【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目
あけおめ銀子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! ルーシー「紅さんですか?あの人ベッドの中では外道どころじゃないですよ?あんなもん悪鬼羅刹ですよ」
紫「嘘…じゃない…だと…」
銀子「…っ」
夕乃「」血涙 キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 見られた!見られた!!見られた!!!
よりにもよってあの紅に!!
誰も来ないと思って服を着替えようとしたのが間違いだった
汗を吸った下着を取り替えようと、脱いだ所であの男が入ってくるとは!!!
あの男め……紫様が横にいるにもかかわらず、じっくりと私の裸を見おって……
……しかし…顔を赤くした奴の反応も…少し…可愛かったかな……
いや、何を考えている!!奴はあれでも紫様の婿になる男だ
一介の護衛である私がなにを考えているんだ
恥を知れ!!リン・チュンシン!!
……待てよ………
そもそもあの男は、九鳳院のご息女である紫様の婿としてふさわしい男だろうか……
家柄は勿論のこと、揉め事処理屋としての腕も未熟 ろくに蓄えもなく、まともな生活もしてなさそうだ
付け加えて紫様がいらっしゃるにもかかわらず、あの女関係のだらしなさ
あの男は本当に紫様を幸せにすることが出来るのだろうか
「……ふさわしくない」
自然と口から言葉がこぼれた。
あんな男が日本屈指の名家である九鳳院家にふさわしいわけがない
いや、それだけではない、あの男のことだ
たとえ、紫様と一緒になったとしても、他の女のところに構いにいくだろう
つまりそれは紫様を悲しませることになる
そんなこと、絶対に許されない
そうと決まれば不本意ながら紫様の護衛はしばらくお休みさせていただいて、あの男の調kyもとい指導に取り掛からねば
もし万が一、そう万が一、奴が紫様にふさわしくなかった場合は……
しょうがないから、奴の面倒は私が見てやろう
紫様、ご安心ください、あなた様の御身はこのリン・チェンシンが身命にかけてお守りいたします。
「あぁ、紅 今から少し用事があるから私が指定する場所に来るんだ……いいから、すぐ来い!!」 新装版&新刊記念小ネタ
新装版でリンさん生き残ったりしないかな ほう…
ちらっとしか見たことないがリンは漫画版と小説版でイメージが異なるな
漫画版は少女だが小説版は20歳ぐらいクールな人のイメージなんだな俺は おお、久しぶりに覗いてみればSSが!
乙であります。 「どうしたの紅くん?遠慮しないで食べていいのよ?」
「………結構です。」
目の前に並べられている、とても豪勢で煌びやかな料理の数々。
駆け出しの揉め事処理屋である真九郎にとって、めったに口に出来ない品々だ。
そんな料理を間に挟んで真九郎と向かい合って座っている女性もまた、まず街中ではめったにお目にかかれない程の美女であると思う。
幼さを残した、しかし何処か妖艶な整った顔立ちに、艶やかな薄紫のパーティードレスに深く食いこんだスリット。
そのスリットから除く白磁のような素肌、なによりもキュっと締まった腰のくびれの上から強烈に自己主張している豊かな膨らみが女性のスタイルの良さを表していた。
豪華な料理に見目麗しい女性とのディナー。普通なら、これに心躍らない男はいないだろう。
実際、真九郎も彼女相手でなければ食事を楽しめたはずだ。
「切彦ちゃんは、無事なんですか?」
「こんな美人の前で、他の女のことを話すなんて無粋じゃない。」
彼女が悪宇商会 最高顧問 星噛絶奈でさえなければ 街中で、ルーシーに呼び止められたのは突然だった。
以前と同じように、馴れ馴れしそうに話しかけてくるルーシーを怪訝に思いながらも足を止めた。
たわいもない世間話から始まったが、要するに星噛絶奈が自分に話があるようなので、一緒に来て欲しいという。
会うつもりはありません、と横を通り過ぎようとしたが、まぁまぁ待ってください、と道を塞がれる。
それでも無視して行こうとすると、これに見覚えありませんか、とルーシーは懐からあるものを取り出した。
それは何の変哲も無いもの、ただのマフラー
しかし真九郎はそれに見覚えがあった。
「………切彦ちゃん?」
「詳しいことは星噛さんの所に着いたら、お話します。」
ルーシーは真九郎の反応に満足そうに微笑むと、そばに停車していた車のドアを開けた。
来てくれますよね、と笑いながらマフラーをくるくると指で回すルーシーを見て断るわけにはいかなかった。
言われるままに車に乗ると、突然のアイマスクによる目隠し。
抵抗しないでください、と言われ、そのまま数時間ほど車に揺られて、今に至る。 「それにしてもさっきから切彦切彦………いったい何のことかしら?」
「とぼけないでください、あなた達が切彦ちゃんに何かしたんでしょう!!」
「………あー、ルーシー、あんたそんな手使ったんだ。」
絶奈は一人納得したような表情を浮かべると部屋の隅で控えていたルーシーに声を掛けた。
「紅さん、安心してください。今回私達は切彦くんには何もしていませんから。」
「だって、そのマフラー………」
「マフラーなんて、幾らでも同じのがあるんだから。だめよ、紅くん、そんな簡単に騙されちゃ。」
「っ!?帰らせてもらいます。」
切彦ちゃんが無事なら用はない。席を立ち部屋から出て行こうとすると、扉の前にルーシーが立ちふさがった。
「どいてください。」
「帰ってもいいですが、ここは深〜い樹海のような森林地帯ですから、散々迷って餓死するのがオチだと思いますけどね。」
それでよけでば、どうぞ、と、ドアを開けられる。
ドアの外に見えるのは、どんよりとした薄暗い空と、うっそうと茂る森林。
一応外に出てみたが、見渡す限り民家も近くにはなさそうだ。
「………用件はなんですか?」
とりあえず、意地を張って餓死するよりは、話だけでも聞いてみることにする。
「そんなことより食事を楽しみましょうよ♪」
お腹空いてるんでしょ、と料理を差し出される。
確かに空いてはいる、ここ数日揉め事処理屋としての仕事はなく、昨日お昼を食べたのを最後に水しか口にしていない。
しかしだからといって、外道の情けを受ける筋合いはない。それに――― 「もしかして、毒が入ってると思ってる?」
いつまでたっても料理に手を付けようとしない真九郎の態度に、ようやく理由に辿りついたようだ。
なんといっても、あの星噛絶奈のこと、どんな罠を仕掛けてくるか分からない。
まして、彼女から差し出された料理など、怪しくて食べられたものではない。
「せっかく紅くんのために、頑張って用意したのになー、まっ、いいわ、本題に入りましょ♪」
彼女が合図すると、部屋の外で控えていたのか、数人の男達が並べられた料理を外に運び出すと、代わりにスーツケースをテーブルに上に置いていった。
怪訝に思う真九郎を余所に、絶奈が機嫌よさそうにスーツケースを開けると、そこには札束がぎっしりと敷き詰められていた。
「どう、紅くん?」
「……何の真似ですか?」
「これで君を買いたいのよ――ウチに来なよ。」
「……お断りします。」
「なぜかしら?キミはこの札束の一つでもあれば、今の惨めな生活から抜け出せるのよ?」
「……俺は金のために、揉め事処理屋をしているわけではありません。」
「じゃあ、なんのために?憧れの柔沢紅香のようになるため?だったら余計ウチに来た方がいいわね。はっきり言って、キミ、今のままじゃ一生うだつが上がらないわよ。」
彼女は真九郎に見せつけるように札束の一つを手に取ると、まるで嘲るような視線を向けた。
確かに彼女の言う通りかもしれない。ルーシー・メイにも言われたことだが、小さな仕事を幾らこなしても、たいした経験にはならないだろう。
数年後には路頭に迷っている―――幼馴染と話していた情景が脳裏に浮かんだ。 だが――
「俺は確かに紅香さんのように強くなりたいと思っています。あなたの言う通り、悪宇商会に入ることで、大きな経験を積めるようになるかもしれない。だけど――」
一呼吸を入れる。誘惑を断ち切るために、自らの意思を示すために。
「俺が欲しい強さは、あなたの会社で身につけることが出来る強さとは違うと思います。それに―――俺はあんたのことが大嫌いなんでね。」 「あぁ、そっかー 残念だな〜 まぁ最初から君の意思なんで、どうでもいいんだけどね♪」
こちらに入る意思が、ないと分かるや否や、表情は変わらないままも彼女から発せられる威圧感は倍増した。
(………戦うか。)
絶奈と戦うのは、キリングフロアーの一件以来だが、あの全てを蹂躙する、破壊的な力は変わっていないだろう、むしろ強くなっているかもしれない。
しかしこちらも、あれから自分なりに経験を積んで成長している。彼女に遅れをとる気はない、やってやる。
戦う覚悟を決め、相対する相手を睨みつける真九郎だったが、当の絶奈は、挑みかかろうとする真九郎の様子を見て取ると、急にプレッシャーを消した。
「何を勘違いしてるか分からないけど、私は別にキミとここでやり合う気はないわよ?」
この格好みれば分かるでしょ、と彼女はドレスの一端を摘んでみせる。
どうやら見たところ絶奈は、キリングフロアーの時に装着していた戦闘用の義手は付けてはいないようだ。
だからといって安心できるわけではないが、無駄な戦闘をしないで済むなら、こちらはその方がありがたい。
「俺への用事はそれだけですか。でしたら帰ります。」
確かに、外に出ても道に迷うかもしれないが、こいつらと一緒にいるのと比べたら、その方がマシだ。
「まぁ、待ちなさいよ。 私は会社のことを抜きにしても、君のこと気に入ってるんだ。」
そういいながら、絶奈は席を立つと、向かい側に座っている真九郎の席にまで、近づいてきた。 「何を言ってるんですか。」
「……こういうことよ。」
そう言うと絶奈は、真九郎の頭の後ろに素早く手を回すと、ぎゅっと引き寄せ自らの胸に押し付けてきた。
「なっ!?」
人工物で出来ているとは思えないほどの柔らかい感触が、真九郎の頭部を包んでいた。
あまりにも柔らかく、そして温かい。
「どうかしら、紅くん、結構これには自信あるんだけど。」
「っ!?離せっ!!」
突然の行動に固まる真九郎だったが、すぐに我に返ると、力づくで振りほどいた。
「……そんな嫌がらなくてもいいのに。まったく傷つくわね。」
「いったい何の真似だ!!」
「まっ、いいからいいから、そろそろ効いてくる頃だと思うしね。」
「何を言って……!?」
絶奈の思わぬ行動に席を立とうとした真九郎だったが、今になって両足の感覚がおかしいことに気付いた。
足がガタガタと震える。立ち上がろうとしても、どうしても足に力が入らない。気づくといつのまにか手も震えてきている。
自分の身体の異常に戸惑う真九郎を見て、絶奈はさも面白い物を見るようにこちらを見ていた。
「………何をした?」
「紅くん、薬っていうのはね、別に口から入るものだけじゃないのよ。その気になれば空気混ぜて、呼吸で取り込ませることも出来るんだから。」
空気。真九郎は今になって部屋の隅に置いてある加湿器のような機械に気付いた。
「………ちくしょう。」
勉強になったでしょ、というふうな絶奈の様子を他所に、自分の迂闊さに歯噛みする真九郎だったが、身体が動かないのではどうにもならない。
嘲るように、こちらを見る絶奈を睨み付けながら真九郎の意識はそこで途絶えた。 「……ここは?」
真九郎が次に目を覚ました時には、先ほどの部屋とは違い、薄暗いの部屋でベッドの上で寝かされていた。
辺りを見回すと、周りには誰もおらず、さっきのことは夢なのかと思ったが、起き上ろうとしたときに自分の腕を拘束している鎖に気付き、夢ではなかったと思い直した。
どうにかして脱出しなければと思ったが、まだ身体の痺れもとれていないようだ。戦鬼の力も使えそうにない。
それに何故か先ほどから身体が熱くて、どうしようもない。頭もズキズキするし、何より下半身が疼いてたまらない。
(……痺れ薬以外にも何か入っていたのか?)
自らの身体の状態に戸惑う真九郎であったが、今はとにかくこの状況をどうにかしなければ……。
「紅くん、起きたー?」
真九郎が起きるのを見計らったのか、それとも偶然か、先ほどと変わらぬ姿で絶奈が部屋に入ってきた。
違うところと言えば、ルーシーが付いてきてないことぐらいか。
「ハロー、気分はどうかしら。」
「……俺をこれからどうする気だ?」
先ほどの絶奈の行為といい、絶奈の目的が分からない。自分を一体どうする気なのか。
「もう一度聞くけど、どうしてもうちに来る気はないのね?」
「絶対嫌だ。」
「………じゃあ、しょうがないわね。」
そう言うと、絶奈は自らのドレスに手を掛けると、一気に上半身をはだけさせた。
「えっ!?」
「どうかしら、私の身体は?」
シミひとつない美しい素肌。引き締まったくびれの上に存在する豊かな美乳。その頂にある赤い可憐な蕾。
ろくに女性経験のない真九郎には、目の前にある美しくも妖艶な裸体から目を離すことが出来なかった。 「ふふ、まったくこれだけ大きいと結構肩こるのよね〜。」
真九郎の視線に気づいているのか、見せつけるように乳房を両手で持ち上げてくる。
彼女の手の動きに合わせて、ぐにゅりぐにゅりと形を変える絶奈の美乳に釘付けになっていた真九郎だったが、ニヤニヤとした絶奈の視線に気づくと慌てて視線を逸らした。
「……吐き気がする。」
「まったく素直じゃないわね、でもここは正直みたいよ。」
絶奈は真九郎が拘束されているベッドに近づき腰を下ろすと、ズボン越しに軽く真九郎のモノを撫でた。
「くっ………。」
突然下半身から伝わった快感に思わず声が漏れてしまう。
「なんだ、ロリコンだと思ってたけど、しっかり反応してるわね♪」
真九郎の反応に満足しながら、そのままズボンを脱がせると、今度は下着越しに真九郎のモノを優しく撫で上げる。
「ピクピクしていて可愛いw。いったい私にどうして欲しいのかしら?」
「………黙れ。」
「ふふふ、そんな切なそうな顔して凄んでも、なんの意味もないわよ。」
反応してたまるかと我慢する真九郎であったが、強弱をつけ絶妙な力加減で擦りあげられることで、真九郎のモノはいつのまにか固く勃起していた。
「あら〜ご立派ね、さすが崩月の戦鬼というところかしら。」
「ふっ……くっ…あっ。」
真九郎のモノが勃起したのを確認すると、絶奈はいったん手を止め、真九郎を見る。
「本当は、もうこっちを可愛がってあげてもいいんだけど、やっぱりエッチするなら、これをしないとね。」
真九郎のモノから手を離すと、両手で真九郎の後頭部をがっちりと固定し、ゆっくりと顔を近づけてきた。
ぼんやりとする頭でも絶奈が何をしようとしているのか、直感的に理解できた。
(嫌だ!!したくない!!)
必死に頭を振って抵抗しようとするが、両頬を両手でがっちりと押さえつけされており、それも叶わない。 抵抗もむなしく、絶奈の唇がついに真九郎のそれと合される。
柔らかく弾力のある唇。その口内から漂ってくる甘い香りが、真九郎の意識を曖昧にさせた。
最初はペロペロと舐め、その後啄むように真九郎の唇を味わっていた絶奈だったが、次第に口内に侵入しようと舌で唇をこじ開けようとしてきた。
しかし、それだけは断固阻止しようと、真九郎は必死で唇を閉じる。
「ちょっと紅くん、口開けなさいよ。」
「………」
だんまりとした真九郎の態度に面白くないというふうに顔を歪ませた絶奈だったが、なにか思いついたのか、すぐニヤリと表情を変えた。
「へぇ〜、あくまでも抵抗する気なんだ。別にいいわ、こうするだけだし。」
絶奈は真九郎の頭を固定していた片手を外すと、真九郎の顎をがっしりと掴み、まるで万力のような力で締め上げてきた。
「……かっ…はっ!?」
あまりの握力に真九郎が我慢できずに、口を開けると、すかさず絶奈の舌が侵入してきた。
絶奈の舌が蛇のように口内を蹂躙する。無理やり、舌と舌を絡み合わされ、唾液を飲まされる。
(………なんだよこれ。)
口内を無理やり味わわれ、嫌なはずなのに自分のモノは、なぜか益々固くなっている。
自分の身体はどうしてしまったのだろうか。
「……ぷはっ……ふふ、どうしたの?だんだん固くなってきているみたいだけど。」
「………うるさい。」
「まぁ、いいわ。次はこっちね。」
真九郎の口から唇を離すと、絶奈は片手で乳房を持ち上げ、真九郎の口に押し付けてきた。
「吸いなさい。分かってると思うけど、もし噛んだりなんかしたら、コレ、握り潰しちゃうから♪」
いつのまにか下着を脱がされ、露わになっていた真九郎のモノををニギニギとしながら覗き込んでくる。
潰されてはたまらないと、言われるままに真九郎は乳房へと吸い付いた。
(………これは!?)
絶奈の乳首に口をつけた途端、先端から甘い香りとともに生暖かい液体が溢れてきた。
「気づいたかしら。今日は紅君のために特別仕様のおっぱいだから、好きなだけ楽しんでいいわよ。」
流れ出てきた液体を口の中に含むと、まるで今まで飲んだことがないような、まろやかで旨味のある極上のミルクを味わっている感覚に陥った。
自分には母乳を飲んでいたころの記憶は無いが、いくらなんでも甘すぎる気がする。それに飲むにつれて、どんどん頭がぼんやりとしてきた。
きっとこれにもナニカが入っているのだろう。早く吐き出してしまわなくては。
だが顔全体を包むように伝わるおっぱいの柔らかで温かい感触。口の中でコリコリと固くなってくる乳首。その先端からあふれ出てくる温かく甘い母乳。
全ての誘惑が自分の自制心を壊してくる。だめなのは分かっているが、もっと飲みたい。
「うんっ、いいわっ、紅くん、もっと強く吸って。」
絶奈の言葉を聞いているのか、聞いていないのか、最初はたどたどしく吸い付いていた真九郎だったが、いつのまにかおっぱいを吸うのに夢中になっていた。
先ほどまで真九郎の後頭部を拘束していた絶奈の手は、いつのまにか慈しむように真九郎の頭を優しく撫でていた。
撫でられていることに気づき、真九郎が顔を上げると、ちょうど絶奈と目が合った。 「我慢しなくていいのよ。紅君。好きなだけ甘えなさい。今まで誰にも甘えれなかったんだものね。辛かったよね。」
傍若無人、くされ外道の代名詞である普段の星噛絶奈からは、考えられないほどの優しく慈愛に満ちた声と表情である。
きっとこれも自分を陥落させるための演技なのだろうが、今はどうでもいい、もっと甘えたい。
自分はいったい何をしているのだろうか。まるで赤ん坊のようにおっぱいに吸い付いて。
でも、なんだろう。この懐かしい感触は。ずっと昔にこうされていたような。
「………お母さん。」
「はっ?」
……しまった。何を言ってるんだ。絶奈の方を見ると驚いたように目を丸くしている。
自分でも言って驚いた。こんな奴が自分の母親であるわけがない。似ても似つかない。
なのに…なのに…なぜもっと撫でてほしいと思うのだろう。
「………ぷっ、あははははwwそうでちゅよ、真九郎ちゃん、絶奈ママがもっと気持ちよくしてあげまちゅからね〜。」
片手で真九郎の頭を優しく撫で続けながら、もう片方で真九郎のモノを直接扱きはじめた。
モノの感触を確かめるように、クニクニと親指で亀頭を刺激し、裏筋を手の平で擦りあわせる。
度重なる刺激に真九郎のモノは一段と固く反り返った。
「ママのおっぱいを吸いながら、こんなに固くしちゃうなんて、悪い子でちゅね、真九郎ちゃんは〜」
真九郎の抵抗せずに受け入れている様子に対して、絶奈は小馬鹿にしたような視線を送った。
あからさまに馬鹿にされている。ただあまり気にならない。今はこの快感に溺れていたい。
最初は真九郎のモノの感触を確かめるような手つきも、今は絶頂に導こうというふうに、巧みにそして激しくなっていた。
亀頭からは我慢汁が溢れ、真九郎も限界に近づいていた。もう出てしまう。 「……はい、おしまい。」
「えっ!?」
いまにも真九郎がイキそうになる寸前で、急に扱く手を止められた。
快楽の渦にのまれていた真九郎は突然の快感の消失に、唖然する。
どうしてやめてしまうんだろう、もう少しでイケそうだったのに……
「そんな、残念そうな顔しないの……もっと気持ちいいことしてあげるから。」
絶奈は一度真九郎の寝ているベッドから降りると、近くに置いてあったボトルを開け、中に入っていたネバネバした液体を胸に塗りたくった。
「紅くんは、これが気になるみたいね。」
「………」
先ほど、真九郎が吸い付いていた乳房は、唾液と流れ出た母乳、そしてローションでテカテカといやらしく光っている。
そのまま絶奈は大の字に仰向けになっている真九郎の股の間に移動し身体を横にすると、真九郎のモノにふくよかな膨らみをぎゅっと押し付けた。
「君がある条件を呑んでくれたら、このヌルヌルしたムチムチおっぱいで、いくらでも挟んであげてもいいんだけどな〜。」
「………条件って?」
なんでもいい、早く気持ちよくしてもらいたい。気持ちよくしてくれるなら、何でもする。
「そうね〜挟んで欲しいんだったら、こう言ってもらえるかしら。『私こと紅真九郎は、悪宇商会最高顧問である星噛絶奈様に、永遠の忠誠と服従を誓います。』あぁ、ついでに愛も誓ってもらおうかしらね。」
「っ!?………だ、だめだ、それは出来ない……」
絶奈からのとんでもない提案に、どっぷりと快楽に飲まれていた意識が多少引き戻された。
紅真九郎は、どんなに情けなくても、どんなに頼りなくても揉め事処理屋なのだ。そんな提案に乗るわけにはいかない。
「………いいわよ、別に誓ってくれなくても。ただ、こうやってずっと焦らし続けるだけだから。」
絶奈は真九郎の迷いを察知したのか、挑発するように勃起した乳首の先端を、固く反り返った竿の裏筋にスリスリと擦りつけてきた。
押し付けられたコリコリとした乳首の感触が、真九郎の神経を直に刺激する。
「……くっ……うっ……」
それだけのことで、思わず射精しそうになる真九郎だったが、イキそうになると、絶奈は敏感にそれを感じて、イク寸前で止められる。
イキたいのに、イケない。与えられ続ける生き地獄のような快感の連続に、真九郎の決意は揺らいだ。
ちくしょう、もうイキたい。いや、だめだ。自分は揉め事処理屋なのだ。それに皆を裏切るわけにはいかない。でも出したい、出してしまいたい。 「いいのかな〜、もし君がさっきのことを誓ってくれるなら、このおっぱいを好きな時に好きなようにしてくれてもいいんだけどな〜」
目の前で真九郎を誘惑するように絶奈の巨乳がたぷたぷと揺れる。あの大きく柔らかいおっぱいに包まれたら、どんなに気持ちいいだろう。
頭の中では駄目だと分かっているのに、もう一度あのおっぱいを味わいたい。むしゃぶりつきたい、勃起した乳首を転がしたい、甘えさせてほしい、挟んでほしい、そして自らの欲望を吐き出してしまいたい。
自分にとって大切な人達の姿が脳裏に浮かんだが、それを押し流すように抗いきれない欲望が止めどなく、溢れてくる。………もう我慢できない。
