【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目
なぜなら、それは...
真九郎が日の当たる世界を拒んだことに他ならないからだ。
人の命が蝋燭の灯火のように軽く吹き消され、血と怨嗟と暴力の
屍山血河の世界こそが自分の身の置き場。
「分かった...崩月先輩に誑かされたんでしょ、ねぇ!」
「ならお気の毒様ね、アンタじゃ無理よ。器じゃないわ」
銀子はそれでも、それはもう見ている方が目を覆いたくなるような
醜態を曝しながら、真九郎にすがりつくことをやめなかった。
なんとかして好きな男の目を幼馴染として覚まさせてやりたい。
いや、違う。
今の銀子を突き動かしているのは、真九郎への恋心ただ一つ。
だって、自分はまだなにも真九郎に想いを伝えていない。
これからゆっくり真九郎と仲を深めて...それなのに...。
銀子の慟哭を受け止めながら、真九郎は断固たる決意を以て
自分がどこへ向かうのかを彼女に伝える。 「銀子の言いたいことは痛いほど分かる」
「でも、さ...」
「サラリーマンとか畑を耕す自分を俺は想像できないんだよ」
「まぁ、例外としてラーメン屋は選択肢にはいってたけどね」
「じゃあ、いまからでも...」
「それは無理だ」
自分を覗き込む真九郎の瞳には、今までの真九郎を構成していた
要素以外の...昔からの真九郎を知っている銀子が忌避してやまない
決定的なものが映っていた。
そう、暴力への渇望と上に昇り詰めてやるという飽くなきまでの野心だ。
「銀子」
「自分の器なんて、後から大きくするもんだろ?」
「あ、あああ...」
「それに、夕乃さんのことを悪く言うのはやめろ」
「正直に言うと、銀子のそういうところは好きじゃなかった」
「そ、そんな...」
メラメラと燃える真九郎の野心の熱気に当てられた銀子は力なく
ぺたん、と床にへたりこんでしまった。
いつの間にか夕日は沈み、月と星が顔を覗かせる。 「...絶交よ。アンタなんか、もう...顔も見たくない」
もう、真九郎の心の中に自分はいないという絶望的な事実に気が付いた
銀子は真九郎を睨み付け、絶交宣言をした。
今の銀子の目には、真九郎がかつて自分達を攫った人身売買組織と
全く変わらない存在にしか見えなかった。
「...銀子、俺は必ず大きくなる。誰にも負けない位強くなる」
沈鬱な表情を浮かべた真九郎の本心は、果たしてどこにあるのか。
しかし、真九郎を失った悲しみと怒りが彼女から正常な判断力を、
そう、銀子の武器である判断力を奪ってしまっていた。
ここで、真九郎を新聞部の部室から外に出してしまえば、もう自分は
夕乃から真九郎を取り返すことが出来ないということに気がつけないほどに。 「帰ってよ!この人でなし!!」
「私利私欲の為にこれから多くの人を傷つけ、殺しまくるんでしょ!」
「出てって!出てけってばぁ!!」
銀子に背を向け、感情任せにその拳に叩かれている真九郎。
分かっている。
自分のエゴで...紫以上に銀子を優先できるかと問われ、即座に紫を
選んでしまった時から、こうなることは予想が出来ていた。
既に死んでしまった家族以外で、自分をよく知る幼馴染をこんな形で
傷つけ、切り捨てるようなそんな形でしか別れを告げられなかったのか?
もっとましな別れ方はなかったのかと自問せざるを得ない。
だが、事ここに至っては、もう何も言うまい。
「行かないでよ...ねぇ」
銀子が言いかけた言葉を最後まで聞くことなく、真九郎は勢いよく
新聞部の扉を引き、そのまま部室を後にした。
「待って!待ってぇええええ!真九郎ぉおおおおお!!!」
長い廊下を歩く真九郎の背中に、短い悲鳴だけが追いかけてきた。
真九郎は、足を止めることなくそのまま星領高校を出て行った。 高校から五月雨荘に戻るまで、携帯電話が鳴り止むことはなかった。
着信履歴100件とメールが156通。
我ながらよくもまあここまで酷いことを幼馴染みに出来た物だと
乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
メールの内容を見ると、まだ間に合うから裏社会の闇に染まる前に
とっとと縁を切りなさいからに始まり、最後はお願いだからちゃんと私の
話を聞いて、こんな形でアンタと別れるのはイヤという内容で終わっていた。
乗り継ぎの電車が来るまでの間、夕乃は銀子から来るメールと電話の
着信音に悲痛な表情を浮かべていた。
真九郎もこれ以上無いほどの後味の悪い別れ方を銀子とした為、
今も絶えず後悔の念に苛まれ続けている。
でも、後悔はしてもやりなおそうとは思っていない。 「正直な話、心が痛いですよ」
「銀子の俺への想いが分からないわけじゃなかった」
「だけど、いつかはこうなることはわかりきっていたのに...」
「もう、良いじゃないですか。真九郎さん」
「真九郎さんには私とちーちゃんと紫ちゃんがいます」
「もっと欲を言えば貴方には私だけを見ていて欲しいんです」
「でも、村上さんにはその覚悟がなかった。腕力も無ければ覚悟もない」
「それで好きな人が別の人とくっつくのは納得いかない」
「なんて、今更喚かれても、私は真九郎さんを手放す気なんかありません」
「だって私は貴方に恋した瞬間から、貴方を生涯の伴侶と決めたんですから」
夕乃の発言のその根底には一歩間違えれば、自分がこうなっていたかも
しれないという一種の諦観と、なんとしても真九郎を奪った相手から
なにをしてでも必ず奪い返すという怨念めいた憎悪が見え隠れしていた。
真九郎を初めて好きになった八年前から夕乃はその覚悟を胸に、
真九郎の側にいた。彼を想い続け、行動に表して自分の気持ちを伝え続けた。
だから真九郎は夕乃を好きになった。
今回の銀子の失恋は、ただ今のままの心地よい関係に甘んじて夕乃ほど
真剣に真九郎に向き合わなかっただけの結果でしかない。 「次は〜○○〜○○行の電車が...」
あれほど鳴り響いていた携帯電話のバイブレーションがいつの間にか
鳴り止んでいた。
ホームに滑り込んできた電車が口を開け、乗客達を吐き出し始める。
「じゃ、また明日学校で」
「ええ。愛してます。真九郎さん」
電車に乗った夕乃を見送りながら、真九郎は漫然と、もう村上家の
敷居をまたぐことは出来ないと思っていた。
しかし、これで銀子はもう自分がらみで命の危険に晒されることは
なくなった。
たとえそれが自分の自己満足だったとしても、銀子には自分が歩くことを
やめた日向の道を、彼女を幸せに出来る誰かと一緒に歩くという権利を
取り戻したことがせめてもの救いだったな。と、自分をごまかしながら
真九郎は五月雨荘へと歩き出し始めた。 五月雨荘
紅真九郎が五月雨荘の自室に戻ったのは午後六時を少し過ぎた所だった。
おんぼろになったドアを開け、自分の部屋に入ると、そこには
小さな天使がいて、自分にほほえみかけていた。
「真九郎!遅かったな。お帰りっ!」
「ああ。ただいま紫。一週間ぶりだね。元気だった?」
「うむ。真九郎に会えなかったのは寂しかったが、それも吹き飛んだ」
「そっか。ほら、おいで。だっこしてあげる」
左手は紫を離さないように、右手で紫を愛するように真九郎は
その小さな身体を包み込んだ。
「し、真九郎...///どうしたというのだ?」
「どうしたって、何が?」
「そ、その...て、照れる。と、とにかく照れるのだ!」
小さな手と足をパタパタと暴れさせる紫は、珍しいことに顔を
赤らめながらも、嬉しそうな表情を浮かべ、真九郎が離れるまでその体に
自分を押しつけながら、抱きついていた。 「真九郎。今日はどうしたというのだ?」
