【風俗嬢】過ぎ去りし想い出は【風俗店員】part3 [無断転載禁止]©bbspink.com
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前スレからの続きです。
スレ主が自分の過去を淡々と書き綴るスレです。
part1
前スレ【風俗嬢】恋愛物語~過ぎ去りし想い出は【風俗店員】
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/dame/1483366309
part2
前スレ【風俗嬢】恋愛物語~過ぎ去りし想い出は【風俗店員】part2
https://rio2016.2ch.net/test/read.cgi/loser/1486558015/ 「マイさん、最近すごく私たちに命令口調で・・・ちょっとついていけないかなって」
「え?マイが?」
「うん。だって私たち、マイさんのために働いてるわけじゃないです・・」
「そ、そりゃそうだよね。」
俺はそれを聞いてびっくりした。
この店のリーダーに、と言ったのは確かに俺だけど、暴走してるってことなのか?
マイにプレッシャーを与え過ぎてしまったのだろうか。
俺が考え込んでると、ミサキが続けた。
「昨日の夜ね、マイさんに誘われて渋谷にご飯行ったんですよ。そのとき・・」
「そうなんだ?それで?」
「あ・・ううん。なんでもない。とにかく私、もうこれ以上はつらい・・」
そんなに追いつめられるまで我慢してたのか?
ミサキは嫌なことがあっても、周りに愚痴を言ったりする子ではない。
俺に直接言ってきたというのは、相当我慢ならないところまで来てるってことだ。
それと、昨日の夜、渋谷で何かあったのか?
ミサキが言いかけたことが、気になった。 俺はすぐ、レイナにも確認しようと思い、個室に行った。
さっきミサキに聞いたことを、レイナにそのまま伝えた。
「うん、ミサキちゃんから聞いてるよ。」
ミサキは俺に言う前に、レイナに相談していたようだ。
「マイちゃん、あの子、頭おかしいよ。」
俺は仰天した。店で一番おとなしいタイプのレイナが、
こんな過激な発言するとは想像もしてなかったからだ。
「なんかいちいち私やミサキちゃんに、もっと頑張れって言ってくるし、
なんで他の女の子にそんなこと言われなきゃならないの?」
やっぱり俺が、マイに責任を負わせすぎたのだろうか?
「ごめん、俺も悪いんだ。」
俺は、マイに負わせた責任のことを、レイナに正直に説明した。
「それだけじゃないよ部長。あの子はやめたほうがいいと思う。」
「え?他にも何かあるの?」
俺はミサキが言いかけた、昨夜の渋谷での出来事に関係がある気がした。
「詳しいことは言えないよ・・・部長も聞かないほうがいいと思うし。」
結局、レイナもミサキも、それ以上のことは教えてくれなかった。 俺はフロントに戻り、自分がマイを追いつめ、その結果他の女の子まで被害を受けてしまったことを、
後悔した。
早く修復しなくては。
それにしてもミサキとレイナが言いかけたことが気になった。
昨夜渋谷で何があったのだろうか?
営業終了後、みんなが帰るのを見計らって、マイの個室に行った。
今日もマイはラストまで働いたので、店泊予定だった。
「お疲れ様。ちょっといい?」
「うん。どうしたの?」
俺は、昨夜の渋谷のことを聞くのは最後にしようと思って、
まずはミサキとレイナが思ってることを、マイに伝えた。
「マイ、あまりプレッシャーに感じて欲しくないんだ。
今までどおり、仲良くやってくれるだけで充分なんだから。」
「だって、みんな最近怠けてるよ。指名だってとれてないでしょ。」
「そうかもしれないけど、それはマイの責任じゃない。リーダーとして
みんなを励ますことはあっても、責めちゃダメだよ」
マイは納得がいかない顔で、だまりこんでしまった。 「話は変わるけど、ミサキと渋谷で何かあったのか?」
俺がそう問いかけると、マイはびくっと体を震わせ、
下を向いたまま固まってしまった。
俺が声を掛けても反応しない。
やがてマイを顔をあげると、何かを決心したように立ち上がり、
荷物をまとめて無言のまま個室を飛び出していった。
「お、おい!どこ行くんだよ?」
俺の呼びかけに振り向くこともせず、マイは店を出て、深夜の歌舞伎町の中に消えていった。
今日はそれ以上追いかけても無駄なような気がした。
そこからマイとは連絡が取れなくなってしまった。
どれくらいの期間だっただろう?