「…………い…か……せて」
「えー、聞こえないわね〜。もっと大きな声で言ってもらえるかしら?」
「お願いだからイカせてください!!」
「……じゃあ、さっきの言葉を言ってもらえるかしら。」
「………紅真九郎は星噛絶奈様に、永遠の忠誠と服従と愛を誓います。だからっ、お願いしますっ!!イカせてください!!」
屈してしまった。紅真九郎は星噛絶奈に屈してしまった。もう後戻りはできない。
「は〜い、よく正直に言えました。じゃあ、たっぷりイッちゃいなさい、紅くん。」
絶奈は待ってましたとばかりに勢いよく胸で真九郎のモノを挟み込んだ。
(…す、すごい……柔らかい。)
あまりにも凶悪的な柔らかさ。挟まれているだけで達してしまいろうになる。
「ふふ、紅くん、もうイキそうなの。でも、ダメよ、もっと楽しまないと。」
絶奈はそのまま真九郎のモノを強く挟み込むと、そのまま上下にズリズリと擦りあげた。
(……やばい、気持ちよすぎる。)
上下左右からくるムチムチとしたおっぱいの感触に、頭がおかしくなりそうだ。
更に、絶奈はおっぱいから飛び出た真九郎のモノに口を寄せると、ペロペロと舐めだした。
亀頭に与えられるザラザラとした舌の感触と、竿に与えられる温かく弾力を伴った柔らかい刺激に、もう限界だった。
「………イキそうなのね、じゃあ、これで、イッちゃいなさい!!」
真九郎の限界を感じた絶奈は、両手でおっぱいを中央に寄せると、真九郎のモノをぎゅっと圧迫した。
それがとどめとなったのか、絶奈のヌルヌルとした谷間に、勢いよく射精してしまった。
射精した後も絶奈は更に搾り取ろうと圧迫してくる。
そのまま二度、三度射精してから、ようやく絶奈の胸から解放された。
「うわ〜、いっぱい出たわね……私のおっぱい、ドロドロじゃない。そんなに、気持ちよかった?」
絶奈は自分の胸を汚した精液を、手で弄りながら、真九郎に声を掛けたが、真九郎はそれどころではなかった。
絶奈のふくよかな谷間に射精してしまったのと同時に、自分の中で積み上げてきた大切なものがガラガラと音を起てて、崩れていくように感じた。
脳裏に浮かんでいた皆の姿が、まるで虫に喰われるように、どんどん消えていく。もう自分はダメになってしまった。
「じゃあ、これからよろしくね、紅真九郎くん♪」
「………はい。」
その後の事は、よく覚えていない。自分を拘束していた鎖も外されたが、なぜか逃げる気は起きなかった。
「キミだけ気持ちよくならないでよ」とか「キミは特別だから、コッチを使わせてあげる。」とか聞こえたような気もするが、もうどうでもいい。
ただ自分が、どうしようもないところまで堕ちきってしまったということだけは分かった。 数年後
「……嘘だろう。真九郎」
「…………バカ」
「そんな、こんなことありえません、真九郎さん!!」
「なんか煩い子達が騒いでるわね。ね〜『ダーリン』」
「………あぁ」
「ダーリンに会いに来たみたいだけど、鬱陶しいから、さっさと片付けちゃいましょうか?」
「…………あぁ」
「じゃあ、いきましょう、『星噛製陸戦壱式百四号』」
「……星噛製陸戦壱式百五号」
「星噛絶奈!!」「星噛真九郎。」
星噛家 婿入りEND 投下終了です。
絶奈パイを書きたかっただけなんだ。 「お久しぶりです。紅さん。」
「君は……」
「おぉ、覚えててくれましたか!そうです。魅空です。」
「どうしてここに?たしかイギリスの警察に捕まったんじゃ……」
「あちらでも私への対応に苦慮したみたいで、とりあえず仮釈放ということになっています。」
「(おいおい、大丈夫か、あっちの警察)それでいったい何の用なの?」
「はい、今から私と一緒にイギリスの実家まで来てください。」
「……はっ!?」
「釈放されてから一応実家に戻ったんですけど、そこで今回の件について説明させられたんです。そしたら両親達も紅さんに興味を持ったみたいで、一度連れてきてみなさいということなんです。」
「えっ、ちょっと待って。君どういうふうに説明したの?」
「どういうふうにって、「私のお婿さん候補を見つけました」って言ったんですけど?」
「おかしいよね、もっと説明すべきことがあるよね!!」
「イギリスへの旅費は私が出しますので気にしなくて大丈夫ですよ。紅さんはきちんと身なりさえ整えてもらえれば結構です。あと両親への挨拶の内容も考えておいてください。こういうのは最初が肝心だと思うので。」
「いやいやいや、勝手に話を進められたら困るんだけど。俺は君と一緒に行く気はないから。」
「なぜですか?納得できる理由を説明してください。」
「なぜって……だって、あんな事あったのに俺が行くと思う?」 「あんな事って、私が人を殺したことですか?あなたが師事している柔沢紅香やあなたが手を組んでた星噛絶奈は、私に負けず劣らず人を殺してますよ?なのに、あなたは彼女たちと親しくしている。それっておかしいですよね?」
「えっ…それは…事情があって……」
「事情があったら人を殺しても良いということですか?ではその事情を説明してください。」
「(不味い。このままじゃ、言いくるめられるな……よし…)魅空ちゃん、ごめん。実は言うと俺、いま付き合っている人がいるんだ。」
「えっ、そうなんですか?」
「(嘘だけど…)うん、そうなんだ。だから君とは一緒に行けない。」
「………そうなんですか。ちなみに、その人とはもう一線を超えたんですか?」
「えっ!?いや、まだだけど。でも、大切な人なんだ。」
「……分かりました。」
「分かってくれ「では私とセックスしましょう」………はっ!?」
「ここの近くにはお洒落なホテルもありますし、よろしければ紅さんの部屋でも、私のマンションでもいいですよ。」
「君、俺の話ちゃんと聞いてた?」
「はい、話は分かりました。でも一線は超えてないんですよね?それでしたら裸を見られた私に優先権があるはずです。」
「いや、それはおかしい、というか裸を見たのは君が誘ったから……」
「確かに私が誘いましたけど、強制はしませんでしたよね。紅さんには選択権があったはずです。そしてあなたは私の裸を見ることを選んだ。でしたら紅さんにも責任はあるはずです。」
「まぁ、確かにそうだけど……というか君は良いの、そんな簡単に決めちゃって?」
「実家にいる母がよく言ってます。男女関係の問題の大半はお金かセックスで解決できるって……。だから紅さんとこうなるのも、しょうがないですよね。」
「(……だめだ、話が全く通じない…とりあえず逃げよう。)魅空ちゃん、ごめん、ちょっと用事を思い出したから、俺、帰…ら……し………」
「あっ、紅さん。言い忘れていたんですけど、私と一緒にサンダーボルトも釈放されたんです。………もう聞こえてないみたいですね。では、行きましょうか紅さん。あなたが天寿を全うできるように、ずっと大切にしてあげますから。」 「……私の負けです。紅さん」
「…………」
「……紅さんが、こんなに強いとは思いませんでした」
「…………」
「……約束なので、仕方ないです。紅さんの彼女になってあげます」
「…………」
「……では、さっそくデートに「切彦ちゃん」………何ですか?」
「切彦ちゃん、わざと負けなかった?」
「……気のせいです」
「いや、明らかに手を抜いてたよね。……最後とか自分でナイフ放り投げてたし」
「……気のせいです」
「じゃあ、なんで決闘するのに、いつものホットパンツじゃなくて、そんなヒラヒラなスカート着てるの?」
「……偶然いつものが洗濯中で」
「………ここがラブホテル街の裏路地なのも偶然?」
「……偶然です」
「そんな偶然って…………切彦ちゃん、なんでナイフを持つの?」
「……ごちゃごちゃ、うるせえな。………なぁ、紅の兄さん、大人しく俺と付き合うか、ここでコマ切れにされるか、どっちが好みだ?」
「………これからよろしく、切彦ちゃん」
「……こちらこそ、紅さん」 >>576
乙
切彦ちゃんいいよな
5巻ではそろそろ表の他の家も触れて欲しい >>576
乙
勝敗の結果が舎弟か彼女かだから、いづれにせよ殺す気はないっぽいんだよな
何気に夕乃も軽い感じで戦鬼化してるし…作者の仕切り直しは嬉しいんだが
良くも悪くもぬるくなった感は否めなくなって来たな 確かに、まぁ毒は薄れた気がする
ただ漫画版から入る新規読者も多いやろうから、ある程度はしゃあない気もする 久々に電波読んだらビックリした
鼻垂れ小僧時代だったから全く内容理解してなかったんだろうなぁ ダッシュXの中でもダントツで紅が良かったと思うけど
俺の主観だからなんとも言えんがな >582
俺も良いと思うけど、そういう周囲の反応はさて置いて作者本人がなぁ
巻末文を読む限り、続巻に言及してないのが気にかかるところだよ >>583
そう受け取ったか
俺としてはいつも通りだから何年も開けてたことは水に流してね、的なモノを感じ取ったが 「新刊!」
このスレを数年ぶりに開いた私は驚愕した。
何軒か本屋を回ったが見つからない。
やっと見つけたとき、隣に並ぶ数冊のタイトルを見たとき、2度目の驚きが私を貫いた。
「新装版だと・・・」
長き空白期を経ても未だに支持する人々の熱い情熱と出版社の激甚なる労苦、何よりも不屈の闘志をもって執筆活動を続ける片山師に思いを馳せたとき、店員の不審気なまなざしを受けつつも、瞼を押し上げる熱いものを堪えながら天井を見上げて、店頭でしばし立ち尽くしていた。
読み終えた。
・・・・・・ロリコン
出版を巡る大人の諸事情を思うと、関係各所への深い同情を禁じ得ない。
(その程度のことで世間の目をごまかせるとは思えないよねぇ)
P.S.
今はテロとか大量XXだの連続云々の方がやばいんだろうなぁ。
中部地方の女子大生の蔵書にあったりして。 本当だ、すんごい長寿スレなのね
歴史と時間の流れを感じるわ 夢を見た。
未来の夢。
五月雨荘五号室、真九郎に寄り添うように座っている紫。
今より幼さの抜けた美しい女の顔。
だが、まっすぐな瞳は今と変わらない。
長い黒髪はそのまま、
しかし姿は幼い少女のそれではなく、手足の伸びきった若い娘。
少しふくらんだ胸と、しなやかな身体を白いワンピースに包んでいる。
紫は真九郎に微笑みかけ、その白い手を真九郎の顔へと伸ばす。
真九郎の好きな紫の甘い匂いが艶やかに立ち上った。
目を覚ました真九郎は夢の意味を考える間もなく、
枕元に夢の中で嗅いだのと同じ匂いと、よく知った気配を感じた。
いや、気が付いたから目を覚ましたのか。
「紫?」
気配は答えない。
「どうしたんだこんな時間に」
まだ夜中近いはずだ。
「なあ」
真九郎が布団から起き上がろうとすると、
突然跳びついてきた紫に押し倒された。
「…プレゼントはしかと受け取ったぞ」
真九郎の首っ玉にかじりついた紫は囁いた。
その日は紫の誕生日であった。
紫は真九郎と過ごすつもりであったが、
九鳳院の屋敷で盛大なパーティーが開かれ、
主賓である紫は抜け出すことができなかったのだ。
真九郎も九鳳院と確執がないわけではなく、出席するわけにはいかなかった。
誕生日プレゼントに露店で見つけた小さな指輪を用意していたのだが、
結局真九郎は騎馬に紫へのプレゼントを預けるだけで退散してきたのだった。 「なあ、どうしたんだ」
「嬉しかった。嬉しかったのだ」
「指輪か」
真九郎は状況の認識ができていないながらも、
嬉しかったと泣きそうになりながら繰り返す紫が愛おしく、
小さな背中に腕を回した。
「私は紅紫でいいぞ」
「へ?」
「九鳳院は兄様が継ぐ。真九郎が九鳳院に入る必要はないぞ」
「……へ?」
「もちろん。入ってくれるというのなら私はそれでもかまわん。
お父様は私が説き伏せる」
真九郎はゆっくりと紫を引き離し、顔を覗き込む。
「なあ、紫。お前何の話を」
「ん?指輪だ」
「はあ」
「真九郎が私に結婚を申し込んだ話だ」
邪気のない満面の笑み。
「……」
「違うのか?」
途端に泣き出しそうな顔に。
百面相に動揺しながら真九郎は必死に状況の理解に努める。
つまり指輪を贈ったことで紫はプロポーズを受けたと勘違いをしたのだ。
「あのな、紫…」
真九郎の表情から紫は真実を悟ったらしい。
「私が悪かった。忘れてほしい。どうも勘違いをしてしまったようだ」
目を伏せる紫は、痛ましくさえ見える。
「私は真九郎に迷惑をかけてしまったな。すまなかった。…おやすみ」
紫は立ち上がり、部屋を出ようとする。
「紫、どうやってここまで来たんだ」
真九郎は布団から呼び止める。
他にどうすればいいかなんて真九郎には分からなかった。
「騎馬に…送ってもらったのだ。環が初夜は二人で寝るのだと教えてくれたから…それで…」
「下まで送るよ」
布団から這いだし紫を追う。
真九郎は何も言えずに紫の横を歩く。
紫も黙って下を向いたまま階段を下りる。
真九郎はプレゼントの選択を銀子や夕乃に相談しなかったことをひたすらに後悔していた。 騎馬はいなかった。
五月雨荘の前の通りには野良猫が一匹座っているだけ。
部屋に戻り電話をかけるがつながらない。
「紫、泊まって…いくか?」
幸い今日は土曜日、翌日に学校はない。
紫は黙って小さくうなずいた。
来客用の布団を自分の布団の隣に敷きながら真九郎は初めて
紫の左手の薬指にはまった指輪に気が付いた。
紫色の小さなガラス玉でかたどられた花の飾られた指輪。
真九郎の小指にさえはまらないような小さな指輪。
真九郎の視線に気が付いた紫は慌てて指輪をはずそうとするが、
指が滑るらしくなかなか抜けないらしい。
焦って、涙目になって指輪を引っ張る紫を真九郎は思わず抱きしめた。
「ごめんな、紫。ごめんな」
「違う。真九郎は悪くない。私が勘違いをして勝手に浮かれていたのだ」
「ごめん」
「私が悪いのだ」
「…俺は紫が大事だ」
「うん」
「紫が必要だ」
「うん。それだけでいい。私も真九郎が大事で、真九郎が必要だぞ」
涙目の少女は微笑んで言った。
真九郎の頭は真っ白になる。
大きく息を吸い込む。
状況に流されてはいないか、冷静でないのではないか。
しかし、真九郎の中に昂った熱が退くことはない。
冷静でないからなんだというんだ。
分かっていたはずだ。
自分にとって誰より何より大切なのはずっと一人だった。
真九郎には世界が滅ぶとしても優先しなくてはならない存在がいた。
分かっていたはずだ。
相手は小学生で大財閥の令嬢で誰からも愛される美少女。
かたや自分は未熟な甲斐性なし。
彼女の未来を潰していいはずがないのに。
それでも真九郎の欲望は止まらない。
生きるために紫を求める。
「紫、その指輪外さないでいてくれるか」
紫は潤んだ瞳を見開く。
「うんっ」
真九郎は紫をかき抱き、二人は唇を重ねた。 真九郎の年相応の激しい欲求は彼に紫をまさしく貪らせた。
幼い紫は息が続かず、一瞬二人の唇が離れると舌を垂らして喘ぐ。
だが、真九郎の左手が紫の後ろ髪を掻き揚げるように差し込まれ、
小さな後頭部を五本の指でつかむと、紫は下腹部がふわりと浮きあがるような感覚に、
無心で下半身を真九郎にこすり付けた。
紫の上に覆いかぶさっていた真九郎は上半身を起こし、
荒々しく紫の寝間着を脱がし始めた。
普段から着替えを手伝っているためか、意外と手早い。
自らの寝間着も脱ぎ捨ててしまう。
紫は真九郎の一物の初めて見る屹立した姿に
驚きと好奇と期待を併せ持った熱視線を送った。
翌朝、紅香からの電話で、まさか本当にやるとは思わなかったと、
半ば呆れられながら冷やかされ、真九郎は昨晩、騎馬が消えた理由に思い当り、頭を抱えた。
闇絵や環も気が付いているのかもしれない。何しろボロアパート、壁は薄い。
それなら銀子や夕乃が知るのも時間の問題だ。真九郎はさらに頭を抱える。
だが、いまだ布団の中で静かな寝息を立てる少女の笑みを見ていると全てがうまくいくような気がした。
十年後も二十年後もこうして彼女の幸せそうな寝顔を見ることができる予感がしたのだった。 山本ヤマトはすっかりセラフに馴染んだなあ
片山がさっさと新刊出ねえからだぞ 絶奈の同人誌が出て欲しいな。久々にこの人の絵見た
ttps://pbs.twimg.com/media/CLEb1sGUYAEiEM2.jpg:large あのクソペースじゃSS職人も近寄らんよなあ…悲しい みんなどうしたんだよ?ここはエロパロスレなんだろ?もっと弾けようぜ? これは、真九郎以外の五月雨荘の住人が所用で出払っている時のお話。
環は空手の全国大会の出場者として、闇絵は旅に、紫は九鳳院での職務を
全うするために日本各地へと飛び立っていた。
「真九郎さん。真九郎さん」
肌寒い秋の朝、真九郎の耳に優しい声が雨のようにしみこむ。
「もう、仕方がないんだから」
ほほえみを浮かべた崩月夕乃は、未だに眠りこける世界で一番大切な
弟分の布団の中に躊躇いもなく、その身体を滑り込ませる。
現在六時二十分。真九郎の起床時間は午前七時ジャストである。
「よいしょっと...」
自分とは逆の方向に寝返りを打とうとした真九郎の身体をころりと
自分の向きへと転がし直した夕乃は、自分の胸を押さえ込む窮屈な
制服のボタンを全て空け、その柔らかな胸に真九郎の頭を抱え込んだ。
「んぅ〜...むにゃむにゃ...」
「か、可愛い...///」
明日の命さえ危うい裏社会の荒浪に揉まれながらも、真九郎も自分も
奇跡的に今日まで生きてこられた。
九鳳院の一人娘から端を発した最近の出来事はより大きなうねりを伴い、
かつての兄弟子との再会からの悪宇商会との小競り合いを経て、真九郎は
より強くなった。
だけどその分、危うくなったとも夕乃は思う。 「真九郎さん真九郎さん。ああ、真九郎さん」
そう、真九郎の命は勿論だが、自分が真九郎を想う気持ちに歯止めがかけられない。
真九郎の全てが愛おしく、夕乃の全てを知ったその上で自分と一生を添い遂げて欲しい。
鉄火場を潜り抜ける度に凜々しく、激しさを増す少年の輝きに夕乃は既に骨抜き、
いや、メロメロになっていた。
「んー...なんだ、これ?」
強く抱きしめた頭の圧迫感に違和感を覚えた真九郎が目を覚ましかける。
無論、自分の許可なく起きるなんてことを夕乃が許すわけもなく...
「んっ...はむっ...ちゅっ」
さも当然のように真九郎の唇を普通に貪り始めたのだった。
「ん〜...すぅ...ん、むっ...すう〜」
「ちゅうぅうっ...ぷはぁっ、ちゅるるっ...」
真九郎の呼吸のリズムを見切り、かつ目を覚まさない程度のキスの嵐を
夕乃は自分の持てる限りの技術を尽くして真九郎に施す。
それと同時に、夕乃の利き手は真九郎の股間をまさぐり始める。
八年前とは比較にならないほど大きくなった逸物をデリケートに
扱いながらも、その根元と先端を巧みに動かす手つきは既に熟練の域。
あっという間に真九郎の愚息はパンパンに張り詰めた。
「イケない子ですね...真九郎さんは」
イケないことだと分かっている。分かっているのだが...
真九郎が悦んでいるのだ。眠っているとは言え自分のキスで感じている。
変態じみた倒錯感が夕乃の身体を稲妻のように駆け巡り、自制心という名の
ブレーキを瞬く間に全て粉砕していく。
首筋に紅い痕跡を残しながら、夕乃は更に真九郎の耳を舐め始める。
首筋から耳朶にかけ、白く透明な唾液の跡が線を引く。
紅くかぶれる首筋に軽く歯を立て、真九郎を刺激する。
その間も軽い愛撫で焦らされた彼の愚息は、もどかしさのあまり
ピクピクと動きながら、窮屈なズボンの中で愚図りだした。 ぴゅっ、ぴゅっ。
パジャマにじわりと滲む、粘り気のある染みは徐々に大きく広がり始めた。
布団の中にたちまち立ちこめる青臭い臭いの正体は言うまでもない。
女の子のように喘いだ真九郎は射精の快楽に抗えず、遂には夕乃の前で今まで
処理しきれなかった白い欲望を、無意識のうちに吐き出し始めた。
「んんっ...あっ...ああ...ふぁあ...///」
「イッっちゃったんだ...」
女のように喘ぎ、腰がかくかくと震える真九郎の痴態はこの上なく夕乃の
性欲に火をつけてしまう魅力を放っていた。
理性に歯止めが効かなくなる状態に陥りそうな自分を無理矢理押さえつける。
このまま腕力に物を言わせ、真九郎を強姦したい衝動に駆られる。
しかし、そんなことをしてしまえば間違いなく真九郎は自分と絶交し、
あの忌々しい柔沢や眼鏡、そして彼が本当に好きな...
「!!」
少女の顔がその脳裏に浮かんだとき、夕乃は真九郎の身体から自分の身体を
素早く剥がした。
制服のボタンを全て留めたと同時に、真九郎が目を覚ます。この間僅か一分である。
「んん〜。よく寝た、って夕乃さん?」
「おはようございます。真九郎さん」
「ご飯、持ってきました。よかったらどうです?」
何も知らない風を装いながら、夕乃は食器を取り出しちゃぶ台の上に置く。 「んんっ?!」
違和感の正体に得心してしまった真九郎が目に見えて慌てだした。
「どうしたんですか?」
「えっ、いい...いいいいいや?な、ななななんでも、ななないです」
当然だ。
真九郎の知る夕乃といえば古風な貞操観念の持ち主であり、加えて
目の前でスケベで卑猥なことをしようものなら(それがまきこまれたかどうかは
この際置いておくとして)鉄拳制裁を加える優しくてスパルタなお姉さんなのだ。
ましてや、生理的な問題とは言え夢精なんて無様を頭の上がらない夕乃の
目の前で知られてしまえば、間違いなく怒られると真九郎は思っているだろう。
きっと真九郎はどうすればこの危機を乗り越えられるだろうかとめまぐるしく
頭を回転させているだろう。無論、夕乃は真九郎を逃さないが、当の本人である
真九郎はそれを知らない。
「あ...あの、夕乃さん」
「ちょっと...なんていいますか、その...後ろを向いてて貰えないで...」
「真九郎さん。なにを隠しているんですか?」
「あ、そ、いえ...別に隠しているというわけでは、なくて...その」
べったりと自分の股間にぶちまけられた精液の冷えた感触と夕乃の視線が
真九郎の股間を縮み上がらせた。
素直に夕乃に全てを打ち明けられれば何も問題はない。
だが、真九郎にも男としての面子とプライドがある。
「し〜ん〜く〜ろ〜うさ〜ん?」
「Hな本を持ってても怒りませんから。ね?こちらを向いて下さい」
「ぅぅ...む、無理なんですってばぁ!」 ここで真九郎を追い詰めるとかえってやり辛くなるのは分かっている。
彼のことだ、おねしょよりも恥ずかしい夢精を家族として、また一人の
尊敬できる女性である夕乃に知られた暁には死よりも酷いことになる。
下手をすれば一生崩月の敷居を跨げなくなってしまう可能性だって在る。
きっとそんなことを考えているのだろう。
(ああ...真九郎さん真九郎さん...すっごくかわいいなぁ)
自分を追い込んだ犯人はすぐそこにいるというのに、真九郎はなにもできない。
「夕乃さんっ。ごめんなさい!」
ニコニコと笑う自分の顔の前で命懸けの目眩ましをした真九郎は脱兎の如く
自分の部屋の鍵を開け、五月雨荘の洗濯機の場所へと一目散に駆けていった。
「油断しちゃいましたね...」
さて、真九郎が戻ってきたらどう説教してやろうか?