「なにか良いことでもあったのか?」
「いや、むしろ逆...かな。だから、紫に...それを、忘れさせて欲しい」
紫の笑顔に、銀子の泣き顔が重なり真九郎は声を詰まらせた。
紫も今まで笑顔だった真九郎が泣き出しそうになるのを見ていられず、
とっさにその涙をハンカチでぬぐい始めた。
「銀子ぉ...銀子......」
もう二度と取り返しのつかないことをしてしまった罪悪感に耐えきれず、
真九郎は遂に泣き出してしまった。
「ごめん...。ごめん、ごめんなぁ...」
「ううむ、こ、困った。おい、真九郎。泣くな」
「私は泣いている真九郎よりも、笑っている真九郎の方が好きなのだ」
「...でも、泣きたいほど辛いなら、いくらでも私が受け止めてやる」
「さぁ真九郎。好きなだけ私の胸で泣くが良い」
「そして、泣き止んだら私にお前の悩みを聞かせてくれ」 七歳の紫に、今の真九郎が抱えている途方もない大きさの悩みを
正しく判断できるわけがなかった。
崩月を継いだ上で、交わることのない表と裏の禁を破り、九鳳院の
一人娘を奪い取ろうとする、そんな大それたことに自分が愛する女を
巻き込もうとするのだ。
折角、蓮丈が紫を奥の院から出す決断を下したのに、その決を
翻して、また紫が昔に逆戻りする可能性だって捨てきれない。
しかし、それ以上に恐ろしいのは紫が自分が近い将来そうなってしまう
という可能性を踏まえた上で、真九郎に己の未来を委ねることだった。
紫の未来を奪いたくない、でも紫を奪われたくない。
それが真九郎を苦しめ続ける。
実現しない可能性の方が大きい無謀な企みのせいで、既にかけがえのない
友を失ってしまったのだ。
誰でも良い、自分を止めてくれ!
そう思いながら真九郎は紫の胸で泣き続けた。 午後7時 五月雨荘
一時間近く泣き続けた真九郎は、泣き疲れてそのまま紫の胸に
抱きつきながら眠りに落ちてしまった。
「うんしょ、うんしょ。ううむ重いな、真九郎の体は」
布団を敷き、その上に真九郎の体を引きずりながら乗せ、学生服を
剥ぎとりパジャマに着替えさせる。
(しかし、どうして真九郎はあんなに泣いていたというのだ?)
九鳳院紫にとって紅真九郎は相思相愛の相手といえる。
紫には真九郎が必要で、真九郎には紫が必要である。
紫が困っているときに真九郎は手を差し伸べてくれたし、また真九郎が
困っているときには紫が手を差し伸べて今まで上手くやってきた。
どんな窮地に陥っても決して諦めずに、弱さを見せることなく悪漢や
変えられない宿命と戦ってきたあの真九郎が感情を露わにして、TVに
出てくる女のように泣きわめいたことに紫は内心驚いていた。
(そう言えば環が言っていたな。真九郎は女に弱い男だと)
(そして、真九郎より強い女は...うう、一杯いるではないか...)
小さな頭をひねりながら、紫は真九郎が泣きわめいていた理由を
探っていた。
もし、環の発言が正しいとすれば紫には真九郎を泣かせた相手の見当が
いくつもつく。 一番怪しいのは言うまでもなく夕乃で、二番目に怪しいのはやたらと
威圧感はあるが自分を奥の院から出してくれた恩人の紅香である。
3,4に環や闇絵が続くものの、あの二人はなんだかんだ言って
真九郎には優しい気がするから外しても良いだろう。
となると、真九郎を泣かせた犯人は...
「夕乃だな。やはり夕乃はとんでもない女だ」
崩月夕乃。
紫の恋敵にして、とうとう真九郎の恋人になった女。
幸い、まだ真九郎は眠り続けている。
「...よし、夕乃に電話するか」
ちゃぶ台の上に置かれた真九郎の携帯電話を片手に取り、紫は
夕乃の家の電話番号を引っ張り出し、躊躇うことなく発信ボタンを押した。
「はい。崩月です。どちら様ですか....」
五秒後、おどおどとした声が紫の耳に飛び込んできた。
「む。私だ。九鳳院紫だ」
「あぅ...」
「その声は散鶴だな。夕乃はどうした?」
「ううう...」
「今すぐ夕乃を呼んでこい!真九郎のことで話がある」
「あの、どんなご用...ですか?」
「良いから早く夕乃を呼べ!お前では話にならん!」 夕乃とは対照的にどこまでもうじうじした散鶴の泣きべそに苛立つ
紫だが、散鶴もそれは同じで真九郎とは対照的に威圧的で偉そうな
紫に反感を覚えていた。
はじめはいつも自分に対して威張っている紫に対するちょっとした
仕返しのつもりだった。
真九郎はもう紫だけの真九郎ではないと、つい口を滑らせてしまった。
「紫ちゃんはおにーちゃんからなにも聞かされてないんだね」
「おねーちゃんと私はもうおにーちゃんのおよめさんなんだよ」
「なんだと?!今の発言はどういうことだ散鶴!」
「おにーちゃんは私の家に学校を卒業したら戻ってくるもん!!」
紫も七歳だが、散鶴は更にそれより二歳年下の五歳である。
小さい頃に年上のお兄さんとの結婚の約束をガチで信じ込んでしまう
純粋無垢なお年頃なのである。
そして、本当に性質の悪いことに真九郎はその場の雰囲気に流され、
八割ほどは本気だったが、散鶴のことも受け入れるつもりだった。 「おにーちゃん、おねーちゃんにコクハクしてたよ」
「世界で一番おねーちゃんがダイスキですって!」
「う、嘘だ!真九郎がそんなこと夕乃に言うはずがない!」
「嘘じゃないもん!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないもん!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないもん!」
受話器越しに怒鳴り合う小学生と幼稚園児。
傍から見ればほほえましいことこの上ないが、彼女達はまがりなりにも
九鳳院と崩月の直系の娘達である。
たとえそれがまだ善悪や対人関係の複雑さに責任を持てない歳であっても
そのやりとりが周囲にばらまく影響は計り知れない。
あまりにも見苦しい紫の反発に、ついに頭の中にあるリミッターが
吹き飛んだ散鶴は、姉とよく似た黒い微笑みを浮かべながら電話の向こうの
紫に怒濤の口撃を仕掛けていった。 「なっ、何を言うか!真九郎と私は相思相愛で...」
「でも今すぐケッコンは無理だよね」
「そっ、それは...」
「うっ、ぐすっ...だ、黙れ散鶴!し、真九郎が一番好きなのは、この...」
「おにーちゃん、おねーちゃんを下さいっておじいちゃんに言ってたよ」
散鶴の最後の一言で心をくじかれた紫はへなへなと崩れ墜ちた。
そして、とどめの一撃が紫に突き刺さる。
「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」
「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」
「あああああああああ!!!!」
あまりのことに耐えきれなくなった紫は壁に自分の携帯を投げつけ、
粉々になるまで机の上に置いてあった文鎮で叩きまくった。
「む、紫?おい、何やってるんだ!」
紫の絶叫に何事かと跳ね起きた真九郎は、畳の上で粉々になった
小さな携帯電話に絶句した。 「うわああああああん!夕乃と散鶴の大馬鹿ものーっ」
「何してるんだ紫!どうしたんだよ!」
この時、真九郎は紫が自分と夕乃の間にあったことを知った事に
気が付いてしまった。
そして、紫の大号泣にいかに自分が浅はかで最低なことを崩月家の
皆に対してしでかしたのかを自覚した。
ボロボロと大粒の涙を流す紫は顔をグシャグシャにしながら、懸命に
残酷な真実を告げた携帯電話を原形を留めなくなるまで破壊し続ける。
(ああ...そうだよな。俺、やっぱり最低じゃないか...)