残念ながら記憶にない。
数日だったか、数週間、あるいは数カ月・・・
いや、数か月なら覚えてると思うから、せいぜい1〜2週間だったんじゃないかな。
次にマイの所在がわかったとき、彼女は意外な場所に現れたんだけど、
その前に、ミサキとレイナが言いかけた「昨夜の渋谷の事件」をミサキから聞き出すことができたので、
その話をする。 あの日ミサキから「昨夜渋谷で・・」と最初に言われた時、
嫌な予感がしてたんだ。すごく嫌な予感が。
というのも、以前マイからこういうことを打ち明けられたことがある。
「うーさん、私ね、このまえ渋谷でスカウトに声かけられたの。」
「え?スカウトって風俗の?」
「うん。あっ、でも断ったからね。もちろん!」
「なんだ。驚かせないでよ。びっくりした。」
「クスクス・・でもね、移籍したら祝い金100万くれるって言われたから少し考えちゃった」
「ひゃ!ひゃくまん?そんなの詐欺だって!入店しても絶対くれないよ!」
「うーん、多分、ホントにくれると思う。」
「なんでそう思うの?」
「それはたまたまその店が、私の知ってる人がやってるお店だったから。」
「え?」
「稲山会の直営店なの。」
左腕に黒豹の和掘りがあるマイのことだ。
そっち方面に人脈があることは予想はしていたが、直接本人の口から聞かせられると、
ちょっと俺は尻ごみしてしまった。
「そ、そうなんだ・・」
「うん。もうかかわりたくないから逃げてきちゃった。」
たぶん、本当に100万もらえたとしても、店で働くだけでは済まされないんだろうな、
ってマイはわかっていたんだと思う。 その話を前もって聞いていたから、ミサキから「渋谷で」と言われた時、
そっち系のトラブルなのかと予感はあった。
「ミサキちゃん、マイちゃんと連絡が取れなくなっちゃったよ。
このまえ言いかけたアレ、渋谷で何があったの?教えてよ」
「うん、話しますね。あの日、マイさんからご飯誘われたの。
そんなこと今までなかったし、なんで渋谷なんだろって思ったけど、
せっかく誘ってくれたんだから断りづらくて、渋谷に行ったんです。」
「食事に?マイが?ふたりっきりで?」
「うん。ふたりで。イタリアンの店に連れてってくれた。」
「へえ、マイちゃんとミサキちゃんが二人でどんな話するのか、想像もできないな。
もしかして、仕事や、指名数のお説教みたいな話されてウンザリしたとか?」
「そうそう、私もそれ系の話だと思ったから、ホントは行きたくなくて。
でも、もっとヤバい話だったんですよ!」
「もっとヤバいって何が?」
俺は嫌な予感マックスになってきた。
「・・・クスリすすめられた」
俺は心臓が止まりかけた。 「クスリ?!それってまさか・・・」
「たぶん・・・マイさんは精神安定剤って言ってたけど、絶対そうじゃないですよね・・?」
俺は全身から脂汗が滲み出てきた。
まさかそんな話が身近に現れるとは・・・
いや、こういう世界だ、あってもおかしくはない。
でもそれなりに深い仲であった相手にこんなことが起こるとは・・
しかも俺はまったく気がついてなかった。。
俺はかなりショックを受けた。
思い返せば、思い当たるふしもあった。
マイは腎臓が弱いと言ってて、よく体調不良になった。
オーラスで働かせたことも多いから、俺は申し訳ない気でいたが、
俺が病院に行ってこいと言っても、マイは決して病院に行かなかった。
それは尿検査や血液検査をされたくないからだったのかもしれない。
実家に住んでてお金には困って無いはずなのに、やたら稼ぎを気にして、
体調が悪くてもハードに仕事をこなしていたのは、決して俺や店のためではなく、
薬を手に入れるためだったのかもしれない。 俺はミサキからその話を聞いて、マイと体の関係を結ばなかったのは正解だったのかもとか
思いもしたが、むしろ逆だった。
俺はマイを救いたいという気持ちが強くなり、より愛おしく感じるようになってしまった。
それが地獄への入り口だとしてもだ。
俺はマイに長文のEメールを何度も送った。
後から読み返せば恥ずかしくなるような内容のだ。
【好きだ。戻ってきてくれ。マイの力になりたい】
そんなような内容だったと思う。
好きなんて言葉、今までマイには一度も言ってなかったが、
俺はマイが応えてくれるなら、マナミを切る覚悟が出来ていた。
何度送ってもしばらく返信は無かったが、やっと返事が来た。
【うーさんごめんね。うーさんの気持には答えられない。
お母さんにも相談したけど、結婚を考えられる人と付き合いなさいって言われちゃったの】
お母さんに相談したなんて絶対嘘に決まってるけど、
マイが俺を真剣な恋愛対象とは見てなかったことが、はっきりわかった。
俺はなんとかマイの力になってあげたいと思っていたんだけど、
マイは俺の力なんて必要としてなかったってことだ。
俺はそれがわかって肩を落とした。 それから数日後だったと思う。
3号店の店長のミヤッチから、俺に連絡があった。
「部長、そっちの店のマイちゃんが、ウチの店に来てますよ?
こっちで働きたいって・・・もう本店には戻りたくないって。
なんかあったんすか?」
俺はほっとした。
自暴自棄になって、渋谷の稲山の店に行ったんじゃないかって思っていたから。
ウチのグループに戻ってきてくれたら、また顔を合わせる機会もあるだろう。
俺は本店と3号店をまとめる統括部長だし、そのチャンスはあるはずだ。
「そうか、マイがそっちに?じゃミヤっち、悪いけど面倒見てやってほしい」
「部長がそういうなら、マイチャンなら大歓迎すよ。じゃ在籍こっちに移しますね」
「ああ。そうしてくれ」
いつかまた顔を合わせて、弁解のチャンスがあると思っていたが、
実際はマイは決して本店には顔を出さず、
俺も3号店には行きづらくなってしまい、しばらくは顔を見ることはなかった。
いや、結局、最後まで会うことは無いまま、終わったんだ。 マイが店からいなくなって、ミサキやレイナは元通り生き生きと楽しそうに働くようになり、
俺はマイのことを忘れようと、マナミとの関係修復に努めるようなった。
マイはマイで、3号店で頑張ってるという話をミヤっちから聞き、
ああ、これでよかったんだ、と思うようになった。
だけどそう思ったのもつかの間だった。
ミヤっちは3号店の店長だけど、グループ4店舗の広報部長も兼ねていて、
もともと1か所にじっとしてられないタチだから、
ちょくちょく本店にも油を売りに来ていた。
そのミヤッチが、顔を見せるたびに、痩せて行ってるのが明白だった。
顔色も青白く、目は睡眠不足でくぼみ、とても健康な20代後半の男には見えない。
毎日のように顔を見てるが、それでもはっきりとわかるくらい、毎日少しずつ痩せている。
着ているスーツがダボダボだ。
もともとたいして強くない空手家だけど、今のミヤっちなら片手でノックアウトできそうだ。
「おい、ミヤッチ、最近顔色悪いぞ?ちゃんと飯食ってんの?」
「いやー、夏バテっすかね。食欲があんま無くて、でも大丈夫っすよ!」
いつも麦茶の1リットルパックを持ち歩いてがぶがぶ飲んでいる。
げっそりしながらも眼光だけはやたらギラギラしてる。
彼の痩身の原因は明白だった。 マイとミヤッチが付き合いだして、二人揃ってポン中になった、
という想像はついた。
二人が付き合うのは、なんとなく予想はついた。
年齢も近く、偶然にも二人は左腕に似たような刺青があり、
マイは黒豹、ミヤッチは虎の違いはあったものの、なにか通じるものがあるのだろう。
確認したわけではないから、付き合ってたのかどうか、俺には分からずじまいだけど、それならそれで良いと俺は思っていた。
