謎の彼女Xエロパロ2
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0001名無しさん@ピンキー2013/01/02(水) 17:01:47.04ID:3j/JoFmv
age進行sage進行どちらでもかまいませんが作品投下時にはageてください。
恥ずかしい方はageなくても結構です。

【よくある質問】
エロパロ書くの初めてだけど・・・→誰でも初めてはあるもの、まずは書いてみる事が大事
作品投下してもいい?      →あなたの作品が投下されるだけで多くの方が喜びます。
短くて出来が悪いんだけど・・・ →当店は誰でもウェルカム、作品の質に貴賎はありません。
荒らしが来た!          →スルー推奨。
0598名無しさん@ピンキー2016/04/05(火) 18:41:57.31ID:TH4tsGr3
午後の授業、教室内は漫然とした空気に満ちていた。
クラスメイト達には先生の話に集中する様子はなく、うつらうつらとしている人も何人かいる。
午後の日差しは柔らかく、まだ春先の空気がふわりと舞っていた。
わたしも授業から気をそらし、何とは無しに窓の方向を見やる。
窓からの光が何かを語りかけるように感じた。
光の前には彼の横顔があった。
眠そうな眼をしながら、頬杖をつく彼。
わたしは、彼の姿をなんとなく見ていた。
ただ、ぼんやりと。
突然、わたしの中に、何かが起こった。
何かが起こり、自分では思いもつかないような、突拍子もない考えが浮かんだ。
風がわたしにそれを吹き込んだのだろうか。
誰かの声が聞こえたのかも知れない。
少なくともわたしにはそう感じられた。
その声はこう言った。
彼が、そうだと。
彼が、わたしの…。
わたしの心は、それを理解した。
そして心がふわりと舞った。
目の前が拓けたように感じて、わたしは自分自身、それがとても可笑しくて、笑った。


わたしは、なぜ椿くんの事を好きなのか。
それを考えるとき、わたしはこのときのことを思い出す。
なぜ、彼を好きになったのか。
結局のところ、自分でもなぜかはわからない。
ただ、好きなのだ。
理由もなく、ただ、どうしようもなく。
この不思議な出来事を思うと、心が震える。
わたしに起こった小さな変化は、愛おしい小さな奇跡になったから。
だけど最近になって、わたしは自分の気持ちにひとつの説明をつけることに成功した。
つまり、わたしは、椿くんの人生の一部になりたいと、そう思ってるんだわ。

本当は、人が人を好きになるのに理由なんてないのかも知れない。
正解なんてないんだと思う。
絆を結ぶ理由にも、そのカタチにも、きっと。


<あとがき>
作品への愛を昇華させるため、初めて2次創作に手を出してみました。
謎カノは基本椿くん視点なので、物語冒頭をみっこん視点で表現してみました。
この作品で、誰かの心が潤ったならとても嬉しいです。
感想をお待ちしています。
0600名無しさん@ピンキー2016/04/08(金) 01:08:45.40ID:9R6PN7h1
>>598
GJ!

丁寧で優しい文章だと思います。

ただ、個人的にはもう少し改行が多い方が
読みやすいと思います。
0601597-5982016/04/10(日) 18:11:28.87ID:UTl83EtL
読んでいただきありがとうございました。
またいずれ書いてみたいと思います。
その時はよろしくお願いします。
0602 ◆URBRTbKUxc 2016/05/25(水) 00:03:30.33ID:XGQo5IrF
お久しぶりです。
>>597-598氏の「第一話導入」を美しくお書きになられたのですね。
同じく丁寧だと思いました。
0603名無しさん@ピンキー2016/11/18(金) 09:24:28.29ID:+2lU1nPk
久しぶりに来たけども半年近く書き込みが無いのは寂しいね
0604名無しさん@ピンキー2016/11/22(火) 01:14:07.12ID:WL+uc7yB
しょうがないね、管理人さん東方のSS書いてるみたいだし
0605 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:36:01.92ID:daNluOMO
お久しぶりです。大分間が空いてしまいましたが新作出来ました。

【謎のお月見どろぼう】

今日は十五夜。中秋の名月とも呼ばれるこの日、俺、椿は卜部の誘いに乗り放課後いつものコンクリ橋の前で待ち合わせをしていた。
まだ残暑厳しいながらも風が心地よい。さながら風流、とでも言うべきだろうか。こういう日にデートするというのは全国の少年少女からしてもなんとも羨ましい話だろう。
「お待たせ、椿君」
振り返ると其処には卜部がいた。摩訶不思議な幾何学模様をシャツやスカートに纏い、大きなリュックを背負って肩掛け鞄にはラムネ菓子のおまけにありそうなファンシーな玩具やカンバッジを山ほど付けている。
こういう彼女って、何処か新鮮だ。そんな想いに浸っていると卜部が手を引く。
「行きましょう、椿君」
「おう、でも何処に行くんだ?」
卜部に聞いても答えない。彼女はスタスタ歩いて行ってしまった。
俺は慌てて後を追うと、其処には少し大きめのマーケットがあった。
俺達二人は、中に入ることにした。

--
0606 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:36:28.07ID:daNluOMO
中に入ると、卜部は真っ先にお菓子コーナーに入っていった。買い物カゴにはこまごました駄菓子やファミリーサイズ菓子の類を入れている。
「そんなに買って、どうするんだ?」俺は不思議に思って尋ねる。
「ヒミツ。でもきっと楽しい事だから」
卜部はお菓子コーナーで買い物を済ませると安い缶ジュースを山ほどカゴに取り、カートに載せた。
俺はそんな彼女を不安気に見つめながら彼女の後を追い、レジに進んだ。果たしてリュックの中は一杯になってしまった。
次に俺達が向かった先はいつもの公園だった。
卜部は先程の菓子を小さな袋に詰め込んでいる。小さな子供達に手渡すような袋だが……これが卜部の言っていた楽しい事、なのか?
袋に菓子を詰め終わった卜部は不思議な模様のビニルシートを広げ、そこに座り、更にはプラカードらしきものを取り出した。カードには『お月見どろぼう 一人一つまで』と書かれている。
「卜部、お月見どろぼうって……何?」
卜部は答えない。やれやれと頭を掻きながら遠くで遊ぶ子供達を眺めていると、ぽつりと卜部が口を開いた。
「今夜、私達は不思議な体験をするわ」
不思議な体験?何だろう。突然俺達が空を飛んだりするわけじゃなさそうだが。
しばらくすると幾人かの子供達がこちらに集まり卜部に声をかけた。
「お姉ちゃん、これ貰っていいの?」
「いいよ!タダだから仲良く取っていってね」
卜部は笑顔で答える。続いて卜部は奇妙な事を口走った。
「その代わり、君のポケットに入ってるものをちょうだい?」
子供達は、ぎょっとした様子で恐る恐るポケットに手を入れた。
ポケットに何が入っているんだ?怪訝にその様子を眺めていると子供達はそっとポケットに入れた手を抜き、握った手をほどいた。
その掌には小さな光る石があった。
「ありがとう」卜部はそう言うと小さなバケツにその石を入れた。
石……?これが不思議な体験とどう関係するんだ?
しばらく眺めていると、お月見どろぼうに参加した子供達は皆、ポケットやポーチ、肩掛けカバン、卜部が言い当てたあちこちの場所に小さな光る石があった。
日が暮れる頃には全ての菓子がなくなり、バケツの中も石で一杯になっていた。
「卜部、この石……何?」
俺は卜部の行動全てが謎で仕方なかった。
卜部はその場を片付けながら不思議な事を告げた。
「今夜零時に、神社の前に来てね」
それが不思議な体験なのか?卜部の言う不思議な体験とは一体何だろうか?
「じゃ、また今晩ね」
卜部はそのまま紫に暮れる路地にフェードアウトした。
俺は卜部を見送ると、仕方なく帰路についた。
家につく頃には、既に夜の帳が降りていた。

--
0607 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:36:49.96ID:daNluOMO
夕食を食べ終え、夜をぼやぼや過ごし、風呂にも入ると問題の時間が近づいてきた。
俺は父親と姉に気付かれないよう抜き足差し足で鍵をポケットに忍ばせ家を出た。
風一つない月の輝く夜。神社へと路地を抜け長い道を進み続けると街灯が疎らになる。
次第に漆黒に包まれ、足元も見えなくなる程に暗くなると神社の鳥居が見えてきた。
人影が見える。卜部だ。そう確信する以前に卜部以外に考えられなかった。
「よう卜部、お待たせ」
「大丈夫、今来たところ」
俺はふと自分の左腕を見る。腕時計は23時58分を指していた。例の時間まであと僅かである。
「此処で、何が起こるんだ?」
「シッ、そろそろくる頃よ」
卜部が暗い路地の向こうを見つめる。その時、突然冷たい風が吹き荒れ、街灯から光が消え、ぞっとするような不安感に襲われた。
暫くすると路地の遠くに明かりが見えた。提灯?しかも行列だ。
誰なんだろう、と思っているとその大柄な人達は卜部の前にやって来た。恐ろしい顔の男、紙のお面をした細長い男、姿がよく見えないが大柄な男の影もあった。
やがてその行列が卜部の前で止まると、一番先頭にいた男が口を開いた。
「ワシ等を呼んだのは、お前さんかい」
卜部は「うん!」と元気よく返事をした。
「頼まれてた物はこれでいい?」
卜部は先程の光る石が詰まったバケツを手渡した。バケツの中の石は、不思議な淡い光を放っている。
「スマンのう、ほんじゃあこれ持って行きなよ」
バケツの代わりに渡された包みは何処か古めかしく、怪しげな雰囲気を漂わせていた。
「では、さらばじゃ」男達はそのまま去ると風は止み、やがて街灯に光が戻った。
後に残るは、俺達二人と何も変わらない神社前の路地だった。

--
0608 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:37:13.33ID:daNluOMO
「今の……なんだったんだ?」
俺は恐る恐る口を開いた。卜部は嬉々としながら先程の包みを大切そうに抱えている。
「神様よ、それも異形の神々」
卜部は踵(きびす)を返して歩き出した。俺も慌てて卜部の後を追う。
「あの神様達は流れ着いた神様だったり、忘れ去られた神様だったりするの」
卜部は説明を続ける。流れ着いた……漂着神というのは昔聞いた事があったが、関係あるのだろうか?
「あの神様達は鬼門を通じて旅を続けているの、今日偶然にも鬼門が開いて、私達に会える事となったってわけ……神様は子供達が大好きだから、十五夜というイベントには恰好の旅日和って事になるわね」
神様の好きなものは子供達……そうだったのか。
「ねえ椿君、今晩あなたの部屋に行ってもいい?」
「えっ、俺の部屋?う、うん……」
卜部は包みを持ち上げて俺に見せた。
「この包みの中身、気になるでしょ?」
「あ、ああ」
そういえばあの包みは何だったのだろうか。そんな事を考えながら歩き続けていると果たして俺の家の前に辿り着いた。明かりは既に消えている。
俺は鍵を開けると卜部を中に誘い、二人でゆっくりと階段を上がって俺の部屋へとやってきた。

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0609 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:37:33.10ID:daNluOMO
「で、何なんだそれ?」
「これ?」卜部は包みの封を破いて慎重に中身を取り出した。
高さ20センチ位の、中心に目玉の様な物を埋め込まれたその怪しげな置物には、頂上に大きな水晶球が嵌め込まれている。
「幻燈機よ」卜部はその置物を嬉々としながら眺めている。
「げん……何それ?」俺はその置物を眺めながら首を傾げている。
「これはね、繋がれた人の意識や昔観た夢を映像として視れる装置ね、これを使えば私達の未来もある程度垣間見れるかと思ってね?神様にお願いしたの」
「この装置で俺達の未来が……」俺は一抹の不安と期待を感じた。
「さあ、始めましょう……椿君、スクリーンある?」
「おう、あるぜ」
俺は押入れから映写機用のスクリーンを取り出して壁に掛けた。
卜部はその間に幻燈機からホースを取り出して、中の皿に炭の塊の様な物と何かの乾燥した葉を詰め込んだ。
「準備出来たよ」卜部はホースの端のキセルの吸口にも似た物を咥えながら俺に手招きをする。
俺が卜部のすぐ横に座ると、卜部はマッチを擦って火を点けた。
「椿君、私の手を握ったら絶対に離さないでね」
「おう」俺は手が汗ばむ程に卜部の手をしっかり握った。
卜部の震える手がマッチで炭に火を灯す。
スクリーンが次第に白け、冥い中にノイズが入った。
やがて幻燈機からは幻燈の始まりを報せるカウントダウンが映し出された。

『3』

『2』

『1』

突然の爆発的な閃光と共に幻燈機は真昼間の如く輝きを放った。
俺達は突然の閃光に瞼を瞑る。
無限に続くかの様な光の膨張。重なりゆく二人の意識。
ざわめきの中に俺達は誰かの声を聞いたような気がした。
声は無数の風となり、頭の中を突き抜けていく。
雑多な思念。