「離せ〜!離すのだ真九郎!」
「夕乃と真九郎が結婚するなんてありえない!あり得ないんだ〜!」
何も知らない紫の悲痛な叫びに、真九郎は心を引き裂かれながら、
それでも懸命に紫が自分から離れないように、抱きしめ続けていた... 〜夕乃の視点〜
明日の真九郎さんのお弁当の仕込みをしているときに、電話が鳴った。
おそらく電話の主はおじいちゃんの友達か、町内会の人だろう。
「ちーちゃ〜ん。お電話出て〜」
「はーい」
散鶴はどうせ人見知りだから、電話を取ったらすぐに涙目になって私に
バトンタッチするだろう。そう思っていた。
でも、珍しいことに散鶴は五分たっても私の元に戻ってこなかった。
おかしい。
人見知りなあの子が私に電話の応対を任せずに、見知らぬ他人の話を
五分近く聞いていられるわけがない。
真九郎やおじいちゃんならともかく...
「まさか...!」
見知らぬ他人ではないが、散鶴が知っている他人なら心当たりがある!
私は慌てて廊下に飛び出し、電話へと走っていった。
角を曲がってそのすぐ目と鼻の先に、妹は確かにいた。
だけど、状況は既に手遅れだった。 「ふふふ...おにーちゃんはおねーちゃんの恋人。だから...」
「紫ちゃんはもうウワキ相手だね」
「散鶴ッ!」
妹を押しのけ、電話の受話器を取る。
「紫ちゃん?!紫ちゃん!!」
今一番知られたくない相手に、よりにもよって真九郎とのことを
バラしたのが自分の妹だなんて、正直な話、信じたくなかった。
受話器の向こうから聞こえて来たのは、無機質な雑音だけ。
おそらく紫は今頃ショックを受けているはずだ。
昔の真九郎ならいざ知らず、銀子を捨てて精神的に不安定になっている
今の真九郎であれば、紫を説得できない可能性も在る。
「くっ!」
時計を見ると、時間は七時過ぎ。
今から駅まで行けば30分程度で五月雨荘に着けるはずだ。
(行かなきゃ!真九郎さんと紫ちゃんのところに...)
そう思った私は、急いで玄関の方へと向かおうとした。
でも... 「おねーちゃん!行っちゃダメ!行っちゃやだよぉ!」
妹が、あの泣き虫だった妹が賢明に通せんぼうをして、私の目の前に
立ちふさがった。
「ちーちゃん...良い子だから、ね?そこをどいて」
「やだぁ!」
「おねーちゃんは...私とおにーちゃんだけのおねーちゃんなんだもん!」
その言葉に、私は何も言い返せなかった。
「ぐすっ、ぐすっ...」
「紫ちゃんは、紫ちゃんのお家で仲良く家族で住めば...いいのに...」
「どうして私から、大好きな人をとっていっちゃうの?」
「不公平だよぉ...ずるいよぉ...」
紫の家のこと、彼女の出自のこと、彼女がそう遠くないうちに
迎えるであろう恐ろしい未来のこと。
この時ばかりは、私は何一つ伝えなければならないことを何一つ
目の前の妹に伝えられない自分を呪いたい気分だった。
何より恐ろしいのは、この国の誰よりも高貴な家柄にいて、誰よりも
高貴な血筋を受け継いでいるのにも拘わらず、九鳳院紫という少女は
人ではなく、人の形をしている『道具』でしかないという事実だ。
そして、散鶴はそのことをまだ理解できない。 理解できないが故に、散鶴の抱いている感情は最も正しい。
人権すらない『道具』を人として扱い、この先の人生を共に過ごす事が
どれだけのリスクと危険を犯さなければならないのか。
それを自覚できないまま真九郎は紫を、これから彼女が独り立ちが
出来る歳まで守っていく役目を担おうと言うのだ。
紫と散鶴を天秤にかけたとしても、絶対に散鶴を選ぶのが夕乃の本心。
しかし散鶴の視点から見れば、崩月がわざわざ抱え込まなくてもいい
リスクを抱え込み、毎日が命を狙われるような危険な日々を過ごす羽目に
なるのは絶対に看過できない。
なぜなら、真九郎は紫が要るにもかかわらず、既に夕乃と散鶴を
選んだからだ。もう、そのことに対して真九郎は言い逃れは出来ない。
九鳳院(恋人)を取るのか、それとも崩月(家族)を取るのか。
今、崩月夕乃は大きな岐路に立たされていた。
〜紫の嫁入り 中編(仮)に続く〜 〜紫の嫁入り 中編〜
散鶴の涙に大きく自分の心を揺さぶられながらも、夕乃はそれでも
懸命になって、なんとか妹を説得しようと試みた。
だが、どう考えても今すぐに散鶴を説得できる力を持った言葉や
想いが中々浮かばない。
どうにかして、一刻も早く真九郎が紫を失って立ち直れなくなる前に
五月雨荘へと行きたいのに、夕乃の足は全く動かない。
(何をしてるんですか!妹なんて後から説得すればいいじゃないですか)
(ダメ!散鶴を放っておけば、きっと真九郎さんみたいになっちゃう)
(自分は大好きな人に選んでもらえなかった悪い子だって苦しんじゃう!!)