稲山会のやくざの女になってることを想像していたから、それよりずっとましだ。
だけどミヤっちは、もう少ししっかりとした男だと思っていたから、
簡単にクスリに負けた姿をみて、俺は残念だった。
俺は二人のことも心配だったが、他の男女スタッフにクスリが出回らないか、
それが一番心配だった。
俺の懸念は的中し、本店の女の子の中に、あきらかに挙動がおかしい連中が数人現れた。
幸い、それらの連中のほとんどは、店の中核メンバーではなく、
週に1度か2度しか出勤しないような、アルバイトのガングロギャルだった。
そいつらには客を付けず、干していたら自然に退職していったのでたいした問題にはならなかったが、
看板娘のナツキが怪しい動きを見せていた。
ナツキの若くてみずみずしかった肌は荒れ、いままで真面目に出勤していたのに、
よく仕事をさぼるようになってきた。 ナツキはAV会社の所属だから、所属会社に毎月決まったお金を払っているし、
北新宿のそこそこのレベルのマンションを、寮として無料で貸し与えていたので、
仕事に出てこなくなるのは店にとって大損害だ。
寮はコンクリート打ちっぱなしのおしゃれなマンションで、間取りは2LDK、
家賃は20万近く払ってたような覚えがある。
他の子も寮に住んでる子はいたけど、大久保や百人町のオンボロマンションだったので、
それに比べるとナツキは特別扱いだった。
そしてその日も、ナツキは出勤してこず、電話してもコールはするものの、応答はなかった。
俺はナツキのマンションのマスターキーを持って、歩いて北新宿まで行った。
歌舞伎町から歩いて20分くらいだったか。
普通に歩けばもっと早いかもしれないけど、俺は嫌な予感がしてたので、
かなりゆっくりと歩いて向かったような覚えがある。
やがてマンションに着き、部屋の玄関の呼び鈴を押したが反応がなかったので、
俺はマスターキーを使って部屋に入った。
「おーい、ナツキちゃん・・・いないのかな〜?」
と思ったら、居た。
ベッドルームで荒い寝息を立てて、寝ていた。
「ちょっ!おい、大丈夫かナツキちゃん?具合悪いのか?」
声をかけても、体をゆすっても、起きる気配がない。
こいつはやべえ・・・完全にキマッてるよ・・・
こりゃ今犯しても気がつかないんじゃ、とか考えもしたけど、
問題がこじれるだけだから自制した。
俺は軽く部屋の中を物色すると、あったよ、ごみ箱の中にポンプが。 さて、どうするか。
救急車や警察呼ぶわけにもいかないし・・・
まあ、ナツキの寝息を聞いてる限り、命にかかわるようなこともなさそうなので、
俺はナツキをそのままにして、店に戻ることにした。
戻ったら支社長に相談しよう。証拠品としてこのポンプは持って帰ろう。
歩いて帰る道すがら、俺は考えた。
いったいどういうルートでクスリが流れてきているのか。
マイはナツキとはほとんど接触がなかったので、
マイから直接ナツキにクスリが流れることは考えられなかった。
ミヤッチもそこまで大胆なことができる男ではない。
外見は突っ張っているが、内面は気の小さな男だ。
だから、マイやミヤッチ、ナツキの裏に、だれか黒幕がいるはずだ。
それがだれなのか。
俺はヤマノが怪しいと睨んでいた。 最初のころにも書いたけど、ヤマノは入店時にはおとなしい黒髪のボブで、
従順な従業員だったが、すぐに金髪の坊主あたまに変え、本性を現すようになった。
くるぶしからクビ根っこ、手首までの全身の入れ墨を入れた男で、
今は俺の後をついで本店の店長をしている。
ヤマノは最近、俺はもちろん、支社長にまで口答えするようになり、
俺たちを追い出して店を乗っ取るという気持ちを、隠そうともせず、
前面に出すようになってきた。
裏で女の子たちに、あることないこと、俺の悪口を流布しているのもわかっている。
こいつは見た目が完全にやくざだけど、実は知略家で、頭の切れる男だ。
簡単にしっぽをつかませるようなヘマはしないだろう。
奴が店長になってすぐのころは、女の子たちには嫌われていたが、
いつのまにか、ヤマノ派の女の子グループが出来ていた。
奴がやったことを想像すると、女の子や男子スタッフに飯を奢り、
俺や支社長のことを貶め、ひとりずつ自分の傘下に加えていく。
そして言うことを聞かない奴にはクスリで操る。
ちょっと考えすぎかもしれないが、そこまで策を張り巡らせるようなやつなら、
俺に勝ち目は無い気がしていた。 もう俺は、修復は不可能だと感じていた。
火災以降、相変わらず客足は戻らず、給料も満額もらえない日々。
なんとか持ち直そうとして指名推奨制にして、
柱と考えていたマイを失った虚脱感。
クスリが蔓延した店内。
ヤマノとの確執。
レジから金を抜きだしパチンコに明け暮れる支社長。
俺はすっかり、モチベーションを失ってしまった。
あとは、いつ辞めるか、辞めたあとどうするか。
もう財布貯金も無い。またゼロに戻ってしまった。
なんのために東京に来たのか。
地方のヘルスに入店したのが約4年前。
この4年間、まったく意味のないものになってしまった。
情けなくて、自然と涙がこぼれてくる。
まわりは敵ばかりだから相談する相手もいないが、
唯一、ゴローだけは別だ。
ゴローは2号店と4号店を統括する部長職で、
1号店と3号店を見ている俺と同格だけど、
俺より9歳若い。
でも、俺よりこの商売に関しては天才的なものがある。
地方都市にいたときから一時的だけど一緒の店で働いてたこともあるから、
相談できる相手はゴローしかいなかった。 一旦ここまでです。またもう少し書き溜めて投稿します。 あーうー私がうーちゃんです。見るからに見た目こわい(いや、ぜんぜんヘタレの一般人』のヤマノに、怯えてしまっていたんです。
、怖がって、しまっていたんです。あーうーあーうー私がしぶんで、しぶん、うーちゃん呼ぶもらいこじきの、うーちゃんなんです。
ちなみにまなみのメコは鬼くさいです。 ゴローの店も火災以降は泣かず飛ばずだったが、
店の規模が小さいので、家賃など経費も少なく、
1号店ほど火の車というわけではなかった。
それに普通の性感店の1号店とちがって、ゴローの2号店は学園イメクラ、
4号店は人妻店だったので、固定客の割合が多く、客単価が高いのも幸いしていた。
その目のつけどころがゴローのすごいところだ。
「ゴロー、もうこっちはダメだよ・・・もうどうしようもない」
「○○(俺)さん、どうするつもりですか?」
「もう辞めるしかないかなって思ってるんだけど・・・」
「○○さん、辞めるなら、一緒にデリ、やりません?」
「デリヘル?そんな金、もうないよ」
「僕もないですけど、200万くらいなら、女からひっぱれますよ。」
「え、マジで言ってんの?」
「ええ本気ですよ。前から考えてたんです。デリならそれほど金もかからないと思うし、どうですか?」
「一緒にって言うけど、ゴローはどうするの?」
「僕は今のここに残ります。僕がオーナーで、○○さんが店長って形にはなりますが」
俺がゴローの部下になる。
俺は9歳年下のこの男が好きだったから、なんの抵抗もなかった。
なにより、他に行くところもなかったし、まだ東京に残ることができる。
デリの事務所で寝泊まりする場所も確保できるだろう。
俺の決心は固まった。 それ以降、仕事中に店を抜け出し、ゴローとルノアールで密会し、何度も打ち合わせをした。
あ、そうそう靖国通り沿いの居酒屋も行ったな。仕事中だけどw
「集」ってお店。当時オープンしたばかりで、ゴローがお勧めっていうから。
なんで覚えてるかっていうと、今でもあるから。
正確な店名を調べてみたら、炭火BAR集。
歌舞伎町のオシャレ系居酒屋でこんなに長く続いてる店も他に無いんじゃない?
