字になってるのは、気にしたら負けだと割り切る。
 あいかわらず先生の言うことは難しかったけど、それでも先週の木曜日のようにチンプンカンプンってことはなく、落ち着いて考えれば半分以上は理解できる。
 (つまり、東雲くんの学力だって、真面目に勉強してれば十分ついていけるってことよね)
 コレは数少ない朗報(?)と言えるかもしれない。
0329『Nervous-Breakdown』092015/12/15(火) 22:16:25.83ID:mIkG7K5T
 そして迎えた放課後、部活に行く真綾と瀬理を見送ったあと、スケッチブックと画材の入ったバッグを持って教室を出ようとしている(たぶん美術部の部活に行くのだろう)東雲さんに、勇気を出して声をかける。
 「待って、東雲くん!」
 ピタリと足を止めて振り返る東雲さん。
 僕とほとんど変わらない背丈や肩幅で、短めの髪もメンズモデルっぽいヘアスタイルにまとめているせいか、男子のブレザーを着た東雲さんは、まるっきり普通の(あるいはちょっとカッコいい)男子生徒に見えた。
 「──何か用、折原さん?」
 身長的にはほぼ対等なはずなのに、なぜか見下ろされているような気になって落ち着かない。それでも、再度勇気を奮い起こして、僕は“彼”に言った。
 「その……相談したいことがあるの。少しだけでいいから、時間もらえないかな?」
 「相談──相談ねぇ。ま、部活が終わったあとならいいぜ」
 少なからず含みのありそうな視線を僕に向ける東雲さんだったけど、意外にあっさり了解の返事をくれた。
 「美術部は5時半頃に終わるから、その時間、この教室で落ち合うってのでいいか?」
 「う、うん、ありがとう」
 お礼を言う僕を面食らったような目で見つめる東雲さんだったけど、フイと視線を逸らして、そのまま教室を出て行った。
 (これで第一段階はなんとかクリアーかな。あとは何とかして東雲くんを説得しなきゃ)
 そう心の中で堅く決意した僕だったんだけど……。

 * * * 

 ここで物語は冒頭の時間に巻き戻る。
 最後のアイデンティティの砦ともいえる“名前”さえも奪われ(交換され)てしまった“少女”は、力なく肩を落としつつ校舎の昇降口へと向かい、「東雲」と書かれた下駄箱からスクールローファーを取り出して履き替える。
 そのまま、無意識に校舎の裏手にある自転車置き場へと向かいかけて、ハッと気が付いて足を止める。
 「え? 私、自転車通学だったっけ?」
 そんなはずはない。折原邦樹の家は、ここから電車で数駅離れて場所にあるため、女の子の足で自転車通学するのはかなり難しいはず……。

 (──でも、“東雲市歌”の家ならば?)
 唐突に沸き上がってきた疑問に、心の中の誰かが答えた。
 (問題ないよね。自転車で10分弱、歩いたって20分くらいしかかからない距離なんだから)
 「そんな、そんなことって……」
 懸命に、隣の区にある折原家の場所を思い出そうとしても、具体的なビジョンが何も浮かんでこない。それどころか、どの駅で降りるのかさえ、わからなくなっていた。
 「まさか……私、これからは東雲家に帰るしかないの!?」
 試しに自転車置き場を見れば、「自分がいつも通学に使っている自転車」がどれなのかすぐわかったし、スカートのポケットから取り出した鍵であっさりロックを外すこともできた。
 おそるおそるまたがると、サドルの高さもハンドルの位置もあつらえたように自分にピッタリだ。
 ベタルに足をかけて漕ぎ出そう──としてみたものの、それでもやはり少なからぬ迷いはあった。
 このまま“東雲市歌”の自転車で漕ぎ出せば、今の自分が“市歌”だと自分で認めることになるのではないか。そんな気がしたのだ。
 しかし……。
 「おーい、そろそろ下校時刻だぞー、寄り道せずに気をつけて帰れよ〜」
 「は、はいっ」
 下校見回りの教師にそう声をかけられ、反射的に返事をした“少女”は、そのままペダルを踏み込んでしまう。
 あっけないほど軽快に自転車は動き出し、ほとんど意識していないのに、そのまま“少女”は「初めてのはずなのになぜか見慣れた街並み」を通って、ほどなく東雲家に着いて──いや、“帰って来て”しまった。
 駅からは少し離れた住宅街の外れ近くに祖父の代に建てられ、何度かの細かい改装を経た、やや古めの日本家屋。それが東雲家だった。
 建売ながらモダンな洋風建築の折原家とはまるで趣きが異なるが、それでもなぜか「ここが自分の家だ」という安堵感が“彼女”の中に湧き上がってくる。
 庭の隅のガレージに自転車を押し込むと、意を決して“彼女”──“東雲市歌”となった“少女”は、玄関のドアを開けて中へと入っていく。
 (だって、ここが私の家なんだもん──ここに帰るしかないんだもん)
 ひと筋の涙がこぼれたが、それを見られないようこっそりハンカチでぬぐうと、“市歌”はワザと明るい声で台所にいる“母親”に挨拶をする。
 「ただいま〜、ママ、今日の晩ご飯はなーに? 私、お腹ペコペコだよ〜!」

-END?-
0330名無しさん@ピンキー2015/12/16(水) 02:04:57.60ID:2kpipzMV
最高です。
この後の、ガサツで可愛くない体育会系女子の生活を強要されて、心無い男子からの言葉や態度に傷つく“東雲市歌”を想像するとドキドキします。
0331名無しさん@ピンキー2015/12/16(水) 04:59:08.87ID:4Vtouina
質を落とさず皆勤賞
お見事です!
またよろしくお願いします
0332名無しさん@ピンキー2015/12/20(日) 19:57:51.10ID:wNZyDgva
憑依能力を持った主人公が、怪盗とかになって好き放題やる系の
話があるけど、立場交換能力でも似たようなことできるかな?
盗む対象の宝物がある屋敷に気付かれずに潜入するため、
まずは外に買い物に出た屋敷のメイドと立場を交換し、
続いて屋敷に帰ったら当主の妹である令嬢と立場交換。
その後、「兄」である若き当主と立場交換して宝物を確保した後、
当主の秘書の女性と立場交換して屋敷を出る……とか。
で、この過程で玉突きが発生して、
 ・メイド→不審な男(主人公)の立場
 ・お嬢様→メイドの立場
 ・当主→お嬢様の立場
 ・女秘書→当主の立場
になってるんだけど、当人たち含め、誰もそれを不審に思わない、とか。
0333名無しさん@ピンキー2015/12/21(月) 15:00:27.86ID:WRdn088b
副次的な感じで立場が入れ替えられるのはかなり好きな部類だけど
不審に思わないってのがどの程度かによって好みが分かれそう
0334名無しさん@ピンキー2015/12/27(日) 15:23:43.61ID:u2F2J+b5
2日遅れだけど、めりーX!

可愛い姪っ子(11歳)にクリスマスプレゼントのテディベア(大)を
渡すために歳の年の離れた姉夫婦の家を訪ねたのに、
 「私、こんなもの欲しがるほど子供じゃないもん!」
と受け取り拒否されて落ち込む大学生を見かねた姉(実は魔女)が、
娘と弟の立場を一時交換する展開とかありかも。
元大学生/現女子小学生になった娘(青年)が両親に猫可愛がりされ、
子供っぽい玩具や甘いお菓子類に夢中になり、
「大好きなお兄ちゃん(叔父=つまり元の自分)」の持って来てくれた
テディベアを大喜びで受け取って、その晩も抱いて寝ちゃう
──とか。

……いや、決して実話をもとに思いついたわけではありませんぞ?
0335名無しさん@ピンキー2015/12/27(日) 20:41:18.73ID:Ens/EttS
Kの人のところに『Nervous-Breakdown』の拡張版が来ていた。
すげー面白い
0336名無しさん@ピンキー2015/12/28(月) 06:57:02.08ID:vgxhSf9s
kの人、自分が書きたいものとスレの趣旨が微妙に違うからスレ版と自サイト版で設定違うんだよね
0337名無しさん@ピンキー2015/12/29(火) 10:43:16.53ID:X4+k9S3T
>>335
すごく面白い。
ダークな展開に期待
0339名無しさん@ピンキー2015/12/30(水) 05:59:14.47ID:Ay/zP9N7
FictionManiaにいくつか立場交換モノがあるけど、翻訳しながらだとイマイチ萌えきらない
0340名無しさん@ピンキー2015/12/30(水) 07:09:34.26ID:91CAsXd2
どうやって見つけるんだ……
読んでみたいのでよかったら作品名を教えてくれませんか?
0341名無しさん@ピンキー2015/12/30(水) 17:34:08.81ID:Ay/zP9N7
>>340
あらすじから探しただけだけどね
だから間違ってる可能性がある
とりあえず探し出したなかだと以下が該当っぽい(全部同じ作者)

Moving To A New Placeシリーズ
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1349720289421629499
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1349811462464220200
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1350264355690862224

In The Minivan
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1350865052982149156

The Plan (Complete Story)
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=136632692832874245

The Joanny Saga
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1383505310519743117

Role Exchangerシリーズ
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1384203176841914871
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=13846480331042317737
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=1384410681938048756

The Trait Swap Ring
ttp://www.fictionmania.tv/stories/readtextstory.html?storyID=138645316752633179
0342名無しさん@ピンキー2015/12/30(水) 19:16:46.18ID:n3IVqOjb
いいね
ちなみに立場交換は
role swap
life swap
role reversal
なんかで出てくるよ
writing.comとかにも結構ある
0345yuu2016/01/01(金) 01:56:03.77ID:9lkA0VAX
>>341
G●ogle翻訳さんに訳してもらいつつ、「The Trait Swap Ring」「Role Exchangerシリーズ」を読んでみたら、6割くらいは理解できた気がした。
そのうち、「The Trait Swap Ring」に出てくる指輪の設定は面白い感じだったので、ちょっとだけ紹介。

使うと指定した相手と何かを交換することが出来る指輪で、例えば「知性」や「立場」「精神力」「衣服」「体力」などなどが交換対象にあって、メニューから何を交換するかを選ぶ感じです。

意識高い系の男子高生の主人公が、近所の小学1年生と立場を交換して小学校に行ってみるのですが、小学校の勉強が簡単すぎて退屈だったので、隣の女の子と「知性」を交換して、「うわっ、新鮮!楽しい!」って遊ぶんですね。
で、戻ろうと思った時、小学1年生の「知性」だとメニューが読めなくて、どう戻せばいいかわからず、色々と間違えて交換しちゃうんです。
結局、音声入力で「知性」は元に戻るのですが、途中で間違えて交換してしまったことには気づかず・・・

みたいなところが面白かったです


最後に、翻訳で読んだ感想としては、きちんと理解するのは機械翻訳だと難しいけど、妄想とかSSのネタ探しにはいい刺激になるかなと思いました

ちなみに、機械翻訳するときの注意点として、FictionManiaのページみたいに文の途中で改行が入っていると、機械翻訳するときに精度が悪くなるみたいなので、
一度テキストエディタに貼り付けて、改行を適度に削ってから貼ると、若干よくなる感じでした。
0347名無しさん@ピンキー2016/01/02(土) 02:20:41.91ID:i3HdU+W0
「いやー、あそこであの仕掛けは卑怯だよね。絶対笑っちゃうもん」
『あれ我慢しろとか絶対無理だよな〜』
「ホント笑いすぎてお腹いたいよ〜」
『俺も俺も。明日腹筋割れてんじゃねーかぐらい笑った』
「じゃあ今度その割れた腹筋(笑)見せてね」
『本気にしてねーだろ〜。いいよちゃんと割れた腹筋見せてやんよ』
<おね〜ちゃ〜ん、おばあちゃんが呼んでるよ〜
「ヤバいもうこんな時間じゃん。おばあちゃんに呼ばれちゃったからそろそろ切るね」
『なんかあんの?』
「うん、なんかうちのしきたりで年越しの瞬間は全員で迎えなきゃいけないんだって」
『そっか、じゃあまた明後日な。着物楽しみにしてっから』
「可愛すぎて腰抜かすんじゃねーぞっ☆じゃあ良いお年を」
『良いお年を』

彼氏の良平との電話を終えて時計を見るともう23時55分。急いで降りなきゃおばあちゃんに怒られる。
急いで階段を駆け降りて居間へ急ぐ。
あ〜先に着替えとけばよかった。
スカートのまま廊下に出たから寒いよ〜。
居間に着くとみんな集まってコタツに入ってゆく年くる年を見ていた。
うちの年越しの瞬間はいつもこれだ。
急いでコタツに入って冷えた足を暖める。やっぱコタツはサイコーだね。
遥「もう、おねえちゃん遅いよ〜。せっかくお蕎麦用意してたのに冷えちゃうじゃん」
彩「ごめん、ごめん。電話に夢中で時間見てなかった」
「あれ、にーちゃんいるじゃん。この時間に家にいるの珍しいね」
篤「そりゃ大晦日はいなきゃさすがにマズイだろ、いろいろと」
彩「それもそっか〜、そんじゃいただきます」
大学生の兄、篤はバイトか友達と遊びに行ってて家に帰るのはいつも日付が変わってからだ。
その兄の隣で眠たそうにしてるのが弟の聡。
小学3年生でいつも10時ごろには寝ているからこの時間まで起きてるのはかなり辛いだろう。
それにしっかり者の中学生の妹、遥と高校生の私、彩を加えた4人兄弟とパパ、ママ、おばあちゃんが私たちの家族だ。
私たち兄弟は割と仲がいい方だと思う。まぁある習わしが原因なんだけど。
そうこうしてるうちに気がつけばもう年が明けるまで1分を切っている。
今年もあの時間が来るな〜、なんて考えていると時計が0:00を表示していた。そして108回目の鐘が打たれた時。
意識が飛び目の前が真っ暗になった。
0348名無しさん@ピンキー2016/01/02(土) 02:21:25.48ID:i3HdU+W0
次に目が覚めた時、目の前にはカオスな光景が広がっていた。
野暮ったい黒のジャージを着た遥、女の子っぽいピンク色のパジャマをを着た聡、仮面ライダーがプリントされたシャツを着ている彩、私はというと(って一人称が戻せてなかった)
俺はモコモコした可愛らしいパーカーにスカート姿だ。そしてそれをニヤニヤしながら見ているオトン、オカン、ばあちゃん。
毎年のことではあるがやはり慣れない。
彩「にーちゃん、何その格好wwwちょーウケる」
篤「うるせぇよ。仕方ねーだろさっきまでお前やってたんだから。」
「だいたいお前だって聡の服着てんじゃねーか。似合ってんぞ。ププッ」
彩「うっさいわね。あたしだって早く着替えたいよ」
遥「まぁまぁお兄ちゃんもお姉ちゃんも喧嘩しない、喧嘩しない。またおばあちゃんに怒られるよ」
聡「あれ?遥ねーちゃんおにーちゃんの服着てる…」
遥「さと君も私の服着ちゃってるよ。眠くない?大丈夫?」
聡「うん、僕は大丈夫。遥ねーちゃんこそ大丈夫?」
遥「ちょっとだけ目は覚めたんだけど気を抜くと寝ちゃいそう。さと君になってるからかな〜」
ばーちゃん「起きて早々まったくあんたらは…仲が良いのは結構だけど年始の挨拶ぐらいしたらどうなんだい?」
4人「あけましておめでとうございま〜す!」
0349名無しさん@ピンキー2016/01/02(土) 02:22:02.50ID:i3HdU+W0
さて、このカオスがなんなのか説明しようと思うが、まず言っておかなければならない事がある。
うちのばーちゃんは『魔女』である。というかうちは『魔女の家系』なんだそうだ。
初めて聞いた時は何をバカなことをと思ったが実際に魔法をかけられたのだから信じざるを得なかった。

ただ魔女といっても基本的には魔法を使うのは年に一回だ。
それこそがこのカオスの原因なのだが…
俺達兄弟は年に一回魔法によってそれぞれのランダムに立場をシャッフルされてしまう。ただ完全にランダムなので自分のままで一年間過ごせることもある。が、前回がいつだったかもううろ覚えである。
0350名無しさん@ピンキー2016/01/02(土) 02:22:38.58ID:i3HdU+W0
そして年に一回自分に戻れるのが1月1日元日のみである。
元に戻るとはいっても次のシャッフルがあるまで外から見ればシャッフルされたままの立場のままであり、自分たちの意識だけが元に戻るので非常に恥ずかしいのだ。
自分の服に着替えられればいいんだが如何せん外から見ると男装、女装した兄弟を持つ家族になってしまう。
基本的には元日は外には出ないんだがもし火事でも起きたら二重に大変だ、ということで立場にあった服を着せられている。

ちなみになんでこんなことをするのか聞いたら「おもしろいから」だそうだ。

こんなこと一刻も早くやめてしまいたいもんなんだが断れない理由がある。
シャッフルする立場を決めるアイテムが『お年玉』なのだ。
毎年1月1日から2日に日付けが変わる直前に中身が見えないポチ袋を選び、日付けが変わると同時に開く。
中にはそれぞれの年齢に合わせた額のお年玉が入っており、引いた立場でこの一年を過ごすことになる。
0351名無しさん@ピンキー2016/01/02(土) 02:23:22.73ID:i3HdU+W0
去年俺は3つ下の妹、彩のお年玉を引いて女子高生として1年を過ごした。
色んな事があったが何よりも大きな出来事は彼氏が出来たことである。
今思うと「うげぇ」としか思えないのだが、彩の立場だった時は完全に恋する乙女だったのだろう、幸せだったり楽しかった記憶もある。

立場をシャッフルされた直後は立場に合うように思考を少しだけ強制されるのだがそれも一週間程度で終わり。
その後は自分で考えてはいるのだがなんとなく立場に馴染んだ考え方をするようになるという都合の良い魔法である。
そのためボロは出さずにすんでいるし、慣れれば自分の格好を恥ずかしいと思うこともなくなるので助かってはいる。
ちなみに立場だけをシャッフルするので体型なんかは一切変化しない。
いっそのこと体ごと入れ替えてくれと思ったこともあるが、それも「おもしろいから」なんだろう。


さて、そうこうしてる内に1月1日も終わりそうな時間になりばーちゃんに呼ばれた。
今年もシャッフルの時間がやって来た。
願わくば自分の立場でこの一年を過ごしたいが、自分以外の立場になっても楽しくすごせるんだろう。
ばーちゃん「さぁ2日になるよ。みんな開けな!」
ばーちゃんの掛け声とともに4人揃って袋の口を開けた瞬間、また目の前が真っ暗になった。
この一年がどんな一年になるか楽しみだ。
0352名無しさん@ピンキー2016/01/02(土) 02:25:50.11ID:i3HdU+W0
正月ネタで思いついたので一本書いてみました。
初めて長めのを書いたのとスマホから書いてるのでおかしいところが所々あるかもしれませんが大目に見てもらえると助かります
0354名無しさん@ピンキー2016/01/03(日) 02:49:29.52ID:p0IrkueQ
>352
おもしろいですね
今度は遥の立場になった主人公が見たいかも
0355名無しさん@ピンキー2016/01/03(日) 13:48:33.22ID:tUpFdTA7
良い!!
立場が入れ替わってから馴染むまでと
彼氏が出来た時が気になるね

今年こそは俺も1つくらいは書いてみるかなぁ
0356名無しさん@ピンキー2016/01/07(木) 05:00:13.04ID:ZPvXt10Q
#新年早々で時季外れ(遅れ?)だけど334のネタで短編を。前後編予定だけど、私の場合見積もりに信頼はおけないかも。

『テディベアブルース』

 ウチの弟(20歳・大学生)は、姉の目から見てもかなりの“叔父バカ”だ。
 「ありすちゃ〜ん、メリークリスマス! はい、これプレゼント」
 彼から見れば姪にあたるウチの小学5年生の娘に、誕生日その他のイベント毎に色々なものを買って来てくれる。
 たぶん、歳の離れた姉であるあたししか兄弟がいなかったから、娘は彼にとって9歳違いの妹みたいなものなのだろう。
 そのこと自体は微笑ましいと言えるのだろうけど……。
 「お兄ちゃん、バイト代奮発してこんなモノ買って来たよー!」
 いや、まだ学生なんだから、どう考えても金額が5桁に届いているだろう、そんな大きなクマのぬいぐるみまで買って来なくても。もっと自分とか、カノジョとかのためにお金は有効利用していいのよ?
 「フッ……亜由美姉さん、カノジョがいたら、クリスマスイブに、嫁いだ姉のお家にわざわざ遊びに来ると思いますか?」
 ──ごめんなさい。
 そう言えば、この子、昔から妙に異性関係の要領が悪かったわね。
0357『テディベアブルース』前編2016/01/07(木) 05:01:06.64ID:ZPvXt10Q
 それに対して、ウチの娘は背伸びしたい年頃とでもいうのだろうか。
 「“ちゃん”付けは止めてください、おじさん。私、もう11歳なんですから」
 妙にセメントな対応をするようになっていた。
 「それに、ぬいぐるみなんかで喜ぶほど、子供じゃありません」
 “おじさん”と呼ばれて落ち込む(まぁ、確かに20歳になったばかりでオジサンよばわりは微妙に傷つくだろう)マイブラザーに、追撃のクリティカルヒット!
 「こら、亜梨子、なんですか、その態度は!」
 流石に親として注意したけれど、娘はプイと顔をそむけて部屋を出て行ってしまった。
 「ゴメンなさいね優樹。あの子、最近、なんだか反抗期みたいで」
 「い、いや、いいんですよ、姉さん。事前に希望の調査を怠った僕にも非がありますから……」
 口ではそう言いながらも、姪っ子にせっかくのン万円もしたクマのぬいぐるみを受け取ってもらえなかったコトに、弟はショックを隠せない様子だ。
 「これ、置いていきますから、ありすちゃんが気に入らないようなら、応接間のインテリアにでもしてください」
 そろそろお夕飯時で、夫が仕事から戻ったら、ささやかながらクリスマスパーティーをしようと思っているのに、ふらふらと家から出て行く弟。
 無論引き留めたのだけど、「ありすちゃんも、あんなコト言ったあとに僕と顔を合わせづらいでしょうから」と、こんな時だけ気遣いの良さを見せて帰ってしまった。

 「おや、今日は優樹くんが来るって言ってなかったか?」
 その後、夫が帰宅したので、自室にこもっていた娘も呼んで、一家揃ってのクリスマスパーティを始める。
 「それがねぇ、亜梨子に言われたことがショックだったみたいで、帰っちゃったの」
 チラリと娘の方に視線を向けると、ビックリしたように目を白黒させている。 「えっ!? お、おにいちゃ……じゃなくて、おじさん、帰ったんですか?」
 ははーん、なるほど。察するに、「自分も本当はお兄ちゃんと呼びたいけど、大人ぶりたい年頃としては、ちょっと気恥ずかしくて、ついつれない態度をとってしまった」ってとこかしら。
 「おいおい、亜梨子、いったい何を言ったんだい?」
 夫の呆れたような問いに、娘はふいと視線を逸らす。
 「──別に、事実を正直に言っただけです。私、もうプレゼントにぬいぐるみなんかもらって喜ぶほど、子供じゃありませんから」
 ああ、なんだか意固地になってるわね。今更あとに引けないってトコかしら。そういう悪い点はわたしに似なくてよかったのに。
 夫に目配せすると、わたしの意を汲んでくれたのか、「しかし、内容はともかくプレゼントをもらった以上、お礼を言うのは“大人として”の礼儀だぞ」と、たしなめてくれた。
 「──そう、ですね。確かに、せっかくもらったモノを突き返すのは、大人げありませんでした。反省します」
 “大人”というポイントを突いたのがよかったのか、娘も自分の非を認めているようだ。
 「だったら、あとで優樹に謝っておきなさいね。せっかくのクリスマスに姪っ子にすげなくされて、あの子、相当落ち込んでたから」
 「はい。あのぅ、お母さん、おに…おじさん、そんなに落ち込んでたんですか?」
 「ええ、そりゃあね。あの子にとってアナタは、姪というより可愛い妹みたいなものなんだもの」
 「だからお兄ちゃんと呼んであげる方が喜ぶわよ」と暗に伝えたつもりだったんだけど、娘は難しい顔をして考え込んでいる。
 「妹……そうですか。ええ、わかりました。後日、謝罪のお手紙を出しておきます」
 その後、心なしか娘のテンションが下がったこともあってか、クリスマスパーティはあまり盛り上がらず、まもなくそのままお開きとなった。
0358『テディベアブルース』前編2016/01/07(木) 05:01:36.87ID:ZPvXt10Q
 「さて、亜梨子の方はアレでいいとして、あとは優樹のフォローね」
 パーティの片付けを一通り終えた後、わたしは台所でちょっと思案する。
 「──久しぶりに、アレ、使ってみようかしら」
 唐突だが告白すると、私こと立花(旧姓・武内)亜由美は魔女のハシクレだ。
 より正確には、実家である武内家がそういう魔法使いの家系(ただし女のみ)で、多少なりともそういう関連の知識と技術の心得がある、と言うべきか。
 とは言え、わたしの才能は大したものでもなく、どこぞの魔女な奥様みたく派手な真似はできないんだけどね。
 それでも、昔からのコネがあって、こういうときに頼りになる知り合いと連絡もとれる。
 「もしもし、西条さんのお宅ですか? わたくし、立花と申す者ですが……あら、望美ちゃん、お元気? ええ、そうなの、お母さんに替わってくれるかしら」
 電話の向こうで娘から受話器を受け取った“現役魔女”に要件を伝えると、すぐにこういう状況で“使える”モノを送ってくれることになった。
 待つことおよそ5分でスマホにメールが届く。
 添付ファイルを展開すると、わたしの要望に沿った“魔法陣”の画像が表示される。
 「ふむふむ、これがこうで、そっちがこうだから……」
 昔取った杵柄、何とか陣に組まれた術式を解析して、おおよその発動手順を理解する。
 「この魔法が枯れた現代でこれだけの術式が組めるんだから、眞子の家系って大概チートよねぇ。長女の望美ちゃんは眞子以上の才能があるらしいし」
 まぁ、今更、魔女稼業に未練はないけど。
 ともあれ、わたしは久しぶりに体内の魔力を活性化させて、スマホに表示された魔法陣に流し込む。
 目的は──娘と弟を、ちょっぴり不思議なシチュエーションで和解させること、かしらね。

(つづく)
0360名無しさん@ピンキー2016/01/11(月) 22:30:44.67ID:m7evOtDp
Nervous-Breakdownと聞くとどうしても昔の探偵漫画を思い出してしまう
内容は全く関係ないけど
0362『テディベアブルース』(後編)2016/01/16(土) 19:15:45.91ID:CPp9Q2KK
 その日、「彼」は報われない自分の行動を嘆きつつ、ひとり寂しくコンビニで買ったケーキとチキンを食べつつ、シャンパンを自棄気味に煽って、そのままベッドにブッ倒れて眠りについたはずだった。

 しかし……。

 * * * 

 「……ぃーすー、冬休みだからっていつまでも寝てないで、そろそろ起きなさーい!」
 遠くから耳慣れた懐かしい声が“自分”を呼んでいる声がする。
 でも、今くらいはこの温かい布団にくるまれて安らかな微睡みにたゆたっていたいのだ。
 「こら、亜梨子!」
 バタン! とドアが開けられるとともに、いきなり布団を剥ぎ取られる。
 「ふひゃあっ! な、なにごとォ!?」
 「なにごと、じゃないわ。もう、9時半よ。いい加減、起きなさい」
 目の前には、見慣れた年上の女性が両手を腰に当てて、ちょっと呆れた顔をしている。
 「あ……」
 この人は……。
 「おかあ……さん?」
 そう、「わたし」の「母親」である亜由美姉さんだ
 ──あれ、今何かおかしくなかった?
 「さ、目が覚めたんなら、さっさと起きて身支度しなさい、亜梨子」
 え? 亜梨子? それが「わたし」の名前……だよね、うん。何、朝からボケてるんだろう。
 「おはようございます、お母さん」
 「はい、おはよう。もう朝ごはんできてるから早くしてね」
 「はーい!」
 まだちょっと眠かったけど、思いきってベッドから下りる。
 ──うーん、ちょっとだけベッドがきゅうくつな感じ。成長期だから背が伸びたのかなぁ。まぁ、別に手足を縮こめないと寝られないってわけじゃないから、まだいっか。
 うーんっと伸びをしてから、水色のパジャマのボタンを外して、昨日寝る前に勉強机の上に置いておいた白のキャミソールとイチコのワンポイントの入ったショーツに着替えることにした。
 「はぁ〜〜ぜんっぜん、おっきくなってない……」
 キャミソールごしに、いっこうにふくらむ気配のない胸を見てため息をつく。
 (いいもん、お母さんはそれなりにオッパイ大きいほうだから、わたしだって大人になったら、たぶん……うん、きっとだいじょうぶ)
 自分に言い聞かせながら、タンスから出したお気に入りのふだん着──青い長そでカットソーと茶色のキュロットスカートに着がえようとしたところで、ふと今日が何の日か気づいた。
 「あ! 「今日はクリスマスイブ」だよね!」
 毎年、イブの日は家族3人と優樹お兄ちゃん(ホントはお母さんの弟だから、私から見たらおじさんなんだけど、まだ若くてカッコいいから、そう呼んでるんだ♪)で、夕方からクリスマスパーティをするのが習慣になってる。
 そのこともあって、もっとオシャレな服にしようかなって考えたんだけど……。
 「まだ早いよね? 汚したらヤだし、お昼ごはん食べてからにしようっと」
 わたしは、最初の予定どおりカットソーとキュロットに着がえて、お兄ちゃんの来るころに合わせて着がえるつもりのワンピースをタンスから出して壁のフックにつるしておいた。
 「ありすー」
 「はーい、いまいくー!」
 1階から呼ぶお母さんの声に返事して、わたしはダイニングに下りて行った。
0363『テディベアブルース』(後編)2016/01/16(土) 19:16:35.60ID:CPp9Q2KK
 * * * 

