秋田禎信「ベティ・ザ・キッド(下巻)」から

 砲声が響いた。
 爆発、そして風を切る回転音。衝撃が砂を穿ち、大地の奥から振動させるような縦向
きの地響き。
 横目でだけ、ロングストライドは探った。ビッグフィッシュが再度、砲を発射したと
ころだった。二発目が旋回しーーその砲弾を目で追えたわけではないがーー
長い距離を隔て、ここいらかと思って予測したあたりで巨大な砂柱を舞い上がらせる。
 その砂を割ってメルカバが飛び出した。ビッグフィッシュと相対する二隻目の船。キ
ッドの船だ。
 両船の間にはまだ距離がある。キッドの船は機敏に砂丘へと割り込んで、ビッグフィ
ッシュが再装填するまでに身を隠した。

09〜10年にかけて角川の「ザ・スニーカー」連載されていたラノベを文庫化したもので。
札付きの賞金首ロングストライドに保安官の父親を殺され、濡れ衣を着せられ追われる
身となった少女ベティが変装して賞金稼ぎキッドを名乗り、仇討ちと父の死の原因とな
った異世界ヘヴンの謎を解くことを目的に砂漠を冒険するというストーリー。
ラノベらしからぬ硬派さと、上下巻全9話の短い尺で世界観をここまで描き切った筆力は
まさに感嘆の一言。私的に今でもアニメ化を期待している作品の一つです。        
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