結局1度しか行かなかったけど。
女の子や支社長たちとよく行ってた、セントラルロード沿い、コマ劇前の「炙り屋」はいつのまにかなくなってる。
当時、セントラルロードって言ってたけど、今はゴジラロード?になっちゃったな。
今では昔なつかしコマ劇場は無くなり、高層の東宝ビルになっちゃったけど、
コマ劇が解体されて、高層ビルが建つって知ったとき、
こんなでっかいビル、完成までいったいどれくらいかかるんだろうって思っていたけど、
もう開業して2年以上経つのか。
年月が経つのは早いもんだ。
歌舞伎町は今でもちょくちょく行くけど、ナイタイギャラリー、コマ劇場、喫茶上高地、いろいろ変わっちゃったな。
よくウィスキー買いに行ってた、信濃屋は今でもまだあるね。
よくホームラン賞のタオルもらってた新宿バッティングも健在でうれしい。
今でも130キロ、打ち返せるかな?
なつかしいなあ。
でっかいごみ袋に、洗濯物詰めて通ったコインランドリーはまだあるのかな。
サクラと住んでたアパートも当時新築だったけど、最近見たら、結構古ぼけた感じになってた。
アパートのオーナーが飼ってた、でっかい犬はもういなかった。
そりゃ生きてないよな。
店を辞めて、デリヘルやろって決めたとき、なんだか走馬灯のように、いろんなことを思い返したのを覚えてる。
まともな辞め方なんかできないだろうし、バッくれれば、当分の間は歌舞伎町には脚を踏み入れられないって、
思っていたから。 話がそれちゃったな。
ゴローと打ち合わせして、デリの事務所と女をどうするかをメインに話し合った。
けっこうゴローとは意見が合わなかったんだ。
金を出すのはゴローだけど、その金はゴローの女の金だから、
ゴローは俺ほどはひっ迫してなかったんだ。
ゴローは経営そのものより、自分の都合と、今の店での保身を優先しているのがわかった。
まず事務所だけど、ゴローは中野坂上のマンションに住んでたから、
歌舞伎町との中間にある、西新宿のマンションを事務所として借りようとしていた。
実際、俺は不動産屋に案内されて下見も行った。
(ちなみ数年後、そのマンションでポール牧が死んだ)
ちょっと古いけど、広いし間取りも良いし、確かに理想的な物件だったけど、俺は反対した。
なんと言っても家賃と初期費用が高すぎる。
たしか家賃が25万くらい、初期費用は150万くらいだったと思う。
これでは事務所を借りるだけで予算がふっとんでしまう。
それをゴローに言っても、「お金ならなんとかなるでしょ」くらいのことしか言わない。
だけどこっちとしては、ゴローの金じゃないことを知ってるだけに、
女が出してくれなくなったら終わってしまうわけだから、
出来るだけお金をかけずに済ませたかったんだ。 事務所より大事な、女についても意見が合わなかった。
俺は今の店から、何人かひっぱるつもりでいたし、
ゴローもそれに協力してくれるものだと思っていたんだ。
「俺、5人、少なくとも3人は今の店から引っ張れると思う。ゴローは自分の店から何人くらい連れてこれる?」
「いや、○○さん、それはダメです、他の幹部連中にバレてしまうから、僕も引っ張れないし、○○さんも引き抜きはやめてください」
「ええ?そのアテがあるからデリやろうって言ったんじゃないの?じゃどうすんの?女無しで出来ないよ?」
「今の店の子は引き抜けませんけど、僕がなんとか探してきますんで、女は心配しないでください」
「そうか、ゴローがそういうなら・・・あと、警察の届け出はどうしよう?」
「○○さん、僕は届けは必要ないと思ってます。ホテトルとかみんな無許可ですよ。」
「いや、オーナーはゴローだけど、名義は俺だろ?俺、逮捕されるのだけは御免だ。」
「大丈夫ですよ。今の店でも無許可でやってるじゃないですか。」
「それが上手くいかなくなってきたから店が傾いたんじゃないか。デリは簡単に届けが出せるんだから、オカミのお墨付きになったほうがいいよ」
最初から意見がいろいろ食い違ってて、俺は不安になってきた。
だけど俺は後戻りできない。もうデリで食ってくしか、道は残されてないんだ。 なかなか話がまとまらない日々が続いた。
このままだと、すぐ今の店を辞めるわけにもいかない。
だけど、そんな中、俺は再びヤマノと衝突してしまった。
ヤマノは店長だというのに、午後になっても個室で寝ていた。
しかも店の女と一緒の部屋に。
以前も同じことがあって、俺が叱りつけたらしぶしぶ出てきたけど、
今回は、もう俺はこの店がどうなっても良いと思っていたし、
俺は今回のことを、自分が辞める正当な理由として利用できると考えた。
パチンコ狂の支社長には申し訳ないとは思わなかったけど、さすがに飛ぶとなると気が引けるし、
俺を信じてくれていた女の子たちや、地方都市にいるオーナーや部長に、恩を仇で返すことになる。
だから俺は、ヤマノと、ヤマノを店に連れてきた支社長に、店の責任を取らせるために、ここで奴と衝突する必要があったんだ。
プルル・・・プルル・・・
フロントから、ヤマノが寝ている個室のインタフォンをコールする。
だけどなかなか出てこない。
プルル・・プルル・・・
何度かしつこくコールするとヤマノが出てきた。
「るっせえな!なんだよ!寝てんだよこっちは!!」
「何だとコラ?その口のきき方は!何時だと思ってんだテメエ!」
俺を舐めていたヤマノは、俺がいきなりブチ切れて、ちょっとひるんだように見えた。 あーうーあーうー私がうーちゃんです。しぶんで、しぶん、うーちゃんのことうーちゃん呼んでしまっているんです。
実際はヤマノに怯えていたんです。
怖がってしまっていたんです。
うだつ上がらない、私の名前はうーちゃんです。
ちなみにまなみの親戚全員もらいこじきなんです。 俺とヤマノの言い争いはしばらく続いた。