そう思いながら夕乃は指にこびりついた真九郎の粘りのある濃い精液を
口に運んだ。
「そろそろ...食べ頃かな?」
「うっ、なんか凄い悪寒がする...」
紅真九郎が崩月真九郎になる日は、そう遠くないかも知れない。
〜真九郎の嫁入り 前編〜
午後八時 崩月邸
夕食後、稽古の汗を流すべく真九郎と夕乃は風呂に入っていた。
旅館と同じ大きさの湯船に身体を寄せ合い暖め合う真九郎と夕乃。
隙間無くその身体を抱きしめる夕乃はいつものように真九郎と睦み合う。
「あぁ〜...稽古の後のお風呂はいいですね〜」
「痛てて...お湯が染みるなぁ...」
「よしよし...痛いの痛いの飛んでいけ〜」
「う〜...」
稽古の後に風呂に入り真九郎を全力で甘やかすのが、崩月夕乃の毎日の楽しみである。
姉のように真九郎を慈しむ夕乃と、その背中を追いながらも過去の痛みを乗り越えて
男として成長する真九郎が夕乃に子を孕ませられる歳になると同時に、互いの身体を
求め合うようになるのは当然の流れだった。
「はい。今度は真九郎さんが私の痛みを取り除いて下さい」
「え〜...まだ痛いのに...」
夕乃に甘える弟分のささやかな抗議を流した夕乃は、自分がそうしたように
今度は真九郎に自分を抱きしめさせた。 「夕乃さんの痛いの飛んでけ〜飛んでけ〜」
「ん〜。気持ちいいですよ〜真九郎さん」
「真九郎さん...聞こえますか?私の心臓の音」
「貴方に抱かれて、凄くドキドキして...イケない人ですね真九郎さんは」
「夕乃さんの方こそ、いやらしいムッツリスケベの変態の癖に...」
大腿から臀部にかけて集中的にいやらしく撫で回す真九郎の手に身を委ねながら
夕乃はゆっくりとその股に徐々に鎌首をもたげる真九郎の一部を持って行った。
全身を程良く抱きしめるその腕の強さに緩やかな快感を覚えた夕乃は
徐々に発情し始めた。
真九郎も優に20cmを超えるその逸物をいきり立たせ、もどかしげに
夕乃の股にこすりつけながら懸命に腰を振りはじめた。
「夕乃さん...夕乃さん...。キスして、ください」
「真九郎さんは私の真九郎さんなんです...だから、いいですよ」
とろけた目で夕乃を見つめる真九郎はとっくに出来上がっていた。
夕乃の教育の甲斐あって、抵抗感無く自分からキスを求めるようになった
真九郎は教えられたとおりに夕乃を愉しませ始めた。
「んっ...んふぁ...ちゅっちゅっ、夕乃さん...」
「あぅ、あっあっあっ...気持ち、いい...もっと、もっとして...」
自分の顔を掴み、唇を吸い続ける夕乃の舌が真九郎の口内を蹂躙する。
絶えず熱い唾液を送り込み、ぎこちなく絡みつく舌を弄んでは
自由になった両腕で真九郎の性感帯である乳首も器用に刺激する。 「ふぁぁぁぁ....///ゆぅ、の...さん。気持ち、いいです」
「気持ち、いいのに...気持ち、いいのに...」
全身を愛撫された真九郎の身体に軽いオルガスムスが伝わり始める。
しきりに腰と逸物をピクピク動かしながら、懸命に溜まった精液を
外に放とうと真九郎は懸命になっていた。
「駄目ですよ...まだ、まだ真九郎さんは我慢できる筈です」
「そ、そんなぁ....」
まるで女のように喘ぐ真九郎にゾクゾクとした快感を覚えた夕乃は、次の瞬間
自分達が今まで溜め込んでいた性欲の箍が外れる音を聞いた気がした。
「夕乃さん!ごめん」
「あうううううっ?」
堪えきれずに夕乃の股を割り開いた真九郎は、生殺しにされていた
自分の逸物を前戯もナシにそのまま夕乃の熱い膣へとぶち込んだ。
より強い快感を求めようと腰を振る前に、夕乃の絡みつく膣内の
肉襞に絡み取られた剛直はあっという間に全体を刺激され、耐える間もなく
そのまま一週間もの間、お預けされていたその粘つくような濃い精液を
暴れ馬が暴れるが如く夕乃の子宮へと吐き出し始めた。
「あっあっあっあっ、駄目だ、ダメダメダメ...出る!中に出るッ」
「待って真九郎さん!まだ気持ちよ...ふぁぁぁ...///」
真九郎の長い射精はおよそ三分もの間、夕乃の膣内を満たし続けた。
入りきらなかった精液が浴槽の中に白い塊として浮き上がり続ける。
真九郎の射精が終わるまで、夕乃は身体を振るわせながらじっと耐える。
「はぁ...はぁ...」
長い射精を終えた真九郎は体力が尽きたのか、正常位でつながっている
夕乃の中から自分の逸物を抜いた後、その大きな胸にしなだれかかった。
「し〜ん〜く〜ろ〜うさ〜ん!」
「どうして私の言うことが聞けないんですか?」
「だ、だって...夕乃さんが意地悪するから...」
笑顔で怒る夕乃にしどろもどろになりながら言い訳する真九郎。
夕乃としてはこのまま真九郎が精魂尽き果てるまで自分を犯すくらいの
気概を見せる所を期待するも、当の本人が稽古で精根尽きてしまって
いるのだ。これではなにも面白くない。
「はぁ...へばってしまうとは...仕方がないですね」
くたくたになって椅子に座る事も出来ないほど消耗している真九郎を
抱きかかえて、そのまま風呂の床に横たえた夕乃がしたことは無造作に
真九郎の無防備なその腹に乗っかることだった。
「ぐええ...」
「ふふっ...もう逃げられませんよ?」
近くにあった石けんを取り、念入りに手を洗う。その次に夕乃は
ローションのボトルを開け、ドボドボとお湯を貯めた洗面器の中に
無造作に突っ込み、ぐるぐるとかき回し始めた。
既に真九郎は眠気にノックダウンされ、夕乃が何をしているかも
分からない状態へと陥っていた。 「おねーちゃん。お風呂〜?」
カラカラと引き戸を引く音とともに散鶴が浴室に入ってきた。
「散鶴。お稽古は終わったの?」
「うん。おかーさんとおじーちゃんはお酒飲みに行ったよ」
「そう。帰るのは遅くなるの?」
「うん」
なら好都合だ。
散鶴の前でやるのは気が引けるが、絶好の機会であるのには変わらない。
むしろ共犯者として引き込むなら、散鶴はこれ以上無い頼もしい味方である。
夕乃は、きょとんとする幼い妹の耳に何かを吹き込み始めた。
最初はイヤイヤと首を振る散鶴だったが、夕乃が放った最後の決め言葉に
心が揺れ動いたのか、先程とは打って変わった目つきで真九郎を見つめた。
「じゃあ、始めましょうか。ちーちゃん」
夕乃の笑顔に釣られるように、妹である散鶴も満面の笑みを浮かべる。
「うん。おにーちゃんは今日からわたしたちのおよめさんになるんだよね」
その決意に満ちた言葉は、真九郎の耳に届くことはなかった。
後編へ続く。 乙です。
原作でも真九郎がある程度の年齢になったら、強制的に婿入りさせられそうな気がする >>613を書いた者です。タイトルが真九郎の嫁入りとありますが、よく考えたら
やっぱりおかしいと思ったので、真九郎の婿入りに直して呼んで下さい。 〜真九郎の婿入り 後編〜
「おねーちゃん。本当にやるの?」
「勿論やります。いいですか?ちーちゃん」
「私もちーちゃんも真九郎さんが大好きです。そうですよね?」
「うん。だいすき」
「ですが、真九郎さんの周りには泥棒猫達がいます」
「そしてこのままだと真九郎さんは崩月からいなくなっちゃいます」
「そう...真九郎さんは、永遠に崩月の家を出て行っちゃうんです」
「ふぇぇ...おにーちゃん...またどっか行っちゃうの?」
「多分、このまま行けば紫ちゃんに独り占めされちゃいますね...」
真九郎を崩月の家に取り戻そう。夕乃はそう散鶴に告げた。
小さい散鶴にも真九郎がなんとなく女の人に好かれているのは分かっていた。
しかし、真九郎と同じ位大好きな姉が言う言葉は幼気な少女の心を
恐怖で縛り付けた。
まだ嫉妬や愛という感情を理解するには散鶴は幼すぎた。
しかし、自分よりも真九郎の身近にいて、自分以上に思い人の愛を
注がれている一人の少女の姿が脳裏に浮かんだ。
今まで数える程度しか見せない姉の深刻そうな表情が散鶴の中にある
真九郎が自分達の元からいなくなることへの恐怖を更に掻き立てる。
「紫ちゃんとおにーちゃんは...けっこんしちゃうの?」
「はい。ちーちゃん以外の人を好きになって結婚しちゃうんです」
「やだぁ!やだやだやだぁ!!」
「私だってそんなのイヤです。でも...真九郎さんは、私のこと...」
認めたくない。
しかし認めざるを得ないという夕乃の諦めたような表情に散鶴は絶望した。
自分よりも何倍も優れた姉が、自分の恐ろしい想像が実現てしまうとはっきりと
断言してしまったのだ。
紫と真九郎が結婚して夫婦になってしまえばもうお手上げだ。 「でも、一つだけ真九郎さんを引き留める方法があるんですよ...」
「ほんと?!」
「その方法は...真九郎さんを私達のおむこさんにしてしまえばいいんです」
「おむこさんにする?できるの?」
「はい。だけどそれにはちーちゃんの助けが必要です」
「やる!やるもん!」
健気に姉の言うことに耳を貸す散鶴はあくまでも真剣だった。
姉が何を考えているのかは分からないものの、今まで大好きな姉が
やってきたことが間違っていた所を見ていないことが幸いし、バカ正直に
その手助けをすることを約束してしまった。
そして、物語は前編の終わりへとつながる。
「じゃあ...心の準備はできた?ちーちゃん?」
「うん。おにーちゃんをほねぬきのメロメロにするんだよね?」
「よくできました。えらいですね、ちーちゃんは」
「えへへ...///」
真九郎が眠りから覚めていないのを確認した夕乃と散鶴は先程風呂桶に
貯めたローションの水溶液をゆっくりと真九郎の身体にかけていった。
生まれて初めて触るぬるぬるした液体に面食らう散鶴だったが、その
滑らかでつるつる滑る感触が気に入ったのか、手に残った水溶液を自分の
身体にこすりつけて愉しみ始めた。
「じゃあ...まずは、お手本を見せるからそれをちーちゃんは真似すること」
テラテラと光る蠱惑的な豊満な姉の裸に興奮を覚えた散鶴は、心臓の高鳴りを
抑えて姉が今からやろうとすることに全神経を傾けた。 「真九郎さん...私とちーちゃんだけの大好きな真九郎さん...」
まず夕乃は未だに勃起が収まらない真九郎の逸物には目もくれず、
その下半身にまたがって、上半身の引き締まったその胸筋に倒れかかって
自分の胸を押しつけ始めた。
形の良い夕乃の胸がたわみ、それに伴い真九郎の呼吸は荒くなる。
夕乃の胸を使った愛撫は寸分の隙も無く、真九郎の身体全体を覆うようにして
円の軌道を描く。
「はい。お手本終わり。さ、ちーちゃん。って...あらあら」
行儀よく床に座っている妹を真九郎の上にのせようとした夕乃は
小刻みに身体を震わせてビクビクとしている事に気が付いた。
「お、おねーちゃん...おまたから、なんか勝手に出てきちゃった」
「大丈夫よ。それは女の子が感じている証拠。安心して?」
未成熟な散鶴は愛液を股の間からこぼしながら真九郎にまたがった。
「んしょ...んしょ...」
一生懸命になって姉のように真九郎を気持ちよくさせようとする散鶴だが、
いかんせん身体が小さい為か、どうしても真九郎の身体からずり落ちてしまう。
「む〜...」
ころん、こてん。と転がりながらもなんとかずり落ちないように散鶴は
あることを思いついた。
真九郎の自由な腕を掴んで身体を固定し、前後へと動き始めたのだった。
こうすることでなんとか散鶴は姉の課題をクリアすることが出来た。
「よくできました。それじゃあ...次は...」
頭を優しく撫でた姉が次にした事、それは真九郎の乳首を口に含む事だった。 「ちーちゃん。嚙んじゃだめだからね?飴を転がして舐める感じよ」
簡単に忠告を済ませた夕乃は自分の半分ほどの大きさの真九郎の乳首を
口の中へと含み、歯と唇をつかって楽しく弄び始めた。
(おにーちゃんのおっぱい...おかーさんのより、ちっちゃい...)
母の胸に抱かれて、母乳を飲んでいた要領で吸えば良いのだろうか?
なんとなくやり方が分かった散鶴は、そのまま母乳の出ない男の胸に
勢いよくかぶりつき、衝動に任せて思い切り吸い始めた。
「ちゅうちゅう...ちゅぅううううううううう!!!」
(ぷはぁ...息が続かないよぉ...)
力任せの強引な吸引に真九郎が目を覚ましかける。
「おにーちゃんのおっぱい...おにいちゃんの...おっぱい...」
「ふふっ。真九郎さんってば大分感じ始めてきてますね?」
しかし、真九郎が大好きな散鶴にとってその胸から母乳が出るか出ないかは
全くの些事でしかなかった。むしろ、大好きなお兄ちゃんが自分の手によって
気持ちよくなっているという満足感を更に膨らませようと散鶴はリズムをつけて
乳首への攻めを再開した。
「ちゅっ、ちゅっちゅ...ちゅるる...ちゅう...」
色欲にとろけ、牝の顔をするようになった妹に満足した夕乃。
大好きな真九郎のことをもっともっと気持ちよくさせたいと思う散鶴。 「ちーちゃん。どう?気持ちよかった?」
「...うん」
「もっと気持ちよくなりたい?」
「...なりたい、です」
淫らな笑みに加虐の色を滲ませた夕乃は、興奮して未だに真九郎の乳首に
むしゃぶりつく妹を引きはがして、計画の大詰めへと取りかかった。
「じゃあ...ちーちゃん...」
「真九郎さんにキスしてみる?」
「する...///」
なんのためらいもなく、散鶴はその問いに即答した。
「はぁ...小さいちーちゃんがこんなにも性に積極的だというのに...」
それに比べて未だに眠りこける真九郎のなんと罪作りなことか。
「ちーちゃん。キスはもうちょっと待ってね?」
「ええ...」
期待に目を輝かせていた散鶴の笑顔が一瞬で曇ってしまった。
これはますます、罪作りな真九郎に灸を据えなくてはならない。
「真九郎さん...真九郎さん。起きて下さい」
「いえ、もう起きているんでしょう?」
その時、眠りに落ちているはずの真九郎の顔がぴくりと動いた。 崩月姉妹の献身的、かつ愛に溢れた前戯を受けた真九郎はとっくに
眠りから覚めていた。
正真正銘の幼稚園児からうけるたどたどしい愛撫による背徳と、何度も
身体を重ね合わせてお互いの性感帯を知り尽くした夕乃のテク。
その二つを良心で撥ねのけるには、真九郎にはあまりに酷な話であった。
倒錯的でマゾヒスティックな心地を味わえる二人の愛撫に真九郎は
もうとっくに骨抜きにされてしまっていた。
(ど、どうする?このまま寝たふりで押し通すか?いや...でも)
そんな子供だましは夕乃には通用しない。
ここで起きてしまえばもう後戻りは出来ない。
これからの日々、紫に顔向けが出来なくなってしまう。
数秒の逡巡の末、真九郎は意を決して目を覚ますことにした。
心を鬼にし、あえて冷たく夕乃を見つめる真九郎。
その冷たい視線に怯えた散鶴は、一目散に浴室から出ていってしまった。
しかし、計画が破綻した夕乃は顔色一つ変えない。
「...夕乃さん。一体何やってるんですか?」
「やって良いことと悪いことがあるでしょう?」
冷たい怒りを夕乃にぶつける真九郎に対して、夕乃の態度はあくまでも
冷静沈着だった。
それでも、真九郎は夕乃の事を怒ることが出来ずにいた。
まだ年端もいかない散鶴とともに自分を籠絡しようとした怒りよりも、今まで
夕乃の思いと好意を蔑ろにしていたツケが回ってきたと素直に受け入れてすらいた。
「気持ちいいことは悪いことですか?真九郎さん」
「真九郎さんが悪いんですよ...」
「私の気持ちに気づいていながら、それを意図的に無視してばっかり」
「ずっと私は真九郎さんに振り向いて欲しかった」
夕乃はハイライトの消えた目と抑揚のない口調で淡々と語り始めた。
「真九郎さん。私じゃ紫ちゃんに及びませんか?」
「私達家族じゃ、真九郎さんの家族の代わりになれませんか?」
「私はどうすれば、大好きな真九郎さんに受け入れてもらえるんですか?」
それは、嫉妬や愛という感情に振り回される女の悲鳴だった。
涙をこぼし、真九郎に見下げ果てた女だと見下され、軽蔑される恐怖に
耐えながらも、夕乃は必死に真九郎から目をそらさずに見据え続けていた。
「紫ちゃんに真九郎さんが惚れているのは分かります」
「でも、私は...私は紫ちゃんに負けたくない。誰にも貴方を渡したくない」
「それすらも、わかってもらえないんですか?」
夕乃とて、今の自分のしていることがどれくらいまずいのかは理解している。
年端もいかない妹を巻き込んで真九郎を籠絡しようとする魂胆はまさに
卑しい女の手練手管と全く同じものだった。
しかし、そうでもしなければ永遠に真九郎は夕乃に振り向いてくれない。
自分との縁を切るくらいのことをしなければ、紅真九郎という少年は
一生かけても己の本心を打ち明けてくれないということを夕乃は悟っていた。
「夕乃さん...」
真九郎は人を愛することの業の深さを思い知らされた。
紅真九郎は崩月夕乃には一生勝てない。その愛を拒むことが出来ない。
何故なら夕乃の愛は、世界中の誰よりも真九郎を愛するが故のものだからだ。
どのみち、ここまで追い詰められてしまえばもう逃げ道はない。
紫はきっと自分に幻滅して、絶望するはずだ。
自分のしたことがどれだけ紫の心を抉るのかは想像もつかない。
(紫...ごめん。ごめん...)
心の中で紫に真九郎は侘びた。もう後戻りは出来ない。
引き裂かれるような心の痛みを感じながら、それでも真九郎は前に進む。
(俺は、夕乃さんを見捨てることなんか出来ない...)
自分を受け入れてくれた家族と、自分が受け入れたかけがえのない人。
その両方を天秤にかけて、真九郎が選んだのは夕乃だった。
「夕乃さん。俺はさ、最低の男なんだ」
「夕乃さんの必死の訴えを聞いているときでさえ、紫のことを考えてた」
「いや、それ以前に...自分が、どうしようもないくらいバカで...」
「とっくに...夕乃さんが好きになってたのに、それが怖くて...」
「また、俺が、俺のせいで...みんな...みんな...いなくなるのが怖くて...」
「自分の弱さを見せるのが、怖くて...」
荒れ狂う己の感情の正体に向き合う余裕のない真九郎は、それでも
できる限りの誠意を持って夕乃に向き直った。
バラバラになってまとまらない思考を無理矢理まとめながら、真九郎は
弱さを見せまいと後ずさる夕乃の身体を抱きしめた。
震えるその体を強く抱きしめて、真九郎は言葉を続ける。
「夕乃さん。俺は、貴女を俺だけの夕乃さんにしたい」
「貴女を他の男なんかに絶対渡したくない。ずっと俺の...」
「俺の、俺だけの夕乃さんになって欲しいんだ...」
心に決めた相手への想いを持ち続けながら、それでも真九郎は自分を選んでくれた。
曖昧さをかなぐり捨て、自分の心の弱さをも全て曝け出した上での
血を吐くような真九郎の愛の告白は夕乃の心を揺さぶった。
「真、九郎..さん。ようやく、私の気持ちに応えてくれたんですね...」
「夕乃さん...今まで辛い思いさせて、本当にゴメンなさい」
ずっと真九郎に望んでいたことを他ならぬ本人が自らの意思で実行すると
自分に約束してくれた。それだけで夕乃の心は幸せに満ちあふれた。
「今はまだ揉め事処理屋の仕事は辞められないけど」
「高校を卒業したら、崩月の家に戻るから....」 夕乃にとって真九郎がかけがえのない存在であるように、真九郎にとっても
夕乃の存在は欠けてはならない大切な存在だった。
つまり、とうの昔に夕乃と願いは叶っていた。想いは通じていた。
「えっと...じゃあ一週間に二、三回は崩月の家に戻るよ」
「あああ...もう、嬉しくて嬉しくて涙が止まらない...」
涙を流しながらも、真九郎と晴れて両想いになれた夕乃の笑顔はこれまで
真九郎が見てきた夕乃の笑顔の中でも最高に素晴らしいものだった。
「真九郎さん...キスして?」
「今日のことが夢じゃないって証を、私に刻みつけて...」
目をつぶり、真九郎のキスを待つ夕乃。
真九郎は、躊躇うことなく夕乃の唇を奪った。
次回 夕乃の嫁入りに続く 〜散鶴の嫁入り 前編〜
「ふうぅ…っ♪」
真九郎は躊躇うことなく夕乃の心を奪い去った。
夕乃を慰めるように、そっと舌で愛撫するようなキスに夕乃はのめり込み、
真九郎も心から溢れる切なさと愛おしさのあまり、ほんの小さな声をあげた。
「あんっ...真九郎さん...」
互いの唇を吸い尽くすような淫らな音を立てながら、恋人達は互いの
心の結びつきを強く深めていく。
今まで経験したことのないような己の身を焼き焦がすような独占欲に
駆られた真九郎は、絶対に離さないと自分の心に誓った夕乃を更に強く
抱きしめる。
そのあまりの変わりように、しかしそれは夕乃にとって驚くべきことだったが
同時にようやく真九郎が自分を受け入れてくれた証なのだと気が付いた。
喜悦の声を上げる夕乃に愛おしさを感じる真九郎は、夕乃の耳元で囁く。
「夕乃さんのこと....夕乃って読んでもいいかな?」
「いいです...よぉ...だって私は...真九郎さんのお嫁さん、だからぁ...」
自分に全てを委ねて、幸せにとろけきった夕乃の豊満な胸を押すように
真九郎は更にグイグイと鍛え抜いた肉体を押し付け、その唇を味わう。
唇から歯の裏側までを真九郎と夕乃は嬲り抜いた。
十分にも渡ったディープキスの余韻に浸る夕乃は息も絶え絶えだったが、
真九郎の方は意外なことにまだ余力を残していた。 「ぷはぁ...真九郎、さん...激しくて、素敵」
「はぁ...はぁ。もうダメだ...理性が保たない」
暴発寸前の逸物を手でしごきながら、真九郎は夕乃の口元にそれを突き出した。
「夕乃...我慢できないんだ...。気持ちよく、して欲しい」
生唾を飲み込む夕乃は、普段の数倍大きくなった真九郎の逸物に驚いていた。
今まで真九郎と体を重ねたことはあれど、世間で言うところのフェラチオという
陰茎への重点的な愛撫は、生理的な抵抗感もありしてこなかった。
しかし...今の夕乃にとって真九郎の逸物へフェラチオするのは抵抗感が
在るどころか、全く逆の感情...即ち、真九郎が望むだけしてあげようという
奉仕の感情だった。
「いいですよ...///真九郎さん。私の口で気持ちよく、なってください」
興奮のあまり乳首とクリトリスを勃起させた夕乃は、真九郎の足下に傅き
意を決して、その陰茎の先端を口に含んだ。
「んっんっんっ...ちゅる...はむっ...」
先程の散鶴との籠絡作戦で真九郎に施した技術が子供だましに思えるような
堂に入ったエロスを見せる夕乃のフェラは、今まで大和撫子と呼ばれてきた
夕乃の貞淑なイメージをぶち壊すようなドスケベぶりだった。
ひょっとこのように口をすぼませ、亀頭からしみ出た真九郎のカウパー液を
精液の代わりに啜っては嚥下し、口から陰茎を吐き出したかと思えば、
手持ち無沙汰にブラブラと揺れる睾丸を口の中に含んでは飴を転がすように
丸ごと二つ頬張る。 「夕乃、もうイク...っから、胸で、はさん...で」
「ふぁい」
真九郎の腰の動きがガクガクとしたものに変わるやいなや、夕乃は
今まで自分がしていた事を一旦やめて、真九郎のペニスを自分の大きな胸で
挟み込んで上下にしごき始めた。
「ふふふ...真九郎さぁん..私のおっぱい、どうですか?」
「ニュルニュル...っしてて、すごい締め付けと弾力、ぁぅ...」
声を出すのも辛そうな真九郎は、勃起したペニスをビクビクさせながらも
未だに射精するのを拒んでいた。
真九郎の性格からして、もっと気持ちよくなりたいから我慢するというのは
一番あり得ない選択肢だった。
だとすれば、夕乃に思いつくのは...
「まけちゃ...う。ゆうの...さんを、まもらないと、いけないのに...」
「ゆうのさんに...まけた、ら...いらない...いらなく、なる」
我を忘れ、軽い狂乱に陥った真九郎の哀切な叫びが耳に入る。
(真九郎さん...まさか、自分が要らない子だって思ってる?)
(だとしたら、崩月の家を出て一人で暮らしている理由は...それなの?) 数ヶ月前、自分に対して真九郎が放った言葉の真意がようやく分かった。
家族を失った真九郎は、自分の本質や本性が弱虫で臆病だということに
ある日唐突に気が付いてしまったのだろう。
このまま行けば、きっと必要とされなくなる日が来る。
だったら、いっそ家族をまた失うくらいなら...