いまの夕乃が思っていたことは、まさに散鶴にとってその通りだった。 内気で人見知りの妹。
まだ物事の分別がつかないけど、あの子は自分によく似ていてどこか
危ういくらいにまで思い込む癖がある。
これは散鶴自身の純粋さの裏返しともとれるし、同時に一番の弱点でもある
だから自分と異なる他人と打ち解けられない。打ち解けられないけど、
やっぱり一人は寂しい。でも他人は怖い。
そんな悪循環の中に現れたのが紅真九郎。
どこか散鶴に似ていた真九郎は、同時に孤独だった散鶴にとって、
一番近い心の距離に踏み込んできた初めての他人だった。
家族同然の他人だが、母や姉と同等の愛情を注いでくれる初めての異性に
孤独を打ち明けられない『子供』が恋するまでに時間はかからなかった。
だから、夕乃は今まで自分と一緒の時を過ごしてきた時間と思い出を
踏まえた上で、素直に正直に自分の気持ちを散鶴に打ち明けた。 「ちーちゃんは私よりも真九郎さんを幸せにしたい?」
「...うん」
「そっか。真九郎さん、優しいもんね。独り占めしたいよね?」
「...うん...」
「でもね、ちーちゃん。それはお姉ちゃんも紫ちゃんも同じなんだよ」
「同じじゃ、ないもん...」
「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、紫ちゃんは他人だもん」
「お姉ちゃん、言ったもん。私とちーちゃんだけのおにーちゃんって」
くすん、と鼻を啜りながらも散鶴はあくまでも夕乃と自分だけが
真九郎の側にいる資格があるのだと、その意思を姉に伝えた。
夕乃もその気持ちを痛いほどに分かっている。
だが、それではダメなのだ。 「ちーちゃん。ちーちゃんは何が怖いの?」
「紫ちゃん」
「どうして?」
「だって...乱暴だし、いつも偉そうで...上から目線でイヤなんだもん...」
「でも、でも...おにーちゃんはそんな紫ちゃんが私より好きで...」
「おねーちゃんまで...紫ちゃん好きになったら、一人に、えぐっ」
「わたし...一人になっちゃうよぉ....!」
「やだやだやだぁ!紫ちゃんにお兄ちゃん取られるのはイヤなのぉ!!」
ようやく散鶴の口からその本心が飛び出してきた。
まだ家族と離れることが出来ないうちに、自分をおいて大好きな
大好きな兄と姉がいなくなる恐怖に散鶴の心は耐えられなかったのだ。 その上、自分と同じ歳くらいで大人のように振る舞い、自分の全ての
何段階も上を行く紫が、真九郎が夕乃を愛するのと同じ次元で互いの将来を
誓うという事実をどうしても散鶴は認められない。認めたくなかった。
だって、それを認めてしまえば...自分は一生紫や夕乃のおこぼれに
あずかりながら、指をくわえて真九郎の側にいることしか出来なくなると
もう分かってしまったからだ。
だけど、それはあくまでも散鶴の心の問題でしかない。
夕乃の心は最初から最後までぶれることなく一徹している。
その証拠に妹を見つめていた眼差しから一切の温もりが消え去った。
「ちーちゃんの気持ち、よーく分かった」
「うん」
「でもね、私はちーちゃんほど弱虫じゃないですよ」
「ひぅ...お、おねーちゃん?」 そう、崩月夕乃は最初から自分が真九郎に最も相応しいと思っている。
好きな男を自分の手元に縛り付ける為にはなんだってする。
流石に大切な家族を犠牲には絶対させないが、それ以外のことなら
真九郎を自分の側から離さない為なら何だってする覚悟がある。
真九郎が望むなら、七面倒くさい表と裏の利権が絡み合う紫と自分との
事実上の重婚にだって目を瞑るくらいの寛容さはある。
しかし、それを邪魔するのなら誰であれ殺す。
真九郎の心を開いたあの日、彼が自分の胸に飛び込んできた喜びは
一生心に残る自分だけの宝物だ。
なぜならそれは九鳳院紫でもなく、村上銀子でもなく、この自分こそが
初めて紅真九郎の心を開き、全てを手に入れた証なのだから。
その自負と八年間の燃え滾る激烈な恋慕の前には、散鶴の心痛など、
単なる負け犬の負け惜しみでしかない。いや、それ以下だ。
だから、夕乃は目に狂気を滲ませながらも、いずれ自分を超えて見せろと
心の底から大切に思う妹へと発破をかける。 「散鶴。真九郎さんの側にいたければ崩月の修行をちゃんとしなさい」
「いつまでも弱虫の貴女には何も魅力なんか生まれっこありません」
「修行したら、おにーちゃんは私のこと好きになってくれる?」
「もうとっくに真九郎さんはちーちゃんのこと、大好きになってますよ」
「そっか...えへへ」
「だから、私と貴女とで紫ちゃんに見せつけてあげましょう」
「崩月の娘は九鳳院に負けないくらいいい女なんだ、って」
「だから、これからは紫ちゃんに怯えないで前を向きなさい」
「約束よ?」
散鶴は無言のまま頷き、姉が握った拳の先から出た小指に自分の
小指を絡ませ、大好きな姉を見送る。
「行ってらっしゃい。お姉ちゃん」
「行ってきます」
玄関を飛び出し、風のように走り出す姉の背中を見ながら散鶴は
いつか自分も姉のように強くなりたいと思い始めていた。
「そう、だよね...いつまでも、弱虫じゃダメだよね...」
だから、もし紫が崩月の家に来たらちゃんとさっきのことを謝ろう。
その上で、改めて紫に宣戦布告をしよう。
紫ちゃんには負けないもん、と... 午後八時
一方、九鳳院紫は騒ぎを聞きつけた闇絵と環の取りなしによって
一旦二人が落ち着くまで、それぞれ預かるという形で引き離されていた。
紫は闇絵、真九郎は環。
「ううう...真九郎のバカ、大馬鹿ものぉ...」
ポロポロと涙を流しながら、闇絵に抱きしめられた紫はぼんやりと
今までのことを思い出していた。
柔沢紅香によって奥ノ院から連れ出され、初めて外の世界を知ったこと。
自分の人生を大きく変えてくれた紅真九郎と出会ったこと。
真九郎といる内に、自分の中にある何かが大きく変わったこと。
沢山の人間と触れあう内に、もっと世界を知りたくなったこと。
危険な目に遭いもしたが、その度に真九郎が自分を助けてくれたこと。
人は一人で生きていけないが、同時に愛がなければ孤独のままだ。
これが、九鳳院紫が外の世界で学んだ一番の教訓だった。
辛いこともあれば、楽しいこともあった数ヶ月だと思う。
だが、それが揺らいできている。 崩月夕乃。
かつて飛行機事故で家族を失った真九郎を自分が生まれる前から
8年もの間、ずっと真九郎と寝食を共にし、絆を育んでいた女。
そして、その崩月の力に紫は何度も窮地を助けられてきた。
だから、婉曲な見方をすれば紫は夕乃に恩を受けていることになる。
その夕乃こそが、今回の紫が我を忘れて取り乱すような事態を
引き起こした張本人だからこそ、紫はどうしても真九郎に対して
自分の本心を打ち明けることが限りなく不可能になってしまったのだ。 九鳳院紫は紅真九郎を愛している。
それは生を受けたときから、光当たることなく一生を終える宿命の紫に
生きることの素晴らしさや、自分では抗うことの出来なかった運命を
意図も容易く、我が身を省みることなくぶち壊してくれたただ一人の
男だからだ。
恋はとても素晴らしい。紫の母親は彼女にそう言い残して死んだ。
紫もそう思う、と彼女は心の中で母に答えを返した。
誰かを好きになることで、前を向いて生きる気力が湧いてくる。
真九郎を好きになることで、もっと彼のことを知りたくなる自分がいる。
この恋は、今まで自分が体験してきたどんなことよりも、素晴らしく
また大きな変化を自分と真九郎にもたらしてくれた。
にもかかわらず、真九郎は中々自分に振り向いてくれない。 理由は分かっている。
真九郎ほどいい男は他にいない。
自分の他にも彼と一緒に添い遂げたいと願う女が沢山いることも
理解している。
夕乃、銀子、切彦...環と闇絵はまぁ、アレだが。
とにかく付き合ってみれば分かるが、紅真九郎は魅力的だった。
しかし、だとすれば...
