(い、痛っ…!! おなか……!? うそ、ちょっとこれ、嘘でしょ? やば… 漏れ…? あっ ちょ、待って、まってよ……! ああああっ……!)
真夏だった。車内はもちろんクーラー効いてるけど、汗がすごく出た。逆に冬みたいに寒く感じた。
おなかさすっても、何にもならなかった。
顔も、手も、背中も。
痛さと怖さで、脚が震えてた。
その時は、座れなかった日でね。
立ったまま、周りのサラリーマンとかにも聞こえそうな、ぐきゅきゅ…って変な音がお腹からしてくるの。
それと一緒に、言葉にできないくらいの痛み。
やわらかい、ヤバいやつがどばっと漏れそうなお腹抱えて、もちろん周りは人でぎゅーぎゅー詰めで。
もし電車の急ブレーキとか、誰かがバランス崩して私の方へ倒れ掛かってきたらとか……
たぶんその時の自分の顔は、すごい不安で酷い感じだっただろうと思う。
おまけに例の遊びで、その日の下着はかなり際どい、えっちなのを履いててさ。
うんち漏らしちゃったりなんかしたら、絶対ぜんぶは受け止めてくれなかったと思う。
フツーの履いてたら、最悪そこでとりあえずは止まって、匂いが周りに広がってくだけじゃない?
それだって絶対イヤだけど……
この時はもっと上。
次の駅までこれ我慢しきれなかったら、電車の床に私のうんち、まき散らしちゃう……! って、
怖くて怖くて、誰かに助けてほしくて、でも絶対誰にもすがれない、自力で何とかしないといけないって状況。
突然、人生の崖っぷちに立たされた。
おしりが勝手に開きそうになるの、必死でこらえてた。
電車のドアのすぐ近くだったけど、トンネルに入って、窓に写った自分の顔、ホントに酷い目をしてた。
それから何分くらいかかったっけな……
いつもは絶対降りない途中の駅に停まったとき、なんとか降りようとして、廻りの大人をかき分けて反対の扉に向かった。
もう一つ先の、自分の方が開く駅まで我慢して行くか……一か八かって、ほとんど賭けだった。
どうにか体が通って、ホームに出たときはこれで助かった、と思った。
外は真夏で暑いはずなんだけど、すごく寒い雪国から、南国のあたたかなビーチに来たみたいな、解放された感じだった。
ホント、自分をほめてあげたい。
でもそこで終わりじゃない。
電車から出てほっとしたけど…それは一瞬、もう涙目で、必死過ぎて、そこからあんまり詳しいこと覚えてない。
頭がおかしくなりそうなお腹の痛みは、全然マシにはなってくれなくて……
ゴールはまだまだ先で、ホームから駅の階段をゆっくり上がって、そんなきれいじゃないトイレにやっとで駆け込んだ。