(ごめんね...いままで私、真九郎さんのこと...なにもわかってなかった)
ようやく真九郎の心の闇の正体を理解した夕乃は、何をすべきなのかを
はっきりと理解した。
「ぅううううっ!!気持ち良いのがっ止まらないっ!!」
一層激しく腰を振る真九郎のペニスから白いマグマが吹き出しそうになる。
すかさず夕乃はそれを阻止する為、睾丸とペニスの根元を片手で握りしめ、
その熱い奔流を瞬時にせき止め、もう片方の手は、更に真九郎の快感を引き上げる為
重点的に亀頭をしごく。
「なんで!イっ、うぁあああああ!」
「イキたいんだ、早く出したいんだ!意地悪しないでよぉ...」
尻穴は緩み、口元はだらしなく弛緩し、目には涙を浮かべる真九郎。
女の子のようにアンアンと喘いで体をくねらせるその姿は、夕乃の
心の中にある加虐心のスイッチを入れるのに充分だった。
五月蠅く喚く真九郎を黙らせるべく、夕乃はデコピンを遠慮することなく
真九郎の睾丸二つに合計十発を見舞った。
「ひっ!いいぃいいぃいいいっっ!?」
「もうやらぁああああああああ!夕乃さんっ、助けて、助けてぇええ!」
死にものぐるいで夕乃を撥ねのけようとする真九郎は暴れ馬のように暴れ、
夕乃はその身に宿る怪力で真九郎を半回転させ、屈辱的な体位、真九郎を
ちんぐり返しにしたのだった。
「真九郎さん。もう少し我慢してくださいね。あと少しですから」 頭を床につけられ、両足を夕乃に捕まれた真九郎は絶体絶命のピンチに
陥っていた。
更に間の悪いことに、いつの間にか風呂場に戻ってきた散鶴が興味深げな
視線を真九郎のヒクヒクと動く肛門に向けている。
「さぁ、ちーちゃん...おにーちゃんのおしりを可愛がってあげなきゃね」
「うん...///ばっちいけど、頑張る」
散鶴は少し躊躇った後、遠慮無く真九郎の緩みきった尻穴の処女を奪った。
抜き手の形に固められた幼稚園児の四本指が、ぬぶぬぶと真九郎のアナルへと
どんどん沈んでゆく。
「ああああああああ!!!!!やーっ!うぁああーっ!」
手首まで沈んだ幼稚園児のフィストファックと夕乃によるだめ押しの喉奥
フェラに真九郎は遂に屈服した。
ラストスパートにじゅこじゅこと夕乃の手コキにしごかれた真九郎のペニスは
ようやく射精できる喜びに打ち震えながら、自分を解き放った。
「ダメダメダメ!あああああ!!バカになるぅうううう!」
「もう気持ちいいことしか考えられないよおおおおおお!!」
「いくぅううぅうううううううううううううっ!!!」
真九郎のチンポから解き放たれたザーメンは夕乃の喉奥を素通りしながら
あっという間に食道を通過し、直接胃の中へとドボドボとなだれ込んだ。
「???!!!!〜〜〜〜〜〜〜」 胃の中の内容物と真九郎のザーメンがカクテル状態になるまでミックスされる。
胃に収まらない分のザーメンは食道を逆流して、外に出ようと夕乃の穴という
穴に殺到しはじめた。
両方の鼻の穴から白い液体が吹き出し、逆流した内容物が器官と食道に詰まり
命の危険に陥りながらも、夕乃は一歩も引くことなく真九郎のザーメンを
味わい続けた。
「はぁっ、はぁっ...ゆう、のさん...もう、いいです」
尊厳に関わる程の痴態を曝してしまった真九郎は、ようやく収まりかけた
それでもまだしごかれれば射精してしまうほどに、精液の詰まったチンポを
夕乃の口から引き抜いた。
「あああ....真九郎さんの...ざー、めん」
精液の鼻提灯を膨らませ、夕乃は全身をビクビクと震わせ床に倒れこんだ。
「ちーちゃん...ちょっとこっちにきなさい...」
幽鬼の如くゆらりと立ち上がった真九郎は、あまりの光景に腰が抜けて
アワアワと慌てている散鶴の元へと歩み寄る。
散鶴は体を震わせながら、知らず目を閉じて唇を真九郎に突き出す。
「なんのつもりなのかな?ちーちゃん」
「おにーちゃん...ちゅーして?」
「どうしてちーちゃんにちゅーしないといけないのさ?」
「...から。だもん」
「聞こえないな〜」
「ちづるもおにーちゃんのおよめさんになりたいんだもん!」
「えっ?」
「そうすれば、おにーちゃんはまた帰ってきてくれるんでしょ?」 信じられない言葉が散鶴の口から飛び出した。
まだ、散鶴は幼稚園生で小学生でもない。
今、この子は一体俺に何を言ったんだ?非現実的な散鶴の告白に面食らった
真九郎はおしおきの手を止め、黙って散鶴の告白に耳を傾ける事にした。
「おねーちゃんが、おにーちゃんは紫ちゃんと結婚するって言ってた」
「えぐっ...分かるもん。おにーちゃんは紫ちゃんが大好きなんでしょ?」
「そ、それは...」
「知ってるよ。おにーちゃんが家を出た理由」
「紫ちゃんが好きになったから出て行ったんでしょ?」
否定できないことを遠慮無くズバズバと言う散鶴に真九郎はまたしても
逃げ道を潰されてしまった。
夕乃といい、散鶴といい、崩月の女とはここまで情が深すぎるのかと
改めて自分の考えを改めた真九郎は、寂しくて泣き出しはじめた散鶴の体を
抱きしめ、自分の今の気持ちを、夕乃に伝えた自分の気持ちを散鶴に向かって
語りはじめた。
「ちーちゃん。俺はね、臆病で弱虫なんだ」
「確かに紫が好きなのは事実だけど、家を出た理由はまた別なんだ」
「怖かったんだ。師匠や冥理さん、夕乃さんとちーちゃんに見捨てられるのが...」
「そんなことしないもん!だっておにーちゃんは家族だもん」
「...ありがとう。ちーちゃん。俺のことそう思ってくれてたんだ」
「でも、俺はそうやって信じることが出来なかった」
「だから、傷つかないように一人でいることを選んだんだ」
散鶴の言葉を聞いた真九郎は深い安堵に包まれた。
やっぱり自分が帰るべき家は崩月なんだ。
そう確信できた真九郎は、妹の不安を取り除くことにした。
「でも、夕乃さんのおかげでようやく目が覚めた」
「やっぱり、俺はここにいたいんだ。皆と一緒に家族になりたい」
「おにーちゃん...じゃあ、ちづると結婚してくれるの?」
「いいよ。ちーちゃんとは夕乃さんと結婚した後に結婚してあげる」
「やったぁ!」
「でも、まだ俺にもやらなきゃいけないことが沢山あるんだ」
「だから、また昔みたいに一緒に暮らすのには時間が掛かる」
「それでもいいかな?我慢できる?」
「うん。おにーちゃんとまた一緒に暮らせるなら我慢する!」
しかし、散鶴は一つ失念していた。
自分が真九郎に一体何をしてしまったのかということをだ...
「さてと...ちーちゃん。今度は悪い話があるよ...」
「お、おにーちゃん?や、やだよ...なんか、こわいよぉ...」
「ふ、ふふふふ...そうだよ、ちーちゃんは今からお仕置きされるんだ」
未だにがちがちに勃起しているペニスを見せつける真九郎。
いつも助けてくれるのに、今はフェラチオでアクメを決め恍惚の表情を浮かべ
床に倒れ込んでいる姉。、
そして自分は真九郎のお仕置きを受けなければならないという絶望的な状況に
崩月散鶴は胸を高鳴らせていた。
「きゃっ?!」
これからどんな風にいじめられて姉のように気持ちよくされてしまうのだろう?
これが世に言う、幼女が性に目覚める五秒前という現象である。 「ちーちゃん...まず、ちーちゃんは何をしなきゃいけないのかな?」
「ご、ごめんなさい...おにーちゃん...」
「そう、おにーちゃんにごめんなさいだよね。ちなみにその理由は?」
散鶴を自分の膝に乗せた真九郎は、説教を続けながら散鶴の恥丘に手を這わせ
まだ皮もむけていない未発達なクリトリスの近辺をくまなく愛撫している。
「おにーちゃんのおしりの穴に、お手々を入れて遊んだからです」
「自分の身体の真ん中からメリメリってお尻が裂けるんだよ?」
「痛かったなぁ...ちーちゃんはそんなことされたいと思う?」
「や、です...」
至極当然なことを言いながら、良心のリミッターを夕乃によって粉々に
粉砕された真九郎は、良識も同時に捨てさせられてしまった。
真九郎は散鶴にされたことと同様に、自分の人差し指を今度は散鶴の尻穴に
いれて、散鶴の小さな身体を弄びはじめた。
「ほら、ちーちゃん。鏡見てご覧よ」
「見える?ちーちゃんは今夕乃さんの前でおまたくちゅくちゅにされて」
「おしりにも指が刺さってる、インランな女の子になっちゃったんだよ?」
「いんらん?」
「ちーちゃんは夕乃さんが嫌ってるふしだらな悪い女になっちゃったんだ」
「あっ、あっ、あっ...やぁぁぁ...///」
体の芯から熱くなった散鶴は真九郎の指の動きに物足りなさを感じた。
確かに真九郎の愛撫は気持ちよかったが、羽根で軽く触れるようなタッチよりも
姉が真九郎にされていた激しい愛撫をされたいと散鶴は思い始めた。、 「ちーちゃん。ちゅーしよっか?」
「うん...///」
そんな不満を見抜いたのか、真九郎は小さな身体を軽々と抱き上げ、
自分が一番キスしやすい高さに散鶴の唇をもってきた。
「苦しくなったら、軽く俺のこと叩くんだよ?いいね」
「はい...///」
目を閉じた散鶴は真九郎に全てを委ねた。
「じゅるるるるるっ〜ちゅううう!ちゅぱっ!はむっ、じゅろろろっ!」
「ん〜〜〜!!んむぅ〜〜〜むーっ!むーっ!」
夕乃にしたディープキス以上の激しいキスを散鶴に施す真九郎。
幼稚園児ならば五秒と保たないそのキスに、しかし散鶴はなんとか
必死になって食いついていた。それどころか貪欲に快感を貪ろうと、真九郎の
右手を自分の股間に持ってきてクリトリスを擦り出す始末だ。
「ぷはぁ...そんなに気持ちよくなりたいなら...」
再び床に寝転がった真九郎は、そのペニスをこれ見よがしに散鶴に見せつける。 「さ、ちーちゃんの好きなように使って良いよ?」
「ごくり...」
食い入るように真九郎のペニスを見つめる散鶴は意を決して、そのペニスの
上に自分の股間をあてがい、またがった。
俗に言う素股の体位をとった散鶴は夕乃がまだダウンしていることを
確かめた後、ゆっくりと動き始めた。
「とんだエロビッチ幼稚園児だな...ちーちゃんは」
「おにーちゃん?気持ちいい?」
「ああ。すっごく気持ちいいよ。さすがちーちゃんだね」
「えへへ」
ズリズリと前に後ろになれた感じで真九郎のペニスをしごく散鶴。
その腰使いはともかく、真九郎の目を引いたのはそのお腹だった。
イカの腹のようにぷっくりと膨れた白雪のようなすべすべのぷにぷにの
もち肌にほおずりしたい衝動に真九郎は駆られた。
「ちーちゃん。ちょっといいかな」
丁寧に断りをいれた真九郎は、散鶴のお腹に自分の頬を当てた。
そして、そのままその肌触りと弾力を堪能しはじめた。
「やぁん...///おにーちゃんのエッチ...」
「あああ...ちーちゃん...ちーちゃん。なんて可愛い妹なんだ...」
「おにーちゃんはおねーちゃんとちーちゃんの旦那様になってくれる?」
「勿論だよ!」
「不倫や浮気なんかしない?」
「勿論しないよ!」
まさにロリコンここに極まれり、世も末である。 ただ、真九郎の名誉の為に補足を加えておくと、彼の今の状態は某財閥の
真性のロリコン御曹司のような、男の風上にも置けないクズ野郎とは異なり、
夕乃の過激な攻めによって、一時的に理性が吹き飛んでしまった事による
暴走状態である。
「じゃあそんなおにーちゃんにごほーびをあげます」
「えいっ!」
頭を小さな胸に押しつけられた真九郎は躊躇うことなく、目の前にある
小さなサクランボを口に含み、子供がそうするようにちゅうちゅうと音を立てて
吸い込みはじめる。
「ふあぁああ...///」
真九郎は左胸の乳首にむしゃぶりつきながら、残る右乳首を右手の三本指で
強くつまみ、残りの左腕を用い、指の先端を大陰唇の内側へと押し込む。
三カ所の愛撫を同時にされたことにより散鶴は体を震わせるほどの快感に
襲われることになった。
ごつい指がクリトリスを擦り、タコの吸盤の如く吸い付く真九郎の口と舌の愛撫。
そして、散鶴の一番の性感帯である右乳首への集中した攻め。
それらが全て散鶴がイク一歩手前の絶妙な手加減で行われているのだから、
その快感に曝される当の本人にとっては溜まったものではない。
「ちーちゃんはまだ子供だから、「せっくす」はできないんだ」
「だから、今はこれで我慢してね」
そういうなり真九郎は散鶴の体を四つん這いにし、その尻穴をほぐす。
ニチニチという音をあげながら、散鶴の括約筋は真九郎の人差し指に敗北した。 「おにーちゃん...ひりひりするよぉ...///」
ぷちゅっ、くちゅんっ!つぷぷ...くちゅくちゅ、ぐちゅうっ!
「あっ、ひぃん!はうう...///あっあっあっ...はううううう?」
真九郎の人差し指と中指による散鶴のアナルへの肛淫。
その効果はまさに抜群。
ズボズボと尻穴をほじくられる巧みな緩急の快感に目の焦点はずれ、
その小さな尻穴は中々くわえ込んだ真九郎の指を離そうとせず、むしろ
もっと奥まで指をくわえ込もうと、きゅっきゅっと締りを強くし続ける。
「ひああっ...やあぁあ...っくぅぅ...んっ」
息も絶え絶えになりながらも一生懸命に腰をふりふりする散鶴のあまりの
可愛さに真九郎はノックアウト寸前に陥っていた。
メスイキまで秒読みという段階で真九郎は散鶴に指の挿出を繰り返しながら、
その桃のような尻にスパンキングという名の往復ビンタを加えはじめた。
ぱんぱんぱぱぱん!ずちゅっずちゅずちゅんずっちゅん!!!
「ひっぎっ、うぐっ!ひぃいっはひぃいっひあぁあああああっ」
「おにーちゃん...なんか来るよぉ...なんか来ちゃううう!!!」
「ちーちゃんっ!ちーちゃん!」 そして、遂にその時がやってきた
「イくイくイくイくイくイくイくイ...いぃいぃいい!!!」
嬌声とも宣言ともつかぬ声をあげた散鶴は全身を震わせる。
「み、見ないで...やぁあ...おもらししちゃってるぅ...」
しょわああああ、と立ちこめるアンモニアの臭いとグスグスとベソをかく
散鶴の泣き顔。
見開いた瞳が快楽一色に染まり、半開きになったままの口から舌が飛び出す。
指を引き抜いた真九郎は、メスアクメを決めた小さな妹を優しく抱きしめ、
その唇に優しいキスをする。
飛び出した舌を吸い取り、慌てて戻そうとする散鶴の動揺を感じ取り、
更に強く口内を蹂躙しはじめる。
「あぁぁっふあぁ...あぁああああ...っ。おにーちゃ...ん」
薄れゆく意識の中、散鶴は真九郎に抱きしめられていた。
「ちーちゃん。よく頑張ったね。偉い偉い」
「うん...」
「気持ちいいことは暫くお預け」
「ちーちゃんが大人になったらまたしてあげる」
「約束だよ?」
「約束する」
大好きな兄と姉とまた一緒にいられる嬉しさをかみしめながら、
小さな少女は夢の中へと堕ちていった。 次は夕乃さんで、その次は紫と夕乃の後日談になります。お楽しみに 真九郎 羨ましい( ^ω^)・・・
俺もちーちゃんみたいな妹欲しいんだけど、どうすればいいかな この調子でこのスレに人が戻ってくればいいのにな...。
やっぱりあれなのかな?みんな紅に飽きちゃったのかな? 伊南屋さんがいた頃が懐かしいと思うこの頃なんだけどさ、夕乃さんのssを
書いている人に作って欲しい作品があるんだ。カップリングは九鳳院竜士と
鉄腕+ゲオルギフでそれはもうクッソ濃厚なハードゲイ路線の奴を書いて欲しい。
幼稚園児を性の対象として見做すアンタなら書けるはずだ。やってくれ まぁ、結構時間が経ってるから人が少ないのはしょうがないんじゃないかな。
でも他の作品とのクロスオーバー物とかは、いまでも更新している人がいて、
結構見ている人も多いみたい。
ロム専が多いのかもしれんね 〜夕乃の嫁入り 後編〜
午後十時 崩月邸 夕乃の部屋
「ん...」
真九郎が目を覚ますと、そこは崩月邸の来客用の寝室だった。
どうやら、風呂場での乱痴気騒ぎのあと散鶴共々のぼせてしまったらしい。
「あ、真九郎さん。気が付かれたんですね」
「ええ。まだ頭がフラフラするんですけど...意識ははっきりしてます」
時計に目をやると午後十時を五分ばかり過ぎていた。
十月とは言え夕乃はそのメリハリのついた肢体を強調するような服装、
薄手の長襦袢しか着ていなかった。
真九郎はここでようやく、風呂場で起きた出来事が夢ではなく現実であると
はっきりと理解した。
「真九郎さん...///」
「夕乃さんは甘えん坊さんだね。ほら、もっと体寄せて?」
「はふぅ...///真九郎さぁん...大好き。愛してる」
甘い声に幸せな笑顔を浮かべた夕乃が真九郎の胸に飛び込んできた。
心の底から安らいだ夕乃は夢中になり、恋人の胸板に耳を押しつけ、
その鼓動に酔いしれていた。
真九郎も、ことここに至っては夕乃の好意から最早逃げようなどとは
考えもせず、ひたすらに自分に世界で一番嬉しい愛情をもたらしてくれる
最愛の女の想いの全てを受け入れようと懸命になった。
「夕乃さん...俺のこともっとぎゅっと抱きしめてよ」
「だぁめ...夕乃って呼んでくれなきゃ...してあげないもん」
「じゃあ、夕乃..。頭を撫でながら俺のこと抱きしめて?」
「嗚呼...いいですよ。いくらでも愛してあげますからぁ...」 柔らかく、まるで母の温もりを思い出させるようなその豊かな胸に
顔を埋めた真九郎は夕乃の愛撫に身を委ねながら、ゆっくりと自分の腕を
夕乃の体に巻き付ける。
一方の夕乃も母が子を慈しむように真九郎の全身をなで続ける。
布団の上に座りながら、二人は体を揺らしながらこの至福の一時を
いつまでも味わい続ける。
「どうして俺は、夕乃さんのことを避け続けてたんだろ...?」
「こんなにも暖かくて幸せな気持ちにしてくれるのに....」
「それは真九郎さんは恥ずかしがり屋で弱虫さんだったからですよ」
「自分の気持ちに蓋をして見栄や嘘を優先するから私を避けたんです...」
「それは...」
その一言は、真九郎の心の中にある闇だった。
大切な家族に最も見せてはいけない自分の恥部。
強さを求め、力を手に入れたはずの人間がその力を恐れるというジレンマに
陥りながらも、分不相応なまでの『揉め事』を完璧に処理し、多くの人を
救ってきたにも関わらず、真九郎自身の心は未だ脆弱だった。
紫という理解者を得た後も、真九郎はその弱さを受け入れられていなかった。
「夕乃、さん。俺は弱虫なんだ...」
「本当は戦いたくなんかないんだ。戦うとなると足が震えるんだ...」
「でも戦わなければ、俺は...俺は、なにもなくなっちゃうんだ」
「崩月の皆に失望されたくなくて...」
「まだ俺が皆の家族でいられるうちに...崩月の家を飛び出したんだ...」
「ようやく...打ち明けてくれましたね..ありがとう、真九郎さん」
「うん...」 真九郎の自分を抱きしめる力が強まったことを夕乃は感じ取った。
ここが崩月夕乃にとっての一世一代の大一番。
真九郎の心の闇を理解せずして、何が真九郎にとっての一番の女か?
(私には、真九郎さんの闇を晴らすことは出来ないかも知れない)
(けど、隣に並び立って貴方の手を引いて一緒に歩いて生きたい)
上手く全てを伝えられるかどうか分からない。失敗するリスクもある。
しかし、それでも夕乃は真九郎が自分を都合の良い逃げ道にするのには
耐えられなかった。
何故なら、真九郎の持つ心の弱さに立ち向かう強さこそが、夕乃を
初めとする彼に惹かれた人間達にとって、無視できない程の眩しい
光なのだから。
だからこそ夕乃は真九郎が自分の弱さを言い訳にするのを許さなかった。
「真九郎さん...私はうじうじ悩む真九郎さんが嫌いです」
「えっ...な、んで...?そんな、こと言うの?」
夕乃の放ったその一言で、歪ながらも己が傷つかないように武装してきた
真九郎の心が遂にひび割れを起こした。
自分のことを大好きって言ってくれたから...そんな人だから恥を忍んで
自分の弱さを打ち明けたのに...
やっぱり夕乃も、強くない自分が嫌いなのか...