店内には二人の怒号が響き渡った。
薄いカーテン一枚で隔てられた待合室には、数人の客がいたはずだが、
客も固まっているのか、物音ひとつしなかった。
やがてヤマノは分が悪いと見たのか、方向転換を試みた。
「部長、へへ、威勢が良いのは結構だけど、知ってんだよ、俺」
「なにを言ってんだオメエは!」
「へへへ、マイチャンに送ったメール、なんだよ?あれ?」
俺はドキリとした。
「好きだー、だのなんだの。ギャハハハ!おお恥ずかしい!3号店ではみんなの笑いのタネだぜ!
そんなメールを店の女に送るような男が、偉そうなこと言えんのかよ?!え?部長さんよう!」
俺は愕然とした。
俺が個人的にマイに送ったメールが、ヤマノや他のスタッフの目に入っている・・・
どういうことだ?
俺はマイにそこまで恨まれるようなことをしていたのか?
それともマイは最初から俺をおちょくっていたのだろうか?
俺は言葉が出てこなかった。 俺はもう、ヤマノと争う気力が果てた。
張り詰めていた糸が、ぷつんと切れてしまったのを感じた。
「何黙ってんだよ!恥ずかしくてものも言えねえのかよ?!」
「もういい」
「あぁん?」
「あとはお前の好きにしろ」
俺は黙って、レジから10万を抜きだし、ご丁寧に出金伝票を切ったんだ。
「○月分、給料未払い分」と書いて。
ヤマノは黙って見ていた。
俺も黙ったまま、あらかじめ荷物を詰めていた大きなバッグを抱え、店を出た。
誰も何も言わなかった。
今日限りで、俺の歌舞伎町での戦いが終わった。
数年前、初めて歌舞伎町に降り立った日から、サクラをはじめ、他の子たち、
信用できる従業員仲間たちから、たくさんの良い思い出をもらった。
苦しかったことも多いけど、楽しかったことのほうがずっと多い。
きっと一生忘れない。
でも今日ですべてさよならだ。みんなありがとう。
たぶんこれから先、誰とも会うこともないだろうけど、元気でやってくれ。
俺はバッグを抱えたまま、靖国通りに出て、あてどもなく3丁目方面に歩いた。
その道中はよく覚えてないけど、きっといろんなことを思い出しながら歩いていたんだろうと思う。 そうだ。間違えなく覚えてることがひとつある。
俺は放浪しながら、マナミに電話を掛けたんだ。
マイが完全に俺から離れたとわかった途端、マナミの声が聞きたくて仕方なかったんだ。
調子良すぎるのはわかってる。
「うーさん、どうしたの?」
マナミはその日、休みで店にはいなかったから、俺とヤマノの衝突は知らない。
「俺、ついさっき、店、飛んできたよ。」
「え!?マジ?どーしたの?今どこにいるの?」
「ちょっといろいろあって・・今ぶらぶらしてる。ごめんな、何も言わずに」
「・・・これからどうするの?」
「実は、ゴローと一緒に、デリヘルを立ち上げる計画なんだ。これから急いでその準備をする」
俺は、マナミにも縁を切られる覚悟で言ったんだ。
マナミは知らないとはいえ、他の女にうつつを抜かし、マナミを置いて勝手に店を辞めている。
愛想をつかされて当たり前だ。
「ほんとにごめん。」
さよならのつもりで、そう言ったんだ。
「あたしはどうすればいいの?」
「えっ?」
「あたしはうーさんのデリヘルで働けばいいの?」
前触れもなく、勝手にマナミを置いて逃げてきた俺に、
マナミはなんの躊躇もせず、ついてきてくれると言っている。
その言葉を聞いて、俺はマナミが愛おしくてたまらなく、そして、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 「俺についてきてくれるのか?」
「うん、だってうーさんのいない店で働いていたくないもん」
俺は涙腺が崩壊寸前になった。
こんな良い子を裏切ってた自分が、また情けなくなった。
「ありがとう。マナミ。本当にありがとう」
「・・ううん」
「でも、まだ事務所も決まってないんだ。それに、ゴローと一緒にデリヘルを開くけど、
あの店の連中には内緒でやるんだ。バレるとゴローが困るから、マナミは俺が連絡するまで、
今の店で働いててほしい」
「うん、わかった」
「必ず連絡するから、絶対に!」
「うん。待ってるね」
店の女は引き抜くなとゴローから言われていたから、マナミのことは今はまだゴローには言えない。
だけど、マナミという味方が出来て、俺は心強かった。
さて、少し足取りも軽くなった俺だけど、宿なしには違いない。
のんびりはしてられないけど、とりあえず今夜の宿をケータイサイトで探し、
新宿5丁目近辺の安いビジネスホテルにしけこんだ。
ホテルにつくなり、支社長から何度も何度も着信があったけど、俺は全部無視し、
ゴローに電話をして、今日で店を飛んできたことを報告した。
たしかまだ日は暮れてなかったけど、どっと疲れがでた俺は、食事も取らずにベッドで深い眠りに落ちた。 あーうーあーうー私がうーちゃんです。しぶんでしぶんうーちゃん呼んでしまっているんです。
店から金パクって立派な犯罪者なんです。
そして、まなみのメコはくさすぎたんです。そしてうーちゃんは、五郎に思いっきり顔面殴られて、二丁目でうりせんボウイとして働かされているんです。
そうしないと五郎にまた殴られらの、怖いので恐れてしまっているんです。
私が一生うだつ上がらないうーちゃんなんです それからしばらくのことは、なぜか記憶が薄い。
俺はたぶん、1週間くらいはホテルに泊まったはずだけど、正直、ホテルでの生活は全く覚えてない。
なんとなく部屋の内装は覚えてるんだけど。
俺はすぐにでも事務所を決めないと、という焦りで、
西新宿の物件を紹介してくれた不動産屋に駆け込み、
もっと安い物件を紹介してもらいに行ったはずだ。
不動産屋に掛け合った結果、俺は新宿2丁目の物件が気に行った。
新宿2丁目がどういう街なのかは知っていたが、