静寂。

--
0610 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:37:52.97ID:daNluOMO
原初、俺達は小さな受精卵から始まった。
全く違う遺伝子から織り成された1つずつの奇跡。
次第に細胞分裂を続けるそれからはやがて胚が生まれ、人の形を成す。
緑。新緑の匂いと共に俺達は都立風見台高校で出会った。駆け出しの道は真っさらの白。
二人で歩けば歩く程に景色に色がつき、やがて大都市となった。
ガラクタを継ぎ接ぎした様な不思議な街には大勢の人々が集う。
山高帽子を被った人。狐の面を被った人。眼鏡をかけてバッグに人形を吊るした人。
人の形をしているのかすら怪しい者もいた。
看板の絵、大きな客寄せ人形、全てが此方を見つめている様な錯覚すら覚える。
ラスタスクロールする様な雲が風に流されると、すぐ横を路面電車がゆっくりと走っていく。
上野。丘。諏訪野。クラスメイト達が此方に手を振っている。
それでも俺達は真っ直ぐに進んでいく。道は、今出来たばかりの様に綺麗に舗装されていた。
これが俺達の道。俺達にしか作れない道。
そして道の終わりが近づくと、俺達は息を合わせて脚に力を込めた。

今、俺達は大きな翼で羽ばたいている。
最早道など必要無くなった俺達は自由な風に乗って脚で走るよりも高速に空を飛んでいる。
次第に街が遠くなる。街中の人々の意識が此方に手を振っている気がした。
俺達を光が心地良く包んだ。

『TO BE CONTINUED』

--
0611 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:38:10.82ID:daNluOMO
瞼を静かに開くと、既に幻燈は終わっていた。
「お、終わり?」俺は怪訝そうに卜部に尋ねた。
「終わり」卜部はそれだけ言うとそっと握った手を離した。
「ただの玩具にしてはよく出来ているんじゃないかしら」卜部は何も映っていないスクリーンを眺めている。
暫しの静寂。俺は何が起こったのかすら理解できず卜部を見つめていた。
「……本当は、こんな幻燈機要らなかったのかもね」
「え?ど、どうして?」
「そうじゃない?だって、私達の道が約束されている事なんて分かりきった事じゃない」
慥かにそうだけれど。だからと言ってそんな大切な物……。
「で、その幻燈機は捨てちゃうのか?」俺は卜部に尋ねた。
「捨てないわ、この幻燈機は宝物だし」卜部は大切そうに幻燈機を片付け、リュックにしまった。
「それに、あの幻燈を観た時、椿君がとっても嬉しそうにしていたから」
嬉しい……そうか、あの時俺は嬉しかったんだ。
ふと、卜部が俺の口に指を突っ込んだ。掻き出されたよだれを卜部が舐めた時、卜部が紅潮したのが暗がりの中でも分かった。
「すごく……甘い」卜部はぽつりと声を漏らした。
卜部はすっくと立ち上がるとそっと俺の手を握った。
「椿君……もしまた観たくなったら私に教えて」
「おう」
次はどんな夢が観れるのだろうか。
二人の恋路は、十五夜に輝く満月のみが知るのかもしれない。

【謎のお月見どろぼう -Fin-】
0612 ◆URBRTbKUxc 2017/01/09(月) 20:38:39.19ID:daNluOMO
【謎のお月見どろぼう -あとがき-】
お久しぶりです。タバコの消費量が増えた◆URBRTbKUxcです。
つい1年前に、新装版ディスコミュニケーションを全巻買いました。内容としてはアングラに近い何かを感じ、思わず読み耽ってしまった程でした。
植芝先生はつげ義春やYMOがお好きだったんですね。意外にも趣味がマッチした事も読み進めやすかった事とある程度関与しているのではないでしょうか。
今回登場したキーアイテム、幻燈機もやはりディスコミから引っ張ってきたものです。
原初、子供というのは神様の使いだったそうですね。その為お月見どろぼうというイベントを通じて神々と触れ合う機会を与えてみようと発案しました。
ところで、素敵な夢を観る女の子って可愛いと思いませんか?
とまあ今回はそういうお話でした。
0614名無しさん@ピンキー2017/01/10(火) 22:33:16.80ID:sQu+JHBy
GJ

まさかまだ謎カノのssを読めるとは思わなかったので嬉しいです。
0615597-5982017/02/16(木) 21:44:08.81ID:XG0/hk6b
ナゾカノってよりむしろディスコミ
でもGJ
0616 ◆URBRTbKUxc 2017/05/12(金) 18:54:47.33ID:dPeSixci
お久しぶりです。もう此処では2年目ですね。
ちょっと変わった事をしてみます。

【謎の色迷日記】

PREAMBLE:
KONO NIKKI HA ORE TSUBAKI AKIRA GA KOJIN NO KENGEN DE
HISOYAKA NI YOGOTO NO 'YUME' NI TSUITE WO SHIRUSHITA
MONO DE ARU.
MADA NARENAI PERSONAL COMPUTER... IWAYURU 'PASOKON' TO
NIHONGO DE SHITASHIMARETE IRU BUNMEI NO RIKI NITE
KAKITSUDURU RIYUU, SORE HA:

1.KONO NIKKI NO ARIKA WO TANIN NI SHIRARETAKU NAI KARA.
KONO COMPUTER NIHA LOGIN SURU TAMENO 'PASSWORD' GA
HISSU DE ARI, SORE NASHI NI HA NAKAMI WO NOZOKU KOTO NADO
TOUTEI MURI NA HANASHI DE ARU.
MATA, NOTE NADO NI SHIRUSHITA BAAI NIHA, ANE YOUKO GA
SOUJICHUU NI MITSUKETE SHIMAU, KANOJO URABE MIKOTO GA
HASAMI DE KIRIKIZANDE SHIMAU, NADO ONORE WO KIKEN NI
SARASHITE SHIMAU KOTO TO NARU NODA.

2.KONO NIKKI HA NIDOTO YOMIKAESHITAKU NAI KARA.
WAZAWAZA JIBIKI(EIWA OYOBI WAEI JISHO, HYAKKA JITEN, etc...)
WO TSUKATTE MADE SHITE, KONO KIKKAI NARU BUNSHOU NI
OTOSIKOMU RIYUU, SOREHA ONORE NO LIBIDO GA AMARINIMO
SHIGEKITEKI SUGIRU UENI, OMOIKAESHITE MONZETU SURU
KOTO NI NARIKANENAI TAME DE ARU.
YUME TOHA MAKOTO OSOROSHII MONO DE ARI, MARE NI YUME DE
OKOTTA DEKIGOTO GA SOUMATOU NO YOUNI TOTSUJO TO SHITE
GANZEN NI ARAWARERU, SOUNAREBA ONORE NO MI NI SEIDOU WO
KAKERU KOTO GA HIJOUNI MUZUKASHII.

SHIKASHI TATOE 'RO-MAJI' NITE KONO NIKKI WO TUDUTTA
TOKORODE SUGU NI YOMARETE SHIMAU KOTO NADO MIETE IRU.
MASHITEYA IKOKU NO KOTOBA NADO ORE NIHA TOUTEI RIKAI
DEKINAI TAME, KAKU KOTO SURA MAMANARANAI.

SHIKASHI, KORE NARA DOUDAROU KA.

"]{173]{! 1zz[-1 $]-[!/v84$]-[! vv0"
KITE-KI ISS-EI S-H-I-NBAS-H-I WO
(*鉄道唱歌より)

|<0/v0 `/<>L| /|/! |X!60[_] @12[_]1 ]-[4 5L|L|_/! [v]@_]!/21 /|/!
KO-NO- Y-O-U N-I KIGO-U A-R-U-I H-A S-U-U-JI M-A-JI-RI N-I
|x4!73 $#![v]@v X07<> [)3 74703 |<0/|/0 /V1|<|<1 /|/0
KAITE SHI-M-AU KOT-O DE TATOE KO N-O NI-K-KI N-O
@12!|x4 vv0 $]-[1/2@/23+3 [v]0, <#!$#!]{! /v45]-[1 /|/!
A-RI-KA WO S-H-I RA-RETE M-O, CHISHI-KI NAS-H-I N-I
^/4|<@[v]! [v]4[>3 `/0|v|@/23|2L| X070 }{4 ]{!`/[_][_] /|/1
NA-KA-M-I M-A-DE YO-M-A-RE-R-U KOTO HA KI-Y-U--U N-I
0vv412L| 70 !|_| ]{0+0 [)4.
O-WA-R-U TO I-U KOTO DA.
(|<0/|/0 ]{!}{0[_] vv0 'l33t' 70 ![_] 1245}{11.)
KO-N-O KI-HO-U WO 'leet' TO I-U RAS-HII.

--
0617 ◆URBRTbKUxc 2017/05/12(金) 18:57:51.97ID:dPeSixci
26th, April

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0618 ◆URBRTbKUxc 2017/05/12(金) 19:02:21.76ID:dPeSixci
3rd, MAY

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0123 #4 !73[v]0 74773[v]0 !124123/|/4]{L| /v3121,
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#@635#!XL| +4641 vv0 [v]0+0[v]3......

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0619 ◆URBRTbKUxc 2017/05/12(金) 19:04:46.31ID:dPeSixci
11th, MAY

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--
0620 ◆URBRTbKUxc 2017/05/12(金) 19:05:34.81ID:dPeSixci
乱丁発覚。

7th, MAY

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--
0621 ◆URBRTbKUxc 2017/05/13(土) 19:15:39.69ID:2KHi85cs
あれ?もうスレ一杯?
0622 ◆URBRTbKUxc 2017/05/14(日) 23:11:24.03ID:xNub5Uut
1st, JUN

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70X1 64 $L|6173 1774.

--
0623 ◆URBRTbKUxc 2017/05/14(日) 23:15:37.88ID:xNub5Uut
定期試験も終わり、暑苦しい夏がやって来た。そんなある日の事。
その日は答案が返されるだけの時間割だったので、午後からは皆思い思いの形で羽を伸ばす。
俺も荷物を片付けてさあ帰ろうと席を立とうとした矢先の事である。
「椿君、今日は時間空いてるかしら」
「え、今日?どうして?」
声の主は卜部だった。俺は彼女の方を振り向いて「空いてるけど、何?」と要件を尋ねた。
「今日、家に誰も居ないから椿君の家に行っちゃおうかと思って」
「ああ、そういう事なら」
俺は卜部と一緒に教室を出て何時もの帰路についた。
夏の蒸し暑さが俺達を包んだが、寄り道せずに真っ直ぐ俺の家へと向かった。

「んじゃ、上がって」
「お邪魔します」
俺は卜部を部屋まで連れて行くとエアコンのスイッチを入れた。
「何か飲む物取ってくるから少し待ってて」
「うん……あら?これは……」
卜部は俺を引き止めた。新調したパソコンに目が行ったらしい。
「ああ、少し前に部品を買ってきて組んだんだけどね」
「へぇ……」
「暇潰しに動画でも観てていいよ」
俺はログインパスワードを入力して卜部にパソコンを貸すと階下へと降りた。

--
0624 ◆URBRTbKUxc 2017/05/14(日) 23:17:36.28ID:xNub5Uut
暫く俺達は動画を観たり漫画を読んだりしていた。卜部は俺の知らないゲームや漫画が好きだとばかり思っていたが、意外にも有名所もしっかり押さえていた。
そんな卜部の新鮮な所を眺めていると、階下から玄関の開く音がした。
「明ー?ちょっといいかしら?」
「はーい、今行く!」
俺は卜部にちょっと行ってくると伝え階段を降り、暫し姉の手伝いをした。

「……あら?何かしらこのファイル」
一人になった卜部はふとファイル履歴に目を遣ると怪しげなテキストファイルを開く。
「え、こ、これ……」
卜部はその文字列に目を見開いた。
「ただいま!」
それとほぼ同時に椿が戻ってきた。
そして椿が見たのは、パソコンの画面を見ながら赤面する卜部の姿だった。
彼女は口元を押さえながら、鼻血を指の隙間から垂らしていた。
「あ、あの……卜部……?」
俺はその場で固まってしまった。卜部は物言いたげに瞳を潤わせじっと俺を見つめている。
「あのね、その……」
「……見ちゃった?」
「……うん」
卜部は吃ってしまい、俺の妄想に関して言及する気も失せてしまったらしい。
「……でもね椿君、私もなの」
俯いた卜部はモソモソとポケットから封筒を手渡した。
「え、これ……ごふっ!」
その封筒を受け取り、突如頭に血が上る感覚に陥った俺は盛大に鼻血を噴き出した。
「……私達、似たような夢を観ていたのね」
成程。どうやら封筒の中身は大体察しがついた。
「そんなに溜まってるなら私……オカズにされたって構わないから」
俺は言葉を失う。されど俯き姿勢の卜部は満更でもなさそうだった。
「椿君……また夢の内容教えてね」
「あ、ハイ」
謎めいた取引になってしまったが、これが恐らく恋という物なのかもしれない気がした。
色に迷い狂い果てた青春、そんな爛れた世界でも、卜部はずっと卜部として、俺の彼女としてあり続けるのだろうか。
そんなこんなで、卜部は今日も明日もこの先も、「謎の彼女」なのだろう。

