〜同時刻・カルベアスのローナの自宅〜

家にいる私は、サラダ作りの準備を始めた。彼はおいしいって言ってくれるだろうか?想像しただけで、ちょっとの不安と期待が入り混じる。だが。
「…あっ、ドレッシングのオイル減ってる。」
明日は私と彼の分を持っていかないと。オイルは足りるとは思うが、一応買いに行きたい。
まだ店はやっている時間帯だ。営業時間ギリギリに滑り込むのも悪いのでちょっと急ぎ、カバンを持って早足で家を出た。

「ありがとうございましたー。」
店員のテンプレートな声を聞きながら、店を出る。そして、近道の自然公園に入る。
とりあえず目的の物は買えた。後は自宅に戻って…

ぐぎゅうぅぅっ…………
「う…っ!」

お腹が、突然鳴り始める。しかもかなり強い。
(これは、まずいかも……!)
息が上がり、額に汗が浮かぶ。咄嗟にお腹を押さえるが、無駄。彼女の大蛇が容赦なく暴れ、もうトイレに駆け込む余裕も無い。
………だが、この事態も一応想定済みだ。
ローナはカバンに手を突っ込んでまさぐり、一枚のシートを取り出した。
そう、彼女の緊急用の切り札であり、禁じ手。そして、使ってはいけないもの。
ペットシートである。

ペットに粗相をさせる器具。吸水性も高く、出し終えたら包んで片付ければいい、と画期的な発明だと思う。
エルフの便秘ウンコは、いつ動き出すかわからない。それを一番知っているのは彼女だった。
もし外でする時は、コレを持っておくといいという話を小耳に挟んだので、なんとなくカバンに入れていた。
しかし、コレを使うという事は……
(野グソ…になっちゃうんだよね…)
人生で初めての、外での大便。人として、絶対にいけない事だとわかってはいる。
それにこんなところで出して、見られたらどうしよう。恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。…けど。
そうこうしているうちに、ぐるぐると音を立ててお腹がまたうずきだす。
迷っている私に、"出してしまえ"とでも言うように。邪魔する理性と常識概念に、お腹の痛みでヒビが入る。

「……もう、駄目、だ…」
我慢の臨界点に達した私は、素早く茂みの影に回りこみ、綺麗に手入れされた芝生にペットシートを広げる。
そしてズボンとパンツをずり下ろしてお尻を丸出しにして、腰を落とす。
お尻に夜風が当たり、改めて野グソをするんだ、という実感が沸く。
見られている訳でもないのに、顔が恥ずかしくて真っ赤になり、心臓が早鐘を打つ。
そして一気にお尻に力を込め、ふん張る。

「ふんっ……!ん、ぐ、ぐ……!」
(早く、早く早く早く!)
ゆっくり出している暇は無い。誰か来るかもしれない。
唸り声を上げて、2週間分の大便を搾り出そうとする。が。
「出……な、いっ…!」
肛門は開き、先が丸く尖ったウンコが少し見えている。しかし、そこから先が出てこない。
それなのに、お腹は痛いまま。
「う、そ、この期に及んで出ない、なんて……!」
一旦力を抜いて、大便がひゅるん、とお腹に戻る。もう一度、力を入れ……

その瞬間、背後から足音がした。
体が、びくりと硬直する。…見られた。
「だ、誰ですか!?」
振り向かずに、声を出す。だが、帰って来た返答は――

「……もしかして…ローナ、だよ、な?」
「えっ、まさか……コウ、シロウ、くん?」

思わず振り向いて、目が合う。満月に照らされ、お互いの顔を見る。
一番見られてはいけない人に、見られてしまったのだった。
そしてお互い、思考が凍り付いて硬直した―――