(私は、真九郎の一体なんなのだ?)
護衛対象?好きな女?それとも放って置けない存在?
真九郎を好きなままでいられた時なら、考えなくても良かった
面倒くさいことが、次から次へと頭の中に浮かんでくる。
(分からない!分からないのだ!どうすればいい、なぁ?!)
真九郎!
だが、その心の声が本人に届くことはなかった。 「少女よ。君は...恋は素晴らしいと話していただろう?」
いつまでも泣き続ける紫を見かねたのか、闇絵は少しだけ紫の中にある
懊悩を解きほぐしてやろうかと思い、その腰を少し上げた。
紫も、その鷹揚な態度にいつもの自分を若干取り戻したのか、
どうしても晴れない自分の心のもやもやを少しずつ打ち明け始めた。
「うむ。だが、いまは...どうしてもやりきれなくて辛いのだ」
「ふむ、なぜかね?」
「その理由は...ええい!私にも、なぜだか全くわからん」
「真九郎の朴念仁!どうして私の気持ちに気が付いてくれんのだ」
「ふっ。まだまだ青いな」
「なにぃ!」
「青いさ、少なくとも自分の心に嘘がつけない時点で君は幼い」
「?私は七歳だぞ」
「そう。そして君の恋も君と同じ歳のようにまだ青く、未熟だ」 「どうしてだ!!なぜ、闇絵はそんなことを言える?」
「君の倍ほど生きていれば、いくらでもそういうことは言えるさ」
「楽もあれば苦もある。山もあれば谷もある」
「君も少年も、今が一つの山場といえるな」
「歩け。考えろ。そうして答えをいくつも出して人は前に歩くのだ」
紫が答えを返す前に、闇絵は薬缶からマグカップに紅茶を注ぎ
紫にそれを勧める。
「少女、それを飲んで、落ち着いたら部屋に戻るがいい」
「少年とて好きな女に喚かれ続けたら気が滅入るだろう」
「うむ。そう、だな。ありがとう、闇絵」
家を飛び出し、電車を乗り継ぎ五月雨荘の最寄り駅に着いたのが午後八時。
「真九郎さん...」
そしてこれから紫に対し、自分の中ではっきりとさせたいことを頭の中で
整理しながら、夕乃は五月雨荘へと急いでいた。
真九郎が巻き込まれた紫のいざこざの一応の顛末を夕乃は知っている。
紫は現当主の温情で一応、奥ノ院を出、九鳳院の一員として現時点は
扱われている。また社会を学ぶという名目で小学校に通っている。
しかし、それはあくまでも一時的な物でしかない。
紫の存在意義はつまるところ、子供を産む九鳳院の道具。
あの柔沢紅香とて、紫の一生に対して最後まで責任を負うつもりは
おそらく無かっただろうと夕乃は推察する。 真九郎はそういう物事の裏を見ないで、ただ単に紫という少女の
境遇があまりにも哀れで、助けられずにはいられないという理由で
無謀な賭けに出て、奇跡的に成功したに過ぎない。
だから夕乃は紫に九鳳院の道具としてではなく、一人の自分という
『個』としての本心とこれからどうしたいのかを見定めなければならない。
もし、真九郎を自分だけの便利屋かなにかと勘違いしているなら
即刻真九郎から引き離さなければならない。
紅香も、紫とその母親との依頼を完全な形で果した以上はまた九鳳院と
事を構えて、紫を九鳳院から奪おうなどと考えていないはずだ。
色々なことを考えている内に、夕乃の足は五月雨荘の前で止まっていた。
腕時計を見ると、時間は8時23分。
「......」
真九郎の部屋には明かりが灯っていない。
どうやら長い話し合いになりそうだと、夕乃は心の中で嘆息した。 「真九郎...戻っているのか?」
「ああ」
「そうか」
環と闇絵。
二人のそれぞれの助言を得た紫と真九郎は部屋に戻り、どちらが
言うまでもなく、互いの体を寄せあう。
最早ここまでくれば余計な考えや言い訳は不要だった。
ただ、言葉を重ね、互いの想いを一つにすれば良い。 「真九郎。さっきな、散鶴から電話があったんだ」
「散鶴の奴、真九郎が自分と夕乃の男だと私に言い放ったんだ」
「うん」
「それでな、散鶴は真九郎が夕乃に愛の告白をした」
「崩月の家の人間はそれを祝福したとも言っていた」
「それは、本当なのか?」
「ああ。本当だよ」
「ッ...嗚呼、恋が敗れるというのは、こうも辛いのか...」
「紫、でも俺は、紫が好きなんだ!」
「信じてくれ!俺は、お前が...お前が俺を救ってくれたから...」 「ああ。勿論だ」
「ふふ、信じるとも。真九郎は私に嘘をついた事は一度も無いんだからな」
「聞かせてくれ、真九郎。夕乃をどうして選んだのかを...」
「...俺は、ずっと悩んでた」
「最初は夕乃さんに押し倒されて、そこから体の関係でずるずるいって」
「幸せだった。愛しているって、俺が大好きだって、そう言ってくれたから」
「でも、耐えられなかった...」
「夕乃さんが、他の男と一緒になるのが凄くイヤになったんだ!!」
「他の男に抱かれて幸せな顔してる夕乃さんを想像したくなかった!」
「俺に世界で一番愛しているって言ってくれる人を失いたくなかった!!」
「分かってる!分かってたんだ全部。紫の気持ちも夕乃さんの想いも!!」
「夕乃さんを抱いている時でも、お前の顔がいつも脳裏によぎった」
「でも止められなかった...」
「止められなかったんだよ!!苦しかったんだ!」 「なぁ...紫。俺は、どうすりゃいいんだよ」
「...ごめんなぁ。真九郎。お前はそんなに私を想ってくれていたのか...」
「つくづく私は果報者だな。お前に謝るのは私の方だ。すまぬ」
「はぁ...しかし夕乃は本当に重くて面倒くさい女だな」
「そんなにガチガチに縛れば真九郎が潰れてしまうではないか」
「でもな、真九郎。私は今、あまり怒っていないのだ」
「自分でも意外なことに、心が落ち着いている。なぜだか分かるか?」
「.......」
「お前の口から私と『別れる』という言葉が出てこなかったからだ」
「夕乃の色仕掛けは卑怯な手だが、それはまぁ許す」
「そういうことを真九郎に出来なかった私が悪かっただけの話だ」
「紫...」 「真九郎。お前はまだ、私に恋をしているか?」
「ああ。ずっと恋しているし、もうとっくに惚れてるよ」
「そうかそうか。ふふん、夕乃の奴め。詰めが甘いな」
「まぁこの調子だと、真九郎にあやつも泣かされた筈だ」
「そして、真九郎が夕乃を泣かせられるたった一つの理由、それは」
「この私だ!」
「む、紫...お、お前...どうして、そんなことが分かるんだ?」
「女の勘と真九郎と私が両想いという事実がなによりの証だ」
「は、ははは...敵わないなぁ、紫には」
「うむ。当然だな」 「だが、な...真九郎。今から聞く質問には真剣に答えてくれ」
「お前と出会ってからの数ヶ月、大変な事が沢山あった」
「竜士兄様のこと、理津のこと、切彦のこと、そして夕乃とのこと」
「その度に私もお前も窮地に陥りながら、なんとか切り抜けてこられた」
「真九郎の言葉とその想いに私は何度も救われた」
「だから、真九郎」
「真九郎が私に掛けてくれた言葉を、私は信じてもいいんだな?」
「ああ。その全部が俺の本心だ」
「そうか。なら、もう私は...何も怖くない」
紫はそこで一旦言葉を切り、ドアの向こうを凝視した。
「そこにいるのだろう。夕乃。話をしよう」
意を決した真九郎と紫が見守る中、遂に最後の扉が開かれた。 午後九時