 その日の立花家の様子は、本人たちから見れば、ごくありふれたクリスマスイブの一日だった。

 「ごちそうさまー」
 父親は出勤済みのため、母親に見守られながら、この家のひとり娘である“亜梨子”は、メープルシロップをたっぷりかけたホットケーキとミルクココアという朝食を美味しそうに平らげる。
 「はい、お粗末様。それじゃあ、亜梨子、歯を磨いてからでいいから、いつも通り自分の使った分の食器はキチンと洗ってね」
 母である亜由美は、「5年生なんだし、そろそろ家事のお手伝いもさせないと」と考えているようで、最近こんな風に食器洗いや簡単な料理の下作業などを手伝わせることが多い。
 「はーい」
 “亜梨子”自身も、「女の子なんだから、お料理とおさいほうくらいはできたほうがいいよね?」と肯定的にとらえているようで、文句も言わずにお手伝いに勤しんでいた。
 皿洗いが終わった後、自室に戻った亜梨子は、学習机に向かって冬休みの宿題を片付け始める。
 「『縦7センチ、横5センチ、高さ9センチの直方体の体積を求めなさい』──えーと、7×5×9だから……315立方センチ、でいいのかな?」
 飛び抜けた天才というわけではないものの、クラスで3番目くらいには入る優等生なので、特に詰まるところもなく、スラスラと問題を解いていく。
 「ありすー、そろそろお昼にしましょうか?」
 「ちょっとまってー、この問題といたらいくから!」
 正午を過ぎた頃、階下にいる母の呼び声を聞いて、解きかけの問題を終わらせ、今日の勉強はここまでとドリルや教科書を片付けて、“亜梨子”は1階に降りていった。
 「今夜はごちそうだから、お昼は軽めのものの方がいいわね」
 亜由美の意向で、今日の昼食はサンドイッチにするようだ。
 「亜梨子は、トマトとキュウリを切ってくれる? ……包丁、大丈夫?」
 「だいじょうぶだよ〜、このあいだ、家庭科の調理実習でサラダも作ったし」
 その言葉どおり、やや手つきがあぶなっかしいものの、特にケガやミスをすることもなく、“亜梨子”は無事に野菜を切り終えた。
 「ご苦労さま。じゃあ、今度はゆで卵の殻を剥いてちょうだい」
 「うん、わかった」
 どうやら野菜サンドと玉子サンドを作るようだ。
 その後も、自家製ドレッシングのつくり方や、ゆで卵を玉子サンドの具にするために刻んでマヨネーズと塩胡椒を混ぜるといった手順を母から教わりつつ、昼食であるサンドイッチが出来上がった。
 早速、母娘ふたりでランチにする。
 「んぐんぐ……ふぅ、ごちそうさま」
 「あら、亜梨子、それだけでいいの?」
 「うん、だって夜はクリスマスパーティだから、あんまりおなかいっぱいにしたくないし……」
 (あんまりおデブさんだと、お兄ちゃんにキラわれちゃうから)と、心の中で呟いてるあたり、幼くとも乙女というところか。
 「あらあら……まぁ、このくらいなら問題はないかしら」
 “娘”の心理などお見通しな亜由美は、クスリと笑いながらも、それ以上追及はしなかった。

 昼食のあとは、“亜梨子”は近所に住む友達の家に遊びに行き、別の友達も交えて3人で少女マンガを読んだり、トランプやUNOをして遊んだ。
 「え〜!? 知夏ちゃん、まだ『プリティーキュート』見てるの〜?」
 「い、いいじゃない、あたし、ああいう話が大好きなんだモン!」
 「5年生になっても『プリキュー』って……亜梨子ちゃんはどう思う?」
 「え? わ、わたしは……そのアニメのことはよく知らないけど、べつに人それぞれじゃないかなぁ」
 実は自分も家で『プリキュー』を見ているクセに、それを隠してどっちつかずの返事をしてしまう“亜梨子”だったが、友達ふたりは「さっすが、亜梨子ちゃん、オトナなはつげーん」と尊敬の目で見ている。
0364『テディベアブルース』(後編)2016/01/16(土) 19:17:14.46ID:CPp9Q2KK
 そんなこんなで、友達と楽しいひと時を過ごした後、4時過ぎに家に帰った“亜梨子”は、母親の手を借りつつ、朝用意しておいた服に着替えた。
 全体に薄い桃色で、紅いレース飾りとフリルが満載の、ドレスと言っても過言でないような長袖ロングスカートのワンピースは、“優樹お兄ちゃん”から先日贈られたもので、“亜梨子”自身も非常に気に入っているのだ。
 そのままだと少し寒いので、ハート模様の入った肩掛(ストール)を羽織り、足元には赤と臙脂と桜色で構成された格子柄のタイツを履いた。
 「せっすかくだから、髪の毛もいじってあげるわ。こっちに来なさい、亜梨子」
 母の部屋の化粧台前のストールに座ると、肩にかかるほどに伸びた焦茶色の髪をブラッシングされ、仕上げに紅白ツートンカラーの大きなリボンで髪を結わえられた。
 「ほら、できたわ。うーん、我が娘ながら、なかなかイイ感じじゃない?」
 促されるままに鏡の中をのぞき込むと、「いかにもクリスマスパーティ向きのおめかしをした可愛らしい女の子」が映っている。
 「ふわぁ〜〜わたしじゃないみたい。ありがとう、お母さん!」
 「ふふふ、お礼なら、そのお洋服を買ってくれた優樹に言いなさいね」
 「はーい」

 そして待つことおよそ30分。

 ──ピンポーン♪

 「こんにちは、姉さん、ご無沙汰してます。それに、アリスちゃんもこんにちは」
 いつものラフな格好と異なり、幾分トラッドなスーツを着た“武内優樹”が到着した。
 「あ、お兄ちゃんだ! いらっしゃいませー!」
 うれしそうに飛びつく“亜梨子”。
 「小学5年生の姪より数センチ小柄な青年」は、しかしながら「自分より大柄な女の子」を小揺るぎもせずに抱き止め、あろうことかそのまま抱き上げててクルクル回ってみせる。
 「キャア、お兄ちゃん、下ろしてー!」
 悲鳴をあげる“亜梨子”だが、言葉の割に嬉しそうな表情をしているので実は満更でもないのだろう。
 「いやぁ、ゴメンごめん、アリスちゃんが可愛らしいから、つい、ね」
 爽やかに笑いつつ、若き“叔父”は“姪”を床に下ろす。
 「もぅ、優樹お兄ちゃんったら……わたし、もう、子供じゃないんだからね!」
 「ああ、それは失礼。では、お詫びにというワケでもないけど──メリークリスマス! ミス・アリス、こちらをどうぞ」
 芝居がかったポーズで一礼すると、“優樹”は足元に置いた荷物から綺麗な緑と赤の包装紙でラッピングされた大きなプレゼントを“亜梨子”に手渡す。
 「ふぇっ!? あ、ありがとう。何だろコレ……開けてみてもいい?」
 半ばは叔父に、半ばは母に問いかけるような視線を向ける“亜梨子”。
 両者の肯定を得られたので、パリパリと慎重に包装紙を開いていく。
 「ぅわぁ、おっきなクマさんだぁ♪」
 中から現れた高さ1メートルはありそうな大きなテティベアのぬいぐるみに、“亜梨子”は歓声をあげて頬ずりする。
 「お兄ちゃん、ありがとう! 大好き♪」
 「ははっ、喜んでもらえたようで、ボクも嬉しいよ」
 優しく微笑む“叔父”の顔を見て、“亜梨子”は胸がキュンとなる。
 (あぁ、やっぱり、わたし、お兄ちゃんのことが好きなんだ……)
 それはファザコンというよりブラコンに近い感情なのだろう。
 また、この年代の女の子特有の「同級生の少年たちがガキっぽく見えて、大人の男性に惹かれる」傾向の発露だと言えるかもしれない。
 それでも、今この時、“亜梨子”が叔父であるはずの“優樹”を異性として意識し、LIKEではなくLOVEよりの好意を抱いていることも間違いない事実であった。
0365『テディベアブルース』(後編)2016/01/16(土) 19:18:13.46ID:CPp9Q2KK
 * * * 

 「はぁ〜、今日は楽しかったなぁ」
 9時ごろにパーティが終わってからも、なんだかんだ言って起きてたんだけど、11時になって、「さすがにこれ以上おそくまで小学生が起きてるのはよくないって言われたから、仕方なくわたしはベッドに入っていた。
 「優樹お兄ちゃんからステキなプレゼントがもらえたし、お兄ちゃんにドレス姿がかわいいってほめてもらえたし♪」
 しかも、遅くなったから今夜はお兄ちゃんはウチに泊まるんだって!
 明日の朝もお兄ちゃんに会えるというのが楽しみでしかたない。
 ──うん、わかってる。わたしだって、もうちっちゃな子じゃないもの。
 お兄ちゃんがホントは叔父さんで、わたしは、どんなにがんばってもお兄ちゃんの恋人やおヨメさんにはなれないってことも。
 (でも……せめてお兄ちゃんに「そういう人」ができるまでは、妹分の立場で甘えててもいいよね?)
 わたしは自分にそう言いわけしながら、さびしい気持ちをふりはらって、ギュッと目を閉じて眠りついた。

 * * * 

 そして、12月25日の朝。
 「ふぅ、どうやら巧くいったみたいね」
 朝食の席で、寝床から起きてきた娘と弟の様子をうかがいつつ、立花亜由美はホッと安堵の溜息をついていた。

 昨晩、旧友の“魔女”に依頼して作成してもらった魔法陣を利用して、亜由美は、「ふたりの立場が入れ替わった状況を夢で見せる魔法」を亜梨子と優樹にかけて、互いの気持ちを実感させたのだ。
 この魔法の秀逸な点は、夢でありながら記憶が明確に被術者に残る──のみならず、現実の状況にも一部が反映される点だろう。
 その証拠に、昨日自宅に帰ったはずの優樹が、今朝は立花家の客間から出て来たし、応接間に飾られていたはずのクマのぬいぐるみは、今朝、娘を起こしに部屋に行くと、娘がしっかり抱いて寝ていたのだから。
 朝食の席でのふたりの仲睦まじい様子からも、両者が互いを想う気持ちを再確認したことは間違いなさそうだ。
 無論、亜梨子が優樹に抱いている複雑な思慕の情には、亜由美としても思うところがないではない。
 しかし、今のままなら「ちょっとブラコン気味なおマセな小学生の片思い」だし、さしたる問題はあるまい。成長するにつれ兄(叔父)ばなれして、誰かいい人を見つけてくれるだろうし……。
 (万が一、数年後も本気で、両想いになっても、実は絶対アウトってワケでもないのよね〜)
 本人も知らないが、実は優樹は亜由美の父の再婚相手の連れ子なので、直接的な血縁はないからだ。
 無論、周囲の目やなんやかやで色々難しい状況であることは間違いないが、法的にはギリギリセーフというのも事実だ。
 (ま、亜梨子もまだ11歳だし、あと5年はそういう心配するのも無粋かしら)
 内心で肩をすくめつつ、亜由美はにこやかにふたり──娘と義弟に「ミルクティーのお替りいる?」と尋ねるのだった。

 ──しかし、彼女は知らない。
 旧友の魔女とその娘が、昨晩自宅で交わしたこんな会話を。

 「あら……ねぇ、お母さん、先ほど立花のおば様に送られたこの術式の此処、ほら、持続時間の部分が“一晩”じゃなくて“一年”になってます」
 「え!? あ、ホントだぁ! はぁ、ウッカリしてたわね。ま、痩せても枯れても、あの子も魔女のハシクレ。魔法解除くらいは自分でできるでしょうし、何か問題があれば連絡がくるでしょ」
 「お母さんがそう言うなら、それで構いませんけど……」

-おしまい-
03663652016/01/16(土) 19:19:21.95ID:CPp9Q2KK
#今回はサクッと〆ました。最後でわかる通り、実はクリスマスの朝も、ふたりの立場は交換されたままです。
0368K2016/01/18(月) 22:25:25.86ID:MTYIDnCK
自分で自分のSSをどうこういうのもアレなのですが、
私も『懲立場三年』は気に入ってる作品です。
そのほかだと、『看護婦しちゃうぞ』『ラストクリスマスイヴ』
『名札はキチンと付けましょう』『泳げ、チハヤちゃん!!』あたり。
逆に、出だしはそこそこイイ感じだったのに、色々考えすぎて
続きが書けなくなった『厄違え』『ポニーテールは伊達じゃない!』
は残念無念。
0369名無しさん@ピンキー2016/01/22(金) 03:19:04.42ID:31Nl42W7
そろそろ三十路に手が届きそうな喪女が
中学入ったばかりのショタなり、
無駄に煩悩に溢れてる男子高校生なりと立場交換して、
青春&性春を謳歌する話とか読みたい気がする。
──ここで、そういう系の話ってあったっけ?
0371名無しさん@ピンキー2016/01/25(月) 19:02:00.57ID:Cl3OmAPI
「子供の頃よく遊んでいた山にもう一度登りたい」という願いを聞き入れた神様の力で
男子高校生ぐらいの孫とそのおばあちゃんがしばらく立場交換することに
孫の立場になったおばあちゃんは念願を叶え、戻るまでの間にやりたかったことを全部やる
おばあちゃんの立場になった孫はおばあちゃんの苦労を知り、戻った後もおばあちゃんに優しくなる

映画とかでありそう
0372名無しさん@ピンキー2016/01/25(月) 19:28:01.03ID:lrWTJ0YA
立場交換で身体能力や外見も交換されるの厳密に考えたらグレーゾーンな気がするけど、どうなんだろうか。
0373名無しさん@ピンキー2016/01/26(火) 00:34:53.36ID:0NzkjwIw
>372
「立場」がどの範囲まで指すかじゃないかなぁ。
小学生の立場になったら、小学生並の知能や体力になるのって、
割とこのスレではポピュラーな気がする。
容姿に関しては確かにグレーゾーン。
自分としては、髪型と日焼け具合、場合によっては筋肉の付き方
ぐらいまではセーフだという気がするけど、
「いいや、キッチリ元のままでいるべきだ」と主張する人がいても
それはそれで正しい気もする。
0374名無しさん@ピンキー2016/01/31(日) 02:29:26.51ID:jPIwxc4F
>>373
どこのスレでもそうだけど「範囲」ってのはどうしても個人の好みの問題だからなぁ
厳密にこれは○でこれは×ってすると書き手の萎縮とかでこのスレ自体が貧しくなるからできるだけ寛容でありたいね
0375名無しさん@ピンキー2016/02/03(水) 23:35:28.81ID:M1xZFvNr
kの人は性別まで交換する派だけど、スレの趣旨と違うから性別交換するシーンだけ自サイトやpixivだけで公開するんだよね。
0377名無しさん@ピンキー2016/02/06(土) 09:36:26.88ID:sCgcxGxZ
>376
自意識過剰でなければ、私ことKCAのことかと。
質はともかく、一応、このスレではかなりの数と量のSSを投下させてもらってます。
0378名無しさん@ピンキー2016/02/10(水) 20:39:03.81ID:wrJvuMjt
集団の立場交換ってあまり無い希ガス
高校生の一クラスと小学生の一クラスが集団で立場交換とか

あと年の差立場交換も少ないような
幼い男の子と大人のお姉さん(大学生〜結婚目前のアラサー)の立場交換とか
0379名無しさん@ピンキー2016/02/11(木) 08:24:51.79ID:g6o4y0KA
少ないから何なんだ?
0381名無しさん@ピンキー2016/02/12(金) 00:14:58.62ID:vAmbunOY
遠回しに要望出すくらいならこんなの読みたい!て書けばいいのに
少ない理由なんて、需要がないか、書き手的に萌えないか、描写が大変かのどれかだろ
0382名無しさん@ピンキー2016/02/12(金) 00:35:20.18ID:BcpIU+OC
需要が無いんだろ

|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
 || ○荒らしは放置が一番キライ。荒らしは常に誰かの反応を待っています。
 || ○重複スレには誘導リンクを貼って放置。ウザイと思ったらそのまま放置。
 || ○放置された荒らしは煽りや自作自演であなたのレスを誘います。
 ||  ノセられてレスしたらその時点であなたの負け。
 || ○反撃は荒らしの滋養にして栄養であり最も喜ぶことです。荒らしにエサを
 ||  与えないで下さい。                  Λ_Λ
 || ○枯死するまで孤独に暴れさせておいて   \ (゚ー゚*) キホン。
 ||  ゴミが溜まったら削除が一番です。       ⊂⊂ |
 ||___ ∧ ∧__∧ ∧__ ∧ ∧_      | ̄ ̄ ̄ ̄|
      (  ∧ ∧__ (   ∧ ∧__(   ∧ ∧     ̄ ̄ ̄
    〜(_(  ∧ ∧_ (  ∧ ∧_ (  ∧ ∧  は〜い、先生。
      〜(_(   ,,)〜(_(   ,,)〜(_(   ,,)
        〜(___ノ  〜(___ノ   〜(___ノ
0384名無しさん@ピンキー2016/02/17(水) 01:46:36.66ID:KK2XxBo1
訪問販売のセールスマン(♂)が、顧客の主婦に勧めた商品(美容関連とか?)を
「あなたが自分で試して証明してみてよ」
と言われて、しばらく立場交換される……なんてどうだろう。
1ヵ月ほど主婦業やって、ようやく元の立場に戻してもらえた
……と思ったら、次のお客様のところでも同様のコトをされてしまう、とか。
0385名無しさん@ピンキー2016/02/26(金) 00:15:51.23ID:aooTarIJ
子育てに悩む母親が、男の子の気持ちを知りたいと、息子の親友と立場を入れ換える。
男の子として一緒に外で遊んだり、女の子にイタズラしたりしているうちに
楽しくなってきて、最初は2〜3日で戻るつもりがズルズルと…
0386名無しさん@ピンキー2016/03/01(火) 01:22:06.68ID:OoSALuAc
夜の繁華街で遊んでるギャル系女子高生たちを補導しに来た
真面目な若手の男性教諭が、言葉巧みに丸め込まれ「一曲だけ
歌ったら帰るから」という約束でカラオケに参加することに。
教師は、特にオツムのカルい子とデュエットするのだが、
歌っているうちに、なぜか男声パートではなく女声パートの
方を歌うようになってしまう。
フルコーラス歌い終わった時には、男性教諭は先ほどまでの
デュエットの相方の娘の格好(服装・化粧・髪型)になり、
男性教諭の格好をした女子高生に
 「さ、もう気が済んだだろ。早く家に帰りなさい」と
諭されて、その女子高生の家に帰ることになってしまう。
“家”では、“両親”も“弟”も、彼のことを、当たり前の
ように、その家の娘として扱ってくる。
混乱する男性教諭だったが……。
 ──数日後、すっかり今の立場に順応して、ギャル友達と
遊びほうけている(元)男性教諭の姿が、繁華街で目撃される
のだった……とか。
0387名無しさん@ピンキー2016/03/02(水) 22:31:58.41ID:YvHKbDCY
ギャル化する男性教諭いいな。
最初は男としての自覚を保ってたんだけど、
ギャルとして生活する内に、
徐々に性格や知識やアイデンティティも変化していって欲しい。

妻子持ちで浮気ひとつしたことがなかったのに、
男遊びが激しいビッチな性格になってしまったり、
いままで自分が担当してた教科の問題が全く解けなくなって赤点取った挙句、
男性教諭の立場になったギャルのもとで、追試を受けさせられたり。

頭も性格も軽くなってしまったから自分の変化を深刻に考えられずに、
結局そのまま卒業してしまって、
ずっとお馬鹿な女の子としての人生を生きることになって欲しい。
0389艦これ系SSもどき2016/03/06(日) 18:52:41.59ID:aCONWord
※突発的に思いついた似非艦これ系立場変化SSです。諸々の設定を都合よく改変・解釈していますが、笑って許せる方のみお読みください。

『時ナラヌ雨ニフラレテ』

 それは、まさに「魔が差した」から、としか言いようがなかった。

 中学卒業と同時に適性(どうやって調べたのか不明だが)を認められて、海軍にスカウトされた彼は、そこで“提督”と呼ばれる役職に就くことになる。
 ただし、一般的な“艦隊の司令官”という意味ではない。いや、ある意味それで正しいのだが……彼が指揮するのは、女性(ひと)の姿と心を持ちて深海棲艦(ばけもの)と戦う艦娘(もの)達なのだ。
 艦娘とは、非常に希少な適性を持つ者(その殆どが10〜18歳くらいの若い女性だ)が、ある種の“改造手術”を受けることによって“霊的な兵器”である艤装とリンク可能になり、人類の天敵にして“実体化した怨念”ともいうべき深海棲艦と戦う力を得た存在だ。
 いくつかの事情から、その艦娘を指揮する提督にもある種の資質、適性が存在し、それを持つ者は決して多くはない。
 そのため、彼のように義務教育を終えたばかりの若僧と呼ばれても否定できない年代の少年でさえ、海軍では佐官に相当する階級を与えられ、複数の艦娘を指揮する立場に立たされるのである。

 そして、深海棲艦と戦える力を得たからと言って、艦娘の戦いは決して楽なものではない。
 艦娘は、現代科学と古代から受け継がれた陰陽術の粋を結集して作られた施設のサポートにより、瀕死の状態からでも僅か半日で回復できる。
 しかし、だとしても──いや、だからこそ、相次ぐ戦闘によって心身を消耗し、心が折れてしまう艦娘もそれなりの数いるのだ。
 今日の昼、彼が見送った駆逐艦娘の“時雨”もそんな「戦えなくなった艦娘」のひとりだった。
 なまじ穏やかで思いやり深く忍耐強い性格だったせいか、彼女はストレスからくる異常(ゆがみ)を“壊れる”寸前まで隠しぬき──結果、取り返しのつかないほどの心の傷を背負うことになった。
 「僕もここまでかな」
 擬装を展開するだけで身体が震え、足腰が立たなくなるほどのPTSDを(周囲から見れば)唐突に発症した彼女は、精密検査の結果、艦娘を退役し、一般人に戻ることになったのだ。
 「提督……さよなら。顔を合わせると辛くなるから、みんなには、キミの口から伝えておいてくれるかな?」
 「ああ、もちろん──そんなになるまで気が付かなくて、ごめん、時雨」
 「あはっ、僕はもう“時雨”じゃないよ。ボクの名前はね……」
 自分の本名を彼の耳元でささやき、憂い帯びた微笑を見せると、そのまま執務室を出て行く時雨“だった”娘。
 そしてそれきり、彼は彼女と再び顔を合わせることはなかった。
0390『時ナラヌ雨ニフラレテ』2016/03/06(日) 18:53:14.72ID:aCONWord
 そこまでは、ありふれた……とはいかないまでも、艦娘たちが集う鎮守府では、ままある話だ。
 ただ、このケースに限れば、気の毒なことにこの提督は(口にこそ出さなかったが)密かに時雨のことを異性として意識──端的に言うと“惚れて”おり、そしてその想いが叶う可能性は、ほぼ0に近くなったのだ。
 いかに総勢20人以上の艦娘を指揮する提督とは言え、素顔の彼はまだ16歳になったばかりの未熟な少年なのだ。
 時雨とは彼がこの鎮守府に着任した時、最初に秘書艦として選んで以来のつきあいで、その彼女が戦線を離脱したことは、少なからぬショックを彼に与えていた。

 だからだろうか。
 彼が、本来は廃棄処分にするべき時雨の擬装や制服をこっそり隠匿し、執務室に持ち帰ってしまったのは。

 「時雨……しぐれぇ〜」
 時刻は、午後8時。時雨の後任の秘書艦を未だ決めておらず、そのために自分以外は誰もいない執務室。
 その一角に設置された仮眠用ベッドのうえで、彼はきちんと折りたたまれた時雨の制服(セーラー服?)を抱きしめて、その匂いに包まれながら、泣きそうな表情で呻いていた。
まぁ、ここまでなら──少々フェチが入っているとは言え、同情できない話でもない。
 駆逐艦娘の多くは10歳からせいぜい12、3歳くらいの容姿のものが多いのだが、時雨の属する“白露型”はそれに比べると大人びており、おおよそ15、6歳くらいの年頃に見える。
 彼も提督であると同時にひとりの若き少年であり、(秘書艦として)もっとも身近にいた、愛らしくもけなげで優しい同年代の娘に対して、純粋な慕情に加えて性的な関心をまったく向けなかったとは言い難い。
 密かな想いの対象が(身近から)失われたことで、彼がその想いを“こじらせて”しまうのも、ある意味、無理もない話だろう。

 だが、それだけでは満足できなかったのか──提督は、いきなり海軍将校用の士官服を下着ごと脱ぎ捨てると……手元にある時雨の制服を身に着け始めたのだ!
 これは完全にOUTだろう。
 いや、世間的な良識や常識を脇に置くとしても、パッと見、ただの女学生の制服のように見えたとしても、艦娘達がまとうその衣装は特別な“処置”が施してあり、艦娘以外の者が纏うことは禁じられているのだ。
 この鎮守府の責任者である提督として、その事は彼もよく知っているはずだが、この時の彼はいささか正気を失っていた。
 あるいは、失われた自身の愛する時雨という艦娘の衣装を身に着けることで、彼女と同一化したかったのかもしれない。
 黒に近い濃紺を基調に白いセーラーカラーと袖口の折り返しがついた半袖の上着を頭からかぶり、袖を通してから左脇のファスナーを下げる。
 同じく左脇開きのプリーツスカートを履き、ホックとファスナーを閉める。
 ほんの僅かにためらった後、制服とともに残されていた白い飾り気のないショーツにも足を通して引き上げ、スカートの中でモソモソとナニの位置を調整する。
 ベッドに腰かけて黒のスクールソックスっぽい靴下と茶色い革のローファ履き、どこぞの水先案内人のごとく右手にだけ指無し手袋をはめ、最後に胸元に深紅のスカーフを結ぶと立ち上がる。
 ためらいと緊張が半々にミックスされた心持ちで、秘書艦のために執務室の隅に設置された鏡の前まで歩み寄ると、意を決して覗き込む。
 そこには──“時雨に似たナニカ”の姿が映し出されていた。
 顔だちはやはり彼本来のものだし、髪も男にしてはやや長い方だが、後ろ髪をまとめて三つ編みにしていた時雨ほどではない。
 しかし、雰囲気や気配とでもいうのだろうか、全体のたたずまいは不思議と時雨と酷似しており、想いの行く先を失った彼の心を大いに慰めてくれた。
 さらに奇妙なことに、彼が着ている時雨の衣装は初めてそれを着た(当たり前だが)とは思えぬほど彼の身体に馴染んでいた。
 確かに、この提督は同世代の少年たちと比べて背が高いほうではない。時雨との身長差は2、3センチといったところだろうが、それでも男と女の間では、明確に骨格その他に違いがあるはずなのだが……。
 あるいは、“特別製”である艦娘の衣装の方が、着用者の体のラインに沿うような構造(しくみ)になっているのかもしれない。
 もっとも、その時の彼の脳裏にはそんな冷静な考察など浮かばず、ひたすら鏡に映る自分の姿──を通して、在りし日の時雨のことに思いを馳せていた。
0391『時ナラヌ雨ニフラレテ』2016/03/06(日) 18:54:24.53ID:aCONWord
 「ボクは白露型駆逐艦、「時雨」。これからよろしくね、提督♪」
 その挙句、鏡の前でひとり芝居を始めてしまう。

 「ボクに興味があるの? いいよ、なんでも聞いてよ♪」
 「この勝利、ボクの力なんて些細なものさ。この雨と…そう、提督のおかげだよ♪」
 かつて本物の時雨がこの執務室で口にした言葉を、寸分違わず(しかし、いささか“提督”への情愛込めて)再現する“時雨”だったが……。

 ──バタンッ!

 「夕立ったら、結構頑張ったっぽい! 提督さん、褒めて褒めて〜」
 いきなり執務室のドアが開いたかと思うと、第二艦隊の旗艦として遠征に行っていたはずの夕立──時雨と同じく白露型の駆逐艦娘で、時雨のもっとも親しい友人かつ寮で同室でもあった少女が飛び込んできたのだ!