デリだから、そこで集客するわけではないので、細かい立地は気にしなくて良いと思った。
なにより、最初に下見した西新宿の物件の、約1/2の費用で契約ができるのが魅力だった。
家賃は13万、初期費用は85万。その数字ははっきり覚えてる。
やはりちょっと古いが、11階建てのレンガ調のマンションの6階で、間取りは2LDK。
丸ノ内線の新宿御苑前駅からもほど近く、万が一、車を確保できなかったときのため、駅に近いのは魅力だ。
古いから2部屋とも畳張りの和室だけど、女の子の待機場所としては、かえってくつろげるかもしれない。
俺はとにかくホテルを早く引き払いたかったし、なにより物件が気に行ったので、すぐ不動産屋で入居契約を済ませた。
保証人が必要だったが、アリバイ会社の保証人代行を使うことによってその問題はクリアできた。
代行料はたしか25,000円だったけど、安いもんだ。
代行してくれた、見知らぬ人物の印鑑証明書がアリバイ会社から送られてきたので、
その人を「叔父」として、印鑑証明を不動産屋に提出。
なんの問題もなく無事書類関係は完了。
どこのだれだか知らないけどありがとう。
きっとやくざに小銭で雇われた、どっかのホームレスなんだろうな。
さて、あとは契約金を払うだけだったので、ゴローに事務所が決まったことを報告し、必要な金額を伝えた。 そのあと、俺はゴローからお金を受け取ったはずだ。
だけどこのあたりの記憶があいまいなんだ。
金額も覚えてないけど、不動産屋に85万払って、入居後に秋葉原にPCを買いに行った。
そのPCがブラウン管モニタ一体型の富士通FMVだったことは、なぜか覚えてるけど。
当時まだPCは今ほど安くなかっただろうから、それが20万くらいはしたんじゃないかな。
そのあと、しばらくの生活費も含まれていたから、
ゴローから受け取った金額は120〜150万の間だったかと思われる。
そうそう。
最初、軍資金は200万とゴローから聞いていたので、残りのお金はいつ受け取れるのか聞いたような覚えがある。
でも、女から一度にはもらえないので、何度かにわけて渡すから、少し待ってほしいと言われたな。
そう、そのあたりから、俺はちょっと不安になってきてたんだ。
ゴローは口は出さないけど、俺が勝手に2丁目の事務所を契約したことに不満をもってることは明白だった。
さて、新事務所に入居後、俺が一番最初にやったことは、
地方都市のオーナーに電話をして謝罪をしたことだ。
あっちにはオーナーはじめ、世話になった人がたくさんいる。
それを俺は裏切って、店をほったらかして逃げてきたんだ。
いろいろ事情があるとはいえ、一度は謝らなければ気が済まなかった。
それに、このまま黙っていると、単に悪者扱いされ、ヤマノの思惑通りになるのも癪だったし、、
店に残されたスタッフや女の子たちも心配だった。
俺がオーナーに連絡することによって、支社長を立ち直らせ、ヤマノのやりたい放題を少しでも
抑えることができれば、という気持ちも大いにあった。 俺はオーナーの携帯番号を知らなかったので、
まず地方店の本店に居る部長に連絡をいれた。
本店の部長とは、ほとんど一緒に働いたことはないけど、
とても優しいイケメンで、俺より1個下だったけど、この人がグループのNo.2で、オーナーの実質右腕。
歌舞伎町の店にもちょくちょく地方から新幹線に乗って会いに来てくれた人だ。
「おぉ〜!○○(俺)さん!どうしたの?みんな心配してるよ?何かあったの?」
俺は当然、怒られると思っていたのに、本気で俺を心配してくれてるような声で部長が言った。
このグループの人たちは、上に行くほどジェントルマンで腰が低い。
俺が長くこの仕事に居座ってしまったのも、このグループの居心地が最高にいいからだ。
だからますます俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「本当に部長やオーナー、みなさんに御迷惑おかけしました。申し訳ありません。
僕はもう、あの店では働けません。だから飛んできてしまいました。
最後にオーナーに謝りたくて連絡しました・・・」
「なんか複雑な事情がありそうだね。俺もいろいろ聞きたいこともあるけど、
まずオーナーに連絡するよ。○○さん、今日は連絡とれるの?」
「はい。今、なにもしてませんので、いつお電話いただいても大丈夫です」
「了解わかった。じゃオーナーに伝えるから、待っててね」
「はい。すいません」 どれくらい待っただろうか。
覚えてないけど、その日のうちにオーナーから電話がかかってきた。
「はい○○です。」
「おう!○○、何があったんだ?話してみな?」
オーナーはいきなり本題に入った。
「御迷惑かけて申し訳ありませんでした。」
俺は謝ったあと、店でのここ数カ月の出来事を、全部オーナーに話した。
売り上げが上がらず、半年もまともに給料をもらってないこと、
支社長がレジから金を出してパチンコに明け暮れていること、
薬物が店に蔓延してること、
その出所がヤマノであると思われること、
そしてヤマノの店での態度について。
「・・・」
オーナーは電話の向こうでしばらく無言だった。
オーナーは激情するタイプではない。
オーナーが大きな声を出すときは、笑ってる時だけだ。
怒って怒鳴るようなオーナーを、俺は見たことがない。
だから黙り込んだオーナーは、たぶん激怒している。
俺はそう感じた。
俺はオーナーの言葉を待った。
「そうか・・・わかったよ。俺は何も知らなかった。ごめんな。
教えてくれてありがとう。」
俺は涙をこらえることができなかった。 俺が黙り込んでいると、オーナーが続けた。
「だけど○○、一人で抱えてないで、なんでもっと早く報告してくれなかったんだ?