真九郎の瞳が絶望に黒く濁る。 「嘘つき。やっぱり...俺なんかいなくても良かったんじゃないか...」
抱きしめた真九郎が戦慄きながら体をガタガタと震わせるその変化にも
夕乃は平然と自分を崩すこと無く向き合っていた。
「真九郎さん。血のつながりがなくても私達は家族です」
「たとえ真九郎さんが逃げ出したとしても、何度でも見つけ出します」
「口だけならなんとでも言えるよ...」
「そうかもしれませんね。でも、真九郎さんは必ず戻ってきます」
「どうやってそれを証明するのさ...」
夕乃に見捨てられる恐怖に怯えながらも、それでも気丈に振る舞う真九郎。
どうせ、夕乃も都合良く自分を利用しようとする腹つもりなんだろう。
そう高を括った真九郎の想像は、次の夕乃の一言で脆くも崩れ去った。
「だって、真九郎さんの隣には...いつも私が側にいるんですから」
「は?いや...それは、答えになって...」
「これが私の答えです。自分の弟の手を離す姉がどこにいるんですか!」
その一言に、真九郎は救われた。
「いい年してベソかいている弟の手を引いて一緒に家に帰るんです」
答えになっていない、ただの夕乃の意地が真九郎の心の闇を晴らした。
「私が好きになったのは、崩月の角をぶん回すあなたじゃありません!」
「強がっている癖に本当は誰よりも寂しがり屋の甘えん坊な真九郎さんです」
「さぁ、正直に答えなさい!崩月真九郎!」
それは、とても強い微笑みだった。 「うっ....ううううううっ....」
ダメだ。
もう...この温もりを知ってしまえば、揉め事処理屋なんて到底出来ない。
毎日命懸けで雀の涙の金を稼ぐような仕事が本気で馬鹿らしく思える。
離れたくない。夕乃と一緒になりたい。
かつて抱いた強さへの憧れが、愛する夕乃への想いに塗り潰されていく。
「お、姉ちゃん...」
「はい。夕乃は、真九郎さんのお姉さんで、将来のお嫁さんですよ?」
「本当に、もう...一人にしない?」
「大丈夫ですよ。真九郎さんはもうとっくに崩月家の一員ですから」
真九郎が吐き出した最後の闇を夕乃は打ち消した。
一度開け放たれた心の扉はもう二度と閉まることはない。
この瞬間、紅真九郎は本当の意味で崩月家の一員となった。
「おかえりなさい。真九郎さん」
「ただいま」
愛する人の胸に、ようやく真九郎は飛び込むことが出来た。
最愛の人の帰宅に、夕乃は涙ぐみながらも今まで自分に寂しい思いを
させた真九郎に対して説教をはじめた。
それは今までの修羅場に比べれば、取るに足りない小言ではあるものの、
真九郎を萎縮させるには十分な説得力があった。 「もうっ!一年もの間、弟の癖に生意気にもプチ家出なんかして!!」
「大体おじいちゃんは散鶴と真九郎を甘やかしすぎなの!」
「一人でなんでも出来ると思ったら大間違いなのよ?真九郎」
「ごめんなさい。本当は背伸びしたかっただけなんだ」
今日まで誰かに心を曝け出して甘えることなく過ごしてきた真九郎にとって
今の夕乃はまさにその辛さを全て忘れて受け入れてくれる存在だった。
夕乃や崩月の家を守る為なら、例え自分の五体が砕け散っても今まで
忌避し続けてきた戦いに意味を見いだすことが出来る。
「いい?真九郎。貴方は私と一緒に崩月を継ぐ身なのよ?」
「内弟子程度の実力でいい気になるんじゃありません!」
そう、今の真九郎にとっての最優先事項は夕乃を守ることだった。
強くて格好良い自分を夕乃に好きになって貰って、ゆくゆくは一人前の
崩月の戦鬼となって、誰にも壊せない幸せな家庭を築き上げるのだ。
「夕乃さん...俺を受け入れてくれて、ありがとう」
「我が儘ばっかりして、迷惑かけ続けてたのに...」
「ううん。そんなことはもういいのよ」
「でも、真九郎さん。崩月に戻る前にやるべき事があるでしょう?」
夕乃の笑顔に真九郎は遂にこれからのことを考えることを放棄した。
「まず手始めに揉め事処理屋の仕事はもうやめなさい」
「うん」
「揉め事処理なんてしなくても私とおじいちゃんで貴方を強くします」
「本当に?」
「ええ。だから真九郎さんは無理しなくて良いんです」
「また全身の骨が砕けるけど、その分強くなりますから...」
「夕乃さんよりも強くなれるかな?」
「真九郎さんならきっとなれますよ。だから一緒に頑張りましょう?」
「それなら、うん。なんとか辞められるよう努力する」
「よしよし。いいこいいこ」
自分が救い出した紫に対して負うべき責任や、いつまでも変わることのない
幼なじみとの関係、そして師匠格の紅香への義理。
今まで自分が命懸けで作り上げてきたものが無価値であるといわんばかりに、
まるでそんなものはどうでも良いと言わんばかりに、真九郎は夕乃の言葉に
夢中になって耳を傾けていた。 「次に、悪宇商会の人達と村上さんとは縁を切りなさい」
「あんな関われば害しか無い人でなしと関わる必要はありません」
「確かにそうだけど...」
「斬島さんや星嚙さんのことを真九郎さんは誤解しています」
「忘れたんですか?」
「貴方が彼女達や悪宇商会に関わってどんな目に遭ったのか?」
夕乃の懸命な説得に真九郎は頭を悩ませていた。
確かに星嚙絶奈は正真正銘の悪党だが、切彦は..いやいや、初めて会った時
自分は彼女に腹を切り裂かれ、活け作り一歩手前の状態まで追い込まれた
じゃないか...。
そういうことを加味して中立的に彼女達と彼女達が働く場所のことを
改めて考えると、自分がいかに紙一重の状況で助かったのかを改めて
認識し直した。
Killing Floorでの一件もそう、理津の件もそう。
大体、悪宇商会のせいだということで全部片がつく。
だからこそ、夕乃の懸念を無視できない自分がいるのだ。
しかし、
「でも、銀子は悪者じゃ...」
夕乃の洗脳に、真九郎の理性が警鐘を鳴らす。
自分と真九郎の間に強固な絆を構築している最中の夕乃にとって紫以上に
村上銀子という部外者は殺したくなるくらいに目障りな存在でしかなかった。 「じゃあ真九郎さんは村上さんが攫われたら一々救いに行けるんですか?」
「それは...できる限り...」
「じゃあ紫ちゃんが同じ時に攫われたらどっちを優先するんですか?」
「そ、それは....」
「そんな状況になって、果たして真九郎さんは冷静でいられますか?」
「あ...ああ...」
自分の放った一言に、真九郎が頭を抱えて蹲る。
きっと頭の中では苦渋の決断の末、紫を救いに行く為に銀子を見捨てた
自分の浅ましさを恥じているのだろう。
「ね?だから今のうちに、村上さんとは距離を置くべきなんですよ?」
真九郎がこの説得を聞き入れなくても別にいいと夕乃は思った。
壊すのに手間取る星嚙や斬島ならともかく、なんの力も無いただの一般人、
それも非力な女に恐怖という名の釘を打ち付けるのはいつでも出来る。
「銀子さんならいい人を見つけて、幸せな家庭を築けます」
「あの人には真九郎さんより上手にラーメンを作れる人がお似合いです」
「そっか...その方が銀子にとって幸せだよな...」
「はい。悪宇商会の人達と縁を切るよりも遙かに簡単な事ですよ?」
いやしくも自分と張り合って真九郎を横取りしようとした泥棒猫の
息の根を止めることが出来る。そう思うと心が躍った。
夕乃の愛の本質は、ただ一人の人間を狂おしく愛する独占欲。
その為に夕乃は自分の気持ちを押し殺し、愛する人の為に尽くしてきた。
そして、その努力が実って真九郎は自分に己の全てを打ち明け、身も心も
委ねてくれたのだ。
もう絶対に自分と真九郎の間にある運命の赤い糸は断ち切らせはしない。
もし、そんなことをする輩がいれば崩月の力を用いて相手を殺してやる。
夕乃の腹はもうそこまでくくられていた。
自分以外の他の女、一部の例外は除くとして...数年程度仲良くしただけで
おこがましくも恋人気取りをする幼なじみや、容姿を餌にして真九郎を
悪の道に引きずり込もうとする悪漢悪女などもってのほか、論外である。
「でも、夕乃さん。俺には、俺には紫の未来について責任があるんだ」
そして、夕乃にとって最後の難関が遂に訪れた。
自分よりも先に孤独だった真九郎の心を癒やし、その心を射止めた
手強い恋敵、九鳳院紫の存在だ。
おそらく真九郎は今自分が言ったことをそのうち必ず実行するだろう。
だが、今まで自分に流されるだけだった真九郎があの少女のこととなると
目の色を変えて必死になって自分に刃向かっている。
自分よりも先に紫が、真九郎を「強い男」に変えたという事実。
それが夕乃にとってはこの上なく不愉快だった。
真九郎を導いたのが紫という事実のあまりの悔しさに夕乃は涙を流す。
「真九郎さんの、大馬鹿...なによ、私のことを夢中にさせといて...」
「それで最後には紫ちゃんを選んで、私を端に追いやるのね...」
「弱い癖に毎日危ない橋を渡って...どb黷セけ私を心配bウせれば...」
真九郎はボロボロと大粒の涙を流す夕乃の肩を優しく抱きしめる。
「夕乃さん、紫の未来に対して俺には責任があるんだ」
「何も知らない顔して紫を捨てられる段階はもうとっくに過ぎ去った」
「だから、言ったのにぃ...」
「崩月の力を使って私から離れる真九郎さんなんかよりも」
「寂しがり屋の甘えん坊で私だけを...」
「私だけを見てくれる真九郎さんが好きなんですって...」
「うううっ....うあああああーっ!うあああああああ!!!」
言われることを覚悟して、その上で尚真九郎の口から直接言われた
その言葉の残酷さに、夕乃の自尊心は大きく傷つけられた。
『俺の命に賭けても、紫を孤独になんか絶対させない』
結局真九郎にとっての一番は紫で、自分は二番でしかない。
もう真九郎の心の中での格付けは済んでいて、もし紫と自分の二人のうち
一人しか助けられないという状況に陥ったら、間違いなく真九郎は
紫を助けて自分を見捨てるんだろう。 (そう...ですよね)
(紫ちゃんは本音で、私は手練手管で...ふふふ、ふふふふ...)
(私は卑しい女、だから...だから真九郎さんは、私なんかよりも)
しかし、真九郎の出した答えは夕乃の想像の斜め上だった。
「ごめんね、夕乃さん。俺の為にいっつも苦しんで...」
優柔不断で自分の気持ちを偽った笑みを浮かべる真九郎はもういない。
そこには夕乃と同じように腹を括った真九郎がいた。
「俺は、俺の守りたい人の為にしか戦わないことにした」
夕乃が歪んだ形で真九郎を守ろうとしたように、真九郎も歪んだ形で、
それでも必死に自分を守ってくれる夕乃のその想いに応えようとする。
「そして、その守りたい人っていうのは...」
「夕乃さんと紫とちーちゃんの三人だけだ」
夕乃を真剣に見据えながら、真九郎は自分の本音を吐き出した。
「あとはもうどうでもいい。好きに生きて、好きに死ねば良い」
「これが、今まで戦ってきた中で俺が出した答えなんだ」
「これ以上は...もう背負えない」 大好きな人にお前だけを愛すると言われなかった無念と、ようやく
真九郎が自分のことを守るべき大切な存在として認めてくれた嬉しさの
板挟みになりながらも、夕乃はそれでも必死に真九郎の愛を自分だけの
ものにしようと最後の悪足掻きをした。
「イヤです!真九郎さん!お願いだから私だけを愛して下さい!!」
「紫ちゃんにも、ちーちゃんにも貴方を渡したくなんかないの!」
「真九郎さんのお嫁さんになるのが夢だったんですよ?!」
「貴方は人殺しの家系の末裔の穢れた私を初めて愛してくれた人..」
「卑しくて、独占欲が強くて...一人でいるのが寂しくて...」
「そのくせ上品ぶってお姉さん気取りのウザい女で...」
夕乃が自分を傷つける言葉を吐く度に、真九郎は夕乃を抱きしめる
腕の強さを少しずつ強めていった。
支離滅裂になりながらも、どうしようならない運命の中にいる
自分を呪って、傷つけ、それでもなお愛する男の前で醜い本心を
曝け出して愛を叫び続けた女を、真九郎はより一層幸せにしたいと
思うようになった。 「夕乃さん」
涙を浮かべ、唇を震わせる夕乃に覆い被さった真九郎はそのまま
自分の唇を夕乃に重ねた。
固く結んだ唇をこじ開け、緩んだ歯の間から様子を伺う夕乃の舌を
引っ張りだして、その上に自分の想いを乗せる。
「ああ...んっ、んふぅ...ふぁぁ...」
蕩けるような心地のあえぎ声が真九郎の耳をくすぐった。
弛緩する夕乃の体を抱きかかえた真九郎は、そのまま立ち上がる。
「や、いや...真九郎さん、わ、私の、私のこと...嫌いになんか」
「ならないよ。俺は夕乃さんになら何されても許しちゃうよ」
「流石に夕乃さんが他の男といちゃついてたら怒るけどね」
「だったら...」
「うん。でも、俺はお姉ちゃんの言うことを聞かない悪い子だから」
お姫様だっこをされた夕乃は先程までの包容力はどこへやら、本当に
お姫様のようにか弱く、好きな男に嫌われるのを恐れている普通の
女の子になっていた。 先程までとは立場が逆になったことに戸惑う夕乃の動揺を見抜いた
真九郎はそのまま夕乃をモノにすべく一気にたたみかける。
「ねぇ、夕乃さん?」
「夕乃さんは紅夕乃になってくれないの?」
「ぁぅ...///」
麻薬のように心に浸透する魔法の言葉。
仮に将来、真九郎と散鶴と紫の四人で一緒に住むことになったら、
きっと散鶴も紫も甘えたい盛りだから、一生懸命真九郎にアピールを
仕掛けてくるだろう。
ダメだ、しっかりしないと真九郎に良いように丸め込まれてしまう。
しかし、そう思えば思うほど余計に夕乃は真九郎の言葉を疑うことが
出来ず、どんどん真九郎の言葉を信じてしまう。
「もし、なってくれたら...」
必死になって自分を保とうとする夕乃だが、真九郎はその苦悩を
軽々と飛び越え、夕乃を陥落させるべく更に言葉を紡ぎはじめる。
「夕乃さんのこと、一番愛して可愛がってあげるのになぁ...」
「ううっ。ダメ...ダメです。そんなご都合主義、認めま...」
「して欲しいこととかなんでも聞くし、二人きりでデートだってするよ?」
「はうぅ...///」
「それに...」
「ちーちゃんや紫よりもいーっぱい俺の子供を産んで貰いたいなぁ...」
「そ、そんな...それじゃあまるで私が都合のいい女じゃありませんか...」
ブンブンと頭を振って一瞬だけ脳裏に浮かんだ、真九郎と紫と散鶴との
夢のハーレムライフで一番の寵愛を受ける自分とその腕に抱かれている
真九郎との間に出来た愛する我が子。
「だ、ダメですよ。ま、まだ真九郎さんも私も大人じゃないのに...」
「だ、大体、真九郎さんはどう責任を取るおつもりなんですか?」
夕乃の最後の抵抗に、真九郎は悩むことなく即答した。
「崩月夕乃さん。一度しかいいません」
「はい」
「一生に一度のお願いです。俺の子供を...産んで下さい」
「!!!」
「どんなことしても夕乃さんを幸せにします」
「ちーちゃんと紫以外の女の子には、もう手を出しません」
「だから俺の一生に一度のお願いを、聞き届けてくれないでしょうか?」
それは、まさに愛の告白だった。
恋人の階段をすっ飛ばして、恋敵の誰よりも早く結婚まで辿りついた
夕乃の心中はまさに天にも昇る心地だった。 「はい。こちらこそ末永くよろしくお願いします」
「うふふ...。今日はまるで夢みたいな事ばかり起きますね」
「本当に嘘じゃないかって、私疑ってるんですよ?」
申し訳なさそうに頭を掻く真九郎は抱きかかえた夕乃を降ろした。
布団の上に寝かされた夕乃は、嬉し涙を流し、真九郎の告白を快諾した。
「真九郎さん。もう一回確認しますよ?」
「はい」
「私が正妻で、ちーちゃんと紫ちゃんは側室さんなんですよね?」
「はい」
「ちーちゃんと紫ちゃん以外の女の子には手を出さないんですよね?」
「で、できる限り...そ、その善処します」
「出したら、その女を半殺しにしますからね?」
「浮気も不倫もしませんっ!」
「よろしい」
「え、えっと...」
「私が一番真九郎さんのちょ、寵愛を受けられるん...ですよね?」
「はい」
思っていたのとは違う展開になってしまったが、真九郎にとっての
一番が自分だということが明確になり、更には真九郎と両想いであることが
分かっただけでも夕乃にとっては大収穫だった。 「まだ、紫がどうなるか分からないですけど...」
「でも、俺頑張りますから」
「夕乃さんと紫とちーちゃんを護れる男になります!!」
「はい。その意気ですよ、真九郎さん」
「これからは一人で悩まずに私に相談して下さいね。旦那様?」
そうだ。もう誰にも遠慮することなく真九郎を独占できるのだ。
まずは明日の朝、法泉と冥理に事の次第を告げて真九郎が絶対に
崩月から今後逃げ出さないようにする必要がある。
その次は紫を説得し、最後に紅香に話をつける事になるはずだ。
(ふふっ...もう逃がしません。逃がしませんからね、真九郎さん)
心の中で黒い笑みを浮かべる夕乃と苦笑いを浮かべた真九郎。
そして...
「だめー!おにーちゃんの一番はわたしなのー!!」
ふすまを開けて真九郎の胸に飛び込んできたのは散鶴だった。 「ち、ちーちゃん?い、いつの間に?」
驚く姉に向き直り、弱気な瞳に強い嫉妬を滲ませた散鶴は夕乃に
対して宣戦布告をした。
「おねーちゃん!おにーちゃんはわたしのなの!」
そして夕乃が惚けている間に、散鶴は再び真九郎にキスをした。
「ち、ちーちゃん!?」
「あらあら、散鶴ってばまだ五歳だっていうのに...お盛んねぇ」
「おう真九郎!ようやく夕乃のこと受け入れる気になったか」
「し、師匠?!そ、それに冥理さんまで!!」
いつの間にか帰ってきた法泉と冥理がニヤニヤと笑いながら、しかし
心からの祝福を込めた笑みを浮かべ、夕乃と真九郎をそれぞれ抱きしめる。
「真九郎君。そそっかしい娘だけど幸せにしてあげてね」
「い、いつからお母さんとお爺ちゃんそこにいたの?」
「いつからってなぁ?そりゃあ勿論、最初からだな」
「そうねぇ。真九郎君が夕乃のことお姉ちゃんって言った辺りからよ?」
どうやらこの二人には何もかもお見通しだったようだ。
「あはは...参ったなぁ。バレちゃったよ」 上品に笑う冥理に抱きしめられた真九郎の隣では、夕乃と散鶴の仁義なき
姉妹喧嘩が勃発し、それを法泉が面白そうに見守っている。
「おねーちゃんのうそつき!さいしょからだましてたんでしょ!」
「う、嘘なんか言ってないわよ。結果的に目的は達成したじゃない」
「ううう...妹を出し抜いて一人だけ特別扱いなんてひきょうだよぉ...」
「ハハハハハ。散鶴、出遅れちまったなぁ」
「お爺ちゃんは黙って!ね、ねぇちーちゃん?泣かないで?」
「えぐっ、えぐっ。おねーちゃん...なんか、きらい...」
「紫ちゃんに言いつけてやる...っ!」
「ちーちゃん...」
「あっちいってよぉ!バカぁ!」
「し、真九郎さぁん...」
大事な妹からの拒絶に夕乃はおろおろするばかりでどうにもならない。
だったらここは自分の出番だな。と思った真九郎は夕乃の裏切りに
心傷つき、泣き出しそうになりながらも、必死に涙を堪える散鶴を抱き上げた。 「ちーちゃん、ちーちゃん。お話聞いてもらえるかな?」
「やだやだやだぁ!!おにーちゃんのお嫁さんにしてくれなきゃやだぁ!」
「そんな事言うと夕乃さんがちーちゃんのおしりぺんぺんしちゃうよ?」
「やだあああああああああああ!!!!」
「あーあ。今夕乃さんがすごーく怖い顔でちーちゃんの後ろに立ってるよ?」
「怖いだろうな〜、痛いだろうな〜夕乃さんのおしりぺんぺん」
「ふぇええええええ....」
すっかり怯えきった散鶴は泣くのも忘れて、自分を抱き上げている
真九郎の体に抱きついて自分の身を守ろうとした。
「ちーちゃん。お話聞いてくれるよね?」
「うん...あの、お尻...叩かない?」
「叩かないよ。夕乃さんも俺もそんなことしないよ」
その一言にようやく落ち着きを取り戻した散鶴はずっと気になっていた
自分に対する真九郎の本心を聞く覚悟を決めた。 「ぐすっ、おにーちゃんはわたしよりおねーちゃんがすきなの?」
「うん。でも、ちーちゃんも夕乃さんと同じ位大好きだよ?」
「でも、わたしは愛人で、おねーちゃんは正妻なんでしょ?」
「今のところはそうなるかな?でも、ちーちゃん」
「?」
「ちーちゃんはまだ小さいし、これから色んな人と出会う筈だよ」
「もしかしたら俺よりもいい人がちーちゃんを好きになるかも知れないし」
「ちーちゃんが他の誰かを好きになる事もあるかもしれない」
まだ散鶴の人生は始まったばっかりだ。
夕乃や自分はこれからの人生を大人として過ごす事になる時期にある。
社会に出、職を得て毎日働くことになるだろう。
でも、散鶴は小学校を卒業すらしていない。
今の散鶴にとっては、真九郎と仲良くすることよりももっと多くの人と
出会って触れあって、色々な形の関係を築くことが何よりも重要なのだと
真九郎はわかりやすく説明した。
それでも散鶴は納得がいっていない様子だったが... 「もしちーちゃんが高校生になっても俺の事を好きでいてくれたら」
「その時は、責任をとってちーちゃんをお嫁さんにするから」
「だから、その時までちーちゃんは友達を沢山つくること。いい?」
「約束だよ?おにーちゃん」
「うん。約束する」
心の底から安らいだ表情を浮かべた散鶴と指切りを交わした真九郎は
傍らに控える冥理に散鶴を預け、正面に立つ法泉に向き直った。
「師匠、冥理さん」
「崩月の家を飛び出した不祥の弟子ですが、ようやく覚悟が決まりました」
「夕乃さんを俺に下さい。俺は夕乃さんのことを愛してます」
今まで自分を育ててくれた二人の親に深く頭を下げた真九郎だが、
当の二人は表情を変える事なくその続きを無言で促す。
そして、真九郎の後に続くように夕乃もまた母と祖父に向かって
深々と頭を下げ、自分の本心を言葉にして二人に伝える。 「おじいちゃん、お母さん。私は真九郎さんと結婚したいんです」
「崩月の家の宿命とか、裏十三家の血筋とかそういうのじゃなくて」
「私は真九郎さんを幸せにしてあげたい。この人と一緒になりたいんです」
「真九郎さんとの仲を認めて下さい。お願いします」
将来の義理の息子とその傍らに立って歩いて生きたいと望む自分の娘。
本人達が好き合って結ばれたいというのなら、母親としてそれを祝福しない
訳にはいかない。
しかし、『崩月』としての答えはまた別である。
「真九郎、崩月の一人娘と添い遂げる上でだ」
「崩月を継ぐという事の意味をはき違えちゃいねぇよな?」
「人殺しの業を後世まで伝える義務もある」
「いざとなれば家族を守る為、多くの人間を殺す必要も出てくる」
「真九郎、お前に...その覚悟はあるのか?」
崩月の一員となる以上、許されざる業の継承者としてこれからの人生を
真九郎は生きていかなければならなくなる。
人殺しを生業とする家業で多くの人達を殺めてきた崩月家が買った
怨みの総数は数え切れないほどある。
その技術を継承するということは、かつて自分の家族と多くの罪無き
人達の命を奪ったテロリストと同じ存在にまで成り下がる事に他ならない。
おそらく、ここが真九郎にとっての最後の分水嶺。
引き返すも引き返さないのも自由に決断できる最後の瞬間だ。
「俺は...」
一瞬だけ脳裏に浮かんだ幼なじみの笑顔に詫びて、真九郎は改めて
法泉に向き直る。 「俺は引き返しません。どんなことがあっても夕乃さんを守ります」
「ちーちゃんも、冥理さんも、師匠も。俺が絶対に守ります」
手放したモノの価値を悼みながら、それでも真九郎は止まる事無く
前に進む事を決意した。
人でなしに墜ちながらも、それでも真九郎は自分が出来る事を選びとる。
「夕乃さんやちーちゃんに人殺しなんか絶対させない」
「だから、師匠。俺に崩月の業を教えて下さい」
「俺が、俺の護りたい人達を護る為の技を教えて下さい!」
「その言葉に、嘘はないな?」
「ありません」
「...わかった」
「そこまで覚悟を決めてんなら徹底的にお前を鍛える」
「もう一本お前に角を移植してから、また修行を一からやり直す」
「夕乃!」
「はい!」
「子作りはほどほどにな」
「...はい」
「あと、初孫の名前は俺につけさせろ」
「わかりました。でも変な名前にしないで下さいよ?」
「おう。ちゃんとお前が納得する名前にしてやらぁ」 十数年前に産んだ娘がまさか学校を卒業する前に結婚相手を見つけ出すとは
予想外だったな、と愛する孫娘を茶化す父の姿を見て冥理は涙ぐんでいた。
真九郎も引き取ってきた時に比べれば、随分成長したなと懐かしく思える。
生きる意味も無く、ただ死にたくないからという理由で生きながらえていた
あの少年が崩月の家を出た途端、途方もない大事に巻き込まれながらも、
なんとか切り抜け、己の人生に生きる意味を見いだしたというのが、冥理と
法泉にとっては本当の我が子のように嬉しく思えた。
「真九郎君。夕乃。本当におめでとう。祝福するわ」
だから、二人が幸せになれるなら私達親は結婚を認めよう。
それが冥理と法泉の親としての答えだった。
「真九郎。夕乃との結婚は俺も冥理も反対はしねぇよ」
「好き合った女と男同士、末永く幸せになればいい」
法泉はそう言い残し、客間から立ち去っていった。 背を向けて立ち去る一家の大黒柱に真九郎と夕乃は深く頭を下げた。
そして散鶴も渋渋ながら自分が出る幕はないと悟ったのか、泣きべそを
かきながらふすまを開け、祖父の後を追うように自分の部屋へと戻った。
「真九郎君。紫ちゃんは夕乃より手強いわよ?」
「お母さん...」
「夕乃、選択を間違えないようにしなさい」
事の顛末を全て知りながら、あえて言葉にすることなく立ち去った法泉の
懸念を冥理は真九郎と夕乃に伝え、その場を後にする。
言わんとすることは分かっている。
だがしかし、ここで紅真九郎は退くわけにはいかない。
(だって、俺が...俺だけが紫の味方なんだから)
アイツと出会って、初めて自分の心の弱さと向きあえた。
あの小さな手を取って、俺は自分の殻を破ることが出来た。
今度は俺の番だ。アイツを本当の意味で九鳳院から出してやる。
誓いも新たに真九郎は前を向いた。 「真九郎さんの気持ちは嬉しいです...でも私は鬼の娘ですから...」
「くれぐれも他の女に手を出すときは気をつけて下さいね?」
「私、相手の女が真九郎さんの子供を孕んだら殺しますからね」
「物騒なこと言わないでよ...夕乃さんの手が血で汚れるなんて嫌だよ」
「本気です!」
「真九郎さんは無意識のうちに女をその気にさせる天才なんですから!」
口元に浮かべた苦笑いを夕乃が咎める。
分かってるさ、自分が下した決断がどれだけ酷いかくらいは。
でも、それでも...俺は貴女のことを愛してる。
だから、これだけは言わせて欲しい。
「夕乃さん」
「なんですか、真九郎さん」
「貴女より弱い俺だけど、いつか必ず貴女を護れる位強くなります」
「だから俺の手を離さないで下さい。いつまでも俺に嫉妬して下さい」
「ずっと俺のことだけを見つめていて欲しい」
「俺が好きなのは、ありのままの夕乃さんだから」
言われた側から臆面も無くいけしゃあしゃあと夕乃をくどく自分に
内心あきれながらも、それでもこれが俺の本心なんだと開き直る。
夕乃も真剣な自分の警告をここまで逆手に取られては、最早呆れを
通り越し、真九郎に惚れ直すしかないと観念したのだった。
ありのまま。なんて、そんな上手いことを言われてしまえば
信じたくなってしまう。いや、絶対に信じ切ってみせる。
それが、夕乃の真九郎に対する愛なのだから。 「ええ。その約束、確かに守ります。それに、信じてますから」
「真九郎さんが世界で一番愛しているのはこの私だって」
「ありがとう。大好きだ、夕乃さん」
本当に、本当に長い長い遠回りだった。
迷い続けた分、明日からはまた新しい世界がきっと開けるだろう。
でも、夕乃の心の中には、なんの苦労もなく真九郎を手に入れる
紫に対しての反感は未だに残っているわけで...