 「! こ、これは、その……」
 自己憐憫と自己陶酔(?)に浸っていた彼も、さすがに我に返ってしどろもどろになったのだが……。

 「あ〜、時雨ってば、元気になったっぽい? 良かった〜!」
 夕立は、満面の笑顔になって彼──いや、“時雨”に飛びついてきたのだ。

 「へっ!?」
 「いきなり倒れたって聞いてたから、心配してたのよ。大丈夫? 痛いところとかない?」
 「あ、うん、特には……」
 曖昧に頷きつつ、どうやら夕立は、自分のことを本物の時雨と勘違いしているらしいと悟る“時雨”。
 (親友でいつも寝起きしていた同居人の顔を見間違えるなんて……うっかりとかドジっ子ってレベルじゃないよ、夕立)
 心の中で呆れつつも、ひとまずバレなかったことに安堵する。

 「あ、そうだ! 時雨、提督さん、どこにいるか知らない? 夕立、旗艦だから報告しないと」
 そうだった。ちょっと(?)抜けてるところがあるとは言え、この子もこの鎮守府では比較的古株に属する艦娘で、任務に対するモチベーションと責任感は結構高いのだ。

 「え、あ、いや、その……て、提督は、今ちょっと外部に出かけてるんだ。遅くなるかもしれないって言ってたから、報告は秘書艦のボクが聞いておくよ」
 時雨の口調を思い出しつつ、それらしいことを言って、このまま無難にやり過ごそうとしたのだが……。

 「第三艦隊戻ったわ。作戦終了みたいよ〜?」
 「第四艦隊、艦隊帰投、なのねー」

 運が悪いことは重なるもので、他の遠征組の旗艦である龍田と伊19までもが帰投の報告のために執務室に入って来た。
 万事休すかと、覚悟を決める“時雨”。しかし……。

 「あら〜、時雨ちゃん。もうお身体のほうはいいの?」
 「思ったより元気そうなの」
 このふたりも、“時雨”のことを本物と疑っていないようだ。
 (夕立以上におポンチなイクはともかく、龍田はしっかり者だと思ってたのになぁ……)
 心の中で溜息をつきつつも、好都合なのでその誤解を利用する。

 「う、うん。精神的な消耗からくる衰弱が主な原因なんだって。しばらく出撃を控えれば、すぐに元に戻れるらしいよ」

 “時雨”の言葉を聞いて喜ぶ3人の姿に、二重の意味で騙している“時雨”は後ろめたくなったが、もう遅い。
0392『時ナラヌ雨ニフラレテ』2016/03/06(日) 18:55:41.73ID:aCONWord
 とりあえず、「不在の提督に代わって書類などの処理をする」という口実で、執務室に残ろうとしたのだが……。
 「時雨は病み上がりなんだから、無理したらいけないっぽい!」
 という夕立の意見には逆らえず、そのまま皆と少し遅めの夕食を摂ることになってしまった。
 3人と共に赴いた食堂でも、会う艦娘たちがことごとく時雨のことを気遣ってくれる。
 秘書艦として顔が広いのは知っていたが、時雨がこの鎮守府の艦娘たちにここまでの交友を築いているとは“時雨”は目からウロコが落ちる思いだった。
 と同時に、なおさら本物の時雨がいなくなったことを言い出しにくくなる──そう、ここに至るまで、“彼女”が本物の時雨ではないと見抜いた艦娘はひとりもいないのだ。

 「あ、時雨さん、昨日倒れたと聞いて心配していたんですよ。食欲の方はどうですか?」
 給糧艦娘として食堂を切り盛りしている間宮にも、その助手の伊良湖にも、完全に時雨として対応される。
 「う、うん、もう平気だよ」
 「そうですか……それじゃあ、“いつもの”ご用意しますね」
 そうして渡された夕飯用のトレーには、市井の大衆食堂の定食の2倍近いボリュームの食事が並んでいる。
 (こ、これをいつもの時雨は食べてたのか……食べきれるかなぁ)
 顔には出さないよう努めたものの、内心ではそんな呟きを漏らしている。
 ところが、夕立や執務室から一緒だった龍田やイクたちと歓談しながら食事を摂っていると、不思議と満腹にならず、コメのひと粒も残さキレイに平らげることができた。

 「それじゃあ、時雨、部屋に戻ろ」
 そうなると、龍田たちと別れたあと、同室の夕立がそう言いだすのは、至極当然な流れなわけで、“時雨”としてはどうやって断ろうかと必死に頭を回転させていたのだが……。
 「あ、そういえば、時雨、擬装を提督さんのトコに置いてきたっぽい?」
 「! そ、そうなんだよ。だから、取って来ないと……」
 「ふーん。じゃあ、夕立もいっしょに行くっぽい」
 (ですよねー)
 心の中で溜息をつきつつ、もうどうにでもなれとばかりに執務室へ向かう。
 執務室の入り口の脇、“本物”の時雨が秘書業務の妨げにならぬよう外した擬装を置いていた場所に、「いつもの如く」時雨用の擬装は置かれていた。
 それだけ見ると、まるで今も時雨が鎮守府に、この執務室にいるような錯覚を覚える。
 「あったあった。さ、時雨、着けて着けて」
 “彼女”の感慨など知らぬ夕立が、あっさりと擬装を持ちあげて、“時雨”に装着させようとする。
 「い、いや、それは……」
 さすがにあの重い擬装一式を装備すれば、ただの(しかも同世代の平均よりやや小柄な)少年でしかない彼は、ロクに動けなくなるだろう。
 昼間隠匿した擬装を運ぶ際も、こっそりカートに積み込んで何とか運ぶことができたくらいなのだ。
 体調不良を理由に断ろうと思いついたときには、“時雨”は偽装の中でも一番大きく、ガンキ●ノンなどと呼ぶ者もいる背部装甲&砲塔を、夕立の手で背負わされていた。
 「!」
 ズシリと肩に食い込む重みを覚悟していた“時雨”の予想に反して、意外なほどその鋼鉄の擬装は軽かった。体感的には、小学生時代に背負っていたランドセルと大差ない。
 (え!? な、なんで……)
 思考をまとめる前に、両足の太腿にも魚雷発射管のベルトが巻かれる。こちらも大きさからして相当な重さのはずなのに、それほど負担に感じなかった。
 「これで全部っぽい? じゃあ、お部屋に戻ろ」
 「う、うん……」
 思いがけない事態に「なぜ?」と気を取られて上の空の“時雨”は、夕立に手を引かれるまま、執務室を出ると駆逐艦寮の方へと歩き出す。
 寮の一室に着いた際は、無意識に擬装を外して床に置く。戦艦寮や空母寮とことなり、駆逐艦寮の部屋はあまり広くないので、艦娘たちは自室では擬装を外すのが暗黙の了解となっているからだ。
 白い作務衣のような寝間着に着替えた夕立が、二段ベッドの上の寝台に上がって「おやすみ〜」と言ってくるのに、反射的に「お休み、よい夢を……」と返した後、ようやく“時雨”は我に返った。
0393『時ナラヌ雨ニフラレテ』2016/03/06(日) 18:56:11.69ID:aCONWord
 「あ、ここは……」
 無論、言うまでもなく駆逐艦寮の時雨(と夕立)の部屋だ。
 本来であれば、夕立が眠ったのを見計らって部屋を出て、そのまま執務室に戻って、時雨の制服を脱ぐべきだったろう。
 しかし、目の前に“本物”が昨日まで寝ていたベッドがあり、今ならそこにダイブしても誰にも責められず、そのまま眠りにつくことができる──という誘惑は、あまりに魅力的だった。
 ほんの僅かな躊躇の後、“時雨”はローファーを脱いでからベッドに入り、薄い綿布団の上下の間に潜り込む。
 想い焦がれていた少女の匂いに包まれながら、不思議とリラックスした気分になった“時雨”は、そのまま抗うことなく睡魔の手に身を委ねるのだった。

  * * *

 夢を見た。
 その夢の中で、自分は一隻の軍艦だった。
 数多の軍人達を載せ、さまざまな海の戦場を航行(かけ)る。
 そのほとんどが激戦であり、“同僚”の艦(ふね)の多くが傷つき、沈んでいく。
 そんな過酷な状況の中でも、“彼女”は10年間にもわたって生き残り、幸運艦と呼ばれるようになっていく。
 けれど、それは裏を返せば、10年間仲間の死を見つめ続けたということ。
 比叡、萩風、嵐、雲龍、西村艦隊での扶桑、山城、最上、満潮、山雲、朝雲、そして姉妹艦である江風や春雨、白露、五月雨の最期の場にも、“彼女”は居合わせているのだ。
 最後の、そして最期となった任務の際、敵の雷撃を受けて沈む際に“彼女”の胸に浮かんだのは、悔しさと同時に、「これでやっとみんなのところに逝ける」という奇妙な安堵でもあったのだ。

 だからこそ、艦娘という形でこの世に再び再臨した時、“彼女”は、今度こそ仲間のすべてを、自分の力の及ぶ限り守りたいという強い決意を抱いていた。
 その願いが“素体”となった娘にいささか負担を強いていたという面も、否定はできない。
 時雨とはそういう艦であり、時雨の名を関する艦娘になるというのは、その想いを背負って戦うということなのだということが、本能的に理解できた。

 『──君に、その覚悟があるかな?』

 何処からか聞こえてくる“声”に対して、コクンと首を縦に振って肯定の意を示す。

 『──ならば受け継いでほしい。僕の力と想いを……』

 まばゆい光に包まれ、自分の存在が変貌していくのがわかるが、あえてそれに逆らわず、彼はそれを受け入れた。

  * * * 

 翌朝午前6時、目を覚ました“時雨”は、「いつものように」まだ寝ている夕立を起こさないよう気をつけながら、「手慣れた仕草で」擬装をフル装備してから「恒例の朝練」へと出かけていった。
 鎮守府の周囲を軽く3周ほどジョギングした後、龍田の姉妹艦である軽巡娘・天龍が中心になって主催している、駆逐艦向けの海上自主訓練に参加する。
 「──行くよ!」
 レースゲームのパイロンの如く一定間隔で浮かべられたブイの間を、高速で蛇行してすり抜けていく。
 自分が当たり前のように水の上に浮いていることについても、背中から下ろして両手に持った主砲を自在に扱えることにも、もはや“時雨”は驚かなかった。

 7時過ぎになって自主練が終わると、今度は寮の部屋にとって返し、まだベッドの中で惰眠をむさぼっている夕立を起こす。
 夕立が寝間着から着替えるのと背中合わせに、自らも海水で濡れた制服の上下を脱ぎ、タンスから出した替えの制服へと着替える。
 連れ立って食堂に行き、伊良湖から“いつもの朝メニュー”を受け取ると、夕立や周囲にいる「顔なじみの艦娘たち」と雑談しつつ、お行儀よく──けれども健啖な食欲を見せて平らげる。

 「じゃあ、僕は秘書艦の仕事があるから。夕立は?」
 「夕立は、今日はお休みっぽい。時雨、お昼はどうするの?」
 「仕事の進み具合次第だね。僕のことは気にせず、食べてよ」
 そんな会話を交わした後、提督の執務室へと向かい、笑顔でドアを開ける“時雨”。
 「おはようございます、提督♪」
0394『時ナラヌ雨ニフラレテ』2016/03/06(日) 18:56:49.57ID:aCONWord
 けれど、誰もいない提督の執務机を見た瞬間、“彼女”は思い出す──自分が本当は何者なのかを。
 「ぅ、ぁ……な、なんで……どうして……」
 頭を押さえてうずまる“時雨”に落ち着いた声がかけられた。
 「──苦しそうですね、時雨さん」
 俯いていた姿勢から顔を上げると、そこには大淀と明石、ふたりの司令部付艦娘が立っていた。
 「……しぐ、れ……ち、ちがう、ぼくは……」
 「いいえ、アナタは時雨──白露型駆逐艦娘の次女の時雨さんです。ほら」
 明石が差し出した手鏡に映る顔は、確かに長年見慣れた自分の顔……のはずだが、何かが違った。
 「……目が……碧い?」
 南の海を思わせる鮮やかなコバルトブルーの瞳が、鏡の中から自分を見つめ返している。
 「ほら、“艦娘と言えども女の子”なんですから、身だしなみには気を使いませんと」
 背後から歩み寄った大淀が、優しい手つきで「背中まで伸びた後ろ髪」を緩い三つ編みにして、先端付近を紅いリボンで結わえてくれる。
 碧眼と三つ編み、その特徴を持った艦娘を“彼女”はよく知っていた。
 「──しぐれ」
 その名前を口にした瞬間、朦朧としていた意識がたちまちクリアーになる。
 「そう、僕の名前は時雨」
 そうだ、自分は「白露型駆逐艦2番艦の艦娘・時雨」だ!

 「ちゃんと“思い出し”ましたか、時雨さん?」
 「うん、ありがとう、明石、大淀。どうやら、まだちょっと寝ぼけてたみたいだ。疲れがたまっているのかな」
 「ここのところ激戦が続きましたから無理もないですよ。特に時雨さんは、秘書艦との兼任ですし」
 「擬装とかの修理なら私がばっちり直してあげるけど、時雨本人はそうもいかないんだから、気を付けてね」
 「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
 先ほどまでの苦悶が嘘のようにスッキリした顔つきで、時雨はふたりの艦娘と笑顔で会話する。
 「あ、そういえば、提督は今日から半月間、海軍本部の方へ出張なさっているそうですよ」
 「え……そう、なんだ……」
 あからさまに落胆した表情になる時雨を、ニヤリと笑って明石がからかう。
 「おやおや、愛しの提督さんと離れ離れになるのが、そんなに寂しのかな?」
 「! も、もぅ、からかわないでよ」
 顔を真っ赤にして身をひるがえすと、秘書艦の定位置である執務机横のサブデスクにつく時雨。
 「ほら、ふたりとも、提督が不在でも仕事はたくさんあるんだからね!」
 「はいはい、仰せのままに秘書艦殿」
 「あはは、初々しいですね〜」

 ──その後、この鎮守府に於いて時雨は、優秀な秘書艦にして駆逐艦娘のエースとして活躍し、“提督”からケッコンカッコカリを申し込まれることになるのだが……それはまた別のお話。
0395『時ナラヌ雨ニフラレテ』2016/03/06(日) 18:59:29.88ID:aCONWord
<オマケ>
 「明石、これで良かったんでしょうか?」
 「最善とは言えないだろうけど──でも、あのままじゃあ、ウチの鎮守府は有能な秘書艦にして第一艦隊の旗艦と前途ある提督の両方を失っていた公算が強いわ」
 深夜、執務室の隣にこしらえられた明石の工作室兼備品購入店で、部屋の主である明石とその同僚の大淀が密談している。
 「深海棲艦の攻撃が激化している今、できればそれは避けたい……というのが本部の意向よ」
 「もしかして、退役した時雨さんの装備類を提督が簡単に手に入れられたのも……」
 「ええ、賭けだったけどね。提督がアレに手を出すか、出したうえでソレが適合するか──本部の分析では、彼が“そう”なる確率は決して低くなかったらしいけど」
 今のあの時雨は、“以前”の時雨の艦娘としての能力と記憶をそのまま引き継いでいるのだから、海軍本部の“賭け”は成功したと言えるだろう。
 指令系統に関しては、もうすぐこの鎮守府に新たな提督が送り込まれてくる予定となっている。
 「それにしても、あの“時雨”さん、髪型や目の色はともかく、身体そのものは元の提督のままなんですよね? どうして、夕立さんを始め、誰も気づかないんでしょう」
 「ああ、それね。そもそも艦娘は同じ艦娘を、容姿じゃなくその身に宿った“軍艦としての魂”で識別している割合が大きいのよ。そして、“あの”時雨の装備は間違いなく“以前”のものと同じだからね」
 「だから、事情を知っている私たちでも、意識しないと気が付かないんですね」
 「それに、今はまだ外見は元の男性のままだけど、この先、擬装との適合が進めば……いえ、なんでもないわ」
 「なるほど。聞かなかったことにします」

-おしまい-

※書く前に予想していたのと斜め上な方向に進んでしまった。
 ちなみに、このあと新任の“提督”として赴任してくるのは、艦娘ではなく別の形で戦いを支えることを決意したあの子……だったりすると、妄想がはかどるかも。ある意味、「立場交換」だし。
0397名無しさん@ピンキー2016/03/23(水) 23:59:03.75ID:05j+1Vwj
「立場泥棒」というネタを考えてみた。
332と似てるけど、泥棒の手段として立場交換能力を使うんじゃなくて
「立場交換」そのものが目的。
ある日、自分と手を繋いだ相手の立場を交換する能力を得た主人公。
最初は自分が好きなように気ままに立場交換してたが、
その内、「コレはビジネスになるんじゃないか」とおもいつく。
いったん自分を介することで、A←→Bの立場交換もできるからだ。
娘を恋人を気に食わない父親が、娘の立場になって娘の恋人と会って
手ひどくフッたり、
勉強嫌いな少年の家庭教師(♀)が彼の立場になって高校受験したり、
泳げない小学生の妹のピンチヒッターとして中学生の兄が小学校の
体育の水泳の授業で25メートル泳ぐテストを代わりに受けたり……
色々な需要が考えられるかも。
0399名無しさん@ピンキー2016/03/25(金) 07:55:27.10ID:DCxVC2T7
ネタ提供はいいと思うけど、これだけ長文書けるのならいい文章書けそう
個人的にも書いてみて欲しいな
0401名無しさん@ピンキー2016/03/26(土) 08:03:22.72ID:cVN1smja
同じ人っぽいけどネタを考えてみたとか、需要あるかもとか、
時々気まぐれで書いてもらったからってプロデューサー気取りかな?
こんなネタが読みたいから書いてください!とかならもう少し可愛げあるのにな
ここまでくると荒らしにしか見えないわ
0402名無しさん@ピンキー2016/03/26(土) 08:13:15.65ID:MlmJmMtd
さすがに荒らし扱いは可哀想

ただそんだけアイデア思い浮かぶんだったら
周りが言うように「他人にお任せするより自分で作品書いた方が早いだろ」とは思うが
0403名無しさん@ピンキー2016/03/26(土) 20:38:31.71ID:ZD+qMRQ+
単純につまんないから荒らしでいい
つまんないから誰も書いてないだけだろうし
04042016/03/29(火) 23:31:57.38ID:aJbDJNXo
「くっころ代行業」という言霊が降りてきた。
危険な場所に趣き、任務を果たす女騎士その他の保険として、
彼女らが「くっ、殺せ!」な状況になった瞬間、魔法で立場を入れ替え、
その場で凌辱その他のハードプレイを受けるだけの簡単なお仕事です。
年齢性別経験不問、立場交換後は24時間以内に救出班が必ず身柄を
お助けしますので安心してください
……とか。
俺、疲れてるのかなぁ。
ちなみに、397も私です。たまには他の人が書いたのも読みたいんだよぅ
0405名無しさん@ピンキー2016/03/30(水) 08:03:17.34ID:MrjHapby
本物?
最近Kの方以外書かれてないので心中は察しますが、大抵の人は書きたくなったら本能の赴くままに書くから、
書き手の増加のためのアイデア投下でしたはそれは要らんと思います
0406名無しさん@ピンキー2016/04/01(金) 00:08:28.09ID:DFWnaNvt
人の書き込みにインスピレーション受けて書き始める例なんていくらでもあったじゃんよ
書き手でもない奴がいらんとか決め付けるのはどうなの
0407名無しさん@ピンキー2016/04/01(金) 00:16:49.25ID:v9pdxDj+
色々意見はあろうが、荒れるから刺々しいレスにいちいち反応するな
0410名無しさん@ピンキー2016/04/01(金) 21:32:45.16ID:jHaWmuWn
これ書いてみたいなクレクレレスが叩かれるのは仕方ない
0411名無しさん@ピンキー2016/04/30(土) 00:42:58.89ID:oS3FaXiM
昔、どっかのエロマンガで見た
「できのいい姉が交通事故で死んでしまい、落胆する両親を
 見かねた弟が、姉の服を姉のフリをして両親を慰めたところ、
 その両親は「死んだのは弟の方だった」と思いこむようになり、
 その結果、世間的にも姉(の代役)として生きることになる」
という展開も、ここのスレの範疇なのだろうか?
0413名無しさん@ピンキー2016/05/01(日) 14:29:38.27ID:x85seX/C
NEWMEN「SECRET PLOT DEEP」に収録されてるヤツだな。
大好きな作品だ。
そして、雑誌初出からもう20年経ってることに驚く・・・・・・
0416名無しさん@ピンキー2016/05/08(日) 23:17:58.52ID:HYd8ZQPE
ここには意識の高いクレクレしかいないからな
0417名無しさん@ピンキー2016/05/11(水) 07:09:15.24ID:MpOMGDcy
それよりも母と息子の交換だろ
やっぱり性別が異なる方がそそる
0419名無しさん@ピンキー2016/05/13(金) 02:44:16.98ID:XMfnUIUp
母-息子、父-娘などがこのスレの鉄板立場交換シチュだが、
ここであえて母-娘の立場交換をススメてみるテスト。
12歳(小六)の娘と30代半ばの母が立場交換してしまい、
ランドセル背負って学校に行くリアル羞恥プレイをさせ
られる元母=現娘
つい先日お赤飯炊いた(隠語)ばかりなのに、男ざかりの
夫(父)の夜毎の欲望を受け止めざるを得ない元娘=現母
──とか考えると燃えてこない?
「この立場交換を解除するためには、交換していることを
 ひと月間、他人に知られてはならない」とかいう縛りが
あって、ふたりとも必死に「母」「娘」を演じようとしている
うちに、知らず知らず現在の立場に馴染んじゃう……とか。
0421名無しさん@ピンキー2016/05/13(金) 11:10:12.54ID:dx4KyhoI
見た目以外変わってると幼な妻感じ出てていいけどあえて呼び方と服装趣味嗜好だけ変わってる感じも
パパ、学校に行ってくるわね
あなた、セックスしようよー
0423名無しさん@ピンキー2016/05/22(日) 10:45:53.95ID:tX/J6/7y
『ナイショなカンケイ』

 「いってきまーす!」
 ごくありふれた住宅街の一角。一軒の和洋折衷建築の玄関のドアを開けて飛び出して来た少女が、家の方に向かって元気な声で挨拶すると、そのまま門を出て通学路へ向かって足早に歩き出した。
 つややかな黒髪を首を覆うほどの長さのオカッパ──いわゆるミディボブの髪型にして、学校の制服だろうか白い丸襟ブラウスにグレーの吊りスカートと黒いハイソックスを履いている。
 赤いランドセルを背負っていることから考えて小学生なのだろうが、160センチ近い身長とどう見てもCカップ未満には見えない胸のふくらみからして、服装を変えれば中学生、いや高校生でも通用するだろう。
 とは言え、最近の子供は前世紀と比して発育が早いので、こういう「大人びた」女子小学生がいても、それほどおかしくはあるまい。

 「はい、いってらっしゃい。クルマに気をつけてね」
 “少女”が飛び出してきた玄関には、彼女の“母親”らしき女性が立って、ニコニコと優しい笑顔を浮かべて“娘”を見送っている。
 クリームベージュのカットソーと焦げ茶色のロングスカートの上にオレンジ色のエプロンを着け、サンダルをつっかけた、いかにも主婦らしい服装だが、小柄で童顔なせいか「オバさん」くささは全く感じない。
 背中まで伸ばした髪をヘーゼルブラウンに染め、後頭部のやや下方でシニョンにまとめた洒落たヘアスタイルと、かなりナチュラルながらキチンとメイクしていることもあって、むしろかなり魅力的な女性と言ってもよいだろう。
 “娘”と並んでも下手すれば姉妹に見えかねない、そんな若々しい主婦がアニメやギャルゲーの中以外にも実在したとは驚きだが……。

 ──いや、本当にそうだろうか?
 身長150センチにも達していない小柄で、中学生と言っても十分通用する幼い顔つき・体つきの“母親”から、小学生なのに長身・巨乳・大人顔の三拍子揃った娘が生まれるものだろうか?
 世間は広いようで狭く、狭いようで広いから、もしかしたら日本中を捜せばいるのかもしれないが、このふたり──出雲縁(いずも・ゆかり)と出雲由佳(いずも・ゆか)に関しては“そう”ではない。
 本来は母であるはずの縁が小学6年生の“娘”として学校に通い、娘であるはずの由佳の方が“母”として家のことを切り盛りしているのだ。
 さらに言えば、“その事”に対して、本人達二人以外の誰も──ご近所の人や由佳の学校の友達や先生はおろか、夫であり父であるはずの慎之介(しんのすけ)ですら違和感を抱いていない。
 いったいどうしてそんなコトになっているのかと言えば……ある意味、降って湧いたような災難であり、またある意味二人の自業自得とも言えた。

<つづく>

とりあえず419シチュ書き始めてはみましたが、つづきがいつになるかは未定。
ちなみに、(今の)縁は柚●春夏にストパーをかけて某艦これの朝潮型の制服を着せたような感じ、対して由佳は柚原こ●みの髪型を変えて春夏の普段着を着せたところをイメージしてます。
0425『ナイショなカンケイ』2016/05/25(水) 00:43:02.75ID:lYVbCv1w
#できた分から投下していくスタイル

-01-

 出雲母娘の立場が入れ替わってしまった経緯は、常識的に考えるとおよそあり得ないと思えるほど馬鹿げたものだった。
 空梅雨と言われつつもそれなりに雨の降る日も多い6月半ばの、とある日曜日の午後。幸いにしてこの日は晴れていたので、縁と由佳は連れだって近所の繁華街までランチを食べに出ていた。
 休日だから家で食べてもよかったのだが、本の虫のきらいのあるインドア派の娘を、縁が少しでも外に目を向けさせようと引っ張り出したのだ。

 「いやぁ、楽しかったわねぇ。満足まんぞく♪」
 鼻歌でも歌わんばかりにご機嫌な縁は、某輸入洋品店で購入した「I love NY」のロゴ入りTシャツを着て、その上にショッキングピンクのキャミソールを重ねて着ている。ボトムはデニムのミニスカートだ。
 今年33歳になる既婚女性としては少々若づくり過ぎる感のある服装だが、美人でプロポーション抜群、かつお肌も三十路を越えたとは信じられないほど綺麗な縁は、優に5、6歳は若く見られるので、非常によく似合っている。
 現に道行く男達の2、3人にひとりが見惚れるなり鼻の下を伸ばすなりしているくらいだ。
 「お母さんったら……いい大人なんだから、ちょっとは自重してください」
 一方、由佳も縁の娘だけあってなかなかの美少女ではあるが、縁が“明るく活発で華がある”という印象なのに対して、“物静かでやや地味”な感はぬぐえない。
 白いパフスリーブのブラウスを首元までボタンをきちんと留め、膝下5センチくらいのフレアスカートと三つ折りソックス&黒のストラップシューズという服装にも、その真面目な性格が表れていた。
 由佳が呆れ気味なのは、食後の腹ごなしにふたりでウィンドショッピングしていた際、縁がゲーセンの新作ダンス系音楽ゲームに興味を示し、初挑戦で最後まで踊りきってしまったからだ。
 外見年齢20代半ば過ぎの美人が、88のDの大きな胸を揺らしつつ懸命に踊る姿に、ギャラリーが多数集まった。
 さすがにパーフェクトにはほど遠く、スコアもたいしたことはなかったが、縁がクリアーした時には、大きな拍手が巻き起こったくらいだ。
 由佳としては「いい歳して、子供みたいにはしゃがないでくださいよ」と言いたいのだろう。
 「もぅ、由佳ってば真面目過ぎるわよ。あたしが子供のころはもっとハジケてヤンチャしてたと思うんだけどなぁ」
 「優秀な反面教師が身近にいますので」
 澄まして反論する由佳だが、別段彼女だって縁のことが嫌いなワケではない。むしろ、いつも明るく天真爛漫で誰からも好かれる性格ながらも、大人として、母親としての責任をきっちり果たす縁に憧れている面もあるのだから。
 (でも、私はお母さんみたいにはなれませんよね……)
 ただし、もって生まれた資質や性格の違いというものは、たとえ実の母と娘であってもある。
 そのことは由佳も理解しており、「母が太陽なら、わたしは月のようにひっそりと優しく照らす人になろう」などと考えていたりするのだ──本当にこの子、12歳の小学生なのだろうか?
0426『ナイショなカンケイ』2016/05/25(水) 00:43:40.01ID:lYVbCv1w
 「へぇ、こんなトコロに神社なんてあったんだ」
 考え事をしながら歩いていた由佳は、そんな縁(はは)の言葉に我に返って慌てて辺りを見回した。
 「──ここ、どこですか、お母さん?」
 「え? あぁ、ほら、魚善さんからの緩い坂を下る途中の雑木林があるじゃない。その途中に細い脇道があるのに気付いたんで、ちょっと入ってみたら、ここに着いたのよ」
 「いや、脇道があったから入ってみたって、アンタ猫か!?」とツッコミたいのは山々だったが、自分も考えごとに気を取られていたとは言え、無意識にそれについて足を進めたので、由佳は口には出さなかった。
 「随分と小さくて古びた神社ですね」
 お社(やしろ)は高さ2メートルほどの大きさで、由佳はともかく縁ならジャンプすれば簡単に屋根の上が覗けそうだ。
 「こういうのは“祠(ほこら)”って言うほうが正しいかもね。まぁ、祠って言うにはちょっと大きくて立派だけど」
 確かに、小さいながらも鳥居や手水舎も備わっており、お社自体にもちゃんと鈴&鈴緒と賽銭箱が設置されている。
 宮司や巫女さんなどの人影は見受けられなかったものの、野ざらしというわけでなくそれなりに清潔さが保たれているので、誰か管理・清掃している人間はいるのだろう。
 「せっかくだからお参りしていこっか」
 人並み程度の神様への敬意は持っているので、縁の提案に由佳も異論はなかった。
 適当に鈴緒を引っぱって鈴を鳴らそうとする母を制して、由佳はまず手水で手を洗ってから、祠の前に立ち、賽銭箱に財布から取り出した5円玉を落とす。
 軽く鈴を鳴らし、作法に則って2度頭を下げ、柏手も2回打ってから、手を合わせて黙祷する少女──本当に小六なのだろうか?
 (お母さんみたいな……とは言いません。私なりに早く素敵な大人になれますように)
 願い事といってもそれほど差し迫ったものはなかったため、とりあえず漠然とした目標を心の中でつぶやく由佳。
 一方、母である縁の方は、自分の娘の博識ぶりに感心しつつも、同じように二礼二拍して頭を垂れる。
 (はぁ……優等生なのはいいんだけど、我が娘ながらちょっとカタブツ過ぎないかしら。あたしがこの子の立場なら、もっとこう、思い切り毎日をエンジョイ&エキサイティングするのになぁ)
 なんと言うか、来年中学に進学する娘を持つ親とも思えぬフリーダムな母親である。
 しばしの後、ふたり同時に頭を上げ、作法通りもう一度礼をして、祠の前から立ち去ろうとした由佳と縁だったが……唐突に頭の中に響いてきた声に、ギョッとして思わず互いの顔を見合わせてしまう。