【謎の色迷日記 -Fin-】
0625 ◆URBRTbKUxc 2017/05/14(日) 23:18:36.73ID:xNub5Uut
【謎の色迷日記 -あとがき-】
2周年ですね。あまり大した作品も出来ず皆様には申し訳ない気持ちであります。
夏も近づく八十八夜。皆様は五月病でさぞかし大変だろうとお見受けしますが、いかがお過ごしですか。
私◆URBRTbKUxcは持病の悪化で物忘れが酷く、今のところ対処療法も難しい最中です。
さて今回は新たな試みを試してみました。言葉遊びの一環と云いますか、アンダーグラウンドの雰囲気と云いますか。そんな目論見が成功したなら何よりです。
本当であれば去年の内に完成したかったのですが、如何せん夢の内容を事細かに書こうとすると膨大な量になってしまいました。スレに入りきるか心配です。
タイトルの「色迷」とは即ち性的な煩悩に惑わされるという意味であり、中国語ではショオミと呼ばれます。
解答編は別途うpさせて頂きますので是非悩みながら読んでみて下さい。
ところで、色づいた空想に悩む思春期の子供達って可愛いと思いませんか?
とまあ今回はそういうお話でした。
0626 ◆URBRTbKUxc 2017/05/14(日) 23:20:46.85ID:xNub5Uut
保管庫管理人様へ一言: ごめん!
【Leet原文】
ttps://www.dropbox.com/s/qaep1ve3pz1nmb1/%E8%AC%8E%E3%81%AE%E5%BD%BC%E5%A5%B3X_SS%E3%80%90%E8%AC%8E%E3%81%AE%E8%89%B2%E8%BF%B7%E6%97%A5%E8%A8%98%E3%80%91_L33t.txt?dl=0
【Leet+ローマ字】
ttps://www.dropbox.com/s/u52g4txn3f86tnm/%E8%AC%8E%E3%81%AE%E5%BD%BC%E5%A5%B3X_SS%E3%80%90%E8%AC%8E%E3%81%AE%E8%89%B2%E8%BF%B7%E6%97%A5%E8%A8%98%E3%80%91_L33t%2BRoma-ji.txt?dl=0
0629 ◆URBRTbKUxc 2017/05/27(土) 00:17:11.97ID:qE1e+dp/
>>628
しかもディスコミみたいな世界観らしいですね。読みたい!
0630 ◆URBRTbKUxc 2017/06/06(火) 15:43:28.88ID:rdDgjibz
このスレの皆様方に暑中見舞い申し上げます。
ご笑納ください。
ttps://www.dropbox.com/s/dsuiogxa4tid5xc/Shochumimai_Nazo_20170606_%E8%BA%AB%E5%86%85%E7%94%A8.png?dl=0
0631名無しさん@ピンキー2017/06/12(月) 12:10:37.00ID:0JvTYZh0
すごいな。
絵上手いんですね。
0632 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:40:10.15ID:vxQuwYSu
空梅雨らしいので一本どうぞ。

【謎のサマーアプローチ】

止まない雨はないのだと人は言う。

雨はいつか虹を架けるのだとも言う。

日曜日。俺、椿明は窓から視える部屋の外をじっと見つめていた。
雨。しかも梅雨前線がもたらす雨は風情すら感じられない。
何の気無しにスイッチを捻ったラジオは梅雨入りを報せ、各地では雨がどうこう、洪水に注意せよだの。いくらチューニングダイヤルを廻しても同じような内容ばかりである。
俺はラジオのスイッチを切り枕元に投げ捨てると、居間へと降りて行った。
居間では姉の陽子が商店街の帰りだったらしく、一人季節外れの桜餅と柏餅をつまみながら渋茶を飲んでいた。
「あの、姉さん……また買ってきたの?」
「美味しいからついね、明も食べる?」
「あ、うん」
俺は姉の差し出した柏餅を食べる事にした。
しかし柏餅ひとつ食べたところで気が晴れるわけでもなければ、時計の針が素早く進むわけでもない。
やがて興醒めした俺はすぐに自分の部屋へと戻り、先週読み終えた雑誌をまた捲りながらぼやぼやと夕方までの時間を過ごす事にした。

--
0633 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:41:28.78ID:vxQuwYSu
明くる日の朝、朝食も程々に俺はトボトボと雨の道を進む。
赤、青、黒、色とりどりの傘の花が咲く中、白い校舎は煤けて物哀しさを見せる。
2-Aの教室は何時もと変わらぬ気怠さが広がり、男子達は猥談に励み、女子達は流行に胸をときめかせる。
その中で唯一、机に寝そべり一言も語らぬ存在があった。
卜部だ。彼女だけは最早他人などどうでもいい存在なのだろう。
程なくしてHRの時間が始まり、人混みは整然と席に戻る。

1時限目が終わると、雨脚は一層強まった。
校庭に降り注ぐ雨は川の様に流れ、ぞっとする不安を与えた。
「あちゃー、これ帰れるかな……」
声の主はすぐ隣の上野だった。
上野の自宅は少し離れている様だが、まあ帰れないわけではなさそうだ。
「上野、今日の2限目は移動教室じゃ?」
「おっと、そうだった!じゃあ椿も早く行けよ」
上野はそそくさと準備をして教室を出た。ほぼ同時に卜部も教室を出たので、俺も2限目の用意をして彼女を追いかけた。

--
0634 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:48:59.98ID:vxQuwYSu
昼食の時間。
果たして俺は無事に帰れるのだろうかという心配だけがあった。
丘と卜部が仲良く大きな弁当をつついているのを尻目に俺は一人小さな弁当を食べていた。
仲がいいのは兎も角、内心少し羨ましい感じもする。
「俺も料理作れたらなぁ……。」他人の才能を此処まで大きく感じながら、俺は溜息をつく。

5限目が終わり、掃除も済ませると雨は小降りになってきた。なんとか希望は持てそうだ。
さて帰ろう、とした時に卜部がいない。一足お先に帰ったのかと下駄箱へと向かうと其処に卜部がいた。丘と何やら話している。
俺は下駄箱の影で二人の会話を聞こうとしたが、あまりにも騒がしいので聞きそびれてしまった。
直ぐに二人は別れた。そこで俺は靴を履き替えて卜部と一緒に帰ることにした。

--
0635 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:49:55.42ID:vxQuwYSu
帰り道。公園前まで来た二人に再び容赦なく強い雨脚と強風が襲い掛かる。
「きゃっ!すごい風……」
「仕方ない、雨宿りだな……」
俺達は急いで公園に駆け込み、大きな木の下の梢に身を寄せた。
容赦なく殴りかかる雨という雨は、梢すら突き抜ける。それを傘で防いではいるが如何せん風もある。
「……卜部、震えてるぞ」
俺は思わず卜部を抱きしめた。今日はハサミは飛んでこないだろうか、それだけは心配だったが。
「……ありがと」
卜部は安心した様子で俺に身体を預けた。良かった、ハサミは飛んで来なかった。
「……椿君、あったかいね」
卜部の声が弾む感じがした。心なしか、嬉しい。
そっと肩を抱いて暫くすると、雨脚が弱まった。強い風と共に、雲の裂け目が見えた。
「椿君、あれ見て!」
俺は卜部の指差す先を見た。其処には、大きな虹が掛かっていた。
綺麗だな……やはり雨宿りって、いいものなんだな。
「はい、椿君」
俺は彼女が差し出したよだれを舐めた。しゅわわ、と甘酸っぱい味が広がった。
「椿君、一緒に帰りましょう」
卜部は傘を畳むと足取り軽く砂地の公園をスキップした。
俺も小走りで、虹をバックに彼女を追いかけた。

--
0636 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:51:26.40ID:vxQuwYSu
1週間が経ったその日は奇跡的に晴れていた。
朝、テレビでニュースを観ていた姉、陽子は俺を見るなり小銭を渡した。
「明、今日は食中毒が心配だから何か買ってきなさい」
「とかいって姉さんも作りたくないんでしょー?」
俺はまだ寝癖の残る姉を見ながら笑う。
「しょうもない事言わないの、今日は例年を上回る暑さなんだから」
「へいへい」
俺は小銭を受け取り朝食を食べると手早く支度をして学校へと向かった。

白い風見台高校の壁は夏らしい陽射しに輝いていたが、今朝からやたらと蒸す事もあって其処まで意気揚々と入る気にはならなかった。
2-Aの教室に何時も通り入る。卜部は自分の机に突っ伏して眠っていた。
俺も自分の机に腰掛けると程無くしてHRが始まった。

--
0637 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:53:12.36ID:vxQuwYSu
昼休み、俺は机に散らばった教科書やノートを片付けて購買へと向かおうと教室の外に出た。
其処に卜部が教室から出て来た。何故か手提げ袋を持っている。
「椿君、ちょっといいかしら」
「え?ああ、うん」
俺は卜部の後を歩いて追い、下駄箱でスニーカーに履き替えて体育館脇のベンチまでやって来た。陽射しが梢に掻き乱され、風が心地いい。
「今日は、私と一緒に昼食にしましょう」
そう微笑いつつ卜部は弁当箱と水筒を出して俺の膝に弁当箱を置いた。
俺は恐る恐る弁当箱を開くと、其処には色とりどりのおかずがあった。
何よりも目を引いたのが、チキンライスだった。その上に乗っかったチーズに海苔で卜部の切り絵が施されている。
「わあ、すごい……でも卜部、今日は丘との弁当いいのか?」
「今日は丘さんは上野君と食べるらしいから、たまにはと思って」
卜部は自分の弁当を開けながら、答えた。
「そうなんだ……でも卜部、いいのか?」
「私は椿君の笑顔が見れるなら、それでいいわ」
卜部はそう言うなり黙ってしまい、弁当を食べ始めてしまった。
俺も恐る恐る卜部が作った弁当に箸を伸ばす。
う、美味い。こんなに美味しい弁当は初めてだった。
そして気がつく頃には、俺は卜部の弁当を空にしていた。

--
0638 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 15:54:53.08ID:vxQuwYSu
放課後、俺達はいつもの道を渡って二人が別れる交差点にまで辿り着いた。
「卜部、今日は弁当ありがとう!」
「……あれ位大した事じゃないわ、また作って欲しかったら何時でも言ってね」
そう言うと卜部は指先によだれを掻き出した。
俺はその甘い雫を舐めると、妙にニヤけたような笑顔になった気がした。
「じゃあ、また明日!」
「おう!」
俺は足取り軽く自宅へと戻った。
「ただいま!」
「おかえり明……その顔何よ」
「え、この顔?何か変かな?」
「とてもしまりのない顔してる」
「そ、そう……」
俺はスニーカーを脱ぐと洗面所に向かった。手を洗いながら鏡を覗くと、其処にはとてもしまりのない自分の顔があった。
「ああ、本当だ……」
俺はくすぐったい気持ちのまま、今日の弁当の事を想い出しながら部屋へと向かった。

--
0639 ◆URBRTbKUxc 2017/06/14(水) 16:03:32.81ID:vxQuwYSu
また埋め立てですかあ→あと*****秒待て!になってしまいました
続きはまた次回という事で。
0640 ◆URBRTbKUxc 2017/06/16(金) 02:26:53.39ID:vV3yjQpS
3週間後には梅雨も何処かに消え、風見台は炎天下の夏になった。そんな或る日の放課後である。
俺が卜部を捜しながら下駄箱まで歩いていると、急に上野から声を掛けられた。
「よっす椿!お前今年の夏はどうすんのさ?」
「俺?……ノープラン」
俺は適当に返事をするとそそくさと上履きを脱ごうとした。
「おめー暑中見舞い位送ってこいよなー?」
「暑中……見舞い?」
「ああ、俺もちょっくら旅行でもして来ようかとな……」
上野が何か目論むような顔で頭を掻く。
「……丘と、だろ?」
「げエッ!バレた!?」
そんな顔してりゃ誰だって察するだろ。と言いたかったが敢えて黙っておく事にした。
「俺はどーせお一人様ですよーだ」
俺はそそくさと帰ってしまう事にした。
「おーい!何か進展あったら連絡しろよなー!心の友だろー!?」
……俺は聞こえないフリをした。
「……卜部と、か」
俺はぼやぼやとこの夏行く場所について考えていた。
「海は卜部の家族が帰省で行くだろうから……山?それとも温泉街?」
あれこれ考えているうちに果たしてコンクリ橋の前に着くと、其処で卜部が待っていた。

--
0641 ◆URBRTbKUxc 2017/06/16(金) 02:30:18.25ID:vV3yjQpS
俺達は暑い中をゆっくりと歩き、やがて公園前までやって来た。
「椿君、少し休みましょう」
「おう」
俺達は公園の中の日陰になっているベンチに座った。
蝉時雨が遥か、炎天下越しに聞こえる。
俺は思い切って、卜部に話しかけた。
「なあ卜部、この夏……旅行でも行かない?」
「旅行……そうね、そういえば今年はお父さんも忙しくて帰省できないと言ってたから」
おおっ、食らいついた!もうひと押しか、手応えがあった。
「何処がいい?山なんかどう?それとも温泉街?」
「そうね……それは椿君に任せるわ」
やった!これでこの夏は先取りしたも当然だ!
「じゃ、じゃあ、また連絡するから―」
「椿君、じゃあ先にこれあげるね」
手渡されたのは切手も宛名もない葉書だった。その裏には卜部がパソコンで描いたであろう卜部の水着姿の絵があった。
「写真をなぞって描いてみたんだけど、どうかな?」
卜部、そんな事出来たんだ……俺は暫しその絵葉書に見とれていた。
「う、うん、上手だね!」
「……ありがとう」
卜部は照れながら眩しい笑顔を見せた。

--
0642 ◆URBRTbKUxc 2017/06/16(金) 02:32:42.92ID:vV3yjQpS
「ただいま!」
いつもの交差点で日課を済ませた俺は意気揚々と帰宅した。
「おかえり……明ー、まただらしない顔して」
「え?そ、そう?」
俺の顔はまたしまりのない顔になってしまっていたらしい。
洗面所に行き、手を洗っている最中に鏡を覗くと、やはり其処にはしまりのない顔があった。
「ああ、まただ……」
俺はニヤついた顔のまま、自分の部屋に戻った。
ベッドの上で少しばかり気の早い暑中見舞いを眺め、近づく夏休みの事を考えて。
俺は彼女の暑中見舞いを小さな額に入れて、意気揚々と家を出た。
全てはこの夏を卜部と楽しく過ごす為に。