それが残念だよ、俺は。」
「本当にすいませんでした。店を守れなかったのは、自分の責任ですから・・」
「・・・わかった。じゃこうしよう」
「はい?」
「ヤマノは解雇する。支社長は役職をヒラに戻して地方に呼び戻す。お前は店に戻って支社長になってくれ」
「ええっ?」
「頼む。そうしてくれないか?」
思いもよらなかった展開だ。
ほんとうに想像もしてなかった。
俺が歌舞伎町に来る前、地方店の店長会議で、東京への転勤をオーナーから打診されたのが4年ほど前。
当時30歳だった俺は、今、34歳だ。
そのときはすぐ了承の回答ができず、少し返事を待ってもらった。
でも、今日は、すぐ結論が出たんだ。
「ありがとうございます。でも、僕にはもうできません。本当に申し訳ございません」
「だめか?」
「はい。お気持ちはすごく嬉しいです。でも支社長やヤマノとは関係なく、いろいろやってみましたが、
もう何をしても売り上げを元に戻せる気がしません。自信がないんです」
俺の本音だった。火災以降もうあの街は終わっている。
俺の力の及ぶ範囲ではないんだ。
「そうか、わかった、仕方ないな。そう言うなら。」
俺は最後に感謝の気持ちを伝え、電話を切った。
ようやくけじめをつけることができた。
ここから新しい挑戦のスタートだ。
だけど、その挑戦は長くは続かないことになる。
俺は少し、その予感はあったんだ。 男のくせメソメソ泣く、あーうーあーうー私がうーちゃんなんです。しぶんでしぶん、うーちゃん呼んでしまっているんです。人を欺く天才なんです。人、不快させるライセンス取得してしまっているんです。
あーうーあーうー、私がコジキのうーちゃんです。ちなみにゴロウニ怯え、二丁目売り専ボウヤなってしまっているんです。
ちなみにまなみのメッコ隣町まで悪臭及んでしまっているんです 不安でいっぱいだったけど、事務所を構えることができた。
さっそく俺は、管轄の警察署に、開業届けを出しに行ったんだ。
ゴローは無届けでやるき満々だったけど、俺はそこだけは譲れなかった。
新しく買ったPCで、届け出の書類をダウンロードし、ネットで風営法を少し勉強もして、
届け出書類を作成した。
最初、新宿署に行ったら、土曜日だかで閉まっていた。
もう長く水商売をやってると、役所が土日休みだとかの感覚がない。
日を改めて行ったら、今度は、「お宅の店はウチの管轄じゃないよ」と追い返されてしまった。
なんだかなぁ・・・よく調べもせず、焦りで空回りしてるよ。
聞いたところ、新宿2丁目は四谷署の管轄だからということで、
さらに日を改めて四谷署の生活安全課に出向いた。
届け出の必要書類を提出すると、「じゃ、ちょっと待っててください」と言われ、
通路の腰かけに座ってドキドキしながら待っていた。
俺は長く歌舞伎町で無許可の違法風俗店に勤めていたし、
アンナの未成年事件や、シオリの自殺未遂事件で、さんざん警察のお世話になったので、
届け出を却下されるんじゃないか、とか、下手したらここで逮捕されるんじゃないかとか、
悪い想像をして、全身に脂汗をかきながら、呼び出しを待っていたことを覚えている。
もっともデリヘルは「届け出制」であって、許可制や認定制ではないので、
提出した書類に不備さえ無ければ、必ず受理されるのではあるが。
「○○さん、お待たせしましたね」
年配のこわもての警察官が俺を呼んだ。 「はっ、はい!」
「はい、書類はこれでOKですよ。これが受理証ですから、大事に保管して下さい」
「でっ、では!」
「ええ、いつでも店を始めて大丈夫です。」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
俺は全身の力が抜けた。
「ただ、いつの日か、もし店を閉める時が来たら、かならず廃業届けを出しに来て下さい。
ドロンは無しですよ」
釘を刺されて、俺はドキリとしたが、
「は、はい、わかりました」と返事をした。
思ったより簡単に開業届けが受理された。
少し構え過ぎて、拍子抜けした感もあるけど、晴れて店をオープン出来るんだ。
まだまだ解決しないといけない問題は山積みだけど、
とりあえず俺は一つハードルをクリアできた満足感に浸った。
俺は受け取った届け出証を大事にカバンにしまって、居心地の悪い警察署から速やかに出た。
空腹を覚えた俺は、署に入る前だか、後だか正直覚えていないけど、
四谷署の近くにある、モスバーガーでハンバーガーを食べて腹を満たした。
ずいぶん年配の御夫婦らしき店員さんがいたことを覚えてる。
フランチャイズのオーナー夫婦かもしれないな。
あれから15年経った今でも店はあるんだろうか。
あの年配の店員さんは御健在なのだろうか。 事務所に戻った俺は、次の作業にとりかかった。
店のホームページを作るんだ。
デリヘルだから、店に看板を掲げるわけには行かないし、風俗案内所も無い。
ホームページでの集客が命だった。
届け出を出す際に、書類に電話番号とHPのURLを記載する必要があったので、
URLはあらかじめ取得済みだった。
ゴローに届け出が受理されたことと、ホームページを作ってることを報告すると、
ゴローは、「HPなんかより公衆電話にビラを貼ったほうが効果あるんじゃないですか」と言ってきた。
公衆電話自体が今の時代には珍しいものになってしまったが、当時は電話ボックスがあちこちにあって、ホテトルの名刺サイズのビラがべたべた貼ってあるものだった。
当然それは違法行為だったけど、なるほど、ゴローはそれをやるつもりで、届け出は必要ないって言ってたんだ。
たしかに最初から違法行為をやること前提だったら、届け出は出さないほうが無難だ。
だけどもう俺の計画はスタートしてしまっている。後戻りはできない。
結果さえ出せばゴローも文句は言わなくなるだろう。