 『──その願い、叶えて進ぜよう』

 男ではなく、かといって女とも言い難い、強いて言うなら中性的な子供のような“声”がそう告げると同時に、ふたりはまばゆい光に包まれ、そのまま意識を失うのだった。

<つづく>
0427『ナイショなカンケイ』2016/05/27(金) 09:37:20.40ID:SdDK9a6X
-02-

 「っつぅ〜、なぁに、今の光は?」
 まだチカチカする目をごしごしこすりつつ、意識を取り戻した縁はひんやりした床の上に横たわっていた姿勢から身を起こす。
 「あ! よかった、気が付いたんですね!!」
 聞き慣れた声の方を見上げると、そこには娘の由佳が心持ち心配そうな顔で立っていた──いたのだが……なぜか服装が変わっている。
 ベージュ色で七分袖のサマーセーターにアシンメトリな黒いニットのミモレ丈スカート。足元はベロアのロングブーツで、首には素朴な木製のネックレスをかけている。
 また髪型も、先ほどまでは背中の半ばまで無造作に伸ばして前髪をカチューシャで押さえただけだったのに、パーマでもかけたのかわずかにウェーブがかかり、それを緩く三つ編みに編んで先端近くをシュシュで結わえていた。
 よく見れば、髪自体、腰までの長さになり、わずかに灰色と茶色の中間のような色──いわゆるヘーゼルに染めてもいるようだ。
 12歳の少女としては少々背伸びしている感もなきにしもあらずだが、もともと落ち着いた性格で年かさにみられることの多い由佳には、こういう大人びた恰好はピッタリはまっていた。
 「へぇ……うん、いいじゃない。よく似合ってるわよ、由佳」
 「何のんきなこと言ってるんですか。それを言うなら、お母さんも自分の格好をよく見てください」
 「へ?」
 言われて視線を自らの身体へと落とした縁は、「ふぇっ!?」と三十路過ぎの女性にしてはえらくかわいらしい悲鳴をあげるが、それも無理はないだろう。
 白に近い薄いピンクのフレンチスリーブのTシャツは、初夏だからまぁいいとしても、その上にフリルとレース満載の黒のコルセット風キャミソールを着て、ボトムに履いているのは真っ赤な三分丈のショートパンツ。
 さらには生足&厚底サンダルという組み合わせで肌の露出がハンパないうえ、髪をツーサイドアップにリボンでまとめている。どこぞのJSモデルもかくやという服装なのだ。
 いかにガーリィファッションが流行りとは言え、先ほどまで以上に若作りが過ぎる。さすがにその自覚はあるのか、縁は恥ずかしさで真っ赤になっていた。──とは言え、あながち似合ってないとも言えないのだが。

 「ど、どうしてこんな格好に……って、由佳もその服はどうしたの?」
 「さぁ? 私も今、目が覚めたばかりなので……というか、ここどこなんでしょう?」
 自分達の現状に気を取られていたが、よくよく考えればこの板張りの剣道場のような場所そのものも謎だ。
 自分たちはさっきまで、神社というか祠というか小さなお社の前にいたはずなのだが……。

 『案ずるな。ここは、その社──すなわち我が住居(すまい)の中だ』

 由佳たちが疑問を抱いた瞬間、どこかで聞いたような“声”が頭の中に響いてきた。
 「えっ!?」「誰ですか?」
 母娘はほとんど同時に誰何の声をあげる。

 『ここが住居というあたりで察してもらえると有り難いのだがな。
 とは言え、無闇に焦らす意味もない。
 我は──お主らの言うところの“神”だ。
 もっとも、耶蘇教が崇める唯一神ほどの絶対的な権能(ちから)を持っているわけではない、吹けば飛ぶような零細神だがな』

 「神様……って、もしかして、ここはあのお社の中?」
 「そんな! あれってせいぜい2メートル四方くらいの広さしかなかったはずでしょう。天井だってこんなに高いはずは……」
 信じられないといった風情の由佳の言葉を“神”が遮る。

 『その理由は“神だから”で納得しておくのが面倒がなくてよいぞ。
 ともあれ、それとは別にお主らにはひとつ説明しておかねばならないことがある』
0428『ナイショなカンケイ』2016/05/27(金) 09:38:01.00ID:SdDK9a6X
 自称“神”の説明によれば、先ほどの礼拝時にふたりが思い描いた何気ない想(ねが)いを同時に叶えるために神としての力を振るった結果、現在、縁と由佳の立場が入れ替わっているのだという。
 「それって、具体的にはどういうことなんですか?」

 『簡単に言えば、お主──出雲由佳が、出雲家の主婦にして縁の母、逆に出雲縁が小学六年生の出雲家の娘、と言う立場になっているのだ。
 これは他の人間からそう見えるというだけでなく、役所の戸籍などの社会機構面、さらに写真などの記録に至るまで遡ってそう変化しているということを意味する。
 お主らのその服装も、「出雲由佳が33歳の女性なら」「出雲縁が12歳の少女なら」着ているはずのものに置き換わっているが故。当然、自宅の箪笥の中身なども変わっておるはずだ』

 そう聞かされて、事態の深刻さを改めて理解するふたり。
 慌てて願い事の取り消しを申し出るのだが……。

 『済まぬが、今すぐというわけにはいかぬのだ。
 これを覆すには、少なくとも“その状態”で一定期間過ごしてもらい、我が“願い事を叶えた”という事象(けっか)を一度は確定させる必要がある。
 そのうえで、お主ら片方の願いで今のこの状態にしたと解釈し、しかるべき期間経過後、残るひとりが“元の立場に戻してほしい”と願ったので、その願いを叶えた──という形にするしかない』
 本来、甲の願い事を否定するような乙の願いは無効なのだが、今回は特別だ──と“神”は締めくくる。

 「なんて言うか、神様の世界もずいぶんお役所的なのね〜。それで、あたしたちはどれくらいこのままでいればいいんです?」
 呆れたような感心したような縁の言葉に対して“神”は答える。

 『ひと月だ。ただし、注意すべき点としては、そのあいだお主ら以外の人間に、今の事態──母娘の立場が入れ替わっているという事実を知られてはならぬ』

 「1ヵ月も!? そんな長いあいだ、私、お母さんのフリなんてできませんよ!」

 『案ずるな。お主らの現在の立場に必要とされる知識や技量は、その場に臨めば自然に備わる──ゆえに、くれぐれも他の者に気取られぬよう、それだけを注意するがよい』

 由佳の懸念にそう答えると、“神”は社の扉を開いた。

 『さぁ、行くがよい。そしてひと月後、お主らのどちらかがここに来るのだ』

<つづく>
0429『ナイショなカンケイ』2016/05/28(土) 14:19:49.56ID:9z5RKyx0
-03-

 『──万が一他の者にお主らの立場交換のことを知られると、元に戻れるまでの時間がさらに長くなるので、極力気を付けるようにな』

 そんな“神”の言葉を背に縁と由佳は扉から足を踏み出し……。
 気が付くと、ふたりは、あのお社の前の小さな石畳の広場……というほどは広くない2メートル四方ほどのスペースに立っていた。

 「もしかして夢……ではないようですね」
 自分、そして縁の服装を見て由佳は憂鬱げに溜息をつく。
 「うん、そうみたいね。でも、まぁ、こうなったからには仕方ないわよ」
 対する縁の方は、あまり困ったような様子はない。
 「──もしかして、お母さん、この事態を楽しんでません?」
 「あ、わかる? でも、たかだか1ヵ月のことなんだし、この際、珍しい体験ができると思って開き直っちゃったほうが、精神的にもいいと思うけど?」
 ジト目でニラむ由佳の視線も意に介さず、縁はあっけらかんとそう答える。
 「はぁ〜、まったく、その能天気なポジティブさは、いっそ羨ましいですね。まぁ、確かに一理はありますけど」
 再びひとつ溜息をつくと、由佳も意識を切り替えたようだ。
 「じゃあ、とりあえず今日のところはこのまま家に帰って、何がどう変わってるのか確認してみましょうか、お母さん」
 「チッチッチッ……さっき、神様に言われたこと覚えてるでしょ。これからしばらくは、あたしが“出雲家の小学生のひとり娘”で、貴女が“出雲家の専業主婦”なんだから。間違えちゃだめだよ──“ママ”」
 縁のその言葉を耳にした時、「ママ」と呼びかけた方も呼びかけられた方も、不思議な感慨を覚えた。
 まるで最後のピースがピタリとはまってジグソーパズルが完成したような、あるいは合唱で各人が各々のパートをキチンと歌い上げることでひとつの綺麗なハーモニーが生まれるかのような、妙に「しっくりくる」あの感触。
 「……そう、ですね。これからは気を付けましょう。さ、帰りましょう、“ゆかりちゃん”」
 だからこそ、生真面目な由佳の方も、さほどためらいなく、むしろ自然に“娘”に対してそう呼びかけることができたのだ。

 “祠”のある場所から出て、自宅への道を仲良く手をつないで歩く母と娘。
 一見、先ほどまでと同じようで──しかしふたりの立場が入れ替わっていることに気付く者は、本人達以外に誰もいなかった。

<つづく>

#みじかいけど前章の補足。ここまでを02にしてもよかったかも。
#そして、ようやく本格的に立場交換ライフを描写できます
0431『ナイショなカンケイ』2016/06/04(土) 03:56:23.00ID:fo8DHowT
-04-

 「たっだいま〜」
 「──ただいま」
 自宅に戻った母娘の声が唱和する。
 ちなみに、浮き浮きと楽しそうに弾んだ声のほうが縁で、溜息をつかんばかりに沈んだ声が由佳だ。
 これは、そのままふたりの性格からくるスタンスの違い──明るく能天気でお気楽な“娘”と、真面目に今後のことを考え、心配している“母”の差異をそのまま表しているのだろう。
 本来の立場を考えると、いい大人のはずの母の方が浮かれて、小学生の娘のほうキチンと道理をわきまえているというのは少々アレだが、現在の立場であれば、それほどおかしなコトではあるまい。

 「じゃあ、あたし、お部屋の方を見てくるね!」
 “母”と手分けして持って来た買い物の袋を台所に置くと、縁──ゆかりは早速“色々変わっている”であろう部屋の方へと行こうとする。
 「その前に、キチンと手を洗ってうがいするんですよ」
 “母親らしく”釘を刺す由佳。
 その外見を除けば、そのやりとりはあまりに自然に“母娘”していて、事情を知る者が見れば思わず噴き出してしまうかもしれない。
 ──まぁ、このふたりに限れば、立場交換する前から、ある意味、娘の方がしっかりしていたという説もないではないが。

 ともあれ、由佳の言いつけ通りに手洗いとうがいを済ませ、ワクワクしながら“自分の部屋”に向かったゆかりは、しかしながらぐるりと部屋を見渡して失望したような声を漏らす。
 「あれ? 何もか変わってない気がするんだけど」
 淡いラベンダー色のカーペット。白いデコラティブなベッド。その上にかかったローズピンクとレモンイエローのベッドカバー。ベッドと似たデザインのタンス。小学校入学時以来愛用している学習机。その隣りの姿見。
 それらは、“昼前に家を出た時と、まったく同じ”ように見えたのだ。
 それならば、とタンスを開けてみたのだが……。
 「コレも……コレも、コレも、みんな前から持ってるお洋服だよね」
 タンスの中には、“いかにもゆかり好みの活発でスポーティな普段着と、小学生らしいオシャレを意識したフリフリ&ヒラヒラな女の子らしいよそ行きの服”が、半々くらいの割合でしまわれていた。
 「うーん、本棚の中身も特に変わってないなぁ」
 女子小学生向けのマンガ誌や雑誌、あとは少女マンガが本棚全体の8割を占める構成も“昨日までと一緒”だった。
 (神様の話だと立場を交換したらいろいろ変わってるみたいだったのに──期待して損しちゃった)
 「ちぇ〜」とかわいらしく頬を膨らませながら、“一昨日買って来た少女マンガ誌の最新号”を手に取り、ベッドに寝転がるゆかり。

 だが、視点を変えて、神の目で見れば、今の状況の異様さが理解できる。
 彼女は気づいていないのだろうか──この部屋の中身が、由佳が主だった時と大幅に変わっていることに。
 子供扱いを嫌う由佳の場合、カーペットも壁紙もベッドカバーも、もっとシックな色合いだったし、本棚の中身は児童文学全集や百科事典、あるいは参考書の類いが半分以上を占めていたはずだ。
 最大の差異はワードローブ類で、由佳の好みに合わせたそれは、フェミニンでおとなしめ(地味とも言う)なデザインや色の服が殆どだったはずなのだ。
 そもそも、“自分の部屋”として、なんのためらいもなく元由佳のものだった部屋へと直行した時点で、彼女は随分と“出雲家のひとり娘”という立場に適応して(あるいは浸食されて)いるのかもしれない。

 しかしながら、そんな事実に露程も気付くこともなく、ゆかりは“母”に「晩ご飯ですよ」と呼ばれるまで、お気楽にマンガ誌に読みふけるのだった。
0432『ナイショなカンケイ』2016/06/12(日) 20:06:45.80ID:wr3SUwyB
#母(娘)視点での説明回。萌えどころは次になりそう。

-05-

 ──少しだけ時間は遡って、ゆかりが“自室”に引っ込んだ直後の話。

 「もぅっ、あの子ったら、ホントお気楽なんだから」
 台所で買い物袋の中身──おもに肉や野菜などの食材類を冷蔵庫にしまいながら、由佳は軽く溜息をついていた。
 (まぁ、気持ちはわからないでもないのだけれど……)
 こんな普通ではおよそ有りえない体験を、1ヵ月の期限付きで満喫できるとあれば、好奇心旺盛な縁のテンションが上がるのは、ある意味当然と言えるだろう。
 (あの子……じゃなくて、“お母さん”、こっちに引っ越して来てから退屈してたみたいだものね)
 夫──もとい“父”の仕事の関係で、都心から北関東の地方都市であるこの場所に引っ越して来たことで、どうも余暇の趣味・交友関係その他に色々と支障をきたしていたようなのだ。
 (私は住むのにはいい場所だと思うんだけど……)
 家の立地は緑の多い閑静な住宅街だが、駅前近くの商店街に行けば日常的な買い物は一通り揃うし、彼女の趣味である読書をまかなうための書店は数軒ある。
 ただし、フィットネスジムやテニスクラブ、あるいはカルチャーセンターの類いは、残念ながら近隣にはほぼ見当たらない。強いて言えば、書道や生け花の個人教室とゲートボール同好会の貼り紙くらいはあったろうか。
 身体を動かすのが好きで、好奇心も旺盛なゆかり……ではなく“縁”にとっては、やや退屈な環境だったのだろう。

 そんなことを考えつつも、由佳の身体はごく自然に出雲家の“夫婦の寝室”へと移動して着替えを行っている。
 といっても、首飾りを外してスカートとサマーセーターを脱ぎ、代わりにタンスの2段目から出した、ライトグレーのジャンパースカートを履いただけだが。
 彼女の行動にはなんらためらいや戸惑いは見当たらない──まるで、この部屋のどこに何が入っているのか全部知っているかのように。

 時計を見ると、そろそろ午後4時半を回る頃合いだった。
 (今日の夕飯は──イワシのフライとホウレンソウの胡麻和えでいいかしら)
 それに加えて「昨日の晩作った卯の花の煮物とキュウリのピクルス」が残っているから十分だろう。
 幸いにして、夫は再来週の頭まで北海道に出張中だ。炊飯ジャーに残っているご飯の量も、母子ふたり分なら問題あるまい。
 その2品なら1時間もあれば余裕だから、夕飯の支度は6時頃から始めればよい──と、当たり前のように主婦としての計算を手早く行った由佳は、それまでの時間をつぶすべく、居間で女性週刊誌をめくり始める。

 そして、居間の柱時計が6時を告げたところで、雑誌をマガジンラックに戻して、エプロンを着け、夕飯の用意にとりかかった。
 今日の献立はとりたてて難しいわけではないとは言え、由佳の手際の良さは、断じて家庭科の授業以外に殆ど料理をしたことのない12歳の少女のものでは有り得なかった。
 それなのに、そのことに違和感を感じる風もなく、由佳は鼻歌まじりに「もう10年以上も毎日出雲家の台所を預かってきた」かの如く、野菜を茹で、魚をさばき、的確な油加減でフライを揚げていくのだ。

 やがて、今夜の晩餐の支度が整ったところで、二階の子供部屋にいる“娘”に声をかけた。
 「ゆかりちゃん、そろそろ晩ご飯ですよ〜」
 「──はーい、いま行くー!」
 娘(ゆかり)が素直に返事をしたことに安堵すると、由佳はエプロンで手を拭きながら食器を棚から出して、盛り付けを始めるのだった。
0434名無しさん@ピンキー2016/06/13(月) 14:19:54.76ID:VJznrB2f
最近の楽しみ
0435『ナイショなカンケイ』2016/06/15(水) 01:43:41.78ID:8EysO257
-06-

 「ごちそーさまぁ」
 「はい、お粗末さまでした」
 日曜の夜、一家の大黒柱が出張中ではあるが、母と娘ふたりだけの夕食が和やかに終わる。
 「あ、ママ、お皿洗い手伝おうか?」
 「うーん、今日は洗い物は少ないからいいわ。その代わり、お風呂にお湯の入れてきてもらえるかしら」
 「はーい!」
 台詞だけ聞いていれば誠に平和で微笑ましい仲良し母娘の会話なのだが……。
 “母”である由佳の方が150センチにも満たぬ小柄な身長で、逆に“娘”のゆかりが160センチ近い長身なのは、昨今の子供の体格の良さからして、それほど不自然ではないだろう。
 また、母親が贔屓目に見てもかなり貧乳でスレンダーな体型なのに対し、小学生の(はずの)娘の方がグラビアモデルなみのプロポーションなのも、ふたりの体格を考えれば必ずしもあり得ないことではない。
 しかし、20歳のときに妊娠し、21歳で出産したはずの“母”の方がどう見ても童顔で幼く、対照的に“娘”のほうが成人女性と言って通用する風貌というのは、常識的に考えて無理があった。
 無論、この“異常事態”は、このふたりが早とちりな神の介入によって、立場を、周囲を取り巻く環境ごと交換されているからだ。
 不幸中の幸いは、周囲の人間は(ふたりがその立場に沿って行動する限り)立場交換していることを不自然に感じないことと、ひと月経てば元に戻ることが可能なことだろう。
 前者に関しては、現在の立場に必要とされる(記憶を含む)知識や(習慣も含めた)身体的能力は、自然に現在の立場にふさわしいものがふたりに“インストール”されているので、大きな問題にはなるまい。
 後者については、1ヵ月以上経過した後、くだんの神が祭られている神社に行って由佳かゆかりのどちらかが願えば、それで元に戻れることにはなっている。
 しかし──事前に危惧に反して、自宅に帰ってみれば、ふたりはあまりに自然に“母”と“娘”の立場に適応して、行動してしまっていた。それはもはや適応というより“浸食”と言ってもよいレベルかもしれない。

 「ところでゆかりちゃん、もう宿題は済ませてあるのかしら?」
 「ギクッ!」
 あからさまに視線が泳いでいる娘の顔を見て、由佳は溜息をつく。
 「もぅ……ダメですよ、学校のお勉強はキチンとやらないと」
 「わ、わかってるよぉ。だいたい、あたしはホントは大人なんだから、小学生の宿題くらい、その気になればラクショーだって!」
 恰好の言い訳を思いつき、口にするゆかり。
 「あ……そう言えばそうでしたね」
 本来は“母”である人にエラそうに説教してしまったことに今更ながら気付き、由佳はバツの悪そうな表情になった。
 「私、自分が本当はこの家の“娘”であることを、すっかり忘れてしまってたみたいです」
 「うんうん、あたしも。でも──それにしてもあの神様の“力”ってスゴいよねぇ。だって、由佳ママ、普通に美味しい晩御飯が作れてたし」
 「言われてみれば、そうですね」
 おそらく、由佳が“出雲家の主婦にして一児の母”という立場であるなら、料理などの家事は「巧くやれて当然」だからだろう。
 「ゆかりちゃんの方はどうなんですか? 学校の構造とか、お友達のこととか、キチンとわかります?」
 由佳にそう問われて、ゆかりもその辺りのことが気になった。
 最初はボンヤリと霞がかかったようにはっきりしなかったものの、改め意識を集中すると、“丁越市立第三小学校の六年二組に通う出雲ゆかり”としての記憶が次々と浮かんでくる。
0436『ナイショなカンケイ』2016/06/15(水) 01:44:19.79ID:8EysO257
 教室の席は窓際の前から三番目なこと。
 クラスでは保健委員をやってること。
 クラブは五年生のころからバトミントン部に入ってること。
 いちばんの親友は、ゆっことレミなこと。
 最近、同じバトミントン部の須田くんがちょっと気に……。
 (──あわわわわ!)
 余計なコトまで“思い出し”かけてしまい、慌ててゆかりは意識を逸らした。
 (ちちち、違うモン! あたし、別に須田くんのことが好きってワケじゃ……)
 「どうかしたんですか?」
 急に黙って百面相をし始めた娘を心配して、由佳が気づかわしげな声をかけてきたので、ゆかりは強引に思考を打ち切った。
 「え!? あ、ううん、なんでもないよ。うん、大丈夫、学校のことだって、バッチリ“思い出せる”みたい」
 「そうですか。それならいいんですけど」
 そう言いつつも、由佳は微妙に納得していないみたいだった。
 「あ、あたし、せっかくだから、おフロがわくまでの間に、宿題やってくるね!」
 けれどそれ以上追及されたくないゆかりは、勉強を口実(たて)に自室へと退避する。

 「あれ、あれれ……この宿題、けっこうむつかしくない?」
 とりあえず口実通り、宿題に手を付け始めたゆかりだったが、思いのほか苦戦してしまい、結局風呂が沸くまでには半分ほどしか済ませることができなかった。
 「やー、ゴメン、ちょっとナメてた。今の六年生の問題って、思ってた以上にむつかしいね」
 風呂から上がり、襟元や胸元、袖口などにヒラヒラとレース飾りのついた可愛らしい女児向けの白いパジャマに着替えた後、ダイニングでオレンジジュースを飲みながら、ゆかりはボヤく。
 「? そうでしたっけ? あまり苦労した記憶(おぼえ)はないのですけれど……」
 そう言えば、元の由佳はかなりの優等生だ。学校のテストの過半数で100点をとるほどだから、宿題程度で苦戦することはなかったのだろう。
 もっとも、そのぶん体育は苦手で、5段階評価の2か、よくて3というていたらくだったが。
 逆に、縁の方は小中高通じてほとんど学校を休んだことのない健康優良児で、運動会でも大活躍だったが、勉強の方は平均点レベルだった──ような気がする。
 「もしよかったら、見てあげましょうか?」
 「! ホント!? 超たすかるぅ〜」
 今は立場交換しているとは言え、神の視点で見れば、“いい歳した大人”が“小学生”に勉強を教わる形になるのだが、それでいいのだろうか?
 もっとも、ゆかりはまったく気にしておらず、リビングで和気あいあいと“母娘の勉強会”が開かれることになるのだった。
 由佳(はは)に教えを乞いつつ進めたことで、小一時間程度で宿題は終り、娘(ゆかり)は上機嫌で「おやすみなさーい」と挨拶して自室のベッドに入る。
 由佳の方は、現金な娘の態度に苦笑しつつ自分も風呂に入り、風呂から上がると、コーラルピンクの瀟洒なナイトドレスを身に着ける。
 しばらく長い髪を乾かしがてら、居間のテレビで古い洋画の再放送などを観賞し、その後、時計の短針が12の文字を指すころに、夫婦用寝室のベッドで眠りに就いた。

 そして、結局ふたりは気づかなかった。
 いくらなんでも、短大まで出ているはずのいい年した成人(おとな)が、小学生レベルの問題でつまづくはずがないということに。
 優等生とは言え、決して天才肌というわけではない由佳が、懇切丁寧かつ手際よく“娘”に勉強を教えられることの不自然さに。

 どうやら、立場交換に伴う諸々の知識の入れ替わりは、本人達が想像している以上に進行しているようだった。
0437『ナイショなカンケイ』2016/06/16(木) 00:57:03.44ID:48aFzBkW
-07-

 ──そして数日が過ぎ、物語は冒頭の部分に戻るわけだ。
 もはや出雲母娘ふたりに、立場を交換しているという意識はほぼ皆無だった。
 決して、日曜日の神社での出来事を忘却ししまったわけではないのだが──皆さんは、休日の外出時に起きた“ちょっとしたハプニング”のことを、一週間近く経っても、繰り返し回想するだろうか?
 無論、よほど健忘症(とりあたま)な人でもない限り、何かキッカケがあればその場面を思い出すだろうが、逆に言えばそうでもない限り、何気ない日々の雑事に紛れてわざわざ思いだしたりしないのが普通だろう。
 つまり、今のふたりにとって、“小六の女の子”と“その母であり一家の主婦”として過ごすことが日常(あたりまえ)になっているため、本来の立場のことは記憶の片隅に埋もれてしまっている、というワケだ。

 娘(ゆかり)が小学校へ行くのを見送った後、由佳は家の中へ掃除しに戻った。
 ハタキをかけ、掃除機を使い、必要な場所は雑巾あるいは化学雑巾で拭きとって、みるみるうちに家中を綺麗にしていく。
 背の関係で手の届かないところでは脚立を使っているのはご愛敬だが、その行動すら手慣れており、もはや熟練主婦の領域だ。正直、本物の主婦である縁よりも明らかに手際がいい。
 これは、割と気分屋なところのある縁があまり家事に重きを置いていないのに対して、由佳の方は比較的真面目かつ凝り性なところがあるからかもしれない。
 同じ“主婦”という立場になってはいても、その辺りの個人差はやはりあるものらしい。

