蝉川夏哉「異世界居酒屋のぶ五杯目」から

小リュービクは、七つといったはずだ。十二も挙げろとは言っていない。
腕を組んだままパトリッツィアの方をじっと見つめていた小リュービクの肩が、ぴく
りと震える。
 身構えるパトリッツィアを前に、小リュービクはさっきまでの厳しい顔つきからは
予想もできないほど口を大きく開けて、笑い始めた。
「くくく……ははははははは! お前さん、いや、パトリッツィアだったか。凄いな。
いや、素晴らしい。実に素晴らしい舌を持っている。こいつは傑作だ」
 腹をよじらせて笑い転げる小リュービクを、パトリッツィアは呆気にとられて、ただ
ただ見つめることしかできない。
「パトリッツィア、お前さんの言う通りだ。このシチューには確かにそれだけの調味料
が含まれている。まさか砂糖まで言い当てられるとは思わなかったけれどな」
「あ、はい、いえ、たまたまです」

古都最大の老舗宿を受け継いだばかりの若き当主と新米女給のやりとり。
部下の料理人たちが七つまで答えた調味料を全て当てられたことに、当主が驚きつつも喜んでいる場面でした。

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