(もしかしたらプラットが此処までたどり着けないのでは、という不安もあるにはあった)
(場所の存在は知られているはずだが、まだ幼いのでは情報を得ていない可能性もある)
(だがきっと来るはずだと考えて男は待っていた)
(そして、遂にその時がやって来た)
(窪みに身を潜めた状態で、プラットの姿を認めるのと同時に思わず口の端が緩むのを感じる)
(早速薬草を積もうとして腰を下ろした姿は、丁度男の方に背を向ける形になっていた)
(すぐに襲い掛かっても良かったが、その前にまず魔法を用いてプラットの力を弱めておく準備をする)
(単純な力勝負であれば男の方が負けることはあり得なくても、抵抗されれば乱暴をしなければいけなくなる)
(可愛いプラットにそんな事はしたくなかったし、自分の子供を産んでもらうことも考えれば母体に傷を付けたくはなかった)
(そんな訳で魔法の詠唱を始めようとした男だったが、プラットの視線が自分の方を向くと直ぐに動きを止めて気配を消す)
(犬人ということで嗅覚が鋭敏なのだろうか、男の匂いを感じ取られたのかもしれない)
(一瞬冷や汗が男の首筋を伝ったが、幸い誰かがいるという確信には至らなかったのか薬草の方に向き直った様子)
(安堵した男は、再び疑惑が浮上しない内に魔法を行使することに決め、直ぐに取り掛かった)
(無防備なプラットの背中へ向けて光速で襲いかかる魔法)
(攻撃用の魔法ではなく弱体効果が主のそれは、体に浴びても衝撃を感じることない)
(その代わり、体が途端に重くなったように感じるだろう)
(手足が鉛にでもなったように感じられて、動かそうとしても思うように動かせない)
(背後から足音が聞こえて、さっき感じ取った匂いが強くなって、視線を向けようとして首を振り返らせるのも今の体では時間がかかる)
(身体の力を弱体化させるだけの魔法なので頭の中や感覚はクリアなまま、それが余計に違和感を生んでプラットを混乱させるだろう)
(魔法を放ってからすぐに男は腰を上げ、窪みから出てプラットの方へと歩み寄っていく)
(そして体が上手く動かせずにいる小柄な少女のすぐ後ろに立ってみれば、その体のサイズ差は大きい)
(元々冒険者をやっていた頃の筋肉は今も残っており、体格はしっかりしているが、現役から離れたせいか余計な肉が腹回りには付いて、それが余計に男の体格を大きなものに見せている)
(元から髭を生やしていたが、しばらくダンジョンに籠っていたせいか更に濃くなっており、パッと見た印象としては浮浪者と間違えられそうな程でもあった)
(そんな顔付きで男は笑みを浮かべていた、いやらしく口を緩ませて、待ち望んだ瞬間が訪れたことを心底喜んで)
よう、プラット
(プラットの肩を男の大きな手のひらが叩く)
(強く力を込めたわけではないが大人の男の手のひらによる力、それも今は体に力が入らないプラットの状態に対してだ)
(しゃがみ込んでいた体はバランスを崩して、後ろに倒れ込んでしまうことになるだろう)
(そして見上げた視線の先に、声をかけた男の顔を見ることになる)
(顔だけではすぐには分からなかったかも知れないが、声とそして匂いで、男が誰なのかは分かったはずだ)
(そして顔も、その笑みが今まで何度か向けられ嫌悪感を抱いたことのある不気味さを含んだ笑みであると気付いたはずだ)
待ってたぜ、お前がここに来るのを、ずっとな
(魔法を仕掛けられたプラットの今の状態では起き上がるのも難しいだろう)
(後ろ向けに倒れたその体をより完全に仰向けにするため、男は手を伸ばしプラットの両手を地面に押し付け覆い被さっていく)
(男が来ていたのは旅行用の軽装で、鎧などの装備などは無いが、元の体重差が大きいのでプラットが抜け出すのは困難)
(よく見れば、男が下に着ているズボンは大きく盛り上がっていたがそのことにプラットは気づいただろうか)
(男が口にした、待っていたという言葉、プラットが男の店に最近行っていたとすればその姿がなかったことを思い出すだろう)
(そして依頼を出したのは男ではなくてもその店で働いている人間の名前で、今の状況が仕組まれていたことにもしかしたら気付けるかもしれない)
【こちらも出来る限りそのくらいのペースで返せるよう努めるよ】
【これからよろしくね】