 掃除が終わると同時にあらかじめ回しておいた洗濯機から、脱水までが終わった衣類を取り出し、庭の物干しに次々干していく。
 「こんにちは、いい天気ですね」
 その合間に、顔見知りの近所の人が通りかがれば、キチンと挨拶しておくのも、留守を預かる主婦の務めだ。
 「あら、出雲さんのところの奥さんもお洗濯?」
 つい数日前までは由佳を“出雲家の娘さん”と認識していたはずの近所の人も、今はなんの疑問もなく“主婦をしている成人女性”とみなして接してくる。
 「ええ、今日は珍しく降水確率は10%以下みたいなので、たまには外干ししようかと思いまして」
 「そうよねぇ。最近は乾燥機があるから乾かすだけなら問題ないけど、お日様に当てないとどうも味気ない気がしてねぇ」
 「あぁ、わかります、その感覚」
 ふた世代(実際には12歳なのでさらにもうふた世代近く隔たりがある)ほど離れた年配の婦人とも、ごく普通に会話を交わしている。
 小六の少女だった頃(いや、今でも身体的にはそうなのだが)は、かなり人見知り気味だったはずの由佳も、「主婦歴13年のそこそこベテラン」という立場のおかげか、円滑なコミュニケーションを行えるようだ。
0438『ナイショなカンケイ』2016/06/16(木) 00:57:55.42ID:48aFzBkW
 近所の老婦人との雑談と洗濯物干しが終わると、今度は昼食の支度だ。
 縁が料理をしていた時は、朝はトースト&サラダ+α、昼はひとりなので袋ラーメンや惣菜パンで簡単に済ませ、夜だけはご飯とキチンとしたおかずというのが習慣だったが……。
 どうやら、主婦になった由佳の場合は、朝昼夜とも手を抜かずキッチリ作る派らしい。
 今日の昼も、アルデンテに茹でたパスタに、ジャコと紫蘇と梅干の微塵切りをからめて和風スパにし、ワカメと水菜のスープまで作っている。もっとも、スープの方は、夕食にも流用するつもりのようだが。
 食休みにしばらくダイニングで紅茶をお供に本(裁縫の実用書)を読み、一段落したところで今度はリビングで編み物を始める。
 と言っても、そろそろ初夏に近いのでセーターだのマフラーだのというワケではなく、毛糸のドアノブカバーやレース編みのテーブルクロスなどの小物作りに挑戦しているのだ。

 編み物に集中してしばしの時が流れ、気が付くとそろそろ午後4時を回る頃合いになっていたため、急いで洗濯物を取り込む。
 リビングで取り込んだ洗濯物を畳んでいると、「ただいまーっ!」という元気のいい挨拶とともに、ゆかりが学校から帰って来た。
 「お帰りなさい、ゆかりちゃん。学校の方は問題ありませんか?」
 「うんっ、ぜーんぜん問題ないよ。あ、ママ、おやつは?」
 活動的な小学生としての暮らしに体がカロリーを要求するのか、どうもゆかりは以前より食欲旺盛になっているようだ。
 「はいはい、ちゃんと用意してありますよ。でも、その前にうがいと手洗い、それからお洋服を着替えてらっしゃいな」
 未だ成熟とはほど遠い幼い顔に、しかしとびきり母性的な慈愛の笑みを浮かべつつ、由佳は娘(ゆかり)をたしなめる。
 「はーい!」
 対照的にゆかりの方は、大人びた(あたりまえだが)容貌でありながら、無邪気にそう返事すると、洗面所、そして子供部屋(じしつ)へと向かうのだった。

#つぎは、小学生生活をエンジョイするゆかりちゃんのターン。アダルティーな展開になるのは、その次、父/旦那が出張から帰って来てからかなぁ。
0440名無しさん@ピンキー2016/06/16(木) 05:14:51.80ID:TyJ0AiHE
近頃は黒いランドセルの女児や赤いランドセルの男児がいるけど、これはもしかして立場が交換されているのではないだろうか
0441名無しさん@ピンキー2016/06/18(土) 23:31:12.57ID:Fd7aWzzH
明治大正的世界観で、怪盗がどこぞの華族の令嬢を「今宵誘拐します」
とか予告状を出して、実際警察の警備を出し抜いてさらうんだけど、
実は、小林君的名探偵の助手が「すり替わっておいたのさ!」な伏線。
で、アジトに着いた怪盗に自慢気にバラしてプギャーするつもりが、
有無を言わさず媚薬うたれるなり催眠暗示かけられるなりして
「おほーっ、しゅごいぃ」なアヘ顔Wピース即堕ち状態に。
助手から秘密の発信機での連絡が来るのを待っていたが、一向に
その反応がなく、名探偵は当惑──てなネタがチラッと浮かんだ。
ここのスレ的ギミックとしては「立場交換の呪札」とかで、華族の
当主には内緒(敵を騙すには味方から理論)で、助手と令嬢の立場を
密かに入れ替えたことにしておけばアリかな。
0442『ナイショなカンケイ』2016/06/28(火) 23:48:48.77ID:htQISJtF
-08-

 さて、「丁越市立第三小学校六年二組・出席番号2番の出雲ゆかり」として学校に通うようになって以来、彼女の毎日は大変充実していた。
 “33歳の縁”であった頃(正確には今でも身体的にはそのはずだが)は、今はその立場になっている由佳が推察していた通り、片田舎での専業主婦としての暮らしには正直退屈(あきあき)していたのだ。
 これが以前いた場所と同様の都会なら、色々時間を有効利用するための方策もあったろう。
 逆にもっと田舎なら、濃厚かつお節介過剰な近所づきあいや、あるいは自分で裏庭を畑にして世話するといった事柄で、相応に暇をつぶすことができたかもしれない。
 しかし、大都市基準から優に10年以上発展の遅れた地方の小都市で、猫の額ほどの狭い庭付き一戸建て住宅(借家)に住む30代初めの主婦にとっては、あまりに日々の刺激が少なすぎた。
 だからこそ、あの日、神様の手違い(?)によって、娘と立場が入れ替わったことを、滅多にできないエキサイティングな体験として、積極的に受け入れる気になったのだ。
 そして、実際、20年ぶりに通う小学校は、思っていた以上に楽しい場所だった。

  「いってきまーす!」
 声質自体はともかく、まるっきり「元気な小学生の女の子」そのものな感じの明るく屈託のない声の調子で、“母”である由佳に挨拶すると、ゆかりはシタタッと速足で通学路を歩いて行く。
 丸襟の白ブラウスに、グレーのボックスプリーツスカートを同色の吊紐で吊るし、足元は校章入りの黒いハイソックス──という小学校の制服を着ているが、羞恥や窮屈げな様子はまるでない。
 むしろ何年間もそれを着慣れたふうな印象だ。
 元々、本来の縁の小学生時代は私服で、かつ由佳よりも地味な服装をしていた。
 その記憶がぼんやりとだがあるため、このなかなかにオシャレな第三小学校の制服が着られることが、どうやら嬉しいらしい。
 「あ! おはよー、ゆっこ、レミ」
 通学路を歩くこと2分ほどで、“待ち合わせ場所”に着き、そこにいる“親友”たちに声をかける。
 「あら、おはようございます、ゆかりちゃん。今朝はちょっぴり早いのですね」
 ふんわりと人のよさそうな笑みを浮かべているのが、“幼稚園時代からのゆかりの親友”である西園寺悠子(さいおんじ・ゆうこ)。大仰な名前通り、それなりの旧家のひとり娘だ。
 (さすがに縁ほどではないが)背が高く、12歳にしては随分と(胸や腰回りなどの)スタイルも良いが、本人は「ちょっぴり太めなのでは?」と気にしてたりする。
 おっとりした性格ながら頭は抜群に良く、学年でも1、2を争うほどだが、反面、運動能力は体格に比してあまりよくはない──とは言え、壊滅的というほどでもないので、まぁ「多少苦手」くらいのものだが。
 「やぁねぇ、午後から雨でも降るのかしら。あたし、今日は傘持ってきてないのよ?」
 何気にヒドいことを言ってるのが博来麗美(はくらい・れいみ)。こちらは、“3年生進級時のクラス替えで面識ができて以来の仲”だ。
 ズケズケとした物言いで敵も多いが、ゆかりは麗美のそんなところが気に入っている。
 5年生になった時のクラス替えで、麗美とは引き続き、悠子とは2年ぶりに同じクラスとなり、以来、自然と3人で過ごすことが多くなった(という風に、立場交換の結果、過去の状況が変化している)。
 もっとも、今のゆかりにとっては、その仮初の記憶が“真実”だと感じられるのだが。
0443『ナイショなカンケイ』2016/06/28(火) 23:49:25.21ID:htQISJtF
 「今日はクラブ活動の日だからねッ! 楽しみだなぁ」
 中学や高校の部活ほどキチンとしたものではないが、丁越市立第三小学校も、5、6年生には週に2日“クラブ活動”の日を設定し、スポーツや文化活動に費やさせている。
 クラブ活動に関しては、ゆかりたち3人は揃ってバドミントンクラブに所属している。ゆかりが積極的に興味を示し、他の親友ふたりも彼女に引きずられる形で入ったのだ。
 これは、“縁”が中学時代は卓球部、高校ではテニス部、短大ではラクロスをやっていた影響か、今のゆかりも“ラケットを使うスポーツ”に大いに興味を惹かれたからだ。
 ちなみに、由佳が本来の娘としての立場で小学生をやっていた時は図書クラブに所属し、適当な本を読んで感想文を書く……というのが活動の主体だった。悠子や麗美ともクラスメイトという以上の接点はなかった。
 「──そう言えば、ゆかりんとの前回の勝負は1勝2敗だったわね。今日こそ勝ち越すわよ!」
 「フッフッフッ、甘い。返討ちにしてくれるわ」
 バチバチッと視線で火花を散らすゆかりと麗美。
 「うーん、バトミントン勝負のことは6時間目のお楽しみとして、麗美ちゃんは日直だから、今朝は早めに登校したほうがいいんじゃないですか?」
 おっとり天然気味に見えて、悠子は案外しっかり者だ。この3人組のなかでも、おもしろそうなことに率先して飛びつくゆかりと彼女に引きずられがちな麗美のお調子者コンビに、きっちり釘を刺す。
 「あ、そうだった! じゃ、あたし、先に行くわね」
 バタバタと小走りに駆け出す麗美に「がんばってねー」と声援を送りつつ、ゆかりは悠子と仲良くおしゃべりしながら登校するのだった。

 大のおとなが六年生とは言え小学校に通って授業を受けるなんて退屈──かと思いきや、あにはからんや、“六年二組・出席番号2番の出雲ゆかり”という立場になっている彼女は意外なほど小学生ライフを満喫していた。
 本人は未だ気づいていないが、由佳との立場交換に伴い、30過ぎた成人女性として本来持っていたはずの知識のいくらかが消失していたため、担任教師による授業を新鮮な気持ちで聞くことができたのが理由のひとつ。
 そしてもうひとつは、“出雲縁”の本来の小学生時代に起因する。
 結婚してかわいい娘もできた現在の姿からは想像もつかないが、実は子供の頃の縁は、由佳以上に小柄でやせっぽち、かつ内気で地味な少女だったのだ。
 いじめられてこそいないものの、うつむきがちで友達も非常に少なく、放課後もまっすぐ家に帰るような、さびしい小学生生活を送っていた。
 これではいけないと一念発起して、中学進学と同時に前髪を上げ、思い切って運動部に入部し、体を鍛えつつ少しずつ社交性を磨いた結果、小学生時代とは別人のように明るくなれ、友達も増えた。
 その結果、高校でテニス部に入るころには、完全に「クラスの男子の憧れの美少女」と化し、イケイケ(死語)なハイスクールライフを送ることになる。
 で、短大進学後、夫となる藍一郎とコンパで出会い、つきあい始めて、卒業直前に妊娠が発覚、卒業後即ゴールイン──となるわけだ。
 話を元に戻すと、そういう過去があったため、縁は小学生時代の“八幡縁(じぶん)”があまり好きではなかった。
 しかし、今、“出雲ゆかり”として、成長後の社交性や要領の良さを持った状態で楽しい小学校生活(スクールライフ)を送れることに、非常に満足し、本来の立場も忘れ気味なほどのめりこんでいたのだ。
0444『ナイショなカンケイ』2016/06/28(火) 23:50:42.69ID:htQISJtF
 しかし、ゆかりは気づいているだろうか?
 「根暗だった小学生時代(あのころ)の自分(きおく)なんか忘れたい」と無自覚に願うことで、現在の暮らしによる当時の記憶の上書きが起こり……それに伴って、精神面での小学生化が、より進行していることに。

 「あ、今日休んでる人の分のプリン、もーらいっと!」
 「こらぁ! ゆかりん、何勝手に持ってっちゃってるのよ!」
 「そうだ、ズルいぞ、出雲! ここは公平にジャンケンだろ!!」
 ──ぎゃあぎゃあ、わあわあ……と、麗美や他の男子生徒たちクラスメイトに混じって、たかだか給食のデザートのことで騒いでいる彼女は、たぶんまったく気付いていなさそうではあるが。

#ゆかりの友人たちは元になった某キャラの外見を小学生化したものを考えてください。
0445名無しさん@ピンキー2016/07/10(日) 00:19:52.95ID:/CsQ68Ul
某所で皮ものの亜流というか、顔だけ写し取ってなりすます(それも男が女に)系の話を見たんだけど、
この場合は、さすがにココの範疇から外れるのかなぁ。
0446『ナイショなカンケイ』2016/07/10(日) 12:15:59.92ID:/CsQ68Ul
#いくつか小ネタを思いつきつつも、続きを投下します。

-09-

 “母”としての由佳と“娘”としてのゆかり──出雲親子は、それなり以上に“現状”に順応し、にぎやかだが快適な日々を送っていたのだが……。
 その仮初の平穏は、一本の電話によって破られることになる。

 それは、ふたりの立場が入れ替わってちょうど7日目となる土曜日の夜。

──prrrr…………!!!!

 軽快な呼び出し音を奏でる電話の受話器を、洗い物を終えてちょうど居間に入って来た由佳が取り上げた。

 「はい、出雲でございます……あっ、藍一郎(あいいちろう)さん?」
 「!」
 父(本来は夫)の名前が由佳の口から出たのを聞いて、ゆかりもテレビのバラエティ番組から視線を外し、由佳の言葉に耳を傾ける。
 「そう、そうなの……ふふっ、もちろんうれしいわ。でも、あまり無理はなさらないでね」
 にこやか──というか、喜びを満面にたたえた笑顔で、由佳は電話の向こうと会話している。
 「ゆかりもいますよ。替わりましょうか? え? 「ゆかりと話すと長くなりそうだし、国際電話は高いからいい」?」
 それを聞いて、ワクワクしていたゆかりの顔が一転、ガッカリした表情になる。
 「じゃあ、おやすみなさい。月曜の夜は、あなたの好物の肉じゃがを作って待ってますから」
 優しい声でそう伝えると、由佳は夫(本来は父)からの電話を終えた。
 「──パパからだよね。なんだって?」
 電話を替わってもらえなかったので内心ちょっぴり拗ねていたものの、好奇心には勝てず、ゆかりが由佳に尋ねる。
 「お仕事が予定より早く終わったから、来週の月曜日には帰れるんですって」
 「へー、そうなんだ。出張先ってフィリピンだっけ? お土産何かなぁ」
 「そうねぇ、南国系のドライフルーツとかお菓子が定番かしら。あとはココナッツオイルとかが多いみたいですね」
 そんな会話を交わしつつ、およそ半月ぶりに会える夫/父の顔を想像して、心が弾む由佳とゆかり。

 しかし、彼女たちは気づいているのだろうか?
 これまで母娘ふたりきりで過ごしてきた家庭に、出雲藍一郎という異分子(家族なのにそう呼ぶのは変な話だが)が加わることで、大きな変化がもたらされるだろうことに。
 “娘”であるゆかりはともかく、“妻”である由佳が、“夫”に対して(特に夜)どう接するべきなのかという極めて重要な問題に。
0447『ナイショなカンケイ』2016/07/10(日) 12:16:45.73ID:/CsQ68Ul
 一方、出張先のマニラでは、妻と娘の複雑な事情を(当然ながら)知らない藍一郎は、ふたりへの土産をトランクに詰め直そうとして頭を抱えていた。
 いつもお菓子や果物では芸がないだろうと、ちょっと奮発して、“テルノ”と呼ばれるフィリピンの女性用民族衣装(裾の長い半袖ワンピース)を購入してみたのだが……。
 「僕はどうしてこんなデザインを選んだんだろう」
 “妻”である由佳は、その小柄な体格を考慮すると、ある程度選択肢が限られるのは仕方ないが、それでもこの真っピンクでフリルが満載の子供っぽいデザインはない。
 逆に、小学生ながら大人顔負けのプロポーションを誇る“娘”のゆかりとは言え、サーモンベージュで無地のデザインは渋過ぎるし、胸元が大きく開き過ぎなのも問題だ。

 ──無論、これはふたりの立場が交換される前、フィリピンに着いて早々に藍一郎が購入していたからだ。
 電話をして由佳と意思疎通することで、彼も速やかに立場交換による環境変化の枠に組み込まれたのだが、日本から遠すぎるせいか、その影響が完全には及ばなかったらしい。
 「買い直すべきか、それとも開き直って「このサイズだとこういうデザインしかないんだよ!」で押し通すべきか……」
 当事者以外から見れば割とどうでもいいことで悩む彼は、この時、まだ平和だったと言えよう。
0448名無しさん@そうだ選挙に行こう! Go to vote!2016/07/10(日) 13:29:55.13ID:o4yeBoCH
いつもお疲れ様です。

「テルノ」ってググったら本当にあるんだね。
登場人物の元ネタからして
てっきりあのおてんば恋娘が着てるようなヤツかと思ったのにw
0449『ナイショなカンケイ』2016/07/24(日) 15:50:35.40ID:xanYS282
#いよいよ皆さん待望(?)のHシーン。まぁ、所詮私が書くものなのでヌケる保証はありませんが……。

-10-

 さて、その藍一郎が帰宅する予定の月曜日の正午。
 「フンフンフ、フーン、フーンフフーン♪」
 出雲家の台所には、鼻歌混じりに上機嫌で昼食の洗い物をする由佳の姿があった。
 白いジョーゼット地のフレンチスリーブブラウスにブローチに似たループタイを締め、ボトムはサイドスリットの入ったグレイのミディスカートと、ちょっぴりいつもの普段着よりオシャレだ。
 おそらく、半月ぶりに夫(本来は父)に会えることに浮かれているのだろうが……。

──ピンポーン!

 ちょうど洗い終わったところで、玄関のチャイムが鳴った。
 「はーい、どなたですか?」
 水道を止め、インターホンを覗き込んだ由佳の目に映ったのは、トランクを脇に置いた“夫”──出雲藍一郎の姿だった。
 『やぁ! 会社に寄らず、直接帰って来たよ』
 「藍一郎さん!? 今、開けます!」
 慌てて玄関へ移動……する前に、エプロンを外し、洗面所の鏡で服と化粧に乱れがないか確認するのは、久々に逢う“愛しい夫”に情けない姿は見せたくないという女心だろうか。
 ほんの僅かな寄り道の後、玄関の鍵を外すと、ドアを開けてこの家の主が入って来た。
 「ふぅ……ただいま、由佳♪」
 「お帰りなさい、藍一郎さん(はぁと)」
 ニッコリ微笑み合う、結婚13年目にして未だ鴛鴦夫婦を地でいくと近所でも評判の出雲夫妻。語尾に音符やハートマークが付きまくりだ。
 ──元の縁&藍一郎夫妻の仲も決して悪くはなかったのだが、現在、例の立場交換で由佳が母、ゆかりが娘となっている。
 その結果、ややファザコンの気(ケ)があった由佳とひとり娘を溺愛していた藍一郎の組み合わせにより、それをはるかに上回るラブラブっぷりを振りまくバカップルが爆誕しているのだった!
 「会社は大丈夫なんですか?」
 「ああ、部長には連絡を入れてある。「明日からまたこき使ってやるから、今日はそのまま家でゆっくりしてろ」だそうだよ」
 そんな会話を交わしつつ、由佳が藍一郎の脱いだ背広を受け取り、ハンガーにかけ、さらに家用の普段着をタンスから出して渡す。
 藍一郎が着替えている間にコーヒーを淹れ、ダイニングに向かい合って座り、出張中の彼の苦労話を聞いたり、逆に日本に残った母娘(ふたり)の近況を話したりする。
0450『ナイショなカンケイ』2016/07/24(日) 15:51:22.84ID:xanYS282
 穏やかな午後のひととき……だが、この夫婦はふたりともまだ若い(まぁ、由佳の場合は、本来は幼いと言うべきか)。
 ひと心地つき、家にふたりきり、今すぐやらないといけないこともない、しかも半月ご無沙汰(藍一郎も出先で風俗などに行ってない)──となれば、まぁ、そういう雰囲気にもなってくるワケで。
 「……」「……」
 無言で見つめ合うふたり。
 視線で問いを投げかけつつ、夫が妻の手をそっと握り、それを恥ずかしそうに妻がキュッと握り返すのが、この夫婦の“合図”だ。

 藍一郎は立ち上がると、テーブルを回って、由佳の腰掛ける椅子へと近づいた。
 そのまま彼女の小柄な体を抱え上げ、いわゆる“お姫様だっこ”の体勢のまま1階奥の夫婦の寝室へと運び、綺麗に整えられたベッドの上へと下ろす。
 恥じるような期待するような表情で由佳がそっと目を閉じ、顔を上に傾けてきたので、その期待に応えて唇を奪う。
 最初は軽いフレンチキス──だが、すぐにそれは互いを深く求めるような情熱的な口づけへと変わる。由佳の唇に覆いかぶせるように強く唇を重ね合わせた。
 「ん……んむっ……」  
 由佳が甘く熱い吐息を漏らしたことを確認すると、藍一郎は彼女の唇をこじ開け、その口腔内へと舌を挿し込んでいく。
 舌を伸ばして由佳の舌に触れると、彼女の側も、おずおずとではあるが懸命に応じてきた。
 舌を絡めつつ唾液を注ぎ込むと、由佳の側もこくりとそれを呑み込む。
 それだけのことで、まるで媚薬でも飲まされたかのように艶かしく紅潮した顔で、由佳が切なげに藍一郎を見上げてきた。
 「藍一郎さん……」
 「ふふっ、わかってるよ」

 藍一郎はいったん唇を離し、しどけなく力の抜けた由佳(つま)の身体をそっと抱きよせると、慣れた手つきでたちまちブラウスとスカートを脱がしてしまう。
 白いブラウスにグレイのミディスカートという清楚な服装とは裏腹に、その下にはワインレッドのブラジャーとショーツ、それに黒のガーターストッキングというアダルトな装いが隠されていた。
 「ふふっ、こんないやらしい下着をつけて……僕の可愛い奥さんは、いったい何を期待していたのかな?
 「ああっ、ごめんなさい、藍一郎さん……でも、久しぶりにあなたに逢えると思ったら、私、我慢できなくて……」
 まるで妖精のように華奢な肢体のいたいけな美少女に見える妻(本当は娘だが)に、そんなコトを言われて、燃え上がらない夫(おとこ)がいるだろうか?
 当然の如く藍一郎も鼻息荒くなり、自らの興奮を少しでも鎮めるべく、由佳の身体を、ギュギュッときつく抱きしめる。
 腰まで流れるしなやかなその髪に顔を寄せると、爽やかな柑橘系のフレグランスの香りに混じって、“発情した牝(おんな)”特有のフェロモン混じりの汗の匂いが漂っていた。
0451『ナイショなカンケイ』2016/07/24(日) 15:52:00.19ID:xanYS282
 「あン……藍一郎さん……うれしい♪」
 どうやら相手もソレを望んでいるようなので、今日は少しばかり激しくしても大丈夫そうだ。
 そう判断した藍一郎は、由佳の上に覆いかぶさるような姿勢になり、本格的に愛撫を始めた。
 まことに慎ましい大きさながら、それでもほのかに膨らんだ胸に手をやり、藍一郎はその部分の柔らかさを堪能する。  
 指先で、その「30歳を超えているとは思えない、まるで思春期の少女のように」なめらかな肌を愛で、撫でさすり、胸の先にある頂きをかすめさせる。
 敏感な性感帯である部位を揉みほぐされ、由佳はその快感に身を震わせた。
 「ひぁんっ! はぁ……はぁ、あぅ……」  
 由佳は藍一郎の指からの刺激に声を上げるのを懸命に我慢しているようだが、「性的な刺激に不慣れな小娘のように」まったく隠せていない。
 (そういうところが可愛いんだよなぁ)
 心の中でニマニマしつつも、顔は真面目に、藍一郎は由佳(つま)の愛撫を続ける。
 「あいいち、ろぅ…さん……むね、そんなにいじられ、たら、感じすぎます……乳首、こりこりになってて……ふぁぁっ!!!」  
 「くくっ、あいかわらず由佳は胸が弱いなぁ」  
 「ひぅン! だ、だめです、こんなはしたないとこ……あいいちろうさんにみられるの……はずかしい……」  
 「そうかそうか。じゃあ、もっといじって由佳を感じさせないとね」
 「はぅ……な、なんでっ!?」
 「だって──僕の奥さんはどんな時でもかわいいけど、快感を堪えながら、こらえきれずに喘いでいる時の顔が、一番かわいいから♪」  
 「ひゃっ!」
 指先を由佳の乳首のあたりに伸ばし、乳輪をなぞりながら乳首を弾いてやると、歓喜とも悲鳴ともつかない声をあげる。  
 「ぁふぅ! ……はぁ、はぁ……」  
 硬く尖った桜色の突起を親指と人差し指で摘み、軽く捻りあげると、由佳は、目を伏せ、羞恥のあまり顔を背けようとするが……。
 「っぁぁぁ、ふぁぁ……ぁッッ!」
 こちらを向いた耳を舌でぺろりと舐めあげると、そこも弱点だったのか小さな悲鳴を上げる。
 「ぅぅ……藍一郎さん、ヒドいです」
 両目を潤ませ、口をヘの字にして抗議されるが、そんな些細な仕草でさえ、どうしようもなく愛おしく、藍一郎はますます興奮させられた。  

 夢中になって愛撫を続け、滑らかな肌の上に掌を滑らせ、肉づきの薄い脇腹を経て、今にも折れてしまいそうなほど細い腰へと、そっと這わせていく。  「……っ、はぁ……」  
 口では文句を言いつつも、甘い吐息を漏らし続けていることから、彼女も感じていることがわかる。
 「んはぁっ……ふっ……んんっ、はぁ、ひあぁあっ……くっ……あうっ!」
 藍一郎の執拗な攻めを受け、由佳の理性も徐々に蕩けているのか、少しずつ口から洩れる声に歯止めがなくなっている。  
 妻の反応に気をよくした藍一郎は、優美な曲線を描く腿から彼女の下腹の中心部へと右手を移動させた。
 じっとりと濡れた秘部に存在する一筋の線を指先でたどり、その奥──最も敏感な部分に指を伸ばし、表皮に触れる。
 「ひあんっ!!」
 夫の指先に新たな快感を与えられた由佳は、それでも喘ぎ声を押し留めようと、右手を口元に宛がい、残る左手で純白のシーツを握り締めている。  
 そのいじらしいまでの恥じらいが藍一郎のさらなる劣情を誘い、熱く滾る血が腰の一点へと集中していく。
0452『ナイショなカンケイ』2016/07/24(日) 15:53:08.44ID:xanYS282
 「──藍一郎さん、いい、ですよ」
 彼の“窮状”を由佳が察したのは、さすが「長年連れ添った妻」だけあると言うべきか。
 「いいのかい?」
 「はい……もう大丈夫です。それに……」
 (私も、欲しいですし)と小声で付け加えられた由佳の言葉も、藍一郎の耳はしっかりキャッチしていた。
 「ぅ……(コレはヤバい、萌え殺される)……じゃ、じゃあ、遠慮なく」
 ラブコメマンガの主人公の如く鼻血を噴き出しそうな感覚に苛まれつつ、藍一郎は気を取り直し、ズボンとパンツを脱いで、自らの屹立を由佳の蜜口に宛がい、ゆっくり埋没させ始めた。  
 「ふぁぁ……あぁ、藍一郎さんのが……私の、入り口に……」  
 「このまま入れるよ」  
 「はい……はぁ……ぁああ」  
 先端部が、由佳の「経産婦とは信じられないほどに狭くてキツい」膣の中を、少しずつ割り入ろうとするが、窮屈な彼女のソコは藍一郎が前進するのを妨げるかのように強く押し返してくる。
 「由佳、もう少し力抜いて」  
 「は、い……」  
 力を抜いた由佳の濡れぼそった襞が、ようやく藍一郎の分身をゆっくり受け入れ始める。
 「くっ!(あいかわらず、すごい締め付けだ)」
 熱く、きつく、それでいて包み込まれるように深い。
 「一度でもこの由佳(つま)の膣を味わったら、もう他の女では満足できないだろう」と、感じる藍一郎。もちろん、浮気なんてする気はないのだが。
 「ぅぁぁ……藍一郎さん、が、はいって、きますぅ……」  
 さすがに「最愛の夫からの久しぶりの挿入」を受けては、貞淑な由佳も我慢しきれなかったのだろう。
 堰を切ったように、素直な感情の発露を口から垂れ流し始める。
 「ああ、由佳……気持ちいいよ」
 やがて、由佳は藍一郎の分身をすべて受け入れてくれた。

 「くっ……大丈夫か、由佳?」  
 優美な柳眉を寄せる由佳に藍一郎が問いかける。  
 「は、はい。心配いりませんよ、あなた」  
 汗まみれながら、ニコッと微笑み、そう答える由佳の顔は、たとえようもなく美しく、また愛しいものだった。
 身長172センチと平均的な日本人男性の体格とそれに応じた陰茎を持つ藍一郎に対して、由佳の身長は148センチ。小柄な体躯故に全部“入る”か心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
 (ん? 今更だよな。いつも、彼女とはキチンとできてるじゃないか)
 脳裏を掠めた違和感に一瞬ひっかかりを感じる藍一郎だったが、挿入したモノから伝わる快感に、すぐにそれを忘れてしまう。
 己が分身の先端が、最奥部──由佳(つま)の体の一番深いところをこづいてるのだ。男として冷静でいられるはずもない。