よし、まずは旅行代理店に行ってみるか。大体の相場が掴めたら次は書店……ああ、夕方までにで回れるかな?
俺は先走る気持ちをなんとか抑えつつ、卜部の喜ぶ顔を空想した。
「今、俺達の夏が始まったんだ!」
青空に向かって叫びたいこの気持ち。その新鮮なスタートにたった今到達したばかりだ。

【謎のサマーアプローチ -Fin-】
0643 ◆URBRTbKUxc 2017/06/16(金) 02:37:34.95ID:vV3yjQpS
【謎のサマーアプローチ -あとがき-】
夏ですね。タバコが足りません。安タバコが美味しいこの夏です。
本作は元々2つの作品の予定でしたが、作っている段階であまりにも短くなる事が予想されたので、繋ぎました。
さて世間は空梅雨となり暑い陽射しが降り注ぐ今日此の頃ですが、皆さん如何お過ごしでしょうか。
私めの事を申せば、今年はカオス極まる深夜アニメの数々、避暑地の憩い、皆さん思い思いの夏が来る事を祈りつつ筆を進める時分であります。
酷暑のみぎりくれぐれもご自愛のほど申し上げます。
ところで、夏を制する女の子って可愛いと思いませんか?
とまあ今回はそういうお話でした。
0644名無しさん@ピンキー2017/06/18(日) 23:16:07.71ID:bK/OoUMl
GJ
0645 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:11:17.58ID:f74HWXdS
これまでの集大成っぽい作品です。相変わらず混沌としているのはご愛嬌で。

【謎の悶絶彼女】

「全く、なんでこうなるかなぁ……」
今、俺椿明はとても無様な格好で2-Aの教室に居る。
今朝から鼻血の止まらぬ俺は家からティッシュボックスを持ってきて、鼻にティッシュを詰め込んだまま今日一日を過ごしている。
幸いにも今朝ほど出血はしていないものの、隣の卜部を見る度にまた大量に出血するのではないかという一抹の不安がある。
全く、昨日上野に変な事を吹き込まれなければこんな事態に陥る事もなかったのに。俺は友を恨んだ。
「おはよーぅ椿ィ、あれ……なんだお前?鼻血か?」
「ああ、本当お前のせいだよ……っ!」俺はヤケを起こして彼の鳩尾に拳を一発食らわせた。上野はその場にもんどり打って悶えた。
さて、事の発端は昨日の上野の会話である。あの時上野はずっと頭を押さえてうんうん唸っていたが……。

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0646 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:17:20.53ID:f74HWXdS
「どうした上野?頭痛そうにして、丘と失恋でもしたか?」
「ち、違うんだ椿……実はな、この前丘が俺を夕食に誘ってくれたんだ……そしたらなんと丘の兄さんが帰ってきてたんだ」
「丘に兄さん……?で、それがどう頭痛と関係があるんだ?」
「……一杯、盛られた」
盛られた?それってもしかして……。
「う、上野お前酒飲んだのか!?」
「ば、馬鹿!声がでかいぞ……ああ〜〜またイタイ……」上野は頭を押さえながら悶絶した。
つまり事を整理するとこうである。
丘兄妹は二人とも酒が強い体質だった。ビール、酎ハイ、あれこれチャンポンしながらメートルを上げて収拾つかぬ状況に陥った時、丘の両親が席を外したのが運の尽き。
「上野君、もし歩子を貰いたいならこの一杯を飲み給え」
「え、ええっ!?しかしお義兄さん、それは……」
「貴様は歩子が欲しくないのか?」
この言葉に完敗した上野は仕方なく酒を一杯貰い、二人の目の前で一気に飲み干した。
「はっはっは、それでこそ漢というものだよ上野君」
すっかり調子に乗った二人に勧められるがまま上野はベロンベロンになるまで飲んでしまい、帰り道の記憶すら喪って気が付くとベッドの上で二日酔いを起こしながら目覚めたというわけである。
……正直、上野には向こう見ずな所があるのだが、これは流石に酷いものである。

--
0647 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:20:48.80ID:f74HWXdS
俺は更に記憶の糸を少しずつ手繰っていく。
昨日も日照りの強い残暑日であった。青春を謳歌する多くの少年少女達の紅蓮の情念を封じ込めた様な白いコンクリ橋の上で辛辣なる太陽に炙られながら俺と卜部は落ち合い、帰路についた。
「ああ、暑い……椿君、また公園で休んでいいかしら」
「ああ、いいよ」
俺達は、公園の木陰のベンチに逃げ込んだ。
暫し、佇む。すると卜部がぽつりと口を開いた。
「丘さん……お兄さんと羽目を外して上野君を酔わせたらしいわね」
「ああ、上野から聞いた……」
「……椿君は、私が羽目を外した事知ってるよね」
「ああ、そんな事もあったな……」
羽目を外したとは何時かの帰省の話である。あの時の奇妙な夢は未だに俺の脳裏に強く焼き付いている。

--
0648 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:27:18.04ID:f74HWXdS
「……ねえ、私が羽目を外した時、椿君はどう思った?」
「え?」突然の彼女の質問に俺は戸惑った。暫し黙り、決心した俺は答える。
「そりゃあ、あんな卜部見た時は驚いたし、気難しいものを感じたけど……」
卜部は暫し黙り、何か思いついた様に通学鞄の中からまた試験管を取り出しその中に自分のよだれを流し込んだ。
「……また、今夜も舐めて欲しいんだけど」
「う、うん」
卜部の意図は汲めなかったが、俺は大事そうにその試験管を受け取った。
俺達は再び帰路につくと、いつもの交差点で別れた。

その晩、俺はベッドの上で卜部の事について考えていた。
あのよだれにはどんな意図があったのだろうか。
羽目を外した卜部は、俺の考える彼女の可愛い面だったのだろうか、それとも……。
……駄目だ、答えが見つからない。こうなったら成すがままだ。あのよだれを舐めるしかない。
俺は枕元に置いていた試験管の栓を抜いて一気によだれを飲み干した。
「!? っは!」
変な味がする、腐ったわけじゃなさそうだが、頭を揺さぶられる味……これって……。
既に、意識は俺の手元から無くなっていた。
記憶の中の卜部はまた奇妙な夢の世界へと手招きして……。

--
0649 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:33:02.80ID:f74HWXdS
熱帯夜の中の何処か知らない一室。
粗末な造りの和室の様な六畳間に俺と卜部が居た。部屋には卜部が座っているシングルのベッドがひとつと小さな古めかしいテレビが置かれ、そして小さな扇風機が廻転していた。
何故か卜部は黒のネグリジェを着ている。透けた布地から時折チラチラ視える曲線美が悩ましい。
「う、卜部……?」
俺はまじまじと卜部を見つめる。空き缶などのゴミが散らばった部屋に卜部が一層美しく視えた。
そしてあろうことに卜部の手指には煙草が挟まれていた。
「う、卜部!なんで煙草なんか吸ってんだよ!?」
「あら、私が煙草吸ってたら悪いかしら?」
卜部は顔色一つ変えず紫煙を空中に吐き出した。更に卜部は床の上に置いてあった缶酎ハイにも口をつけた。
「椿君……あなたが私にあらぬ感情を抱いて悶えるより、私は大人になりたくてもっともっと悶えているのかもしれないわ」
今の卜部と、大人の卜部……?俺は今どちらの卜部と向き合えばいいんだ?
……駄目だ、考えがまとまらない。
その時、突然卜部は咥え煙草のまま顔を近づけ、俺の口に煙草を咥えさせると両手でそっと頬を包んで、煙草の火を俺の煙草の先端に押し当てた。俺は思わず息を呑んだ。
『これが、大人のキスの味……』
その甘くて苦い味を感じ取った時、急に世界がゆらゆらと揺れ始めて……。

--
0650 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:39:37.63ID:f74HWXdS
俺は、気が付くと自分のベッドの上で目を覚ました。
意味不明な程に混沌とした夢を観るのは最早何時もの事だが、今回ばかりは流石に色々と考えさせられる夢だった。
あの夢に出てきた卜部は本当に悶絶していたのだろうか。
いや、もしかしたらあの時悶絶していたのは本当は俺だったのか。
そんな事を考えているうちに妙にのぼせた様な感覚に陥り、ヌルっと……!?
「げ、鼻血!?」俺は鼻を押さえ、机の上のティッシュを取って拭き取った。
慌てて鼻に詰めたティッシュも数秒経てば真っ赤に染まり、ポタポタと血が垂れてくる。
「姉さん、鼻血が止まらないんだけど!?」俺は急いで階下に降りると姉を呼んだ。
「明、まずは座って鼻をつまんで!」
俺は言われた通り椅子に座って鼻をつまみ、暫くうつむいた。
間もなく鼻血は収まったが、数分に一度じわりと出てくる事に変わりはなかった。
俺は仕方なくティッシュを鼻に詰めて、ティッシュボックスを持って登校する事になり……今に至るというわけである。

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0651 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:42:32.61ID:f74HWXdS
放課後。恐る恐る鼻に詰めたティッシュを抜くともう鼻血は止まっていた。
俺は安堵し、いつもの様に卜部を捜してコンクリ橋の前までやって来た。はたして其処に居た。
「よう、卜部」
「あら……もう鼻血はいいの?」
「んー……何故かもう治っちゃったよ」
「……それならいいんだけど、それじゃあ一緒に帰りましょう」
……随分とあっさりだなあ。俺は仕方なく彼女と一緒に帰る事にした。

帰り道。今日の卜部を時折横目で眺めていたが、特に変わった気配はなかった。
「……卜部、公園に寄ってもいい?」
途中、俺は話をする為に休憩を打診した。
「そうね、寄って行きましょう」
またもやあっさりOKを出した。やれやれ、と俺は公園の中に入りベンチに腰掛けた。
卜部もすぐ横に腰掛け、俺達は蝉の鳴かない残暑日の中暫し風の気持ちよさに身を任せた。

--
0652 ◆URBRTbKUxc 2017/08/29(火) 23:50:27.32ID:f74HWXdS
今日は此処まで。
ひろゆき氏はよう規制緩めてくれや。
0653 ◆URBRTbKUxc 2017/08/30(水) 23:58:01.53ID:nm6HUg1P
「……卜部、話があるんだけど」
「……何?椿君」
卜部は虚空を見つめたままだ。こんな状況で話が出来るのか不安だったが、俺は決心して話を続けた。
「あの夢……本当に卜部が思ってた事なのか?」
「夢……?」卜部は少し怪訝そうに此方を向いた。
「えっと……もし卜部が大人になりたい事を望んでいるなら、それを咎める事は出来やしない……だけど」
「……もしかしてその事で悩んだあまり鼻血が止まらなかったの?」
「えっ、あ、ああ……」
言い当てられてしまった。
「……嘘だよ」
「え?」
「う・そ」
嘘……?一体どういう事なんだ、何故嘘をつく必要があったんだ?
「ごめんね椿君……私はあの時丘さんと上野君がとても羨ましくて、椿君の夢の中であらぬ妄想を植え付けたのよ」
……そうだったのか。じゃあ俺は一体何を悩んでいたんだろうか。こんな純粋な気持ちに気が付いてあげられないなんて。
「椿君……もしあなたが気分を害したなら私、ぶたれたって構わないから」
俺は意外な一言に吃驚して目を見開いた。駄目だ。俺にそんな事は出来ない。
「……もし私を叩きたくないなら、他のどんな事でも耐えてあげる」

--
0654 ◆URBRTbKUxc 2017/08/30(水) 23:58:44.70ID:nm6HUg1P
どんな事でも?卜部、まさか……。
俺はこの幼気(いたいけ)な彼女に何を仕出かそうというのだろうか。
何をしてやればいいんだ?俺はない頭であれこれ思考する。
……そうだ。
俺はある決心をして立ち上がると暫し目を瞑り、口からよだれを掻き出した。
「え?これ……?」
「ああ、舐めてくれ」
「……うん」
卜部は恐る恐る俺の指からよだれを舐めた。
直後、雷に打たれたかの如く硬直した彼女はがくりと俯いて鼻血をポタポタと垂らした。
「あのね椿君……確かにどんな事でも耐えられるとは言ったけれど、私に縄の痕を付けるのは正直逆効果だと思うわ」
そう。俺は制服姿の卜部を天井から吊るしてやりたいと思ったのだ。
俺が思い描いた情景は正中線に菱型を描く紅い縄、自由の利かない手足、そして……。
「……それと私、体中に人形を括りつけられてもどうしたらいいか分からないわ」
効果覿面である。我ながら理不尽な程意味不明な事を相手に望んだのかもしれないが、それでも卜部は「悶絶」したのだ。
「……椿君、そろそろ帰りましょう」
「ああ」
俺は立ち上がった卜部の肩を優しく抱き、歩幅を揃えて帰路についた。
「……これで、良かったんだな」
ふとそんな事を考えつつ、今日も俺は「謎の彼女」に恋をしている。