「やっぱりちーちゃんは認めても、紫ちゃんは認められません!」
「真九郎さん。負けませんからね!」
ぷくーっ、と頬を膨らませる最愛の人を真九郎は抱きしめる。
「夕乃さん。明日、市役所に行って婚姻届取りに行こうか」
「本当ですか?!」
「デートしよう。揉め事処理屋の仕事は...キャンセルでいっか」
「やったぁ!!」 明日は学校だが、もうそんなのどうでもいいや。
今は楽しめるだけ、自分に与えられた青春を満喫しよう。
命短し恋せよ若人。難しいことはとりあえず後回しでいこう。
「夕乃さんは可愛いなぁ。よし!決めた」
「これからは徹・底・的に夕乃さんを甘やかす!」
「きゃ〜〜〜〜!真九郎さん大好き!もう最高です!」
そして、夕乃と真九郎は二日間不眠不休でお互いを貪り合った。
余談だが、散鶴はその後二週間真九郎と夕乃と口を利かなかったそうな。
「おにーちゃんとおねーちゃんなんかはぜちゃえ...」
妹の口から飛び出た辛辣な一言に夕乃と真九郎は頭を悩ませることに
なったのだが、それはまた別の機会にということで。
最終回 紫の嫁入りに続く 更新乙です
夕乃さんやちーちゃんはどうにかなったけど、紫は説得が難しそう
どうなるか注目ですね 〜紫の嫁入り 前編〜
4日後 学校
「真九郎さん。お昼食べましょう」
「そうだね。屋上行こうか」
何のことはない日常の1ページ。
それが音を立ててビリビリと破かれる瞬間に立ち会ったとき、
人は呆然と立ち尽くすしかない。
「嘘...なんで、紅君が崩月先輩と付き合ってるの?」
「え、崩月先輩あんなのが趣味なのかよ...」
「嘘、だろ...」
学校一の大和撫子と付き合っている相手は影の薄いパシリ生徒。
そんな奴いたっけレベルの存在感の相手に対して、愛おしそうに
手を絡め、体をすり寄せる夕乃のデレっぷりときたら... 「夕乃さん。恥ずかしいよ...皆の目もあるから控えめに...」
「イヤです。自重するのはもう辞めました。聞きません」
「これからは爛れた二人だけの青春と愛の性活を過ごすんです!」
「『お姉ちゃん』お願いだから、自重しよ?ね?」
「!!」
「も、もう...仕方ないですねぇ...真九郎がそう言うなら」
風呂敷に包んだ三重の弁当箱が持ち主の感情を素直に反映する。
嬉しげに揺れる弁当箱と幸せそうに微笑む真九郎。
羨望と嫉妬と、あと危険な視線を一身に集めながら真九郎と夕乃は
廊下を歩き、誰もいない屋上へと上がっていった。 屋上
フェンスの近くにあるベンチに腰掛けた真九郎の膝の上に夕乃が乗っかる。
決して小さくはないが、その温もりをより味わう為、真九郎は
自分の正面へと夕乃の座る向きを変える。
「我慢、出来なくなっちゃったんですか?」
「ううん。我慢する必要なんかもうないんだ」
「夕乃さん、だっこ」
真九郎にまたがる夕乃はその頼みに即座に応じる。
自分の左胸に真九郎の耳を押しつけ、その上から真九郎が安心して
眠れるように頭から腰までを滑らかな手つきで撫ではじめる。
柔らかく、そして温もりたっぷりの夕乃の胸に顔を埋める真九郎。
その顔はとても幸せそうで安らいでいた。
「はふぅ...幸せぇ...」
二人のうち、誰が呟いたか分からない言葉の続きは真九郎のポケットから
鳴り響いた携帯電話の着信音で掻き消されそうになった。 「...」
その瞬間、夕乃の目からハイライトが消えた。
真九郎のポケットから携帯電話を取りだし、電話をかけてきた相手を
確認する。
案の定、その相手は村上銀子だった。
通話ボタンを押し、黙って自分の耳に真九郎の携帯を押し当てる
「...もしもし」
「...」
「真九郎...ふざけてるの?」
「...」
「はぁ...仕事の資料渡すから新聞部の部室に今すぐ来なさい」
「...」
ナンダ、コノオンナハ...
そうだ、そう言えばこのオンナは真九郎がもう誰の恋人になったのか
まだ知らないんだった。
なら、思い知らせてやらなければ... 「夕乃さん。銀子には手を出さないでね」
「真九郎さん...でも...」
通話ボタンを切った真九郎は、恐ろしい威圧感を撒き散らす夕乃に
怯えることなく普通に釘を刺した。
「ちゃんとお別れは自分の口で伝えなきゃ意味が無い。そうでしょ」
「これが俺の一応最後の仕事だからさ。ちゃんとしたいんだ」
「分かりました。真九郎さんがそう言うなら、従います」
渋々ではなく、笑顔で真九郎を信じる夕乃に真九郎は危うさを感じた。
『浮気したら、その女を半殺しにしますからね』
『私、相手の女が真九郎さんの子供を孕んだら殺しますからね』
あの日に夕乃が自分に打ち明けた事が、現実問題として絶対に、
必ず起るという懸念がまさに的中するところだった。 「全く、真九郎さんは罪作りな人ですね」
「夕乃さんには負けるよ。可愛くて純粋で男タラシの罪作りな夕乃さんには」
「なっ。私はそんなふしだらでもなければ男タラシでもないですっ!」
「そうかなぁ?サッカー部の主将が夕乃さん好きだって噂、有名だよ」
「私はあんな人好きでもなければ、眼中にもないですっ」
「そっかぁ。そうだよね。夕乃さんは俺だけの女なんだから...」
夕乃の背中に爪を突き立て、今まで夕乃にも見せたことのない
独占欲を見せ始める真九郎。
夕乃は真九郎を縛り、真九郎は夕乃を縛り付けて離さない。
ついにここまで真九郎の心を独占するのに成功した夕乃は心の中で
狂喜した。
紫や散鶴は例外として、現在真九郎と一番相性が良いのは間違いなく
自分であるという確信が夕乃にはあった。
「じゃあ、村上さんの所に行く前にお昼を食べちゃいましょうか」
「今日のお弁当は結構美味しいわよ」
「ありがとう。夕乃お姉ちゃん」 「はい。あーん」
「あーん」
昼間から豪勢な夕乃の手作りの料理を頬張る様を本当に嬉しそうに
眺める夕乃は、更に甲斐甲斐しく自分の箸で鮭の切り身を真九郎の口に運ぶ。
真九郎も夕乃と付き合う前は、こうした『女の夢』というものに対して
抵抗感を抱いていたものの、いざ心を通わせ恋人として付き合い始めると
なかなかどうしてこれがとても心地良い。
自分の食べる様を見て恋人が嬉しそうに笑ってくれる。
それだけで胸と心の空白が瞬く間に埋められ、癒やされていく。
本当にこの人は自分を愛してくれているんだと確信できる。 「ふふっ...美味しいですか」
「うん。夕乃さんの料理はいつも美味しいよ」
「ふふーん。そうでしょうそうでしょう」
「なんて言ったって真九郎さんへの愛が一番籠もっていますから」
「じゃあ、今度は俺が夕乃さんのお弁当つくってあげる」
「まぁ。じゃあその時はちーちゃんと一緒にピクニックに行きましょうか」
食べ盛りの真九郎が夕乃の手作り弁当を平らげるまで僅か15分。
その間に夕乃も自分に作った弁当を素早く食べ終える。
「ごちそうさまでした」
「はい。おそまつさまでした」
雲が散らばっているものの、よく晴れた気持ちの良い晴れの日の午後。
重箱を片付ける夕乃を見遣りながら、真九郎は空を見上げた。
「どうしたんですか?空なんか見上げて」
「え。ああ。今日の夜は星が綺麗かな〜って」
「そうですね。今日の夜は月も星もよく見えるはずですよ」
適当な話題を夕乃に振りながら、真九郎はこれから訪れる幼馴染との別れを
想像し、心を痛めた。
しかし、これから自分がやろうとすることに銀子と銀子の家族までも
巻き込む訳にはいかない。
(銀子...)
放課後 新聞部部室
最後のHRの終了後、真九郎はいつものように新聞部の部室へ向かう。
誰も部員がいない部室のたった一人の主は、いつもの場所にいた。
「遅い。何してたのよ」
「悪い。夕乃さんと一緒にお弁当食べてたんだ」
「はぁ...また崩月先輩?」
「また、ってなんだよ」
「不潔」
「......」
その主は、果たして真九郎の変化に気が付いていただろうか?
夕乃のことを不潔と言い放ってパソコンの画面に向き直った彼女は
好きな男が自分が最も嫌う女に奪われたと言う事に....
「銀子、今回の仕事の前にさ...これ、今まで払ってなかった情報料」
「...なに、って...。え?ちょっと、これどうしたのよ...」
「?」
まるで信じられないものを見るかのように真九郎を見つめる銀子。
何事もなかったように平然としている真九郎。
この状況でそれが手遅れだと気が付いたときには、既に打てる手が
ないという現実が待ち受けていることを受け入れられない自分がいた。 「ん?46万円ものツケをどう一括払いする算段をつけたかって?」
「えーっと杉原さんの一件で使ったヤクザの組があるんだけどさ...」
「そこの内部でちょっとしたゴタゴタがあったんだ」
「で、そのゴタゴタをなんとかしてくれって俺に直接連絡が来たんだよ」
「アンタ...なに勝手なことを...」
「ああ、銀子が心配してるようなことはしてないよ」
「で、その揉め事を解決して50万貰ったんだ」
今まで真九郎のやろうとすることの真意が分からなかった事はなかった。
誰にも害されることのない強さを得る為に、紅香に弟子入りした。
九鳳院という巨大なシステムに虐げられている紫という少女を守る為、
彼は九鳳院に弓を引き、自分はその助けになるべく手助けした。
だが、今回の一件は全く真九郎の真意が見えない。
確かに真九郎にもそれなりに伝手はあるのだろう。
しかし、それはあくまでも小さなものであって、そんな数十万もの大金を
気前よくポン、と渡すようなパイプや組織とはつながりが.... (あった...)
(一つだけ、あった)
脳裏に浮かぶ、世界の裏を牛耳るどす黒いまでに大きなあの組織。
不幸なことに自分はそこに務める悪党どもを知ってしまっている。
「まさか、真九郎...アンタ、悪宇商会と手を...」
「組んでないって。はぁ...誤解を招いて悪かったよ」
「奥さんが浮気している現場に依頼人を連れて行く」
「それが今回引き受けた俺の仕事だよ」
「後は、奥さんや間男が逃げないように見張るのも仕事に入ってたっけ」
「尾行と証拠写真と実働と時給を全部合わせたら結構な額になったんだよ」
「そ、そう...」
釈然としない心を無理矢理納得させた銀子は真九郎が抱えていた
借金を一応、清算したのだった。 「これ、今回の資料」
「うん。ありがとう」
必死になり震えを隠そうとする銀子だったが、それは無理な話だった。
いつもと変わらぬ風を装っている真九郎だが、その背後から漂ってくる
血腥い鮮血の匂いが、自分の知っている幼馴染がもう引き返せない所にまで
足を踏み入れていることを教えている。
もう、自分では引き上げることが出来ない所まで真九郎は墜ちている...
「別れた元旦那のストーカー行為を止めさせて欲しい...」
「行動パターン...動機は親権と復縁による遺産の...」
「依頼内容、対象者を二度と家族に危害を加え...って何すんだよ銀子」
慌てて依頼者からの依頼書と資料を取り上げた銀子は、いつもなら
絶対しないような作り笑いを浮かべ、真九郎の興味の矛先をずらしはじめた。
「や、やっぱりこの依頼はなし!アンタじゃ経験不足よ」
「ええっ?ストーカーとか嫌がらせとかはそれなりに経験して...」
「割の良い仕事だと思ったんだけど、やっぱり危険すぎるわ」
「相手は柔道の有段者で元外人部隊の100kg超の黒人よ」
「アンタみたいなもやし、すぐに粉々にされるのがオチよ」 この時ばかりは、依頼者の所持する圧倒的暴力が頼もしく思えた。
だが、銀子はあまりにも簡単な事を失念していた。
真九郎が『崩月』だということを..
そして、崩月はあと一人この学校にいるという事を....
心の整理がつかない中、必死に真九郎に何が起ったのかを頭を
フル回転させた銀子が辿りついた、考え得る限りで最悪の結末。
待って、なんて一言も言わせない無慈悲な真九郎の言葉が銀子へと
一斉に襲いかかった。
「銀子、あのさ」
「今回の仕事が終わったら、暫く揉め事処理屋は休業するよ」
「なんで...?」
「俺、崩月を継ぐことにしたんだ」
「うそでしょ...」
幼馴染に抱いていた淡い恋心が粉々に粉砕された。
好きな人がいた...
その人は、頼りなくてとても脆い心の持ち主で、でもとても優しい人。
素直になれないけど、いつかきっと素直な気持ちで彼に自分の想いを
伝える筈だった。
なのに...どうしてどうして彼は私をおいてどこかに行ってしまうの?! 「なんでよ!!アンタあれだけ暴力が嫌いだったじゃない!!」
「揉め事処理屋を辞めるなら一緒にラーメン屋やっていこうって...」
「それなのに!どうして!!」
「どうして...私のこと、待ってくれなかったのよ...」
「銀子は、何も悪くないんだ。悪いのは全部俺だよ」
「意味わかんないわよ!」
「大体何度も言ったようにアンタに揉め事処理屋なんて向いてないのよ!」
「アンタもう一杯辛い思いしたじゃない!」
「何度も危険な目に遭って、その度に死にかけて私がッ...」
「私とッ...一緒に日の当たる世界で、一緒にラーメン屋をやってこうって」
「銀子...」
喚き、錯乱する幼馴染と距離を取り、指一本触れようとしない真九郎。
銀子は気が付いていないが、恐るべきは真九郎の冷静さである。
一時期は家族、兄妹同然に育った仲の幼馴染の嘆きに対して悲痛な
表情を浮かべるどころか、眉一つ動かさないまでの冷淡さは、普段の
優柔不断な真九郎を知る人物の目から見れば大事に値する。 なぜなら、それは...
真九郎が日の当たる世界を拒んだことに他ならないからだ。
人の命が蝋燭の灯火のように軽く吹き消され、血と怨嗟と暴力の
屍山血河の世界こそが自分の身の置き場。
「分かった...崩月先輩に誑かされたんでしょ、ねぇ!」
「ならお気の毒様ね、アンタじゃ無理よ。器じゃないわ」
銀子はそれでも、それはもう見ている方が目を覆いたくなるような
醜態を曝しながら、真九郎にすがりつくことをやめなかった。
なんとかして好きな男の目を幼馴染として覚まさせてやりたい。
いや、違う。
今の銀子を突き動かしているのは、真九郎への恋心ただ一つ。
だって、自分はまだなにも真九郎に想いを伝えていない。
これからゆっくり真九郎と仲を深めて...それなのに...。
銀子の慟哭を受け止めながら、真九郎は断固たる決意を以て
自分がどこへ向かうのかを彼女に伝える。 「銀子の言いたいことは痛いほど分かる」
「でも、さ...」
「サラリーマンとか畑を耕す自分を俺は想像できないんだよ」
「まぁ、例外としてラーメン屋は選択肢にはいってたけどね」
「じゃあ、いまからでも...」
「それは無理だ」
自分を覗き込む真九郎の瞳には、今までの真九郎を構成していた
要素以外の...昔からの真九郎を知っている銀子が忌避してやまない
決定的なものが映っていた。
そう、暴力への渇望と上に昇り詰めてやるという飽くなきまでの野心だ。
「銀子」
「自分の器なんて、後から大きくするもんだろ?」
「あ、あああ...」
「それに、夕乃さんのことを悪く言うのはやめろ」
「正直に言うと、銀子のそういうところは好きじゃなかった」
「そ、そんな...」
メラメラと燃える真九郎の野心の熱気に当てられた銀子は力なく
ぺたん、と床にへたりこんでしまった。
いつの間にか夕日は沈み、月と星が顔を覗かせる。 「...絶交よ。アンタなんか、もう...顔も見たくない」
もう、真九郎の心の中に自分はいないという絶望的な事実に気が付いた
銀子は真九郎を睨み付け、絶交宣言をした。
今の銀子の目には、真九郎がかつて自分達を攫った人身売買組織と
全く変わらない存在にしか見えなかった。
「...銀子、俺は必ず大きくなる。誰にも負けない位強くなる」
沈鬱な表情を浮かべた真九郎の本心は、果たしてどこにあるのか。
しかし、真九郎を失った悲しみと怒りが彼女から正常な判断力を、
そう、銀子の武器である判断力を奪ってしまっていた。
ここで、真九郎を新聞部の部室から外に出してしまえば、もう自分は
夕乃から真九郎を取り返すことが出来ないということに気がつけないほどに。 「帰ってよ!この人でなし!!」
「私利私欲の為にこれから多くの人を傷つけ、殺しまくるんでしょ!」
「出てって!出てけってばぁ!!」
銀子に背を向け、感情任せにその拳に叩かれている真九郎。
分かっている。
自分のエゴで...紫以上に銀子を優先できるかと問われ、即座に紫を
選んでしまった時から、こうなることは予想が出来ていた。
既に死んでしまった家族以外で、自分をよく知る幼馴染をこんな形で
傷つけ、切り捨てるようなそんな形でしか別れを告げられなかったのか?
もっとましな別れ方はなかったのかと自問せざるを得ない。
だが、事ここに至っては、もう何も言うまい。
「行かないでよ...ねぇ」
銀子が言いかけた言葉を最後まで聞くことなく、真九郎は勢いよく
新聞部の扉を引き、そのまま部室を後にした。
「待って!待ってぇええええ!真九郎ぉおおおおお!!!」
長い廊下を歩く真九郎の背中に、短い悲鳴だけが追いかけてきた。
真九郎は、足を止めることなくそのまま星領高校を出て行った。 高校から五月雨荘に戻るまで、携帯電話が鳴り止むことはなかった。
着信履歴100件とメールが156通。
我ながらよくもまあここまで酷いことを幼馴染みに出来た物だと
乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
メールの内容を見ると、まだ間に合うから裏社会の闇に染まる前に
とっとと縁を切りなさいからに始まり、最後はお願いだからちゃんと私の
話を聞いて、こんな形でアンタと別れるのはイヤという内容で終わっていた。
乗り継ぎの電車が来るまでの間、夕乃は銀子から来るメールと電話の
着信音に悲痛な表情を浮かべていた。
真九郎もこれ以上無いほどの後味の悪い別れ方を銀子とした為、
今も絶えず後悔の念に苛まれ続けている。
でも、後悔はしてもやりなおそうとは思っていない。 「正直な話、心が痛いですよ」
「銀子の俺への想いが分からないわけじゃなかった」
「だけど、いつかはこうなることはわかりきっていたのに...」
「もう、良いじゃないですか。真九郎さん」
「真九郎さんには私とちーちゃんと紫ちゃんがいます」
「もっと欲を言えば貴方には私だけを見ていて欲しいんです」
「でも、村上さんにはその覚悟がなかった。腕力も無ければ覚悟もない」
「それで好きな人が別の人とくっつくのは納得いかない」
「なんて、今更喚かれても、私は真九郎さんを手放す気なんかありません」
「だって私は貴方に恋した瞬間から、貴方を生涯の伴侶と決めたんですから」
夕乃の発言のその根底には一歩間違えれば、自分がこうなっていたかも
しれないという一種の諦観と、なんとしても真九郎を奪った相手から
なにをしてでも必ず奪い返すという怨念めいた憎悪が見え隠れしていた。
真九郎を初めて好きになった八年前から夕乃はその覚悟を胸に、
真九郎の側にいた。彼を想い続け、行動に表して自分の気持ちを伝え続けた。
だから真九郎は夕乃を好きになった。
今回の銀子の失恋は、ただ今のままの心地よい関係に甘んじて夕乃ほど
真剣に真九郎に向き合わなかっただけの結果でしかない。 「次は〜○○〜○○行の電車が...」
あれほど鳴り響いていた携帯電話のバイブレーションがいつの間にか
鳴り止んでいた。
ホームに滑り込んできた電車が口を開け、乗客達を吐き出し始める。
「じゃ、また明日学校で」
「ええ。愛してます。真九郎さん」
電車に乗った夕乃を見送りながら、真九郎は漫然と、もう村上家の
敷居をまたぐことは出来ないと思っていた。
しかし、これで銀子はもう自分がらみで命の危険に晒されることは
なくなった。
たとえそれが自分の自己満足だったとしても、銀子には自分が歩くことを
やめた日向の道を、彼女を幸せに出来る誰かと一緒に歩くという権利を
取り戻したことがせめてもの救いだったな。と、自分をごまかしながら
真九郎は五月雨荘へと歩き出し始めた。 五月雨荘
紅真九郎が五月雨荘の自室に戻ったのは午後六時を少し過ぎた所だった。
おんぼろになったドアを開け、自分の部屋に入ると、そこには
小さな天使がいて、自分にほほえみかけていた。
「真九郎!遅かったな。お帰りっ!」
「ああ。ただいま紫。一週間ぶりだね。元気だった?」
「うむ。真九郎に会えなかったのは寂しかったが、それも吹き飛んだ」
「そっか。ほら、おいで。だっこしてあげる」
左手は紫を離さないように、右手で紫を愛するように真九郎は
その小さな身体を包み込んだ。
「し、真九郎...///どうしたというのだ?」
「どうしたって、何が?」
「そ、その...て、照れる。と、とにかく照れるのだ!」
小さな手と足をパタパタと暴れさせる紫は、珍しいことに顔を
赤らめながらも、嬉しそうな表情を浮かべ、真九郎が離れるまでその体に
自分を押しつけながら、抱きついていた。 「真九郎。今日はどうしたというのだ?」
「なにか良いことでもあったのか?」
「いや、むしろ逆...かな。だから、紫に...それを、忘れさせて欲しい」
紫の笑顔に、銀子の泣き顔が重なり真九郎は声を詰まらせた。
紫も今まで笑顔だった真九郎が泣き出しそうになるのを見ていられず、
とっさにその涙をハンカチでぬぐい始めた。
「銀子ぉ...銀子......」
もう二度と取り返しのつかないことをしてしまった罪悪感に耐えきれず、
真九郎は遂に泣き出してしまった。
「ごめん...。ごめん、ごめんなぁ...」
「ううむ、こ、困った。おい、真九郎。泣くな」
「私は泣いている真九郎よりも、笑っている真九郎の方が好きなのだ」
「...でも、泣きたいほど辛いなら、いくらでも私が受け止めてやる」
「さぁ真九郎。好きなだけ私の胸で泣くが良い」
「そして、泣き止んだら私にお前の悩みを聞かせてくれ」 七歳の紫に、今の真九郎が抱えている途方もない大きさの悩みを
正しく判断できるわけがなかった。
崩月を継いだ上で、交わることのない表と裏の禁を破り、九鳳院の
一人娘を奪い取ろうとする、そんな大それたことに自分が愛する女を
巻き込もうとするのだ。
折角、蓮丈が紫を奥の院から出す決断を下したのに、その決を
翻して、また紫が昔に逆戻りする可能性だって捨てきれない。
しかし、それ以上に恐ろしいのは紫が自分が近い将来そうなってしまう
という可能性を踏まえた上で、真九郎に己の未来を委ねることだった。
紫の未来を奪いたくない、でも紫を奪われたくない。
それが真九郎を苦しめ続ける。
実現しない可能性の方が大きい無謀な企みのせいで、既にかけがえのない
友を失ってしまったのだ。
誰でも良い、自分を止めてくれ!