 「はぁ、はぁ……奥まで、はいり、ました……私のなか、藍一郎さんで、いっぱい、です……」
 いったん動きを止めた藍一郎側は、今やんわりと押しているだけなのだが、今度は由佳の膣肉の方が、招き入れた藍一郎自身を逃がさないとでも言うように、内側へ内側へと締め付けてくる。  
 その刺激に、藍一郎は、分身の根元からじわじわと堪えきれない快感が浸透してくるのを感じた。
 ちょっとした危機感を感じた藍一郎は、ならば反撃だとばかりに、ゆっくりとした前後運動を始める。  
 「もう十年以上も藍一郎との交わりに馴染みきった」由佳の身体は、浅い律動を繰り返しただけで、たちまち愛液が溢れ、湿った音が寝室に響き始める。
 「藍一郎……さん……」  
 由佳も無意識に腰を動かしふたりの交わりをより深く激しいものにしようとする。奥深くへと挿し込まれた藍一郎の分身に、彼女の膣壁が執拗に絡み付いてくるのがわかった。
0453『ナイショなカンケイ』2016/07/24(日) 15:53:49.60ID:xanYS282
 その快感に対抗するように、少しずつ腰の動きを速め、由佳の中から分身を抜いていき……完全に抜ける直前に、再び深く、勢いよく打ち込む!
 「ひあんっ!!」  
 ぎりぎりまで引き抜いて、一気に突く。それを、何度も繰り返していくと、むせるような濃厚な香りの蜜が由佳の中から溢れ出て、藍一郎の下半身に浴びせられる。  
 その匂いにさらに欲情をかきたてられながら、黒いストッキングに包まれた由佳の両足を小脇に抱え込み、引き抜き、押し込む動作を何度となく繰り返す。
 「はぁ……っぁぁぁ、ふぁぁ……ぁ、あいいちろ…さん、が、おくを……」
 強く圧搾しようとする由佳の膣内を、より深く、より早く往復する。  
 引き抜くときは完全に抜けて外れないように、押し込むときは先端が子宮口を突くほど深く──ふたりの動きは完全にシンクロして、夫婦の営みによる快楽をこれ以上ないほどに引き出していた。
 「あぁぁ、あなた……私、わたし……はぁあ、あぁぅぅっ!」
 一オクターブ高い嬌声は、彼女の限界が近いことを如実に示していた
 肌を煌めく真珠の汗が由佳の幼い美しさに、ほのかな妖しさを付け加えていた。

 「由佳、愛してるよ!」  
 藍一郎は、痛いと言われそうなほど強く由佳を抱き締めると、凄まじい勢いで腰を動かし、由佳の最奥部へと分身を叩き付ける。  
 「……んん、私もです……あっ、あっ……やぁ……はぅっ! ああッ!」  愛情と情熱、そして気遣いが感じられる藍一郎の言動に、由佳は肉体の悦楽とともにそれをも上回る深い歓喜を感じていた。
 じゅぶじゅぶと愛液に満ちた結合部が淫らな音を立てるなか、永遠とも思われた快楽にも、しかしついに頂点が訪れる。
 「ぁぁぁ、あいいち、ろ、さん、いっしょ、に……ぁぁ、ぁぁぁ……わたし、も、だから、ふぁぁ、ぁああ、っぁああ……」
 「ああ……っ、わか、た……ぼくも、もう……」
 由佳の懇願に、藍一郎も短い言葉でそう答えるのが精いっぱいだ
 「んっ! ……あ、ああああぁぁぁぁーーーーッッッ!!!」  
 ついに妻(むすめ)は震える腕で愛する夫(ちち)の体にしがみつくと、ギョッとするほど大きな叫びを上げて達した。
 腰の奥から脳髄に波及した快感の波にさらわれ、意識が完全にホワイトアウトしている。

 それとほぼと同時に。
 「っぅぁ……っ!」
 藍一郎も射精に至り、由佳の子宮の口にぴったり鈴口を押し付けて、びゅく、びゅくと熱い白濁を吐き出していた。
 「──ぁああああああああっ!!!」  
 イッたばかりの由佳の膣内が、藍一郎をさらなる力で締め付ける。
 これまで経験してきた中で一番かと思えるほどの強烈な快楽に、数秒経っても藍一郎の射精は止まらず、何度も何度も白濁が由佳の胎内に注ぎ込まれる。

 数十秒後、ようやく藍一郎の射精が収まり、由佳も白い空間から意識を復帰させる。
 あまりに深い快楽の余韻に、ぐったりと力が抜けながら、それでもふたりは繋がったまま、何度目かの熱い口づけを交わすのだった。
0455名無しさん@ピンキー2016/08/10(水) 01:41:12.60ID:+kRuEibU
命わずかのマンガ見て、観光バスの運転手♂とバスガイドの立場交換
……というネタが思い浮かんだけど、あんましギャップがないか。
修学旅行生のチャーターしたバスという設定で、セクハラすけべ
小僧な男子中学生が、バスガイドのお姉さんにちょっかい出そうと
して、立場交換されてしまう……の方が、おもしろいかな。
0458『ナイショなカンケイ』2016/09/01(木) 01:49:31.60ID:D3jVrbM7
#残り、ブログとかにもあげましたけど、一応、こっちにも。容量足りるかわかりませんが。

-11-

 “出雲ゆかり”が、その場面を目撃したことは、ある意味偶然であり──また、ある意味では(時間の問題という意味で)“必然の流れ”ではあったのだろう。

 「おかえり、ゆかり」
 その日、学校から帰ってくると、出張に行っていたはずの父が帰宅しており、なんだかとても幸せそうな母と一緒に迎えてくれたのだ。
 「あ、パパだ。ただいま〜。それと、パパもおかえりなさーい!」
 本来の“娘”の立場である由佳ほどではないが、この“出雲家のひとり娘”としてのゆかりも、父である藍一郎のことは決して嫌いではない。
 むしろ、ランドセルも下ろさずに駆け寄って抱きつくくらいには、父に懐いていると言ってよいだろう。
 「ねーねー、お土産は? お土産は?」
 ──まぁ、その行動の何割かは父の土産目当てだったようだが。
 「はっはっはっ、心配しなくてもいいよ。ちゃんと買って来てあるから」
 「ゆかり、先に手を洗ってうがいをしてから、ランドセル置いて着替えてきなさいね」
 「はーい」
 素直に母である由佳の言葉に素直に従い、ゆかりは洗面所に向かう。
 手洗いとうがい、それと洗面を済ませて子供部屋に戻り、小学校の制服を脱いで、白と紺のマリンボーダーの半袖ワンピースに着替える。
 短めのおさげに束ねた赤いリボンを解いて、姿見の前で髪を整えていると、ほんの一瞬だけ奇妙な感慨が湧いてくる。
 「あたし……本当は“パパの奥さん”のはずなのに、こんな格好で小学生の娘として接しちゃってるんだ……」
 久しぶりに自分の“本来の立場”を思い出しはしたのだが、どうにも自分が本来は“藍一郎の妻”だという実感が持てない。
 (そりゃ、パパのことは好きだけど……あくまで“お父さん”として、だよねぇ)
 結婚式で隣に立つのではなく、祭壇まで腕を組んで連れて行ってくれる男性。
 そして、その時、祭壇の前で待っていて誓いのキスをしてほしい相手と言えば……。
 (きゃーーーーっ、ダメダメ、何考えてるのよ、あたしは!)
 無意識に「クラスでちょっと気になる男の子」の顔を思い浮かべてしまい、頬を赤らめてベッドに突っ伏し、足をバタバタさせるゆかり。とても、本来33歳の経産婦だとは思えぬウブさだ。
 無論、これは立場交換に伴い、“大人の女”としての恋愛経験その他の記憶の大半が、由佳に移動してしまったせいなのだが。

 その後、1階のリビングに来たゆかりは、約束通り“父”が買って来たフィリピン土産の洋服を見て喜んだり、同じくお土産のドライマンゴーを食べて微妙な表情になったりする。
 ちなみに、前者に関しては、結局、藍一郎は店に行って買い直したらしく、由佳用にはシックな臙脂のテルノ、ゆかり用には明るい水色のテルノが渡されて、母娘とも満足したようだ。
 後者については、お子様味覚になってる今のゆかりとっては、それほどおいしく感じられなかったらしい。逆に由佳や藍一郎本人は割と気に入ったようなのだが。

 父の土産話で盛り上がった夕食の後、明日も普通に学校があるゆかりは、部屋で宿題を(頭をひねりつつ何とか)済ませてからお風呂に入り、髪を乾かしながらテレビを観る。
 「そう言えば、パパやママたちはお風呂、入らなくていいの?」
 「ん? あ、ああ、パパは家に帰って来たあと、汗とかでベトベトだったからもう入ったんだ」
 「ママも、沸かしたお湯がもったいないから、その時にね」
 なんとなくふたりが慌てているみたいなのは気のせいだろうか。
 (! もしかして、パパとママ、ふたりいっしょに入ったのかな?)
 出雲家の風呂は、湯船は平均的な大きさだが、洗い場はやや広めに作られてるので、ふたりの人間がいっぺん入ってもそれほど窮屈ではないだろう。
 (照れてるのかな? ヘンなの。パパとママは夫婦なんだから、別に一緒にお風呂に入ってもおかしくないのに……)
 先ほど自室で一瞬“本来の立場”について思いだした時と異なり、今のゆかりは完全にふたりの愛娘になりきっており、無邪気にそんなことを考えるばかりだ。
 「ふーん。じゃ、あたし、そろそろ寝るから。おやすみなさーい!」
 “父と母”に挨拶して自室に戻り、最近お気に入りのパジャマ──胸元にレース飾りが付いたピンクの半袖チュニック風トップと、同じ色でフリル満載のドロワーズ風ボトムに着替えて、ベッドに入る。
0459『ナイショなカンケイ』2016/09/01(木) 01:50:19.34ID:D3jVrbM7
 そのまま、いつもなら朝までぐっすり……のはずなのだが、久々に“父”と会ってはしゃいでいたせいか、夜半過ぎ──午前1時を少し過ぎた頃、ふと目が覚めてしまったのだ。
 ちょうど喉も乾いたので、冷蔵庫の麦茶でも飲もうと階下に降りたゆかりは、一階の奥、“両親”の寝室から何か物音がするのに気づいてしまう。
 (あれ、何だろ。パパとママ、まだ起きてるのかな?)
 「呻くような声とギシギシと何かが軋む音」を不審に思ったゆかりは……足音を殺して両親の部屋に向かい……そして、ドアの前ではっきりと聞いてしまうのだ。
 
 「──ひぁあっ! あ、あなた! 私、もぅ……」
 「……最高だよ、由佳! くっ……もう、イキそうだ」
 「キて! 私の中に、いっぱい出してぇ」

 いわゆる“ギシアン”──「ギシギシ」と「アンアン」に「ぬちょねちょ」と湿った音の追加まであっては、さすがにゆかりも、そこでナニが行われているのか、おおよその想像はつく。
 真っ赤になって、あわてて自室まで(一応、足音を忍ばせつつ)駆け戻るゆかり。
 「──あ、アレって……そういうコト、だよね?」
 小学六年生ともなれば、保健体育の時間にひととおりの性教育も受けており、また友人たちとの会話でそのテの話題が出ることもあって、性交(セックス)のの何たるかくらいはおぼろげに理解している。
 そう、“おぼろげに”だ。
 今のゆかりは、恋愛関連同様、六年生の女子小学生という立場相応の性知識しか持っていないので、「男女が裸で抱き合ってキスしたり色々する」くらいのぼんやりしたイメージしか持っていないのだ。
 無論、小六でもそちら方面に好奇心旺盛な子なら、男子はエロ本、女子アダルトレディコミなりを見て、耳年増ならぬ読年増になってたりするものだが、このゆかりは、そちらはてんで“オネンネ”だった。
 なにせ、立場交換して以来、一度も自慰行為すらしていないくらいなのだから……。
 そんなゆかりも、両親の交わりを目撃(正確には音を聴いただけだが)したことには、それなりの衝撃を受けたらしく、動悸が早まり、布団の中で無意識に下肢を擦り合わせていた。
 (えーと、確か……悠子ちゃんの話だと……)
 おずおずと左手をその豊満な胸に、右手をパジャマの上から股の付け根の交差地点へと伸ばすゆかり。
 「あっ……んはぁっ!」
 本来なら、歳を経て性的にそれなり以上に成熟しているはずの彼女の性感は、しかし現在の立場を反映するが如く未熟なものとなっている。
 胸のつぼみも、娘ひとりを産み育てたとはとても思えない可憐な淡いピンク色をしており、ゆかりの拙い愛撫にも敏感に反応する。
 そして、股間への接触は……。
 「ひぁんっ! ぅぅ……刺激が強過ぎるよぅ」
 どうやら、まだ少し“この子”には早かったらしい。
 それでも胸への愛撫を中心とした“はじめてのおなにー”で、軽くではあるが“イった”ゆかりは、そのまま今度は夢も見ない深い眠りに就いたのだった。
0460『ナイショなカンケイ』2016/09/01(木) 01:51:08.06ID:D3jVrbM7
-12- 

 出雲家の母娘が、“お社の神様”のちょっとした早とちりで立場を交換してから、3ヵ月あまりの時間が流れた。

 「じゃあ、パパ、ママ、いってくるね!」
 「うん、行ってらっしゃい。僕たちも、お昼頃からそっちに行くよ」
 「いってらっしゃい。ゆかりちゃんのお姫様、楽しみにしてますからね」
 「も〜、“ぷれっしゃぁ”かけないでよ、ママぁ。でも……うん、ガンバる!」
 白の長袖ブラウスと前に6つ飾りボタンの付いたグレーのジャンパースカート、足元は黒のニーソックスという秋用女子制服がよく似合っている少女は、元気に家を飛び出していく。
 今日は土曜日だが、第三小学校の文化祭のある日で、彼女の“両親”も娘の晴れ舞台(クラス演劇のヒロイン役に抜擢されたのだ!)を観に駆けつける予定だ。

 そして互いの呼び方から推察できるだろうが出雲母娘──由佳とゆかりは、未だに立場を交換したままだった。
 ──と言うか、すでにふたりとも現在の状況に順応しきって、元の自分の立場をほとんど忘れ去っているといってもよいだろう。
 あるいは、再びあのお社に足を踏み入れれば立場交換のことを思い出すかもしれないが……たとえそうなっても、ふたりが“今の立場”を手放して元に戻りたいと願うかは疑問だろう。
 なぜなら……。

 「あ! おはよー、ゆっこ、レミ。学校までいっしょに行こ」
 「おはようございます、ゆかりちゃん。ええ、もちろんですわ」
 「おはよう、ゆかり──へぇ、ずいぶん張り切ってるじゃない。そんなに白雪姫役になれたことがうれしかったの?」
 いつもの友人ふたりと合流して、文字通り女の子3人でかしましくおしゃべりしながら学校へ向かう。
 「違いますよ、れいみちゃん。ゆかりちゃんはお姫様役になれたこと自体よりも、王子様役(おあいて)が崑伯くんなことが……」
 「ちょ、ま、待ってよ。ゆっこ。誰も、陽介くんのことが好きだなんて言ってないでしょ!」
 「……いま、言ったようなものだと思うわよ?」
 「……………あっ! ち、違うの、違うからね!!」
 ──まぁ、此方はこんな感じだ。どこぞの少女漫画で描かれそうな、「12歳のピュアな恋愛」しているゆかりが、元の“30代初めの退屈な専業主婦の生活”に戻りたいとは思うまい。
 余談ながら、ゆかりの思い人である崑伯陽介の方も彼女のことを憎からず思っており、小学校卒業直前に彼から告白してめでたくカップルとなり、中学進学後もその交際は続いていくことになったりする。

 一方、その“33歳主婦”の立場となった由佳の方はと言えば……。
 「ところで、由佳、体調のほうは、本当に大丈夫なのかい?」
 「ええ、もちろんですよ、藍一郎さん。つわりは先週くらいからほとんど治まってますし……。でも、そろそろマタニティドレスとかを買いに行った方がいいかもしれませんね」
 「だったら、ゆかりの学校から帰る途中、駅前のファッションセンターに寄ろうか?」
 「ええ、そうしましょう」
 ──此方は、どうやら“おめでた”のようだ。そりゃあ、あんな調子でほとんど毎晩やることヤってれば、妊娠もするだろう。
 幸い……と言うか何というか、立場交換の結果、この由佳には娘(ゆかり)を産み育てた記憶と経験が(因果律の修正によって)備わっているので、“初産の時”ほど苦労はせずに済みそうだ。
 縁以上に母性本能あふれる(そして旦那様とも熱々な)この由佳が、夫と胎児(こども)を手放すなんてことも、およそありそうにない。

 実際、これからおよそ7ヵ月後の五月下旬に、由佳は無事に男児を出産し、出雲家に4人目の家族が加わることになる。
 夫である藍一郎はもちろん、中学に入ったばかりのゆかりも、弟ができてお姉ちゃんになったことを喜び、いろいろな面で母を手伝うようになる。
 そのおかげで家事(とくに料理関係)の腕前が(立場交換前以上に)上がり、彼氏である陽介の胃袋(ハート)を、手作り弁当などでさらにガッチリ掴むことができたので、結果オーライと言えるだろう。

 こうして出雲一家は、長男が生まれたあとも、騒がしくも仲良く暮らしていくのだった。

〜おしまい〜
0461名無しさん@ピンキー2016/09/01(木) 01:53:07.09ID:D3jVrbM7
#意外に足りました。スレ限界って640KBじゃないのね。
#次は、怪盗ネタかバスガイドネタかなぁ
0462名無しさん@ピンキー2016/09/01(木) 10:36:46.34ID:NhNy3wrP

元に戻ったかどうなんだろう…w
ずっとそのままなのかな
0463名無しさん@ピンキー2016/10/06(木) 20:34:39.02ID:DlAhQSWl
今はどうか知らないけど家庭科の教科書でゴーグルや重りつけて高齢者の立場を体験しようみたいな項目があったのを思い出した
立場交換が実現できれば近くの老人ホームのお年寄りに協力してもらって体験授業やったりするのかな
0464名無しさん@ピンキー2016/10/08(土) 02:09:14.24ID:gSE8cGg8
最近の『君の名は』ブームにあやかって、あのネタを立場交換風に料理してみると……。

 某映画のごとく、いかにも女の子の私室という感じの知らない部屋で目覚める主人公。長い髪と女物のパジャマを着ていることから、「もしかしてどこかの少女と入れ替わったのか!?」と思い至る。
 起こしに来た見知らぬ“妹”の存在で確信を深めるが、パジャマを脱いでみると、身体そのものは元の男のままだった。鏡に映る顔も、ちょっぴり色白で眉毛も細いが、よく見れば自分の顔だ。
 実は、「東京に住む男子高校生」である主人公は、「地方の町に住む女子高生」と“立場”が入れ替わっていただけなのだ!

 ……てな感じか。
0467名無しさん@ピンキー2016/10/09(日) 11:44:24.94ID:tj4iSeH2
 某館脱出ゲームをプレイしていて思いついた妄想。
 「V」と呼ばれる吸血鬼が夜の街を跋扈しているとの噂で、教会側は躍起になって捜している。
 満月の夜、教会の新米エクソシストの少年が、偶然その女吸血鬼と遭遇し、何とか退治しようと試みるが失敗。女吸血鬼に捕まり、血を吸われて意識を失ってしまう。
 意識を取り戻した時、少年は暗い地下室の中にいて、なぜかあの女吸血鬼の服(某妖怪人間ベラみたいなドレス&マントのセクシー系、もしくは某ヴァンピィちゃんみたいな童貞を殺す服系)を着せられている。
 「一体何が!?」と驚く少年の横にはあの女吸血鬼からの手紙が。いわく、あの女吸血鬼には特殊な能力があり、満月の夜に波長の合う人間の血を吸うことでその“立場”を奪う(正確には交換する)ことができるのだという。
 『あなたのおかげで、ようやく人間に戻れたわ♪ その代わり、今はあなたが“街を騒がす女吸血鬼V”だから注意してね』
 そう、あの女吸血鬼も元は人間だったのだ。
 『ちなみに、念入りに捜したけど、この街で私と波長の合う人間はあなただけだったの。立場交換は同じ者同士で二度行うことは不可能だから、人間に戻りたいなら、別の街に行って自分と波長の合う人間を捜しなさい』
 慌てて地下室から出ようとする少年だったが、本能的に日光の下に出たくないと体が拒否し、扉を開けられない。
 数時間後、ようやく陽が落ちかけた黄昏時に外に出ることができたが、ほとんど沈んだわずかな夕陽の光を浴びることさえ苦痛に感じてしまう。
 さらに、慎重に自分が所属する教会の寮(教会そのものは頭が痛くて近寄れなかった)を覗き見ると、そこには自分のカソック(司祭服)を着て、自分の友人達と談笑しながら食事するあの女吸血鬼の姿が……。
 どうやらあの手紙に書いてあったことは真実らしい。
 こうして、新たな「女(?)吸血鬼V」となってしまった少年は、元に戻る手段を捜してあてどない旅に出ることになるのだった……。

 ──てな感じ。エピローグは数年後。新米エクソシストのシスター(もしくは王都を護る姫騎士)と対峙する“V”。
 「やっと見つけた! 広域手配魔物・ヴァンピレス“V”。神の御名において成敗します!」
 「ふふっ、貴女にできるかしら?(そう、この子が私の……なら、殺さないようにしないとね)」
0470名無しさん@ピンキー2016/10/09(日) 14:58:20.68ID:GuAlXKNT
立てられる奴が立てとけよ
立てられないなら無駄な書き込みするな
0472名無しさん@ピンキー2016/10/30(日) 21:11:56.39ID:+MwchFVK
さすがに過疎りすぎやない?
0473名無しさん@ピンキー2016/10/31(月) 18:30:25.31ID:0/7LQ+p5
容量が〜って書いてあったから書き込まなかったんだけど
一応新しい?スレ立ってるけどどうすればええの
0474名無しさん@ピンキー2016/10/31(月) 19:58:07.88ID:0IW076Um
容量の仕様があんまわからんからあれだがとりあえず容量限界までこっち使えばいいんじゃないかな?
にしても・・・やはり容量制限の言葉で書き渋ってた人がいたか
0475名無しさん@ピンキー2016/11/01(火) 07:45:46.24ID:WiNcEpKc
>>463
これ読んでふと想像したんだけど、小学校での社会見学とか、中学校での職場体験みたいに、
授業の一環で社会人と立場交換して社会を体験する「立場交換学習」って感じのやつ。
子供たちの「なりたい職業」に実際になっている大人と、1〜3日くらいの短い期間で立場交換するの。
男子の「キャビンアテンダント」とか、女子の「おすもうさん」なんかも認められる感じの。
ただ単に、立場交換された大人たちが教室に居る風景が見たいというだけの話なんだけど。

「それじゃあ授業を始めるぞー」
担任はそう言って教科書を開き、教室内の子供たちを見回した。
一見するといつもと変わらない教室の光景なのだが、
よくよく見れば、子供用の席に座っているのは全て大人であった。
校則に従った白いシャツに、男子は半ズボン、女子は膝丈のスカートを着ているのだが、
中には男子の服装をした女性や、女子の服装をした男性も混じっている。
大人たちは、二十代と思われる若者もいれば、明らかに還暦を過ぎた老人も混じっているが、
立場交換学習で子供たちの立場になった彼らは、意識せねばそうと分からないほど子供にしか見えず、
まるで四月からずっとこのメンバーで一クラスだったかのように、教室の雰囲気に自然に馴染んでしまっていた。
担任は、彼らの中に見知った顔があることに気付いた。
野球部の原田の席には、現役プロ野球選手の田中選手が座っていた。
男子クラス委員の山西の席にいるのは、なんと総理大臣の阿部だった。
女子はアイドルや芸能人と立場交換した者が多いようだが、
PTAの会議や家庭訪問で何度か見かけた、子供たちの親の顔もわずかに見られる。
驚いたのは、女子の中でも大人しくて目立たない仲川の席にいるのが、
担任自身も見知った、この学校の校長だったことだ。
信楽焼の狸のような太ったオヤジが、スカートから毛むくじゃらの足を覗かせている。
普段なら有り得ない爆笑必至のその格好だが、今の校長は仲川の立場になっているせいで、全く違和感が無い。
「先生、早く授業を始めてください」
「ああすまんな。それでは36ページを……」
最前列に座っていた、女子クラス委員の木本に言われて、担任は授業を始める。
(すごい。わたしと立場交換した先生も、元から女子だったみたいにしか見えないのね)
立場交換前は木本という女子だった担任は、心の中でそう思った。

みたいなやつ、ください。
0476名無しさん@ピンキー2016/11/13(日) 18:12:40.69ID:R52xNsI8
かなり前にネタフリしたモノの冒頭部を書いてみました。ややベタ過ぎるネタなので、続きは未定。

『ボクがバスガイドになったワケ』

 千年の歴史を持つ古都・京都……と言えば聞こえはいいが、実は盆地にあるため、夏はクソ暑く、冬は底冷えがする、気候的にはあまり快適とは言い難い土地だったりする。
 そのため、7月下旬ともなればうだるような暑さのせいで、折角の休日もおちおち朝寝もしてられない。
 「ふぁーーっ……おはよぅ、母さん。今日も暑いなぁ」
 台所では、母の妙子がFMラジオを聞きながら皿洗いをしていた。
 「今年の夏はこのまま猛暑になるらしいで。いややわぁ……って、なんやの、愛子、その格好は!」
 ショーツ1枚の上に寝間着代わりの大き目のワイシャツを着ただけとという就寝時の格好のまま階下に降りてきたのは、“年頃の娘”としては少々慎みに欠けるかもしれないが、どうせ朝ごはんを食べたらシャワーを浴びるつもりなのだから、着替えるのも億劫だ。
 「父さんは、今日はもぅ出勤してるんでしょ? たまの休日なんやから、大目に見てよ」
 「もぅ、横着してからに、この子は。それに、お父さんはエエとしても、明日からは孝雄くんが来るんやで」
 ! 
 「そっか……そんな話、昨日してたねぇ」
 孝雄──“須賀孝雄(すが・たかお)”は母の妹の2歳下の息子、つまり従弟ということになるだろうか。
 年が近く、お互いひとりっ子ということもあって、幼い頃からワタシたちは姉弟みたいに仲がよかった。
 夏休みには“孝雄”が京都にある呉多家(ウチ)に来て数日間泊まり、代りに冬休みには“愛子”が神奈川県の須賀家にお邪魔する……というのが毎年の恒例行事みたいになっている。
 もっとも、就職したての新人バスガイド1年生だったワタシは、昨年末は仕事のローテーションが巧く合わなかったため、渋々神奈川に行くのを断念したため、“彼”と会うのは一年ぶりになる。
 「タカちゃん、今年高3のはずやのに、この時期にこっち来るなんて余裕あるのかなぁ」
 「大丈夫ちゃう? 智那の話やと、国立志望やのに模試の判定は軒並みAらしいで」
 それは凄い。このままなら、やはり東大を目指すのだろうか。
 そんなコトを考えつつ、もしゃもしゃと味噌汁とお漬物と炊き立てのごはんからなる朝食を平らげる。
 女性としてはそれなりの量だが、ああ見えてバスガイドは結構ハードな仕事なので、これくらいは食べないとやっていけないし、幸いにしてそれほど太りやすいタチでもない。
 (……なーんて、会社で先輩とか同僚のコに言うたら、殺気の籠った目で見られるんやけどね)
 歯を磨き、軽くシャワーを浴びてから、バスタオルを巻いたままドライヤーで髪を乾かす。
 腰近くまで伸ばした濃い蜂蜜色の髪は、手入れに相応の時間がかかる。ちなみに、アメリカ人の母方の祖母からの隔世遺伝らしく地毛だ。
 小さい頃は、周囲の子たちに「ガイジン」とからかわれたり、中学で染めたものと生徒指導に疑われて難癖つけられたりと、色々あったけど、大人になった今ではチャームポイントとして受け入れてるし、むしろ大切にしている。
 「とは言え、さすがに夏場はちょっと暑いんよねぇ。ちょっとは短くしたほうがエエんんかなぁ」
 思案しつつも下着を着け、自室に戻って通勤用の白いワンピースに着替える。
 そのまま鏡台の前に座って、UVケアを考慮した夏用のメイクをしながら、鏡の中に映っている自分の貌を見て、ふと苦笑が漏れた。
 「あれから1年ちょっと、か。すっかり慣れてしもたなぁ」
 その姿は、金髪碧眼で(多少のうぬぼれ込みで言うなら)それなりに整った顔立ちをした二十歳前後の若い女にしか見えない。
 身長168センチと女性にしてはやや長身だが、悪目立ちするほどでもなく、(甘いものを食べ過ぎた時とかは別にして)スタイルもそう悪くはないと自負している。
 もっとも、ほんの一年ほど前──正確に言うなら去年の五月半ばまでは、ワタシは“呉多愛子(くれた・あいこ)”ではなく、それどころか女でさえなかった。
 では、何者(だれ)だったのかと言えば……先ほど母の話にも出て来た、愛子の従弟である男子高校生の孝雄だったのだ。
 そうなると、今の“須賀孝雄”が誰かも予想がつくだろう。そう、本物の呉多愛子だった女性だ。
 つまり、ワタシ達、もといオレ達ふたりは互いの立場を交換して暮らしているのだ──もっとも、オレ達以外の人間は、その事実にまるで気が付いていないが。