【謎の悶絶彼女 -Fin-】
0655 ◆URBRTbKUxc 2017/08/30(水) 23:59:59.25ID:nm6HUg1P
【謎の悶絶彼女 あとがき】
夏もそろそろ終わってしまいますね。私は9月に内視鏡検査が待っています。コワイヨー
さて大分間が空いてしまいました。正直申し訳ない気持ちです。
近頃何もかも思い通りにいかず、自棄食い自棄飲みという爛れた日々を過ごしていました。
この作品は、ある昼まだ缶の中に残っていたぬるい酎ハイを口にした時閃いたものです。
正直カオス過ぎて意味不明な事になっていますが、原作でもこれ位ぶっ飛んだ話があった様に感じたのでそのまま思いついた内容をアウトプットしてみました。
皆さんが彼女に望む事、それは極めて猟奇的であり、極めて清純な事なのかもしれません。
ところで、縄化粧した彼女って可愛いと思いませんか?
とまあ今回はそういうお話でした。

追伸:植芝先生に例の暑中見舞いをお送りしたところお返事を頂きました。
https://www.dropbox.com/s/c1egmqmz6rkbtfh/Ueshiba_Hensho_20170821%28%E8%A4%87%E8%A3%BD%E5%8D%B0%29.jpg?dl=0
0656 ◆URBRTbKUxc 2017/08/31(木) 00:04:55.84ID:FqqP583U
保管庫様へ、そっと保存しておいて下されば幸いです。

【謎のサマーアプローチ】
ttps://www.dropbox.com/s/x1sq4gwkzol6yke/%E8%AC%8E%E3%81%AE%E5%BD%BC%E5%A5%B3X_SS%E3%80%90%E8%AC%8E%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%81%E3%80%91.txt?dl=0

【謎の悶絶彼女】
ttps://www.dropbox.com/s/f3b6yg41ntuyg1y/%E8%AC%8E%E3%81%AE%E5%BD%BC%E5%A5%B3X_SS%E3%80%90%E8%AC%8E%E3%81%AE%E6%82%B6%E7%B5%B6%E5%BD%BC%E5%A5%B3%E3%80%91.txt?dl=0
0658 ◆URBRTbKUxc 2017/09/17(日) 07:49:24.52ID:oqqbJWgX
【URBRTbKUxcの独り事】
内視鏡検査はポリープが一切見つからない良い結果に終わりました。ご心配おかけしました。
本題ですが最近小生以外にエロパロを執筆してくださる方が居ないのは誠に遺憾に存じます。
私としては話の通じ合う知人を経由して宣伝を行ったつもりでありますが、如何せん此の作品が極めて
マイナーであるが故に衰退の一途を辿っている事をひどく痛感しております。
本来であれば皆が青春時代に抱えたリビドーを此処で吐き出していくのが筋なのかもしれませんが、
私なりに良かれと作った作品達が何か問題を抱えているのではないかと自責の念にかられているのも
又事実であります。
名も無きヤンデラー様を含めた皆様がまた此処で作品を紡げる事が、今の私の望みであります。
秋の夕暮れは釣瓶落とし、気温もぐっと低くなりましたがどうか皆様方体調にご自愛下さいませ。

敬具
URBRTbKUxc
0659名無しさん@ピンキー2017/09/21(木) 22:34:13.41ID:p4YsoqNp
いや、あなたの作品は素晴らしいけど。
単純に作品がマイナー過ぎるだけだと思います。

自分は新作も好きなので、新作が人気が出れば、ここも変わるかもしれませんね。
0660 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 03:38:36.98ID:jnu8GS92
またしても投下してみます。

【謎の青春唱歌】

「暑い……もう九月終わりなのにな」
「本当……陽射しが強いね」
いつもの通学路。アスファルトは陽に灼けてチリチリと俺達を炙るかの如く火照っていた。
俺、椿明と彼女卜部美琴は、交わす言葉も程々にゆっくりと坂を登って行く。真夏日の様な紅蓮の感情は其処にはなく、ただ夏の終わりという白い燃えカスとなった木炭が燻ぶるかの様な虚しさが其処にあった。
2-Aの教室には夏服と冬服の生徒達が五分五分で入り混じっていた。生徒達は薄ら涼しく吹き続ける秋風の中、気怠さを風に流す。
話題といえば8月の夏祭り、甲子園、帰省先、まるで彼らの中では夏の延長線上のまま時が過ぎていないかの様であった。
程無くしてHRの点呼が掛かる。俺は涼しい秋風とは対称的な日照りの強さに多少しょっぱい想いを抱きつつ黒板をぼんやりと眺めていた。

--
0661 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 04:14:58.17ID:jnu8GS92
帰り道。今日一日はまるで締まりのない一日だったと改めて思う。
まだ少しばかり眠気の残る頭のまま、俺は卜部と連れ立ってゆっくりと歩みを進める。
『……暑いな』
立秋の太陽が俺をまた燃え上がらせ、隣の卜部に対して筆舌に尽くし難い感情を抱かせる。
「……どうしたの?椿君顔赤いよ?」
おっと、卜部に感付かれてしまった。此処は正直に話してしまわないとハサミが飛んできそうだ。
「なんかさ、こうもまだ暑いと卜部と過ごした夏休みの事を考えちゃって……ほら、映画にもあっただろ?一生夏休みの続く世界の中で過ごす話がさ」
「そうね……椿君、また少し休んでいいかしら?」
「ああ、いいよ」
俺は卜部に手を引かれて公園の中の木陰のベンチで休む事にした。
『……夏は蝉の声が響いてたっけ』
ふとそんな事を想い出しつつ俺は梢のざわめきに耳を澄まし、遠くから風が運ぶ甘酸っぱい金木犀の香りに心を漂わせる。

--
0662 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 04:39:43.35ID:jnu8GS92
「―君、椿君?」
「えっ?」
放心状態のまま座っていた俺に卜部が声を掛けた。
「椿君……大丈夫?なんだか疲れた顔してるよ」
「ああ、それは……」
俺は暫く俯いて黙っていたが、淀んだ海の様に黒くうねる心の中からある想いを伝えるのに然程時間はかからなかった。
「……叫びたい、かな」
「叫ぶ?大声出してすっきりしたいの?」
卜部は俺の返答に少し戸惑った。
「そうだ卜部……カラオケ、行きたい」
「カラオケ?うーん……私、あの時以来二人で歌うのはちょっと」
卜部は申し訳なさそうに俯いた。
『ああ、あの時か……あの時香水なんか借りなけりゃな』 (*単行本12巻 第87話参照)
……出鼻を挫かれた。卜部に迷惑かけたかな?背中が重い。
「あ、でも椿君……ヒトカラ、って知ってる?」
「ヒトカラ?一人でカラオケに入るあれ?」
「うん……もし椿君が私の歌声で元気になってくれるなら、カセットテープに自分の歌を録音してあげるけど」
卜部の生歌入りテープ!?ほ、欲しいに決まってるだろ!
「で、でも本当にいいの?」
「うん、それだったら私もなんとか」
「ありがとう卜部!」
やった、卜部の歌声が俺だけの物になるなんて!
俺達は交差点まで歩くと日課を済ませ、足取り軽く帰路についた。

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0663 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 06:09:16.22ID:jnu8GS92
月曜日、少しばかり秋風が強く感じる日に俺はいつものコンクリ橋の上で卜部を待っていた。
『そういえば卜部も今日は夏服だったな……』
俺はそんな事をぼやぼや考えながら待っていると、果たして卜部の姿が見えた。
「お待たせ」
卜部は澄まし顔ですぐ横にまで駆けて来た。
「よし、帰ろう」
俺達は雲の裂け目から射す陽を受けて帰り道をゆっくり歩いた。

やがていつもの交差点で俺達は立ち止まった。
「椿君、約束の物持ってきたよ」
卜部は鞄から小さな箱を取り出し俺の手に置いた。それは卜部の歌声が吹き込まれたカセットテープだった。
「ありがとう、卜部!」
「あとそれと……」
卜部は自分のよだれを指で掻き出して俺に舐めさせた。
心なしか、頬が熱くなってきた様だ。
俺は受け取ったカセットテープをポケットにしまい込み足取り軽く家に帰った。
帰宅してまたしまりのない顔を姉さんに指摘されたが、そんな事は最早どうでも良かった。

--
0664 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 07:07:35.09ID:jnu8GS92
俺は自分の机の前にラジカセとヘッドフォンを用意してカセットテープの箱を開いた。
どれどれ……テープの長さが46分という事は片面23分、即ち片面4〜5曲入っている計算になる。
俺は早速ラジカセにテープのA面をセットしてヘッドフォンを掛け、再生ボタンを押し込んだ。
1曲目は「恋のオーケストラ」……のっけからこの選択とは俺にとっても嬉しい。こんな可愛い声で歌うんだ、と俺は浮かれ気味に聴いていた。
2曲目からは俺の知らない曲が3曲程入っていた。
年代を推測するに90年代の曲なんだろうが、卜部は滅茶苦茶楽しそうに歌っている。明るくハキハキした感じのボーカルが心地良い。
そして暫しの無音の後、ラジカセのオートリバースがカチリと音を立てた。
B面の最初には……えっと、これはMISIAの「つつみ込むように…」?
ハイトーンボイスを完全に歌いきれる卜部の歌唱力に俺は驚いた。
『卜部、こんなハイセンスな曲も歌えたんだ……』
2曲目には少しばかり古い曲が入っていたが、これはもしかしたら姉さんが知ってる曲かもしれない。
3曲目はヒャッキーの曲だ。ラップの様に次々と紡がれる歌詞をそつなく歌っている。
そしてテープは残り少なくなり、最後の曲が聞こえてきた。
「放課後の約束」この曲を締めの曲に選んだ辺り卜部のセンスの良さが垣間見れる。
ああ、出来れば生で聴きたかったなあ……そんな事を考えているうちに曲も終わり、再生ボタンがカツンと飛び出してテープは止まった。B面の終わりである。
『卜部、ありがとう……』
このテープは大切にしないとな。俺はカセットテープを取り出して箱にしまうと使っていない本棚に置いた。

--
0665 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 07:39:31.91ID:jnu8GS92
その晩、俺はまた不思議な夢を観た。
知らない街の風景が俺の視界に突き刺さる。
俺と卜部は喫茶店らしき場所に二人、向かい合わせでテーブルに座っていた。
浮かんでは弾けて消えるソーダ水の泡。
歌ってくれる誰かを独り待つかの様に今月のヒット曲を次々表示するカラオケセット。
仮面を被ったオーナーの脇で泡を立てている冷たい金魚鉢。
ぬるくなったアイスコーヒーを飲みながら卜部を眺めていると、不意に卜部はこんな事を口走った。
「ねえ、椿君も歌ってくれないかしら」
え、俺?本当に俺なんかが歌っていいのだろうか?
「卜部、で、でも……」
「どんな形であれ応えてくれるなら、私絶対に大切にするから」
奇妙な夢は此処で途切れ、やがて俺の部屋に朝が来た。
「どんな形であれ、か……」
まだ眠い頭で俺はどう応えるべきか考えた。
……そうだ、押入れにしまい込んであるカセットデンスケは使えるだろうか。
俺は起き上がって押入れの中を隅々まで探す。果たして其処にデンスケとマイクがあった。
俺はデンスケに電池を入れてボタンを押す。よし、動いた。
押入れには一緒に生のカセットテープも幾つかあった、これで良いな。
俺は取り敢えず押入れにデンスケを戻して学校へ行く支度を整えた。

放課後、俺は手早く片付けを済ませてリュックを背負う。
上野は中島、西田と何やら話をしていたがすぐに終わったらしく片付けを始めた。
「上野、済まないが今日は暇か?」
「お、俺?そうだな……今日は両親とも帰りが遅いって言ってたが」
「そうか、ならちょっと話があるんだがいいか?いつもの場所で頼む」
「お、おう」
上野は怪訝な顔をしながら俺と一緒に体育館裏まで足を運んだ。

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0666 ◆URBRTbKUxc 2017/10/05(木) 08:09:23.56ID:jnu8GS92
「上野、実は頼みがあるんだが」
「どっどうした急に?金なら貸せないぞ!」
上野は何が起こったと言わんばかりに困惑している。
「そんな簡単な問題じゃない、これは俺のメンツにも関わる事なんだ」
「お、おう?まあ……とにかく言ってみろ」
上野は困惑していたが話を聞いてくれる気にはなった様だ。
「実は、俺には好きな人が居るんだ……」
「椿、彼女いたのか!?」
上野は仰天して軽くバックステップを踏んだ。
「最後まで聞け!」
俺は上野に詰め寄り話を続けた。
「……そいつは成績も運動も優秀で歌も上手い奴なんだが、ある日俺の為だけに態々一人でカラオケに行ってその歌声まで録音してくれたんだ」
「お、おう?そんなに進展してたのか……でも何故、一人なんだ?」
「それは言えない、彼女のメンツにも関わるし教えたら俺が殺される」
「おう……それで、頼みってなんだ?」
上野は頭に大量のハテナを浮かべながら詰め寄った俺の話を微動だにせず聞いている。
「上野……お前、ギター弾けたよな?」
「まあ、簡単な譜面があればなんとか弾けるが……まさか、俺の伴奏で椿が歌うのか?」
「そういう事だ!頼む、お前だけが頼りだ」
俺は上野に飛び掛かった。上野は俺に揺さぶられるままである。
「ちょ、ちょっと待て椿!何故俺が伴奏するんだよ!?」
「話すと長いが、それが俺から彼女へ出来る唯一のアプローチなんだ……頼む、助けてくれ!」
「おう……よし分かった椿、今からリハーサルだ」
「おう!」
俺達は真剣な面持ちのまま上野宅へと向かった。