「こんばんは。紫ちゃん」
「こんばんはだな。夕乃」
静かに扉を開け、真九郎と紫の部屋に入ってきた夕乃は真九郎を
一瞥することなく、ただ紫だけを見つめていた。
「真九郎さん。私は今から紫ちゃんとお話しをします」
「貴方がいると言いたいことも言えないので、外で待っていてください」
「分かりました」
「真九郎。話が終わったら電話するからな」
「自分の携帯を壊したのは一体誰ですかね?」
「し、しまった!」
慌てる紫に笑いかけた真九郎は、そのまま部屋を出ていった。 「ねぇねぇ真九郎君。紫ちゃん一人にして大丈夫なの?」
「夕乃ちゃん。今までに無いくらいヤバい感じで極まっちゃってるよ?」
「分かってます。でも、俺は夕乃さんのこと信じてますから」
「まぁ、真九郎君がそういうならいいんだけどさ〜」
廊下で事の顛末を見守る環と二、三言葉を交わした真九郎は、二人の
話し合いの邪魔にならないよう、五月雨荘から出て行き、夜の街中へと
歩き出していった。
真九郎が五月雨荘の門から出て行ったのを確認した紫と夕乃は
小さなちゃぶ台を挟み、顔をつきあわせた。
紫と夕乃の最終対決、まず先に口火を切ったのは紫だった。
「夕乃よ。真九郎とのことを話す前に一つ聞かせて欲しいことがある」
「なんですか?」
「夕乃は私のことをどう思っているのだ」
「どう思ってるって、それは...」
「恋敵か?それとも表と裏の因縁ある家系の子供か?」
答えにくい質問をする物だと、夕乃は心の中で苦笑した。
夕乃個人としては、紫の事を真九郎を巡る恋敵として認めている。
が、
「その聞き方であれば、恋敵でしたね。昔は」
「真九郎を手にした今は?」
「それが...分からないんです」 「真九郎さんを手に入れた後、貴女のことを伝えられました」
「貴女を手に入れる為に、私に自分と名字を一緒にしろと」
「私の懇願を最後まで撥ねつけた上で、貴女を捨てられないから、と」
「最後まで貴女の未来に対して責任があると、貴女を案じていました」
紫の質問に淡々と答えながら、夕乃は真九郎が自分に言い放った
言葉をかいつまんで紫に伝えた。
紫も真剣な表情で夕乃の一言一句を聞き漏らすまいとしていたが、
やはり真九郎と両想いだということが、よほど嬉しかったのか、時折
微かな笑みを浮かべていた。
それがまだ紫が真九郎を諦めないという心から来ているのか、あるいは
既に自分と真九郎の心は一つなのだと勝ち誇る心から来ているのかを
夕乃自身が知る術はなかった。 「そうか...。夕乃よ、だとすれば私は貴女に謝らなければならないな」
「すまぬ。私のせいで夕乃の心を深く傷つけてしまった」
紫は真九郎の本心が本当だった事に安堵しながらも、同時に自分の
せいで夕乃の恋が成就とはほど遠いものになったことを薄々感づいていた。
自分が他人の人生の足を引っ張ったことに対する責任の取り方を
紫はまだ知らない。
だから、精一杯の気持ちを込めて紫は夕乃に頭を下げた。
「よして下さい。そんなこと言われたってちっともうれしくありません」
頭を下げた紫を見つめながら、まるで苦虫を噛みつぶしたかのような
表情を浮かべた夕乃は、遠慮無く紫の謝意を否定した。
私のせいで、という紫の言葉に腹立たしさを感じたのもあるが、
やはり一番は、最後まで真九郎と自分の恋路の邪魔した紫への
冷たい怒りが夕乃の癇に障って仕方がなかった。
心の中から湧き上がるどす黒く、冷たい衝動に己の心を委ねながら
夕乃は言葉を選ぶことなく、紫を痛めつけ始めた。
紫も、先程までとは異なる異様な雰囲気に包まれた夕乃に思わず
萎縮しながら、懸命にその怒りを受け止めようと姿勢を正した。
おそらく、これが夕乃の心の闇。
そう見当をつけた紫は腹を括り、夕乃と向き合う覚悟を決めた。 「もっと簡単にいきましょうか。私は、貴女のことが憎いです」
「好きか嫌いか、と聞かれれば...そうですね、やっぱり嫌いです」
曖昧に濁された質問の答えを、あえてはっきりと断言した夕乃の瞳には
情の一欠片も残されていなかった。
人間味を一切廃しながらも、半端でない程の強烈な怨みの感情が
紫の無防備な心を叩き潰そうと一斉に襲いかかる。
「後から出てきて、私が生涯の伴侶と決めた真九郎さんを掻っ攫い」
「関わらなくてもいい事にまで首を突っ込ませ、死なせかけた」
「貴女が奥ノ院にずっといれば、真九郎さんは私だけを見てくれた」
「これが私が貴女を憎む理由」
夕乃の放つ恐ろしい負の感情の前に、紫は恐怖の涙を流した。
だが、心の底では夕乃が自分を憎む理由も理解できていた。
真九郎が家を出て一人で暮らす前は、夕乃が真九郎にとっての
心の支えだったのだろう。家族を失った真九郎が在りし日のように
心からの笑顔を取り戻すのはとても困難な事だったはずだ。
それは、真九郎の心の闇に踏み込んだ自分が一番分かっている。 「嫌いな理由というのは、これは私の個人的な感情ですけど...」
「同族嫌悪的な感情を私は貴女に感じています」
「同族、嫌悪?」
「私は、あまり自分を夕乃と似ていると感じたことはないが?」
やっとのことで絞り出したその声は夕乃の耳に届くことはない。
「愛する人の為に、自分を捨てられるか、あるいはどれだけ尽くせるか」
「!」
「また、自分以外の女に真九郎さんを絶対に渡さないという覚悟」
「今の貴女は否定するかも知れませんが、じきにそうなります」
紫は今この時ほど、相手の嘘を見抜く己の直感力の高さを恨んだことは
なかった。
自分に対して、あらんかぎりの否定の言葉を投げつける夕乃の顔が
いつの間にか能面から一人の女に戻り、悔し涙をボロボロと流している。
真九郎無しの人生なんて考えられない。
なのに、なんで真九郎は、私だけを見てくれないのだろう。
考えていることは同じでも、真九郎と紫によって夕乃にもたらされた
事実はあまりにも残酷過ぎた。 「でも、一番は、私よりも先に真九郎さんの心を手に入れたから」
「これが私が貴女を嫌う理由ですね」
「そうか...」
そう、夕乃に言われなくても全部理解しているのだ。
自分が奥ノ院の宿命から逃げたせいで夕乃は苦しんでいる。
真九郎の心の痛みも、弱さも、悲しみも全部受け入れて、共に歩く
未来の為に必死になって、夕乃は真九郎に尽くしてきた。
そして、その努力が実るあと一歩というところで、自分が
真九郎の心を癒やしてしまった。
結果、皮肉なことにそれが真九郎が紫を好きになる決定打となった。
紫もこの偶然に巻き込まれたことで、真九郎への恋が芽生え、自身の
運命すら変えることになったのだ。
夕乃でなくても、こんな酷い仕打ちがあっていいものだろうか。
いや、そんな道理はどこを探しても見当たらない。
「単刀直入に言わせて頂きます。紫さん、真九郎さんを諦めて下さい」
「あの人と名を同じくするのは私だけでいいんです」
故に夕乃は、目の前にいる全ての元凶から真九郎を取り戻そうと
必死になっていた。 例え、紫の心が砕けようと夕乃が止まることはない。
何故なら今の夕乃は恋に狂ってまともな精神状態ではないのだから。
「貴女が真九郎さんと添い遂げようとすると、また軋轢が生じます」
「わかりやすく言うと、九鳳院の九割が今度は真九郎さんの敵になります」