 何故、そんな奇怪(けったい)なコトが起こっているかと言えば……愛子──本物の愛子ねーちゃんが、あやしげなおまじないグッズを買ってきたことが事の発端だった。

<つづく?>
0478『ボクがバスガイドになったワケ』2016/11/23(水) 10:45:10.77ID:5i0nhBo7
#肝心のシーンの前の前振り〜

 高校2年生の春──正確に言えば、5月のゴールデンウィークが終わって早々に、須賀孝雄が通う私立白守高校の修学旅行があった。
 修学旅行といえば、通常は小中高で各1回の合計3回しか生涯に経験できないレアイベントである。よほどの出不精かコミュ障、もしくはひどいイジメを受けているなどと言った特段の事情がない限り、普通の学生なら大なり小なり楽しみにしているものなのだが……。
 「高校生にもなって京都はないよなぁ」
 横浜駅から京都まで新幹線に乗る孝雄のテンションは妙に低めだった。
 別に、孝雄が前述の3条件に引っかかるワケではない。むしろ、(多少お調子者と見られることはあるが)どちらかと言うとクラスのムードメーカーとか盛り上げ役といった立ち位置にあり、本来こういった学校行事では率先してテンションを上げようとするタイプのはずだ。
 実際、彼だって修学旅行に行くこと自体は楽しみにしていたのだ──行き先が「京都を中心に滋賀、奈良などの史跡を巡る」という代物だと判明するまでの話だったが。
 「今更、そこらへんを廻るって言われても……」
 小学4年生の頃に父の仕事の都合で関東に引っ越したとは言え、それまでは京都市内に住み、また今でも年に一度は京都にある伯母の家に遊びに行く孝雄にとっては、その辺りはまったく食指の動く旅行先ではない。
 「そうだよなー、どうせだったら沖縄とか北海道とかがよかったぜ」
 隣席のクラスメイトの青葉繁(あおば・しげる)も同意する。
 「えーっ、そう? あたしは、京都ってロマンチックでなんか憧れるけどなぁ。ねぇ、みーこ?」
 通路をはさんで隣りの席に座るショートカットの女生徒、加古川由佳(かこがわ・ゆか)は、どうやら京都行き賛成派のようだ。
 「うん、そうだね、ゆかちゃん。でも、せっかく京都に行くなら、秋の紅葉の季節ならもっとうれしかったかも」
 その隣りの笠井美衣子(かさい・みいこ)も京都行き自体は楽しみにしているらしい。
 「へぇ、笠井さんはともかく、加古川がそういう女の子らしいこと言うのは、ちょいと意外だ」
 少し赤みがかった髪(染めているのではなく地毛らしい)を肩まで伸ばし、サイドテイルにまとめている美衣子は、サッカー部のマネージャーで、とび抜けた美人というほどではないが、明るく優しく世話好きで男女問わず人気が高い。
 一方、由佳はソフトボール部のキャプテンだ。ボーイッシュな見かけ通りカラッとした男勝りな性格で、女子生徒から頼りにされ、男子生徒からは異性というより友達として見られることが多いタイプだ。
 「にゃにおーッ、あたしだってれっきとした乙女なんだからね!」
 「なるほど。「漢女」と書いてオトメと読むのか」
 「コロす!」
 からかう繁に食って掛かる由佳を、孝雄と美衣子が「まぁまぁ」となだめる。この4人は同じ班で、自由行動などは一緒に回ることになるのだから、あまり険悪な関係になるのは得策ではない。
 「そういや、やけに無口だけど、鷹則はどうなんだ?」
 話を逸らす意味もあって、孝雄が窓際の席に座っているもうひとりの班員・古田鷹則(ふるた・たかのり)に話しかけたのだが……。
 「──どこでもいい。船とか飛行機に乗らないといけない外国でなければ……」
 剣道部のエースで普段はキリッとした男前の鷹則が、青い顔してボソボソと呟く。
 「お前、ホントに乗り物に弱いのな」
 幼稚園時代からの彼の幼馴染である繁が呆れたような声を漏らす。
 「古田って、わりと文武両道の優等生なのに、英語も苦手なんだっけ」
 ふたりと同じ中学出身の由佳も気の毒そうな、それでいてどこかおもしろそうな顔で見ている。
 「古田くん、酔い止め持って来たけど、飲む?」
 「──すまない。恩に着る」
 世話焼きな美衣子が差し出した薬を受け取り、ペットボトルのお茶で流し込む鷹則。
 (まぁ、コイツらと一緒なら、見慣れた京都の街もそれなりに楽しめるか。自由時間は俺がガイド役を引き受けるってのもアリだし)
 4人の騒ぎを見ながら、孝雄はそんなことを考えていたのだが……。

 「え! もしかしてタカくん!?」
 「あ、愛子ねーちゃん!?」

 京都駅前から彼の高校が乗る観光バス付きバスガイドのひとりが、よく見知った従姉だとはさすがに予測できなかった。
 ──そして、はからずしも、翌日からは自分がその“バスガイド”そのものになるということも、神ならぬ身では予見できなかったのである。
0479名無しさん@ピンキー2016/11/23(水) 10:47:08.97ID:5i0nhBo7
#しまった、横浜じゃなくて新横浜だ。そして、肝心の立場交換は次回の後半になる予定です。
0480『ボクがバスガイドになったワケ』2016/11/27(日) 10:21:21.85ID:NxtRC1Fu
 「え! もしかしてタカくん!?」
 「あ、愛子ねーちゃん!?」
 最初に京都駅前から観光バスに乗った時は人が多過ぎて気付かなかったんだけど、そのすぐ後、最初の見学場所である三十三間堂に行った際、バスが停まっている駐車場で、ばったり愛子ねーちゃんと顔を合わせることになった。

 「まさか、今日のお客さんがタカくんとこの学校やなんて……びっくりしたわぁ」
 「コッチだってびっくりだよ。愛子ねーちゃんが就職したとは聞いてたけど、まさか観光会社でバスガイドになってるとはなぁ」
 幸い、まだ出発までは時間があり、かつ他の生徒は殆ど戻って来ていない(オレ? こんなトコ、もう3回も来たことがあるからいーんだよ!)ので、少しだけふたりで話すことができた。
 「それにしても……」
 ガイドの制服姿の愛子ねーちゃんを見つめる。
 「なんやの、そないにジーッと見て? なんか、おかしいかなぁ」
 紺色の長袖上着と同じ色の膝上丈のタイトスカート。頭にかぶったベレー帽も同じく紺色だ。
 白いブラウスの首元にスカーフを結び、手には白手袋をはめて、足元は黒いストッキング&真っ赤なハイヒールという“きょうと観光”のバスガイドの制服は、スタイルのいい愛子ねーちゃんによく似合っていた。
 「うーん、バスガイドって言うよりスチュワーデスみたいだな」
 もっとも、それをそのまま言うのは照れくさいので、あえてヒネくれた言葉を投げてみる。
 「あ〜、それ、よぅ言われるわ。それと、今は“スチュワーデス”やのぅて“キャビンアテンダント”いうんやで」
 「マジか。『スチュワ●デス物語』の立場ねーじゃん」
 そんな感じで会話していたところで、他の修学旅行生がポツポツ戻って来たので、とりあえず話を切り上げることにする。

 「お、何だ、孝雄、姿が見えないと思ったら、バスガイドのお姉さんナンパしてたのかよ」
 「ばーか、アレ、従姉のねーちゃんだよ」
 「ああ、そう言えば、須賀くんの実家ってこっちの方なんだっけ」
 そんなことを繁や加古川さんと話しながら、オレは愛子ねーちゃんのことを考えたていた。
 (愛子ねーちゃん、本当に大学行かなかったんだ。それに伸ばしてた髪も切ったんだな……)
 どちらかと言うと体力派でおツムの方はイマイチなオレと違って、愛子ねーちゃんは昔からとても頭がよかった。オレも夏・冬の休みで会った時は、宿題なんかをよく教わってたし。
 京都は公立より圧倒的に私立の方が偏差値が高い土地柄だけど、経済的な理由で愛子ねーちゃんは公立高校に通わざるを得なかった──にも拘わらず、全国模試とかでは、いつもかなり上位をキープしてたくらいだ。
 身内の欲目かもしれないけど、愛子ねーちゃんなら、その気になったら京大入りも目指せたんじゃないかって思う。
 ただ、愛子ねーちゃんが中学二年のときにお父さん(オレから見るとおじさん)が病気で亡くなって、妙子おばさんは結構苦労して愛子ねーちゃんを育てることになったらしい。
 そんなおばさんの姿を見て育ったせいか、愛子ねーちゃんはあえて進学じゃなく就職を選んだんだろう。
 (ちょっともったいないと思わないでもないけど……ま、頭がいいからって大学行かないといけないワケじゃないし、そこは本人の選択だから、傍からごちゃごちゃ言うべきじゃないよな)
 その時のオレはそう思っていたんだ──旅館に帰ったあと、夜、ケータイに愛子ねーちゃんからのメールが来るまでは。

 * * * 
0481『ボクがバスガイドになったワケ』2016/11/27(日) 10:22:12.95ID:NxtRC1Fu
 愛子のメールを受けた孝雄は、白守高校二年生が泊まる旅館の別フロアにある観光会社スタッフたちの宿泊部屋に来ていた。
 愛子の部屋は4人部屋で、ほかの同僚ガイドたちは風呂に行っているらしい。
 「ごめんな、タカくん。わざわざ夜に呼び出してしもて。消灯時間とか大丈夫なん?」
 バスガイドの制服を脱いでラフな私服に着替えた愛子は、どうやら風呂に入ったばかりらしく、ほのかに上気し、女らしい香りがした。
 「──そっちは11時予定だから余裕はあるよ。それで、話って何?」
 いくら仲の良い従姉とは言え──いや、仲が良いからこそ密かに憧れていた年上の女性のそんな姿を見て、何も感じないほど孝雄も枯れてはいない。
 平静を保とうとして、やや口調がぶっきらぼうになるのも致し方ないだろう。

 「あのな、突飛な話なんやけど、最後まで聞いてほしいんよ」
 そう前置きして愛子が口にした内容は、確かに突拍子もないものだった。
 いわく、真面目な愛子の数少ない趣味の“おまじない”(ここまでは孝雄も知っていた)関連で入手した“お札”を実験するのに協力してほしいとのこと。
 しかも、そのお札の効力というのが、「2枚のお札にふたりが自分の名前を書いて、それを交換して付けることで互いの“立場”が入れ替わる」ことだというのだ。
 「愛子ねーちゃん、それ、絶対うさん臭い。そもそもソレ、どこで手に入れたんだよ?」
 「えーっと……ネットの通販」
 「通販って……値段は?」
 「──2枚1セットで5000円のところを、セールで3000円」
 答えているうちに、自分でもどうかと思い始めたのか、愛子の声が小さくなる。
 「──ねーちゃん、それ二重の意味で有りえないって。“立場交換”なんてトンデモ効果もそうだし、仮にそれが本当なら、もっと高い値段付けるだろうし」
 従姉の顔を憐れみを込めた目で見つめる孝雄。
 「そやかて、こんなトンデモないお札が、こんなに安ぅ、しかも4割引きで売っとったから、ついつい買ぅてしまうやん!」
 自分でも薄々自覚はあったのか、半べそかいて逆ギレする愛子。そもそも、会社の同僚とか学校時代の旧友とかに声をかけなかった時点で、彼女も内心怪しいとは思っていたのだろう。
 (まったくこの人は……普段はあれだけ頭良くて頼もしいのに)
 呆れ半分微笑ましい半分の生暖かい視線を、孝雄は愛子に向ける。
 「はぁ〜〜、しょうがないなぁ、愛子ねーちゃんは。それで、実験ってことはオレ達ふたりでそのお札を付けてみればいいんだよな」
 「! タカくん、協力してくれるん?」
 「ああ。愛子ねーちゃんにはいつも世話になってるし、たまの道楽(いきぬき)くらいはつきあっても罰は当たらんだろ」
 「わぁーい、おおきにぃ、タカくん、大好きや〜!!」
 満面の笑顔になって愛子は孝雄の右腕に抱きつく。
 (むぅ、その言葉は、もっと違うシチュエーションで聞きたかったよ)
 あまり大きくはないがそれでもしっかり感じられる女性特有の膨らみをが二の腕に押し付けられるのを感じつつも、孝雄は内心で苦笑する。

 そんなこんなで、善は急げと早速そのお札(というか見た目は完全に名札)に名前を書き、互いに交換して胸に安全ピンで留めたまでは良かったのだが……。
 「ほら、愛子ねーちゃん、別に何も…起こら……な…………zzz」
 「あれ、なんやしらん、意識が、とぉ…なっ……て…………zzz」
 ふたりは気づかなかったが、付けた瞬間、淡いオーラのようなモノが名札から立ち昇り、それぞれの全身を包んだかと思うと、孝雄と愛子はそのまま畳の上に崩れ落ちて意識を失ったのだった。
0482名無しさん@ピンキー2016/12/03(土) 00:46:31.96ID:9ldwHwI9
なんといいところで・・・

最近興味持ち始めて漁ってるんですけど兄と妹の立場交換とかないですかね?妹の立場になった兄が辱められるみたいな内容だとなおいいです
0483名無しさん@ピンキー2016/12/03(土) 09:14:15.06ID:Phts2B9s
>482
兄じゃなくて従兄なら、たしかこのスレの過去スレでありましたよ〜。
もっとも、辱められるというか可愛いカッコさせられて愛でられるという感じでしたが。
0484『ボクがバスガイドになったワケ』2016/12/04(日) 10:01:12.54ID:EPXbQX2R
-4-

 後から時計を確認したところ、意識を失っていたのはほんの2、3分だったらしい。

 「なぁ……ぉきて……起きてぇな!」
 ゆさゆさと身体を揺さぶられつつ、聞き覚えのあるようなないような“声”に呼びかけられて、意識を取り戻す。
 「ん……あ! なにが……?」
 さっきまでのことを思い出して、オレはうつ伏せの姿勢からガバッと起き上がった──のはいいんだけど、途端に激しい違和感に襲われることになった。
 それは、愛子ねーちゃんらしき人物を目にしたせいでもあるし、思わず漏らした自分の声がいつもと異なったからだし、顔を上げた瞬間に頬や首筋にまとわりついてくる髪の感触に戸惑ったからでもあるんだけど……。
 それ以上に、「自分の中の“何か”が書き換えられてしまった」ということを直感的に悟ったからたでもあった。
 「愛子ねーちゃん、だよね?」
 「うん、そやで」
 オレの問いをあっさり肯定する目の前の人物の容貌そのものは、確かにオレのイトコである“呉多愛子”とそっくりだったけど……。
 着ているものは、白守高校の男子用紺ジャージの上下で、おまけに髪型もベリーショート……というか、明らかに男子のスポーツ刈りになっている。
 さっきまでの愛子ねーちゃんの髪は、確かに以前よりは短かったけど、それでも普通に女性のセミロングとショートの中間ぐらいはあったはすなのに。
 しかも、よく見れば完全にノーメイクのすっぴんだし、眉毛もウブ毛も剃ってないみたい。
 ──あとから考えると、そんな些細な違いに気付いたこと自体が、ある意味、オレもすでに“変わって”いたことの証なんだろうけど、その時のオレはそれどころじゃなかった。
 「ちょ、どうしたの、その服と髪の毛?」
 「それを言うたら、タカくんもやで」
 「え!?」
 慌てて自分の身体を見下ろすと、確かにクリーム色のフレンチリーブブラウスとデニムのミニスカートという恰好になっている。
 しかも、手の爪は薄いピンクのマニュキュアで彩られていたし、薄手のブラウスからは下に着ているブラジャーの線が透けて見えている。おそらくだけど、下着も女物のパンツ──ショーツを履いているのだろう。
 「な、な、なに、コレーーー!?」
 思わず声をあげかけたオレの口を愛子ねーちゃんの掌がふさぐ。
 「シッ! 旅館で大声あげたら近所迷惑やで」
 身長165センチの愛子ねーちゃんと168センチのオレでは、背丈そのものは大差ないけど、そこは男女の差異もあって体力的には歴然とした差がある……はずなのに、なぜか振り払えない。
 そのことを理解したオレは、もがくのをやめた。
 「落ち着いたか?」
 うんうんと頷くのを見て、オレが多少なりとも落ち着きを取り戻したと見定めたのか、愛子ねーちゃんは手を放してくれた。
 「そしたら、もうちょい話せんといかんから、ちょい、別のトコ行こか」
 「え? なんで?」
 「いや、そろそろ、この部屋の他のメンツが風呂から帰って来る頃やし」
 確かに、ソレはマズい。利香先輩や同期のポーラは割と大雑把だから、見逃してくれるだろうけど、真面目な摩美子先輩がなんて言うか……。
 そのことに気付いたオレは、慌てて首を縦に振り、愛子ねーちゃんに手を引かれて旅館の屋上に続く非常階段へと移動した。
 ──自分が、会ったこともないはずの呉多愛子の同僚たちのことをなぜか知っていることに疑問も抱かずに。
0485『ボクがバスガイドになったワケ』2016/12/04(日) 10:02:25.70ID:EPXbQX2R
  * * *  

 薄暗い非常階段の踊り場で密談した結果、愛子と孝雄は、現在の状況が、先ほどの“立場交換のお札”によってもたらされたものだろうという結論に達していた。
 単に服装や髪型が変わっただけでない。
 明らかに愛子の力が強く(相対的に孝雄が弱く)なっていたし、互いが知らないはずのこと──2-Bのクラスメイトの顔と名前や、観光会社の場所や人間関係、その他、日々必要な知識を持っていたからだ。

 「うわぁ、あのお札、ホンマモンやったんやなぁ」
 愛子は感心しているが、孝雄としてはそれどころではない。
 「本物だったのはいいから、早く戻ろうよ、愛子ねーちゃん」
 孝雄に急かされた愛子は急にバツの悪そうな表情になる。
 「あー、その、な。確かに戻る方法はあるんやけど、今すぐには無理やねん」
 「え?」
 愛子いわく、元に戻るには先ほどと同じく札を互いに交換して付ければよい──のだが、最初に札に充填されていた“力”が今は使い果たされているので、その力が溜まるまで待たないといけないらしい。
 「そ、その力が溜まるのって、いつ!?」
 「うーん、確か説明書には、最低48時間て書いてあったような気が……」
 つまり、丸々二日は待たないと元に戻れないということになるのだろう。
 「ど、どーすんの、これ!?」
 慌てている孝雄と対照的に、愛子のほうは落ち着いたものだ。
 「いやぁ、別に大丈夫とちゃう? さっき、必要そうな知識はお互いにキチンと持っとることがわかったし。明後日の夜、またふたりで抜け出して立場交換したらエエやん」
 まぁ、修学旅行生として基本的にはのんきに観光していればいい“男子高校生”の立場になった愛子は確かに気楽だろう。
 しかし、いかに知識自体は備わったとはいえ、いきなりブッツケ本番で“バスガイド”をやらねばならない孝雄の方はたまったものではない。
 ──ないのだが、どうやらそれ以外に方法はないようだ。
 あとは、他の人に立場交換していることを悟られないよう気をつけるだけか。
 「あぁ、そやな。せやったら、元の立場に戻るまでは、ボクが“須賀孝雄”で、アンタが“呉多愛子”やさかい、間違えんときや」
 「ぅぅ……しょうがないか。わかったよ、“タカちゃん”」
 「うん。ほな、おやすみ“愛子さん”」
0486『ボクがバスガイドになったワケ』2016/12/10(土) 21:15:03.13ID:feVRbZK6
-5-

 屋上に続く階段の踊り場から5階に降りたところで、“愛子(本来は孝雄)”は、“孝雄(の立場になった愛子)”と別れ、バスガイドたち4人が宿泊するための部屋へと「帰って」来た。
 愛子のポーチから取り出した鍵で扉を開けて、足を踏み入れる。
 同じ旅館内なので、部屋造自体は学生組のものと大差ないが、壁にかけられたバスガイドの制服や小洒落たカバン、脱ぎっ放しのストッキングなどが、年頃の女性が宿泊していることを主張している。
 (そろそろ10時半だし、みんながお風呂から戻ってくる頃合いだけど……)
 四角い机の前に(無意識に)横座りで座り、手持ち無沙汰なので急須で入れたお茶を飲みながらも、“愛子”は落ち着かなげに視線をキョロキョロさせる。
 いくら“きょうと観光に勤めるバスガイドの呉多愛子”としての知識が備わったとは言え、2−Bを担当していたバスガイドの根府川利香以外は、実質初対面だ。
 その利香にしたって、あくまで仕事(ガイド)として客である2−Bの生徒たちにニコやかに接してきただけだろうから、到底“親しい”とは言えないだろう。
 いや、そのはずだったのだが……。

  * * *  

 部屋に“戻って”3分ぐらいした頃だろうか。
 「はぁ、いいお湯でしたー」
 「うむ、やはり広い風呂はよいのぅ」
 摩美子先輩と利香先輩、それにポーラの3人が浴衣姿で部屋に帰って来た。
 「これで〜、おフロでニホン=シュをイッパイできればサイコーだったんですけどね〜」
 プライベートでは無類の酒好きのポーラの言葉に、思わずツッコんでしまう。
 「露天の温泉じゃあるまいし、さすがにソレは無理でしょ!」
 「あぁ〜、アイコぉ。用があるって先に上がったけど、そのヨージはすんだのぉ?」
 もしかして(本物ではないと)バレるのでは……と密かに心配していたオレの懸念は杞憂だったようで、愛子とそれなりに親しい友人であるはずのポーラは、ニヘラ〜といういつもの緩い笑顔を向けてくる。
 ちなみに、入社は同期ではあるけど、彼女は3歳年上なので法律上飲酒しても問題ない年頃だ。
 20歳の頃、イタリアから交換留学生として京都に来たものの、すっかりこの街に魅せられて、帰国せずにこちらで就職したというなかなかにユニークな経歴の女性だったりする。
 (というか、こんな情報(こと)まで頭に浮かんでくるんだから、スゴいな、魔法のお札!)
 「ええ、ちょっと知り合いに会ってただけだから」
 無論、詳細を説明するわけにもいかないので、曖昧に言葉を濁したところ、何か「ピン!」ときたのか、利香先輩がニヤリと笑った。
0487『ボクがバスガイドになったワケ』2016/12/10(土) 21:15:31.00ID:feVRbZK6
 「おや、ひょっとして恋人かえ?」
 「違います! ただの従弟ですから」
 そう答えつつも、何となくモヤモヤしたものが心の奥底にわだかまるような気がした。
 「そう言えば呉多さん、今回のお客様の高校名に聞き覚えがあるって言ってましたけど、もしかして?」
 「はい、従弟の通っている高校でした。お客様の中にその従弟がいましたので、軽く挨拶というか雑談をしてたんです」
 本来はガイドがお客様と個人的に会ったりするのはあまり好ましくないのだが、一応今は勤務時間外だし、親戚(みうち)相手なので、優等生な摩美子先輩も「ほどほどにね」と釘を刺すだけで済ませてくれた。

 それからも3人の“同僚”と何気ない素振りで雑談を続けながらも、オレは内心ひどく戸惑っていた。
 (い、違和感が……ない!?)
 誠に遺憾ながら恋人いない歴=年齢だし、同世代の女性と親しく喋る機会なんて、それこそ愛子ねーちゃんとくらいだったはずなのに、特に意識しなくても初対面の年上の女性たちと、普通に会話できてるのだ。
 150センチ弱と小柄で華奢な体型とツインテールにした髪型もあいまって、下手すると女子高生にも見える(でも実は一番年長の)根府川利香先輩。
 対照的に長身でモデルばりにスタイルも良く、黒髪ロングストレートの典型的和風美人な筑紫摩美子先輩。
 酔った時の酒癖こそ悪いものの、シラフの時は銀髪・童顔・巨乳の3萌え要素の揃った快活なイタリアン美女のポーラ・コンティネント。
 そんな本来ならお近づきになる機会なんておよそ無さそうな女性たちと、こんな近くで会話するなんて、普段の須賀孝雄(オレ)なら、キョドるかせいぜい無難な相槌を打つのが関の山だろう。
 それなのに、“風呂上がりで浴衣を着たそれなり以上の美人3人”を相手に、いくら“愛子”としての知識があるからって、どうして平然と対応できているのだろう。

 この時初めてワタシは、この立場交換によって、単に愛子(イトコ)の立場や知識を与えられた──というだけではないことを、漠然と自覚し始めたのでした。
0491『ボクがバスガイドになったワケ』2016/12/24(土) 10:21:07.36ID:/mEN4VsQ
-6-

 女三人集まれば何とやら。“愛子”も含めると4人のうら若い(いや、さすがに中高生には負けるが)女性が、ひとつ部屋に泊まるとなれば──さらに職場の同僚でそれなりに仲が良いこともあって──なかなかおしゃべりが止まらないのも道理だろう。
 とは言え、時計の短針が12時を指す頃合いになると、さすがにそれもクールダウンしてくる。
 「ふわぁ……ちょっとはしゃぎ過ぎたかしらね。そろそろ寝ましょうか?」
 4人の中で二番目に年かさ(そして一番のしっかり者)である摩美子が、生アクビを漏らしたのを契機に、茶飲み話もお開きとなった。
 「うむ、そうじゃな。明日の仕事もなかなかハード故、休養はしっかりとっておくべきであろう」
 最年長(推定25歳前後)のはずなのに、小柄で童顔なせいで中高生に混じっていても違和感のなさそうな利香が、もっともらしく頷き、「吾輩は歯を磨いてこよう!」と、入口横の洗面所に消える。
 「う〜ん、寝る前にホントは軽くイッパイいきたいところですけど〜、明日もお仕事ですから、ポーラ、ガマンします〜」
 ショルダーバッグから取り出したスキットル(たぶんなんらかの酒が入っているのだろう)を未練がましく見つめていたポーラも、明日の仕事と秤にかけてあきらめたのか、それをバッグに戻し、布団を敷くために机を片付け始める。
 ポーラを手伝って机を隅に寄せた後、“愛子”は押入れから布団を出……そうとしたのだが。
 (う……お、重い)
 身長168センチ・体重55キロと、同級生に比べれば心持ち痩せぎすではあるが、本来の孝雄であれば布団をまとめて2組運ぶくらいは、余裕だったろう。
 しかし18歳の女性の立場になっている影響か、今の“愛子”には、掛け敷き1組だけでもひと苦労だった。
 「おっと! 大丈夫、呉多さん?」
 フラついたところを、ほぼ同身長の摩美子に支えられる。
 「アイコ〜、酔ってもいないのに、フラフラ〜」
 ケタケタ笑いながらも、ポーラが上に載った掛け布団を運んでくれたおかげで、いくぶん楽になった。
 「愛子は背が高い割に力がないのぅ。運動不足ではないかえ?」
 洗面所から戻って来た利香にまで笑われる始末だ。
 小柄な利香だが、純粋な筋力はともかく運動神経や持久力(スタミナ)ならこの4人の中ではピカイチなので、“愛子”としても反論できない。
 本来の呉多愛子はインドア派で、学生時代は家や図書館で本を読むことを好むような女性だ。
 その立場になっている以上、仕方ないのかもしれないが、スポーツ万能とまではいかなくとも、どちらかと言えばアウトドア派で、体力的にもそこそこ自信のあった“愛子”には、今の己れの非力さが恨めしかった。
 「ぅぅ……ジョギングとかジムに通うとかしたほうがいいかもしれませんね」
 確か自宅(ウチ)の近くにも最近スポーツジムが出来っていうチラシが入っていたはずだし──と考える“愛子”。
 無論、この場合の自宅とは京都市内の一画にある呉多家のことだ。どうやら自分がナチュラルに呉多家(ソコ)を“自分の家”だと認識していることには気づいていないらしい。
 加えて言うなら、明後日の夜には、元の立場に戻る予定だということも(少なくともこの瞬間は)完全に失念しているようだ。
0492『ボクがバスガイドになったワケ』2016/12/24(土) 10:22:37.87ID:/mEN4VsQ
 4人で手分けして布団を敷いた後、“愛子”も私服から寝るために旅館の浴衣に着替えることにした。
 薄手のブラウスとミニスカートを脱ぎ、ほとんど(と言うか現状まったく)必要はないが“成人女性のみだしなみ”として着けているブラジャーも外してから、浴衣を羽織り、合わせや襟の位置を調整して帯を締める。
 女物特有の左前ボタンの扱いやスカートの着脱、あるいはブラジャーの外し方など、普通の男なら苦戦しそうな諸々についても、なんら戸惑うことなく──むしろ慣れた手つきで済ませられるのは立場交換の恩恵だろうか。
 単なる知識面だけでなく、身体の反射行動や慣れというべき面まで、完全に“年頃の女性”になっているのだ。
 そもそも本来の孝雄であれば、ちょっと年上の美人3人と同じ部屋で寝たり、彼女たちの前で(しかも女装状態で)着替えたりすることに対して、羞恥や戸惑い、抵抗感を感じたはずだ。
 なのに今の“愛子”はそういった類いの感情と無縁で、それどころか、寝る前のスキンケアしたり、肩にかかるくらいに伸びた金髪を緩い三つ編みにまとめたりといった“女の身だしなみ”をごく自然にこなしているのだ。
 未だ完全にはその“立場”に馴染みきっていないのか、頭の中で自分の言動をどこか不思議な目で見ている部分も無いではないが、少なくとも他の人間が見る限りでは、まったく“いつもの呉多愛子”だった。
 「じゃあ、電気消しますね──あ、常夜灯は点けておきますから」
 「うむ。明日は6時半起床じゃ。まぁ、万が一寝坊しても吾輩が起こしてやるから、心配は無用じゃぞ」
 摩美子と利香のそんな言葉を耳にしつつ、精神的にも身体的にも色々あってやはり疲れていたのか、“愛子”は布団に入って目を閉じるのとほぼ同時にまどろみの世界へ落ちていくのだった。