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0667 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 09:10:08.73ID:oaHT1hvP
え?ホスト規制された?
0668 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 09:17:08.42ID:oaHT1hvP
「よし、上がってってくれ」
「お邪魔します」
俺は二階の上野の部屋に通された。机の傍らにはアコースティックギターが置かれていた。
「適当に見て、何か歌えそうなのがあったら教えてくれ」
上野は本棚から幾つか楽譜を取り出した。有名な歌手の譜面ばかりだったが、その中に特に目を引くものがあった。
「……なあ上野、この曲弾けるか?」
俺は手にした楽譜を開いてそのページを見せた
「ええと……これか、結構古い歌だな……進行はG、D、Em、C……」
上野はその楽譜を手にして譜面台に載せるとギターを持ち軽く弾いてみた。
「でもこれ、お前の姉さんか親御さん位の年代の曲じゃないか?」
「ああ、でも俺が昔よく聴いてた曲なんだ」
「成程……まぁいいや、ちょっと伴奏無しで歌ってみろ」
「お、おう」
俺は下手くそなりにも1番だけ歌ってみた。
「ふむ……まあ、其処まで歌えてりゃ大丈夫だな」
「本当か?」
「ああ、次は俺の伴奏に合わせてくれ」
上野はギターを掻き鳴らした。俺もそれに併せてなんとか歌ってみた。

気が付くと練習は2時間半に及んでいた。
「上野、悪いが今日はもう帰るよ」
「おうお疲れさん!で、何時録音出来そうだ?」
「えーと……今週の土曜でもいいか?」
「ああ大丈夫だ、じゃあ、また明日も頑張ろうな」
「おう、またな!」
俺は上野に礼を言った後に上野宅を後にした。
その翌日も、翌々日も、練習は続いた。

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◆URBRTbKUxc(回避用)
0669 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 09:47:40.45ID:oaHT1hvP
土曜日。この日の為に俺は上野と練習を重ねた。
俺は上野宅に生テープの入ったカセットデンスケを持ち込み、上野の部屋でマイクを俺と上野のギターの前にセットした。幸いにもその日は上野の両親は居なかった。
「よし、準備いいか椿?」
上野は真剣な眼差しでネックに掛けた指に力を僅か込めた。
「おう!」
俺は威勢よく合図をしてカセットデンスケの録音ボタンを強く押し込んだ。
「せーの、1、2、3、ハイ!」
俺は手拍子で上野のギターを合わせ、マイクに向かってありったけの想いを吹き込んだ。

      どしゃぶりの雨の中で 傘もささずに歩いてた
      俺は最後のタバコを今 明日に叩きつけた
      重くたれこめた暗闇の中 稲妻が俺を突き刺す
      半パな俺の覚悟を 情け容赦なくはじく

      しがない街に生まれて やっとここまでたどり着き
      だけどのっけからこの様さ 心が寒くて死にそうだ

      裸足のまんまで笑われても
      裸足のまんまで立たされても
      裸足のまんまで責められても
      俺は俺を信じてやる

ギターの音が止むと俺は暫しの沈黙の後停止ボタンを押し込み、ガッツポーズをした。
「椿、お前歌上手くなったじゃないか!」
緊張から解かれた上野も俺をベタ褒めしてくれた。
ああ、ついに出来たぞ。俺の歌声が卜部に届く!
「上野、本当にありがとう!」
「ああいいぞ、礼なんて……彼女に届くといいな!」
「おう!」
俺は礼も程々に上野宅から猛ダッシュで家に帰り、学校へ持って行くいつものリュックに録音したカセットテープを詰め込んだ。

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0670 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 10:13:34.48ID:oaHT1hvP
また月曜日。俺はそわそわしながら卜部をコンクリ橋で待っていた。
秋風の涼しさが一層心地良く、空のうろこ雲の美しさも一層俺を夢心地にさせた。
程無くして卜部がやってきた。頬が妙に色づいて見える。
「椿君、一緒に帰ろう」
鈍色した空と彼女の色鮮やかな姿との対比が美しい。思わず見惚れてしまう程だった。
ああ、秋もいいものだな……おっと、今日は卜部に渡す物があるんだった。どうにか卜部が帰ってしまう前に渡さないとな。まずは話を切り出そう。
「なあ卜部、また公園寄っていいか?」
「……どうして?」
卜部はきょとんとした顔で首を傾げた。卜部はあの時吹き込んでくれたカセットテープの事を忘れてしまったのだろうか。
「ま、まず話をしたい事がある、それと渡したい物があるんだ」
「……いいよ」
卜部は怪訝な顔で俺を見つめていたが、次の瞬間快諾の笑顔に変わった。
俺は卜部と一緒に公園の中に入ると、何時ものベンチに腰掛けた。

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0671 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 10:39:47.82ID:oaHT1hvP
「それで、話って何?」
「ああ、この前のカラオケの件なんだけどさ」
俺は緊張して卜部の顔を直視出来なかった。俺はたどたどしく言葉を紡ぐ。
「……また、卜部と歌いたいなって思ってさ」
静寂が二人を包む。気まずい空気になってしまった。
「で、でも卜部が嫌なら別にいいんだ……それに、まだ俺も気持ちの整理がついてないしさ」
愛想笑い。我ながら情けないと毎度思う。こういう時に卜部の発する空気は張り詰めて俺を悩ませるのだ。
「……椿君、私もまた二人で歌いたいなって思ってるし、椿君の歌声もまた聴きたいと思ってるからね」
「え?ほ、本当にそう思ってる?」
俺は思わず卜部の顔をまじまじと見つめた。
「うん」
卜部は笑っていた。
「あ、でもお互い無理のない程度にね?」
「う、うん……それじゃあ卜部、この前のお返し!」
俺も思わず笑顔になった。俺は急いでリュックの中をまさぐりカセットテープを取り出して卜部に握らせた。
「え、これ……椿君の歌?」
「ああ、上野がギターを弾いてくれたから録ったんだ!」
「椿君……ありがとう」
卜部はにこやかに立ち上がった。
俺もゆっくりと立ち上がると二人で帰路につき、いつもの交差点で日課を済ませた。
「それじゃあ、帰ったらすぐ聴くから!」
「おう、またな!」

--
0672 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 10:49:49.39ID:oaHT1hvP
1008号室。
私は急ぎ足で帰宅すると誰もいないこの一室に安堵して、靴を脱ぐと自分の部屋へと戻った。
すっきりとした部屋の壁にはクリーニングされた冬服が掛けてある。
あと何日でこの夏服とは暫しのお別れなのかしら、なんてセンチメンタルな事を考えながら私は背もたれのある古い椅子に腰掛けた。
「椿君の歌……ね」
私は引き出しからヘッドフォンステレオを取り出すとヘッドフォンを耳に掛けてテープを挿し込み、再生ボタンを押した。
……椿君、最近日課をすっぽかしていたと思っていたらずっと練習してたのね。
あの時よりもずっと私の心に響く歌声。私を真っ直ぐに好きと思ってくれている。
「……陽子さんにまた怒られちゃうな」
次私達が歌った時には、一体どんな不謹慎な事が待っているのかしら。
なんて、考える度に私の心は甘くて薄らしょっぱい気分で満たされるのだった。

興奮冷め切らぬまま俺は駆け足で帰宅した。
「ただいま!」
「おかえり明……やだ、またしまりのない顔してる」
「え、また?」
「今度は彼女と何があったのかしら?」
姉、陽子は少しばかり不満気に炊事場へと向かった。
俺も洗面所に向かい手を洗う。鏡に映るはとてもデレデレした俺の顔だった。
「卜部、聴いてくれたかな?」
卜部に貰ったカセットテープといい、今日の告白といい、このニヤけは当分収まりそうになかった。

【謎の青春唱歌 -Fin-】
0673 ◆URBRTbKUxc 2017/10/06(金) 10:50:38.97ID:oaHT1hvP
【謎の青春唱歌 -あとがき-】
マニアのみなさんこんばんは。もう十月ですか、早いものですね。
さて植芝理一総合スレでご覧になった方もいらっしゃると思いますが、私は卜部の夢を観ました。
場所はかつての母校の写真部の部室……の筈なのですが、私の脳内カオス世界ではかなり位置が変わっておりまして、ちょくちょく探検しに行っていた機械科棟(私は電気科出身です)の一室に部室がありました。行くとよくジャンク部品をくれたものです。
暗室のとばっ口まで卜部と探検した私は急に筆舌に尽くし難い気分に襲われて、そのまま壁に押し倒して胸を揉みながら口から直によだれを舐めてしまいました。
味はサッカリンをそのまま口に放り込んだ様な(舐めた事はありませんが)強烈な甘さでした。ごめんね卜部、甘かったよ。
もしかしたらこの後、ルート分岐によっては暗室に連れ込んでとても不謹慎な事をしていたのかもしれません。
その後はすぐ近くの駄菓子屋に行って卜部と買い物をしている最中に目が覚めました。本当に「醒めないで」という言葉が刺さる程でした。
この夢がもし卜部からのメッセージだとしたら、これは一生掛けてでも解読したい所存です。
ところで、不謹慎な気分に心を揺らめかせる女の子って可愛いと思いませんか?
とまあ今回はそういうお話でした。
0674 ◆URBRTbKUxc 2017/10/07(土) 05:44:45.92ID:pngwrcFe
こっそり微修正
ttps://www.dropbox.com/s/mwr0x0vh7ov5ba4/%E8%AC%8E%E3%81%AE%E5%BD%BC%E5%A5%B3X_SS%E3%80%90%E8%AC%8E%E3%81%AE%E9%9D%92%E6%98%A5%E5%94%B1%E6%AD%8C%E3%80%91.txt?dl=0
0676 ◆URBRTbKUxc 2017/10/16(月) 22:47:59.41ID:Hh5WC9Jz
久々に大作が出来ました。
【謎の夏旅行】

入道雲を割る様に飛び立つ飛行機。
蝉時雨は遥か熱波の彼方。
父は葦簀越しの太陽光で新聞を読む。
これぞ我が夏季休業といったところだろうか。
午前11時23分、俺は宿題をそこそこに旅行会社のパンフレットを開いて書き込まれたチェックマークを確認しながら旅館のホームページを巡回する事にした。
「熱海、か……」
果たして俺は一つの旅館に目が留まった。リーズナブルで口コミの評判もいい。
「よし、此処にするか!」
俺は思い立つと部屋を飛び出し階下へと降りて卜部の自宅にダイヤルした。
暫しの発信音に心を踊らせていると受話器から電話を取る音がした。
「もしもし、椿ですが……」
「……椿君?」
声の主は卜部だった。
「ああ、卜部……旅行の件だけど、何時なら空いてる?」
「えっとね……8月なら10日から何日でもいいけど、椿君は?」
「8月10日……予算的には1泊2日かな?」
「ええ、それでいいわ」
「……他には?」
「そうね……お母さんの実家の法事を挟むと21日から……かしら」
「21日?分かった!予約を取れるか訊いてみるよ」
「あ、でも……何処にするの?」
「えっと……今のところ熱海だけど」
「うーん……熱海は少し前に行っちゃったから、他には何がある?」
出鼻をくじかれた。俺は再びパンフレットを開いた。
「……青森はどう?」
「青森……一度行ってみたかったのよね、電車代は出すから」
「分かった、すぐ探すよ!」
「あら、ありがとう……それじゃあ、また連絡してね?」
会話の後、電話は切れた。
0677 ◆URBRTbKUxc 2017/10/16(月) 22:54:16.23ID:Hh5WC9Jz
俺は再び部屋に戻ると青森の宿を片っ端から捜した。
「……オオタケ屋旅館?」
最近新装されたらしい小ぢんまりとした旅館が目に留まった。
聞けばコアな層に受けがいいらしい。
俺は電話番号をメモすると再び部屋を抜けてオオタケ屋に電話する事にした。
「はい、オオタケ屋でございます」
声はかなりお年を召されたお婆さんの声だった。
「もしもし、椿ですがお部屋は予約出来ますか?」
「ありがとうございます、当旅館は何時でも空いておりますが……」
「それでは、8月10日に1泊2日で……」
「いえいえ予約なんて要りませんよ……うちはお若い人達にはてんで受けが悪いので、何時でもお越しください」
「で、でも……」
「あなた東京の人ね……珍しい、珍しい」
クックッと笑われてしまった。
結局俺は軽くあしらわれながらも8月10日に予約を済ませる事が出来た。
俺は再び卜部に電話をして、10日に青森のオオタケ屋に宿を取ることが出来たと伝えた。
0678 ◆URBRTbKUxc 2017/10/16(月) 23:12:58.24ID:Hh5WC9Jz
8月10日、午前6時21分。
眠気のある身体を引き摺って風見台駅に着いた俺は卜部を待っていた。
ガランとして人も疎らな駅前で待っていると卜部が少し大きなリュックを背負って、更に小さな肩掛け鞄も掛けてやって来た。
「おはよう!早かったな」
「私は大丈夫……ふぁ」
卜部は欠伸をした。つられて俺も欠伸をした。
「お互い大変だな、じゃあ行くか」
俺は先程買っておいた大宮駅までの切符を一枚渡し、二人で改札をくぐった。
電車で揺られること30分少々、車窓からはパステルで描いた様な淡く青い空が視えた。
次に大宮駅で乗り換え口に向かう。大宮駅からは新青森駅まで新幹線が通っているのだが、その分含めて青森駅までの乗車券は卜部が金券ショップで用意してくれていた。
「卜部、すまないな」
「いいのよ、二人きりの旅行だもの」
俺は彼女から乗車券を受け取り、乗り換えの改札に通した。
東の空の太陽は、かなり高くまで昇っていた。