「崩月を預かる身としては、これ以上の厄介は抱え込みたくありませんが」
「まぁ貴女の二番目のお兄さんは喜々として真九郎さんを嬲るでしょうね」
九鳳院竜士。
かつて自分を犯そうとした、実の兄にして卑劣漢。
あの一件の後、外国に留学という名目で九鳳院から放り出されたが、
どうでもいいプライドだけが肥大したろくでなしが、自分をボコボコにした
真九郎に対して抱く感情と言ったらただ一つしか無い。
「そんなこと!」
夕乃の言う自分と真九郎が迎える最悪の未来も絶対に起きないという
保障も可能性もどこにもない。
否定したいのに、今の自分にはそれを覆すことができない。
紫は夕乃の言葉に虚勢を張るしかなかった。 「いいえ。今度ばかりはそうなります」
「だって、貴女が人質に取られれば真九郎さんは何も出来なくなるからです」
「そうなる前に、貴女は現実を知るべきでは?」
「くっ...だが、そ、そうなるとはまだ決まったわけでは...」
「なら、今度は自分から進んで九鳳院の役目を果すと?」
「私としても、それが一番いいなぁとは考えましたけどね」
「でも、貴女。死にたくないでしょう?」
「正確に言えば、真九郎さんと死で引き裂かれるのが怖くて堪らない」
何も出来ない自分の非力さをあざ笑うかのように夕乃は紫の選択肢を、
一つずつ理詰めで潰していく。
紫が考えて、実際に彼女が今からでも実行できる解決策を否定する。
「ううっ...ど、どうしてそんな事ばかり夕乃は私に言うのだ...」
「言ったでしょう。私は貴女のことが憎くて嫌いなんだって」
「......」
「どうしたんですか?黙っていては話が先に進みませんよ?」
これ以上無いほど卑怯なやり方で、夕乃は徹底的に紫を否定し続けた。 「夕乃は、卑怯だ!」
「私だって本当は九鳳院みたいな所に生まれたくなかった!」
「普通の家庭に生まれて、普通の家族と普通に過ごしたかった!」
「友達を作って!好きな人に恋をして!楽しいこと一杯やって!」
「家族が一人も欠ける事無く、全員で仲良くしたかった!」
「そんなことを叫んでも、現実は変わりませんよ?」
夕乃は酷薄な笑みを浮かべながら、紫の心の叫びを一蹴し続ける。
だが、紫は未だに真九郎のことを諦めない。
それが、夕乃の心を更にかき乱し、苛立たせる。
紫の心をへし折って、二度と崩月に近寄らせないようにするつもりが、
いつのまにか、その瞳の中にある嘘偽りのない想いに絆されそうになる。
(いえ、そんなことはありえません...)
(だって、私は...真九郎さんは『裏十三家』なんですから...)
頭を振りながら、これ以上紫を否定しないでくれと心で泣く自分を
無理矢理に心の奥底に封じた夕乃は、最後の仕上げとばかりに
紫に向き直って、トドメを刺しにかかった。 「貴女は九鳳院で私は崩月の一人娘」
「そして真九郎さんは私達崩月が育て上げた戦鬼」
「いずれ、あの人は近いうちに望もうと望むまいと人を殺める筈です」
「どこかの財閥と関わったばかりに...なんてことでしょう」
「夕乃...お前....!!」
遂に一線を越えた発言をしてしまった夕乃に対して、今まで否定
されるがままだった紫も、冷静さをかなぐり捨てて激昂した。
「さぁ、それでも貴女は変わり果てた真九郎さんを愛せますか?」
「貴女を救う為に、貴女の家族を殺そうとする殺人鬼を」
声を詰まらせながら、それでも懸命に夕乃は虚勢を張り続けていた。 夕乃が真九郎を信じるように紫もまた真九郎のことを信じている。
優柔不断ですぐに泣くが、本当は誰よりも弱さに逃げずに立ち向かう
勇気を持つ男。紫にとって真九郎はそんな男だった。
だから、迷うことなく自信を持って答えを出せる。
自分は真九郎を信じるという、たった一つの真実を。
「私は...真九郎が人を殺そうとするなんて想像したくない」
「だが、私は...」
「自分が助かりたいが為に家族を見捨てるような選択はしない!!」
「真九郎が私を救う為に、家族を殺すというなら私が死ぬ!」
「どんな真九郎でも私が好きになった真九郎はたった一人だ!」
「断じて、易々と人を殺すような殺人鬼ではない!」
「真九郎は変わらない!だから!私は真九郎を愛し続ける!」
「夕乃!お前もそうだろう?!そんな真九郎が大好きなのだろう?!」 完敗だった。
ここまで堂々と高潔に、純粋に真九郎への想いを叫ばれては、もう
これ以上、夕乃が紫を否定することは出来なくなってしまった。
紫は目をそらさない。
この会話が始まってからずっと、ずっと現実から目をそらさずにいる。
おそらく、この子は真九郎がこの先、人を殺めたとしても、たとえ
真九郎が自分を拒絶したとしても、きっと真九郎から離れないだろう。
「うっ...うううっ...も、もうイヤ...」
先に、音を上げたのは夕乃だった。
最初から分かっていた。
外道に徹し、真九郎のことを諦めさせようとしても、紫は決して
真九郎を諦めないということも、自分がそんな紫を無自覚のうちに
好きになっていたということも....。
夕乃が心の底から真九郎を嫌いになれないように、紫の事も心の底から
嫌うことが出来ないことなんて、最初からわかりきってたことなのだから。
「諦めてよぉ...私から、真九郎さんを...大好きな人を奪わないで...」
「夕乃...もういい!もういいんだ!」
「夕乃が望むなら、私は真九郎にとっての一番でなくてもいい...」
「紫ちゃん...」
涙をぬぐい、ようやく曇りなき瞳で紫と相対する夕乃に紫は
更に自分がどうしたいのかを、熱意を込めて語り始めた。 「夕乃!私は九鳳院だ。それは変えようがない!」
「だが、九鳳院以上に真九郎が大事なのが私の本心だ!」
「真九郎がいれば、私は何でも出来る。不可能だって可能にしてみせる」
「いや、それ以前に私は、私の力で真九郎の力になってやりたい!」
真九郎が自分を未来へと導いてくれた。
ならばこそ、今度は自分が真九郎の望む未来へとその手を引いていきたい。
夕乃も、紫も、その心の根底にあるのはそれだけだった。
ただ、その想いが強すぎて、誰とも分かち合えないと思い込んでいた。
しかし、もう二人の間にあるわだかまりは既に溶けていた。
今ここにあるのは互いを認める素直な気持ちと心だけだった。 「夕乃。私を真九郎の側にいさせてくれ!」
「どんな形でも良い!私は真九郎の側にいるのが一番の幸せなんだ」
そうだ。私は今までなにを遠回りしていたんだろう。
たとえ真九郎と結ばれなくても、ずっと、どんな形であっても
愛する人を支えたい。そう思っていたはずだったのに.....。
「紫ちゃん。今の言葉に嘘はないですか?」
「無い!」
「一人の女として、私にそれを死ぬまでずっと誓えますか?」
「誓う!」
一番でなくてもいい。ただ愛する者の側にずっといたい。
紫の言葉に夕乃の心は、遂に陥落したのだった。
「頼む夕乃。この紫の一生に一度のお願いだ」
「私から、私が愛する紅真九郎を奪わないでくれ!」 畳に手をつき、頭をつけた土下座をする紫を起こしながら、夕乃は
僅かに残った涙をぬぐい、最後に残った心の闇を綺麗に清算した。
真九郎は結局自分だけを見てくれなかった。
けれど...