#いつもよりじっくりめに進めてます。萌えどころやえちぃ描写は……まぁ、そのうちに。
0494『ボクがバスガイドになったワケ』2017/01/03(火) 18:41:24.88ID:4bzjqHGW
-7-

 ゆめ……夢を見ていた。
 幼い頃、まだ須賀家が京都市内の呉多家のすぐそば──子供の足でも歩いて10分くらいの場所に住んでいたころの夢。
 2歳違いのイトコ同士で、お互いひとりっ子だった孝雄と愛子は、帰る家こそ離れていたものの、姉弟と幼馴染の中間のような関係だったと言っていいだろう。
 愛子はお姉さんぶって孝雄の世話を焼き、孝雄も愛らしく優しい愛子を姉のように頼りにしていた。
 けれど、幼子もやがては大人になる──少なくとも、その階段を上り始める。
 小学校に上がった愛子は、孝雄より学校の友人たちと過ごす時間が多くなり、それを寂しく思っていた孝雄も、2年後には同じく“いとこのあいこねーちゃん”よりクラスメイトと遊ぶようになる。
 それでも、休日や長期休みなどに会う機会はまだまだ多かったのだが、やがて須賀家が職場の都合で東京に引っ越したことで、ふたりがともに過ごす時間は劇的に減ることになった。
 引っ越しがあったのは孝雄が小学4年生、愛子は6年生になった年の秋口で、ちょうどその頃あたりから、ふたりの関係も緩やかに変化を始める。
 姉貴分弟分という関係は保ちつつも、そこに微妙に異性に対する感情も入り混じってきたのだ。
 その年の暮れに、東京都の郊外にある須賀家の新居に遊びに来た愛子は、夏までと異なり孝雄と一緒に風呂に入ることはなかったし、孝雄も同じ部屋で寝ることを嫌がったので、彼女には客間が提供された。
 依然として“姉のような女性”、“弟みたいな男の子”ではあったが、ふたりは無自覚に互いに異性を意識していた──もっと言うなら互いを好ましい異性として捉えていたと言ってよいだろう。
 そして普段は離れていながらも、夏と冬に定期的に会うという関係は、なおさらその想いを強くする。
 とは言え、“姉・弟”でいた期間が長すぎたふたりにとっては、“仲のいい従姉弟同士”という今の安定した関係を壊すには、なにがしかのキッカケが必要だろう。

 (──あぁ、だから、ボク/私は、あんなうさん臭いお札に手を出したのか)
 そう考えたのは、果たして元々の愛子か、それとも“愛子”の立場になっている孝雄か……。

  * * *  
0495『ボクがバスガイドになったワケ』2017/01/03(火) 18:42:23.04ID:4bzjqHGW
 「そろそろ起床時間じゃぞ、愛子」
 聞き覚えのある女性の声とともに軽く布団越しに揺すられて、“彼女”はゆっくりと目を開いた。
 「ふわぁ〜〜……いま、何時ですか、利香先輩?」
 「7時15分前じゃ。白守高校の生徒たちの朝食時間が7時半からじゃから、吾輩たちは、それまでに身支度と朝食を済ませておかねばならぬ」
 ティーンエイジャーみたいな幼げな外見と裏腹に、プライベートでは婆言葉というのか独特の古風なしゃべり方をする利香だが、この4人で一番年かさなこともあって、仕事に関してはキッチリ把握している。
 「そうでしたね……起きますおきます……あふ」
 生あくびをかみ殺しつつ、“彼女”は思い切って布団から出る。
 はだけた浴衣の襟を直しつつ、眠い目を傍らに向けると、もうひとりの先輩である摩美子が、同僚のポーラを揺さぶって起こそうとしていた。
 (あー、ポーラ低血圧だからなぁ。あれだけお酒が好きなのに低血圧って、イタリア人ってどういう体質してるんだろ?)
 他のイタリア人が聞いたら「一緒にするな」と怒りそうなことを考えながら部屋付属の洗面所に入り、洗顔&クレンジングを済ませる。
 歯磨きと本格的な化粧は朝食後に済ませることにして、とりあえず化粧水を付け、寝乱れた髪は軽くブロウして首の後ろで束ねておいた。
 まだ寝ぼけ顔でフラフラしている同僚の手を引きつつ、ふたりの先輩のあとについて旅館の食堂へ向かい、ご飯・味噌汁・焼鮭・海苔・卵・お漬物という“日本の朝ご飯”をいただく。
 食べ終わった時点で7時15分。あまり時間の余裕はないので、お茶のお替りは断念して、急いで部屋にとって返した。
 他の3人とは朝食中に話し合って、先に利香と摩美子が洗面所でメイクし、その間にポーラと“彼女”が部屋で着替える手はずになっていた。
 旅館備え付けの丹前と浴衣を脱ぎ、アイボリーホワイトのシルクのフルカップブラジャーを「哀しいほどに真っ平らなバスト」に装着する。小さめのヌーブラを入れるのは、ささやかな抵抗として大目に見てほしい。
 旅行鞄から新しいブラウスとストッキングを取り出して着替え、壁にかかったハンガーのひとつから紺色のタイトスカートを外して履く。
 「すでに今の観光会社に入ってから1ヵ月以上経つ」はずなのに、なぜか微妙に歩きにくさを感じつつ、ポーチから朝用の化粧品ひと揃えを取り出した。
 「利香先輩、摩美子先輩、そろそろ交代できます?」
 「うむ。問題ないぞ」
 「わたしはもう少しですね」
 利香と入れ替わりに洗面所に入り、摩美子と並んで鏡の前に立った“彼女”だったが──そこに映った自分の顔を見て、激しい違和感に襲われた。
0496『ボクがバスガイドになったワケ』2017/01/03(火) 18:43:05.98ID:4bzjqHGW
 (え! だ、誰!?)
 僅かににウェーブした肩までたなびく蜂蜜色の髪。
 UVファンデと入念なケアのおかげか、屋外にいることの多い仕事の割には、あまり日焼けしていない白い肌。
 細く剃られた眉。ムダ毛の一本もないつるつるの肌。

 ──コレハダレダ……

 くらりと目まいがするような感覚とともに“彼女”、いや彼は自分の置かれている状況を“思い出した”。
 (そうだ、ボクは、愛子ねーちゃんと昨日立場が入れ替わったんだった)
 魔法だか霊力だか奇跡だか知らないが、どう考えてもうさん臭いはずの“お札”が効力を発揮して、現在、孝雄は“呉多愛子”だと他人からは認識されるようになっているのだ。
 無論、その代わりに本物の愛子が今は“須賀孝雄”の立場になっている。

 ──それは、まぁ、いい。いや、本当はあまりよくないが、とりあえず戻る方法もあるということで、一応納得はしている。
 問題は、“自分が今、呉多愛子の立場になっていることに何ら違和感を抱かなかった”ことだ。というより、完全にそのコトを忘れていたと言う方が正しい。
 確かに昨日、本物の愛子とふたりで“現在の立場に必要な知識はひととおり備わっている”ことは確認している。
 しているが……その時は何と言うか「データベースにアクセスして必要なデータを呼び出してくる」的な、ワンクッションある感じではなかっただろうか?
 それがひと晩寝たら、今度は“自分が本当は須賀孝雄であること”の方をむしろ忘れがちで、ごく自然に“呉多愛子”として(ことさら意識せずとも)振る舞っているような気がする。

 (はたして、このままでいいの?)
 どこか恐いモノを感じて思考の海に沈みかけた“愛子”だったが……。
 「は〜い、アイコ〜、顔色悪いけど、大丈夫ぅ?」
 「あ、うん、平気へいき」
 いつの間にか摩美子と交代していた陽気な同僚の、珍しくどこか気遣うような言葉に、反射的に平静を装って返事をしてまう。
 「えっと、ちょっと肌が荒れてパウダーの乗りが悪いかなぁ、って気になっただけだから」
 「どれどれ? ふぅむ……問題ないと思いますよぉ。いつも通りモルト・カリーナ(とても可愛い)で〜す」
 「あはは、お世辞でも嬉しいわ」
 そんな風にポーラと“いつも通りのやりとり”を交わしながら、“愛子”は先ほど抱いた危惧を心の奥に棚上げすることにした。
 (どの道、明日の夜までは戻れないんだもん。だったら、ヘンに意識してギクシャクするより、ごく自然に振る舞える方がいいんだろうし、ね)
 コーラルピンクの口紅を軽く引いてメイクを終えると、“彼女”は洗面所から出て、ハンガーに残った藍色の上着を取って羽織り、キチンとボタンを留めていく。
 キャビンアテンダント風のタイトな制服を着ると、身も心も引き締まるような気がした。
 最後に制服と同じ色のベレー帽をかぶり、部屋の入り口でパンプスを履けば、そこにいるのは──4月からの新米ではあるが──立派な“きょうと観光”のバスガイド・呉多愛子そのものだった。

 「皆、準備はよいな? よし、それでは、今日もお客様方の旅を楽しいものにすべく、我々バスガイド一同、微力を尽くすのだ!」
 「「「はいっ!」」」
0497『ボクがバスガイドになったワケ』2017/01/08(日) 20:00:48.77ID:jYBgrMa/
-8-
<タカオside>

 「それでは皆さま、右手に見えますのが本日最初の見学場所となる清水寺、北法相宗大本山である清水寺です。まもなくバスが停車しますので、バスを降りたら出席番号順に2列になってお並びください」

 “僕”たちのクラスである2年B組のバスの担当ガイドを務める根府川さん──利香先輩が、落ち着いた流暢な口調で、目の前の観光スポットについて解説しつつ、次の行動に関する指示を出してます。
 プライベート……というか身内のあいだでは、古風というか風変わりな「のじゃロリ」言葉でしゃべる人なんやけど、こういう風にお客さんの前でキチンと標準語の丁寧語で会話しているのを見ると、なんや新鮮に感じるなぁ。
 “僕”になっている私は、元々京都の地元民で、バスガイドになった際の研修でこの清水寺にも来たことがあるんで、とりたてて物珍しさとかは感じてないんやけど……。
 「おおっ、これがかの有名な“清水の舞台”かぁ」
 「よし。青葉、アンタ、度胸試しに飛び降りてみなさい」
 「加古川、無茶ぶりすんな! むしろお前がやれ!!」
 「ゆ、ゆかちゃん、危ないよぉ」
 やれやれ、ウチの班は大騒ぎやなぁ。ちょっと釘刺しとこか。
 「笠井さんの言う通りやで。加古川さん、もし落ちたらこの高さやと無事では済まんから、冗談でもそういうコト言うたらいかん。青葉君もや」
 冗談抜きに命に関わることやから、ピシッと言うとかんとな。
 「あ、うん、ごめんなさい、須賀くん」
 「わりぃ、ちょっと調子のってた」
 比較的偏差値の高い私学で、育ちのよい子が多いせいか、白守高校(うち)の生徒は、高校生にしては素直な子が多い気がするなぁ。
 なんせ、4月からのこのひと月間で、ウチも10校ほどは修学旅行生を案内したんやけど、こっちの言うことなんてロクに聞かん悪ガキの、まぁ、多いこと多いこと。
 それに比べたら白高の生徒のヤンチャなんて可愛いもんやわ。
 「すまんな、須賀。本来は、班長たる俺が注意せねばならぬのに」
 「あー、まぁ、古田くんはしゃあないわ。バスの車酔いでまだ本調子ちゃうんやろ? 大丈夫か?」
 「ああ。だいぶ落ち着いた」
 班長の古田くんとそんな会話をしつつ、遠目に見えるC組のガイドをしている“女性”の方に、チラッと視線を向ける。
 ブレザーのような紺色の上着とタイトミニスカートを着て、同じ色のベレー帽をかぶった“彼女”。
 本物のタカくん──須賀孝雄であるはずの少年は、けれど僕(わたし)自身の目から見ても、きょうと観光の新人バスガイドの女性にしか見えなかった。
 子供の頃は嫌がっていた金髪を長く──高校時代の私と同じくらいに伸ばし、やや薄めだがキチンとメイクもしている。もともと優しげな顔つきであることもあいまって、それなり以上のルックスに仕上がっていた。
 外見だけでなく、歩き方も、初めて“女装”した(しかもタイトスカートにヒールが高めのパンプスという組み合わせだ)とは思えないほど自然なものだ。
 女の私でさえ──元々、ああいうフェミニンな格好は着慣れてなかったということもあるが──初めて出社した時は、何度か転びそうになったというのに。

 「──有名な“清水の舞台”のある本堂以外にも、仁王門や西門、三重塔なども重要文化財であり、また隣接する地主神社も元は……」
 微かに漏れ聞こえてくるスポットの解説も、なかなか堂に入ったもので、誰も“彼女”がにわかガイドだと疑わないないだろう。

 「お、アレが噂の孝雄の従姉のねーちゃんか?」
 「どういう噂よ。でも……へぇ、なかなか美人さんじゃない」
 青葉くんと加古川さんが、僕の視線の先をたどって“呉多愛子”に気付いたようだ。
 「須賀くん、声をかけなくていいんですか?」
 「ん? ああ、別にええよ。コッチが自由行動中でも、アッチは今まさに仕事中やし。とりたてて話したいことがあるワケでもないしな」
 気を利かせてくれたのだろう笠井さんに、ニッと笑いかけてみせて、僕は他の班員とともに清水寺見学に戻るのだった。
0499名無しさん@ピンキー2017/01/16(月) 05:09:18.98ID:zlFnpwLu
期待してます
0500名無しさん@ピンキー2017/01/21(土) 14:10:51.74ID:/1797sd+
昨日のドラえもんで出てきた兄弟シール、兄に妹のシールを、妹に兄のシールを貼り付けるとどうなるんだろう
0502『ボクがバスガイドになったワケ』2017/01/22(日) 11:24:21.44ID:bqem/cQJ
-10-

 「ふわぁ〜、極楽ごくらくじゃのぉ」
 5月半ばの少し時季外れの菖蒲湯に浸かりながら、利香が気の抜けたような声を漏らす。
 時刻は午後5時過ぎ。白守高校の修学旅行日程の2日目が無事に終わり、新たな宿泊先に着いたところで、バスガイドである彼女たちのお仕事も本日分はひとまず終了だ。
 「利香せんぱーい、ババくさいですよ?」
 「利香姉さんは三度のご飯よりお風呂が好きだから……」
 ちょっと呆れたような“愛子”の言葉に、摩美子が苦笑しつつそうフォローする。
 「あれぇ、リカとマミコってソレッラ(姉妹)じゃ、ないですよね〜?」
 「ん? あぁ、吾輩と摩美は正確には従姉妹じゃな」
 ポーラの疑問に、湯船の中でリラックスしてたれ気味な利香が答えた。
 「と言っても、自宅は近所でしたし、子供のころから本物の姉妹みたいな感じでしたけどね。なので、プライベートでは今でも“姉さん”って呼んでいるんです」
 「──どこかで聞いたような話な気が……」
 自分と、同じ建物のどこかにいるはずのイトコの関係を連想する“愛子”。
 ちなみに此処は京都市内にある老舗……というほどではないが、そこそこ歴史と格式のある旅館だ。
 修学旅行生が泊まるにしてはちょっとお高いはずだが、さすがはボンボンの多い私学だけあって、ヘンに金はケチらなかったらしい。
 「それにしても……」と、湯船から上がって洗い場で身体をボディシャンプーとスポンジで洗いながら、“愛子”は改めて感心したような気分になる。
 (ワタシ、今、全裸なんだけど、ぜんぜん男だって気づかれないなぁ)
 一応タオルで局部だけは隠しているとは言え、普通の女性と比べれば肩幅は広めだし、胸に至っては視認できる膨らみは皆無な見事なまでのまな板状態だ。
 ラテン系美人の利根や長身でプロポーションのいい摩美子が巨乳なのは、まぁ納得がいくにしても、中学生並に小柄な利香ですら、トランジスタグラマーとまではいかなくとも、少なくとも平均程度の膨らみはあるのだ。
 ペタペタと自分の胸に手を当てて、無性に哀しい気分になる“愛子”。
 「だ、大丈夫よ、呉多さん。スレンダー系が好みって男性も、いるから」
 「アイコ、あまり大き過ぎても、肩がコリますよ?」
 その姿が憐れを誘ったのか巨乳コンビが励ましてくれるが、彼女達にだけは言われたくない。
 ──と言うか、他の3人の胸部に向けられる“愛子”の視線に男性的な“いやらしさ”がまったく含まれておらず、むしろ同性としての羨望が見え隠れするあたり、本気で今の立場に馴染んでいるのだろう。
 「そ、それに、ほら、呉多さん、色白でお肌もスベスベだし……」
 「ポーラの姉様も綺麗なブロンドですけど、アイコの金色の髪も素敵で〜す」
 本気で落ち込んでいる様子の“愛子”を、ふたりが慌ててフォローするが……。
 「まぁ、お主は今18歳じゃろ? あと2年くらいはまだ成長の余地がある故、努力してみてもよいのではないか?」
 ふたりよりは、まだ“彼女”の悩みが分かりそうな利香の言葉の方が、多少は救いがあった。
 「ぅぅ、ガンバります。牛乳、いやむしろ大豆製品が効くんでしたっけ?」
 「イソフラボンが豊富じゃからな。それと、吾輩が十代の頃に実践していたバストアップ体操を教えてやってもよいぞ」
 「! ぜひ、お願いします!!」
 時間が早めなせいか彼女たち以外に女風呂の客がいないとは言え(ちなみに白高生たちは現在ホールで全体会議の最中だ)、若い女性が大浴場でバストアップ体操を教え、教わる光景はなかなかシュールだ。
 そして、そんなキャッキャウフフな騒ぎに紛れて“愛子”は、せっかく思い出した「自分が本来は従弟の男子高校生の須賀孝雄である」という事実を、またも意識の片隅に流してしまうのだった。
0506名無しさん@ピンキー2017/02/01(水) 00:29:34.67ID:4HJiu7pw
教育実習生と実習先の学生の立場交換ってのもいいかなぁ。
スポーツマンなイケメン教育実習生(♂)の立場を、
某もこ●ちみたいな、根暗地味女子高生が奪って、
「これでワタシは今日から勝ち組リア充やで〜」と
テンション上がって暴走したり、
一見清楚系(実は腹黒)な教育実習生(♀)に対して、
子犬系ショタ中学生が勇気を出して告白したら、
巧く丸め込まれて立場交換することになったり……。
0507名無しさん@ピンキー2017/02/01(水) 09:27:42.66ID:bj6fy1Kd
オタクってかスクールカースト底辺系な女子がイケメンリア充男子の立場奪っちゃうのは結構好きだ
結構前のスレの美術部のデブスと陸上部のイケメンの立場交換なんかはあの後どうなったんだろうってよく妄想する
0508名無しさん@ピンキー2017/02/03(金) 08:55:48.35ID:AwM8I/38
巨乳がコンプレックスの女子と巨乳好きのエロ男子を交換して克服させようとし戻った頃には巨乳大好きエロ女子とエロに抵抗な男子になってめでたしめでたし
0509『ボクがバスガイドになったワケ』2017/02/04(土) 01:44:30.08ID:hOIexrJB
-10-

 「しまった……寝過ごしちゃった」
 5月半ばの朝6時といえば、現代日本では十分に「早朝」と言って差し支えない時間帯だが、6時半過ぎに目を覚ました“彼女”は、すっかり明るくなった窓の外や壁に掛けられた時計を見て茫然としていた。
 部屋の中には、“彼女”以外にも3人若い女性がいるのだが、その3人とも見目麗しい乙女というには、少々はしたない(←婉曲な表現)格好で布団の上にひっくりかえっている。
 ひとりは、浴衣を完全に肌蹴たほとんど裸の状態で大の字になって大いびきをかき、もうひとりはその女性の片足を枕にして何やら桃色な夢でも見ているのか、鼻息を荒げつつ体をくねらせている。
 残るひとりは──「銘酒・美中年」とラベルにかかれた一升瓶を抱えて布団の上で丸くなりつつ、よだれを垂らしながらだらしない笑みを浮かべて白河夜船。完全に酔っ払いオヤジの所業だ。
 (なんでこんなコトに……)
 ズキズキと痛む頭を堪えつつ、“彼女”は昨夜のことを思い出そうとした。

 * * * 

 白守高校修学旅行3日目、そして孝雄(オレ)が愛子(ワタシ)の立場になってから2日目のスケジュールも、万事滞りなく進行していた。
 今日はバスは大阪市内に向かい、そこで大阪城や法善寺、住吉大社などを巡ることになっている。
 元地元の京都と異なり、こっちの方の知識は孝雄(オレ)にはそんなにないはずなんだけど……“本物”から受け継いだ知識のおかげか、ワタシはすこぶる順調にガイド稼業をこなせている。
 それに、勉強の方はイマイチだけど、口八丁かつ人見知りしないことには多少自信があるんで、こういう多数の御客(にんげん)相手にペラ回すような職業(しょうばい)は、存外ワタシの性に合ってるみたいだ。

 「ガイドさーん、このお店でオススメのお土産はなんですか?」
 「呉多さん、午後の自由行動で梅田の方に行くつもりなんだけど、ランチのオススメとかあるかな?」
 年齢も近いせいか、こんな風に白高生(おもにC組の女子)から気軽に声をかけられるようにもなったし。
 「オススメをひとつに絞るのは難しいですけど、そちらのお煎餅とおかきはこの売店でしか買えないものですね。
 梅田周辺のランチは少々お高い店が多いですけど、1000円ちょっと出せるならいくつか候補がありますから、行ってみてはどうですか」
 その子(たしか如月さんと中川さん、だったと思う)たちにアドバイスしつつ、今日最初の観光スポットである某劇場の売店スペースの前で、受け持ちの学生たちをさりげなく見回る。
 (バスガイドって、バス内で適当にウンチクこいてれば務まるワケじゃないんだなぁ)
 そのヘンは観光会社にもよるみたいだけど、呉多愛子(ワタシ)の勤めている「きょうと観光」では、観光スポット内に入るまでの誘導や、スポット前での解説などの業務も含まれてる。
 加えて、半自由行動中のお客さん(今日の場合だと3-Cの生徒たち)から質問されて、それに答えることもお仕事の一部ってワケ。
0510『ボクがバスガイドになったワケ』2017/02/04(土) 01:45:39.25ID:hOIexrJB
 それに、お客さんが朝乗る前、乗った後の夜にバス内を掃除するのもガイドの仕事だし、仕事時間外にもガイドとしての観光知識を詰め込んだり、マナー講習を受けたりと、想像以上に忙しい仕事だったりするのだ。
 (でも、やり甲斐はあるよねぇ)
 少なくとも、何に使うのかわからな数式やら理科社会の用語やらを暗記するよりは、勉強する内容も納得がいくし、地理や歴史、古典なんかで学んだことの一部も地味に役立つもん。
 そういう「地に足がついた仕事」に就いた“本物”のことがちょっと羨ましいかな。

 「呉多さん、そろそろ移動の時間よ」
 摩美子先輩がこっそり教えてくれたので、ワタシから監督の先生にそのことを告げて、3−Cの生徒たちが集まるのを待ち、バスへと誘導する。
 カツカツカツ……と、アスファルトに軽快なハイヒールの音を鳴らして歩くのもすっかり慣れたなぁ。最初の頃は、ちょっとだけおっかなびっくりだったのに。
 (──そう言えば、昨日の初めてこのバスガイドの制服を着た時は少々窮屈に感じたけど、今では我ながらごく自然に着こなしてるし、オシャレだし、むしろ背筋がピンと伸びる感じがして、結構気に入ってるんだよね)
 頭の片隅でチラッとそんなことを考えつつも、言葉や表情は至って真面目にバスガイドとしてのお仕事を遂行しているワタシ。
 (もしワタシ……いや、“オレ”が女の子だったら、愛子ねーちゃんと同じく、きょうと観光のバスガイドになるのを目指してもアリかな)
 ふと、そんな事も一瞬思い浮かんだものの、その時は特に意識することもなく、そのまま“お仕事”に没頭していった。

 で、そのまま市内観光のガイドをして夕方になり、本日の引率(ガイド)は無事終了。
 明日は、朝イチで梅田スカイビル(の空中庭園展望台)に生徒たちを我社(ウチ)のバスで送り届けたら、ワタシたちのバスガイドの仕事はそれでお仕舞なんで、実質的には、ほぼ終わったようなものだ。
 今回のお仕事──白守高校修学旅行のガイドを最終日前夜まで大きなトラブルもなく乗り切ったということで、その夜はガイド4人で、ちょっとした“お疲れ様会”を部屋でやることになった。
 とは言え、ワタシの場合、元に戻るためにタカちゃん──本物の“愛子ねーちゃん”と会う必要があったから、適当なところで抜け出すつもりだったんだけど……(メールして24時ごろに会う約束もしてたし)。
 でも、ほんの1時間程度のはずが、ポーラが酒を持ち出し、それに利香先輩が便乗して、真面目な摩美子もついハメを外し……流れでそのままワタシも飲まされちゃったんだよね。
 (ぅぅ〜、ワタシ、まだ20歳になってないのにぃ)
 いや、雰囲気に流されて強く拒否しなかったワタシも悪いんだけどさ。
 で、初めて飲むアルコールと意識してなかったけど結構疲れが溜まってたののダブルパンチで、そのままあっさり眠りに落ちて……。
 で、気が付いたら、今、朝になってるってワケ。
 スマホを見たら、タカちゃんからのメールが何通も来てるし。当然、“彼”は激オコですよ、ええ。
 謝罪と釈明のメールは入れたんで、何とか理解はしてくれたけど──でもこのままだと、もう一度立場交換とかしてる暇はなさそう。
 だって、ガイドであるワタシたちの方は、すぐさまシャワー浴びて、着替えて、7時までに身だしなみを整えないといけないし、白高生の方だってそろそろ起き出す時間だしね。
 いくらワタシたちがイトコだからって、今から短時間とは言え“密会”するのは、不可能じゃないけど色々勘繰られるリスクも大きいだろうし。
0511『ボクがバスガイドになったワケ』2017/02/04(土) 01:46:46.12ID:hOIexrJB
 ──え? その割に焦ってないみたいだって?
 うん、まぁね。
 確かにこれが赤の他人と立場交換してるんだったら、この機を逃したら元に戻るチャンスがあるかわからないから焦りもするんだろうけど、ワタシたちの場合、よく見知った従姉弟同士だもん。
 お互いの家や家族のこともわかってるし、その気になれば家を訪ねることもできる。今の立場における学校や会社関係の知識があることもすでに判明してるワケだし、しばらくこのままでも大丈夫でしょ。
 (どのみち、夏休みになったら、タカちゃん、京都の家(ウチ)に遊びに来るやろうしなぁ)
 最悪、元に戻るのはその時でもいいかなー、なんて。

 で、そのヘンの対応策(コト)を──多少は不可抗力だというニュアンスをにじませつつ──メールでタカちゃんに投げたところ、“彼”も賛同してくれた。
 いかにも「仕方ないなぁ」という文面だったけど、その割にレスポンスが早かったし、“彼”の方も内心、東京での学生生活に興味があったのかもね。

 とにかく、そういうワケで、ワタシはこのまましばらく19歳の女性・呉多愛子として京都でバスガイドライフを続けることになったんだ♪


#次回がエピローグです
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況