誰もいない事務所の畳の上にあぐらをかいて、もくもくとPCに向かった。
静かすぎて逆に集中が難しい。固定電話は引いてあるが、当然電話なんか鳴らない。
でも、飛んできた歌舞伎町の店に居たときから、HTMLの勉強をしていたから、今回もホームページの土台は、割とすぐ完成した。
基礎はホームページビルダーと言うソフトを使ったが、ほとんどは直接俺がコーディングをした。
もちろん、ネット全盛の2017年現在から見たら、恥ずかしくなるレベルのものだけど、当時としては決して他に見劣りはしないものを作ったつもりだ。
なんとか土台は出来たものの、風俗店のHPとしては一番肝心なものが欠けている。
女がいないんだ。 女の写真が載っていない風俗店のHPなんか、誰がみるものか。
でも現実、女はいない。
だからダミー写真を使うしかない。
歌舞伎町の店には、辞めた女の写真が腐るほどあったから、ちょっとパクってきたら良かったな。
でもゴローに相談したら、ゴローの店の古い写真を何枚か持ってきてくれた。
「ありがとう。ゴロー。助かるよ、使わせてもらうね」
「でも顔にはボカシ入れて下さいよ。バレたらかなりまずいことになるんで」
「もちろんわかってるさ。それは大丈夫」
ていうか・・・また不細工な連中の写真ばかり選んできやがって・・・
これじゃ言われなくてもボカシ入れざるを得ないよ。
たしかにトップレベルの子の写真を流用するとバレやすいから仕方ないんだけど、これじゃ数合わせにしかならない。
集客という面ではなんの助けにもならないな。
無いよりましだけど、やっぱりHPにも看板娘が必要だと思った俺は、
出会い系サイトでモデルを募集した。
まだ地元にいたとき、婚約者に捨てられて自暴自棄になって、出会い系で女と遊びまくってたときがあったから、
出会い系を使うのはそのとき以来だ。
もっとも地元にいた当時は、サイトじゃなくてツーショットダイヤルや伝言ダイヤルだったけど。
俺はPCの出会い系サイトに、
「撮影モデル募集中!顔出し、タッチ、絡み、一切無し!時給1万で3時間程度の撮影!」
と書き込んだ。
まあ、こんなので来ねえよなあ、と思っていたら、意外とすぐ返信があった。 返信のメールの内容は全然覚えてないけど、
何度かやりとりをしたのち、新宿駅南口で待ち合わせの約束をしたのは間違いない。
たしか待ち合わせ時間は21時だったと思う。
季節は、記憶を逆算すると、2月の半ば〜終わりころだったはずだ。
地下鉄で行こうか、タクシーで行こうかと迷ったけど、予算も限られてる。
逆に時間はたっぷりあるので、俺は2丁目から新宿駅まで歩いていくことにした。
俺はなんの期待もしていなかった。
どうせブスが俺の目の前に現れて、適当にお茶を濁して帰ってくることになるだろう。
せめて、HPの数埋めに、顔は不細工でも、スタイルが良い子が来てくれればいいのだが。
むしろそのほうが、時給1万と言ってあるから、30分で撮影を済ませて追い返せば、
ギャラは5000円で済む。
金が無いからそのほうが却ってありがたいかもしれない。
そんなことを考えながら着替えて事務所を出た。
新宿駅までは、たいした距離ではない。
とうに日も落ち、暗くなった夜の甲州街道を新宿駅に向かって歩いた。
車のヘッドライトに照らされながら、たくさんの会社帰りのサラリーマン、OLとすれ違う。
みんな、俺と違って、順調な人生を歩んでる人たちだ。
それに比べて俺はいったい何をやっているんだろう。
俺は自分に引け目を感じながら、てくてくと歩いていたのを覚えている。 やがて南口に着いた。
改札前は騒がしく、多くの人でごったがえしている。
探そうと思ってもこの人だかりでは探しようが無い。
そもそも顔も知らない相手と待ち合わせしてるんだから当たり前だけど。
〔今、南口に着きました。服装は・・・〕
俺は相手に、自分の服装など、相手が俺を見つけるためのメールを打って、返事を待った。
当然、すっぽかしも想定内だ。
すっぽかされたら、近くでラーメンでも食って、今日はおとなしく帰ろう。
期待せずに返事を待ってると、これまたすぐ返事が来た。
こんなにぽんぽん気前よく返事をくれる相手だ。きっと金に困った超絶不細工に違いない。
モデルとして使い物にならない女がくるなら、すっぽかされたほうがまだマシだ。
俺はそんなこと思いながら待っていると、背後から声を掛けられた。
「あの、○○さんですか・・・?」
期待してない俺は無表情のまま振り向いた。
「あ、はい、あ、え?」
「え。どうしたんですか?」
「あ、あっ、いや、君がメールの○○さんなの?」
「はい。今日はよろしくお願いします。私で大丈夫ですか?」
彼女はぺこりと頭を下げた。
マジかーーーー!ウソだろおい?!か、か、カワイイじゃないかーーーー!!!
超絶カワイイ!超タイプ!なにかの冗談か、それともドッキリか?あ、ありえねえ・・・
「あうあう」
俺が口をぱくぱくさせていると、「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか?」と心配されてしまった。 あーうーあーうー アウアウ 私がうーちゃんです。シブンでシブンうーちゃん呼んでしまってイルンです。
普段ドブスとか、メコがくっさい女としか関われないため、並以下の女で、アウアウ言ってしまうのです
あーうーあーうー私がコジキのうーちゃんです あーうアーウ私がコジキのウーちゃです。
しぶんでしずんうーキャン呼んでしまっているんです。
人生嘘で上塗りしまくってるんです。
つけられたアダ名は忍者ハッタリ君です。
ちなみにまなみのオメグサは地域一有名です ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています