「カコさん、」
「……」
手を添える。怖かった。
「カコさん、このままだと死んじゃうよ。逃げようよ、僕も一緒に行くから」
「お前は帰る家があるだろ」
「ないよ、弟がいればうちは大丈夫なんだもん。きっと。僕一人いなくても、きっと気づかないよ」
カコさんは、黙っている。
「お金だって、ちゃんとあるよ。お年玉、だから、それ持って一緒に僕のおじさんところに行こうよ。カコさん」
カコさんがカコさんのお家に帰るたびに、ケガしているのを僕は知っている。
それはどんどん数も量も大きさも多くなってきていて、おんなじぐらいカコさんもおかしくなってきてる。
この間は右の方から話しかけてもちゃんと返事をしてくれたのに、左側へ向いてくれないと話しかけても聞こえなくなった。
なんで、って聞いても答えてくれない。何でもない、ってばっかり言って答えてくれない。
それなのに、みんなはカコさんのことを怖い不良だと言っている。いつも喧嘩なんてして、といっている。
カコさんがいつもけがをしているのは、どうしようもなくておうちに帰るときで。
不良になっちゃったのはカコさんがおうちに帰れないから、どうしようもなくてずっといるしかないんだと言うことを誰も気づいてくれない。
誰も見つけてくれない、僕が夜に一人で歩いていても誰も見てはくれなかったように。
カコさん以外僕のことを見つけてくれる人はいない。なのに、僕はカコさんをさらってどこかに行ってしまえるほど大人じゃなかった。
夜の公園のベンチは腰かけているととても冷たい。そして、周りのおうちは幸せそうな明かりが漏れている。
けれど、その光が僕に降ってくることはないし、カコさんに降ってくることもない。誰も僕たちがいることに気づいてくれない。
「……ああ、それもいいかもな」
「本当!」
だから、カコさんの答えに、僕はとてもうれしくなった。
おじさんは弟も僕もおんなじくらい大切にしてくれるし、こっそり僕にテレホンカードをくれた。
弟はキッズケータイを持っているからいらないらしいけど、これを使えばいつだっておじさんは迎えに来てくれると約束してくれた。
だから、二人でおじさんのところへ逃げちゃおう。