新幹線、隣二席の指定席の中で暫し揺られながら俺はぼんやりと虚空を眺めていた。
隣の卜部は既に眠っていた。する事もないので俺はリュックの中の文庫本を取り出して読み始めた。
車内販売の売り子が俺達のすぐ横を通り過ぎようとしている。貧乏人である俺は文庫本を顔に載せて狸寝入りを決め込む事にした。
0679 ◆URBRTbKUxc 2017/10/16(月) 23:34:33.52ID:Hh5WC9Jz
青森に到着後、まず驚いたのは目の前の広さだった。
東京は非常に雑多なる建物が猥雑と存在しているのに対し、此方は整然とした道路を挟んで疎らにあるといった感じであった。
俺はふと空を見上げた。駅前の時計は10時08分を指していた。
「卜部、大丈夫か」
「私は大分寝たから大丈夫だけど、椿君はお腹空いてない?」
そうだな……此処は軽く摘んでおくか。此の先大分歩く事になりそうだからな。
「うーん……じゃあ卜部、コンビニ入ってみる?」
「いいよっ」
俺達は駅前にあった小さなコンビニに入る事にした。

中はガランとして人の出入りも少ないが、スナック菓子コーナーに一段と目を引くものがあった。
「りんごチップス」……そうか、青森といえば陸奥りんごだからな。
俺は二人分のスポーツドリンクとりんごチップスをカゴに入れて、レジで会計を済ますと二人で外に出た。
「それで、何処に行くの?」
「そうだな……まずは軽く探索してみますか」
俺は小さなノートを取り出すと近場の商店街を探した。昨日、オススメのスポットをメモしておいたのだ。
事前調査では駅前の「しんまち商店街」なら色々な店があるそうだ。
俺達はりんごチップスを齧りながらしんまち商店街を暫しぶらつく。
……少し陽射しが強いが、東京ほど暑くはないな。
暫く歩いて店の位置をある程度把握すると、卜部が声をかけた。
「椿君、少し早いけどお昼にしよう」
「そうだな……卜部、此処はどうかな?」
俺はそう言うと、とある建物を指した。
「あら、素敵ね」
「よし、決まりだな」
俺達は建物の二階にある喫茶店に入った。
0680 ◆URBRTbKUxc 2017/10/17(火) 00:01:42.54ID:AYqnC1o/
中はとても洒落た造りの店になっており、落ち着いた雰囲気だった。
「いらっしゃいませ、お好きなお席をどうぞ」
若く品のいい店員が声をかけた。俺達はまだ人の少ない中テーブル席へと腰掛けた。
俺達はメニューを眺める。此処は喫茶店というより定食屋に近いのだろう。
ふと時計を確認すると11時少し前だったが、これから先沢山歩くだろうと思いモーニングは選ばなかった。
「決まった?」
「ああ」
メニューから目を離すと、卜部が店員を呼んでくれた。
「すいません、豚バラ焼き定食を」
「じゃあ、焼きスパゲッティーのソース味を」
「ご一緒にドリンクが100円で付けられますが?」
「じゃあ、アイスコーヒーを」
「俺は、ソフトドリンクで」
オーダーが終わり、店員が厨房へと向かった。
暫くすると醤油や調味料の焼ける様な匂いが漂い、料理が二人分運ばれてきた。
0681 ◆URBRTbKUxc 2017/10/17(火) 00:20:39.78ID:AYqnC1o/
俺がスパゲッティーを一目見て驚いたのは具材にソーセージだけではなくハムも散らされている事だった。
そして付けあわせのキャベツとトマトは胃もたれをさせない為の秘策なのだろうか。不思議な付けあわせである。
「いただきます」
俺は試しにスパゲッティーを一口フォークに絡めて食べる。
……成程。ソースの焦げた風味が青臭いピーマンによく合う。初めて此処に来た筈なのに何故か懐かしい味だった。
そして間に挟むキャベツの千切り。これは仲々相性が良い。ハムやソーセージの蛋白質を見事中和してくれるから胃にもたれない。
さて、半分程食べ尽くしたところで卜部が食べているバラ焼きが気になるな。此処は交渉といくか。
「なあ卜部、そのバラ焼き少し貰っていい?」
「いいよっ」
「じゃあこれ、一口どうぞ」
「ありがと」
俺はスパゲッティーを一口分フォークに絡め卜部に食べさせると、彼女が箸に摘んだバラ焼きを口にした。
『……!!』
美味い。爽快なる味の暴力そのものだ。
これこそ、青森県民の力の源なのだろうか。
何時かニュースで観たぶつかり合う筋肉、街中を駆け巡るねぶた、それらがはっきりと脳裏に現れた。
しかしやけに絡みつく様な味だ。俺はバラ焼きを咀嚼し終えると水で流そうとした。
『あれ!?思ってたよりしつこくない!』
成程、味付けはタレだったのか。甘く塩辛いタレの味はいとも簡単に水と一緒に流れていった。
「椿君、このスパゲッティー美味しいね」
ああ。本当に、いい店に来たものだ。
俺達は料理を全て平らげるとドリンクで口直しを済ませ、喫茶店を出る事にした。
0682 ◆URBRTbKUxc 2017/10/17(火) 00:27:44.81ID:AYqnC1o/
さて……食べ終えてあちらこちらの店を見て回ったが、俺達の期待しているような品はあまり無かった。
それにゲーセンやカラオケなら何時でも行けるだろう。俗っぽい物から離れるには……そうだ、宿をとってあるからその周囲を探してみよう。
「卜部、そろそろ宿に行こう」
「そうね」
時計を見ると15時半を回っていた。俺達はバス停から路線バスに乗り、宿のある温泉街へと向かった。
暫しバスに揺られると、やっと温泉街に辿り着いた。
「わあ……こういう所、初めて」
多少古臭さを残す峠の集落には料亭や釣りの名所、カフェ、キャンプ場、温泉が所狭しと並んでいた。所々に小さな商店もあり、コンビニの代わりを担っている。
「この店はなんだろう……?」
ふと目に留まった商店を覗くと、其処は駄菓子屋だった。品のいいお婆さんが店番をしている。
「いらっしゃいませ、何にしましょうか」
銀玉鉄砲、ローセキ、オハジキ、飴玉やきなこ棒、ラムネといった懐かしい商品の他、ニッキの根やメンコといった時代錯誤的な物まで置かれている。
10円クジにはしゃぐ子供達を尻目にあれこれ目で追っていると、其処に異様な空気を漂わせている面があった。狐の面と天狗の面である。
「この狐のお面と、ニッキを一束ください」
「じゃあ俺は天狗の面と、詰め合わせ1パックとラムネ一箱を」
「毎度ありがとう御座います」
俺達はそれぞれ代金を支払って、商品を受け取った。
するとお婆さんはこんな事を口走った。
0683 ◆URBRTbKUxc 2017/10/18(水) 01:08:22.38ID:fVzeD10E
またLandfill規制……
0684 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 01:26:36.41ID:anyGVil8
「それにしても珍しいですね、あなた達は何処からいらっしゃったのですか」
「東京からです」
「そういやこの前もあなた達位のお年のお客様が東京から遥々いらして、同じくお面をお買い上げになったのですよ」
「え?」
俺はぞっとした。暗く立ち籠めた雰囲気を醸し出すこの鄙びた村の中で今夜何かが起こる予感がした。
非日常を日常の薄皮で塗り固めた様なこの青森という辺鄙な土地は、ある種特異点として存在しうる物なのだ。
そして非日常と日常の境目にある駄菓子屋は、今日に限らず常に俺の中の魂に何かを呼び掛けていたに違いない。
天狗の面も偶然その場にあったのではなく、俺達が此処に来る事を予測して存在しているのだろう。
『きっと彼らに会うかもしれない』
直感的に俺の魂が論理的根拠の裏付けを全く超越して己の中で告げた。
彼らに会った時、きっと何かが起こる。

「そういえばお客様、今晩はねぶたがありますが、いっぺんご覧になっては?」
「はい、そうします」
俺達は、駄菓子屋を出た。
駄菓子屋から1キロメートル程先に、俺達が泊まるオオタケ屋旅館があった。
改装されてひときわ綺麗に見えたが、写真で見るよりも少し寂れた感じが否めない。
俺は歓迎されているのか将亦拒絶されているのか、疑心暗鬼な気分でオオタケ屋の暖簾をくぐった。
0685 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 01:38:56.25ID:anyGVil8
「いらっしゃいませ、ようこそオオタケ屋へ」
中には数人の若い女中と、やや腰曲がりな女将さんがいた。
「本日予約した、椿ですが」
俺は女将さんに名乗り、部屋まで通して貰う事にした。
「本日お泊りいただくのは此方でございます」
女将さんの後をついて行くと、部屋の中は綺麗な和装だった。
ざっと10畳程ある雰囲気のいい部屋と続き部屋があり、窓の外は河原も見えた。
「夕食は食事処にて18時から提供させて頂いておりますので、どうぞごゆっくり……」
「ありがとうございます」
女将は、部屋を離れた。
荷物を置いた後、特に何もする事もない俺達は駄菓子をつまみながらあれこれ話をする事にした。
「上野、今頃何してるんだろうな」
「丘さんと一緒だったっけ」
卜部も駄菓子の合間にニッキを齧りながら外を眺めていた。
「それ、美味しいの?」
「結構いける味よ」
卜部はそう言うと束からニッキを抜いて手渡してくれた。
俺は恐る恐るニッキを齧ってみた。
うわっ、ツーンとくる……でもこの味はなんとなく癖になりそうだ。
俺も卜部も無心でニッキを齧りながら、夕食までの時間を過ごした。
0686 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 02:06:30.68ID:anyGVil8
夕食の時間になり、俺達は食堂に向かうと既に料理が用意されていた。傍らのプレートには『予約席 椿様二名様』と書かれている。
席につくと女中さんがやって来て、ガスマッチで小さな釜の載った焜炉に火を点けてくれた。今日のメニューは煮魚と鶏のすき焼きだった。
気になる味は……うん、格別に美味しい。
こういった鄙びた旅館の食事は非常に簡素な物を連想させるのだが、此処はそうではないらしい。
無心で少しずつ食べ進めていると、不意に卜部が声を掛けた。
「椿君……今日のねぶたは少し下の神社の近くで開催されるみたいよ」
「えっ、どうして分かったの?」
「此処に来ている人の会話を聞いてたの」
卜部、そんな特技があったのか……新鮮な彼女の様子を眺めつつ食を進めていると、御膳は既に空になっていた。
「ごちそうさまでした」
「私もごちそうさま」
俺達は席を立ち、食堂を後にした。
「じゃあ卜部、ねぶたを観に行こうか」
「そうね」
卜部は肩掛け鞄を掛け、俺は小さいリュックを背負い、二人は部屋を出た。
そして一階のカウンターに鍵を預けて、俺達は坂を下ってねぶた祭りへと足を運んだ。
0687 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 02:41:50.66ID:anyGVil8
ラッセーラ、ラッセーラ。不思議な力のこもった掛け声が夜の青森に谺(こだま)する。
交通規制の敷かれた幅広の道路の上を大きなねぶたが屈強な男達の手で押されて動いている。
蒸される様な熱気の中繰り広げられる躍動を俺達は歩道から眺めている。ねぶたは背筋を反り返らせる程大きく見えた。
現地の子供達は提灯を持って、ねぶたの後を追いかけている。
「素敵……」
「卜部、こっちに行くみたいだよ」
俺は卜部の手を引いてゆっくりと動くねぶたの後を追いかけた。
「さーァさァさァみんな大好き金太郎飴だよ、死んだ筈だよ金太郎サン」
「まーむしー、まむーしー、まむし焼きはいらんかねェー」
テキ屋の喧騒が俺達を包み込む。
「椿君、私欲しい物があるんだけど」
「おう、じゃあ何か一個は出すよ」
卜部が止まったのはあんず飴屋だった。俺はあんず飴を二人分買い、ゆっくり齧りながら歩いた。
「……美味しい」
「本当?良かった」
ねぶたはやがて交差点で止まった。今にもぶつかり合いそうである。
その時、突然人の波が俺達に押し寄せた。
「う、卜部!」
「椿君!」
人の波は俺を強く押し、握っていた手は離れてしまった。
「ああ、こりゃあ参った……」
俺は為す術もなく卜部から離れ、流されていった。
0688 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 03:25:04.81ID:anyGVil8
かなりの人集りが私達を分かつ。
椿君はすっかり人の波に流されて行ってしまった。
「困ったわ……どうしたら良いのかしら」
私は取り敢えずその場で待ち続ける事にした。
もしかしたら椿君が来てくれるかもしれない、そう願いつつ。
その時である。
「――――」
『え?』
不意に誰かが私を呼ぶ様な声がした。
「――――さん」
『だ、誰なの?』
確かに誰かが私を呼んでいる。
「――卜部さん」
『!!』
目の前に眼鏡を掛けた一人の少女が居た。年は私と同じ位である。
「さあ、始めましょう」
私は目に見えぬ力で引き寄せられるのを感じ、気が付くと走っていく彼女を追いかけていた。

