「ですからね! 好意を持ってくれてるのはうれしいんですよ! 純粋にね!? でもそれに応えちゃいけないわけじゃないですか! ねぇ!?」
「贅沢な悩みなのじゃー」
顔を真っ赤にしたばあちゃるがジョッキをドンドンとテーブルにたたき付けると、同じく顔を赤らめたのじゃおじがカクテルを飲みながら呆れたように笑った。

二人の来た居酒屋は個室の店で、多少騒いでも全く問題にならない。飲んでいる間にあれよあれよと時間は過ぎ、お酒の量も増えていくにつれ、ばあちゃるは自分を悩ませている問題をつらつらと吐き出していった。
「妾もいろんなJKが自分のこと取り合って困ってるとか言ってみたいものなのじゃ」
「傍から見たら羨ましいかも知れませんけどねぇ!」
ぐぅ、と唸りながらテーブルに突っ伏すばあちゃるをのじゃおじはペシペシと叩く。
「しかもなんか前聞いたときより話に出てくる女の子の数増えてません?」
「んぐっ、いや、まぁ、そうっすねぇ」
「……たらし」
「ぐはぁっ!」

ばあちゃるが大袈裟にのけ反ると、向かいに座る少女が口に手を当てくつくつと笑った。
自分をいじり過ぎではと思う反面、教え子からアプローチをかけられているという話をここまで真面目に聞いてくれるあたり優しいのだろうとも思う。

未成年の、しかも教え子から好意を送られて来るという罪悪感に、ばあちゃるの声は自然とぶっきらぼうなものになってしまう。
「いや、ほんと、身近な男だから変に勘違いしてるだけなんすよ」
「ばあちゃるさん面倒見がいいですから。そういうところにみんな惹かれるのじゃ」
相変わらずくつくつと笑いながら言われた褒め言葉に、ばあちゃるは声を詰まらせた。目をそらしながらジョッキ煽る。直接的な言葉はなんともこそばゆい。

「恋人が居るアピールでもすればそのうち落ち着くと思うのじゃ。さすがに相手が居る人に手は出さないはずなのじゃ」
「ばあちゃる君肝心のその相手がいないんすよねぇ」
「ふぅん、なら」
笑いを潜め、のじゃおじはグラスに口を付けた。
こくりと一口、口を潤す。

「なら、妾なんてどうじゃ? 今フリーなのじゃ」
「けふっ」
思わぬセリフにビールが変なところに入ってしまった。むせる自分に、彼女は素知らぬ顔でどうなのじゃ? と重ねる。
「……のじゃのじゃ、冗談でもあんまり自分を安売りするもんじゃないですよ」
落ち着いてからそう言えば、彼女は眉根を寄せる。
よっと、と声を上げながらおもむろに立ち上がった。

「妾は自分を売り込んではいますけど、安売りするつもりは無いのじゃ」
少女はテーブルを回り込んで自分の隣に座り込む。
もたれかかるように体を預けられた。柔らかい肩と、こちらを見上げる目に思わずドキリとする。
あまりの事態に固まっていると、手を取られ彼女の腰に回すように持っていかれる。まるで自分から抱き寄せたような体勢だった。
「そもそも、何とも思ってない人とサシで個室のお店に来ると思いますか?」
「あの? のじゃの……!」
不意に少女の顔が視界いっぱいに広がる。唇に感じる柔らかな感触と、ほのかにする甘い香りが、逆に、これは酔った自分の見ている白昼夢なのではと思わせた。

少女の口が離れ、吐息の音が耳に入ったところで、ようやくばあちゃるは我に返った。目を見開き、腕の中にいる彼女を見つめる。
彼女も、こちらを見つめていた。
「素直に妾と絡んどけって」
な? と小首をかしげ、少女は無邪気に、小悪魔のように笑ったのだった。