そう思いながら真九郎は紫の胸で泣き続けた。 午後7時 五月雨荘
一時間近く泣き続けた真九郎は、泣き疲れてそのまま紫の胸に
抱きつきながら眠りに落ちてしまった。
「うんしょ、うんしょ。ううむ重いな、真九郎の体は」
布団を敷き、その上に真九郎の体を引きずりながら乗せ、学生服を
剥ぎとりパジャマに着替えさせる。
(しかし、どうして真九郎はあんなに泣いていたというのだ?)
九鳳院紫にとって紅真九郎は相思相愛の相手といえる。
紫には真九郎が必要で、真九郎には紫が必要である。
紫が困っているときに真九郎は手を差し伸べてくれたし、また真九郎が
困っているときには紫が手を差し伸べて今まで上手くやってきた。
どんな窮地に陥っても決して諦めずに、弱さを見せることなく悪漢や
変えられない宿命と戦ってきたあの真九郎が感情を露わにして、TVに
出てくる女のように泣きわめいたことに紫は内心驚いていた。
(そう言えば環が言っていたな。真九郎は女に弱い男だと)
(そして、真九郎より強い女は...うう、一杯いるではないか...)
小さな頭をひねりながら、紫は真九郎が泣きわめいていた理由を
探っていた。
もし、環の発言が正しいとすれば紫には真九郎を泣かせた相手の見当が
いくつもつく。 一番怪しいのは言うまでもなく夕乃で、二番目に怪しいのはやたらと
威圧感はあるが自分を奥の院から出してくれた恩人の紅香である。
3,4に環や闇絵が続くものの、あの二人はなんだかんだ言って
真九郎には優しい気がするから外しても良いだろう。
となると、真九郎を泣かせた犯人は...
「夕乃だな。やはり夕乃はとんでもない女だ」
崩月夕乃。
紫の恋敵にして、とうとう真九郎の恋人になった女。
幸い、まだ真九郎は眠り続けている。
「...よし、夕乃に電話するか」
ちゃぶ台の上に置かれた真九郎の携帯電話を片手に取り、紫は
夕乃の家の電話番号を引っ張り出し、躊躇うことなく発信ボタンを押した。
「はい。崩月です。どちら様ですか....」
五秒後、おどおどとした声が紫の耳に飛び込んできた。
「む。私だ。九鳳院紫だ」
「あぅ...」
「その声は散鶴だな。夕乃はどうした?」
「ううう...」
「今すぐ夕乃を呼んでこい!真九郎のことで話がある」
「あの、どんなご用...ですか?」
「良いから早く夕乃を呼べ!お前では話にならん!」 夕乃とは対照的にどこまでもうじうじした散鶴の泣きべそに苛立つ
紫だが、散鶴もそれは同じで真九郎とは対照的に威圧的で偉そうな
紫に反感を覚えていた。
はじめはいつも自分に対して威張っている紫に対するちょっとした
仕返しのつもりだった。
真九郎はもう紫だけの真九郎ではないと、つい口を滑らせてしまった。
「紫ちゃんはおにーちゃんからなにも聞かされてないんだね」
「おねーちゃんと私はもうおにーちゃんのおよめさんなんだよ」
「なんだと?!今の発言はどういうことだ散鶴!」
「おにーちゃんは私の家に学校を卒業したら戻ってくるもん!!」
紫も七歳だが、散鶴は更にそれより二歳年下の五歳である。
小さい頃に年上のお兄さんとの結婚の約束をガチで信じ込んでしまう
純粋無垢なお年頃なのである。
そして、本当に性質の悪いことに真九郎はその場の雰囲気に流され、
八割ほどは本気だったが、散鶴のことも受け入れるつもりだった。 「おにーちゃん、おねーちゃんにコクハクしてたよ」
「世界で一番おねーちゃんがダイスキですって!」
「う、嘘だ!真九郎がそんなこと夕乃に言うはずがない!」
「嘘じゃないもん!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないもん!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないもん!」
受話器越しに怒鳴り合う小学生と幼稚園児。
傍から見ればほほえましいことこの上ないが、彼女達はまがりなりにも
九鳳院と崩月の直系の娘達である。
たとえそれがまだ善悪や対人関係の複雑さに責任を持てない歳であっても
そのやりとりが周囲にばらまく影響は計り知れない。
あまりにも見苦しい紫の反発に、ついに頭の中にあるリミッターが
吹き飛んだ散鶴は、姉とよく似た黒い微笑みを浮かべながら電話の向こうの
紫に怒濤の口撃を仕掛けていった。 「なっ、何を言うか!真九郎と私は相思相愛で...」
「でも今すぐケッコンは無理だよね」
「そっ、それは...」
「うっ、ぐすっ...だ、黙れ散鶴!し、真九郎が一番好きなのは、この...」
「おにーちゃん、おねーちゃんを下さいっておじいちゃんに言ってたよ」
散鶴の最後の一言で心をくじかれた紫はへなへなと崩れ墜ちた。
そして、とどめの一撃が紫に突き刺さる。
「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」
「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」
「あああああああああ!!!!」
あまりのことに耐えきれなくなった紫は壁に自分の携帯を投げつけ、
粉々になるまで机の上に置いてあった文鎮で叩きまくった。
「む、紫?おい、何やってるんだ!」
紫の絶叫に何事かと跳ね起きた真九郎は、畳の上で粉々になった
小さな携帯電話に絶句した。 「うわああああああん!夕乃と散鶴の大馬鹿ものーっ」
「何してるんだ紫!どうしたんだよ!」
この時、真九郎は紫が自分と夕乃の間にあったことを知った事に
気が付いてしまった。
そして、紫の大号泣にいかに自分が浅はかで最低なことを崩月家の
皆に対してしでかしたのかを自覚した。
ボロボロと大粒の涙を流す紫は顔をグシャグシャにしながら、懸命に
残酷な真実を告げた携帯電話を原形を留めなくなるまで破壊し続ける。
(ああ...そうだよな。俺、やっぱり最低じゃないか...)
「離せ〜!離すのだ真九郎!」
「夕乃と真九郎が結婚するなんてありえない!あり得ないんだ〜!」
何も知らない紫の悲痛な叫びに、真九郎は心を引き裂かれながら、
それでも懸命に紫が自分から離れないように、抱きしめ続けていた... 〜夕乃の視点〜
明日の真九郎さんのお弁当の仕込みをしているときに、電話が鳴った。
おそらく電話の主はおじいちゃんの友達か、町内会の人だろう。
「ちーちゃ〜ん。お電話出て〜」
「はーい」
散鶴はどうせ人見知りだから、電話を取ったらすぐに涙目になって私に
バトンタッチするだろう。そう思っていた。
でも、珍しいことに散鶴は五分たっても私の元に戻ってこなかった。
おかしい。
人見知りなあの子が私に電話の応対を任せずに、見知らぬ他人の話を
五分近く聞いていられるわけがない。
真九郎やおじいちゃんならともかく...
「まさか...!」
見知らぬ他人ではないが、散鶴が知っている他人なら心当たりがある!
私は慌てて廊下に飛び出し、電話へと走っていった。
角を曲がってそのすぐ目と鼻の先に、妹は確かにいた。
だけど、状況は既に手遅れだった。 「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」
「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」
「散鶴ッ!」
妹を押しのけ、電話の受話器を取る。
「紫ちゃん?!紫ちゃん!!」
今一番知られたくない相手に、よりにもよって真九郎とのことを
バラしたのが自分の妹だなんて、正直な話、信じたくなかった。
受話器の向こうから聞こえて来たのは、無機質な雑音だけ。
おそらく紫は今頃ショックを受けているはずだ。
昔の真九郎ならいざ知らず、銀子を捨てて精神的に不安定になっている
今の真九郎であれば、紫を説得できない可能性も在る。
「くっ!」
時計を見ると、時間は七時過ぎ。
今から駅まで行けば30分程度で五月雨荘に着けるはずだ。
(行かなきゃ!真九郎さんと紫ちゃんのところに...)
そう思った私は、急いで玄関の方へと向かおうとした。
でも... 「おねーちゃん!行っちゃダメ!行っちゃやだよぉ!」
妹が、あの泣き虫だった妹が賢明に通せんぼうをして、私の目の前に
立ちふさがった。
「ちーちゃん...良い子だから、ね?そこをどいて」
「やだぁ!」
「おねーちゃんは...私とおにーちゃんだけのおねーちゃんなんだもん!」
その言葉に、私は何も言い返せなかった。
「ぐすっ、ぐすっ...」
「紫ちゃんは、紫ちゃんのお家で仲良く家族で住めば...いいのに...」
「どうして私から、大好きな人をとっていっちゃうの?」
「不公平だよぉ...ずるいよぉ...」
紫の家のこと、彼女の出自のこと、彼女がそう遠くないうちに
迎えるであろう恐ろしい未来のこと。
この時ばかりは、私は何一つ伝えなければならないことを何一つ
目の前の妹に伝えられない自分を呪いたい気分だった。
何より恐ろしいのは、この国の誰よりも高貴な家柄にいて、誰よりも
高貴な血筋を受け継いでいるのにも拘わらず、九鳳院紫という少女は
人ではなく、人の形をしている『道具』でしかないという事実だ。
そして、散鶴はそのことをまだ理解できない。 理解できないが故に、散鶴の抱いている感情は最も正しい。
人権すらない『道具』を人として扱い、この先の人生を共に過ごす事が
どれだけのリスクと危険を犯さなければならないのか。
それを自覚できないまま真九郎は紫を、これから彼女が独り立ちが
出来る歳まで守っていく役目を担おうと言うのだ。
紫と散鶴を天秤にかけたとしても、絶対に散鶴を選ぶのが夕乃の本心。
しかし散鶴の視点から見れば、崩月がわざわざ抱え込まなくてもいい
リスクを抱え込み、毎日が命を狙われるような危険な日々を過ごす羽目に
なるのは絶対に看過できない。
なぜなら、真九郎は紫が要るにもかかわらず、既に夕乃と散鶴を
選んだからだ。もう、そのことに対して真九郎は言い逃れは出来ない。
九鳳院(恋人)を取るのか、それとも崩月(家族)を取るのか。
今、崩月夕乃は大きな岐路に立たされていた。
〜紫の嫁入り 中編(仮)に続く〜 〜紫の嫁入り 中編〜
散鶴の涙に大きく自分の心を揺さぶられながらも、夕乃はそれでも
懸命になって、なんとか妹を説得しようと試みた。
だが、どう考えても今すぐに散鶴を説得できる力を持った言葉や
想いが中々浮かばない。
どうにかして、一刻も早く真九郎が紫を失って立ち直れなくなる前に
五月雨荘へと行きたいのに、夕乃の足は全く動かない。
(何をしてるんですか!妹なんて後から説得すればいいじゃないですか)
(ダメ!散鶴を放っておけば、きっと真九郎さんみたいになっちゃう)
(自分は大好きな人に選んでもらえなかった悪い子だって苦しんじゃう!!)
いまの夕乃が思っていたことは、まさに散鶴にとってその通りだった。 内気で人見知りの妹。
まだ物事の分別がつかないけど、あの子は自分によく似ていてどこか
危ういくらいにまで思い込む癖がある。
これは散鶴自身の純粋さの裏返しともとれるし、同時に一番の弱点でもある
だから自分と異なる他人と打ち解けられない。打ち解けられないけど、
やっぱり一人は寂しい。でも他人は怖い。
そんな悪循環の中に現れたのが紅真九郎。
どこか散鶴に似ていた真九郎は、同時に孤独だった散鶴にとって、
一番近い心の距離に踏み込んできた初めての他人だった。
家族同然の他人だが、母や姉と同等の愛情を注いでくれる初めての異性に
孤独を打ち明けられない『子供』が恋するまでに時間はかからなかった。
だから、夕乃は今まで自分と一緒の時を過ごしてきた時間と思い出を
踏まえた上で、素直に正直に自分の気持ちを散鶴に打ち明けた。 「ちーちゃんは私よりも真九郎さんを幸せにしたい?」
「...うん」
「そっか。真九郎さん、優しいもんね。独り占めしたいよね?」
「...うん...」
「でもね、ちーちゃん。それはお姉ちゃんも紫ちゃんも同じなんだよ」
「同じじゃ、ないもん...」
「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、紫ちゃんは他人だもん」
「お姉ちゃん、言ったもん。私とちーちゃんだけのおにーちゃんって」
くすん、と鼻を啜りながらも散鶴はあくまでも夕乃と自分だけが
真九郎の側にいる資格があるのだと、その意思を姉に伝えた。
夕乃もその気持ちを痛いほどに分かっている。
だが、それではダメなのだ。 「ちーちゃん。ちーちゃんは何が怖いの?」
「紫ちゃん」
「どうして?」
「だって...乱暴だし、いつも偉そうで...上から目線でイヤなんだもん...」
「でも、でも...おにーちゃんはそんな紫ちゃんが私より好きで...」
「おねーちゃんまで...紫ちゃん好きになったら、一人に、えぐっ」
「わたし...一人になっちゃうよぉ....!」
「やだやだやだぁ!紫ちゃんにお兄ちゃん取られるのはイヤなのぉ!!」
ようやく散鶴の口からその本心が飛び出してきた。
まだ家族と離れることが出来ないうちに、自分をおいて大好きな
大好きな兄と姉がいなくなる恐怖に散鶴の心は耐えられなかったのだ。 その上、自分と同じ歳くらいで大人のように振る舞い、自分の全ての
何段階も上を行く紫が、真九郎が夕乃を愛するのと同じ次元で互いの将来を
誓うという事実をどうしても散鶴は認められない。認めたくなかった。
だって、それを認めてしまえば...自分は一生紫や夕乃のおこぼれに
あずかりながら、指をくわえて真九郎の側にいることしか出来なくなると
もう分かってしまったからだ。
だけど、それはあくまでも散鶴の心の問題でしかない。
夕乃の心は最初から最後までぶれることなく一徹している。
その証拠に妹を見つめていた眼差しから一切の温もりが消え去った。
「ちーちゃんの気持ち、よーく分かった」
「うん」
「でもね、私はちーちゃんほど弱虫じゃないですよ」
「ひぅ...お、おねーちゃん?」 そう、崩月夕乃は最初から自分が真九郎に最も相応しいと思っている。
好きな男を自分の手元に縛り付ける為にはなんだってする。
流石に大切な家族を犠牲には絶対させないが、それ以外のことなら
真九郎を自分の側から離さない為なら何だってする覚悟がある。
真九郎が望むなら、七面倒くさい表と裏の利権が絡み合う紫と自分との
事実上の重婚にだって目を瞑るくらいの寛容さはある。
しかし、それを邪魔するのなら誰であれ殺す。
真九郎の心を開いたあの日、彼が自分の胸に飛び込んできた喜びは
一生心に残る自分だけの宝物だ。
なぜならそれは九鳳院紫でもなく、村上銀子でもなく、この自分こそが
初めて紅真九郎の心を開き、全てを手に入れた証なのだから。
その自負と八年間の燃え滾る激烈な恋慕の前には、散鶴の心痛など、
単なる負け犬の負け惜しみでしかない。いや、それ以下だ。
だから、夕乃は目に狂気を滲ませながらも、いずれ自分を超えて見せろと
心の底から大切に思う妹へと発破をかける。 「散鶴。真九郎さんの側にいたければ崩月の修行をちゃんとしなさい」
「いつまでも弱虫の貴女には何も魅力なんか生まれっこありません」
「修行したら、おにーちゃんは私のこと好きになってくれる?」
「もうとっくに真九郎さんはちーちゃんのこと、大好きになってますよ」
「そっか...えへへ」
「だから、私と貴女とで紫ちゃんに見せつけてあげましょう」
「崩月の娘は九鳳院に負けないくらいいい女なんだ、って」
「だから、これからは紫ちゃんに怯えないで前を向きなさい」
「約束よ?」
散鶴は無言のまま頷き、姉が握った拳の先から出た小指に自分の
小指を絡ませ、大好きな姉を見送る。
「行ってらっしゃい。お姉ちゃん」
「行ってきます」
玄関を飛び出し、風のように走り出す姉の背中を見ながら散鶴は
いつか自分も姉のように強くなりたいと思い始めていた。
「そう、だよね...いつまでも、弱虫じゃダメだよね...」
だから、もし紫が崩月の家に来たらちゃんとさっきのことを謝ろう。
その上で、改めて紫に宣戦布告をしよう。
紫ちゃんには負けないもん、と... 午後八時
一方、九鳳院紫は騒ぎを聞きつけた闇絵と環の取りなしによって
一旦二人が落ち着くまで、それぞれ預かるという形で引き離されていた。
紫は闇絵、真九郎は環。
「ううう...真九郎のバカ、大馬鹿ものぉ...」
ポロポロと涙を流しながら、闇絵に抱きしめられた紫はぼんやりと
今までのことを思い出していた。
柔沢紅香によって奥ノ院から連れ出され、初めて外の世界を知ったこと。
自分の人生を大きく変えてくれた紅真九郎と出会ったこと。
真九郎といる内に、自分の中にある何かが大きく変わったこと。
沢山の人間と触れあう内に、もっと世界を知りたくなったこと。
危険な目に遭いもしたが、その度に真九郎が自分を助けてくれたこと。
人は一人で生きていけないが、同時に愛がなければ孤独のままだ。
これが、九鳳院紫が外の世界で学んだ一番の教訓だった。
辛いこともあれば、楽しいこともあった数ヶ月だと思う。
だが、それが揺らいできている。 崩月夕乃。
かつて飛行機事故で家族を失った真九郎を自分が生まれる前から
8年もの間、ずっと真九郎と寝食を共にし、絆を育んでいた女。
そして、その崩月の力に紫は何度も窮地を助けられてきた。
だから、婉曲な見方をすれば紫は夕乃に恩を受けていることになる。
その夕乃こそが、今回の紫が我を忘れて取り乱すような事態を
引き起こした張本人だからこそ、紫はどうしても真九郎に対して
自分の本心を打ち明けることが限りなく不可能になってしまったのだ。 九鳳院紫は紅真九郎を愛している。
それは生を受けたときから、光当たることなく一生を終える宿命の紫に
生きることの素晴らしさや、自分では抗うことの出来なかった運命を
意図も容易く、我が身を省みることなくぶち壊してくれたただ一人の
男だからだ。
恋はとても素晴らしい。紫の母親は彼女にそう言い残して死んだ。
紫もそう思う、と彼女は心の中で母に答えを返した。
誰かを好きになることで、前を向いて生きる気力が湧いてくる。
真九郎を好きになることで、もっと彼のことを知りたくなる自分がいる。
この恋は、今まで自分が体験してきたどんなことよりも、素晴らしく
また大きな変化を自分と真九郎にもたらしてくれた。
にもかかわらず、真九郎は中々自分に振り向いてくれない。 理由は分かっている。
真九郎ほどいい男は他にいない。
自分の他にも彼と一緒に添い遂げたいと願う女が沢山いることも
理解している。
夕乃、銀子、切彦...環と闇絵はまぁ、アレだが。
とにかく付き合ってみれば分かるが、紅真九郎は魅力的だった。
しかし、だとすれば...
(私は、真九郎の一体なんなのだ?)
護衛対象?好きな女?それとも放って置けない存在?
真九郎を好きなままでいられた時なら、考えなくても良かった
面倒くさいことが、次から次へと頭の中に浮かんでくる。
(分からない!分からないのだ!どうすればいい、なぁ?!)
真九郎!
