0604ジェントル中尉
2017/06/14(水) 18:47:42.85ID:EbpQbqqRお目汚しにならねばと思いますが、小咄をひとつ。
『……
ブシュっ…
空気音と共に、眼前のドアが開いた。
「……っ!?」
ブリュッ……!
同時に、少女がこれまで必死になって、錠前を閉じ続けてきた秘門もまた限界を迎えていた。
「〜〜〜っ」
扉が完全に開くのも待たず、少女は車内からホームへと身を躍らせた。駆け込み乗車ならぬ、駆け下り降車だ。
「ご、ごめんなさい! すいませんっ!」
ラッシュタイムというわけではない。しかし、乗り降りの人波も意に介さず、少女は口では謝罪の言葉を述べながら、自分のことしか考えていなかった。
(もれる、もれる、もれる、もれる……っ!)
電車内で必死に堪えていたもの。
(トイレ、トイレ、トイレ、トイレ、トイレぇっ……!)
脳内を狂おしいほどに駆け巡る、白い陶器のイメージ。
(ウンチ、ウンチ、ウンチ、ウンチ、ウンチィッ……!)
普段の清楚な佇まいからは想像もできないほど、今の少女は顔を歪ませていた。それほどまでに、我慢の限界に達していたのである。
ブスブスッ、プッ、ブスッ、ブブッ……
(くぅ、はうぅ……う、ううっ……!)
駆け足で目的の場所に向かいながらも、錠前の緩んだ秘門からは濁った空気が漏れ続けている。
(み……実が、でちゃうぅっ……!)
我慢の限りを尽くした理性は、それに抗うだけの力を既に喪失していた。
ブリュリュッ!
「んあっ……!」
ひときわ高く、そして、粘性のある音が響いた。そして、明らかに質量のある存在感が、尻の肌にへばりついていた。
「………!」
少女はそれでも、足を止めなかった。まだ認めたくない事実を捩じ伏せ、駅のはずれにある女子トイレへと駆け込んだ。
古びた駅のそれは、染み付いた汚臭が鼻に効く。しかし、今の少女にとって、それはどうでもいいことだった。
(ウ、ウンチ、できるならっ……!)
個室が空いていれば、もうそれだけでいい。
和式だろうと洋式だろうと、ウォシュレットがなかろうと、最悪、紙だってなくてもかまわない。
とにかく、完全に摩滅した錠前が役に立たなくなった秘門を、自らの意思で内側から完全に解放できる状況になりさえすれば、少女はもうそれだけでよかった。
(よ、よかった、あいてるっ……)
幸いにして、個室は全てドアが内側に開いていた。当然ながら少女は、一番手前の個室に駆け込み踊りこんだ。
年を経てくすんだ様子の和式便器が、それでも光り輝いているように少女には見えていた……。
……』