「...完敗ですよ。はーぁ、本当に負けました」
「ゆ、夕乃?」
「貴女の気持ち、本当に分かりました」
今なら、紫の気持ちが分かるかも知れない。
だって、こんなに素敵な女性ならいつまでも一緒に居たくなる筈だ。
臆することなく心の闇に踏み込んできて、いつの間にかその闇を
綺麗に晴らして、前へと進む力と決意を与えてくれる。
そんな九鳳院紫という少女に崩月夕乃は心惹かれてしまったのだ。
「紫ちゃん。いつか私と一緒に真九郎さんと暮らしませんか?」
「ほ、本当にいいのか?!」
「ただ、真九郎さんの一番目の奥さんの座は譲れません」
「それでもいいなら、私は、崩月は貴女を家族に迎え入れます」
「夕乃〜!」 夕乃の豹変に戸惑いながらも、紫は自分が認められた嬉しさを
隠すことなく夕乃へとぶつけた。
夕乃も紫に対して抱いていた心の闇がなくなった今、目の前の
少女に対して、かつて真九郎に対して抱いていた庇護欲のような
感情がわき上がってくることを自覚した。
「私は、なんていうか...不器用で、感情的ですけど」
「貴女と上手くやっていけるように、ちゃ、ちゃんと努力します」
「だから、もし貴女さえ良ければ...」
「私を姉のように思ってくれても構いません」
これから先、どれくらい紫と一緒に過ごせるのかは分からない。
だけど...
「貴女を嫌う理由も憎む理由も、もう無くなりましたから」
紫との関係を一新するのなら、姉妹という関係が一番だと夕乃は思った。
「ほ、本当に良いのか?夕乃」
「わた、私の気が変わらないうちに早く返事をして下さい!」
「ああ。夕乃がこれから私の姉になってくれるなら大賛成だ!」
「よろしく頼む。夕乃!」 「さて、そうと決まれば騎馬に連絡せねば」
「何を連絡するんですか?」
床に散らばる携帯電話の残骸を見遣りながら、紫に何気なく尋ねる。
これから私も真九郎さんのように、紫ちゃんに振り回される毎日を
送るんだろうなぁ。としみじみと思いながら物思いに耽る夕乃が
真九郎の部屋の電話に手をかけたその時...
「決まっておろう。真九郎を九鳳院の近衛隊に入れるのだ」
「はぁ?!」
事もなげに、さらりととんでもないことを紫は言い放った。
「何をそんなに驚いておるのだ、夕乃?」
「驚きますよ...大体、そんなこと急に言われたって...」
「ふくりこうせいとやらは九鳳院は世界で一番しっかりしているぞ?」
「ダメです!まだ真九郎さんは崩月流の修行が終わってません」
「それに、近衛隊に真九郎さんが入れば一緒にいられる時間が減りますよ」
「なに?!そ、それはイヤだ。ううむ、やはり崩月の修行が先かぁ」
「そ、そうですよ」 紫は実に残念そうな表情を浮かべながらも、お父様に真九郎のことを
認めさせるには実に良い機会だったのだがなぁ。と未練がましく
夕乃に抗議していた。
確かに今の真九郎の実力なら、そこそこ通用はするだろうが
九鳳院とて、最終学歴が中卒の近衛兵を置いておきたくないだろう。
せめて、真九郎が卒業するまで保留するというのが妥当な判断だろう。
「この話は、これでおわ...」
「そうだ!なら、夕乃が近衛隊に入るのはどうだ?」
「私?いや、だって私」
いきなり自分に矛先を向ける紫に対して、夕乃はその意思はないと
説明しようとした。しかし...
「花嫁修業にはもってこいの場所だぞ?」
「給料も良い。人脈も出来る。暇なときはいくらでも休暇が取れるぞ?」
どのみち、高校を卒業したら崩月の修行の傍らで就職活動も始めなければ
ならないだろう。
しかし、何度も面接を受けるのも骨折りだし、崩月を名乗り続ける以上、
命を狙う輩に絡まれる不安もある。
そういうことを踏まえれば、紫の申し出はとてもありがたい。
「...ちなみに育児休暇って取れますか?」
「まぁ、そこは応相談という奴だ。働き次第だろうな」
いずれ真九郎も揉め事処理屋からの転職を考えるはずだろう。
そうなった時、真九郎と一緒に紫を守りながら働くというのも
刺激的で悪くないかもしれない。
「それなら、少し待ってて貰えませんか?」
「うむ。決心がついたら私に教えてくれ。騎馬に話は通しておく」
相容れない表と裏であるにも関わらず、彼女達は笑い合っていた。
まるでこれから先の人生には幸せなことしか訪れないのだというように、
紫と夕乃はいつまでも笑い続けていた。
「あとの問題は、九鳳院の遺伝的な問題だけだな」
「...紫ちゃんのお兄さん達からお世継ぎが産まれればいいですね」
「うむ。そうなれば、私も真九郎の子供を安心して身籠もれる」 真九郎の夢に付き従う身として、これから降りかかってくる困難が
どれだけ無理難題であろうとも、きっと乗り越えて見せる。
何故ならここにいるのは愛の力で運命を変えてきた者達だからだ。
「色々、大変になりますけど頑張りましょうね。紫ちゃん」
「ああ。これから迷惑をかけるが、私も夕乃と真九郎の支えになって見せる」
この世界は残酷で救いがない。
だから人は誰かと寄り添うことで、幸せを得る為に戦う決意を決められる。
これは、いつか来る終わりの時まで愛を叫びながら生きた者達の物語。
どこまでもまっすぐに自分の意思を貫いた彼等の未来は...果たして
〜紫の嫁入り 後編に続く〜 伊南屋さーん。たまにはここに戻ってきてss書いて欲しいです。 【悲報】神メーカーやっちまんさん、誰も求めてないのにシネマティックメーカーに謎リニューアルしたあげく僅か2ヶ月で消える
ぺろり(@yarichiman)さん _ X
/yarichiman
ロンメル足立(@rommeladachi)さん _ X
/rommeladachi