「卜部、何処だ!?卜部ー!」
やっとの事で卜部とはぐれた場所にまでやって来た。しかし卜部の姿はない。
俺は人混みをかき分けながら卜部の名を呼び続けた。
「あ、あれ……卜部?」
不意に素早く駆けて行く人影を見た。間違いない、今のは卜部だ。
俺はその人影を走って追いかけた。向かった先は神社の方角だ。
神社の石段を登ると、目の前に異質な小屋があった。
見世物小屋だろうか。それにしても気味の悪い小屋である。
俺は恐る恐るその中へと入って行った。
0689 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 03:47:07.07ID:anyGVil8
『なんだよ、此処は……』
中は薄暗く、得体の知れぬ仏像のような置物があちこちに並んでいる。
暗くてよく判らなかったが、注意して見るとあちこちの像の根本には見たこともない文字で経文らしき物が書かれている。
生きているかの様な置物に睨まれながら薄ら明るい光の筋を辿って行くと、何故か狐の置物を左右にあしらった観音開きの扉があった。
俺は腕に少し力を込めて、扉を開く。
「卜部!!」
その時目に飛び込んできたのは、裸に縄化粧を施し、狐の面を被った姿で玉座らしき台の上で俯いている卜部だった。
「騒々しいなあ、誰だい君は?」
すぐ下には、俺達とほぼ年齢の違わぬ少年と少女が白布を纏って立っていた。
「お前、卜部をどうするつもりだ!」
「僕の質問に答えないのなら僕に答える義務はないね」
少年はふてぶてしい態度で俺を睨む。すぐ横の少女も怪訝そうに俺を眺めている。
「あ、あのな……其処に卜部が居るだろ?俺、椿はその……彼氏なんだよ」
ここぞという時に俺は頼りなくなってしまう。今、圧倒的な彼等の威圧感に俺は圧されている。
「椿君だね?では紹介しよう……僕は松笛、すぐ横の戸川は僕の彼女だ」
「これから私達は大事な儀式を行うの、其処のお嬢さん、貴方の彼女はその御神体を司るのよ」
続けてすぐ横の少女、戸川もその大筋を説明した。
「ぎ、ギシキ……?ゴシンタイ……?」
俺は何を説明されているのか全く理解できなかった。
「歓喜天(カンギテン)というのを聞いた事がないのかい?尤も、印度ではガネーシャと呼ばれているけどね」
「この神様は因を沢山集めた者に良き縁をもたらすのよ、古くはバラモンの教えからその考えが持ち込まれたとされ―」
「御託はいい、卜部を返せ」
俺は説明を続けようとする二人に叫んだ。
「出来ない、僕達の『解脱』が終わるまでは」
「あら、何も悪い様にはしないわよ?もし椿さんが承諾してくれるならの話だけど」
0690 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 04:13:10.51ID:anyGVil8
「ど、どういう意味だ?卜部をどうするつもりなんだ!?」
「まずは君の持っている天狗の面を被ってみたまえ」
俺は松笛の言う通りに恐る恐る天狗の面を被ってみた。
すると、どうだろうか。
裸の卜部の身体には無数の経文が浮かび出て、更に二人の姿は輝く卜部の影になってよく見えなかったが裸であると分かった。
更に松笛は天狗の面を、戸川は狐の面を被っているのが影ながら分かった。
「理解出来たかい?」
「つまり私達はこの儀式で肉体の関係を初めて持つ事になる」
「だから君も目の前のお嬢さんと交わればいいのさ」
「私達はそれに続き交わる」
「この一連の流れこそが『解脱』であり」
「私達にも縁が齎される」
「椿君、僕達と手を組まないかい」
「全てはこの世界を満ち足りた物にする為よ」
俺は目を見開いたままひどく怯えて卜部をじっと見つめていた。その時だった。
「椿君、だめ!私から離れて……!!」
卜部は息も絶え絶え、俺にこの場を去る様命じた。
「それにしても貴女、いい身体してるのにこのチャンスをみすみす逃すなんて奥手なのね……?」
戸川は卜部に近づいて、その肢体に触れようとした。
「触るな!!」
俺は卜部に駆け寄ろうとした。
「呀(ヤ)!」
次の瞬間、俺は叫んだ松笛に目に見えぬ力で弾かれた。
0691 ◆URBRTbKUxc 2017/10/19(木) 04:38:35.39ID:anyGVil8
ここまでの放送は

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……ひきつづき
「謎の夏旅行」を
お楽しみください……
0692 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 17:29:11.37ID:inwwiaqV
「いてて……」
俺はゆっくりと起き上がった。松笛と戸川は、不気味な像と蝋燭に囲まれた丸い寝台の上に居た。
「さあ、始めようか」
「ええ」
異質な声が部屋に響き、やがて二人は各々の面をくいと持ち上げて唇を重ねた。
陰鬱とした空気に一層艶めかしく水音が響く。
万事休すか、他にどうにかして二人を食い止める方法はないのか?
俺は卜部の方を向いた。よく見ると縄は全て不気味な像に繋がれており、その一端が胸の辺りから飛び出していた。
「卜部、その縄を噛め!」
「椿くん……っ」
卜部は身を捩り、一瞬跳ねて縄の端を強く噛んだ。
次の瞬間、縄は強く輝き、手前の像の一端へと光が届いた。
俺は僅かな望みを託してその像へと飛び掛かり、縄を強く噛み締めた。
「無駄な事は止めたまえ……」
松笛が、また何か力を放とうとした。その時である。
バチバチバチィッ!!
突如俺は雷に撃たれたかの様な衝撃を受け、身体が沸騰するかの如く熱くなった。
無限に続くかの様な空間の膨張と熱気を感じる。
罅割れる様な空気の震動が奥歯を鳴らす。俺は負けじと縄を噛み締め続ける。
轟く地響きと共に俺の身体は宙に浮いて、爆風に吹き飛ばされた。
0693 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 18:42:26.25ID:inwwiaqV
気が付くと寝台は其処にはなく、其処にあるのは崩れかかった玉座と散らかった像、そして寝台の残骸があった。
卜部、卜部は何処だ。俺は慌てて辺りを見回した。
卜部は俺のすぐ真横に服を着た姿でいた。狐の面は紙製だったらしく鼻の辺りが潰れている。
俺はすぐ横に転がっていた天狗の面を拾い上げた。鼻の途中に罅が入っていた。
「いやあ、凄いモノを見せて貰ったよ」
「あなた達を見くびってごめんなさい」
松笛と戸川は見たことのない学校の制服姿で俺達の前に立っていた。
「僕達が思っていたよりも君達の愛は強く結ばれていたみたいだね」
「解脱は失敗しちゃったけど、私達はもっと実のある物を得られたって事ね」
「それじゃあ」
「お帰りはあちらです」
「どうぞお気をつけて」
「さようなら!」
俺達はゆっくりと起き上がると二人に見送られながら、後ろの出口をくぐってこの場所を後にした。
0694 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 19:15:37.15ID:inwwiaqV
二人は去った。今、後に残されたのは此の夢の跡と松笛君、そして私だけである。
「ねえ、今のは本当に失敗だったのかしら」
私は肩越しに松笛君に尋ねた。
「いいや、失敗したわけじゃない」
松笛君は残された残骸を見つめながら答えた。
「戸川、慥かにあの娘は歓喜天様の転生だと思うよ」
「えっ?じゃあ、どうして失敗したの?」
「簡単さ、彼氏の想う力が強かったのさ」
「そんな簡単な事で?」
「ああ」
松笛君は残骸を片付け始めた。
「で、でも私―」
「まだまだ先がある」
「え?」
不意に松笛君は片付ける手を止めて此方を向いた。
「今はその時じゃなかったんだよ戸川、だから急ぐ事はなかったんだ……だから今回の一件に失敗も成功もなかったというわけさ」
「松笛君……」
私は思わず松笛君に駆け寄り抱きしめていた。
「松笛君、私達いつかは不謹慎な事するのかな」
「そりゃあするさ、僕達の仲は既に不謹慎なのだから」
そう、私の松笛君は唯一の不思議な彼氏。私を受け止めてくれた人。
こんな人と不謹慎な事が出来るなら、私とても幸せなのかもしれない。
「戸川、また涙舐めていいかい」
「……うん」
私は今回の失敗を悔やむ想いで涙を浮かべた。
ぺろり、と松笛君の生暖かい舌が目尻を撫でる。
「……今流した涙、甘かったよ」
「……そう」
私は松笛君の背中に身体を預け、少しくすぐったい気分になった。
0695 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 19:37:17.42ID:inwwiaqV
「ねぶた、終わっちゃったな」
「そうね……」
俺達は重く垂れ込めた暗闇の中、夜風に当たりながら二人でニッキを齧りつつ旅館への道を歩いていた。
「でも……楽しかったよ、本当に」
満点の星が照らす卜部の笑顔が美しい。卜部の明るい笑顔を撫でるかの如く、漆黒の空には天の川が光っていた。
「あっ、流れ星……」
卜部が指差す先に星が流れる。こういう時に気の利いた台詞でもあればなあと己の不甲斐なさを自嘲する。
「なあ、卜部……あの時不謹慎な事してたら、どうしてた?」
俺は卜部の顔を見るのが怖くなり、星空を眺めながら尋ねた。
「そうね……私、悲しくなって泣いちゃってたかも」
恐る恐る卜部の顔を横目で見る。怒ってはいなかったが、悲しい顔をしていた。
『しかし……卜部の裸、綺麗だったなぁ』
俺は少しばかり俯き、筆舌に尽くし難い想いを殺す事で精一杯だった。
「……俺達、本当に不謹慎な事するのかな」
「いつかは、ね」
卜部は励ますかの様に俺の肩に腕を回し、密着した。その時である。
遠くでドン、と野太い轟音がした。山肌越しに花火が幾つか上がった。
「……椿君」
卜部は華麗にステップを踏んで俺の前に立つと、口から指先によだれを掻き出した。
俺は指先の雫を恐る恐る口に含み、舐めた。
……いつも以上に甘酸っぱい味がした。
そして俺達の関係を祝福するかの如く花火が次々と撃ち出され、夜空を彩った。
「あっ」
「どうした卜部?」
「椿君、ズボンのポケットに何か入ってる」
俺はズボンのポケットの中をまさぐると中には小さな封筒が入っていた。
0696 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 19:47:34.97ID:inwwiaqV
「なんだこれ……」
俺は恐る恐る封筒を開く。中の便箋にはこんな事が書かれていた。

      椿君

      一筆啓上。
      君が今回経験した事は幻ではない事を予め断っておく。
      あの時天狗の面越しに君が観た世界、それは君の内面の世界なのだ。
      内面の世界とは夢の世界であり、それは同時に真実の世界でもある。
      君は此の先お嬢さん相手に不謹慎な想いを抱き、その内容に悶絶する
      事が多々あるだろう。
      しかし怯えてはならない。迷いは判断を鈍らせる。
      己の信ずる道を征け。
      お嬢さんにも宜しく。
      頓首再拝。

      松笛タカヲミ

難解な辞で綴られた手紙に俺はしどろもどろな気分になったが、何となく卜部を此の先大切にしろという事は分かった。
「あっ、私にも手紙……」
卜部も封筒を鞄から取り出すと、中の便箋を読んだ。

      卜部さんへ

      プレゼントは縁結びのお守りです♪
      歓喜天様に毎日お祈りしたから御利益ありますよ!
      ふたつ入れておいたので、もうひとつは椿くんにつけてあげてください。
      二人の仲が進展する事をお祈り申し上げます。
      それじゃあ、またね!

      戸川安里香(はぁと)

お守りは赤い紐で、手紙の通り二本封筒に入れてあった。
「成程ね……素敵なプレゼント貰っちゃった」
卜部は嬉しそうにそのお守りを腕に括りつけると、俺の腕にも括りつけてくれた。
「椿君、私……何時でも不謹慎な事してあげるから!」
すっかり元気になった卜部は俺の前を駆け出して、俺も慌てて後を追いかけた。

その晩は二人で貸切の混浴風呂に浸かり床に就いたが、不謹慎な事を考えようとする度に心の中でちょっとばかり甘酸っぱい様な甘じょっぱい様な気持ちになるのであった。

【謎の夏旅行 -Fin-】
0697 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 19:55:25.67ID:inwwiaqV
【謎の夏旅行 -あとがき-】
マニアの皆さんこんばんは。
今回は卜部の夢から活力を得て不謹慎度120%以上でお送りします。
本来であれば此方を先に作るべきであったのでしょうが、すっかり秋になってしまいました。
さて本作ではOVA「謎の夏祭り」に肖ってディスコミの二人を登場させました。
ラフの段階では椿君が卜部に犯されるシーンを書いてやろうかと画策していましたが、
「この二人にはまだ早いな」と謎の納得をして今の形に書き上げました。
結果寺山修司氏、京極夏彦氏、つげ義春氏、そして植芝理一先生のごった煮を自家製秘伝のソースで味付けした様な作品となりました。
主要キャラが四人という豪華な作品の中でどう粒立たせるかが難所ではありましたが、本作は私のお気に入りの一つでもあります。もう一つは小奏鳴曲(ソナチネ)です。
大人びた松笛とまだ子供っぽさを残す戸川。
大人になれなくても現状を楽しめている椿と大人になりたくて悶える卜部。
その対比を是非お楽しみ下さい。そして悶絶して下さい。
ところで、歪んだ性癖を愉しむ彼女って可愛いと思いませんか?
とまあ今回はそういうお話でした。
0698 ◆URBRTbKUxc 2017/10/20(金) 19:57:30.00ID:inwwiaqV
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