だが、その心の声が本人に届くことはなかった。 「少女よ。君は...恋は素晴らしいと話していただろう?」
いつまでも泣き続ける紫を見かねたのか、闇絵は少しだけ紫の中にある
懊悩を解きほぐしてやろうかと思い、その腰を少し上げた。
紫も、その鷹揚な態度にいつもの自分を若干取り戻したのか、
どうしても晴れない自分の心のもやもやを少しずつ打ち明け始めた。
「うむ。だが、いまは...どうしてもやりきれなくて辛いのだ」
「ふむ、なぜかね?」
「その理由は...ええい!私にも、なぜだか全くわからん」
「真九郎の朴念仁!どうして私の気持ちに気が付いてくれんのだ」
「ふっ。まだまだ青いな」
「なにぃ!」
「青いさ、少なくとも自分の心に嘘がつけない時点で君は幼い」
「?私は七歳だぞ」
「そう。そして君の恋も君と同じ歳のようにまだ青く、未熟だ」 「どうしてだ!!なぜ、闇絵はそんなことを言える?」
「君の倍ほど生きていれば、いくらでもそういうことは言えるさ」
「楽もあれば苦もある。山もあれば谷もある」
「君も少年も、今が一つの山場といえるな」
「歩け。考えろ。そうして答えをいくつも出して人は前に歩くのだ」
紫が答えを返す前に、闇絵は薬缶からマグカップに紅茶を注ぎ
紫にそれを勧める。
「少女、それを飲んで、落ち着いたら部屋に戻るがいい」
「少年とて好きな女に喚かれ続けたら気が滅入るだろう」
「うむ。そう、だな。ありがとう、闇絵」
家を飛び出し、電車を乗り継ぎ五月雨荘の最寄り駅に着いたのが午後八時。
「真九郎さん...」
そしてこれから紫に対し、自分の中ではっきりとさせたいことを頭の中で
整理しながら、夕乃は五月雨荘へと急いでいた。
真九郎が巻き込まれた紫のいざこざの一応の顛末を夕乃は知っている。
紫は現当主の温情で一応、奥ノ院を出、九鳳院の一員として現時点は
扱われている。また社会を学ぶという名目で小学校に通っている。
しかし、それはあくまでも一時的な物でしかない。
紫の存在意義はつまるところ、子供を産む九鳳院の道具。
あの柔沢紅香とて、紫の一生に対して最後まで責任を負うつもりは
おそらく無かっただろうと夕乃は推察する。 真九郎はそういう物事の裏を見ないで、ただ単に紫という少女の
境遇があまりにも哀れで、助けられずにはいられないという理由で
無謀な賭けに出て、奇跡的に成功したに過ぎない。
だから夕乃は紫に九鳳院の道具としてではなく、一人の自分という
『個』としての本心とこれからどうしたいのかを見定めなければならない。
もし、真九郎を自分だけの便利屋かなにかと勘違いしているなら
即刻真九郎から引き離さなければならない。
紅香も、紫とその母親との依頼を完全な形で果した以上はまた九鳳院と
事を構えて、紫を九鳳院から奪おうなどと考えていないはずだ。
色々なことを考えている内に、夕乃の足は五月雨荘の前で止まっていた。
腕時計を見ると、時間は8時23分。
「......」
真九郎の部屋には明かりが灯っていない。
どうやら長い話し合いになりそうだと、夕乃は心の中で嘆息した。 「真九郎...戻っているのか?」
「ああ」
「そうか」
環と闇絵。
二人のそれぞれの助言を得た紫と真九郎は部屋に戻り、どちらが
言うまでもなく、互いの体を寄せあう。
最早ここまでくれば余計な考えや言い訳は不要だった。
ただ、言葉を重ね、互いの想いを一つにすれば良い。 「真九郎。さっきな、散鶴から電話があったんだ」
「散鶴の奴、真九郎が自分と夕乃の男だと私に言い放ったんだ」
「うん」
「それでな、散鶴は真九郎が夕乃に愛の告白をした」
「崩月の家の人間はそれを祝福したとも言っていた」
「それは、本当なのか?」
「ああ。本当だよ」
「ッ...嗚呼、恋が敗れるというのは、こうも辛いのか...」
「紫、でも俺は、紫が好きなんだ!」
「信じてくれ!俺は、お前が...お前が俺を救ってくれたから...」 「ああ。勿論だ」
「ふふ、信じるとも。真九郎は私に嘘をついた事は一度も無いんだからな」
「聞かせてくれ、真九郎。夕乃をどうして選んだのかを...」
「...俺は、ずっと悩んでた」
「最初は夕乃さんに押し倒されて、そこから体の関係でずるずるいって」
「幸せだった。愛しているって、俺が大好きだって、そう言ってくれたから」
「でも、耐えられなかった...」
「夕乃さんが、他の男と一緒になるのが凄くイヤになったんだ!!」
「他の男に抱かれて幸せな顔してる夕乃さんを想像したくなかった!」
「俺に世界で一番愛しているって言ってくれる人を失いたくなかった!!」
「分かってる!分かってたんだ全部。紫の気持ちも夕乃さんの想いも!!」
「夕乃さんを抱いている時でも、お前の顔がいつも脳裏によぎった」
「でも止められなかった...」
「止められなかったんだよ!!苦しかったんだ!」 「なぁ...紫。俺は、どうすりゃいいんだよ」
「...ごめんなぁ。真九郎。お前はそんなに私を想ってくれていたのか...」
「つくづく私は果報者だな。お前に謝るのは私の方だ。すまぬ」
「はぁ...しかし夕乃は本当に重くて面倒くさい女だな」
「そんなにガチガチに縛れば真九郎が潰れてしまうではないか」
「でもな、真九郎。私は今、あまり怒っていないのだ」
「自分でも意外なことに、心が落ち着いている。なぜだか分かるか?」
「.......」
「お前の口から私と『別れる』という言葉が出てこなかったからだ」
「夕乃の色仕掛けは卑怯な手だが、それはまぁ許す」
「そういうことを真九郎に出来なかった私が悪かっただけの話だ」
「紫...」 「真九郎。お前はまだ、私に恋をしているか?」
「ああ。ずっと恋しているし、もうとっくに惚れてるよ」
「そうかそうか。ふふん、夕乃の奴め。詰めが甘いな」
「まぁこの調子だと、真九郎にあやつも泣かされた筈だ」
「そして、真九郎が夕乃を泣かせられるたった一つの理由、それは」
「この私だ!」
「む、紫...お、お前...どうして、そんなことが分かるんだ?」
「女の勘と真九郎と私が両想いという事実がなによりの証だ」
「は、ははは...敵わないなぁ、紫には」
「うむ。当然だな」 「だが、な...真九郎。今から聞く質問には真剣に答えてくれ」
「お前と出会ってからの数ヶ月、大変な事が沢山あった」
「竜士兄様のこと、理津のこと、切彦のこと、そして夕乃とのこと」
「その度に私もお前も窮地に陥りながら、なんとか切り抜けてこられた」
「真九郎の言葉とその想いに私は何度も救われた」
「だから、真九郎」
「真九郎が私に掛けてくれた言葉を、私は信じてもいいんだな?」
「ああ。その全部が俺の本心だ」
「そうか。なら、もう私は...何も怖くない」
紫はそこで一旦言葉を切り、ドアの向こうを凝視した。
「そこにいるのだろう。夕乃。話をしよう」
意を決した真九郎と紫が見守る中、遂に最後の扉が開かれた。 午後九時
「こんばんは。紫ちゃん」
「こんばんはだな。夕乃」
静かに扉を開け、真九郎と紫の部屋に入ってきた夕乃は真九郎を
一瞥することなく、ただ紫だけを見つめていた。
「真九郎さん。私は今から紫ちゃんとお話しをします」
「貴方がいると言いたいことも言えないので、外で待っていてください」
「分かりました」
「真九郎。話が終わったら電話するからな」
「自分の携帯を壊したのは一体誰ですかね?」
「し、しまった!」
慌てる紫に笑いかけた真九郎は、そのまま部屋を出ていった。 「ねぇねぇ真九郎君。紫ちゃん一人にして大丈夫なの?」
「夕乃ちゃん。今までに無いくらいヤバい感じで極まっちゃってるよ?」
「分かってます。でも、俺は夕乃さんのこと信じてますから」
「まぁ、真九郎君がそういうならいいんだけどさ〜」
廊下で事の顛末を見守る環と二、三言葉を交わした真九郎は、二人の
話し合いの邪魔にならないよう、五月雨荘から出て行き、夜の街中へと
歩き出していった。
真九郎が五月雨荘の門から出て行ったのを確認した紫と夕乃は
小さなちゃぶ台を挟み、顔をつきあわせた。
紫と夕乃の最終対決、まず先に口火を切ったのは紫だった。
「夕乃よ。真九郎とのことを話す前に一つ聞かせて欲しいことがある」
「なんですか?」
「夕乃は私のことをどう思っているのだ」
「どう思ってるって、それは...」
「恋敵か?それとも表と裏の因縁ある家系の子供か?」
答えにくい質問をする物だと、夕乃は心の中で苦笑した。
夕乃個人としては、紫の事を真九郎を巡る恋敵として認めている。
が、
「その聞き方であれば、恋敵でしたね。昔は」
「真九郎を手にした今は?」
「それが...分からないんです」 「真九郎さんを手に入れた後、貴女のことを伝えられました」
「貴女を手に入れる為に、私に自分と名字を一緒にしろと」
「私の懇願を最後まで撥ねつけた上で、貴女を捨てられないから、と」
「最後まで貴女の未来に対して責任があると、貴女を案じていました」
紫の質問に淡々と答えながら、夕乃は真九郎が自分に言い放った
言葉をかいつまんで紫に伝えた。
紫も真剣な表情で夕乃の一言一句を聞き漏らすまいとしていたが、
やはり真九郎と両想いだということが、よほど嬉しかったのか、時折
微かな笑みを浮かべていた。
それがまだ紫が真九郎を諦めないという心から来ているのか、あるいは
既に自分と真九郎の心は一つなのだと勝ち誇る心から来ているのかを
夕乃自身が知る術はなかった。 「そうか...。夕乃よ、だとすれば私は貴女に謝らなければならないな」
「すまぬ。私のせいで夕乃の心を深く傷つけてしまった」
紫は真九郎の本心が本当だった事に安堵しながらも、同時に自分の
せいで夕乃の恋が成就とはほど遠いものになったことを薄々感づいていた。
自分が他人の人生の足を引っ張ったことに対する責任の取り方を
紫はまだ知らない。
だから、精一杯の気持ちを込めて紫は夕乃に頭を下げた。
「よして下さい。そんなこと言われたってちっともうれしくありません」
頭を下げた紫を見つめながら、まるで苦虫を噛みつぶしたかのような
表情を浮かべた夕乃は、遠慮無く紫の謝意を否定した。
私のせいで、という紫の言葉に腹立たしさを感じたのもあるが、
やはり一番は、最後まで真九郎と自分の恋路の邪魔した紫への
冷たい怒りが夕乃の癇に障って仕方がなかった。
心の中から湧き上がるどす黒く、冷たい衝動に己の心を委ねながら
夕乃は言葉を選ぶことなく、紫を痛めつけ始めた。
紫も、先程までとは異なる異様な雰囲気に包まれた夕乃に思わず
萎縮しながら、懸命にその怒りを受け止めようと姿勢を正した。
おそらく、これが夕乃の心の闇。
そう見当をつけた紫は腹を括り、夕乃と向き合う覚悟を決めた。 「もっと簡単にいきましょうか。私は、貴女のことが憎いです」
「好きか嫌いか、と聞かれれば...そうですね、やっぱり嫌いです」
曖昧に濁された質問の答えを、あえてはっきりと断言した夕乃の瞳には
情の一欠片も残されていなかった。
人間味を一切廃しながらも、半端でない程の強烈な怨みの感情が
紫の無防備な心を叩き潰そうと一斉に襲いかかる。
「後から出てきて、私が生涯の伴侶と決めた真九郎さんを掻っ攫い」
「関わらなくてもいい事にまで首を突っ込ませ、死なせかけた」
「貴女が奥ノ院にずっといれば、真九郎さんは私だけを見てくれた」
「これが私が貴女を憎む理由」
夕乃の放つ恐ろしい負の感情の前に、紫は恐怖の涙を流した。
だが、心の底では夕乃が自分を憎む理由も理解できていた。
真九郎が家を出て一人で暮らす前は、夕乃が真九郎にとっての
心の支えだったのだろう。家族を失った真九郎が在りし日のように
心からの笑顔を取り戻すのはとても困難な事だったはずだ。
それは、真九郎の心の闇に踏み込んだ自分が一番分かっている。 「嫌いな理由というのは、これは私の個人的な感情ですけど...」
「同族嫌悪的な感情を私は貴女に感じています」
「同族、嫌悪?」
「私は、あまり自分を夕乃と似ていると感じたことはないが?」
やっとのことで絞り出したその声は夕乃の耳に届くことはない。
「愛する人の為に、自分を捨てられるか、あるいはどれだけ尽くせるか」
「!」
「また、自分以外の女に真九郎さんを絶対に渡さないという覚悟」
「今の貴女は否定するかも知れませんが、じきにそうなります」
紫は今この時ほど、相手の嘘を見抜く己の直感力の高さを恨んだことは
なかった。
自分に対して、あらんかぎりの否定の言葉を投げつける夕乃の顔が
いつの間にか能面から一人の女に戻り、悔し涙をボロボロと流している。
真九郎無しの人生なんて考えられない。
なのに、なんで真九郎は、私だけを見てくれないのだろう。
考えていることは同じでも、真九郎と紫によって夕乃にもたらされた
事実はあまりにも残酷過ぎた。 「でも、一番は、私よりも先に真九郎さんの心を手に入れたから」
「これが私が貴女を嫌う理由ですね」
「そうか...」
そう、夕乃に言われなくても全部理解しているのだ。
自分が奥ノ院の宿命から逃げたせいで夕乃は苦しんでいる。
真九郎の心の痛みも、弱さも、悲しみも全部受け入れて、共に歩く
未来の為に必死になって、夕乃は真九郎に尽くしてきた。
そして、その努力が実るあと一歩というところで、自分が
真九郎の心を癒やしてしまった。
結果、皮肉なことにそれが真九郎が紫を好きになる決定打となった。
紫もこの偶然に巻き込まれたことで、真九郎への恋が芽生え、自身の
運命すら変えることになったのだ。
夕乃でなくても、こんな酷い仕打ちがあっていいものだろうか。
いや、そんな道理はどこを探しても見当たらない。
「単刀直入に言わせて頂きます。紫さん、真九郎さんを諦めて下さい」
「あの人と名を同じくするのは私だけでいいんです」
故に夕乃は、目の前にいる全ての元凶から真九郎を取り戻そうと
必死になっていた。 例え、紫の心が砕けようと夕乃が止まることはない。
何故なら今の夕乃は恋に狂ってまともな精神状態ではないのだから。
「貴女が真九郎さんと添い遂げようとすると、また軋轢が生じます」
「わかりやすく言うと、九鳳院の九割が今度は真九郎さんの敵になります」
「崩月を預かる身としては、これ以上の厄介は抱え込みたくありませんが」
「まぁ貴女の二番目のお兄さんは喜々として真九郎さんを嬲るでしょうね」
九鳳院竜士。
かつて自分を犯そうとした、実の兄にして卑劣漢。
あの一件の後、外国に留学という名目で九鳳院から放り出されたが、
どうでもいいプライドだけが肥大したろくでなしが、自分をボコボコにした
真九郎に対して抱く感情と言ったらただ一つしか無い。
「そんなこと!」
夕乃の言う自分と真九郎が迎える最悪の未来も絶対に起きないという
保障も可能性もどこにもない。
否定したいのに、今の自分にはそれを覆すことができない。
紫は夕乃の言葉に虚勢を張るしかなかった。 「いいえ。今度ばかりはそうなります」
「だって、貴女が人質に取られれば真九郎さんは何も出来なくなるからです」
「そうなる前に、貴女は現実を知るべきでは?」
「くっ...だが、そ、そうなるとはまだ決まったわけでは...」
「なら、今度は自分から進んで九鳳院の役目を果すと?」
「私としても、それが一番いいなぁとは考えましたけどね」
「でも、貴女。死にたくないでしょう?」
「正確に言えば、真九郎さんと死で引き裂かれるのが怖くて堪らない」
何も出来ない自分の非力さをあざ笑うかのように夕乃は紫の選択肢を、
一つずつ理詰めで潰していく。
紫が考えて、実際に彼女が今からでも実行できる解決策を否定する。
「ううっ...ど、どうしてそんな事ばかり夕乃は私に言うのだ...」
「言ったでしょう。私は貴女のことが憎くて嫌いなんだって」
「......」
「どうしたんですか?黙っていては話が先に進みませんよ?」
これ以上無いほど卑怯なやり方で、夕乃は徹底的に紫を否定し続けた。 「夕乃は、卑怯だ!」
「私だって本当は九鳳院みたいな所に生まれたくなかった!」
「普通の家庭に生まれて、普通の家族と普通に過ごしたかった!」
「友達を作って!好きな人に恋をして!楽しいこと一杯やって!」
「家族が一人も欠ける事無く、全員で仲良くしたかった!」
「そんなことを叫んでも、現実は変わりませんよ?」
夕乃は酷薄な笑みを浮かべながら、紫の心の叫びを一蹴し続ける。
だが、紫は未だに真九郎のことを諦めない。
それが、夕乃の心を更にかき乱し、苛立たせる。
紫の心をへし折って、二度と崩月に近寄らせないようにするつもりが、
いつのまにか、その瞳の中にある嘘偽りのない想いに絆されそうになる。
(いえ、そんなことはありえません...)
(だって、私は...真九郎さんは『裏十三家』なんですから...)
頭を振りながら、これ以上紫を否定しないでくれと心で泣く自分を
無理矢理に心の奥底に封じた夕乃は、最後の仕上げとばかりに
紫に向き直って、トドメを刺しにかかった。 「貴女は九鳳院で私は崩月の一人娘」
「そして真九郎さんは私達崩月が育て上げた戦鬼」
「いずれ、あの人は近いうちに望もうと望むまいと人を殺める筈です」
「どこかの財閥と関わったばかりに...なんてことでしょう」
「夕乃...お前....!!」
遂に一線を越えた発言をしてしまった夕乃に対して、今まで否定
されるがままだった紫も、冷静さをかなぐり捨てて激昂した。
「さぁ、それでも貴女は変わり果てた真九郎さんを愛せますか?」
「貴女を救う為に、貴女の家族を殺そうとする殺人鬼を」
声を詰まらせながら、それでも懸命に夕乃は虚勢を張り続けていた。 夕乃が真九郎を信じるように紫もまた真九郎のことを信じている。
優柔不断ですぐに泣くが、本当は誰よりも弱さに逃げずに立ち向かう
勇気を持つ男。紫にとって真九郎はそんな男だった。
だから、迷うことなく自信を持って答えを出せる。
自分は真九郎を信じるという、たった一つの真実を。
「私は...真九郎が人を殺そうとするなんて想像したくない」
「だが、私は...」
「自分が助かりたいが為に家族を見捨てるような選択はしない!!」
「真九郎が私を救う為に、家族を殺すというなら私が死ぬ!」
「どんな真九郎でも私が好きになった真九郎はたった一人だ!」
「断じて、易々と人を殺すような殺人鬼ではない!」
「真九郎は変わらない!だから!私は真九郎を愛し続ける!」
「夕乃!お前もそうだろう?!そんな真九郎が大好きなのだろう?!」 完敗だった。
ここまで堂々と高潔に、純粋に真九郎への想いを叫ばれては、もう
これ以上、夕乃が紫を否定することは出来なくなってしまった。
紫は目をそらさない。
この会話が始まってからずっと、ずっと現実から目をそらさずにいる。
おそらく、この子は真九郎がこの先、人を殺めたとしても、たとえ
真九郎が自分を拒絶したとしても、きっと真九郎から離れないだろう。
「うっ...うううっ...も、もうイヤ...」
先に、音を上げたのは夕乃だった。
最初から分かっていた。
外道に徹し、真九郎のことを諦めさせようとしても、紫は決して
真九郎を諦めないということも、自分がそんな紫を無自覚のうちに
好きになっていたということも....。
夕乃が心の底から真九郎を嫌いになれないように、紫の事も心の底から
嫌うことが出来ないことなんて、最初からわかりきってたことなのだから。
「諦めてよぉ...私から、真九郎さんを...大好きな人を奪わないで...」
「夕乃...もういい!もういいんだ!」
「夕乃が望むなら、私は真九郎にとっての一番でなくてもいい...」
「紫ちゃん...」
涙をぬぐい、ようやく曇りなき瞳で紫と相対する夕乃に紫は
更に自分がどうしたいのかを、熱意を込めて語り始めた。 「夕乃!私は九鳳院だ。それは変えようがない!」
「だが、九鳳院以上に真九郎が大事なのが私の本心だ!」
「真九郎がいれば、私は何でも出来る。不可能だって可能にしてみせる」
「いや、それ以前に私は、私の力で真九郎の力になってやりたい!」
真九郎が自分を未来へと導いてくれた。
ならばこそ、今度は自分が真九郎の望む未来へとその手を引いていきたい。
夕乃も、紫も、その心の根底にあるのはそれだけだった。
ただ、その想いが強すぎて、誰とも分かち合えないと思い込んでいた。
しかし、もう二人の間にあるわだかまりは既に溶けていた。
今ここにあるのは互いを認める素直な気持ちと心だけだった。 「夕乃。私を真九郎の側にいさせてくれ!」
「どんな形でも良い!私は真九郎の側にいるのが一番の幸せなんだ」
そうだ。私は今までなにを遠回りしていたんだろう。
たとえ真九郎と結ばれなくても、ずっと、どんな形であっても
愛する人を支えたい。そう思っていたはずだったのに.....。
「紫ちゃん。今の言葉に嘘はないですか?」
「無い!」
「一人の女として、私にそれを死ぬまでずっと誓えますか?」
「誓う!」
一番でなくてもいい。ただ愛する者の側にずっといたい。
紫の言葉に夕乃の心は、遂に陥落したのだった。
「頼む夕乃。この紫の一生に一度のお願いだ」
「私から、私が愛する紅真九郎を奪わないでくれ!」 畳に手をつき、頭をつけた土下座をする紫を起こしながら、夕乃は
僅かに残った涙をぬぐい、最後に残った心の闇を綺麗に清算した。
真九郎は結局自分だけを見てくれなかった。
けれど...
「...完敗ですよ。はーぁ、本当に負けました」
「ゆ、夕乃?」
「貴女の気持ち、本当に分かりました」
今なら、紫の気持ちが分かるかも知れない。
だって、こんなに素敵な女性ならいつまでも一緒に居たくなる筈だ。
臆することなく心の闇に踏み込んできて、いつの間にかその闇を
綺麗に晴らして、前へと進む力と決意を与えてくれる。
そんな九鳳院紫という少女に崩月夕乃は心惹かれてしまったのだ。
「紫ちゃん。いつか私と一緒に真九郎さんと暮らしませんか?」
「ほ、本当にいいのか?!」
「ただ、真九郎さんの一番目の奥さんの座は譲れません」
「それでもいいなら、私は、崩月は貴女を家族に迎え入れます」
「夕乃〜!」 夕乃の豹変に戸惑いながらも、紫は自分が認められた嬉しさを
隠すことなく夕乃へとぶつけた。
夕乃も紫に対して抱いていた心の闇がなくなった今、目の前の
少女に対して、かつて真九郎に対して抱いていた庇護欲のような
感情がわき上がってくることを自覚した。
「私は、なんていうか...不器用で、感情的ですけど」
「貴女と上手くやっていけるように、ちゃ、ちゃんと努力します」
「だから、もし貴女さえ良ければ...」
「私を姉のように思ってくれても構いません」
これから先、どれくらい紫と一緒に過ごせるのかは分からない。
だけど...
「貴女を嫌う理由も憎む理由も、もう無くなりましたから」
紫との関係を一新するのなら、姉妹という関係が一番だと夕乃は思った。
「ほ、本当に良いのか?夕乃」
「わた、私の気が変わらないうちに早く返事をして下さい!」
「ああ。夕乃がこれから私の姉になってくれるなら大賛成だ!」
「よろしく頼む。夕乃!」 「さて、そうと決まれば騎馬に連絡せねば」
「何を連絡するんですか?」
床に散らばる携帯電話の残骸を見遣りながら、紫に何気なく尋ねる。
これから私も真九郎さんのように、紫ちゃんに振り回される毎日を
送るんだろうなぁ。としみじみと思いながら物思いに耽る夕乃が
真九郎の部屋の電話に手をかけたその時...
「決まっておろう。真九郎を九鳳院の近衛隊に入れるのだ」
「はぁ?!」
事もなげに、さらりととんでもないことを紫は言い放った。
「何をそんなに驚いておるのだ、夕乃?」
「驚きますよ...大体、そんなこと急に言われたって...」
「ふくりこうせいとやらは九鳳院は世界で一番しっかりしているぞ?」
「ダメです!まだ真九郎さんは崩月流の修行が終わってません」
「それに、近衛隊に真九郎さんが入れば一緒にいられる時間が減りますよ」
「なに?!そ、それはイヤだ。ううむ、やはり崩月の修行が先かぁ」
「そ、そうですよ」 紫は実に残念そうな表情を浮かべながらも、お父様に真九郎のことを
認めさせるには実に良い機会だったのだがなぁ。と未練がましく
夕乃に抗議していた。
確かに今の真九郎の実力なら、そこそこ通用はするだろうが
九鳳院とて、最終学歴が中卒の近衛兵を置いておきたくないだろう。
せめて、真九郎が卒業するまで保留するというのが妥当な判断だろう。
「この話は、これでおわ...」
「そうだ!なら、夕乃が近衛隊に入るのはどうだ?」
「私?いや、だって私」
いきなり自分に矛先を向ける紫に対して、夕乃はその意思はないと
説明しようとした。しかし...
「花嫁修業にはもってこいの場所だぞ?」
「給料も良い。人脈も出来る。暇なときはいくらでも休暇が取れるぞ?」
どのみち、高校を卒業したら崩月の修行の傍らで就職活動も始めなければ
ならないだろう。
しかし、何度も面接を受けるのも骨折りだし、崩月を名乗り続ける以上、
命を狙う輩に絡まれる不安もある。
そういうことを踏まえれば、紫の申し出はとてもありがたい。
「...ちなみに育児休暇って取れますか?」
「まぁ、そこは応相談という奴だ。働き次第だろうな」
いずれ真九郎も揉め事処理屋からの転職を考えるはずだろう。
そうなった時、真九郎と一緒に紫を守りながら働くというのも
刺激的で悪くないかもしれない。
「それなら、少し待ってて貰えませんか?」
「うむ。決心がついたら私に教えてくれ。騎馬に話は通しておく」
相容れない表と裏であるにも関わらず、彼女達は笑い合っていた。
まるでこれから先の人生には幸せなことしか訪れないのだというように、
紫と夕乃はいつまでも笑い続けていた。
「あとの問題は、九鳳院の遺伝的な問題だけだな」
「...紫ちゃんのお兄さん達からお世継ぎが産まれればいいですね」
「うむ。そうなれば、私も真九郎の子供を安心して身籠もれる」 真九郎の夢に付き従う身として、これから降りかかってくる困難が
どれだけ無理難題であろうとも、きっと乗り越えて見せる。
何故ならここにいるのは愛の力で運命を変えてきた者達だからだ。
「色々、大変になりますけど頑張りましょうね。紫ちゃん」
「ああ。これから迷惑をかけるが、私も夕乃と真九郎の支えになって見せる」
この世界は残酷で救いがない。
だから人は誰かと寄り添うことで、幸せを得る為に戦う決意を決められる。
これは、いつか来る終わりの時まで愛を叫びながら生きた者達の物語。
どこまでもまっすぐに自分の意思を貫いた彼等の未来は...果たして
〜紫の嫁入り 後編に続く〜 伊南屋さーん。たまにはここに戻ってきてss書いて欲しいです。 【悲報】神メーカーやっちまんさん、誰も求めてないのにシネマティックメーカーに謎リニューアルしたあげく僅か2ヶ月で消える
ぺろり(@yarichiman)さん _ X
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ロンメル足立(@rommeladachi)さん _ X
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